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第3章-18 王都へ出発!

次の話は3章終了時のステータスです。こちらは今回の分のすぐ後に投稿されます。

「おはようございま~す……親方?」


 朝一番で親方の工房に来たのだが、ドアを開けて挨拶をしても返事がない。

 仕方がないので、悪いとは思ったが勝手に入り、奥のドアを開けてみると……


「親方!朝ですよ……こんな所で寝ていたら体調を崩しますよ!」 


 そこには工房の床で眠る、親方と弟子達の姿があった。


「お?おお、もう朝か……テンマもう来たか、ちょうどいい。預かっていた物は全部修正が終わったぞ……それとおまけで、嬢ちゃん達用のブーツも用意しておいたからな……そこにあるから持っていけ……俺はもう寝るから……」


 それだけ言って、親方は再び夢の世界の住人となってしまったようだ。

 どうやらあの後、一晩中作業をしていたようだ。俺達は親方に感謝をして防具を受け取った。


「じゃあ、早速ダンジョンに行こうか」


 予定が一日ずれてしまったが、ゴーレム作りを再開しようと思い、ダンジョンの秘密基地を目指した。


 秘密基地に着いたのはいいが、このままではジャンヌとアウラの訓練が出来ないと思い、スラリンに頼んで適当な魔物を捕獲してきてもらうことにした。

 スラリンは体を震わすと、するすると壁を登って行き、空気穴の中に入っていった。

 スラリンが穴の中に完全に潜り切る前に、


「スラリ~ン!ついでに穴の補修も頼む!あと、鉄くずや武器なんかが落ちてたらそれも拾っておいてくれ!」


 と言葉を投げかけた。スラリンに聞こえたかは分からないが、あの大きさの穴なら、侵入してきたとしてもスライムか、もしくは小型の虫や爬虫類程度の魔物なのでそれほど脅威がある訳ではないだろうが。


 スラリンが戻ってくるまでの間に、ジャンヌとアウラには親方に直してもらった手甲とブーツを渡して装備して確かめてみる。


「サイズがピッタリ!」

「あの方は凄腕の職人なんですね」


 とブーツの調子を確かめていた。そのブーツはほとんどが革で出来ており、見た目よりも軽く柔らかなブーツらしく、おまけとしてはかなりの上物でありそうだ。

 二人の様子から履き心地もいいみたいなので、王都に行く前に親方には何かお礼でもしようと決めた。


 ゴーレム作りの準備が終わった頃にスラリンが戻ってきたので、秘密基地の端の方にグンジョー市の闘技場を小さくした感じの物を作り、そこにスラリンが捕まえてきた魔物を出してもらったが……


「ストーップ、スラリン、ストップ!多すぎだ!」


 スラリンが出したのは、ハイオーク10匹、オーク30匹、ハイゴブリン20匹、ゴブリン20匹、コボルト10匹程であった。それぞれ大まかに数えただけなので、もしかしたら合計で100を超えているかもしれない。

 多すぎると言われたスラリンは、急に外に出されて混乱している魔物の群れに飛び込み、オーク5匹を残して口を広げるかのようにして、魔物達を体内のディメンションバッグに入れていった。


 ……本来ならば、魔物の中でも最下層に位置するスライムが、オーク達を飲み込んでいく姿はなんとも奇妙なものであった。


 スラリンが余計な魔物を飲み込み終わると、俺はシロウマルとソロモン、それとスラリンに見守らせながら、ジャンヌとアウラにオークの相手をさせることにした。

 ジャンヌ達にオーク5匹はまだ荷が重いか?と思ったが、オークは武器などは持っていないのでなんとかなるだろう、ならなくてもスラリン達に助けに入るように言ってあるので大丈夫だろうと考えて、訓練を開始させた。


 その間にゴーレム作りを進めたが、思っていたより早く終わったので、追加で金属板の方にマジックバッグの機能を付けて、その中にゴーレムの体用の素材である鉄を収納していった。

 途中で鉄がなくなったので、ダンジョン内にあった鉄鉱石を取りに行き、鉄を抽出した物やスラリンに頼んでおいた鉄くずなどを追加して、なんとかゴーレムが召喚出来るだけの鉄を確保することができた。


