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第4章-2 龍殺しの英雄

「なんでわかったの!」


 最初に声を出したのは女の子の方だった。女の子は慌てて自分で口を塞いだが今更だろう。


「何故わかったんですか?」


 男の子は諦めたようだが、さっきよりも重心が少し後ろに下がっている。

 俺の態度次第ではすぐに逃げ出すためであろう。


「勘……かな」


 鑑定が使えるとは言えないので、俺は適当に言葉を濁した。



 名前…ティーダ・フォン・ブルーメイル・クラスティン

 年齢…12

 種族…人族

 称号…クラスティン王国王子・王位継承第2位



 名前…ルナ・フォン・ブルーメイル・クラスティン

 年齢…8

 種族…人族

 称号…クラスティン王国王女・王位継承第3位



「勘で見破られた、などと信じると思いますか?」


 そう言って、ティーダはルナを庇うような体勢をとった。

 まあ、普通ならそうなるよな。仕方がないので最もらしい答えを考える事にした。


「君は昔会った、ある人物と似ている」


「それがどうかしましたか?」 


 さらに警戒を深めたティーダに続けて、


「ククリ村の名に聞き覚えは無いか?」


 その言葉で、わずかだがティーダが反応を示した。


「5年前、その人物がククリ村に向かう途中でオークの群れに襲われたという事は?その時に、ある子供に助けられたという事は?そして、その子供を近衛に誘って断られたという事は?」


 ティーダは信じられない物を見るような目で俺を見ている。

 どうやら俺の事は王様から聞いた事があるようだ。


「俺がその人物の誘いを断った子供……ククリ村のテンマだ」 


 唖然とした表情のティーダは俺を指さしながら、


「龍殺しのテンマ……本物?」 


「その呼び名は初めて聞いたが、確かにドラゴンは殺したぞ……ゾンビだったけどな」 


 その言葉にティーダは急に姿勢を正して……


「申し訳ありませんでした!」


 と何故か謝ってきた。

 ルナの方は俺の顔をまじまじと見つめ、


「お兄ちゃんが本当にテンマなの、あの英雄の?」


 今、聞き慣れない言葉を聞いた気がした。


「何だ、その英雄って?」


 ルナに聞き返すと、


「おじい様が、テンマは英雄だって、龍を一人で退治して国を救った偉い人だって」


 あの王様、自分の孫に何を教えてんの……マジで。

 それにしても、今だにティーダが固まってんのがわからないんだけど……


「それで、なんで君は固まってるんだ?」


 仕方がないので直接聞く事にしたんだが……ティーダはかなり緊張した様子で、若干青ざめているようにも見える。


「いえ、あの……おじい様が、龍を殺せる者はその龍と同じような力を持つ存在である。そのような者を敵に回すという事は、最悪国が滅ぶかもしれないから、気をつけなさい、と」


 本当に何を言ってるんだ、あの王様は!人を子供の躾に使うなよ!……と、ここで叫ぶ訳にもいかず、もやもやした感情が俺の中に充満した。


 そんな俺を見て、ティーダは震えていた。


「ごめんなさい!どうか、妹は助けてください!妹は何もしていないんです!妹の命だけは見逃してください!」


「誰が殺すか!」  


 ティーダの必死の懇願に、思わずツッコミを入れてしまったのがいけなかった。

 そのせいでティーダは完全に怯えてしまった。


「お兄ちゃんをいじめないで!お兄ちゃんは大臣に言われた通りの練習をしただけなの!」


 ここで黒幕らしき人物の情報が出てきた。


「その大臣がなんて言ったんだ?」


「大臣が、王になるなら戦いくらいは経験しないといけない。今なら丁度仔牛が生まれている頃だから、そいつらで練習するといい、って」


 ルナの言葉だけでは大臣がどんな人物か分からないが、少なくともこの二人を唆したのは確かみたいだ。


「いいか二人共。いくら大臣が言ったからといって、全て鵜呑みにしてはいけない。今回はたまたま俺が通りかかったから助けることができたけど、そうじゃなかったら死んでいたんだぞ」


