第3章-3 定宿決定
活動報告にも書きましたが、プロローグを2つにまとめました。
「まあ、そんなに警戒すんなって。俺たちは、グンジョー市でお前の決闘を見た事があるだけだ」
種明かしをすると、ジン達は依頼の帰りにたまたまグンジョー市に寄って、そこで俺とレギルの決闘を見たそうだ。
「あの時は儲けさせてもらった……相手が集団で来た時には少々焦ったがな。だが、そのおかげで坊主の事を覚えていたんだけどな」
そう話している時に、
「ジンさ~ん、メナスさ~ん、ガラットさ~ん、どこですか~!」
何だか、気の抜けそうな声が聞こえてきた。
「こっちだよ、リーナ!」
メナスがそう呼ぶと、おっとりとした感じの小柄な女性が現れた。
名前…リーナ
年齢…21
種族…人族
称号…見習い僧侶・子爵令嬢
HP…6000
MP…15000
筋力…C-
防御力…C+
速力…C+
魔力…A+
精神力…B-
成長力…A+
運…A+
と、魔力関連は高いが、その他は割と普通だった。
念のためにとスキルなども探ると、
スキル…光魔法8・水魔法7・風魔法6・棒術6・料理6・魔力操作4・火魔法5・忍耐5・雷魔法5・魔力増強5・異常効果耐性5・即死耐性5・回復力増強4・全魔法属性3・技術習得力増強2・成長力増強2
加護…生命の女神の加護・愛の女神の加護
なかなかに優秀で、将来性が抜群の後衛能力だった。人は見かけで判断してはいけないな!うん。
「あぁ、やっといました!も~どこに行っているんですか!」
ぷんぷん、と擬音がつきそうな感じで怒っている。その後、ジン達の背後に居る俺に気がつくと、
「あぁー!プリメラちゃんのお友達の……誰でしたっけ?」
どうやら、プリメラとは類友(天然同士)のようだ。
「ああ、プリメラを知っているんですか。初めまして、テンマです」
ああそうそう、そんな名前だった、と一人で頷いている。俺はそれを無視して、
「そう言えば、ジンさん達はなんでここに?」
「ジンでいいぞ。まあここにいる理由は、酒場に向かっていたら、あいつらが血相変えて走っていたんでな、気になって後をつけてみたんだ」
どうやら俺を心配し……
「危なかったぜ、もう少しであいつらが再起不能になるところだった!」
た訳ではなかったようだ。
「いや、そんなことはしませんよ。ただ、少しだけ丁寧にお話をして、分かってもらうだけですよ」
「ああ、グンジョー市でもお話をたくさんしたらしいな」
……否定はできなかったが、
「生きているだけましでしょ?」
その俺の言葉にジン達は、「それもそうか、冒険者だしな」と納得していた。
「まあ、冗談はさておき、あんな奴らでも再起不能にしたら憲兵に取調室に連れて行かれるからな。めんどくさいだろ?」
「そうですね……ありがとうございます」
そうジンと話していると、
「あの~」
背後から俺の裾を少女が引っ張った。
「ああ、ごめんね。家はどこ?送っていくよ。じゃあ、またなジン」
「おう、またな!」
呼び捨てでいいと言うので呼んでみたが、特に違和感はないな。今度から呼び捨てにさせてもらおう。
そう思いながら、少女が運ぼうとしていた薪の束を掴む。
「いえ!そこまでしてもらうのは……」
少女は遠慮しようとしていたが、
「俺のせいで巻き添えを食らったんだから、これくらいはしないとね」
そう言って譲らずに、道案内をしてもらいながら少女の家に向かった。
テンマが去った後、ジン達は顔を突き合わせて話し合いをしていた。
「おい、ジン。良かったのか?あんな子供に呼び捨てにさせて」
ガラットはジンにそう聞いたが、
「テンマが只者じゃないくらい、お前だって分かっているだろう、ガラット? 弱い奴なら許さんが、強い奴なら構わんさ」
「どれくらい強いと思う?」
メナスの質問に、ジンは少し考えてから、
「はっきりとは分からんが、決闘の時に見たあの装備?を出されたら、全員で本気にならんと危ないだろうな。あれ無しなら、一対一で互角くらいじゃないか?」
と言ったが、
「あっ、ジンさん。プリメラちゃんが、テンマさんは魔法の方が得意みたいだ、って言ってました!しかも、数十体のゴーレムを同時に操るそうです。しかも、あの試合は本気ではなかった様だとも言ってました」