 それでもまだ時間があったので、ミスリルを使ってシンプルな造りの指輪を二つ作り、これにも簡単な機能を付ける事にした。


 全て作り終えると、そろそろ昼食の時間だったので、ジャンヌ達を呼び寄せて昼食にすることにした。

 昼食は最近の定番になりつつある炊いたごはんと、屋台で買ってきた串焼きや揚げ物に野菜のスープで済ませる。


「とりあえず完成したから、試しにゴーレムがちゃんと召喚できるかやってみて、問題ないなら実際にゴーレムを使って模擬戦でもしてみよう」


 そう言って二人に首飾りを渡し、ついでに指輪も渡したのだが……


「早くも婚約指輪ですか……私のもっ!……テンマ様はジャンヌだけでなく、私もご所望ですか……英雄色を好む、ですね……」


 とアウラがはしゃぎ、釣られてジャンヌは顔を赤くし、シロウマルとソロモンはおやつと勘違いをして、俺の横でおすわりをした……


「いや、それはマジックアイテムだよ……万が一の時に俺が二人の居場所を感知しやすくする為のものだから……」


 そう説明したら、アウラはわざとらしく目元を拭う素振りをしながら、


「うっ、うう、かわいそうなジャンヌ……結婚する前から浮気を疑われるなんて……」


 と言っていたが、僅かに覗く口は端が上がり、笑っている事が見て取れた。

 さすがの演技過剰さに、ジャンヌも慌てることもなく、放置して首飾りや指輪の使い方を聞いてきたので、アウラを無視してやり方を教えた。

 アウラは俺達が相手にしないのを見て、不満げな顔をしながら泣き真似をやめて、俺の話を静かに聞き始めた。


「つまり、首飾りを外してから魔力を流して念じると、自動的にゴーレムが召喚されるのね……試してみるわ」


 ジャンヌは、俺が教えた通りの手順でゴーレムの召喚を行った。

 

 床に置かれた首飾りは決められた通りの手順で魔力が流れると、魔核の台座に付与されたマジックバッグから鉄が出てきて、それを体の素材にしてゴーレムとなっていく……ただし、このゴーレムはサソリ型なので、二人はかなり驚いていた。


 二人にとってゴーレムとは、俺が召喚した人型の物しか見たことがないので、このゴーレムも当然人型だと思っていたらしく、この大きなサソリ型ゴーレムに初めは拒否反応を見せていたが、いかにこのサソリ型ゴーレムがすごいかを話して聞かせ、実際にオーク達を相手に戦わせたりすると、


「見かけはアレだけど、強いのねコレって……」

「そうですね……見かけはアレですけど、オークがまるでゴミのようですね……」


 と考えを一部改め、見直したようだった……正直、作った本人()が一番このゴーレムの強さに驚いていたのは内緒である。

 このゴーレム達、大きさが4.5m程で、そのうち鋭い針を持つ尻尾が半分程を占め、3対の足に1対の大きなハサミを持ち、鉄の体とは思えぬ速度(時速30kmくらいか?)で近づき、ハサミや尻尾をハンマーのようにしてオーク達に叩きつけて肉塊にし、ハサミでオークの体を掴んでボロ切れのように引き裂いていたが、それはハサミというよりはペンチに近いものであった。


 その余りにもグロテスクな光景に、俺達は声を失い呆然と見ていたが、全てのオークをミンチにしたところで動きを止めたゴーレムを見て、後処理に取り掛かった……と言っても、オークの死体をゴーレムに集めさせて、高温で焼却しただけだ。

 流石に泥だらけのオークのひき肉には、シロウマルとソロモンですら食べる気にならないようであった。

 模擬戦もするつもりであったが、こんなのを相手にしたら大変な事になりそうだったので、中止する事にした。ちなみに模擬戦は、俺対ジャンヌ&アウラ&サソリ型ゴーレム二体の予定であった。


「と、とりあえずは成功かな……護衛としては過剰戦力かもしれないけど……」


 俺の言葉に二人はただ頷くだけであった。

 二人はかなり引いていたが、そのあまりの強さに外見の好みについては何も言わなくなった。


 ゴーレム達を元の首飾りに戻るように指示を出すと、二体のゴーレムはその場で動きを止めて、首飾りに吸い込まれるようにして消えていった。


 二人は首飾りを拾い上げると、多少の戸惑いを見せながらも首にかけた。


「首飾りに違和感は感じるか?」


 俺が二人に尋ねると、二人は首飾りをしたまま軽く体を動かしたり、長さを調整したりして確かめていた。


「特にないけど……ちょっと長さの調整がしにくいわね」


 とジャンヌは気にしているのを見てアウラが、


「ジャンヌは髪が長いからね。でもすぐに慣れるわよ」


 そう言いながら、調整を手伝っていた。

 今回使用したチェーンは、店で購入したものに手を加えている。

 一本のチェーンを真ん中あたりで切り分け、片方の切れ端には銀で固めて、もう片方には小さなフックを取り付けて、好みの長さの所で引っ掛けるようにして調整ができるようにしてみたのだ。

