第3章-16 想定外の出来事
「マーリン様、グンジョー市が見えてきました!」
先行していた騎士の1人が報告に戻ってきた。辺りはまだ薄暗く、明るくなるまでには後一時間程かかるだろう。
通常ならそんな時間帯に馬車を走らせる事などしないが、グンジョー市まで……テンマに会えるまで後一日もかからない、という距離まで来ていたので、マーリンがわがままを言って進んできたのだった。
しかし、マーリンの気持ちを知る騎士達は、一言の文句も言わずに交代で休憩を取りながら馬車を走らせてここまでやって来たのだった。
「うむ、無理を言ってすまなかった。しかし、これでようやくテンマに会える……クリス、すまないが先に門の所まで行って、通行の許可を取ってきてくれ」
マーリンはクリスにそう言いながら、アレックスより預かっていた王家の紋章を渡した。
この紋章があれば、大抵の場所を素通りできるが、門番達を混乱させないように、あえて先触れとしてクリスに向かわせることにした。
「はっ!了解しました!」
馬上で背筋を伸ばして敬礼し、クリスは騎士を1人伴い駆けていった。
クリスを先触れに出したおかげか、グンジョー市へは特に混乱も無く入ることができた……しかし、王家の紋章の実物を見たことがない者がほとんどであったため、その場に居合わせた騎士団隊長が確認したので、偽物と疑う者がいなかったという事を後になってマーリンは知る事となった。
「マーク、その満腹亭とやらはどれくらいで着くのだ?」
「ここからだったらすぐに着くはずだ……おっ、あったあった、あそこだ!」
マークは一軒の宿屋を指差してそう叫んだが、
「人の行列があるが……本当にあそこなのか?」
マーリンが見たものは、宿屋には似つかわしくない、早朝から列を成す大勢の人達であった。
そのまま列の近くに馬車を止めて、入口付近に並んでいた三人の女の子に話を聞こうとすると、
「おじいさん、後ろに並ばないといけないよ!」
「横入りをすると、公爵様に怒られちゃうよ!」
「列の最後尾はあの角を曲がったところだよ」
と三人の猫の獣人女の子に注意されてしまった。
「おお、それはすまんな。しかし、わし達はこの宿に泊まっている者に用事があってきたんじゃよ……ところで、これはなんの列なのじゃ?」
その言葉に三人は勘違いをした事に気づいて謝り、この列がなんなのかを教えてくれた。
「これはお菓子を買うための列なの!」
「最近大人気のお菓子で、王都でもこれ以上の物はない、って評判になって朝早くから並ばないとすぐに売り切れになっちゃうんだよ!」
「私達も1時間前から並んだんだけど、すぐにこんなに人が増えちゃった」
と言うことらしい。マーリンは三人に礼を言って、教えられた宿の玄関に向かった。
「お~い、ドズル居るか!俺だ、マークだ!」
その声に反応したような音が聞こえて、宿の奥から1人の大柄な男がやってきた。
「おお、マーク、久しぶりだな!いったい何年ぶりだ!」
男はその見た目とは違い、話しやすそうな雰囲気で近づいてきた。
「いきなり来るなよ……事前に知らせてくれれば歓迎の準備でもしたのに……」
「悪い悪い、まあ、俺の事は置いといて、ここに用があるのはこの人なんだ」
マークは体をずらして背後にいたマーリンを紹介した。
「これはこれは……初めまして、私はマークの古い友人でドズルと申します。賢者マーリン様のお噂は予てより聞き及んでおります」
「ああ、そんなにかしこまらんでもいい。実はここにわしの孫が世話になっていると聞いてな……」
「お孫さんですか?」
「ああ、名前はテンマと言うての、歳は15の男の子じゃ」
とマーリンがテンマの名前を出すと、ドズルは額に手をやって、
「テンマはすでにここにはいません……」
とマーリンに告げた。マーリンは呆然としていたがすぐに気を取り直し、
「どこに行ったか知らぬか!」
とドズルに詰め寄ったが、ドズルは、
