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第3章-13 大捕物

 俺は今、スラムの中心部に来ている。時刻はそろそろ日付が変わる頃だろう。中心部と言っても建物の屋根の上にいる訳だが。

 何故ここにいるかと言うと、侯爵の頼みではあるのだが、それ以上に、同じ部屋に出会ったばかりの女性がいるという事に耐えられなかった、というのもある……誤解の無いように言っておくが、俺はノーマルだ。決して同性愛者では無い。ただ、前世も含めて女性(家族を除く)と一緒の部屋で寝泊まりしたことが無いだけだ。


 そういう理由から早めに部屋を出て、スラムで時間を潰していたのだ。あっ、ちゃんとお仕事はやっています。

 しかし、ここまで来るのに貴重な体験をしたな、と思う。

 

 ここに来る前に部屋から出ようとすると、外に侯爵子飼いの騎士以外に、見知らぬ男達が数名見張っているのに気がついた。

 なので、何事も無かったかのように一度部屋に戻り、今度はスラリンに飲み込んでもらって……表現の仕方が変だが、要はスラリンの体内にあるディメンションバッグに入れてもらって、闇夜に紛れて外へと出ていき、部屋から離れた所でスラリンから出てスラムに向かったのだ。


 現在、スラリンは俺のバッグに入って休憩中、俺は黒くてボロい服で全身をコーディネイトし、顔には同じく黒いターバンのようなもので覆っており、一見して(テンマ)とは分からないように変装している。部屋にはジャンヌとアウラが寝ているので、万が一に備えてシロウマルとソロモンは部屋で待機している……しかし、この格好はなかなか辛い!時折、魔法で体温を冷やしてはいるが、それでもかいた汗は拭えない、早く終わらせて風呂にでも入りたいものだ。


 とりあえず、探索を使ってゲイリーの居場所を探してみることにした。幸いなことに、ゲイリーとは面識があるので念じれば探索に引っかかってくれる。

 意外なことにゲイリーは、すぐ近くにいた……すぐ近くというか、俺が今いる建物の中だった。

 

 少々拍子抜けした感じはするが、仕事が早く済むのはいい事だ、と思い直して内部の偵察を行うことにする。

 この建物は4階建てであり、外装はボロボロで大きな地震でも来たら倒壊してしまうんじゃないか?といった感じだ。まず内部を探索で調べてみると、1階部分の入口付近に四名と階段に二名、2階は階段に三名と廊下に二名、3階にはゲイリーのいる部屋に、ゲイリーと他三名と廊下に三名、4階には廊下に二名と真下の部屋に三名がいて、合計で二十二名+ゲイリーだった。

 この他にも俺や侯爵の見張りもいるだろうから、全部で三十数人くらいだろう。


 とりあえず行動を開始することにした。

 まずは部屋を出た時のように、スラリンに飲み込んでもらって真下の部屋に侵入する。

 部屋に侵入して様子を探ると、どうやら誘拐犯達のボス達のようで三人は酒盛りをしていた。

 なので、スラリンから腕だけを出して、この部屋に結界を張り、音が漏れないようにしてから、


「スタン」


 三人に雷魔法を強めにかけて、動けなくした。そこでスラリンから外に出て、三人を縄でぐるぐる巻きにしていく。その後は、俺のディメンションバッグに入れておいて、またスラリンの中に入った。

 次はゲイリーの部屋に侵入して、同じように結界を張った後、最初の三人と同じ目に合わせた。

 ゲイリーは縄で縛られた上に猿轡をされていたのだが、俺を見るなり、モガモガと何か言いたそうだったので、猿轡をずらしてみたら、


「貴様のせいで、俺がこんな目にあったんだぞ!どうしてくれる!」


 とか騒ぎ始めたので、ゲイリーも誘拐犯と同じようにスタンで大人しくしてもらった。


 そうなると後は簡単だった。堂々と部屋を出て、他の誘拐犯が騒ぐ前にスタンで無力化、縛り上げて放置、またスタンで無力化、といった感じで繰り返せば、ものの1時間足らずで誘拐事件はほぼ解決となった。

