第3章-4 ダンジョンアタック
「シロウマル、切り裂け!」
俺の指示にシロウマルは、グルッ、と唸って前足を振り下ろす。
「ビギャッ」
群れていたゴブリンは、シロウマルの一撃で体をいくつかに裂かれ絶命した。
「よくやったシロウマル!だいぶ上達したな」
シロウマルが放った一撃は、以前クロコダイルシャークの時に編み出したものだ。便宜上この技を「スラッシュクロー」と名づけ普段はスラッシュと呼んで練習させていた。
練習の甲斐あって、以前はただ単に力任せに放っていただけだったが、今は力加減を覚え、遠くに飛ばしたり、爪(足)に付与して使ったりもできるようになった。
正直に言えば、以前の技は使いづらいものだった。その訳は、他の魔法で代用できる上に、大雑把すぎた。
しかし、使い方を限定すると、ものすごく使いやすいものになった。
やり方は、自分の手又は指や足に直接付与して目標を攻撃する近距離、武器(刃物)に付与して攻撃する中距離、以前の使い方を改良して放つ遠距離、という具合に攻撃方法を3つに分けた。
その結果、シロウマルでも覚えやすくなり、戦闘能力が飛躍的に上がった。
最も、いま相手にしているゴブリンでは意味がないことではあるのだが……
「シロウマル、逃げる奴は無視していいぞ」
俺はゴブリンから魔核を取り出して、死体を燃やした。
ダンジョンの魔物は指定されているものや亜種などを除いて、討伐しても報酬は出ないのだ。そしてダンジョンの魔物の討伐部位をよその街に持って行っても、鑑定などでバレるらしい。その場合はかなりのペナルティが発生する。
ダンジョンでは別に死体は放っておいていいのだが、腐ったりすると厄介なので余裕のあるときには、埋めたり燃やしたりするのが暗黙の了解となっているそうだ。素材となるなら持って帰ってもいいが、ゴブリンから取れるものは魔核くらいしかない。
「もう少しで階段があるはずだ。行くぞ、シロウマル」
こんな感じで、初めてのダンジョンはトントン拍子に進み、2時間ほどで10階層まで来ていた。
普通ならば初心者は、2時間で3階に行けるかどうかというところだが、俺の場合は、シロウマルの鼻と俺の探索などで最短距離を進み、たまに現れるゴブリンやスライムを蹴散らして進んだ結果、普通は考えられない速度での進行となっていた。
余談ではあるが、俺はスラリンに同族の相手は出来るだけさせないと心に決めていた。
その理由は、かわいそう、などでは無く、見ていて気持ちが悪くなったからだ。
物理的な攻撃方法が乏しいスライム同士の戦いは、基本的に相手を丸呑みにして溶かしていく、という方法が多い。興味本位でスラリンをけしかけたのだが、スラリンは相手を飲み込こもうとうねうねと体をくねらせて相手の隙をうかがう。相手も同じ様に、うねうねと体をくねらせるので見ていて酔ってしまった。
なのでそれ以降は、同族相手にスライム流の決闘?方法での戦いはやめさせた。
なお、倒したスライムを食べたスラリンは、相手が持っていた火魔法を覚えていた。考えられる事としては、相手の属性を奪ったのだろうが、これまでも魔法持ちの魔物は何度か食べさせていたので、魔法持ちのスライムを相手にした時にしか適用されないのだろうと思う。
閑話休題
11階層……ここからは地図は公開されておらず、わかっているのは虫系の魔物が出ることぐらいだ。
この先は初心者にとって最初の壁だと言われている。
「早速いたな……あれはイモムシか」
鑑定では、グリーンキャタピラー、と出た。毒を持っているようなので、
「シロウマル、待て!」
シロウマルを待たせて、俺は足元に落ちていた手のひらほどの石を拾い強化魔法をかけて、
「せいっ!」
野球のように投げた。
ボール……ではなく、石は見事に命中して……イモムシを爆散させた。
「キモっ!そして、弱っ!」
腕力まで強化したのがいけなかったのか、イモムシは辺りに体液などを撒き散らして死んだ。
「……今後はなるべく魔法で倒そう……」
11階層はイモムシしかいないのか!そう叫びたくなるくらいに、イモムシしか出てこない。
少し疲れてきたので行き止まりを見つけて休憩をすることにした。
俺の考えた休憩方法は、まず行き止まりに入って、通路を土魔法で塞ぐ。個室みたいになったら、魔物が隠れていないか確認する……以上。
