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閑話-その後のグンジョー市

サブタイトル通りに、テンマが去って少し後の関係者の話です。

ドズル編


「テンマが出て行って、もう一週間か……早いな」


 これまでも長期滞在の客はいたが、まだ成人していない子供が長期滞在をするというのは、聞いたことも見たことも無かった。


 二年前のあの日、テンマはふらりとこの宿に現れて……どうしたんだっけ?

 まあいいや、とにかくいっぺんに数ヶ月分の宿代を先払いするもんだから、最初の頃は常連客の間で、どこかの大貴族の隠し子か?なんて噂がたってたな。


 実際はありえない程の魔物を短時間で狩って、その代金の一部で払っていたんだったな。

 そのせいで素行の悪い冒険者や楽をしたい冒険者が、テンマを金づるにしようとして痛い目にあっていたな……まあ、そのお陰でだいぶ治安が良くなったがな。


 それにしても不思議な奴だよな。子供のくせに冒険者としての実力は超が付くほど一流で、さらに魔法の腕まで一流だもんな……あれで素行が悪かったらと思うとぞっとするぜ。幸い、敵対しなけりゃいいやつだったから良かったが……そう言えばテンマに絡んで廃業したのは、50人以上いる、とかいう噂も出たな。

 

「あんた~、仕込みは終わったの?」


「あと少しだ!」


 やばいやばい、考え事をしていたら手が止まっていたぜ。今日は公爵様の使いが来るそうだから、いつも以上に気合を入れないとな。


 この後に、満腹亭で作られたお菓子は、サンガ公爵により存在が広められて、グンジョー市のみならず王都にもその名が知られるようになり、たくさんの貴族が買いに来るようになるが、ドズルはお菓子の販売数に制限を設け、貴族の買い占めを許さなかった。そのせいで希少価値が出て、いつしか満腹亭のお菓子はブランド化されていく。

 ブランド名は『テンマ印』、この事を耳にしたテンマはものすごく恥ずかしくなり、いつか直接文句を言いに行こうと誓うのだった。


                                         ドズル編完



ギルド編


「副ギルド長、大変です。今週は冒険者たちの魔物討伐数が先週と比べると、3割程落ちています」


「落ち着きなさい!それは当たり前です。今週からテンマさんがいないんですよ」 


 慌てていた職員は、そうでした!と言って席に戻っていった。

 通常であれば、少年が一人で魔物の討伐数の3割近くを狩っている、というのはおかしいどころか異常なことの筈なのに、うちの職員達は、テンマさんがやった、と言ったら、無条件で納得するくらいには感覚がマヒしているようだ。


「これはよくないかもしれませんね」


 職員の感覚がマヒしているということは、一般(・・)の冒険者達に無理な討伐を、無意識に押し付けてしまう危険がありますね……ギルド長に相談してみましょう。


「ギルド長、失礼します」


 私はギルド長の部屋をノックしたが……返事がない。仕方なく勝手にドアを開けると、


「あの男は……またサボりですか!」


 部屋の中は空っぽだった。いつもの事とは言え、せめてひと声かけてからサボればいいものを……まあ、そんなふざけた事を言ったら確実に午前様にしてやりますけどね。


 怒りを覚えながら仕事をしていると、


「ギルド長!」


 冒険者の影に隠れて、こっそりと戻ってきたギルド長を見つけた。


「悪い悪い、ちょっとした気分転換だ」


「あなたのどこに気分転換をする必要があるんですか!」


 そう怒っていると、ギルド長が何やらいい匂いのする包みを持っているのに気がついた。


「なんですかそれは?」


「あっ、これを分けてあげるから、今回は見逃してくれ」


 そう言って私の手に握らせてきたのは、


「満腹亭のシュークリームですか」


 最近大人気の満腹亭のお菓子だった。


「いや~、昔のコネで何とか取り置きしてもらったんだ。なっ、これで許してくれ」


 この私をシュークリームごときで買収しようとは……いい心がけです!


「ありがとうございます。ありがたく貰っておきます」


 そう言って、包みごと(・・・・)受け取り、


「皆さん、ギルド長からの差し入れです。数が少ないので行き渡らない人には、後日ギルド長が持ってきてくれるそうです」


 と、職員達に向かって大声を出した。


「ちょと待てぃ!そんな事一言も……」


「ですよね。ギルド長」


「いや、それは……」


「ギ・ル・ド・長」


「はい……」


 こうして約束を取り付けたのはいいのだが、肝心な事を相談するのを忘れていて、大変な思いをするのでした。


                                         ギルド編完 



山猫姫編


「そっちに行ったよ!ネリー!」


「わかった、リリー。ミリー、フォローお願い!」


「は~い。よいしょ!」


 今日は三人で、街の近くにある畑にうさぎ退治に来ています。

 うさぎと言っても、ウサギ型の魔物の事で、頭に10cmくらいの角が生えている『角うさぎ』と言います。

 肉は食用、角は加工品や漢方薬になり、何より毛皮が女の人から人気があります。

 討伐推奨ランクはD以上、私達なら楽にこなせる仕事の筈でした。


「リリー、なんかおかしいよ!数が多すぎる!」


 先程から三人ですでに30羽以上は狩っています。本来なら角うさぎは繁殖期を除いて、群れの数が10を超えることは滅多にありません。例えいくつかの群れが繁殖目的で集合したとしても、子うさぎや妊娠しているメスうさぎがいないのはおかしい事です。