「すいません……詳しい事は聞いていませんが、旅立つ前にダンジョン都市にでも行ってみる、と言っていた事しか知りません」
「……そうか……ところでそのテンマには、白い狼とスライムの眷属はおったかのう?」
そう確認するようにドズルに尋ねると、
「はい。そのテンマには白い狼のシロウマルと、スライムのスラリンという眷属が確かにいました」
と断言した。その言葉を聞いたマーリンは、
「おお……確かにそれはわしの孫のテンマじゃ……よかった……生きておった……」
とその目に涙を浮かべながら呟いた。
マーリンが落ち着くまで皆は声もかけずに見守り、落ち着いたのを見計らってドズルが、
「テンマにはこの街で親しくしていた者が何人かおります。もしよろしかったら話を聞いてみてはいかがでしょうか」
と数人の名前を教えてくれたのだが、その名前を聞いたマーリンは、
「……女性の名前ばかりじゃな……」
と呟いた。その時ドズルが、
「今そのうちの三人が、丁度この店に来ているので連れてきます」
と言ってすぐに連れてきたのは、先程店の前に並んでいた女の子達だった。
「あれ?私達にテンマの話を聞きたいっていうのは、さっきのおじいさんなの?」
女の子達の手にはお菓子の入った紙袋が抱かれており、その紙袋には『テンマのお菓子』と書かれていた。
女の子達の名前は、リリー、ネリー、ミリーと言って三つ子の姉妹だそうだ。
マーリンが、自分はテンマの祖父であり、テンマの行き先を知りたい、と言うと三人は一斉にしゃべりだした。
話を聞いてみると、テンマに危ないところを助けられてからの知り合いで、この街では一番仲が良かった、とか、テンマの初めての依頼で一緒にこなして盗賊をやっつけた、とか、テンマに一緒に連れて行って、と言ったら断られた、などであり、行き先はダンジョン都市とだけしか決めていない、との事だったそうだ。
三人に礼を言って、次に紹介された人物に会うためにマーリンはギルドを目指した。
そこで会ったのはギルド長と副ギルド長で、名をマックスとフルートと言い、テンマはフルートと仲が良かったそうだ。
「テンマさんのおじい様だそうで……テンマさんにはよくお世話になりました」
とフルートと名乗った女性が頭を下げてきた。
そこでもマーリンの名を聞いて驚かれたが、話し始めると色々な事を教えてくれた。
テンマは自身のランク以上に活躍していた事、テンマのおかげで質の悪い冒険者が大幅に数を減らした事、テンマの活躍でギルドの評価が上がった事などだった。
しかし、このフルートもテンマの行き先はダンジョン都市としか聞いていないそうだ。
次にマーリンが向かったのは市議会で、そこではマルクスと名乗る男と会い、要件を告げると、それなら姪の方が詳しいでしょう、とわざわざここに呼んでくれた。
「初めまして、セルナと申します。お孫さんのテンマさんに命を助けられた者です」
とその理由を話してくれた。
その話では、自分の住んでいた村が盗賊に襲われ、村の女数人が奴隷にされてひどい目にあっている時に、偽の依頼で騙されて来たテンマが村の異変に気づき、自分達を助けてくれた、というものだった。
セルナもこれまでと同様に詳しい行き先は知らないようだ。
次の場所に向かおうとすると、別れ際にセルナから、
「テンマさんに会えましたら、私はいつまでも感謝している、とお伝えください」
と言付けを頼まれる事になった。マーリンは了承して礼を言い、次の目的地の騎士団本部に向かった。
テンマと親しくしていたのは第四部隊隊長でサンガ公爵の三女であるそうだ。
「本当に女性の知り合いが多いのう……」
マーリンはテンマが女好きなのか、とも思ったが、これまでの彼女達の反応を見る限りでは、男女の仲になったようには見えない。
「ヘタレなのか……それとも鈍いだけなのか……」
どちらなのか見当がつかないが、少なくともテンマに出会った時に、ひ孫の心配をせずに済む様なので、そちらの方がいいかな、と考える事にした。
