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第3章-9 賢いオーガと愚かな息子

 最近俺の知名度が急激に上がったようだ。理由は簡単で、ソロモンのせい(おかげ?)だ。


 過去に龍種がテイムされた例はかなり報告されている。しかし、そのほとんどが下級龍……その中でも、ワイバーンの報告が9割以上を占めている。残りは違う龍種だが、やはり下級種の龍だ。

 未確認であるなら中級種を、伝説上であるならば龍王と呼ばれた個体を従えた、などという記述もあるが定かではない。

 なお、ワイバーンはテイマーの憧れ、と言われており、ギルドの討伐ランクはBだが、その眷属化はAランクの魔物より難しい、とも言われ、その能力も並みのAランクを上回る。

 なのに何故Bランクになるかというと、討伐自体は強さの割に難しくないからだ。

 討伐方法は地上に餌を撒いておき、降りてきたワイバーンを攻撃するだけだ。ワイバーンは飛んでいてこそその能力を十全に発揮するのだが、地上に降りてしまうとその驚異は半分以下になるという。


 それでもテイマーが操れば、そういう隙は生まれづらいし、何より人を乗せて飛ぶことが出来るのはかなり魅力的だ。

 考えてもみて欲しい、ワイバーンのような戦闘力がある魔物が襲って来る上に、その背に魔法使いでも乗っていれば、一撃離脱の戦法を取ることができる。これは驚異を通り越して恐怖だ。

 また、成体は小さい物でも体長が3mを超えるのだが、その割に少食で経済的にもお得なのだ。

 俺もいつかは狙ってみようと思っていたが、ソロモンをテイムしたので、ワイバーンにはさほど魅力を感じなくなっていた。


 ちなみに、ソロモンは現在(・・)は下級龍の扱いだが、このまま成長していけば間違いなく中級以上の龍になるだろう。


 そんな訳で俺が、公式に中級龍を眷属化した初のテイマー、になるのはほぼ決定事項である


 なので目立っているのだ。そして、ソロモンは女性と子供に大人気であった。

 少し目を離すと、近くにいた人達に可愛がられている。そして、それを狙って誘拐しようとする輩も当然出てくるのだが、そんな輩はソロモンに焼かれ、シロウマルに噛まれ、周囲の人達に袋叩きにされていた。

 そして、ソロモンは飛ぶのに疲れるとシロウマルの背中に降りて、羽を休めるのだ。最近では俺の方にきて、肩車のようにして休むのもお気に入りのようだ。

 

 今日の予定はダンジョン攻略。これまで28階層まで攻略が進んでいる。これは通常4~5人パーティーが1~2年かけて到達するそうで、冒険者の中には、俺が不正をしていると疑っている奴もいるそうだ。なお、20階層からはフロアが極端に広くなるので、危険度も跳ね上がる。50階近くまでなると、その階自体の攻略に1年以上かけるのも珍しくはない。

 今日はダンジョンに潜る前にギルドに寄って、なにか依頼でもないか探してみるつもりだ。

 ちなみに、たまにではあるがエイミィからも依頼がある。内容は、イモムシの捕獲、だ。

 エイミィは元教え子ということで、手数料無しで1匹辺り10Gの格安で販売している。最も、依頼を受ける時は、俺がイモムシを食べたくなった時なので、ほとんどついでだ。


 そんな訳でギルドの近くに来たのだが、人だかりが出来ていた。その中心にいるのはオーガだ。その三mを超える巨体は、人々に囲まれていても頭一つどころか、胸の辺りから見えている。



 時間は少し遡り、サモンス侯爵親子はセイゲンの街中に入りギルドを目指していた。


「ゲイリー、わかっているとは思うが、今回は仕事でもあるのだから、貴族らしい行動を心がけるのだぞ」


 今回の侯爵一行の目的はダンジョン都市を視察し、魔物の対策と訓練、そしてできれば有能な冒険者を自分の領地に勧誘することだった。

 ただ、訓練と言っても、まさか百人単位で兵士を連れてくるわけにはいかないので、参加は新人のみ30名が強制で、他は希望者が20人程が参加の50人体制で行われる。

 しかし、50人全員を一遍に引き連れてくるのは色々と大変なので、先に侯爵親子と侯爵の眷属であるオーガ、そして新人五人、ベテラン五人で先にセイゲンに来て、宿屋の手配や街の有力者などに挨拶をしておこう、となったのだった。


