第4章-4 再会
王都の規模に対し、門の数が少なすぎる、とのご指摘がありましたので、現在変更しております。
「テンマ、なぜこやつと同乗せねばならぬのだ?」
じいちゃんは出発してから何度目かの不満を漏らしている。
「嫌ならお主が降りれば良いじゃろうが!幸いにしてお主は飛べるしのう」
そこからはお決まりのパターンである。
俺は手のひらに小さな氷を作り出し、二人の背中に放り込んだ。
「「冷たっ!」」
「二人共、いい加減に、ね」
俺の言葉に、二人は悶えながらも黙り込んだ。
そんな二人をティーダは複雑そうに見ている。どうやらティーダは、この二人に幻想を抱いていたようだ。それが崩れ去り、軽く混乱しているようである。
そんなティーダを横目に、ルナはお菓子を頬張り、お茶のおかわりを頼んでいる。
ジャンヌとアウラも噂に名高い大公と賢者の実態と、俺の祖父が賢者だったという事に混乱中である。
その為、ルナのお茶は混乱中のアウラに替わり、俺が入れる事になった。
「ふぅ……ところでテンマ。先程から気になっておったのじゃが……その二人がテンマの奴隷かのぅ?」
じいちゃんは俺がセイゲンで奴隷を手に入れたのを聞いていたらしく、ジャンヌとアウラを見ていた。
それと同時に、大公閣下もジャンヌを見て、
「もしかしてその白髪の娘は『アルメリア子爵』の令嬢ではないか?」
その名に反応して、ジャンヌとアウラの顔が引きつった。
その様子から大公閣下は確信したらしく、俺の対して向き直り、
「テンマ、この二人を譲ってくれぬか?」
唐突な言葉に俺は、
「大公閣下、お帰りはあちらです」
理由も聞かずに馬車のドアを指差し、追い出そうとした。
「ほれ、さっさと出ていかんか!でないと力ずくで追い出すぞ!」
じいちゃんも俺に同調し、大公閣下を急き立てる。
「ま、待てテンマ!話を聞くのじゃ!」
大公閣下の言葉に、俺が反応するよりも早くじいちゃんが、
「どうせ、若い妾を……とかそんなところじゃろうて。このスケベジジイがっ!」
じいちゃんの言葉に、ジャンヌとアウラは自分の体を隠すようにして俺の後ろに隠れた。
「大叔父様……」
「……スケベ」
ティーダは悲しそうな目を、ルナは軽蔑の目を向けている。意外にもルナは妾の意味を知っていたようだ。
そんな視線を浴びて焦った大公閣下は、
「待て待て待て、勘違いじゃ!わしは死んだかみさん一筋じゃ!」
「では、どういう意味ですか」
俺の敵意の篭った声と周りからの視線に、居心地が悪そうにしながらも大公閣下は、ポツリとある名前を出した。
「クロライド準子爵の事じゃ」
そう言えばいたな、そんな名前の奴が……
正直、小物くさいので半分忘れていた。ジャンヌ達は思い出すのも嫌なようで、二人揃って顔をしかめている。
「で、そのクロライド準子爵がどうしたんですか?」
「今の王国には大きく分けて3つの派閥があっての、王族と譜代の貴族達が中心になっておる『王族派』、内務大臣や数人の公爵達が中心になっておる『改革派』、宰相や外務大臣を含むどちらにも属さぬ『中立派』じゃな」
大公閣下は、ここで派閥の事を少し教えてくれた。
王族派は、その名の通り王族の支配を中心として、その脇を他の貴族が支えていくべき、と考える者達で構成されており、その多くは古くから続く貴族が多い。
改革派は、その多くが新興の貴族であり、王族は国の象徴として存在し、ほとんどの政務や決定権を国の代表に選ばれた者達で行うべき、と言う考えに賛同した者達で構成している。
中立派は、そのどちらでも無い、いわばどっち付かずの者が多いが、その中には宰相のように、公職に就いている者は私欲を捨てるべし、とか、外務大臣のように、他国と戦争をせねば良い、などの意思を持っている者も存在する。
現在のところ、勢力としては、王族派5、改革派3、中立派1、その他1、となっており、王族派が優勢ではあるが、この先油断のならない状況であるらしい。