その事をマークに漏らすと、
「いた方がいいのか、いない方がいいのかどっちですか?」
と聞かれた。なので将来的にはいた方がいいが、今はいない方がいいかもと答えた。
その答えにはエドガーやクリスを含む騎士達も、笑いをこらえていた様だった。
騎士団本部に入るとすでに話が通っていたようで、そのまま隊長の部屋まで通される事になった。
「は、初めまして!私はグンジョー騎士団第四部隊隊長のプリメラ・フォン・サンガと申します!」
部屋に通されると、その部屋で直立の姿勢をとっていた女性に、敬礼をされながら挨拶をされた。
「急にすまんかったのう……わしがテンマの祖父のマーリンじゃ。わしが言うのもなんじゃが、楽にしてくれ」
その言葉に我にかえったプリメラに席を勧められ、座ると同時にプリメラが自らお茶を入れだした。
どうやらこのプリメラは、マーリンだけでなく、エドガーやクリスといった王の近衛兵が居る事にも緊張しているようだ。
「それで私に話を聞きたいとはどういうことでしょうか……」
「まあ、そんなに緊張する事でもない。わし達はテンマを探しているのだが、行き先が分からないのでテンマの知り合いに聞いて回っているんじゃよ」
その言葉にプリメラは少し思い出すような素振りを見せて、
「そう言えばテンマさんは、ダンジョン都市の中でも3箇所に絞っていたみたいです……」
と言って、その場所の名前を答えていく。
「その後で父と話したのですが、父が言うには、セイゲン辺りが最有力なのではないか、と言っていました」
確証はありませんが、と公爵との会話した時の内容も出して話した。
「セイゲンじゃと……通り過ぎた所ではないか……」
そう嘆くが、過ぎてしまった事はどう仕様も無い、と諦めてテンマの話を聞く事にした。
その内容は、テンマに怒られた事やテンマに騎士団がこてんぱんにやられた事、公爵と手を組んで貴族を懲らしめた事などであった。流石に騎士団をこてんぱんにしたと聞いた時は、最初こそ驚いたが、ドラゴンゾンビを倒すくらいだから、騎士団相手ならそれくらいの事は出来て当然か、と思う事にした……しかし、気になるのはプリメラがテンマを話す時の態度だ……どう見ても尊敬だけでは無いように思える……かと言って、テンマが好きなのか、と言えばそんな感じでもない。
今のところは尊敬の念の方が強いが、もしかしたら恋愛感情に発展するかもしれない……と思ったのはマーリンの他には同じ女性であるクリスだけであった。
ちなみにマークやその他の騎士達は論外として、意外な事にエドガーも色恋沙汰には疎いところがある様だった。
とりあえずは次の目的地を、ダンジョン都市セイゲン、に決めて、明日の朝に出発する事にして、騎士団本部を去る事にした。
今日の宿はドズルの厚意で満腹亭に部屋を確保してもらい、食事も豪勢なものを振舞ってもらった。
その内のいくつかの料理とデザートが、テンマ考案のレシピだと聞いて非常に驚く一行であった。
「次こそはテンマと再会してみせる!」
そう気合を入れ直すマーリンであった。
寝ていたテンマが違和感を感じゆっくりと目を開けると、その目の前には少女の顔があった。
少し寝ぼけ気味のテンマは、
(綺麗な髪だなぁ……よく見てみると、ジャンヌって美少女だよなぁ……)
などと思っていたが、その数秒後に意識が覚醒すると、
(まずい!この状況は不味すぎる……なんとか逃げ出さないと……って、服を掴むなぁーージャンヌーーー)
逃げ出そうにもジャンヌに服を掴まれているので、ベッドから逃げることが出来ない。さらにジャンヌは足を絡めて顔を俺の胸に埋めてくる……何だか、いい匂いがジャンヌからしてくる……じゃなくて!
俺は、ジャンヌを起こさないように服を脱ごうとするが、僅かに動くたびにジャンヌは力を込めてくる。
このままではやばい、そう思った時、ジャンヌの背後で何かが動いた……シロウマルだ!