「「「まじでっ!」」」
リーナの言葉にジン達三人は声を揃えた。
「……すまん、メナス。俺は間違っていた……一対一どころか、このパーティーでも相手にしたくは無いわ……」
「……そうだな、お前があいつを同格として接したり、あのバカ達を止めたのは最良の判断だったかもな……」
「そうだね……敵に回らないようにしておこう……知り合いにも教えててやった方がいいね……」
そうだな、とジン達は意見を一致させた後、こう呟いた……化け物かよ……と。
その頃テンマは、セイゲンでもトップクラスのパーティーから、化け物認定されたとは知らずに、少女の家を目指していた。
目指して、と言ってもこの少女……エイミィと言ったっけ、この子の家はここから近いところにあるらしい。
いざこざのあった場所から、歩いて10分もしないうちに、
「着きました。ここが私の家です」
と言って紹介したのは、
「アパート?」
前世で言うところのアパートのようだった。
この世界で初めて見たアパートに驚いていると、
「ちょっと変わった建物ですけど、ここは宿なんです」
エイミィの説明では、ダンジョン都市に来る冒険者は長期滞在の者が多く、自分の家のように部屋を使いたい、と言った者も少なからずいるので、アパートの一室を部屋として貸し出しているそうだ。要は短期でもOKの貸家だな。
メリットとしては、客の食事などの世話をあまりしなくていい事と、長期目的の客が多いので安定した収入が望める事。
デメリットは部屋の広さが、二~三人でちょうどいいくらいなので、パーティーを組んでいる冒険者からは敬遠されやすい事らしく、このような経営スタイルは、セイゲンでも4~5軒くらいだそうだ。
アパートの横には二階建ての家があり、それがエイミィの家族が住んでいる家だそうだ。
「何してたのエイミィ?遅かったじゃない」
エイミィの家に近づくと、丁度ドアから出てきた女性が気づいて近寄ってきた。
「あのねお母さん、ちょっとこの先の通りで……」
とエイミィは母親に事情を説明していった。
話が終わると、女性が近づいてきて、
「うちの子がお世話になった上に、怪我まで治していただいて……」
と頭を下げてきたが、
「いえ、こちらにも原因があったわけですから、危険な目に遭わせて申し訳ありません」
と頭を下げ返した。俺自身この件に関しては、こちらの落ち度ではあっても、エイミィに非はないと思っているので、正直に言って礼を言われても困ってしまう。
その事を話していると、
「そこまでにしておきなさい。あんたが困らせてどうするの!」
家からエイミィのおばあさんらしき人が現れて、お母さんを止めてくれた。
「すいませんね。私はエイミィの祖母で、アリエと申します。こちらは母親の……」
「カリナといいます。ごめんなさい、ちょっと慌ててしまって……」
「テンマです。冒険者をやってます。今回はエイミィを巻き込んでしまって、申し訳ありませんでした」
と改めて頭を下げた。しかし、カリナさんは、
「いえ、それくらいは構いません。エイミィが自分で気を付けていたら、巻き込まれることもなかったんですから」
と言っていると、あることを思い出した。
「あの~、こんな時に言うのも変なんですが……部屋、空いてません?」
そう言って、俺は宿が見つからなくて探していたことを伝えた。
「ええ、部屋は空いていますが、うちは一ヶ月ごとの契約ですけど構いませんか?」
「大丈夫です。それと俺には他に仲間が居るんですけど……」
と言ってバッグから、シロウマルとスラリンを出した。
「わっ!びっくりした~」
確かにバッグから狼やスライムが出てきたら、普通の人は驚くだろう。
「それは構いませんが……破損や修繕が必要な時は別に料金が発生しますけど……それでもよろしいですか?」
「大丈夫です!それで料金はいくらですか?」
「部屋は一ヶ月7000Gになります。それと料金は先払いで、契約期間を過ぎてから一週間を過ぎると、部屋に置いてある私物などの権利を放棄した、となります」
