表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
50/318

第3章-5 刷り込み

作中にものすごく違和感のある場所がありますが、あまり気にしないでください。

本日、投稿2回目

 目覚めた俺は、夢でアドバイスを受けた通りに卵に魔力を与えようとしたが、


「どうすりゃいいんだ?」


 肝心なことを聞き忘れ、しょっぱなから躓いていた。

 取り敢えず魔法を付与する時の感覚で魔力を流してみると、


「おっ、動いた!」


 これでよかったのかは分からないが、取り敢えずこの方法で続けてみようと思う。


 ダンジョンに潜り始めたばかりだが、一時の間は潜るのをやめて、卵に魔力をあげ続けてみようと思い、布の袋を改造してリュックサックのような感じにして背負い、そこに卵を入れる。


 本日の予定はお菓子作りの材料集めだ。

 バッグの中にまだ材料は残っていたが、心もとないのでこの機会に買い集めるようにしたのだ。


 近くの雑貨屋ではあまり品揃えが良くなかったので、道行く人に訪ねて近くの大きな商会の場所を教えてもらった。


 その商会の名前はジェイ商会と書かれていた。なんとなく一人の人物を連想させるが、気にしないで中に入ってみた。


「いらっしゃいませ。何かご入り用でしょうか?」


 対応に来た従業員にお菓子作りに使う材料と、使えそうなものの場所を教えてもらい選んでいく。

 ある程度揃ったところで、香料のところを覗いてみると、あるものを見つけた。


「あの、これはなんですか?」


 俺が指差しているのは、枯れた木の枝のようなもの、だった。

 従業員は、


「ああ、これは、バニラの枝、ですね。用途はお酒に入れたりして香りを付けるものです」


 そう言って蓋を開けて匂いを嗅がせてくれたが、まんまバニラ・ビーンズだった。


「これもください」


 と店頭にあるだけ買っていく。

 前世のモノより香りが弱かったが、久々のバニラの香りにアイスが食べたくなってしまった。

 なので、アイス作りの為の道具や材料も追加で買うことにした。


 部屋に戻ってから、バニラの枝をちぎって温めた牛乳の中に漬け込んでおいた。

 他には、バッグに残っていたロックバードの卵を取り出して、黄身と白身に分けておく。


 卵はまだ少しあったので、二つほど取り出して背中の卵と同じように魔力を与えてみた。その後、卵はスラリンに温めてもらう事にした……スライムに温めてもらうとか、バカみたいに聞こえるが、火魔法を覚えたスラリンは、自身に魔法をかけて体を暖かくすることができるようになり、いわば湯たんぽ状態とも言えるほどの暖かさを出すことが出来るのだ。ちなみに、温度は俺の体温と同じくらいに設定させた。鶏なんかだと温度が低いのだが、前にロックバードを狩った時の体温がそれくらいだったので、実験だし別にいいか、と軽い気持ちで考えたのだ。

 後は、たまに魔力を注いで卵をひっくり返すだけで、ほとんどがスラリン任せだ。

 ロックバードには風属性の魔力を、背中の卵には無属性と光属性の魔力を交互に注いでいる。


 そろそろバニラの香りが牛乳に移る頃なので、牛乳からバニラの枝を取り出して調理を開始する。


 まず卵黄に砂糖、バニラ入りの牛乳、溶かしたバターを混ぜ合わせる。全体的にドロドロっとしてきたら、小麦粉をふるいながら入れてさらに混ぜる。

 次に卵白を泡立て、メレンゲを作る。角が立つくらいまで硬くなったら、先程作ったものと混ぜていく。

 この時にメレンゲが潰れすぎないように気をつけて、型に流す。 

 型は金属製のコップで代用し、内側にバターを塗って、生地を流し込んだら空気抜きをして焼くだけだ!