シロウマルでは役に立たん!そう思ったのが伝わったのか、シロウマルはベッドの端に前足をかけて……
「ワォン」
一声吠えた……シロウマルは尻尾を振ってかまってほしそうにしているが、俺の目の前で……ジャンヌの目がゆっくりと開いていく……終わった……そう思い、予想される音波兵器に耐える為、自由になった両手で耳を塞ぐが……
「ふにゅぅぅ」
と気の抜ける声を出して、ジャンヌは再び眠りについた……助かった……ジャンヌの手が服から離れた隙に抜け出そうとしたが……
「キュイィィーー」
今度はソロモンが声を上げた。そして、今度こそジャンヌの目は完全に開かれ……
「…………おはよ、う?」
しばらく俺の周りは時間が止まったようだ。ジャンヌは寝ぼけて挨拶をしたが、言い切る前に覚醒し、俺の顔を見て固まってしまった。
俺も迂闊に動くことが出来ずにしばらくの間、至近距離でジャンヌと見つめ合う事となってしまった。
そんな沈黙を破ったのは、
「お二人共、お熱いですね~。早くも同衾ですか?」
茶化すようなアウラの声だった。その声をきっかけに時は流れだし……
「き、きゃ、うぐ、ううぐむ」
「朝から大声はダメよ、ジャンヌ」
音波兵器を止めたのはアウラのファインプレーだった。ジャンヌの口を手で塞ぎ、そして、
「ジャンヌ、よく見なさい。ここはテンマ様のベッドよ」
そうジャンヌに言い聞かせるアウラ、その隙に俺はベッドを抜け出して距離をとる。
「ジャンヌ、どうせあなたが寝ぼけて、反対側のテンマ様のベッドに潜り込んだんでしょう」
そうアウラが言うと、ジャンヌは思い当たるフシがあるのか、低い声で唸りだした。
「まあ、テンマ様が寝ぼけたジャンヌを自分の布団に引き込んだ、という可能性もあるけどね!」
これまでの説得を台無しにするようなセリフがアウラの口から放たれ、ジャンヌは顔を赤くし、目を潤ませながら俺を睨んでくる……勘弁してくれ、といった感じでアウラを見ると、
「まっ、事故にせよ故意にせよテンマ様には、うら若き乙女と同衾した責任を取って貰わないとね!」
と理不尽な事を言ってくるが、反論をさせないような雰囲気がアウラから発せられていた……
「それがアウラの素か……」
しかし、こんなことで俺の未来が決定されるのは納得がいかない!
「ジャンヌからもアウラに言ってくれ!……おい、ジャンヌ……」
ジャンヌは反対するだろうと思い味方み引き込もうと思い、声をかけたが返事が返ってこない。何故だ、と思いジャンヌを見ると、
「同衾……責任……取って貰う……結婚……」
何やら不穏な言葉を呟き、顔を真っ赤にしながらバグを起こしていた。
「では、多数決で決めましょう。スラリン、シロウマル、ソロモン、あなた達も投票の権利をあげるわ」
そう言って強制的に多数決をしようとするアウラ、
「おい、何を言って……」
「反対の人~」
その言葉に反射的に手を挙げてしまった。
「テンマ様は参加決定ですね!他に反対は……」
しまったっ!と思いながらも、俺はシロウマル達を見るが、
「強制はなしですよ、テンマ様!」
そう言ってアウラは、俺がシロウマル達に向けた視線を遮った。
「他にはいないようですね……では賛成の人~」
俺は内心で、シロウマル達が賛成するはずが無い、そう思っていたが、結果は……
「本件は賛成3、反対1、棄権2で可決されました!」
と万歳三唱をする勝ち誇ったアウラがそこにいた……
「無効……」
「まさか決まった後で、無効だ、なんて言いませんよね?テンマ様」
「いや、これはむこ……」
「このダンジョン都市で名声を得ているテンマ様が、ま・さ・か多数決で負けたからって、主人の立場を利用してこの結果をなしにするなんて、そんな狡い真似しませんよね?」
「いや、これはひきょ」
「ま~さ~か、勝負に負けた後で無効だ、あまつさえ卑怯だ、なんて恥知らずな事をおっしゃいませんよね?」
やばい……俺だけでは勝てそうにない……ジャンヌは……
「同衾した女の子に助けを求めるなんて、恥ずかしいですよね~……テ・ン・マ・様!」
詰んだ……だが結婚するとは……
「いや~二人の子供が楽しみですね~……私の夢だったんですよ。ジャンヌの子供の世話をするの!」
何が何でも結婚まで持っていくつもりか……ならば!