「言われなくても心得ております」


 ゲイリーはすぐに返事を返してきたが、その言葉は明らかにわかっていない時のものだ、とカルロスは気付いていた。しかしながら、これでも貴族の端くれなのだから、それくらいはできるだろうと考えてしまった。


「今度はギルドに挨拶に行くぞ」


 いくつかの関係者の所を回って、次はギルドに行くことになった。

 しかし、ゲイリーにしてみれば、何故貴族の自分達が挨拶周りをするのかがわからず、苛立ちにも似た気分になっていた。貴族の自分達に挨拶にこさせるなど考えられない、とゲイリーは考えているが、このセイゲンは王族の直轄地であり、ある種の治外法権とも言えるものがある。それは、冒険者が多く、魔物が出るダンジョンがあるため、この都市では実力がものを言う。そして、この街の上に立つ者達は、本当の実力者が多いので、いかに貴族といえども軽く扱えるものではないのだ。その事をゲイリーは分かっていなかった。


 しかし、ギルドに近づくにつれて冒険者が増え、自分達に付き従うオーガに目を奪われる者が出てくると、ゲイリーの機嫌は良くなってきた。

 それは、あくまでもオーガに向けられているのに、ゲイリーにしてみたら、そのオーガの主人は自分の父親なので、自分もこのオーガの主人のような物だ、よってこの眼差しは自分に向けられているのも同然だ、と強引すぎる考えの下で自分の自尊心を満たしていた。

 ギルド前に着くと数人の兵士は宿を探しに走り、残りは先にギルドに入っていく、カルロスはゲイリーに、


「では、私はギルドに入るが、ゲイリーはどうするのだ?」


 と聞いた。その言葉にゲイリーが考えて出した答えが、


「父上、私はここでガリバーの事を見ています」


 ガリバーとはこのオーガの事だ。ゲイリーはガリバーが迷惑をかけないように見張っている、と言っているが、カルロスにはむしろゲイリーの方が心配だった。しかし、ここでその自尊心を満たしてくれていれば、しばらくは大人しくしてくれるだろうと思い了承した……その向こうから、オーガなど比較にならないくらいの存在(ドラゴン)が近づいてきているとは知らずに……


 テンマがギルドに近づいたのは、カルロスがギルドの中に入ってからしばらく経ってからだった。

 テンマにしてみても、生きているオーガを間近で見る機会はあまりないので興味が湧いてきた。

 そしてその人だかりに近づいた時、


「おい、ドラゴンが来たぞ!」


 人だかりの外側にいた一人が、テンマの頭に引っ付いているソロモンに気が付いてしまった。

 そうなると人々はオーガそっちのけでソロモンの所に集まってきて、あっという間にテンマは囲まれてしまった。

 人々はテンマの実力と、ソロモン達の実力を分かっているので、勝手に触ったりはしないが、ある程度の距離を取りテンマ達を囲んでソロモンを見ている。人々は一様に、普通なら一生見ることもかなわないようなドラゴン(ソロモン)に感動し、ソロモンをテイムしたテンマを褒め称えた。


 そうなると面白くないのはゲイリーだ。さっきまで自分(ガリバー)を褒め称えるような目で見ていたのに、ポッとでの得体の知れない子供に、その讃賞を横から攫われていったのだから。


 そんな自尊心の強いゲイリーがする事は一つだった。


「おいっ、そこのお前!」


「なんですか?」


 人々をかき分けテンマに声をかけたゲイリーは、


「そのドラゴンを私によこせ!」


 新しい自尊心(おもちゃ)を手に入れようとした、が……


「寝言は寝てから言え……失せろ、邪魔だ」


「ひぃぃ」


 テンマの殺気を受け、情けない声を出してへたり込むゲイリー。周囲からは、またか、と笑いが起こる。

 数秒の間、思考が止まっていたゲイリーだったが、我に返ると顔を真っ赤にして、


「貴族である俺を馬鹿にして、ただで済むと思うなよ!やれ、ガリバー!」


 あろう事か、オーガ(ガリバー)をけしかけようとしていた。だが、当のガリバーはどうしていいのか判断がつかないようだ。

 それに苛立ちを覚えたゲイリーが、


「何をしているんだ!俺が叩きのめせと言っているんだ!言う事を聞け!」


 怒鳴り声をあげて、再度命令を出す。ガリバーは渋々といった感じでテンマに近寄り、腕を振り上げるが、テンマのより強い殺気を受けて、腕を振り上げたままその動きを止めた。