 ただし、ここにはオーブンがないので、旅の途中で自作したピザ窯を使う。

 ピザ窯の内部を魔法で十分に熱したら、生地を流し込んだコップを入れるだけだ。

 後は20分程焼くだけだ。


 その間に次に取り掛かる。

 卵白に砂糖を入れてメレンゲを作る。

 次に牛乳にはちみつを加えて溶かし、小麦粉と重曹をふるい入れる。

 それらを混ぜ合わせたら、最初に作ったメレンゲと混ぜる。この時もメレンゲが潰れないように気をつけておく。

 後は金属製の四角い箱にバターを塗って、生地を流し込んで空気抜きをすれば準備完了だ。


 そろそろ最初のお菓子が焼きあがるので、取り出して串を刺してみると、


「よし、生地もちゃんと焼けているな」


 念のため中のコップの位置を変えて2分程焼く、窯から取り出したら少し冷ましてバッグにしまった。


 もう一度窯の中を熱して、今度は四角の型を入れた。

 今度は30分ほど場所入れ替えながら焼いていく。こちらもできたものは少し冷ましてからバッグに入れた。


 その時、背中で卵が動いた気がした。慌てて見てみるがまだ生まれる感じでは無い。

 しかし、よく動くようになってきているので、もうすぐ孵化するのだろう。


 なんとなく外に出てみると、


「あっ」


 こちらを覗いていたエイミィと目があった。


「ごめんなさい!何かいい匂いがしていたから……」


 外に出て気づいたのだが、確かに俺の部屋からは甘い匂いが漂っていた。

 なので俺はバッグに分けて入れておいた、自分用(シロウマル兼用)のお菓子をエイミィに分けてあげることにした。

 部屋に上がってもらい、お菓子の準備をしていると、


「テンマさん!卵がーー!」


 その言葉にベッドの上を覗いてみると……なんと、ロックバードの卵が孵化していた。


「はやっ!ついさっき温め始めたばかりだぞ!」


 驚愕の早さだったが、目の前に二羽の雛がいるのだから驚いてばかりいても仕方がない。


「取り敢えず殻をどけて寝床を作らないと……」


 雛の大きさは20cmないくらいなので、とりあえすバッグの中にあった50cmくらいの箱に布切れを敷き詰めて寝床にした。


「あっ、そうだエイミィ。この子達を見ていて何か感じることはある?」


「はい!とっても可愛いです!」


 質問の仕方が間違っていたようだ。気を取り直して、


「そうじゃなくて、何か魔力の繋がりみたいなものは感じない?」


 その質問には首をかしげていたが、


「何か二羽から温かいものを感じる気がします……」


 と言っていたので、恐らくエイミィにはテイマーの資質があるのだと思われる。

 その事を話すと、エイミィは喜んで契約の仕方を聞いてきたが、


「まずはお母さん達に相談をしなさい」


 と言うと急いで自分の家に戻っていった。俺はその隙に部屋の片付け(置いてある物をバッグにしまうだけ)をして待つことにした。


 しばらくしてエイミィは、カリナさんとアリエさんを連れてきた。


「本当にこの子に、テイマーの才能があるんですか?」


 開口一番にカリナさんがそう来てきた。俺自身胸を張って教えることができるほど、テイムを熟知しているわけではないが、


「エイミィが感じている感覚が勘違いでなければ、エイミィにはテイムの才能があります」


 俺が体験した時と同じ感覚ならば、テイムの条件を満たしているはずだ。

 テイムの条件とは、才能、契約できるだけの魔力、そして相性だ。

 これら全てが当てはまった時に、魔物を眷属化出来ると俺は教わった。

 その事を話した上で、一言、


「ただ、完全にエイミィがロックバードを制御できるかはわかりません」


 これまで魔力の制御や訓練をしたことが無いエイミィが、いざという時に力ずくでもいうことをきかせることができるかは不明だ。

 この言葉にエイミィはがっくりと肩を落とした。


「ただ、可能性が無い訳ではありません」