「…………検討をしないことも無いです……」
あやふやな言葉で、なんとか逃げ道を探る俺に対し、アウラは顔をしかめたが、
「まあ、今のところは検討する、という言葉で許しましょう……チッ」
なんで俺がこんな目に合わないといけないんだ……俺は手を出してなんかいないのに……無実なのに……あとアウラよ、舌打ちはやめろ……
打ち拉がれながらも俺は、シロウマルとソロモンを、裏切り者っ、という感情を込めて睨んでいたが、二匹はなぜ睨まれているのかわかっていない様子で、アウラに餌をねだり始めた。
ちなみに多数決の内容は、
賛成=アウラ、シロウマル、ソロモン
反対=俺
棄権=ジャンヌ、スラリン
であった。
棄権のスラリンはともかくとして、なぜシロウマル達が賛成に回ったのかテンマには分からなかったが、その時のシロウマル思考回路は、
テンマ=大好きなご主人・親代わり・可愛がってくれる人・食べ物をくれる人
ジャンヌ=同僚・可愛がってくれる人・食べ物をくれる人
アウラ=同僚・可愛がってくれる人・食べ物をくれる人
であり、さらに、
テンマ+ジャンヌ(アウラ付き)=可愛がってくれる人×3・食べ物くれる人×3=幸せ×3
テンマ+ジャンヌ+アウラ-(ジャンヌ+アウラ)=可愛がってくれる人×1・食べ物をくれる人×1=幸せ×1
との計算がシロウマルの脳裏をよぎった。ジャンヌ達が居なくなる訳ではないと思ったが、テンマとジャンヌが一緒になれば幸せが3倍になるのは確実だと思い、賛成に回ったのだ……自身の幸せを優先させたとの見方も出来る。
ソロモンの場合……シロウマルと同じ考えに至ったので賛成に回った。
スラリンの場合、
心情的には主人であるテンマに付きたい、だが、自分達魔物と違い、人間が番になるということは大変な事なので、二人で話し合うのが筋であり、周りがとやかく口を出すのは間違っている。
しかも、自分はたかがスライムなので、自分が行動する事で余計な混乱を招くのは得策では無い。
二人には納得のいくまで話し合ってもらい、結論を出すのが一番望ましい事である。
と判断したので、あえて棄権したのだった……さらにスラリンは、
(後であの二匹にはお説教をしておこう)
と心に決めていた……のだが、残念な事にスライムなので、皆はスラリンがそこまで考えていた事に気付く事はないのであった。
ついでにジャンヌは、と言うと、
「同衾……責任……取って貰う……結婚……」
と今だにバグっていた為、やむなく棄権となってしまっていた。
「え~、本日の予定は、ランクの高い魔物の魔核を取りに行きます」
沈み込みそうな気持ちを振り切るために、努めて明るい声を出してそう発表したが……
「同衾……責任……」
「ジャンヌ、いい加減戻ってきなさい!」
未だにバグったままのジャンヌに、アウラが斜め45°の角度で頭にチョップを入れた。
「むぎゅ……あれ?頭が痛い……」
どうやら再起動に成功したらしいジャンヌに、
「目が覚めた?早く朝食を食べてダンジョンに行くわよ!」
アウラは手早く朝食を差し出す。
首をかしげながら朝食のサンドイッチをつまむジャンヌだが、食べ終わり際に、
「アウラ……私、変な夢を見たの……」
と言い出したが、アウラは内容を聞かないうちに、
「あっ、それは多分夢じゃないから。ジャンヌはテンマ様の嫁候補に決定したわよ!」
とジャンヌが食べ終わった皿を片付けながら、事も無げにそう言った。
「へっ……じゃあ私、テンマと結婚……」
「するかも、ってだけよ。今は気にしないで、テンマ様が責任持って守ってくれる、くらいに思っていたらいいわ」
そうですよね、とこちらに振ってくるので、
「あ、ああ、そうだな……」
と乾いた笑い声を出しながら頷いた。それを見たジャンヌがまたバグりそうになっていたが、
「はい!さっさと準備をする!」
とジャンヌの背中を押しながら準備をさせ始めたので、なんとかバグらずに済んだようだ。
準備が済むとそのままダンジョンに向かい、俺の最高記録の38階層まで飛んだ。
「いいか、これまでの階と比べると、ここの魔物はかなり強くなっているから、前にも後ろにも行き過ぎないようにな!」
「「はい!」」
「シロウマル、ソロモン、スラリン、俺の事よりも二人の事を優先して守るように!」
「ワウ!」
「キュイ!」
俺の言葉にそれぞれが配置につく。順番に、俺、ソロモン、ジャンヌ、スラリン、アウラ、シロウマル、といった感じだ。
それぞれの準備が済んだのを見て、
「よし!行くぞ!」
魔核狩りをスタートした。
想定外はマーリンは、テンマがいなかった事、テンマはアウラの本性と、アウラに押し切られそうになっている事です。
ジャンヌに関しては、この先どうなるかは決まっていません。