 後は床に転がっている誘拐犯達をバッグに入れて、ついでとばかりに部屋にあった武器や宝石などの金目の物を全部頂いて誘拐犯のアジトを後にした……傍から見ると、俺の方がやっている事は酷いように見えるが、今回のように犯罪者相手だと正当な行為とみなされるので、持って帰らないと損なのだ。


 帰る途中で、俺の部屋を監視していた輩と、ギルド付近で侯爵や騎士達を監視していた輩を捕縛して、バッグに詰めてギルドへと入った。


「侯爵様、終わりましたよ」


 中に入るなり開口一番に侯爵にそう告げて、ゲイリーをバッグから出す。

 ゲイリーはまだ気絶していたが、そのうち自然に目を覚ますだろうと思いそのまま渡した。


「お、おお、テンマ殿……ありがとう。これまで色々な迷惑をかけたにも関わらず、ゲイリーを救い出してくれて、本当に感謝している」


 こんな馬鹿息子でも、侯爵にとっては大事な息子、ということなんだろうな、とか思いながら、ふとある事を思い出した。


「そう言えば今回の報酬はどうなっているんですかね?」


 本来は最初に打ち合わせておかなければならない事なんだが、今回は色々とあったので(主にジャンヌ達の事で)すっかり忘れていたのだった。まあ、とぼけられたなら誘拐犯は引き渡さずに、どこかに放流する事にでもするか……もう一度ゲイリーを狙うのならば、間接的に手伝ってもいいとさえ思っているのだが。


「その事なのだが、報酬と諸々の侘びも含めて、身代金としてかき集めたうちの50万Gと、サモンス侯爵家の紋章が入った金属板を渡そう。サンガ公爵家ほどではないが、我が家もそれなりの力を持った上級貴族の家柄だ。持っていれば何かに役立つこともあろう」


 俺は少しこの侯爵を舐めていたらしい。諸々の侘びも含めたと言う報酬を受け取るという事は、これまでこの街でゲイリーにされたことを許すことになり、受け取らなければ、侯爵の謝罪を無碍に断った器の小さな奴、というレッテルを貼られるだろう。そうなると今後、冒険者家業に支障が出るかもしれない。

 おそらくはそこまで考えての事だろう。さらに言えば、ここで俺と繋がりを持っておけば、何かあった場合にドラゴン(ソロモン)の存在を味方にすることも可能であろう。

 そこまで考えているかは別として、この報酬は受け取っておいたほうがいい。ただし、


「過分な報酬、ありがとうございます。これまでの事は、お互い水に流しましょう。しかしながら、御子息がまたソロモンを狙ったり、私の仲間に手を出すならば、こちらとしても何かしらの手を打たせていただきます」


 しっかりと釘は刺させてもらう。

 俺の言葉の意味を、侯爵はちゃんと理解しているようで、その顔に苦笑いを浮かべた。


「ああ、そうそう。忘れるところでした」


 と、やや大げさに演技をして、バッグから誘拐犯を全て出した。その数三十一人、結局見張りについていたのは俺に四人、侯爵に五人だった。

 流石に、これだけの数の誘拐犯を生け捕りにするとは思っていなかったらしく、侯爵と騎士達、それと残っていたギルド関係者は、面白いくらいに目を丸くしていた。


「こいつらの処罰は任せます。一応誘拐犯全員捕まえたつもりですが、もしかしたら何人か俺が把握しきれなかった仲間がいたかもしれません」


 そう言って驚いている侯爵達を尻目に、俺は部屋へと引き上げていった。

 

 部屋に帰ると……みんな寝ていました……当たり前だけど、シロウマルくらいは出迎えに来てもいいんじゃないか?と思うのはわがままなのでしょうか……

 まずは外で水浴びをする事にした。本当は風呂に入りたいけど、今入ったら寝る時間が無くなるような気がするので我慢した。

 件のシロウマルは俺の寝床を温めていました。まあ、俺が寝ようとしても、頑として布団の上から退きませんでしたけどね!

