第4章-7 王族のわがまま、午後編
本日二度目の投稿です。
「テンマ、そろそろ出かけるわよ」
昼食を食べ終わりお茶を飲んでいると、マリア様がやって来た。
「あまり時間がありませんから、今日は近い所から回っていきましょう」
俺を引っ張るようにして、マリア様は歩いていく。
玄関を出ると、そこには一台の馬車が止まっていた。
御者席にはクライフさん、ドアの前にはエドガーさんとクリスさんと他に女性の騎士が2名いた。
「もう揃っているかしら?」
「まだイザベラ様達が……いえ、お見えになったようです」
イザベラとは誰だ?そう思った時、玄関の方から足音が聞こえてきた。
「お待たせして申し訳ありません、お義母様」
マリア様をお義母様と呼んだのは、クリスさんと同い年くらいに見える女性だった。
その傍らにはルナもいる。
「ごめんなさい、おばあ様。お母様と服を選んでいたら時間がかかってしまって……」
俺はルナの言葉に耳を疑った。聞き間違いでなければ、今ルナはこの女性を『お母様』と呼んだはずだ。
その時、俺は反射的にクリスさんを見た……見てしまった。そして、クリスさんと目があった。
「テンマ君……今、何故、私を見たの?」
……クリスさんの背後に鬼を見た……気がする……
「何でもありませんよ?」
クリスさんは俺の顔をジロジロと見ていたが、俺が表情を変えないので諦めたようだ。
「テンマ様、ああ見えても、クリスの方が8歳も若いのですぞ」
「あっ、そうなんですか!同い年くらいに見えるので不思議に……あっ!」
俺は背後からの悪魔の囁きに本音を漏らしてしまった。
「テンマく~ん……私はぁ、まだぁ、23よ~」
俺に笑顔のまま近づいてくるクリスさん。しかし、その笑顔は怖かった。
「クリス?23はそろそろですよ」
クリスさんの背後に回り囁く悪魔……この国では一般的に18~24辺りが女性の結婚適齢期と言われており、貴族に関してはこれよりも低い16~20辺りと言われている。
クリスさんはクライフさんでは無く、俺に詰め寄ってくる。
「私はまだ大丈夫よね!まだいけるわよね、ねっ!」
俺の肩を掴んで揺さぶってくるクリスさん、その後ろではクライフさんが笑っている。
「近衛隊にはいい人は居ないんですか?例えばエドガーさんとかシグルドさんとか……」
クリスさんの揺さぶりから抜け出そうと二人の名前を出すと、クリスさんはとても嫌そうな顔をしていた。
その隙に抜け出したのだが、まだクリスさんは嫌そうな顔をしていた。
「そんなにお二人は嫌ですか?」
俺の問いかけにクリスさんは間髪入れずに答えた。
「絶対に嫌!」
その答えに、近くで聞いていたエドガーさんは傷ついたようだ。少し落ち込んでいる。
何があるのかは知らないが、これに関してはもう聞かないほうが良さそうだ。
「テンマ、ちょっといいかしら。こちらはイザベラ、シーザーの嫁よ。皇太子妃と言った方が分かり易いかしら」
マリア様が紹介してくれたので挨拶をしようと顔を見たが、やはり若く見える。
小柄な体格にやや童顔で、胸は……クリスさんより小さいかな?クリスさんもある方では無いけれど……
「初めましてテンマといいます。よろしくお願いします」
「ええ、話は聞いているわ。私はイザベラ・フォン・ブルーメイル・クラスティンよ、イザベラでいいわ……ごめんなさいね、私の子達が迷惑をかけて」
イザベラ様も貴族にしては偉ぶった感じがしなかった。
その事を不思議に思っていると……
「不思議そうねテンマ。そんなに貴族が謝るのが珍しいの?まあ、イザベラに関してはシーザーの嫁探しの時に、性格重視で選んだからね……丁度実家が公爵家だった、と言うのもあったのだけれど」
シーザー様達は、もともとの性格に加えてそのように教育したそうだ……マリア様自らが……