 その時、ガリバーは一瞬で悟ったのだろう。もし腕を振り下ろせば自分は確実に死ぬ。それどころかゲイリーも殺されるし、最悪、建物の中にいる自分の主人も殺される。

 そう悟ってしまうと動くことができなかった。


「何をしている、ガリバー!早くそいつを殺すんだ!」


 遂にゲイリーは口に出してはいけない事を言ってしまった。この状況でそれを口にしては、殺されても文句は言えない。さらに、この状況を見ていた者は皆テンマを味方するだろう。そんな状況での一言だ。


 テンマは、ゆっくりとガリバーとの距離を詰める。ガリバーは詰められた分だけ後ろに下がる。

 一時はその繰り返しだったが、ガリバーは立っていた位置が悪かった。ガリバーの後ろにはギルドの壁があり、遂には後ろに下がる事ができなくなったのだ。

 しかし、ガリバーに相対しているテンマを後ろから狙う者がいた、ゲイリーだ。ゲイリーは後ろを向いているテンマに対し、剣を抜いて斬りかかってきた……だが、


「ふべらっ」


 テンマの裏拳で無残にも吹き飛んでしまった。その時になって、


「なんの騒ぎだ!」


 ギルドから二人の男が出てきた……カルロスとギルド長だ。

 カルロスが出てくると同時に、ガリバーは腰が抜けたかのようにへたり込んだ。


 ギルドから出てきたカルロスが見たものは、壁を背にへたり込む我が眷属(ガリバー)と、ガリバーの目の前で殺気を放っている少年と、その数m後ろに転がっている息子(ゲイリー)の姿だった。


 何が起こっていたのか分からないカルロスとギルド長。しかし、一人がギルド長に近づき耳打ちすると、


「おい、誰かあそこで転がっている奴を縛りあげろ!」


 と周囲にいた冒険者に向けて命令を出す。


「何を言っているんだ!」


 カルロスがギルド長に詰め寄るが、ギルド長は落ち着いた声で、


「そうしないと、あいつに殺されますよ」


 とテンマを指差し、ゲイリーがしたことをカルロスに伝えた。

 全てを聴き終わるとカルロスは顔を真っ青にして震えた。それは、我が息子がしでかした罪の重さ故だ。

 この場合テンマに一切の非はなく、ゲイリーには強盗未遂罪、殺人未遂罪、そして街中で眷属をけしかけた事によるペナルティが発生し、このまま死刑場に送られても文句が言えないものだった。貴族という肩書きが通用しないくらい、ゲイリーがした事は悪質と判断されたのだ。

 どうやってもゲイリーは助からないとカルロスが思った時、意外な人物から声が上がった。


「ギルド長。そいつ、釈放してもいいですよ」


 それは被害者であるテンマからだった。ギルド長が訳を聞くと、


「調子に乗った子供が暴れただけですよ。一度目は許してあげましょう」


 そのおどけたような言葉には、周りの者達から笑い声が聞こえた。


「本当にいいんだな」


 ギルド長は念を押すように確認してきてから、ゲイリーを解放するように言った。いかに悪質な行為でも、最大の被害者であるテンマが許した事で、ゲイリーの罪は街中で眷属を仕掛けようとした事に対してのペナルティのみであり、こちらも対して被害が出ていない事から、無罪放免とまではいかなくとも、ギルド長の裁量内で処罰を決定する事が出来る。

 その事でギルド長とカルロスが話し合っているのをテンマは無視して、ガリバーに近づいてしげしげと眺めだした。

 ガリバーの方は、今はテンマから殺気が出ていないので、先ほどの様に怯えてはいないが、それでも緊張している様だった。




 ギルド長が父親と思われる男と何か話し合っていたが、俺はあまり気にはしなかった。そんな些細な事よりも、俺は目の前のガリバーと呼ばれたオーガを見るのが楽しかったのだ。そんな俺に背後から声をかけてきた者がいた。


「少しいいかね」


 そう声をかけてきたのは、ゲイリーと呼ばれていた男の父親で、その顔色は先ほどよりも幾分良くなっていた。


「今回はうちのバカ息子が大変ご迷惑をおかけして申し訳ない。そして、その罪を許してくれた事に非常に感謝しています」


 と、とても丁寧な謝罪をしてきた。


「貴族とお聞きしましたけれど、お名前をうかがっても?」


 本当はこっそり鑑定を行ったので知っているが、本人の口からも聞いた方がいいだろう。


「あいつはそんな事まで……誠に申し訳ない!私はカルロス・フォン・サモンス。侯爵の位を陛下より頂いております」


「これは失礼しました。私はテンマと言います。Cランクの冒険者をやっている者です」


 挨拶を返すと侯爵は俺の名前を聞いて、目を丸くしていた。


「もしかして、サンガ公のおっしゃっていた、あの……」


 どうやら、サンガ公爵とは親しいようだ。話を聞いてみると、このサモンス侯爵はサンガ公爵の派閥に属しているようで、気心が知れた仲らしい。その関係で俺の話を聞いているそうだ。