方法としては単純だが、この方法は割と使えると思っている。なぜなら、土壁に強化魔法をかけておけば、そうそう侵入してくる魔物はいないし、何より、あまり警戒せずにゆっくりと座る事が出来るのは大きい。
しかも俺には、色々な魔法や、マジックバッグの中には食料に水、馬車まであるので、その気になれば食料の許す限りダンジョン内で生活ができる。
しかし、いくら生活できるからといって調子に乗っていては、精神や体調に狂いが生じる。
その為、俺は地上でゆっくりと骨休めのできる宿を探していたのだった。
「取り敢えず食事にするか」
俺は、シロウマルとスラリンに交代で見張りをするように指示を出して、食事をして軽い休憩を取った。もちろん、シロウマルとスラリンの分も餌を用意した……でないとシロウマルが腹音で演奏会を始めるだろう。
食事後は30分ほど横になって寝た。こんな時のために、バッグの中に予備のベッドを一つ入れておいたのは正解だった。休憩するにしても、横になるのとならないのでは確実に疲労の抜け方が違う。
これは前世でじいさん達からよく言われていたことだ、横になれる時はなっておけ、と。
少し寝ただけでも、精神的にも肉体的にもかなり楽になった様に感じる。ここまでは簡単な行程だったが、知らない内に緊張して余計な力が入っていたようだ。
「そろそろ行くぞ、シロウマル」
俺はベッドの下の方で寝ていたシロウマルに声をかけてから、ベッドなどを片付けていく。
シロウマルも体力を回復したようで、あくびをしながら伸びをしている。
その代わりにスラリンは休憩するかのように、ディメンションバッグに入っていった。
冒険を再開する為に壁を壊そうとした時、背後から微かに風が吹いているのに気がついた。
「どこからだ?」
目の前の壁から風が来るのならば気にはならなかっただろうが、元から壁だった方から風が吹いたので、警戒しながら壁を探っていくと、
「ここか」
壁の隅に拳くらいの大きさの穴が開いていた。
風の出処がわかったので土魔法で広げていくと、そこには深い穴があった。
「隠し部屋……みたいなもんかな。どこまで続いているか分からないが、魔物の巣でなければいいな」
俺はそう呟いて、シロウマルをバッグに入れ、飛空を使って穴の中をゆっくりと降りていく。
念のため、開けた穴は元どうりに塞いでおいた。
宙に浮かびながら降りること15分くらいだろうか、穴の中は直径4m程だが、たまに壁がせり出して穴を狭くしているので、その都度魔法で削りながら降りているため、未だ100mも降りていないような感じがする。
さらに降りること10分。ようやく終わりが見えてきた。
一番下まで降りると、そこに人が通れるくらいの横穴があり、その先から風は流れてきていた。
俺は探索を使いながら慎重に進んでいった。そして、5分もしないうちに広い空間に出ることになった。
その空間には普通よりかなり濃い魔力が漂っていたので、咄嗟に近くの岩陰に身を隠しあたりをうかがったが、見える範囲で魔物はいなかった。
念のため探索を使うと、奥の方にかなり大きな魔力反応があった。不思議なことに、鑑定を使っても頭に浮かぶのは文字化けしたような意味不明な文字の羅列だ。
こんなことは初めてなので、ゆっくりと反応のあった所へ身を隠しながら進むと、
「ドラゴン?」
そこにいたのはドラゴンの形をした岩だ。
大きさは4m程で、体を丸めて休んでいるような形をしていた。
俺は興味を惹かれ、魔力反応があったことを忘れてしまい、不用意に近づいてしまった。
俺が5m程まで近づくと、ドラゴン型の岩は目の部分を赤く光らせて立ち上がった。
「なっ、こいつはゴーレムだったのか!」
内心焦りながら、急いで距離を取るが、ゴーレムは俺を敵と認識したようで、戦闘態勢を取っていた。
俺はバッグからアダマンティンの剣を取り出して、ゴーレムに対して構えを取った。
ここで、逃げる、という選択枝もあったが、これだけのゴーレムを動かしている核に興味が出てしまい、せっかくだから貰っていこうという結論に至った。
ゴーレムは尻尾を振り回したり、手足を振るったりして攻撃をしてくるが、幸いなことにブレスは使えないようで、距離が離れると岩を投げつけるくらいしか攻撃方法は無いようだ。