「はい結構です。取り敢えずは、二ヶ月分お願いします」
「では契約書を持ってきます」
契約と言っても簡単なもので、ギルドカードを見せて、名前と支払った料金を書いて注意事項を聞くだけだ。
「これが鍵です。テンマさんの部屋は一階の一番手前です」
早速部屋へ入ってみると、
「へえ~、結構住みやすそうだな」
部屋は、6畳程の寝室一つに台所とトイレに押入れが付いていた……何だか前世のアパートそのものだ。
「珍しい造りでしょ!でも、ここらへんではこれが主流だよ!」
案内をしてくれたエイミィが、そう教えてくれた。
「食事やお風呂は、この近くに料理屋や風呂屋があるからね」
ということなので、早速風呂屋に行ってきた。ちなみにシロウマルはエイミィに撫でられて、気持ちよさそうにしていたので預けてきた。
風呂屋から帰ってくると、部屋の前でシロウマルとエイミィが待っていた。
「テンマさん、おかえり。あのねシロウマルにお菓子を上げても食べないんだけど……」
「ああ、シロウマルは、俺がいない時に俺以外の人から食べ物を貰っても食べないように教えてあるから……シロウマル、エイミィからは貰ってもいいぞ」
そう言うとシロウマルは、ウォン、と吠えて答えた。
「いいな~、私も眷属が欲しい……」
エイミィは羨ましがっているが、
「多分だけど、エイミィも眷属を作れるかもしれないぞ」
ほとんど勘に近いが、シロウマルが初対面でこれだけなつくのは珍しいので、そう言ってみたら、
「本当!本当に本当!」
と、すごい勢いで詰め寄られた。
「確実ではないけど、シロウマルが初対面で気を許すのは珍しいから、可能性はある……はずだ」
少々自信なさげに言ったが、エイミィはそんな事は気にしていないようで、
「じゃあ私、将来は冒険者になる!」
と張り切ってしまった。
「ははは、それはお母さん達と相談してね……」
変な事を教えたかな、と思ったが、後日聞いた話では、エイミィのお父さんは冒険者だそうで、現在はダンジョンに潜っていて不在だそうだ。
風呂屋から帰って来た後、俺は明日のダンジョンに備えて、保存食や簡単に食べられる物を用意していく。
まずはビスケット、簡単に小麦粉と砂糖にナッツやクルミを砕いたものと、数種類のドライフルーツを小さく刻んで混ぜて焼けば完成だ。
次は肉だ、肉は数種類用意しておく。まず干し肉、これは適当な大きさの肉に塩などで味付けして、魔法で乾燥させれば完成。
後は焼肉、これは料理なのか、と疑問もあるが、ただ肉を焼いて、数枚ごとに小分けしてバッグに入れていく。こうすれば熱々の物が簡単に食べられる。マジックバッグ、万歳!
後は近くで買ってきたベーコンを切っておけば、肉はいいだろう。
今度は野菜や果物だ!と言ってもまるごとバッグに放り込んでいき、生で食べづらい物は、ゆがいたり焼いたりしておくだけだ。
そして飲み物……は魔法で水が出せるから、水筒2~3本程度でいいか。
後は、各種調味料だな、自家製の味噌に同じく醤油、香辛料にハーブ類、そして忘れてはいけないのが塩と砂糖だ。
塩と砂糖と水があれば最悪何日間かは生き延びられる……はずだ!塩は岩塩を砕いて粉状にした物を用意し、砂糖は黒糖と白砂糖を魔法で圧縮して固めた物と粉状の物をそれぞれ用意した。
その他にはあまり買い足すものは無かったが、布だけは大量に購入しておいた……何かに使えるだろう。
それくらいで他にやることが思いつかなかったので、暇つぶしに以前グンジョー市で購入した、アダマンティンの手甲と鎧を綺麗にすることにした。
手甲は内部は錆びていなかったので、表面のサビなんかをナイフで軽く削ったりこすったりして落とし、仕上げに油を含ませた布で磨いていく。その時、不吉なものが目に入ったが無視しておく。
鎧は胴体部に肩当てが付いたもので、恐らくは全身鎧だったのであろうが、何らかの理由で頭や腕、下半身の部分が無くなったのであろうが、これだけでも使い道はありそうだ。
こちらは内部までサビがきていたので、分解できるところは分解して、丁寧に手甲と同じ手順できれいにしていった。
「やっぱり見間違いでも、勘違いでもないか……」