 それから話題は眷属に移った。双方共通の知り合いがいたので、ある程度打ち解けた感じだ。しかも互いにテイマーでもある。

 まず最初に話題になるのはソロモンの事だ。侯爵もドラゴンを見るのは初めてだそうで、少し興奮気味だ。俺もガリバーに興味があったので、話を聞くと、


「ガリバーは10年程前に、怪我をして死にかけているのを見つけたんですよ」


 どうやら最初は危険だと思い、止めを刺そうとしたのだが、近づいてみると眷属にできそうなので試したら成功したので、慌てて治療をしたんだとか。

 それから護衛として近くに置く内に、普通のオーガより知能が高く、自分の言う事をよく聞く上に、すごくなついたそうだ。


 そんな感じで話が弾んでいると、


「うっ、あがっ、あぁ」


 なんて声とともにゲイリーが気が付いた。ゲイリーは俺を見るなり、


「へめぇ、ほれにほんあほとひて、ははへふむほほうぅうはひょ」


 何を言っているのかさっぱりだった。どうやら顎が外れているか、骨が折れているのだろう。

 勢いよくわめいていたゲイリーは、痛みでのたうち回っている。

 見ていてかわいそうになったので、ゲイリーに向かって回復魔法をかけることにした。


「アクアヒール」

 

 水属性の回復魔法だ。こちらは光魔法より回復は遅いが、その代わりに骨などに異常があってもある程度元の状態に治してくれる。光属性だと回復量は多いのだが骨折の場合、骨がずれた状態で引っ付いてしまうので注意が必要だ。


 だいぶ痛みが引いてきたのだろう、ゲイリーは再度俺を睨みながら、


「貴様!貴族(この俺)をこんな目に遭わせて、許されると思っているのか!」


 俺に詰め寄ろうとしたところで、


「この、大馬鹿者が!」


 侯爵の一撃がゲイリーの頭上に落ちた。


「本当に申し訳ない……この馬鹿には私の方から言い聞かせますので……」


 侯爵はゲイリーを無理やり立たせて、その頭を押さえつけて、無理矢理に頭を下げさせた。


「ええ、分かりました。では、私はこれで」


 そう言って、そそくさとダンジョンを目指した。さすがにあの状況で、ギルドに入る気はしなかったのだ。

 ダンジョンの方に体を向けると、いつの間にか退避していたシロウマルが、その背中にソロモンを乗せて横に並んできた。

 俺達は駆け足でダンジョンに入り、ワープゾーンから28階層へと飛んだ。




 その頃ギルド前では、


「父上!何故、あのような輩に頭を下げなければならないのです!奴は私に手を出したのですよ!」


 その言葉を聞いて、カルロスは大きなため息をついた。


「お前がここまで愚かだったとは思わなかった……」


 カルロスの言葉にゲイリーは激高して、


「何をふざけたことを行っているのですか!あの者は……」

「少し黙りなさい」


 有無を言わせぬ迫力で、カルロスはゲイリーの言葉を遮った。


「ここでは、貴族なんて肩書きはおまけのような物だ。ダンジョン都市では実力があれば、子供であろうと賞賛され、なければ王族であろうと笑われる。さらに今回の場合、お前に全ての咎がある。あの場で彼が許さなければ、お前は死罪を言い渡されてもおかしくはなかった」


 そして周囲をゆっくりと見回して、


「この街にいる限り、今後は後ろ指を指されて笑われるのを覚悟しているんだな」


 その言葉にゲイリーは慌てて周囲を見ると、皆がゲイリーを見てヒソヒソと話していた。

 さすがにそれには我慢がならないらしく、ゲイリーは大声を上げようとしたが、


「恥の上塗りはしてくれるなよ。まだ、自分を貴族と思っているのならば、な」


 とカルロスに止められていた。

 そのままカルロスは周囲に向かって詫びると、兵士と共に宿に向かっていった。

 ゲイリーもこの場に置き去りにされまいと、慌ててその後を追うのだった。



 そんな事になっているとは露知らず、俺達は快調なペースで攻略を進めていた。

 二十八階あたりでは出てくる魔物は、ハイオークにコボルト、スケルトンにホブゴブリンと群れを作る事が多い魔物が出現しやすかった。俺達はあえて魔法を使わずに連携の練習代わりにと、物理攻撃のみで敵を屠っていく。