普通なら王妃様は直接教育はせずに専門の者に任せるそうだが、マリア様はそれを良しとしなかったようだ。
その理由を聞いてみると……
「だって、あの人の子よ!下手な教育だと、どんな事を仕出かすようになるか分かったもんじゃないわ!それなら自分で育てた方が安心できるじゃない!」
王様の性格を知る者ならば、その答えで十分だった。確かに、あんな性格の王位継承者が3人もいたら、この国は大変な事になりそうだ。
「納得できたようね。では、早く出発しましょう。変に時間が掛かってしまったわ!急ぐわよ!」
そう言ってマリア様は馬車に乗り込んだ。馬車は6人ほどで丁度いいサイズなので、広さには問題は無かったが、走り出すといかに自分の馬車の乗り心地がいいのか痛感することになった。
馬車は街中でもかなりの振動があるので、座席にクッションなどが無いとかなり辛い。
「最初は服を見に行きましょう。クライフ、お願いね」
「畏まりました。では、最近人気の店から回ってみましょう」
そう言うと、クライフさんは馬車を走らせた。クリスさん達護衛の騎士は、馬車の前後左右に一人ずつ就いた。
「テンマはいつも服はどう選んでいるの?」
マリア様は俺の隣に座っており、顔を横に向けて話しかけてきた。
「いつもは動きやすさ重視で選んでいます。後は、作りがしっかりしているとか、周りから見ておかしくないか……くらいですかね」
これまでククリ村時代を除いて、俺は自分用に仕立てられた服など着た事がなかった。
ククリ村では母さんやマーサおばさんなど、近所の人達が作ってくれた服を基本的に着ていたし、前世でも仕立てた事などなかったので、お金を出して仕立ててもらうと言う感覚が無いのだ。
「ふ~ん、そうなのね……なら今日は一着仕立てて貰いましょう。もちろんお金は私が出すわ」
「あら、それなら私が出しますわよ、お義母様。子供達が迷惑をかけたお詫びもしないといけないし」
マリア様の発言にイザベラ様が加わり、俺をそっちのけで話が進んでいる。
一応俺は遠慮したのだが、マリア様は王様とライル様の襲撃?事件のお詫びとして、イザベラ様はティーダとルナの命を助けた事への個人的な感謝の印として、と言われた。
さらに、一先ず何かお詫びの品でも贈らない事には他の貴族に対して示しが付かず、下手すれば王族は恩人または被害者に対して、何もしない傲慢な一族だ!と反勢力に攻撃の口実を与える恐れもあるとまで言われてしまった。
なので、今回は遠慮せずに受け取って欲しいとの事なので、マリア様達にそれぞれ一着ずつ服を仕立ててもらう事となった。
「では私が普段着を、イザベラが礼服をテンマ贈る事にするわ」
マリア様とイザベラ様の贈り物は普段ならば逆になるそうだが、今回の場合はマリア様が王様達の悪戯のお詫び、イザベラ様が息子達の命の恩人に対しての謝礼と言う事で、イザベラ様の方が高価な物にしないといけないそうだ。
最も、普段着と言っても王族の感覚での普段着なので、下手をすれば普通の貴族が着る礼服並の値段になるそうだ、とクライフさんに聞かされた。
「マリア様、まもなく目的のお店に着くので先行させます」
馬車の横で併走していたクリスさんが、女性騎士二名を先行させる事を報告してきた。
女性騎士は軽やかに馬を走らせて、一人は目的の店に走り、もう一人は馬車を止める場所の確保に向かった。
目的の店の貴族専用の駐車スペースへと到着し馬車を降りると、そこはかなりの大きさの服飾店であり、入口の看板の所には王家御用達を示す一文と王家の紋章が飾られていた。
「王妃様、皇太子妃様、王女様、ようこそお越しくださいました。我々一同、心より歓迎いたします」
店の入口を潜ると、そこにはこの店の店主と思われる男性と従業員達が並んで出迎えていた。
「ええ、久しぶりね。今日は新作と最近の流行り物を見せていただこうかしら」