ちなみに、国王補佐は皇太子、財務大臣と軍務大臣は国王陛下の次男と三男であるから、当然のように王族派である。
問題のクロライド準子爵は改革派であり、組織の中心にいる公爵の子飼いの人物であるらしい。
「それがどうかしましたか?」
「少しでも改革派の戦力増強に繋がりそうな者は、できるだけ手の内に入れておきたい。価値があるなら尚更じゃ」
話を詳しく聞いてみると、ジャンヌの父親であったアルメリア子爵は、中立派の中でも下級貴族(子爵以下)の繋がりの中心にいた人物であったらしく、その娘が改革派に付いたとなると中立派から改革派に移る貴族が出てくる可能性があるそうだ。
逆に言えばジャンヌを王族派が獲得すれば、何人かの貴族が王族派になる可能性があるため、大公閣下はジャンヌを譲って欲しいそうだ。
「で、どうかの?」
「それはジャンヌ達次第ですが……嫌だそうですのでお断りします」
話の途中でジャンヌ達を見ると、揃って首を横に振っていた為断る事にした。
「むぅ……では、テンマが王族派に……」
「俺は冒険者ですので、面倒事は嫌です。それに貴族でもありませんし……」
俺の最後の言葉に、大公閣下はニヤリと笑い、
「そんな事は心配するな。テンマは十分に貴族に推挙されるだけの功績を挙げておる!」
「へっ……」
驚く俺を無視するように、大公閣下は俺が貴族に推挙される理由を話し始めた。
「まずは5年前に国王陛下を救った事、これだけで名誉爵に推挙される理由になる。次にドラゴンゾンビをほぼ単独で仕留めた事、これは一つ間違えば国家の危機であった事から、通常の爵位を授ける対象である。最後に皇太孫であるティーダを救った事、これも名誉爵に推挙される理由じゃ。さらに言えば、忌々しいが、何かの間違いで、一応、賢者として有名なマーリンの孫に爵位を与えれば、不思議な事じゃが国民の人気取りに繋がるからの……本っ当に不思議な事なんじゃが」
俺を含めた面々(ただし、じいちゃんとルナを除く)が驚いているのを見て、大公閣下はさらに言葉を続けた。
「そうじゃのう……これらを踏まえた上で考えられるのは、恐らくは子爵じゃな。その後で、適当な功績を讃えて伯爵になるじゃろうな。そこまで行けば、将来的に公爵家から嫁の話が来るじゃろうの」
「いや、いくらなんでも伯爵はないでしょう……それに、公爵家から嫁を、なんてあるはずが……」
俺が言い切る前に、大公閣下はボソリと、
「サンガ公爵家のプリメラ嬢」
と呟いた。
それにマーリンが反応して、
「そう言えばテンマは、グンジョー市に女性の知り合いがおったのう……猫の三人姉妹に副ギルド長、盗賊から助けた女性にプリメラ……」
じいちゃんは何気なく指を折りながら数えていると、俺の後ろから妙な威圧感が漂い始めた。
「ひょっ、な、なんじゃ……」
その威圧感に皆が気づいた時には、ジャンヌとアウラはじいちゃんの後ろに立っていた。
「マーリン様、ご挨拶が遅れました。私はテンマ様の奴隷でメイドのアウラと申します。あちらのジャンヌ共々、テンマ様に命を助けてもらいました」
「ご挨拶が遅れて申し訳ありませんでしたマーリン様、私はジャンヌと申します。以後、よろしくお願いします」
ジャンヌとアウラはじいちゃんに挨拶を始めた。このタイミングで何故、と思っていると、アウラは続けて、
「実はこのジャンヌは、テンマ様の嫁候補でして……」
と爆弾を投下した。
「この話は、テンマ様自身も承諾している事でして、いわば許嫁のようなものです」
アウラの捏造に、俺が異を唱えようとする前に、
「それはめでたい事じゃの!ひ孫が楽しみじゃわい!」
とじいちゃんがはしゃぎだした。俺が否定しようとすると、今度は大公閣下が、
「それならそれで構わんぞ。むしろアルメリア子爵の忘れ形見がテンマと一緒になってくれた方が、王族派としてはやりやすいしのう」
と大公閣下が笑い。更にはティーダとルナまでもが、
「テンマさん、おめでとうございます。先程、僕達と同席させていたのはそういう事だったのですね!」
「お兄ちゃん、お姉ちゃんおめでと~」