「とは言っても、アダマンティンの剣でも大したダメージを受けているようには見えないな……」
このまま行けば負けることはまず無いだろう。しかし、こんな場所で暴れさせ続けると、いずれ落盤を起こしかねない。
そこで、アダマンティンの剣を強化してゴーレムの懐まで走り出した。
当然ゴーレムは俺を叩き潰そうと手足を振るってくるが、硬さと威力以外はそこまでの脅威は無いので、土魔法で足元を砂に変えてバランスを崩したり、壁を出現させて威力を削いだりして攻撃をかわしている。
もちろん、ゴーレムの攻撃をかわしながら俺も攻撃を繰り出している。
ゴーレムの右前足の付け根辺りに攻撃を集中させて、徐々にではあるが削ることができている。
初めは魔法を使っていたが、このゴーレムには魔法耐性があるらしく、魔法より物理攻撃の方が効果があるようなので、今は強化した剣と土魔法での物理攻撃でダメージを与えている。
本当はこのゴーレム相手でも、ダメージを与えられそうな魔法攻撃はあるのだが……威力が高すぎるため、このような閉鎖された空間では俺までダメージを受けてしまうので、間違っても使うことはできないのだ。
とにかく先程からの集中攻撃のおかげで、ゴーレムの前足には罅が入りだした。
そこで距離を大きく取り、土魔法で岩をぶつけてみたところ、うまい具合に右前足に当たりそのままゴーレムの前足を砕く事に成功した。
しかし、ここで気を抜いては行けない。なぜならこの手のゴーレムにはある程度の再生能力が備わっていることが多く、現に目の前のゴーレムの右前足は、少しずつ周りの石を取り込んで再生しようとしている。
「させるかよっ!」
俺は火魔法を放ち、ゴーレムを牽制しながら、再度攻撃を加えていく。
今度は先程よりも早く左前足を砕くことができた。その後は、念のために後ろ足も潰したのだが、こちらは尻尾の攻撃があったので、ある意味で前足よりも気を使う事になった。
その結果、目の前には手足が無いドラゴンゴーレムが出来上がった。
手足が無いといっても、口と尻尾はあるので気を付けなければならないが、逆に言えばそれしか攻撃方法がないので、再生させないようにしながらゴーレムの頭部を叩いていった。
5分も叩き続ければ、ゴーレムの頭部は砕かれて無くなったのだが、未だにゴーレムは動きを止めない。
「いくらゴーレムだとは言っても……ここまで来るとグロイな」
そんな感想を抱きつつ、俺は首の部分をたたきつぶした。その後で尻尾も砕くと、ぱっと見ではただの岩にしか見えない、胴体だけが残った。
その胴体を砕いていると、ガキーーンと金属をぶつけたような音がして、信じられない事に強化したアダマンティンの剣が欠けた。
「うおわっ!」
変な声を出してしまった。剣が欠けた際に、あまりの衝撃で手が痺れてしまったのだ。
「あいたたた……何なんだ一体?」
先程叩いていた場所を見ると、何やら白い物が見えていた。
慎重に白い物体の周りを叩いていくと、出てきたのは何やら白く丸っこい物だった。
「もしかして、卵……なのか、これ?」
それを取り出すとゴーレムは動きを止め、ガラガラ、と崩れていった。
「これが核になっていたのか」
核を取り出した事で、ゴーレムはその機能を失い、ただの石になってしまった。
取り敢えず卵をバッグに入れて、外に出ようとした時に、崩れた元ゴーレムの中に金属が混じっているのに気が付いた。
鑑定をしてみると、ミスリル、と出たので、片っ端から集めていった。
そのミスリルは、大きいもので親指の爪ほどで、小さいものは小指の爪の半分ほどであった。
「どうりで硬いはずだ……こんな物が含まれていたら苦労するよな……」
俺はそう言いながら、砕いたゴーレムの欠片に土魔法をかけて砂に変えていく。その中で砂にならなかったのがミスリル、というわけだ。
集まったミスリルは全部で10kg程もあり、市場価格では加工前の状態でも500万Gはするだろう。
この価格は金と同程度である。しかし、ミスリルは加工するとモノにもよるが、加工前の5倍近い値が付くこともある。それはミスリルが固く加工がしにくいため、加工前よりも値が上がるのが原因だ。
他にミスリルがないか周囲を探ってみたが、どうやらゴーレムになった岩に含まれていた金属が変化したものらしく、辺りからは20kg程の銀が見つかっただけで、ミスリルは出なかった。