マリア様の言葉を聞いて何人かの従業員が店の奥へと行き、すぐに数着の服と装飾品を持ってきた。
店主は従業員がマリア様に品物について説明をしている間に、イザベラ様の所へと挨拶にやって来た。
「お久しぶりでございます、イザベラ様、ルナ様。今、お二方にお似合いの物をご用意しておりますので少々お待ちください」
「ありがとう。でも、その前に礼服を一着頼みたいの」
そう言うとイザベラ様は背後にいた俺を紹介した。
「はぁ、この方の礼服でございますか……」
店主は俺を見て不思議そうな顔をした。どうやら俺の事は護衛か何かと思っていたらしく、まさか俺の礼服を頼まれるとは思っても見なかったようだ。
しかし、店主はすぐに気を引き締めて俺達を店の奥へと案内した。
「まずは寸法を測らせていただきます」
それから俺の寸法を取り、それを元にいくつかサイズの合う服を持ってきた。
「こちらは見本になりますが、何か気に入られた物はございますでしょうか?」
店主が持ってきた服を、イザベラ様は俺に当ててルナと選んでいる。
「こっちの方が似合うかしら……それともこっち?」
「こっちの方がお兄ちゃんに似合いそう!」
二人で色々と意見を言い合っており、夢中になっているようで俺に意見を求めるのを忘れているようだ。
「イザベラ、ルナ。テンマをほったらかしにしていますよ」
そこに、先程まで店内の物を見ていたマリア様が合流し、二人に注意をした。
「ああ、ごめんなさいね。つい夢中になってしまって」
「ごめんなさい」
マリア様に注意された二人は、ようやく俺の意見を聞いていない事に気付いたようだ。
「いえ、私では服の善し悪しがよくわかりませんので……ただ、あまり派手なものは好きではありませんので、その事を考慮して頂ければそれで構いません」
俺の言葉に店主がいくつかの見本を戻し、今度はおとなしめの色合いの服を何着か追加した。
「そうね……これなんかどうかしら?」
イザベラ様が選んだ服は青を基調とした物であり、動きやすそうな造りだったので試着させてもらうことにした。
「ええ、いい感じです」
実際に着た姿を見てもらうと、割と評判はいいみたいだ。
「こんな感じの服を仕立ててもらえるかしら」
イザベラ様は店主に注文を出すと、そのまま俺を連れて店内を見て回った。
その後一時間くらい見て回り、店を後にした。
「次は普段着ね。クライフ、次の店に向かってちょうだい」
次に向かったのは先程の店よりは少し小さいが、店内には先程の店以上の服が並んでいた。
「さあ、選ぶわよテンマ!」
張り切るマリア様にイザベラ様、そしてルナも何故か張り切っており、色々と意見を出していた。
その店でもいくつかの試着を繰り返し、やはり一時間くらいは店の商品を見て回った。
「テンマの服も選んだことだし、今度は私達の服ね!」
マリア様は張り切ってクライフさんに指示を出している。
そうして向かった三軒目は女性服の専門店で、店の中には下着なども置かれていた。
流石に中に入るのは気後れしたので、外で待っていると言ったのだが、マリア様とイザベラ様に無理やり店に押し込まれた。
流石に無理に振り切ることも出来ずに店の中へと入ったが、意外な事に店の中には俺の他にも数人の男性客がいた。
最も、一部を除いた男性客は連れの女性に無理やり一緒させられたようで、俺を見る目には同情と共に、仲間が増えた事へのわずかな安心感が見て取れた。
なお、男性客の一部は、男性と判断されると怒り出しそうな性別の持ち主のようであった……他の男性客を頬を染めながら見ていたので、ほぼ間違いないだろう。
「テンマ、これは似合うかしら?」
「テンマさん、この組み合わせはどう思う?」
「お兄ちゃん、これ可愛くない?」
「テンマ、こっちの服は少し若若すぎるかしら?」
「そんな事はありませんよ、お義母様。お似合いですよ」