 

 その為、髪の短めなアウラはともかく、髪が長いジャンヌは後ろ手で調整しようとすると、慣れていないこともあり髪も一緒に掴んでしまうのであった。

 なので、ジャンヌの物だけチェーンの長さを変えて、鎖骨の上あたりで止めるように作り直すことにした。


「ありがとう!」


 やはり女の子なだけあって、アクセサリーをプレゼントされるのは嬉しいようで、ジャンヌからこんなに明るい声で礼を言われたのは初めての事だった。

 そもそも、身内以外の女性から礼を言われることに慣れていない俺は、不意打ちに近い形でジャンヌの笑顔と共に礼を言われたので、不覚にも少々照れてしまった。

 それを見ながら、アウラは何か言いたそうにニヤついていたが、俺は気がつかない振りをして背を向けて誤魔化すしか思いつかなかった。


「ん、んっ……とりあえずはゴーレムの動作に不都合が無いようだから、後は魔法陣の最終チェックを終えたら、予定していた事が全て終わるな……何かする事でもあるか?」


 誤魔化すように話を振り、首飾りを受け取りながら二人にそう尋ねてみたが、二人もぱっと思いつく事が無いようだった。

 なので、ひとまず休憩を取ることにし、その間に必要な物や準備しておきたい事を考えてみた。

 

「う~ん……俺が思いつくのは、食料の確保と分配くらいかな」


「私は……そうですね、料理を量産してマジックバッグに保存する事……くらいでしょうか?」


 俺とアウラからは食べ物関係が出てきたが、ジャンヌはハッと思いついたように顔を上げて、


「馬車の中に更衣室とトイレを設置して欲しい!」


 と大きな声で言った。

 その言葉にはアウラも思い当たる事があったようで、


「そう言えば、テンマ様の馬車に付いていませんでしたね!」 


 と納得していた。俺もよくよく考えてみると、これまでは男(と二匹)しかいなかったので気にする事は無かったが、ジャンヌとアウラが旅に加わるのならば、真っ先に気にしないといけない所であった。

 

 馬車には風呂替わりの樽を置く為のスペースはあるが、着替えの為のスペースは無く、トイレもこれまでは外でしていたり、雨の時は樽を収納して空いた所でしたりしていた。

 だが、これは俺が男一人だけだったからできたことで、女性に同じ事をさせたら、前世であったら間違いなくセクハラでお縄につくことになってしまうであろう……この世界でも、外部に知れたら間違いなく後ろ指を差されるであろうが……


「確かに必要だな……でも、どう作るかが問題だよな……単に内部を拡張するだけなら、あと少しくらいは問題なく出来るけど……」


 と考えている内に、俺の脳裏にある光景が浮かんだ。


「そうだ!ユニットバスみたいにすればいいんだ!」


「ユニットバス?」


「テンマ様、ユニットバスとは一体何ですか?」


 とっさに声に出してしまい二人にも聞かれてしまったが、誤魔化す必要もないか、と考えて、二人に俺の考えを教えることにした。


「ユニットバスというのは、風呂とトイレと洗面台を一緒の個室に設置した物だよ」


 と前世で見た物を二人に簡単に教えた。


「これならトイレと風呂の個室を別に作らなくても済むし、この個室を馬車のスペースの大きさに合わせて作れば、後はマジックバッグに入れて持ち運びができるし、今みたいにダンジョン内でも簡単に使うことが出来るようになる!」


 今みたいに、わざわざ魔法で作らなくても、取り出すだけで使用できる方が便利に決まっている。

 問題はトイレを使用した後の始末だけだ。

 だが、これも魔法をうまく使えばそう難しい事でもない気がする。


「でもそれって、トイレの臭いがこもったりしない?」


「確かにその心配はあるが、例えば便器に壺なんかをセットして、その壺にディメンションバッグのような仕掛けを付けたり、便座に風や水の魔法陣を刻んだりすれば、工夫次第で臭いもかなり軽減できるはずだ。やってみる価値はあると思う」 