それでも10~20万Gくらいにはなりそうだ。
ここらでいい加減切り上げようと思っていると、端の方に何やら空間が歪んで見える所があった。
「これが外に繋がっているって言ってたモノかな?」
冒険者はこれをワープゾーンと言っているそうだ。これは恐らく、転生者が名付けたのだろう。
少し不安があったが、意を決してワープゾーンに入るとすぐに別の空間に出ることができた。
少し先に扉があったので開けてみると、そこは朝入ってきた扉の近くだった。
「おっ、なんだテンマも丁度帰ってきたのか!」
声のした方を見るとジン達が居た。
「ああ、適当に潜ってみて、ある程度の成果も出たからな」
ある程度の成果、という言葉にジン達は反応して、
「どれくらいだ?」
と興味本位で聞いてきた。その声色は教えてくれたらラッキー、くらいのものだったが、俺は今日の成果の一部を取り出して、近くのテーブルに載せた。
「ちょっ、お前……これである程度ってどこまで潜ったんだ!」
テーブルに置かれた100個程の魔核と20kg程の銀(ちなみに錬金術で成形し、1kgのインゴットに変えてある)を見て、ジン達は声を上げた。
その声に周りも反応して覗き込もうとしてきたが、ひと睨みして遠ざけておいた。
「場所は秘密だが、たしか12階層くらい……だったかな。とった場所は隠蔽してきたけど」
その言葉を聞いて、何人かの冒険者はダンジョンの入口に走っていった……嘘は言ってないぞ決して。
ジン達はそんな俺を胡散臭そうに見ていたが、俺が表情を変えないのを見て諦めた様に、
「あまり混乱させてやるなよ……」
と肩に手を置いてそう呟いた。俺は曖昧に頷きながら、
「冒険者は自己責任だけどな」
と言うと、ジンは苦笑いを浮かべていた。
「ところでこの銀はギルドに売るつもりかい?」
ジンの横に居たメナスがそんな事を言ってくるので、そのつもりだが、と答えると、
「これだけ質がいいなら、ギルドに売るよりどこかの高級店に売りに行ったほうが、高く買い取ってくれると思うよ」
とのアドバイスをもらった。
「どこかいい所はありませんか?」
しかし、俺はまだセイゲンの街をよく知らないので、買い取ってくれる場所を聞くと、メナスは少し考えてから、
「北側の方にある店なら大概の場所は買ってくれると思うけど……どこがいいかまではわからないわ」
との事なので、取り敢えず銀のインゴットはバッグにしまっておくことにした。
「せっかくだから、これから一緒にメシでもどうだ?」
とのお誘いを受けたので、
「ええ、ご一緒します」
と交流を深めることにした。最も、純粋に交流を深めようとした訳ではなく、ジン達と仲良くなっておけば、ある程度の牽制になってくれるかも、といった打算も含まれてはいるが、ジン達も薄々は気づいていると思う。
「で、どこに行くんですか」
「近くにうまい店がある。種類も豊富だし酒もいいのが出る」
そのいい店とはギルドの近くにあるようなので、
「だったらギルドに寄って、魔核を売ってきます」
と少し寄り道をする事にした。
ちなみに魔核は全部で3000Gだった。これはゴブリンが多かったのと、イモムシの核共々ダンジョンで取れるものとしては最下級の物である為、一個あたり30Gがほとんどだった。
「それでも、その数を初心者が集めようとしたら、数人がかりで半日近く潜って集まるかどうかだけどな。傍から見たら、4時間ほどの成果とはとてもじゃないが信じられんぞ」
その後はジン達おすすめの店に行き、早速注文をして食事が始まった。
その中でいろいろと聞いたのだが、ジン達のパーティー名は『暁の剣』だそうだ。
前は三人でパーティーを組んでいたが、リーナが4年前に加入してからは安定度が増して、最近では王都にも名が知れ渡るようになったそうだ。
「ジン、王都でククリ村の噂なんかを聞いたことがないか?」
そう聞いてみるが、
「いや、聞いたことはないな……というより前に王都に行ったのは3年ほど前で、ククリ村の惨事はそのちょっと前だったからなぁ……でも、ククリ村がどうしたんだ」
ジン達はククリ村の事を知っていたが、さすがに詳しくは教えるつもりはなかったので、以前公爵に言った事を簡単に説明した。