「おばあさま可愛いよ!」
「テンマさん、これ少し地味かしら?」
「そうね……もう少し派手な方がイザベラには似合うと思うわ?」
「ちょっと似合わないね」
「お兄ちゃん、これはどう?」
「ルナ!それはあなたには早すぎます!」
「そうね……あと六年は待ちなさい」
………………俺、いらなくない?そんな思いが頭をよぎるくらい、三人は俺を気にせずに服を選んでいる。三人とも一応は俺に聞いてくるが、俺が答える前に誰かが口を挟んでいる。
なので、俺は、ええ、とか、そうですね、とかしか発言できていない。
しかも、ルナはまだ羞恥心が薄いのか、俺の所に派手な下着を持って来て意見を聞こうとする度に、二人から止められている。
まあ、持って来られても俺にまともな意見が出来るとは思わないし、思いたくもない。
流石に三人とも王族と分からない程度には変装をしているが、どこからどう見ても貴族と分かり目立つ上に、三人とも顔立ちは美人の部類に入るので余計に店内の注目を集めており、三人に振り回される俺を見て楽しんでいる客もいた。
「奥様、若奥様、そろそろ時間でございます」
買い物に夢中になっている三人に、クライフさんが何処からともなく現れた。
「あら、もうそんな時間なの?」
マリア様の言葉に、イザベラ様がキープしていた服などを店員に渡している。
クライフさんはそのまま会計を済ませに行き、その後を女性騎士が付いていった。
俺達はクリスさんに先導されて、エドガーさんが待つ馬車へと向かった。
こうしてマリア様達との買い物は終わりを迎えたが、本当に疲れた。
午前の訓練よりも疲れた……そんな俺に対し、マリア様達は元気だ。
ルナも疲れた素振りは見せずに、イザベラ様と店内での事をはしゃぎながら話している。
「今日は楽しかったね!また来ようね!ねっ、お兄ちゃん!」
ルナの言葉に、俺は即座に頷くことができなかった。
そんな俺を女性陣は微笑みながら見ており、同情の視線を向けているのはエドガーさんだけだった。
この場にはもう一人男がいたが、その男は明らかに俺の反応を楽しんでいた。
馬車に乗り込み王城を目指す途中で、それまで静かだったマリア様が不意に口を開いた。
「テンマは私達が憎くはありませんか?」
俺はその言葉を聞いて何の事を言っているのか全く分からなかった。
「ククリ村の事件のことです。あの事件の責任は惨事を招いた兵士達を雇っていたハウスト辺境伯、さらに言えば、辺境伯に命じた陛下にも責任があると言えます。その上でもう一度聞きます。あなたは陛下を……私達王族を恨んではいませんか?」
マリア様の言葉に馬車の中だけでなく、外で警護に就いている騎士達も静まり、俺の言葉を待った。
俺はマリア様の言葉の意味を、頭の中で整理した上で口を開いた。
「恨んではいません」
「なぜですか!私達のせいで、あなたの両親は死んでのですよ!」
俺の答えにマリア様は納得がいかない様子だった。
「では、相当恨んでいる。それも一族郎党皆殺しにしたいほどに……といえば納得しますか?」
「それがテンマの本心ならば……」
俺は半ば冗談のつもりで言ったのだが、マリア様は真剣な表情で頷いた。
「テンマがそう思っていたとして、おかしくないでしょう。ただ殺されるのを黙っている訳にもいきませんが、それでも仕方がないと思います」
マリア様の言葉に、イザベラ様も頷いていた。
「もし、私とテンマさんが逆の立場で、ティーダとルナがテンマさんのせいで死んでしまったら、私はテンマさんが誰であろうと、殺したいほどに憎んだでしょう」
「たとえそうだとしても、俺の両親を殺したのは王様達では無く、ハウスト辺境伯に雇われた兵士達でありドラゴンゾンビです。兵士達を自分の手で殺すことが出来なかったのは残念ですが、ドラゴンゾンビは自分の手で殺しましたし、仮に憎んだとしてもあの兵士達を選んだハウスト辺境伯までですよ」
