第3章-8 テスト
ご意見ご感想ありがとうございます。
ご感想の中に、ソロモンは、青眼の白龍みたいなものか?という質問がありましたので、この場でお答えします。
まず、見た目ですが青眼は意識しておらず、大きさは60cm程の西洋竜の子供で、かわいい系の龍です。
技も破壊系の攻撃ばかりでなく、他の魔法も使う予定です。
これからもよろしくお願いします。
ここは、セイゲンよりだいぶ離れた山沿いの街道である。
この道を行くのは馬車が1台と、その周りを護衛するように馬で移動している騎士達だ。
その時、一行の前方より1頭の馬が走って来た。その背には一人の騎士が乗っている。護衛についていた騎士の一人が、その騎士を自分の隣に並ぶように指示を出した。どうやら前方より来た騎士は、偵察にでも出ていたのだろう。その騎士が交代でもないのに戻ってきたということは、この先で何かがあったということだ。
その騎士から報告を受けた騎士……エドガーは、馬車に近づき、
「マーリン様、この先でオーガを連れた一団と、二十程のオークの群れが戦っているようです。いかがいたしますか?」
エドガーは馬車の中にいるマーリンにそう報告をして、指示を待つ。
この一行の隊長はエドガーで、マーリンは護衛対象なのだが、実力、経験ともに上回るこの賢者に判断をしてもらうほうが最良の結果が出ると考えて、あえて指示を仰ぐのだった。
「決まっておる。直進じゃ!オーガがいれば負けることは無いとは思うが、万が一ということもある!」
その言葉を受けて、エドガーは道案内として、今戻ってきた騎士を先頭にたたせる。
「全員、速度を上げるぞ!」
「「「「応!」」」」
全員が間髪入れずに声をあげた。ただし、速度を上げるといっても、道が完全に整備されているわけではないので、どうしても馬車の速度はあまり上がらない。
なのでこの場合は、無理をせずに出来るだけ早く行くぞ!ただし、馬車を引き離さない程度にだ!……といったところだ。
オーガが戦っているのは、報告を受けた所からまっすぐ2km程だ。
マーリン達がその場所に着いたのは、速度を上げてから8分ちょっとかかった。
着いた当初はオーク達は半数以下に減っていたのだが、そのすぐ後に近くの森から、新たに十匹程が現れていた。
騎士達は、そのオークに向かっていこうとしたが、
「エアブリット!」
100m程先のオーク達に向かって、マーリンの魔法が連続で放たれた。
援軍に来たオーク達は、マーリンの魔法によって壊滅状態となり、援軍としての驚異がなくなってしまった。
それを見たエドガーは、
「あの一団の援護に向かいなさい!間違ってもオーガには近づかないように!」
あのオーガは敵では無いようだ。その証拠にオーガが守っている馬車には、貴族の紋章が刻まれている。しかし、本当に貴族なのかは今のところ不明なため、オーガから離れているオークを狙い、こちらは味方である、と示す事にした。
それからの戦いは、一方的なものとなった。元々、オークは単体ではさほど強くはない上に、あのオーガが効率よくオークにダメージを与えている。もし、あのオーガが馬車の事を気にせずに戦ったなら、オーク達は自分達が到着する前に全滅していたはずだ。現にあちら側に負傷したものは見当たらない。
そのことからも、あのオーガが一定以上の知能を持ち、連携を取ることが出来るのがわかる。
それからすぐに戦闘は終わり、後には三十数匹のオークの死骸だけが横たわっていた。
念のため騎士達は周辺を見回り、他にオークがいないことを確かめに行った。
この場には、マーリンとマーク、エドガーとクリスと騎士が一名、そして向こうはオーガと五人ほどが外に出ており、馬車の中の数人が残った。
オーガは幾分警戒をしているが、こちらに危害を加えるつもりは無いようで、馬車の近くまで下がっていった。
オーガが馬車に近づくと、馬車の扉が開き、中から男と少年が現れた。恐らく親子であろう。
男の方は優しげな顔立ちをしているが、こちらを油断のない目で見ている。少年の方は16~7くらいの年齢で少々生意気そうだ。
「助力感謝する。私は、カルロス・フォン・サモンス侯爵である。貴公達の主はどなたか?」
侯爵を名乗る男に対し、エドガーが、
「私は、王の近衛隊に所属している、エドガー・ヴァン・バレンタインです。現在は王の命令で、賢者マーリン様の護衛をしております!」
その名が出ると同時に、馬車からマーリンが姿を現した。
その姿を見るなりカルロスは、
「おおっ、あなた様がかのご高名なマーリン様ですか!お噂は予々……しかし、何故このような所に……」