 とりあえずシロウマルは力尽くで退けて、眠りにつく事にした。


 朝起きると、ジャンヌとアウラはすでに起きており、アウラは台所に、ジャンヌはベッドに腰掛けていた。

 

「おはようございます。テンマ様」


「……おはようございます」


 アウラはともかく、ジャンヌはまだ完全に目が覚めていないのか、それとも、俺を主と認めていないのかは知らないが(恐らく両方)少しぶっきらぼうな挨拶だった。

 アウラの体調はかなり良くなったようで、台所で朝食を作っていた。


「朝食の準備がもうすぐ整いますので、テーブルでお待ちください」


 アウラに勧められてテーブルに着いたのだが、肝心な事を忘れていた。


「二人共、おはよう」


 俺の挨拶に二人は、おはようございます、ん、と言葉(前者がアウラで後者がジャンヌ)を返して来た。


「お待たせしました」


 そう言ってアウラが出したのは、残り物のシチューに、すりおろしたじゃがいもとコンソメ風のスープで味を整えたポタージュと、軽く炙ったパンにサラダであった。

 しかし、テーブルに置かれた量はどう見ても一人分しかない。その事をアウラに問うと、


「奴隷が、主人と食事を一緒にするわけにはいきません」


 との事だった。俺はアウラが背後に立ちながら、一人で食事をするのは嫌なので、最初は俺と同じように食事するように頼んでいたのだが、アウラは頑なに断るので、最終的には時間がもったいない上に、俺は貴族では無いので、できるだけ同じテーブルで同じ時に食事を食べるように命令した。

 そこまでして、ようやくアウラは折れてくれたので、少し待ってから三人で食事をすることにした。


 食事中に気が付いたのだが、二人は昨日と同じ汚れた服しか持っていないそうだ。

 その為二人の服や必要品を買いに行くことにしたのだが、あいにく俺はセイゲンのどこに女性用の品物があるのかさっぱりだった。

 なので、強力な助っ人を用意することにした。それはエイミィだ!……ていうより、この町の女性(女の子)の知り合いと言って最も身近なのが、エイミィだった訳なのだが……


 エイミィにその事をお願いに行くと、


「分かりました。私の知っている中で、安くて質のいいお店を紹介します!」


 と張り切っていた。ただ、エイミィには珍しい客がいた……リーナとメナスだ。

 なぜいるのか、と聞くと、今日は冒険は休みなので、いーちゃんとしーちゃんを愛でに来た、とリーナは言い、メナスはそのお守りだそうだ。

 リーナはメナスの言葉に怒っていたが、リーナは天然なところがある為、できるだけ一緒に出歩くようにしている、との事だった……何だか納得できるような答えであった。


 とにかく、二人も一緒についてくるそうなので、エイミィおすすめの店に行こうとしたら、


「テンマ……あんた、この子達の下着まで一緒に探すつもりかい?」


 とメナスに言われたので、お金だけ出して辞退しました……ちなみに、お金は五人の食事代なども込で五万Gも取られました……正直、女性の服などの相場は知らないが、明らかに多すぎだと思うのだが、


「女には男より金がかかるのさ!」


 とメナスに押し切られ、素直に渡してしまった。しかし、急に時間ができてしまったので、防具の作成に取り掛かろうと思い、ダンジョンの秘密基地へと足を運ぶことにした。


 まず取り掛かるのは手甲だ。材料にミスリルと銀のインゴット、そしてアナコンダの革だ。まずはアナコンダの革を、俺の手から肘のあたりまで覆うことが出来るくらいの大きさで切り取り、形を作っていく。

 手の部分はハーフフィンガーグローブのような形にして、仮縫いで大きさを決める。若干キツめかな、程度に調整して縫い合わせていく。腕の外側の部分には重ね縫いをしておき、その部分に手甲を付ける感じである。

 肝心の金属部分は、アダマンティンの手甲を参考にして、俺が使いやすいように全体的に小さくして、装飾部分は削る。手首の部分にはミスリルで楔帷子のような感じにする予定だ。