 俺の言葉に、今更ながら二人は震えだした。


「それにもし二人が死にでもしたら、王様達が悲しむだけでなく、大臣を始め二人の護衛達も処罰される可能性が高い。もしかしたら、その親族まで罰せられるかもしれない」


 今度は護衛達が顔を青くしている。


「最初に王様達に一言話していればこんな危険な目にあわなかったはずだ。最も、力試しに仔牛を殺しに行ってきます、なんて言ったら、王様なら怒っただろうけどな」


 それを聞いてティーダは顔を下に向けたが、ルナはよく分かっていないようで、


「でも、仔牛のステーキとか仔牛のスープとか、仔牛は何度も食べた事があるよ。それもいけない事だったの?」


 と聞いてきた。正直子供に分かりやすく言うのは難しい話だと思う。


 前世でも、鯨やイルカを食べたら可愛そうだ!と言っている人間が、牛や豚は数を増やせるから食べてもいいんだ!などと言っているのを聞いた時は、俺には理解ができなかった。

 鯨なんかは数が減っている種類もいたから、まだ言いたい事は理解できたが、それと牛や豚の命を奪うことは関係ないだろ、と思っていた。


 それに対して、絶滅回避の為の保護、と言う概念の薄いこの世界で、ましてかなりの数がいると思われる牛の事だ。

 うまく伝えられるかは分からないが、俺なりの考えを元になるべくわかりやすく教えてみる事にした。


「いいか、まずはじめに言っておくが、俺の言っている事が絶対な正解では無い。その上で言うが、人間は他の生き物を食べて、自分の力にする事で生きているんだ。それはわかるか?」


「うん」


「つまり君が食べた仔牛は、君の命になったんだ。だけど、今回殺された仔牛達は、君達の命になる事など関係無く殺された。という事は、仔牛達の命はほとんどが無駄になったんだ。それがわかったから親牛達も怒っていた。もし殺されたのが数頭だけだったら、牛達も自然の摂理……仕方がない事だと諦めて、生き残った仔牛を助ける為に逃げる事を優先したかもしれない。でも仔牛が全て殺されたから怒ることしかできず、君達を殺そうとしたんだ……もし、君の家族が傷つけられたなら、君は家族と共に逃げようとするかもしれない、でも殺されてしまったら、殺した相手が憎いと思うだろ?親牛達もそんな気持ちだったんだよ」


 本当は親牛達の気持ちなど分かるはずもなく、言い聞かせるためのでまかせに近かったが、ルナは素直な子供なのだろう。俺の言葉に疑いを持たずに信じたようで、目に涙を浮かべていた。


「じゃあ、私達のした事って……」


「面白半分に仔牛をいじめ殺しただけだ」


 冷静にありのままを教えると、ルナは自分のした事の意味を理解したようで、その目から涙をボロボロと零した。 


「ごめんなさいぃ~……うしさんごべんなざいぃ~」


 そのままルナは牛達を燃やした所まで走って行き、泣きながら牛達に謝りだした。

 そんなルナを見ながらティーダは、俺に対し真剣な表情で、


「では戦争はどうなのですか?戦争では食べる事に関係無く、人が人を大勢殺していますが?」


 と聞いてくる。俺は戦争など体験した事はなく、前世でじいちゃん達から話を聞いた事があるだけだったが、俺がきっかけで出た話なので少し考えてから、ティーダに俺なりの考えを話してみる事にした。


「俺は体験したことなどないが、戦争には幾つか種類があると思っている」


「種類?」


「生きるための戦争、守るための戦争、誇りをかけた戦争、欲望のための戦争、色々あると思うが、どれも共通するのは、殺し合いに参加、もしくは巻き込まれたからには、相手の命を奪うことを躊躇したら自分が、または自分の大切な人達が死んでしまうかもしれない、と言う場面があるという事だ。だから戦争で人は人を殺す。全部がそうではないけどな……最も、戦争なんてものは、ない方がいいに決まっているがな」


「では、何故戦争なんかが起こるのですか?」


 その質問が一番単純で、しかし一番難しい事かも知れない。俺は一息入れてから、


「人間だからだと思う。人間だから色々な考え方をして、他人より幸せになりたい、裕福になりたい、優れていたい、そんな考えが混ざり合って、そしてそれが他人には理解できなくて、そんな考えが大きくなってぶつかり合うのが戦争になるんだと思う……これは俺の想像でしかないけどな」 