と、次々に逃げ道をふさいでくる。
ここまで来ると、ジャンヌを嫁になど考えた事がない、と言いにくい。横目でアウラを睨むと、アウラは俺の視線に気づき、微かに笑っている。
アウラの腹黒さに頭の痛くなる思いをしていると、ふと思い出したように大公閣下がアウラに対して、
「そう言えば、お主の姉が王城で働いておるぞ」
と言うと、アウラは顔を青ざめた。
「お姉ちゃんが……ですか……」
と震える声で呟く。あまりに様子がおかしいのでジャンヌに小声でアウラの姉について聞いてみたが、ジャンヌは首をかしげていた。
「私はアウラのお姉さんの事はあまり覚えていないの。アウラは小さい頃に私の家で働いていたメイドの子供で、その縁でよく遊んでいたら、いつの間にか私のメイドになっていたんだけど……お姉さんの方はいつの間にか居なくなっていたわ」
そんな話をしている間にも、アウラの震えは止まらず、顔はさらに青ざめて冷や汗までかいている。
そんな様子を伺っていると、突然アウラが俺の方を向いた。
「テ、テンマ様……私だけでもセイゲンの街に帰っていいですか……と言うか帰ります!」
急に動き出したアウラはドアの所まで素早く動き、ドアをあけて外へ飛び出そうとした……が、外に飛び出す直前に俺が思いっきり中に引っ張った。
「んぐぅ」
掴んだ所が後ろ襟だったため、アウラはそんな声を出すとぐったりとして、俺に体を預けながら気を失った。
「危ないなぁ……ジャンヌ、ベッドに寝かせるから準備してくれ……よいしょっと」
俺はジャンヌに指示してベッドに布団を出させて、アウラを抱っこして連れて行った。
見た目はお姫様抱っこではあるが、顔を青してぐったりとしているアウラは、お姫様と言うよりも酔いつぶれた酔っぱらいのようであった。
「よっと」
アウラをベッドに寝かせて、ジャンヌに後を頼んで席に戻ると、何事もなかったかのように話を続けた。
「それで、アウラのお姉さんとはどのような人なのでしょうか?」
俺の言葉に大公閣下は少し考えてから、
「アイナは優秀なメイドじゃよ……色々と」
お姉さんの名前は、アイナ、というそうだ。それよりも、大公閣下が最後にボソリと言った、色々の意味が気になる。
ティーダとルナにも聞いてみると、
「ああ、アイナはアウラの姉でしたか……一言で言うと、すごいメイド、ですね」
「アイナは美人だよ。お城に来る男の人達にも人気だよ。後、強いよ!」
ルナの最後の言葉あたりに、アウラがあのようになった原因がありそうだ。
とにかくもうすぐ会えるのだから、その時を楽しみにしておこう。
その後は王都に着くまでの間、俺のククリ村を離れた後の話をしたり、ルナがお腹いっぱいになってベッドで寝たり、大会の事を聞いてみたり、ティーダにドラゴンの話を催促された。
その時にじいちゃんと大公閣下にソロモンを見せたら、大公閣下はかなり驚いて大声を出したので、馬車の周囲にいたディンさん達が集まってきて、ソロモンを見てさらに騒ぐ、といった事になり、その声に驚いて飛び起きたルナに皆怒られていた。
じいちゃんはソロモンの事は聞いていたようで、たいして驚きはしていなかったが、大公閣下に俺の自慢をし始めて罵り合いに発展し、ルナに再度怒られる事となった。
その後、ルナはソロモンを抱いて機嫌が治っていたが、アウラはその騒ぎでも目覚めず、時折、『お、お姉ちゃん……や、やめて』や『お、お願いだから許して、お姉ちゃん』などと寝言を言ってうなされていた。
王都に着いたのは辺りが暗くなり始めた頃であった。
王都は高さ10mほどの外壁が街の周囲を囲んでいるそうで、東から西に100km、北から南に80km程の規模を誇り、人口はおよそ60万人、うち人族が7割、亜人族(獣人、エルフ、ドワーフなど)が3割と意外にも多い。
街の中にも塀があり王城を中心にして、5km、10km、20km、30km程の地点に作られている。
これは戦争の時に利用されるものであるが、元は王都の発展に伴い、街が拡張された時の名残であり、内側に行くほど塀は古くなっている。