その質問にはマーリンが、
「なに、グンジョー市まで用事でな……早く着こうと思い、この道を通っておったのじゃよ」
この侯爵はマーリンを尊敬しているのか、随分と丁寧な言葉と仕草で接してきている。しかし、その後ろにいた少年は面白くなさそうな顔をしていた。この少年は、貴族にありがちな偏ったプライドの持ち主なのだろう。それに、マーリンの事をよく知らないのか興味なさげだ。
その態度に気づいたマーリンが、
「ほっほっ、サモンス侯爵。すまぬがワシたちは少し急いでおるでな、ここらで失礼するよ……しかし、あのオーガは見事じゃの。強さよりもその賢さと忠誠心に目が惹かれる……お主は腕のいいテイマーのようじゃの」
侯爵はマーリンにそう褒められて嬉しくなったが、マーリンが自分の後ろにいる息子に気をきかせたのが分かってしまって、嬉しいやら恥ずかしいやらで複雑な顔になってしまった。
マーリンはそのことに触れずに、自分達の馬車へと戻っていった。
エドガー達も一礼をし、再び馬車の敬語に戻り、出発を始めた。
目指すはグンジョー市の中継になる村だ。ここはテンマがジェイマンと別れた村でもある。
「それ、行くぞ!まずは途中の村を目指すぞ!」
こうしてマーリン達の馬車は、その村を目指して動き出した。
マーリン達がいなくなった後、侯爵は自分の息子に、いかにマーリンが有名で実力者かを説教をしながら教え込むのだった。
この日の俺は、少し考え事をしていた。その考え事とはエイミィのことである。
今のところ、エイミィは俺の言う事をちゃんと聞いている。魔力の方も順調に増えており、同年代と比べても、天才とまでは行かないまでも、秀才と呼べるほどには上達している。
それらの事を含めると、エイミィに雛達を眷属化させてもいいのでは、と考え始めたのだ。
しかしながら、俺が自覚出来ている欠点の一つに、同年代の友人の少なさ、が挙げられる。まあ、同世代以外でも、友人は少ないのだが……そのせいで、イマイチエイミィの実力が測りきれていないのだ。
テイムするならば、早いに越した事はないと思う。だが、実際に制御できるかは判断がつかない。
そのせいで、ズルズルと雛達の話を避けてきた、という事を自分でも自覚していた。
「分からないものを考えていても仕方がないか……」
なのでテンマは知り合いに意見を尋ねることにした。
<知り合いその1、ジン>
「そんなもん答えが出るわけがねぇ!なるようにしかならないなら、その雛をあげて様子を見るしかねえだろ」
<知り合いその2、ガラット>
「俺に聞かれてもなぁ……結局はその子次第だろ?そんな先のことまで、お前が責任を持つことも無いと思うがな…」
<知り合いその3、メナス>
「難しい問題だね……でも、最終的には、テンマがどこまでエイミィを信頼するか、だと思うけどね」
<知り合いその4、リーナ>
「眷属にさせてもいいんじゃないですか?真面目にやっているなら、ご褒美で先払いという形にして眷属にさせて、責任感を育てさせるのも大事かと思います。それに、いくら考えても比較対象がテンマさんしかいないなら、あの子は一生眷属を持つ事が出来ないかもしれません」
知り合いその5、エイミィの家族
「うちの子の事で、テンマさんがそこまで責任を持つ必要はありませんよ。切っ掛けは何にせよ、テンマさんに教わるのを決めたのはエイミィ自身です。エイミィにあのような才能があった事は驚きましたが、最終的には眷属の責任はテイマー自身が取らないといけません。それに、なにかあったら私達家族が、エイミィの力になればいいだけですから」
「そうですよ。エイミィ自身が望んだ事には、どこまで行っても責任はエイミィにあります。それに、腕のいい魔法使いにただで教えてもらっているのに、責任を取れ、とまでは言えるわけがありません」
「まあ、本来は父親の俺が教えなければならなかったんだ。なのに責任まで取れとは言えねえさ」
順に、カリナさん、アリエさん、リックだ。
みんなの意見を聞いて俺は翌日、エイミィをテストすることにした。
「エイミィ、これから1時間以内に桶に入った水を、となりの桶に移すんだ」
エイミィにテストをする理由を話し、その上でテスト内容を告げた。
エイミィは張り切っていたが、同時にかなりの不安を抱えているようだ。なにせエイミィは、これまで何度やってもこの訓練を成功させたことが無かった。だが、
「それと、今日でエイミィの練習に付き合うのはやめようと思う……なので、テストは今日が最初で最後だ!どこまでやれるかを見せてくれ」