 そんな答えで満足したかは分からないが、ティーダはそれ以上質問をしてこなかった。 

 しばらく泣きじゃくるルナを見ていたが、ティーダがルナを慰めてその場から離した。


「テンマさん、牛を一頭ください。お願いします」


 そう言ってティーダは頭を下げてくる。


「理由は?」


「自己満足なのはわかっていますが、少しでも僕達の命に変えるためです。もちろん代金は支払います」


 俺の目を真っ直ぐに見てそう言うので、俺はバッグから牛一頭を取り出して、


「代金はいらない。その代わり今日の事を心に刻みながら食べろ」


 と言ってティーダに渡した。


「ありがとうございます」


 ティーダは礼を言って、牛をバッグに仕舞っていた。その時になって気づいたことがあった。


「ところで王都までどうやって帰るんだ?」


 二人が乗ってきたであろう馬車は横転しており、車輪などが壊れている上に、繋いでいた馬は逃げたようで、辺りには見当たらなかった。

 ここから王都までは、馬を走らせれば5~6時間、馬車を急がせれば半日くらいの場所だ。俺は後一日かけて王都に向かうつもりだったが、この二人(+護衛達)はどうするのか?と考えていた時、急にシロウマルが王都の方角を向いて警戒を始めた。

 魔法で視力を強化してシロウマルが見ていた方角を見ると、何やら土煙が上がっている。どうやら十数頭の馬がこちらに向かって走っているようだ。


 念の為シロウマルを馬車の近くに待機させ、ジャンヌ達は馬車に乗って警戒するように指示を出した。

 

 しかし、俺の心配は無用であったようだ。まだこの場にいる者達の目には見えていないが、強化した俺の目は武装をした騎士達の姿を捉えていた。

 


「どうやら騎士達が迎えに来たようだな……あの紋章は王家の物のようだ」


 俺の言葉に半信半疑のティーダ達であったが、それから10分もしないうちに騎士達が見えてきたので驚いていた。


「そこの者!そのお方から離れろ!」


 一団の先頭にいた騎士の一人がそう叫ぶので、俺はティーダから離れて馬車の近くまで移動した。

 騎士達は二つに分かれて、一つはティーダ達の元に、もう一つは俺達を囲んだ。

 ただ、囲んでいる騎士の中には腰の剣に手をかけている者もいたので、バッグからアダマンティンの剣を取り出して構えた。


「貴様っ!反抗する気か!」


 先程の騎士がそう叫ぶので、俺も睨みつけながら、


「王都の騎士の割には礼儀がなっていないようだな!それとも王子の命の恩人に対し、多数で急に囲んで剣を抜こうとするのが騎士の礼儀なのか!」


「なんだと!」 


 どうやらこの騎士は挑発に弱いようだ。さらに言葉を続けようとしたところで、ティーダが俺と騎士の間に割って入った。


「控えよ!テンマ殿は私と妹の命の恩人である!テンマ殿に剣を向けることは私が許さない!」


 その言葉に黙る騎士達。しかし、黙り込んだ騎士達の後ろから一人の男が進み出た。


「殿下。事情は分かりました……が、私には彼と戦わなければならない理由がありますのでご容赦を……」


 周りの騎士達とは明らかに違う空気をまとったその男は、有無を言わずに剣を抜き俺に斬りかかってきた。

 ティーダは男を止めようとしていたが、後ろから現れた別の男に止められたようだ。

 ティーダが動きを止めたのは数秒の間であったが、その数秒で俺と男の攻防は止められないものになっていた。


 男の雰囲気から攻撃を仕掛けてくると分かっていた俺は、直ぐ様反撃をしようと腕に力を込めたが、この時多数を相手にするつもりで出していたアダマンティンの剣の重さが仇となり、数瞬だけ反応が遅れて後手に回ってしまい攻撃を防ぐので手一杯になってしまった。