「そうか……その知り合いの事が聞けるといいな……」
と特に疑うことは無かった。そこでハウスト辺境伯の話も出たのだが、どうやらククリ村の件でかなり肩身の狭い思いをしたそうだ。
なにせハウスト辺境伯の手配した者達が原因で村が壊滅したようなものだ。さらに運の悪い事に、村人の多くは何らかの形で冒険者との繋がりがあったので、その冒険者達はハウスト辺境伯領から引き上げたそうだ。しかも、自分達の知り合いに声をかけて。
そんな訳で、一時期ハウスト辺境伯領からは冒険者の数が半分以下になったそうだ。現在はほとんど元の数に戻っているらしいが、ベテランの数はかなり減っているらしい。
そんな話をしていると、
「そう言えばテンマさんは、お菓子作りが得意らしいですね」
とリーナが顔を赤らめて言った……どうやら酒のせいみたいだ。
なんで知ってるの、と思ったら、
「プリメラちゃんが自慢げに言ってました。私は王都のお菓子より美味しい物を食べたことがある、って」
情報源は天然騎士様(公爵令嬢)だった。
「王都より美味しいかは知りませんが、プリメラには何度か差し入れはしましたけど……」
そう言うと、
「私にも作ってください!プリメラちゃんだけずるいです!」
と身を乗り出して言ってきた。
なんで、と思っていると、隣に座っていたメナスが、
「この子、甘いものに目がないんだよ……でも、作るなら私の分もね!」
どうやら、お菓子の魔力はここでも通用するらしい……ジンとガラットは、お気の毒に……、といった顔でこちらを見ていて、目で助けを求めても、笑って目を逸らされた。
「まあいいですけど……材料費くらいは出してくださいね」
その言葉にリーナは、もちろんです!、と金貨一枚を出してきた。
「それはさすがに多すぎです!銀貨二枚もあったら十分です!」
そう言うと首をかしげながら、バッグから銀貨二枚を出して渡してきた。
「お菓子はなるべくプリメラちゃんが食べたことが無いのがいいです!」
と注文をつけてきたので、いくつか考えて、
「じゃあ、二種類くらい作ってきます。そうですね……明後日の昼くらいにギルドに来てください」
そう言うとリーナは、分かりました!明後日の昼ですね!、とかなり気合が入っていた。
そんな調子で食事は進み、外が暗くなる頃には解散となった……理由は、変に気合が入りすぎたリーナが、酒をガブガブと飲んで酔いつぶれたからだ。
俺はシロウマル達用にいくらか持ち帰り、部屋の中で食べさせて寝ることにした。
「おい、起きろテンマ」
部屋で一人で寝ていたはずなのに、なぜか聞き覚えのある声に起こされた。
寝ぼけ眼で起き上がると、
「おっ、やっと起きたか、ちょいっと邪魔してるぞ」
と目の前にいたのは技能神と魔法神だった。
「おいっ、次は十数年後だったんじゃないか?」
その疑問には魔法神が、
「創世神に無理をさせた」
の一言で済ませた。呆気に取られていた俺に技能神が、
「そんな訳で、今回はこの間よりだいぶ時間が短くなっているからサクっと行くぞ!」
と軽いノリで言い出した。
「まず俺の要件だ!テンマ、お前ミスリルを手に入れたろ。それの鍛え方の話だ。ミスリルは単体では加工がしにくいから、銀と一緒に魔力を流していって少しずつ混ぜていって、柔らかくして加工をしろ!そして形を作ったら、高温にして叩いていくと次第に銀が抜けて行くから、最後には高純度のミスリルが残る、って訳だ。分かったな!そしてその方法は、オリハルコンなんかにも応用できるからな」
「分かった」
「次は獣神からだ!テンマの見つけた卵には、かなりの量の魔力を与え続けていくと孵化する。そしてうまれた魔物はテンマの眷属になる……以上だ!」
フンフンと頷いていると、
「次は僕の番。テンマのスライム……スラリンだったか、あれはただの亜種ではなく、どうやら新種みたいだ。恐らく、同族の特性を吸収する能力を持っている。今度スラリンのステータスに書き加えておく……実に興味深い」
フッフッフッ、と笑う魔法神に少し引きながら俺は、どこかのドラマの主人公みたいな事を言うなぁ、と思っていた。
「あっ、やべえ、もう時間みたいだ!じゃあな、テンマ」
「バイバイ、テンマ」
そう言うと二人の姿が霞んでいき、俺は目を覚ました……が、まだ夜中だったので二度寝した。