 実際に予定している形は、以前に鉄で試作品を作ってある。そちらも使う事が出来るのだが、サイズが俺の腕より小さくなってしまっている為、手直しをする必要がある。

 本来ならば、ミスリルの物を作り終えたら鋳潰す予定であったが、ジャンヌやアウラにはサイズが合うかも知れないので保留しておく。


 形としては受け流しがしやすいように、全体的に丸みを帯びており、手の甲の部分は指が動かしやすくする為、指の根元あたりまでミスリルで保護するようにして、腕の部分はいくつかのパーツを組み合わせて作るようにした。

 

 今日のところは片腕分のパーツを鍛えるまでいかなかったので、一旦中止をして、僅かに残った時間を銀の採集にあてる事にした。

 30分程の採集で、銀が2kg程取れたので固めてインゴットにしてバッグに保管して、何に使うかはいずれ考える事にする。 


 外に出ると、昼はとうの昔に過ぎており、現在は大体3時前くらいであろうか、そろそろジャンヌ達も戻ってきている頃なので部屋に向かうと、外でエイミィとリーナが待っていた。

 俺が帰ってくるのを待ち構えていたようで、その顔はニヤニヤしていた。


「テンマさん、入りま~す!」


 リーナの少し抜けたような声に合わせて、部屋のドアが開いた。

 エイミィに背中を押されるようにして、中に入るとそこには……


「……どちらさん?」


 見知らぬ美少女が……では無く、見違える程綺麗になったジャンヌとアウラがいた……ちなみに俺の発言には、制裁とばかりにエイミィによって、俺の脇腹へ肘打ちが食らわされた。

 それほどまでに二人は綺麗になっていたのだった……女性は化ける、と聞いた事があったが、決して口にはしなかった。

 二人共、荒れ気味だった髪を綺麗にした後、軽く切りそろえており、ジャンヌは背中の半ばまであった美しい白い髪を後ろで束ねて、花柄の四角いカメオのようなバレッタで留めている。服装は淡い水色のワンピースでスカートは前の部分が膝下あたりの長さだが、後ろはふくらはぎの辺りまであった。肩には白いショールをかけており、胸元で止めていた。

 アウラの方は、濃い金髪という感じの髪色にショートヘアであったが、真っ先に目に付くのは、


「メイド服?」

 

 その服装だ。それもコスプレ(この世界にそんモノがあるのかは知らないが)でよく見るようなモノでは無く、クラシックな感じのメイド服だ……まあ、エプロンなどにフリルが付いてはいるが……


「似合いませんか?」


 アウラはそう聞いてくるが、明らかに着慣れしている。


「いや、似合っているけど……仕事着じゃなくて、普段着を買ってきても良かったんだけど……」


 俺の呟きにアウラは、


「これが私にとっての普段着です!」 


 と胸を張った……Dくらいか?


「先生?」


 エイミィの言葉で、一瞬止まりかけた俺の意識が再稼働をする。皆俺の視線には気付いていないようだった……いや、メナスは気付いていたみたいだ。手で酒を煽るようなジェスチャーをしてくる……いいだろう、口止め料がわりに今度おごろう。

 アイコンタクトで交渉を済ませると、エイミィが恐る恐る、


「それで、預かったお金なんですけど……ごめんなさいっ!全部使っちゃいました!」


 両手を顔の前で合わせて、謝ってくるエイミィ。しかし、それは想定内の事だったので気にしないように言ったのだが、


「メナスさん達も買い物をしたので、少し足りませんでした」


 と俺に怒られなかった事による安堵の為か、ポロッと聞き捨てならない事をこぼした。


「今、何て言った?」


 言葉はエイミィに向けていっているが、体と目線はリーナとメナスに向いていた。

 目線を向けた先には窓から脱出をはかろうとする二人がいたので、


「ちょっと待とうか……」

 