 でも、角うさぎは一般の子供でも狩る事が出来るくらいの魔物なので、私達に怪我なんかはありません。ただ、疲れるだけです。

 本来なら私達はこんな仕事をしなくてもいいのです。実はこの間の盗賊団の討伐のお金が丸々残っているのです。あの時はテンマにおんぶに抱っこ状態だったので、得た賞金のほとんどはテンマに権利があると私達は思っていたのですが、それではダメだと300万G程テンマから渡されました。最初は半分渡そうとしたテンマでしたが、さすがにそれは取り過ぎだし、そんな大金を持つのは怖かったのでこの値段にして貰いました。

 しかしそのお金を得た事で、私達に欲が出てきました。まあ欲といっても、私達の弟妹(ていまい)をいい学校に行かせてやりたいというものですけど。

 王都の学園とまではいかなくても、それなりの大きな都市なら一般人でも普通に通える学園はあります。しかし、当然ながらお金が掛かります。しかもグンジョー市には小さな学校しかないので、ちゃんとした所に通わせるとなると下宿の費用も含めるとかなりの金額になってしまいます。それが五人分……

 だから私達は働きます!危険が少なく、討伐の報酬が出て、尚且つ素材がお金に変わる獲物を求めて!

 

「二人共、一旦仕留めたのを回収して街まで戻ろう」


 そう提案した時でした。茂みの中から、1mはあろうかという角うさぎが現れて、


「ピィーーーーーーー」


 甲高い鳴き声を響かせました。その鳴き声に反応するように、周囲から、どこに隠れていたんだ、というくらいの大量の角うさぎが現れて、私達を取り囲みました。


「うわっ!何なのこいつら」

「一匹なら可愛いのに、こんなにいると怖いよ!」


 ほかの二人も驚いています。角うさぎがいくら小さいからと言っても、40cm程の魔物に取り囲まれては怖がるのが普通です……ちょっと前までは、普通じゃない人とよく一緒にいましたけども。


「リリー、どうする?」

「なんかあのでっかいの、余裕の顔つきをしてるけど」


 ミリーの言葉にでっかい角うさぎ……ボスでいいや。ボスは憎たらしいくらいのニヤニヤ顔(そう見えるだけかもしれないが)でこちらを見ている。


「こうなったら、あのボスをやっつけるよ!」


 気合を入れて、三人で自慢の連携で攻撃を仕掛けるようにしました。その結果、


「ピィギィーーーーー」


 そんな断末魔の声をあげて、ボスはあっさりと死にました。


「……何こいつ、態度がでかい割に弱すぎ」

「完全な見掛け倒しだね」

「どんなにでかくても、角うさぎは角うさぎ、ってことなんだね」


 気合を入れていた分だけに、この結末は予想外のものでした。

 そして、この結果は、角うさぎ達にも予想外だったようで、


「ネリー、ミリー、角うさぎ達の動きが止まってる!今がチャンスだよ!」


 そう言って、周りの角うさぎ相手に無双していきました。


 


「お帰りなさい。山猫姫の皆さん」


 へとへとになってギルドにたどり着くと、ここ最近で仲良くなったフルートさんが出迎えてくれました。


「「「ただいま~、フルートさん……」」」


「あれ?何だか異様に疲れてません?」


 そう言うフルートさんの目の前で、私はマジックバッグを逆さにしました。このバッグは、テンマがこの街を出る前に私達にくれた物で、大変重宝している宝物です。


「な、何ですかっ、この数は!」


 ドサドサっと出てくる角うさぎ(血抜き済)を見て、驚いた声を上げるフルートさん。

 その様子を後ろで見ていた人達からは、


「おい、あれを見ろよ。やっぱりテンマと行動すると、加減ができなくなるみたいだぜ」

「いや、そうじゃなくて、魔物に出会いやすくなるんだよ」

「何だそれ、羨ましいじゃねえか!」


 とか言う声が聞こえてくる。それを無視して、私達はフルートさんに事情を説明しました。


「ホントですか、それ。そんな大きな角うさぎが、大群を率いていたなんて……」


 少し疑っているフルートさんに、私はボスの死骸を見せた。


「ちょっとギルド長を呼んできます!」


 そう言って、すぐにギルド長を連れてきました。ギルド長は死骸を一目見るなり、


「こいつはキング角うさぎだな。あまり知られていないが、角うさぎにもキングがいるんだ」

 