 とりあえず土魔法と錬金術で、トイレの便器を記憶を頼りに作成してみる事にした。

 出来上がったのは洋式の便器で、作成するときに前世のある有名メーカーを思い出しながら作ったせいで、タンクの縁にト〇ト〇と文字が刻まれてしまったのでそこだけ削り取っておいた。


「最初にしては上出来かな」 


 俺は実際に座ってみながらそんな感想を呟いた。

 ジャンヌとアウラも見慣れない形の便器に興味があるみたいだが、いくらなんでも男の目の前で便座に座るのは抵抗があるようで、二人共見ているだけであった。


 次に馬車を出して、内部の後ろの方の拡張作業をして、そのサイズに合う小屋を土魔法と錬金術で作ってみたが……


「屋根は落ちてきそうで怖いな……」


 と感じたので、屋根無しで組み立てて見たが、このペースだと出立までに間に合わないような気がしてきた。

 そこで妥協をする事にして、取り外しでは無く備え付けに変更した。

 馬車内部の拡張部分に木で壁とドアを作り、床は焼き物の要領でタイルを作成して貼り付け、トイレはさっき作成したものを焼成して壺を取り外しができるようにして固定した。


 作業はゴーレム達も動員したので、二日で終わらせる事ができた。

 風呂桶に関しては、現在使用している樽のままであるが、王都に行った際に暇が出来た時にでも代わりになりそうなものを探してみることにする。


 最後に細かい作業と、魔法陣がちゃんと作動するかの検査すれば終わりだ。

 便器には、便座のフタに魔法陣が書かれており、蓋を上げると作動して壺がディメンションバックと同じ能力を発揮する。

 その他にも、風魔法で空気の層を作る仕掛けも設置しているので、臭いがもれないようにしてみたが、これは実際に用を足してみないと分からない事なので、今回は保留だ。


 検査の仕方は簡単で、蓋を上げて本来の壺に入る以上の量の水を流し込み、溢れなければ成功で溢れてきたら失敗だ。

 壺の中にはおよそ5m四方の空間を設置している。とりあえず10Lくらいの水を注いでみることにした。

 結果は……


「成功だな。水漏れもないみたいだし、まあ上出来か!」


 今のところは問題が見つからないので、これでいじるのはやめて、後は水瓶と仕切りのカーテン、排水口を掘れば一応完成である。

 排水口もディメンションバッグの機能を施した壺を床に埋め込んだ。


 リニューアルした馬車の内部をジャンヌとアウラに見せた後、マジックバッグにしまい込んで、俺達は地上に戻ることにした。


 もうすぐセイゲンを出立するので、今日はこれから散歩がてら街の中を巡り、食料を中心に買い物をする事になったのだが……


「ジャンヌ、アウラ、もうこれで10軒目なんだけど……」


 女性の買い物は長いというが、本来の目的を忘れて服や小物などの店を見て回るのは勘弁して欲しい。


「テンマ、あと1軒だけ!」

「そろそろ決めますから!」


 これで3度目の、あと1軒だけ、である。シロウマル達は早々にディメンションバッグの中に戻り、休憩中である。流石に食べ物以外は興味が無いようで、シロウマルとソロモンはバッグに戻る前に俺におやつをねだり、オークの骨を嬉しそうに咥えて中に入っていった。