 即座に後ろ襟を掴んで引き寄せた。二人を正座させていると、エイミィも自発的に正座しようとしたので押し止めて、バッグに入れてあったお菓子を渡して家に帰した。


「さて、二人共……何か言い訳があるのならば聞きましょう……」


 俺の言葉にリーナは、はいっ、と挙手をして、


「メナスさんに唆されました!」


 と、速攻で仲間(メナス)を売った。当然メナスは慌てだし、リーナの口を塞ごうとしたが、


「どうせテンマの奢りなんだから、余らすのはもったいない、と言ってました!」


 と、自分は悪くない、という感じだったので、メナスを見ると、


「……ほら、お駄賃って物があるじゃない……」


 との事だったので、しばらく痺れてもらう事になりました。

 その様子を見ながら、リーナはさりげなくドアへと向かっていたので、メナスと同じ目にあってもらいました。


 痺れている二人は邪魔だったので、メモに要件を書いた物をシロウマルに持たせてジン達を探してもらい、引き取ってもらう事にした。

 あの二人の事は放っておいて、俺はジャンヌ達にこれからの事を相談する事にした。

 要はダンジョンに潜るので戦えるか?という事だ。

 それに対しての二人の答えは、


「私は光・火・水・土魔法が使えて、武器は剣とメイスなら少し使えます」


「私は火・水魔法に、剣・槍・弓と最低限の格闘術です」


 前者がジャンヌ、後者がアウラだ。ジャンヌが魔法を使えるのは、初めて会った時に見たので知っているが、アウラも使えるのは驚いた。だが、話を聞くと二人の魔法の種類は多くなく、簡単な回復魔法は使えるが、効果の高い魔法や状態異常を回復させる魔法は、習う機会がなかったそうだ。


名前…ジャンヌ

年齢…14

種族…人族

称号…呪い子(聖女)・元子爵令嬢・奴隷


HP…1500

MP…7000


筋力…E+

防御力…D

速力…D+

魔力…B-

精神力…C+

成長力…A+

運…E+


スキル…光魔法4・水魔法3・忍耐3・異常効果耐性3・火魔法2・土魔法2・生命力増強2・回復力増強2・剣術2・棒術2・魔力増強2・成長力増強2


加護…愛の女神の加護・大地の女神の加護・生命の女神の加護


名前…アウラ

年齢…16

種族…人族

称号…メイド・奴隷


HP…3000

MP…5000


筋力…D+

防御力…D+

速力…C+

魔力…C+

精神力…B-

成長力…A

運…B-


スキル…料理8・忍耐5・弓術3・剣術3・槍術3・格闘術2・火魔法2・水魔法2


 二人の能力値は悪くはない。しかし、良いとも言えない。これから伸びるかどうかだが、気になるのはジャンヌの呪い子(聖女)だ。何故、女神の加護を三つも持っている彼女が、呪い子などという称号があるのか不思議である。

 こういう時こそ神達が助言してくれればいいのに……


 とりあえず、明日から色々とやらせてみるとするか。

 その前に装備を整える必要があるが、これは明日ダンジョンに行く前に買い揃えれば問題はないと思う……どうせ練習用の装備にするつもりだから、最低限の性能の物を選ぶことにしよう。

 その事を告げると二人の顔に緊張が走ったが、


「まあ、大丈夫だろう。明日は魔物のいない所で練習するだけだから」


 万が一の時は、俺が守るから安心しろ、と言うと緊張が大分解れたようだった。

 その後は早めの夕食の準備に取り掛かろうとしたのだが、


「それはメイドの役目です!」


 とアウラに仕事を取られてしまった……アウラの料理も美味しいからいいけど、これまでいつも(リリー達と組んだ時も)俺が料理を作っていたので、不思議な感じがした。

 出てきた料理は結構美味しかったです。


 夕食後、流石に今日は風呂に入りたかったので部屋の外に馬車を出して、馬車の中に樽をおいてお湯を入れた。

 樽を置いた辺りには、板の上をタイル張りにしたり、排水口を作ったりと工夫したので、床板が腐ったりする事はないと思う。 

 最初にジャンヌ達に入るように命令し、使い方を教えて石鹸とタオルを渡した……もちろん、覗きなんて真似はしませんよ!……ただ、女性の入浴を甘く見ていたのは迂闊だった……長すぎる……俺の番が来るまで、ゆうに1時間半以上かかりました……でも、お風呂は気持ちよかったです……