現在では一種の住み分け的な目安とされることもあり、王城から5km以内は上級以上の貴族達の屋敷が並び、5~10kmは裕福な下級貴族や一部の金持ちなど、10~20kmは普通の貴族や裕福な者や高級宿など、20km~外壁は一般人、といった具合になっている。
あくまでもこれは目安であり、金と土地の空きがあるならば一般人でも貴族の屋敷の隣に家を建てることも可能だが、5km圏内は完全に貴族専用であったり、内に行くほど年間の税金も高くなるので、このような住み分けが成り立っている。
ちなみに、工房なども内側の方に造られている所もあるが、大きな音を出すような工房はかなり審査が厳しく、音を小さくする設備にかなりの金が掛かるため、内側にある工房の作品は値段の高い物が多い。
人も店も品物も、内側に行くほど『高級品』が多いと言った感じだ。
塀には東西南北に大きな門が一箇所ずつ存在し、これらは戦争時に軍隊が出撃しやすように造られたもので、外側から、跳ね橋、鉄柵の引き戸、開き戸の3重になっている。
横幅は30m程あり警備兵も多いが、現在ではほとんど使われる事はなく、たまに行われる軍事訓練や国家行事などで使用されるくらいである……主な理由として、一度開閉するのにかなりの労力と、それに伴う諸々の代金が必要な為だそうだ。
そのほかには20~30kmの間隔で出入り口が作られており、こちらは幅5~15mほどで跳ね橋、開き戸の2重である。
警備兵は通常2~3人いるが、場合によっては門は完全に閉じられているため、他の空いている門まで移動しなければならない事もある。
入場には簡単に身分証明を調べられた後、市民票を持っていない者は税金が発生し、1000Gが徴収される。しかし、この時に渡される木札を役所に持っていけば、臨時の市民表が発行されて半分の500Gが戻ってくるそうだ。
市民表を紛失した場合は、直ちに役所に再発行願いを届け出なければならない。発行は500Gで出来るが、もし市民表の売買などが発覚した場合、罰金刑か奴隷落ちとなり、最悪の場合は死刑もありえるそうだ。
最も、死刑は故意に市民表を悪人に売り渡し、その結果、凶悪犯罪に繋がった、などの理由がなければ執行される事など無く、ここ50年程の間、表向きには死刑が執行された事はないそうだ。
俺達一行は、大公閣下の紋章を見た警備兵に最優先で門をくぐらせてもらった。
まあ、大公閣下に王子に王女、ついでに賢者まで乗っているのだから、身元の確認は警備兵ではする事ができない(する度胸がない)、ということだろう。
「ディン、このまま王城に向かってくれ」
王城は王都の中心付近に位置し、門からおよそ40km程、馬車で2時間かからないくらいの所だ。
大公閣下は先導するディンさんにそう告げるが、じいちゃんは面倒臭そうに、
「なら、お主とティーダとルナはここで乗り換えるのがよかろう。めんどいから、わしはテンマ達と家に帰る!」
「そういう訳に行くか!王都に帰って来たからには、国王陛下に挨拶せん訳にはいかんじゃろうが!」
とまた言い争いを始めてしまった。確かにじいちゃんの言う通り、この時間に王城に行って王様に挨拶するのは面倒だが、俺はククリ村での王様を思い出して、
「じいちゃん、確かに面倒だけど、ここで行かなかったらほぼ確実に、王様が夜中に突撃してくるよ。本当に面倒だけど、仕方がないから顔だけでも見せようよ」
俺の面倒発言に、じいちゃんは唸りながらも観念したようだが、ものすごく嫌々感が漂っていた。
尚、俺の面倒発言は、この時間に王城に行くのが面倒、では無く、この時間に王様の相手をするのが面倒、である。
俺の発言に驚いていた大公閣下とティーダにその事を話すと、何か思い当たるフシがあるようで、二人は揃って苦笑いをしていた。
「だ、ダメよテンマ!不敬罪で捕まってしまうわ!」
ジャンヌは俺の発言を真剣に受け止め真っ青になっているが、それを見た大公閣下は笑っている。