 その後も、あと1軒だけ、は5回ほど繰り返され、俺は諦めて適当に時間を潰すために、ジャンヌ達がいる店から数軒隣りの雑貨屋を覗いていた。

 特に目を引く物は無かったが、造りのしっかりとした壺が大小合わせて20程置いてあったので、その全てを購入して店主を喜ばせていた。


 ジャンヌ達の所に戻る途中で、見覚えのあるオーガが歩いているのを見つけた。もちろんガリバーである。

 見覚えのある以前に、他にオーガがこの街でテイムされているという話は聞いたことがないので、オーガ=ガリバーで間違いはない。

 ガリバーの周りには人が寄り付かずポッカリと空間が広がり、非常にわかりやすく近づきやすかった。


 ガリバーは近づいてくる俺に気が付くと、一瞬怯えた表情を見せて後退りをしたが、すぐに背筋をできるだけ伸ばして気を付けの姿勢をとった。


 今にも敬礼をしそうなガリバーを見て、思わず笑ってしまったが、当のガリバーはその笑い声に反応し、またもびくつき始めた。


「おお?テンマ殿ではないか。買い物ですかな?」


 俺がガリバーに気を取られていると、ガリバーのいる位置のそばにある入口からサモンス侯爵が護衛を伴って出てきた。

 その護衛達も俺を見て警戒して一歩前に出たが、サモンス侯爵からの制止を受けて下がった。


「はい……最も、今は連れの買い物に振り回されて、時間を持て余しているところです」


 と答えると、サモンス侯爵は苦笑いをしながら、


「女性の買い物に付き合うのは根気が必要ですからな……斯く言う私も、若い頃は妻に振り回されてばかりでしてな……」


 そう小声で話してきた。

 ガリバーは主人であるサモンス侯爵が、俺と和やかに話しているのを見て、ようやく緊張が和らいできたようであった。

 それを見たサモンス侯爵が、


「ガリバーは私の護衛の中では最強の戦力と言ってもいいくらいなのに、テンマ殿の前では形無しですな……」


 と呟き、それを聞いたガリバーは大きな体を縮こませていた。傍から見ると、かなり面白い光景ではあるが、流石に俺が原因でガリバーが落ち込むのは可哀想であったので、


「いや、ガリバーはかなり優秀だと思いますよ。普通のオーガは気性が荒くて知能が低く、何も考えずに戦いますが、ガリバーは見たところかなり考えながら戦おうとしています。この調子なら、ガリバーはまだまだ強くなりますね」 


 とフォローすると、サモンス侯爵は頷きながら、


「それは重々承知していますよ。……ここだけの話、ゲイリーより知能が高いのではないかと思っているのです」


 とこれまた小声で言っているが、その内容は妙に説得力があるものであった。


「ところで、そのゲイリーはどちらに……」 


 俺はこんな所でゲイリーと会うのは面倒だな、と思いつつ訊ねてみると、サモンス侯爵は笑いながら、


「ああ、あのバカ息子は後続でやってきた者達と一緒になって、現在ダンジョンで性根を叩き直しているところです」


 と教えてくれた。とりあえずは面倒事は回避されたようだ……しかし、ガリバーが俺を怖がっているのは少し気まずい。

 俺としては、ガリバーとは仲良くしたいのでどうしたらいいかと考えて、最初に浮かんだのは家の食いしん坊達だった。

 物は試しと、オーク肉の塊を取り出してガリバーに差し出してみるが、ガリバーは肉を見ても態度を変えなかった。


「テンマ殿、何を?」


「いえ、うちの食いしん坊達なら食べ物を出せばなにか反応があるので、ガリバーはどうかなと思いまして……」


 その言い方は、聞き様によってはかなり失礼ではあるが、侯爵は、プッ、と軽く吹き出して、


「ははは、テンマ殿。いくらガリバーがオーガだからといって、こんな往来で生肉を囓ったりはしませんよ」


 その言葉に俺は驚愕してしまった。なにせ、家の食いしん坊達ならば間違いなく肉に飛びつき、人目を気にせずに生肉を食べる、という光景が、俺の脳裏には鮮明に映し出されているからだ。

 

 ガリバーの餌付けに失敗した俺は、侯爵がマジックバッグを持っているのを確認して、オーク肉の塊をガリバー用にと10体分ほどを渡した。

 その時に、わざとガリバーに見えるようにしたが、当のガリバーがこれで少しでも懐いてくれるかは不明だ。


「では、そろそろ連れの買い物が終わると思うので、この辺で失礼します」


 侯爵に挨拶をして、ガリバーにも手を振ってみたのだが、ガリバーは俺の手の動きに緊張し、俺が離れる時に、あからさまにホッとした表情をしたのを見た時はかなり悔しかった。


 ジャンヌ達がいた店に戻ると、護衛として残しておいたスラリンが俺に気づき、いそいそとバッグの中に入ってこようとした。

 俺はスラリンを撫でてから、ご褒美にオークの骨を渡してバッグを広げると骨の匂いに反応して、バッグの中から食いしん坊一号(シロウマル)が顔を出してねだってきた。一号の後ろには、当然二号(ソロモン)も控えていた。