 ソロモンには厳しいかと思っていたが、意外にもソロモンは活躍していた。主に魔物の上を飛び回り、鳴き声を上げたりして魔物の気を引き、出来た隙をシロウマルが蹴散らしていくといったものだ。

 そしてスケルトン相手には、その頭蓋骨を次々と掻っ攫い、投げ散らして相手を混乱させていた。

 ただ、スタミナは少ないので、飛びすぎると疲れて速度が落ちていた。その時に何度か攻撃を食らっていたが、子供でもさすがドラゴンなだけあって大した怪我はしていなかった。


 収穫物としてもハイオークはお肉、コボルトは毛皮、スケルトンは骨(肥料や装備品に使える)が魔石以外に取れるのだが、ホブゴブリンだけは魔石以外に使い道が無かった。ただ、何匹かは冒険者から奪ったらしいナイフなどを装備していたのでそれだけが救いだった。


 魔物の種類は二十九階層に降りても変わりがなかった。あるとすれば、スケルトンが若干増えたくらいか。

 なので適当な所で休憩を取ることにした。前と同じように行き止まりを見つけて、壁で塞いで即席の小部屋を作ることにした。

 小部屋ではハイオークを一体出し、解体して焼肉にしていく。しっかりと焼けたところで、シロウマル達にも分けてやり食事を開始していく、今日は珍しくスラリンも焼肉を欲しがっていたので、5等分に分けて皿に置いたのだが、


「シロウマル……ソロモンが真似をするから、もっとゆっくりと食べなさい!」 


 最近の悩みとして、ソロモンがシロウマルの食べ方を真似するのだ。野生では関係ないのかもしれないが、シロウマルは生まれた頃からの飼い狼(眷属)だろ、と言いたくなるくらい食べ方がすごいのだ。どうすごいかというと、まず基本的に数回噛んだら丸呑み、野菜は食べない、隙を見ては人の皿に顔を突っ込む、なのだ。今のところ、ソロモンは人の皿に顔を突っ込むくらいなので、なんとしてもしつけたい。

 そもそも、見習うならスラリンにして欲しい。最近のスラリンは、更に食べ方が上手くなり、遂にはナイフ、フォーク、スプーン、箸、と使い分ける様になったのだ。本当に使い分ける必要があるのかは疑問だが……


 そんな感じで食事は進み、いつものように食後の睡眠をとる事にした。

 ベッドを出して布団に潜ると、シロウマルは俺の足元に、スラリンは俺の頭の上に、ソロモンは布団の中の俺の横に、と洞窟で寝る時は、何故かそれぞれに指定の位置があるのだ……部屋で寝るときは好きな所で寝ているのに……


 そのまま一時間程軽く睡眠をとると、かなりスッキリとして気分がよかった。

 さすがに今回は横穴などは見つからなかったが、その代わりに壁を壊すと、すぐ近くにいた十数体のハイオークの群れが出迎えてくれた。仲間の焼かれる匂いに釣られて集まっていた様だ。


 寝起きで面倒だったので連携も関係なしに、アダマンティンの剣を取り出して、片っ端から真っ二つにしていきました……今日はお肉が大量です!

 ちなみにコボルトのお肉は、筋が多い上に煮込んでも臭みが出るだけなので、非常時でない限りは食べたくない物なのです。

 このハイオーク達は、珍しくお揃いの武器を持っていた……剣だ。だがサビがひどく、所々欠けて切れ味など無いに等しい。それでも一応拾っておいて、バッグにしまっていく。

 その後は下の階に行くまで、特に魔物と出会うことが無かった。


 しかし、30階層になると空気が一変した。

 なんというか、空気が清々しいのだ。ダンジョン内でその表現はおかしいと思うが、実際にこれまでみたいに空気が澱んでいない。

 階段を降りて突き当たりを曲がると、地面が水で濡れていた。どうやらどこかで水が湧き出ているようだ。壁には植物なんかも生えている。


 しかし、地面が濡れているのは厄介だった。歩くたびに、パシャ、パシャと音が鳴るのだ。それに場所によっては滑りやすくなっている。

 俺はいつも以上に慎重に進んで行くが、こういう時に限って、次から次に魔物に遭遇するのだった。


 ハイゴブリンにハイオーク、コボルトにスライム、そして何よりも厄介なのは虫型の魔物だった。

 あいつらは這う様にして(虫だから当たり前なのだが)近づいてくる上に、足音をほとんど立てないのだ。

 シロウマルが危うく蜘蛛型の魔物に噛み付かれるところだったが、軽やかなバックステップで攻撃をかわし、逆に噛み殺してしまった……後でシロウマルの口を洗っておこう。


 しかし、悪い事ばかりでも無かった。虫達のおかげで、この階の攻略法が見つかったのだ!気付いてみたら単純だった。宙に浮かべばいいのだ!