「どうしたテンマ!動きが鈍いぞ!」


 男は俺の事を知っているようで、攻撃を仕掛けてきた割には親しげに声をかけてくる。

 このままではジリ貧になってしまう、そう考えた俺は思い切って剣を投げつけた。

 剣は丁度踏み込む瞬間を狙ったので、男は剣を捌く為に僅かに動きが鈍った。俺はその隙に後ろに大きく下がりながら、バッグより小烏丸を取り出して戦闘態勢を整えた。


「仕切り直しか……行くぞ!」


 男は再度突進を仕掛けてくる。しかし、そこまでの速度が出ていなかったので、俺は軽く躱してカウンターで突きを食らわせる……はずだった。


「なにっ!」


 男は急に止まり俺の突きを空振りさせ、慌てて引き戻した刀の速度に合わせて再度動き出し刀を振るった。


「しっ!」


 男の斬撃が俺を襲うが、体を後ろに倒してから男の剣の根元に蹴りを入れることで、その一撃をかろうじて躱す事ができた。

 蹴った反動で後ろに数歩分下がって間を取り、今度は俺から攻撃を仕掛けた。

 刀を横にしての突きを一発、二発と放つ。その間に態勢を整えて力を込めた三発目を繰り出したが、これは難なく躱されてしまう。

 男はチャンスとばかりに、体当たりで俺の態勢を崩そうとする。

 しかし、その攻撃に備えていた……と言うよりまだ俺の攻撃は終わっていなかった。

 繰り出した突きは新選組でも使われていたという、平突き、この突きの特徴は、突いてからの横薙ぎという二段構えの攻撃にある。


 男は流石にこの攻撃には面を食らったようだが、驚くことに斬撃より早く踏み込み、刀の根元の辺りを体で受けて攻撃を凌いだ。

 そして、男はそのまま体当たりで俺を吹き飛ばし、転がる俺の喉元に剣を突きつけた。

 そこで勝負は決まった……恐らくは父さん以来の完敗である。


「参りました」


 俺はまだ持っていた刀から手を離し、寝転んだまま両手を軽く上げた。

 終わってみればあっけないものであった。俺の攻撃はことごとく躱され、裏をかいたつもりの攻撃も凌がれて、なす術なく終わってしまった。


「たまたまだ。テンマがその気なら俺は死んでいたかもしれん……それくらいの差しかなかった」


 男はそう言って剣を収め、俺の手を取り引き上げた。


「挨拶がまだだったな。俺はディン・ディーだ。お前の父と母の昔の仲間、と言った方がわかりやすいか?」



名前…ディン・ディー・デュラン

年齢…50

種族…人族

称号…元一流の冒険者・子爵・近衛隊隊長・王国軍最強


HP…25000

MP…15000


筋力…A+

防御力…S+

速力…A

魔力…A+

精神力…S+

成長力…C+

運…B+


スキル…剣術10・槍術10・格闘術9・棒術8・投擲術8・忍耐8・弓術7・斧術7・身体能力増強7・火魔法7・風魔法7・感覚強化7・土魔法6・解体6・異常耐性6・夜目6・生命力増強6・水魔法5・武芸百般5・破壊力増強5・料理2



 さすが王国軍最強とだけの事はある。能力の高さもだが、それ以上に技術がすごい。

 裏を読んだつもりで、実は手のひらの上で踊らせれていたように思う。

 

「魔法を使っても良かったんだぞ」


 ディンさんはそう言っているが、せっかく俺より技術がある人と戦っているのに、魔法を使ってはもったいない気がしていた。最も、生半可な魔法では通用しなかったかもしれないが。


「いえ、せっかく格上の人に手合わせして貰っているのに、魔法を使ってはもったいないですから……それに、何だか父さんに稽古をつけて貰っていた時みたいな懐かしい感じがして、魔法を使うのを途中まで忘れていました」


 父さんみたいだと言うのは失礼かも、と思ったが、ディンさんは嫌がっているようには見えない。

 むしろ何だか嬉しそうだ。


「俺はリカルドさんの事は兄のように思っていたから、気分的には叔父のような感じだな。存外悪くない」


 意外と高評価であった。

 二人で話していると、ティーダを抑えた人物が近づいてきた。


「話の途中ですまないが、先程のアダマンティンの剣はどこで手に入れたのかね?」


 その人物は穏やかな顔とは裏腹に、有無を言わせぬ雰囲気を纏い、明らかに只者ではないとわかる。

 俺は近くに落ちていたアダマンティンの剣を拾い、跪き剣を前に置いた。


「グンジョー市の露店で手に入れた物でございます。大公閣下(・・・・)