 明日は早くからダンジョンに行く予定なので、いつもより大分早く寝ることにした。 

 ちなみに、今日は同じサイズのベッドをもう一つ用意したので、床で眠ることはなく、二つのベッドの間には簡単な仕切り(上に縄を張って、布をカーテンのようにした)を作ったので、精神的な負担が減るだろう。



 目を開けると、また白い空間が広がっていた。


「またか……」


 三度目の今回は誰が来ているのだろうと思い、体を起こそうと手を着くと……


「あんっ」


 フニフニとした柔らかく弾力のある手応えと共に、艶かしい声が聞こえた。


「うわっ!」


 驚いて手を離すと、そこには愛の女神が寝ていた。


「テンマちゃんったら……大胆なんだから……」


 そんな事を言いながら抱きついてこようとしたので、女神の頭目掛けて、


「ていっ!」


 軽くチョップをおみまいした。

 女神は、あいたっ、とか言っていたが、全然そうは見えない。

 とりあえず要件を聞くと、


「あのジャンヌちゃんね、呪いは簡単に解くことが出来るわよ」


 との事だ。そもそもジャンヌの呪いとは、自身の成長を阻害したり、周囲の人の運を下げる効果があるらしく、ジャンヌは生まれつき呪いを持っていたが、それと同時に聖女の称号も持っていたため、被害は少なかったようだ。


「その方法は何なんだ?」


 俺の質問に女神はニヤニヤしながら、


「それは……テンマちゃんの体液を飲ませる事なの!」


 と何かを期待しているような言い方をしたが、


「つまり、血液でも効果があるんだな」


 と言うと、なんともつまらなそうな顔をしながら、


「その通りよ……つまんないの!」


 とふくれっ面になった。しかし、なんで俺の体液にそんな効果があるのかを聞くと、


「それはテンマちゃんが複数の神の加護持ちで、尚且つジャンヌちゃんと年が近くて、性別が違うからよ」


 という訳らしい。要は呪いとはマイナスの特性を持ち、神の加護はプラスの特性を持っている。

 その為、呪いとは反対の物を与えることで、マイナスを中和することが出来るそうだ。

 ただし、いくつか条件が有る。それは、呪いを受けている者と体の性別が違う事、年齢が近い事(大体±5歳程度が最も効果が高い)、体液を与える者が複数の神の加護持ちである事、であるそうだ。

 更に、一度だけでは呪いを消すことが出来ないので、何度も体液を与える必要があるそうだ。


 そもそも、呪いとはなんなのかを聞くと、この世界の魔力の淀みなどが原因で発生するものらしく、ジャンヌの年齢くらいまで生きながらえる者は、あまりいないらしい。 


 今回も強引に俺の夢に繋げたそうなので、後数分しかこの空間は持たないらしいので、最後の質問をする事にした。


「最近この空間を繋げる頻度が多くないか?」


 と聞くと、女神は笑いながら、


「創世神を死ぬ寸前までこき使って、強引に繋げているからね!」


 とにこやかに言っていた……哀れ、創世神……俺は初めてあいつに同情した……

 その後は何故か、この空間が消えるまで愛の女神に抱きつかれている事となった。

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― 新着の感想 ―
[一言] 助けて貰ったお礼もまともに言えない奴隷なんか、売り飛ばせばよいのでは?胸糞の悪い女ですね
[気になる点] 出てくる女がことごとくヘイト要員になってるのはわざとなのか? もはや男尊女卑レベル
2023/11/12 13:07 退会済み
管理
[気になる点] 「手首の部分にはミスリルで楔帷子のような感じにする予定だ。」 『楔帷子』は鎖帷子の誤字?
感想一覧
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