「どういうことですか?」 


 エイミィに代わって、アリエさんが聞いてきた。


「刷り込みって知っていますか?」


「たしか……ガチョウなんかが、最初に見た動くものを親と思い込むことですよね」


 カリナさんはそう答えた。


「ええ、その通りです。ただ、ロックバードにその刷り込みが効くかはわかりません」


 ならどうして、といった感じで三人は俺を見るが続けて、


「俺が言いたいのは、今のうちからエイミィが自分で育ててこの雛達に、エイミィが親だと認識させる方の刷り込みです。小さいうちから餌や躾や魔力を与えることで、雛達にエイミィが自分達の世話をしてくれている親だと思い込ませるのです」


 鳥の刷り込みが上手く行ったならばよし、ダメでももう一つの可能性にかける、という二重の刷り込みでエイミィの眷属にしてしまう、といった作戦だ。


「もちろん魔力を与えることは練習が必要ですが、幸いエイミィは今が成長期なので、練習次第ではある程度の魔力を持つことも可能です」


 その言葉にエイミィは顔を明るくし、逆にカリナさんとアリエさんは考え込んでしまった。


「テンマさんが魔力の練習の仕方を教えてくれますか?」


 カリナさんは不安そうに聞いてくるが、


「付きっきりというわけにはいきませんが、基礎を覚えるまでは面倒を見ます。それに俺が教えようとする方法は、実際に俺が4歳の頃に教わったやり方ですので、危険はほとんどありません。あっても魔力の使いすぎで気絶するくらいです」


 最後の言葉に二人は不安そうにしたが、当のエイミィが、


「お願いします!」


 と張り切っていたので、渋々ながら二人は承諾した。


「エイミィ、先に言っておくけど、俺は基礎しか教えるつもりはないよ。そこから先は責任が取れないからね。そして基礎を覚えたからといって冒険者の真似事はしてはいけないよ。守れないなら教えない」


 俺はエイミィに対してはっきりと言った。冒険者はたとえ死んでも自己責任が普通である。

 しかし、子供に魔法の基礎を教えて調子に乗って死なれても、俺には責任が取れない。

 なので、あらかじめ基礎を教える条件として、冒険者の真似事をするつもりなら教えるつもりは無い、とはっきりと言って、母親と祖母の前でエイミィ聞いた。


 しかし、エイミィは、


「冒険者になって、お父さんと潜る!」


 そう言い切った。なので、改めてカリナさんとアリエさんに聞くと、


「仕方がありません。変に止めるよりも、やらせてみたほうがいいのかもしれません……父親と一緒だったら危険は少なくなるでしょうし……」


 と半ば諦めたように許可した。


「ただし、お父さんには自分で言いなさいね!」


 との条件付きだ。


「それと先に言っておくけど、もしエイミィが諦めたり魔力操作を習得できない時は、この雛達はお肉になるからね」


「えっ!」


 呆然とした顔で、エイミィは俺を見るが、俺は気にせずに、


「考えてもご覧、可愛そうだけど、俺には眷属としてのロックバードは必要ないし、たまたまとはいえ俺が孵したモノを譲るんだから、もしエイミィが制御できないならば、ロックバードはただの魔物だよ。人に危害を加える前に、俺の手で責任を持って始末しなければならない」


 わかったね、と少し残酷かもしれないが、俺の覚悟をエイミィに伝えた。


「だからエイミィはその事を頭に入れた上で、練習をしなければならない」


「わかった!絶対にこの子達を殺させないから!」


 と俺に敵意とも取れる覚悟を口にした。


「じゃあ、早速始めようか。その前に俺はちょっと出てくるから、汚れてもいい服に着替えて、水を入れた桶を用意して待っていてね」


 そう言って俺はギルドの方へ走っていった。

 理由は本来なら明日、リーナにお菓子を渡すはずだったが、エイミィに魔法の基礎を教えるため、なるべく間を取りたくなかったので、できれば今日にでも渡せないかと思ったからだ。