「ガリバーもこれくらい分かりやすかったらいいのに……」


 俺はシロウマルとソロモンの頭を撫でて、二匹に骨を渡し、スラリンには新たに骨を追加した。

 三匹が戻るのを見てから、俺はジャンヌとアウラを呼びに店の中に入ることにした。 


「ジャンヌ、アウラ、もう終わったか?」


 二人に声をかけると、買い物は丁度選び終わったらしく、今まさに会計に向かうところであった。


 二人は造りが丈夫で、尚且つ色や刺繍が可愛らしい女性向けの外套や上着にズボン、スカートやブーツなどをまとめ買いしていた。

 どうやら16軒目にして、ようやく納得のいく物が見つかったようだ。


 二人は料金を支払い、品物をマジックバッグに詰めていく。

 店の中にいた男性客の一人がよからぬ顔でバッグを見ていたので、その視線を遮るように立ち、殺気を飛ばして警告しておいた。

 男は顔を真っ青にしながら震えていたのでおそらくは大丈夫だろうが、後で二人には色々と注意する必要がありそうだ。


 その帰り道で酒屋を見つけたので、俺は親方達へのお礼替わりで10L入りのウイスキーの樽を5つ程購入し、それとは別にワインが5L程入った物を6つ程購入することにした。 

 ちなみにウイスキーはアルコール40%程で、この世界でも一般的に飲まれている。

 購入したワインは赤と白が半分ずつで、これは主に料理用にするつもりだ。


 その後は米を買い占め、野菜を物色し香辛料や調味料、調理済みの食品を買って歩いたら、いつの間にやら総重量が100kgをゆうに超えていた……最も、マジックバッグに入れているので重たくはないのだが。


「シロウマル達用の肉はたくさんあるし、食料も半年分はあるだろうから、これでしばらくは買い足さなくてもいいか」


「そうですね。これ以上は扱いに困る事になるだけでしょうから、今後はある程度消費してから買い足すくらいがちょうどいいでしょう」


 アウラも俺の意見に賛成した。実際に前に買ったものが余っているはずだが、なにが余っているかがわからない状態である。一度バッグの中身を整理する必要があるな。


 その夜は、俺のマジックバッグの中から、二人に預けているマジックバッグへと食料を分けていき、前に買ったと思われる調理済みの物で夕食を済ませることになった。

 


 

 それから数日後、いよいよセイゲンを出発する日がやってきた。

 前日の内に知り合いには声をかけており、今日の見送りにはエイミィの家族と暁の剣にテイマーズギルド(仮)の面々が集まってくれた。

 親方には昨日の内に挨拶に行き、お礼のお酒を渡した時に挨拶は済ませている。

 侯爵は今日はギルド長達と朝から話し合いがあるそうで、こちらも昨日のうちに挨拶はしてある。


「じゃあエイミィ、部屋の換気なんかは頼んだよ」


「はいっ、先生!任せてください!」


 そう挨拶を交わしていくと、意外な事にエイミィを除くテイマーズギルド(仮)の面々も武闘大会に参加するそうだ。


「この機会にテイマーズギルドの名を広め、会員を集めて一大組織にしてやる!」


 と皆張り切っていた。一応メナスに眷属を伴っての出場はありなのかと聞くと、どうやら認められているそうだが、眷属もチーム人数の1人と数えられる上に、その時々の大会によってルールが追加されたり、強い眷属を持つ者が少なかったりすることもあり、参加は少ないとのことだ。


 暁の剣やテイマーズギルド(仮)の面々は、王都に知り合いなどがいる為、王都に行くのは大会の1~2週間前になるそうだ。


「じゃあ、先に行っているからな!エイミィも頼んだぞ!」


 そう言って、タニカゼに合図を出すと、


「先生、ジャンヌさん、アウラさん、いってらっしゃ~い!早く戻ってきてね~」


 とエイミィの元気な声を背に受けながら、俺達は王都へと旅立つことになった。

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― 新着の感想 ―
[一言] あ~(>_<) じぃじ、間に合わな~い(笑)
[気になる点] テンマの方が立場が上なんだから、もうちょいアウラを(赤面させる感じの)やり込めさせていいんじゃないかと。からかわれ過ぎ。 あと、いくら知り合いばかりな状況とはいえ、公衆の面前で先生呼び…
[一言] 奴隷に気を使い過ぎですね。 貴族には脅迫するくらいなのに同衾とか結婚とか奴隷風情に言われて言い返せないのと毅然とした態度を取らないのと、更衣室を作るとか甘すぎます。 こういう状況でヘタレ化…
感想一覧
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