「そんな心配せんでも大丈夫じゃよ。それくらいで怒りはせんよ。陛下にとって、テンマは親友の忘れ形見じゃし、陛下自身もテンマを甥のように思っておるようじゃからの」
その言葉にジャンヌはひと安心したようだ。
「まあ、実際にテンマを捕まえようとしたら、王城が全壊する事を覚悟せんといかんしの……割に合わんわい」
と笑っていた。俺は捕まったくらいで王城を崩壊させたりはしないと思うけど……場合によっては一部は壊すと思うから、あながち間違いではないかも知れない。
そんな事を考えていたら、じいちゃんが俺の顔を見て、
「テンマ……絶対にするんじゃないぞ……する時はこやつの部屋くらいにしておきなさい」
とかなり真剣に言っていた。そして、そのままいつものパターンであった。
二人の言い争いが収まる頃には馬車は王城の門の所まで来ており、流石にじいちゃんも完全に諦めたようだ。
ちなみに、マークおじさんは20km地点の塀の少し前で降りている。
暇が出来たら一度顔を出しに来い、との事であった。
「大公閣下、ティーダ様、ルナ様のご帰還である!直ちに開門せよ!」
ディンさんの言葉で分厚い門が開いていく。
門番達は俺の馬車を止めようとしたが、ディンさんが中に大公閣下達が乗っており、同乗者は賢者とその関係者だ、と言って、中にいる大公閣下の姿を確認して敬礼をしている。
俺達は、門をくぐって500mほど先にある玄関の前で馬車を降りる事になった。
馬車とタニカゼをマジックバッグに仕舞い込み、スラリン達はディメンションバッグに待機させた。
アウラは今だに目覚めていない。
俺は仕方なくアウラを背負って玄関を潜ると、そこには十数人の執事とメイドが揃って頭を下げて待機している。執事の先頭にいるのはクライフさんだ。
「クライフ、陛下は今どこに居られる?」
大公閣下はクライフさんに王様の場所を聞き、残りの人達は解散させている。
「陛下なら自室に居られましたが、先程知らせが行きましたので謁見の間に行かれるそうです」
クライフさんはそう言った後、俺と目があった。
「お久しぶりです、クライフさん」
「テンマ様、お久しぶりです。ご無事でなによりでした……着いて早々ではありますが、陛下が何か企んでおられますのでお覚悟を」
軽い挨拶のつもりが、何やら不吉な事を教えてくれるクライフさん。どうやら王様も変わりはないようだ。
クライフさんが謁見の間まで先導しようとした時、近くにメイドが1人控えているのに気がついた。
それはメイドというよりも、メイド服を来たモデル、と言った感じであり、肩まである金髪は綺麗に手入れされていて光沢があり、均整のとれたスタイルで、背は俺より少し高いくらいの170cm程ありそうだ、顔は少しキツめに見えるが、逆にそれがクール系の美人という感じに見せている。
そんなメイドが静かに近づいて来て、俺の目の前で足を止めた。
「失礼します」
そんな言葉と共に綺麗に一礼をして、メイドは俺の背中で今だに気を失っているアウラの額にデコピンを食らわせた。
意外な事にその一撃は、バチンっ、という大きな音を立てて、アウラの頭を後ろに弾いた。
「いったーー!な、何事ですか!敵!敵襲ですか!」
俺の背中で勢いよく辺りを見回すアウラ……俺の背中に密着したまま体を動かすので、二つの柔らかい感触が俺の背中で踊っている。
その感触に気を取られていると、目の前のメイドと目があった。
メイドは意味深な笑みを浮かべたので、俺が背中の感触を楽しんだのに気づいているようであった。
「何ですか!何なんですか、もうっ!……あれっ?……ここどこ?」
落ち着いてきたアウラの動きが、次第にゆっくりとなって来た時、
「久しぶりね、アウラ」
そのようにメイドが声をかけると、アウラはメイドの声を聞いて、ピタッと動きを止めた。
そして、錆びついたおもちゃのようにゆっくりとメイドの方を向いて、その顔を確かめてから……
「ア、アイナお姉ちゃん……」
と、怯えた声でメイドの名を呼んだ。