 しかし、思った通りには事が進まず、リーナはギルドにいなかった。

 念のためダンジョンの入口に行くと、運のいい事にリーナ達が今から潜るところだった。


「お~い、リーナ!」


 その声に周りこちらを見ていたが、気にせずに走り寄った。


「どうしたんだ、テンマ?」


 最初に声をかけてきたのは一番近くにいたガラットだった。訳を話して、リーナにお菓子を渡そうとすると、


「皆さん、私急用ができました!」


 とか言って俺を引っ張っていこうとしたので、


「ちょっと待ちな!」


 とメナスに襟を掴まれていた。

 ぐぇ、とか言う声が聞こえたが、あえて聞いてないふりをした。


「あんたね~、お菓子とダンジョン攻略、どっちが大事だと思っているんだい!」

「もちろん、お菓子です!……あっ」


 思わず言ってしまった、というような反応をして、リーナは気まずそうな顔をしていた。


「よく言った、リーナ……そこに座りな」


「あの~そこは床が石畳なんですけど……」


 などと抵抗をしていたが、


「せ・い・ざ!」


 メナスの迫力に泣く泣く正座をしていた。

 俺はそんな事は関係ないと、お菓子をメナスに預けていく。

 さすがにトップクラスのパーティーだけあって、ジン達は皆マジックバッグを持っているそうだ。


「じゃあ、確かに渡したからな!」


 挨拶がわりに手を挙げて、そそくさとその場を離れていく、背後からはリーナの声で、


「薄情者~、裏切り者~、呪ってやる~」

 

 などと聴こえてくるが、ゴチンッ、といった大きな音が聞こえてからは声が聞こえなくなった。

 俺は心の中で冥福(注・死んではいない)を祈りながらダンジョンを後にした。


 部屋に戻った俺を、気合の入ったエイミィが出迎えた。


「早速始めましょう!」


 エイミィは腕まくりをし、頭にはハチマキを巻いている。かなりの気合だが、


「じゃあ、教えるから」


 と言って、水の入った桶に手をかざし、水面に波をおこした。


「最初は思う通りにやってみて」


 その言葉に若干気が抜けたような顔をして、急いで手をかざして唸り始めた。


「えいっ!」


 30分後、


「やぁ~!」


 1時間後


「うりゃ~!」


 2時間後、


「うにゅぅ~!」


 3時間後、


「なんでっ!どうして、ウンともスンともいわないの!」


「そりゃ水だからね」


「そういうことじゃなくてっ!」 


 ボケたら怒られてしまった。そのままエイミィは俺を睨み、


「なんで教えてくれないんですか!」


 と怒っていたが、


「だって、教えて、と一言も聞いてないよ」


 とシレっと言った。その言葉には、様子を見に来ていたカリナさん達も唖然としていたが、


「わからないなら、分からないと言わないと、俺には、エイミィが何が分からないのかが分からないよ」


 自分でも、意地悪で屁理屈なことを言っているという自覚はある。しかし、今後エイミィが自己流で魔法を覚えようとするのを少しでも防ぐ意味でも、誰かに師事することが大事だと分かってもらいたかった。

 なにせ俺は段階をすっとばして魔法を覚えようとしたら、じいちゃんから、このままでは死ぬ、と言われたからな。

 俺とエイミィでは状況や能力が違うが、人に教わらないと無理だと刷り込ませてもらおう。


「……どうやったらいいのかわかりません。教えてください」


 ようやく俺の考えていたスタートラインに、エイミィが立ってくれたようだった。

違和感のある場所は、ロックバードの孵化のところです。

設定としては、元々テンマが採取する前に、ある程度温められていたのと、テンマによって、急激に純度の高い魔力を与えられたので、卵から一気に雛に『進化』しました。(某ポケット怪物のように……)


今回はタイトルを、『お菓子の魔力2』にするか迷いましたが、結局はリーナも、テンマのお菓子最高!と刷り込まれた(洗脳された)と考えて、こちらにしました。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