 と言って、角うさぎの後ろ足を持って釣り上げ、


「こいつらは、キングになっても弱っちくてな。ほかの魔物や獣に食べられちまうことが多いんだ。なにせ、弱いくせにでかくて美味いからな」


 説明を終えたギルド長は、後は任せた、と言って戻って行きました。


「フルートさん、いくら角うさぎでも100匹以上の討伐は難しいよ」


 いくらギルドにとっても想定外の事とは言え、愚痴の一つでも言いたい気分でした。


「ほんっとうにごめんなさい!完全にこちらの調査ミスです。角うさぎの群れというから、多くても20も行かないものだと思ってました」


 今回は角うさぎが相手だったからいいものの、これがオークなんかだったら、下手すれば私達は死んでいたかもしれません。それくらい大変なことなのです。


「取り敢えず換金と報酬をお願いします。もちろん多少の上乗せもね!」


「はい……リリーさん、何だかテンマさんに似てきましたね」


 そうかな、と思いつつ、私達は色をつけてもらった報酬を受け取り、宿に帰りました。

 最近では宿は満腹亭を利用しています。おやじさん達の好意で、テンマの使っていた部屋を優先的に回してもらえるのです。


 部屋について今日の事を三人で話し合いました。最近よく話し合うのですが、最後には、


「「「やっぱり、テンマが悪い!」」」


 と、合言葉のように結論づけるのでした。


 後日聞いた話ですが、ギルドでは私達にしたようなミスが、他にも何件か出てきたので、研修と称してギルド職員達による、簡単な討伐が決定されたそうです。


                                         山猫姫編完



グンジョー市騎士団第四部隊編


「そこ!気を抜くな!お前は腕が下がってきているぞ!」


 最近の総隊長は第四部隊にかかりっきりです。私個人としては良い訓練ができるので嬉しいのですが、部隊長の私としては、とても恥ずかしいと思っています。


「プリメラ!ぼけっとするな、そこで二人がダウンしたぞ、片付けろ!」


 その訳は私の目の前に、あまりにも惨めな光景が広がっているからです。


 私の隊は、貴族の三男か三女以下の者達が隊の大半を占めています。理由はわかりませんが、もしかしたら私のような未熟者が隊を率いるには、同じく未熟者がお似合いということなのか、と最近では思うようになりました。

 なので総隊長の訓練で力を付けて、少しでもテンマさんに近づきたいと思っています。


 初めて会ったときは衝撃的でした。見かけは子供なのに、その身に纏う雰囲気は、まるで歴戦の強者、という感じを受けました。

 私は公爵家の三女で、公爵家の継承には、まず間違いなく関わる事はないでしょう。一応継承権はありますが、兄が二人に姉が二人いるので早々に諦めました。

 幸いにもお父様は、政略結婚にはあまり興味がないようで、ほかの貴族から結婚話が来ても、プリメラは騎士として生きていくようなので、この話はなかったことに……と断っているようです。

 

 話がそれましたが、公爵家という関係上、色々な一流の軍人や冒険者などを目にする機会が幼い頃より多々ありました。しかしテンマさんは、その人達が持つ雰囲気に似ている……いや、それどころか圧倒していると言っていいくらいでした。

 私の部下と揉めた時なんか、テンマさんの殺気にあてられ、不覚にも動くことが出来ませんでした。

 その後、何度か会う機会がありましたが、その度に私よりも年下だということを忘れて、尊敬する気持ちが大きくなっていきました。

 テンマさんに敬語を使って話す私を見て、他の隊長なんかは、どっちが年上の貴族かわからんな、とよく言うくらいです。

 それも仕方ないかと思いました。なにせ相手は、たった一人で貴族の雇われ達を敵に回して、傷一つ負わずに完勝したり、私達がまとめて相手になっても、全然敵わないのですから。


 そんな事を考えているうちに、私の隊の貴族出身の者達は、皆地面に這いつくばっていました。


「よし、今日はここまで。きちんと休んで、明日に疲れを残すなよ!」


 総隊長はそう言って訓練所を後にしました。


「皆大丈夫か?」


 その言葉に、大丈夫です~、と何だか間の抜けた声が聞こえてくる。

 第四部隊の者達は、他の隊の者達から馬鹿にされることも多かったが、最近ではこんな猛特訓をしている姿を見て考えを改める者も増えたようで、アドバイスをしてくれる者も出てきた。


 その事を考えると、テンマさんに騎士団のトップ達がこてんぱんにやられたことは、逆にいい薬になったのだろう。私の隊にも気位が高く、貴族特有とも言える傲慢な者もいたが、最近ではそのようなところを見なくなってきた。


 この調子で行けば、第四部隊は単なるお荷物部隊では無く、一人前の騎士部隊になる日もそう遠くではないと思える……その前に死人がでないといいんだがな。


 私は未だに這いつくばっている部下達を見ながら、そう願っていた。


                                グンジョー市騎士団第四部隊編完

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[一言] 今まで兎たちはシロウマルのおやつになってたのかな?
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