その言葉にエイミィは、チャンスは一度しかない、と気合を入れ直したようだ。
「では、始め!」
その合図で、エイミィが桶の水に向けて魔力を流す。エイミィから少し離れた所では、カリナさん達が見守っている。しかし、いくらやっても水柱までしかできない。
開始から10分が経った頃、ジン達が近くを通りかかり、こちらに気づいて近づいてきた。何をしているのか、と聞いてくるので、これまでの経緯を話し、テストをしていると教える。
そして俺は、少し用事を思いついたので、
「ジン、悪いんだが、俺に代わってエイミィを見ていてくれ。俺は少し席を外すから……いいか、くれぐれも余計なことはするなよ」
俺は念を押して、その場を走り去った。目的の所までは少し距離があるので、魔力で身体能力をあげて全力で走る。恐らく前世だったら、短距離の世界新を軽く更新しているだろう。
目的地に着き、すぐに用事を済ませて戻ると、あれから20分程が経っていた。テスト開始から30分くらいだが、未だにエイミィはとなりの桶に水を移せていない。
いい加減焦りが出てきたのだろう、水柱の精度も落ちてきているようだ。
それでも時間は過ぎていく。エイミィは水を移そうとする気持ちが強すぎるのと、時間がないことの焦りから遂には水柱すら出来なくなってしまった。
そして無常にも、
「そこまで!テスト終了だ!」
時間が来てしまった。
その言葉を聞いて、エイミィは崩れ落ちる。魔力を使い果たしたわけではなく、ただ気が抜けてしまったのだろう。しかし、次第にその目には涙が溢れていく。
そんなエイミィを見て、皆はなんとも言えない表情をしている。
しかし、俺はエイミィに対して、
「じゃあ、次に眷属化の仕方を教えるよ」
と言った。その瞬間にエイミィを除く皆は、
「「「「「はぁ~~~~!」」」」」
揃ってそんな声を出した。エイミィは涙と鼻水で顔を汚しながら、訳が分からない、と言った表情でこちらを見ていた。
「いや、だって俺、出来なかったら失格とは言ってないし」
そんな事を言うと、ジンが詰め寄ってきて、
「普通は、「テストをする」とか言ったら合格か不合格かだろうが!」
「俺は、「どこまでやれるか見せてくれ」とは言ったけど、「出来なかったらロックバードはあげない」とは一言も言ってないぞ」
と、そんな事をシレっと言ってやった。
ちなみにジンは俺の襟元を揺さぶってきたので、腕を捻りつつ背後を取って、チキンウイングフェイスロックを決めようとしたが、手が届かなかったのでフェイスロックだけにしておいた。
適当なところでジンを解放し、エイミィに話しかける。
「まずは眷属にする魔物と目を合わせて……」
「ちょ、ちょっと待ってください!私できなかったんですよ!」
とエイミィが言葉を遮ってきたので、先にテストの意味を教えることにした。
「まずテストだけどね。これはこうしたら簡単だったんだよ」
と言って水の入った桶を持ち、となりの桶に水を注いだ。この答えにエイミィは、
「は、へ」
なんとも面白い声を出していた。
「俺は魔力で、なんて一言も言ってないよね。確かに屁理屈ではあるけど、これだけは知っていて欲しい。魔法は決して万能ではない、ということを。今回の場合こうした方が早く済み、労力もかからない」
「そんなのずるいですよ!」
エイミィは声を荒げるが、俺は気にせずに、
「そうだよ、ずるいよ。でもね、そんな考えをしていると、冒険者になった時に簡単に死ぬよ。魔法使いは魔法に頼りきっている奴ほど、魔法で解決できない事に直面すると脆いんだよ」
その言葉には、リックと暁の剣の面々が頷いていた。
「魔法で出来ないことなら、他の出来る方法を考えるという事を知って欲しかったから、こんな事をしたんだ……ごめんね、エイミィ」
そう謝ったところで、
「それじゃあ、改めて眷属化の方法を教えるよ」
俺の切り替えの速さに、皆は呆れ顔だった。
眷属化は簡単に言って、
1、魔物の目を見て、魔物と繋がるような感覚があることを確かめる。
2、魔物に魔力を流してみて、魔物から魔力が返ってくるのを確認する。
3、成功したら魔物に名前を付ける。
こうすることで眷属にすることができる。結構単純だが、テイムの才能が無いと繋がりを感じることはできない。これは悪い言い方をすると一種の奴隷契約で、魔力を与えるのは、自分の事を魔物の魂に刻み付けるため、名前を与えるというのは、魔物を自分のものにする、という呪いみたいなものである……と獣神が言っていた。
ただし、その魔物と相性が悪かったり、魔物が自分を認めなかった時は、その魔物に襲われるので注意が必要なのだ。