と、言うのも、この鎧にも手甲と同じく不吉なものがあったのだ。それは、
「これ……貴族の紋章だよな」
そこには獅子と龍をあしらった紋章が刻まれていた。
「これは以前見た王家のものとは少し違うな、ということは大公家のものか……」
大公家に俺が直接持って行っても厄介なことになるだけだろう。機会があったら、王様かあの時の護衛の誰かに渡せばいいだろう……あくまで機会があったら、の話だけどな。
いずれは王都にも行ってみようと思っているから、多分機会はあるだろう……としておこう。
俺はこの二つの防具を誰にも見せないと心に決めて、バッグに封印した。
幸い、その他のものには紋章はついていなかったので、俺の物として扱っても気が付く者はいないだろうし、例えいたとしてもごまかせるだろう。
たとえ持ち主を名乗る者が現れても、公的に証明ができなければ、俺の物として問題はないはずだ。
そんな事を考えながら、装備を確認していく。
取り敢えず明日使用する装備は、近くの武具屋で売っていたレザーアーマー(改)にいつものブーツ、ミスリルの小刀にオリハルコンのナイフでいいだろう。
行ける所まで行くつもりではあるが、最初は様子見の意味を込めて、あまり無理をしないでおこうと決め、今日は休むことにした。
さあ、新しい朝が来た。希望の朝かは知らないが、俺にとっては記念すべき日だ!
そんな事を考えながら外を見ると、
「…………」
外は見事な大雨だった。いきなりやる気を挫く天気模様に、俺は布団の中に戻りそうになった。
「いや、それでもダンジョン内は関係ない……はずだ!」
意を決して布団をたたみ、気合を入れ直す。まずは朝食だ、と言っても、昨日のうちに作り置きしているのを温め直して食べるだけだ。
取り敢えず腹を満たした俺は、傘をさしてダンジョンを目指した。
意外にもダンジョンの近くでは、かなりの数の冒険者や商売人が歩いていた。
それらを無視するように入口に向かうと、
「おう、テンマじゃねえか。どうだ俺たちと組まねえか?」
この街で唯一の知り合いのパーティーから声をかけられた。
「悪いなジン。今日はせっかくのデビュー戦なんで一人でやってみたいんだ」
とジン達に断りを入れると、周囲の冒険者達がざわめきだした。
「そうか……残念だ。お前がいれば、今日中に1~2階は先に進めると思ったんだがな」
その言葉に、周りのざわめきはさらに大きくなる。
「じゃあな俺はもう行くよ……あっ、そうだ。参考までに聞きたいんだが、今何階層まで潜っているんだ?」
「今は64階だな。ここまで来るのに8年はかかった。最も毎日潜っていた訳じゃないけどな」
その言葉には、周りから称賛の声が聞こえる。
「へ~、そんなもんなのか」
この言葉には、周りから何も知らない奴だと笑い声が聞こえた。
「そんなもんって言うけど、このダンジョンの最高記録は78階だぞ。しかも15年かけて」
「でも、あんたらが本気で毎日でも潜っていたら、新しい記録ぐらい作れただろ」
と言うと、ジンは少し呆れた顔をして、
「そんなに甘いもんじゃねえよ。それに俺のパーティーは少々バランスが悪いんだ」
など謙遜なのか本気なのか分からないような事や、仲間の愚痴を言い始めたので、
「あっ、もうそろそろ俺、行くから」
じゃあな、と手を挙げてそそくさと逃げ出した。
ジンは何か言いたそうな顔をしていたが、俺は無視をしてダンジョンの入口に向かった。
ダンジョンの入口は厚い扉に閉ざされ、その脇には屈強な男達が立っていた。
そのうちの一人にギルドカードを見せると、男は無言で扉を開いた。
初めて入るダンジョンの中は、薄暗く少し空気が湿った感じで独特の匂いだった。
扉の先には階段があり、それを降りていくとまた扉があった。今度は男達はいないので自分で開けると、さらに扉があり先に階段があった。
結局、4つの扉を潜り、階段を4回降りると、ようやく通路が見えた。
「魔物が出にくくするためなんだろうけど……面倒だな」
そんな感想と共に、人生初のダンジョン攻略は始まった。
称号は神が直接付けることもあれば、自動的に決まったり、周りからの呼び名などが付くことがあります。