「ですがっ……」
マリア様が何か言おうとしたが、俺はそれを遮った。
「確かに一時は、貴族や騎士、そして兵士の全てを憎んだこともありますし、嫌ってもいました。ですが、これまでの道中で何人かの貴族と交流をする機会がありました。それで分かったことは、高貴な血を持つ等と言っていても、中にはどうしよもない屑も存在しますし善人も存在します。それは平民も同じです。ですから王様を恨んでもしょうがないんですよ。もちろんあなた方も……」
俺の言葉をマリア様達は静かに聞いていた。
「それに、本当に王様達を憎んでいたのなら、あの弓矢事件の時に斬りかかっていますよ」
冗談めかして言ってはみたが、これは本当のことである。仮に、あの時王様の首を切り落としたとしても、殺されそうになったから反射的に殺した、とも言えるわけである……まあ、そんな事をすれば、どんな理由があろうと大罪人と呼ばれるだろうがな。
とりあえず、今の俺は王族に恨みはないし、貴族だからといって毛嫌いしているわけでは無い。
時間が経って気持ちに整理がついたか、精神的に成長したんだと思う……今でも不意に悲しくなることは時々あるが……
俺の言葉を噛み締めるようにマリア様とイザベラ様は考え込んでいた。
「そう……そうなのね、私達を恨んではいないのね……よかったわ……親友の息子に嫌われていなくて……」
マリア様はそう言うと目元をハンカチで抑えていた。
しばらくの間、馬車の周りには沈黙が続き、聴こえてくるのは馬の足音と車輪の音だけであった。
マリア様はハンカチを目元から離すと、俺の目を真っ直ぐに見つめた。
「テンマ、あなた私の養子にならない?陛下は私が説得するわ」
マリア様の急な申し出に、俺は疎かイザベラ様や、中の様子を静かに伺っていたクライフさんにクリスさん達も驚いていた。
「急に何を言い出すんですか!」
「急ではないの、前々から考えてはいたのよ。シーリア達の息子の力になりたい、と……流石に王位継承権をあげる事は出来ないけれど、貴族として何不自由ない生活は約束するわ」
マリア様の目は本気であった。哀れみや同情と言った感情も入っているのだろうけれど、それ以上に母さん達に代わって俺を守りたい、と言った気持ちが伝わって来る。
「ありがとうございます……でも、お断りさせていただきます」
俺の言葉に周りからは、信じられない、と言った視線が飛んでくるが、マリア様だけは落ち着いていた。
「理由を聞いてもいい?」
「マリア様のお話は大変嬉しいのですが、俺はこの先、誰の養子にも入らないと決めています。俺はククリ村のリカルドとシーリアの息子であって、それ以外の人の息子になるつもりはないのです」
俺の言葉にマリア様は、ガッカリしたようなホッとしたような複雑そうな顔をしていたが、すぐに気持ちを切り替えたようだ。
「分かったわ……でも、それだけ私があなたを大切にしたいと思っている事だけは覚えていて。そして、何か困った事があったら相談して頂戴。できる限りの力になるわ」
「ありがとうございます……」
それ以降、馬車の中の空気は微妙なものとなり、その空気は王城に帰るまで元に戻る事はなかった。
そんな空気の中でも、ルナだけはすやすやと眠っていた。
王城に着いたのは、あと一時間もすれば日が沈む、といった頃であった。
クライフさんが馬車を玄関前に止めると、待っていたアイナが出迎えてくれた。
「皆様、おかえりなさいませ」
一礼をして出迎えるアイナに、マリア様達はねぎらいの言葉をかけて前を通り過ぎていくが、俺が通り過ぎようとした時にアイナは急に頭を上げた。
「テンマ様にはジャンヌ達の事でお聞きしたい事がございます!」
アイナの声には妙な迫力があり、俺達は足を止める事になった。