 俺の言葉にディンさんとティーダのみならず、その場にいた、大公閣下とルナを除く皆が驚いていた。

 ジャンヌとアウラは驚きながらも、直ぐ様馬車から降りて俺と同じように跪いた。

 ちなみに、ルナは何故皆が驚いているか分かっていないようであった。


「ほっほ、そんなに畏まらんでもいい。ところで、何故わしが大公じゃと思うのだ」


 その瞬間に、大公閣下から発せられる空気が変わった。先程までとは違い、こちらを押さえ込むようなほどの強烈な気を放っている。

 事実、ジャンヌとアウラはその空気に飲まれており、ティーダ達もディンさんとルナを除いて大公閣下に飲まれているようだ。


「大公閣下、お戯れはそれくらいでお止めください。私の奴隷が怖がっておりますので」


 俺の言葉に騎士達は、何を巫山戯ているんだ、といった非難めいた目をしているが、肝心の大公閣下は体を震わせて、


「いや~すまん、すまん。ちょっと調子に乗りすぎたわい」


 と笑いだした。大公閣下の変わりようにディンさんは肩をすくめ、俺とルナを除く面々は呆気に取られた顔をしていた。

 こんな時でもルナは不思議そうな顔をしている……やはり、何が起こっていたか分かっていないようだった……この中では、この子が一番の大物かもしれない。


「で、なんでわしが大公だとわかったのじゃ?」


 呆気に取られている面々を無視し、大公閣下は再度聞いてきた。


「はい、いくつか理由があります。まず、この剣には紋章などが付いていませんので、このままではただの上等な剣(・・・・・・・)でしかありませんが、これらと揃うと意味が変わるのではありませんか?」


 そう言ってマジックバッグから、同じ時に買ったアダマンティンの鎧と手甲を出して置いた。


「おお、揃っておったか……綺麗になっておる、それで気づいたのか?」


 剣には無いが、鎧と手甲には獅子と龍の紋章が入っている。


「剣に反応されたので、もしやと思いました。それと……」


「なんじゃ、まだあるのか?」


 ひと呼吸置いてから、ティーダの方をちらりと見て、


「王子を押し止める人物であり、国王陛下と同質の雰囲気を持つ人物、となると限られますから」


 と説明した。その言葉に満足したようで、大公閣下は声を上げて笑いだした。


「ほ~まさに陛下の言っていた通りの人物じゃな。実に面白い……ところで、他の武器はなかったかの?」 


「こちらですか?」


 バッグから今度は、ミスリルの小刀とオリハルコンのナイフを取り出して並べた。


「おお、そうじゃ……で、これらをいくらで買い取ればいい?」


 ストレートな物言いに面を食らってしまったが、すぐに考えて出した答えは、


「アダマンティン製の物はお譲りしますが、小刀とナイフはお譲りする必要がないと思われます」


 その言葉に周り(俺、大公閣下、ディンさん、ルナ以外)は冷や汗を流した。


「理由はなんじゃ?」


 辺りの温度が下がったかのように錯覚しそうな大公閣下の言葉に、俺は臆することなく正直に、


「アダマンティンの装備は、その紋章から大公閣下の(ゆかり)の物とわかりますが、小刀とナイフは所有者を決定づけるものがございません。よって、所有権は私にあると思われます」


 そう言い終えると俺と大公閣下は数十秒の間、互いの目を見ていた。 

 周りは大公閣下の雰囲気に飲まれて静まっている。俺の後ろの方でジャンヌとアウラは完全に固まっており、シロウマルは周りの雰囲気から大公閣下を警戒し始めた。

 