まあ、これからエイミィが挑戦するロックバードは二羽いるとは言え、雛だし相性は悪くなさそうだし、何より目が開く前から世話をさせている。これで失敗でもしたらエイミィに才能が無い、としか言い様がない。
早速エイミィは雛を相手に眷属化を進めていく。
「……ふお、ほおおお、テ、テンマさん出来ました。眷属に出来ました」
エイミィは不思議な声を出した後、成功した、と報告してきた。確かに雛達はより一層、エイミィになついているみたいだ。
「良かったなエイミィ。早速名前をつけてやらないと」
そう言うとエイミィは元気よく、
「はいっ!もう決めています。男の子が『いーちゃん』で女の子が『しーちゃん』です!」
なんとも言っていいのか分からないセンスだ。二羽合わせて『いし(=ロック)』だなんて……まあ、俺のスラリンも似たようなものか……
「じゃあ、これを付けてやるといい」
そう言って渡したのは、小さな札をチェーンに通して作った首輪のような物だ。
これはギルドに訳を話して用意してもらったもので、テイム済みを証明するものだ。これを無視して殺したりすると、かなり重い罰則(ひどい時は奴隷落ち)がかせられる。
これを用意し忘れていたので、先程走ってギルドまで行ったのだ。
「ありがとうございます。この子達は大事に育てます!」
エイミィは早速首輪をかけてやりながらそう言った。
「まず、エイミィがしないといけないことは、餌の確保だね。野菜くずなんかでもいいけど、一番いいのは前にあげたイモムシやミミズだろうね。ああ、それと魔力の訓練は休まずに続けるんだよ」
その言葉の前半部分を聞いたエイミィは、一瞬動きを止めて、
「が、頑張ります……」
そう宣言した。
なんにせよこれで一段落付くことができた。餌に関してはリックがいるし大丈夫だろう。ああ見えてリックはBランクの冒険者だ。イモムシやミミズくらいなら、油断しなければ簡単に捕まえてくるだろう。
俺もたまにはイモムシ料理が食べたいので、気が向いた時には多めに取ってきてもいいだろう。
そんな事を考えながら、生まれて初めての教師役は終わったのだった。
その数日後、朝早くからセイゲンの入口は異様な緊張感が漂っていた。
一台の馬車のそばにオーガがいるのが見えたのだ。どうやらテイムされてはいるようだが、オーガといえばBランク相当の魔物だ。そしてこの場に集まっているのは、昨日の夕方までにセイゲンに入れなかった者達で、そのほとんどが商人や一般の旅人だ。
そんな彼らからしたら、オーガという魔物は驚異にほかならない。
しかし、そんな彼らの心配を余所に、当のオーガは大人しいものだった……いや、大人しいというよりも、騎士のように落ち着いていた。馬車の横に立ち、決して離れる事なく護衛をしている。
その姿に周りの人々は感嘆の声をあげる。それを聞いて、自分が褒められているかのように胸を張る少年がいた。
彼の名は、ゲイリー・フォン・サモンス、カルロス・フォン・サモンス侯爵の次男で年齢は17、現在は王都の高等学校に通っている学生である。丁度、長期休暇に入ったので、父親の公務(セイゲンの視察)についてきたのだ。
ちなみに彼にはテイマーの才能がない。しかし、このオーガは知能が高いので、この少年を主の息子と認識しており、ある程度の言う事は聞いていた。
その為少年は、オーガに向けられる褒め言葉が、自分を褒め称えるものだと勘違いしているのであった。
「父上、門番に我々が貴族だと伝えて、今すぐに中に入らせるように言いましょう」
そんなゲイリーの言葉にカルロスは、
「それはできない。貴族だからといって、そんな横紙破りな事をしていては、いつか自分自身に返ってくることになる。そして我々は貴族だからこそ自らを律し、民の模範にならなければならぬのだ。それに後三十分もすれば門は開く、そして貴族専用の通路から優先的に中に入ることが出来るのだ。それでいいではないか」
カルロスはそう諭すように息子に言い聞かせた。しかし、ゲイリーの顔は明らかに不満そうだ。
これを見たカルロスは、
(ふうっ、私はゲイリーの育て方を間違ったのかもしれないな……なまじ、上が期待通りの育ち方をしたので、下の時に甘くなってしまったのかもな)
と自分の育て方に後悔をするのだった。そしてその後悔は、このセイゲンで現実のものになるのだった。
テンマが屁理屈をこねました。
これは、エイミィが魔法を過信しないようにした結果です。
マーリンがテンマと出会うのは、まだ先になりそうです。今のところはすれ違いが続いております。
新キャラ投入で、新たな騒動を起こそうと思っています。