 俺は浮遊の魔法で、地面から十cm程浮かび、ゆっくりと前進していく。これは横から襲いかかってきたGに似た魔物に驚いて、咄嗟に飛んで避けたのがキッカケとなった。もちろんGは魔法で始末した……一匹見たら三十はいると思え、とか思い出したが、このGには当てはまらないのか、それからは全く見かけていない。

  

 蜘蛛にイモムシ、ムカデにカマキリと、奥に進むほどに虫型が増えていき、それにつれてゴブリン達を見なくなっていった。

 たまに見かけても、虫達に食べられていたり、既に骨になっていたりした。

 一時間ほどで階段を見つけたので降りようとしたが、階段に足を踏み入れると、これまで見たモノの倍以上の大きさのムカデが這い出てきた。


 牽制のため、ハイオークの持っていた錆びた剣をムカデの頭目掛けて投げつけたのだが、


「ギィィー!ギチギチギチ」


 ムカデは特にダメージを受けた様子は見られなかった。頭に命中した剣は、はじかれた上に折れていた。 


 今の一撃に怒ったのか、ムカデはうねうねと体を揺すりながら、俺目掛けて突進してきた。

 俺はカウンター気味にファイアーバレットをムカデに放ったが、信じられないことにファイアーバレットはムカデの頭の甲にそらされて、後方に受け流されてしまった。


 そのことに気を取られ、一瞬だが回避が遅れてしまった。

 慌ててムカデを飛び越えようとしたが、ムカデの牙が俺の右足にかすり、弾き飛ばされてしまった。

 俺は弾き飛ばされた勢いのままに壁に激突してしまい、目の焦点が合わなくなっていた。


 その隙をムカデは見逃さずに、俺に止めを刺そうと飛びかかってきた。俺は勘だけで斬り伏せようと、バッグから小烏丸を取り出し構えたが、


「キュイィィー」


 とソロモンがムカデ目掛けて火を吐き出した。ムカデにとっては大したダメージでは無いようだが、火が顔に命中した為にムカデはその動きを止めていた。

 その隙を逃さずに、一筋の白銀の矢がムカデ目掛けて突き刺さり、その頭を落とす。

 その矢はそのままの勢いで壁に張り付くと、今度はムカデの胴体目掛けて、もう一度その体を矢と化した。

 二度目の矢はムカデの胴体を断ち切り、ムカデの体は未だに動いているものの、その驚異は無くなった。


「くそっ!油断した。ありがとうシロウマル、ソロモン、おかげで助かった!」


 シロウマルとソロモンの頭を撫でてやると、二匹は気持ちよさそうに目を細めた。


「しかし、でかいなこいつ……しかも、結構強い毒を持っていやがる……念のため解毒しておくか」


 俺は自分の足に解毒の魔法『アンチドート』を使った。使ってすぐに、僅かに感じていたしびれが消えていった。


「この毒……俺に効くってことは、異常耐性を持っていない奴は、すぐに解毒しないと命に関わるな……」


 そう呟きながら、ようやく動きを止めたムカデを見つめた。

 その全長は四mを超えるだろう。横幅は五十cmで厚さが二十cm弱くらいか……

 切り落とされた頭を拾うと、その口には十cm近い牙が生えていた。


 どう考えても食べられそうにないが、ムカデの甲はかなりの硬さを持っている上に魔法への耐性も持っていそうだ。これを持ち帰らない手はない。

 バッグに放り込んで再度階段を降りると、階段脇にワープゾーンを見つける事ができた。

 少し迷ったが、今日のところは引き上げて、バッグの中身の整理でもする事にした。


 ダンジョンから出て部屋に向かう途中で、エイミィが見知らぬ男達に囲まれているのを見つけたので、急いで近づき、エイミィと男達の間に割り込む事に成功した。


「この子になんの用だ!」


 俺は男達に向かって問いながら、いつでも撃退できる様に体勢を整えるのだった。

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