「ふむ、それもそうじゃの……無理を言ってすまんの」


 意外にもあっさりと諦めた大公閣下であった。その大公閣下の言葉に、緊張していた周りの者達は大きく息を吐き出した。


「いえいえ、ところでアダマンティンの装備はおいくらでお譲りしましょうか?」


「うむ……ディン、相場はどれくらいになるかわかるか?」


 俺も大公閣下も相場の値段がわからないので、ディンさん頼みになってしまったが、ディンさんもよくはわからないようで、


「私にもわかりかねますが、白金貨一枚という事はないでしょう。さらに付加価値が付いたらそれ以上する事も考えられます……王都に着いてから専門家に依頼しては?」


 との事だった。 


「そうするかの」


 という事なので、それまでは俺が持っていることになった。


「では王都に帰ろうか……ティーダ、ルナ!」


「は、はい!」

「何ですか?」


 大公閣下は二人の名を呼び、


「帰ったら説教じゃからな」


 そう言って大公家の馬車に乗り込もうとしたところで止まり、俺の方を向いて、


「テンマ、すまんがこの子らをテンマの馬車に載せてくれんか。わしと一緒ではゆっくり出来んじゃろうて」


 との事であった。特に反対する必要もないので了承したが、この子らの乗ってきた馬車はどうするのかと聞いたら、


「壊れてしまっておるので、何人かをここに残して王都から職人を連れてくるしかあるまい」


 だそうだ。確かに王家の紋章が入った馬車を置いて行くわけにはいかないのだろうが、俺のマジックバッグにまだ空きがあったので、


「ああ、それなら私のマジックバッグに入れていきますよ」


 と言って馬車に近づいてバッグの中に収納すると、これには大公閣下もディンさんも驚いていた。


「すごいのぅ……一体どれくらいの値がしたのじゃ?」


 と大公閣下が聞いてきた。俺はその時バッグの口をいじっていたので、何も考えずに、


「ああ、これは自作ですので、100Gもかかっていません」


 とうっかり喋ってしまった。その言葉に大公閣下とディンさんは固まってしまい、俺が異変に気づいた時には遅かった。 


「自作……じゃと……」

「これを自作したって……この国……いや、この大陸中を探したって、このクラスの物を作れる職人は何人もいないぞ……」


 いつも何気なく使っていた物なので、その価値に無頓着過ぎてしまったのがいけなかった。

 通常マジックバッグは、大規模なダンジョンで希に発掘されるか、もしくは一流の職人が高位の魔法使いと協力して何日もかけて作るもので、本来ならば15の子供が一人で作るなど有り得ないことである。


 今更、冗談です、でごまかせそうにはなく、このままでは厄介な事になりかねない。

 三人の間に変な空気が漂っていると、


「はて、最近年のせいか耳の聞こえが悪い時があってのぅ」

「私も耳に虫でも入ったようで、何も聞こえませんでした」


 と大公閣下とディンさんが急に言い出して、


「で、結局はマジックバッグはダンジョンで手に入れたのじゃな?運が良かったのぅ」


 と、いう事になった。幸いにして近くには大公閣下とディンさんしかいなかったので、他の騎士に聞かれる事はなかった。


「ええ、本当に運のいい出来事でした」


 と二人に合わせてとぼける様子は、まるで出来の悪いコントでもしているようだったが、今のところは厄介な事にならずに済んだのでよしとしよう。


 二人から離れてジャンヌ達の所へ向かうと、すでにティーダとルナが待っていた。


「あの、ティーダ・フォン・ブルーメイル・クラスティンです。よろしくお願いします、テンマさん」

「ルナ・フォン・ブルーメイル・クラスティンです。よろしくね」


 二人の自己紹介の後、一応俺も自己紹介をしてジャンヌとアウラが俺の奴隷である事を話し、シロウマルも馬車に乗ることを承知させて、バッグの中にあるいつもの馬車と入れ替えてタニカゼに繋いだ。

 ティーダとルナは驚いていたが、それは純粋にバッグから馬車が出てきた事に対してであり、大公閣下とディンさんはマジックバッグから目をそらして見ていないふりをしている。


「じゃあ、行こうか」


 俺はタニカゼに指示を出して、少し急がせて王都を目指した。

作中で、テンマには割とあっさり負けてもらいました。

これは能力の差というよりも経験の差と言う風にしてあります。

魔法を使った時はこのような形にならないはずです。


ルナに話した、牛に関しての話は言い聞かせたり理解させる為の話なので、誤魔化したりするような形をとっています。

ティーダと話した内容については、作者自身の考えというより、物語用に作った考えなので、特に深い意味などはありません。

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― 新着の感想 ―
[一言] やった、テンマ、王族に遭遇 つまり、逃げる前にはじぃじが来れる(ハズ……………?)
[気になる点] 大臣の目的が気になりますね。  ルナの証言で「大臣が、王になるなら戦いくらいは経験しないといけない。今なら丁度仔牛が生まれている頃だから、そいつらで練習するといい、って」から"練習する…
[気になる点] ティーダ達を唆した大臣への処遇は気になりますね。  子供であろうと王族である二人を護衛付きでも危険な事をさせようとしたのは大臣であろうと極刑は免れない行為ですので気になりました。  王…
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