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第2章-16 次を目指して

これで第2章が終わります。

本日、二つ目

「……朝か、あれはただの夢……では無かったようだな」


 ベッドで寝ている俺の脇にひと組の腕輪と三つの首輪が転がっていた。

 俺は着替えて中庭に行き、早速シロウマルに首輪を嵌めてみた。


「オン?」


 首輪を嵌めたシロウマルに向かって、小さくなれ、と念じると、見る見るうちにシロウマルの体が縮んでいき、最終的には1.5m程にまで小さくなった。

 首輪を嵌める前とでは、およそ二分の一くらいの大きさだ。それを見て俺も腕輪をしてみたが、何も変わったようには感じなかったが、腕輪は俺の手首の辺りに、吸い込まれるようにして同化していった。

 慌てて外そうとすると、腕輪はまた姿を現した。


 何度か試しているうちに、腕輪には使わない時は装着者の腕に同化する機能があり、念じれば現れるようになっているようだ。

 ちなみに、腕輪を離れた所において、念じたら本当に戻るのかも試してみたら、本当に俺の腕に現れた。


 いきなりシロウマルを小さくすると余計な勘ぐりをされるので、この街から出るまではいつも通りの大きさで居させよう。

 今度は、元に戻れ、と念じると、いつもの大きさに戻った。どうやらこの首輪は、眷属の大きさに関係なく嵌める事が出来るみたいだ。さすが、神様直伝の道具である。


 その日は朝飯を食べたら、一日中旅の準備をしていた。

 食べ物関係は、マジックバッグがあるので日持ちを考えずに、買った端からバッグに放り込んでいった。

 さすがに腕輪に直接入れると余計なトラブルを招きそうだったので、一旦元からあるバッグに入れてから、腕輪に移し替えるという回りくどいやり方をして、両方のバッグに食料を貯めていった。

 

 水、酒、食料、調味料、回復薬と買い込んでいるうちに、裏道の露天商で気になる物を見つけた。

 それは一見したら小汚いナイフだったが、妙に気を惹かれるものだった。


「これを持ってみてもいいか?」


 と、露天商の親父に尋ねると、


「あんたも物好きだね~。そんなボロい物を見たいなんて……買ってくれるならまけるよ!」


 と、言っていたが、それ以外の物と一緒に鑑定してみると、


 オリハルコンのナイフ、ミスリルの小刀、アダマンティンの剣、アダマンティンの手甲、アダマンティンの鎧


 と、かなりの……いや、めちゃくちゃ良い品物ばかりだった。ただし、それぞれの表面には薄く鉄や銅が塗られており、それらが錆びたりして表面上はボロく見えるのだ。


「これらは全部でいくらだ?」 


「買ってもらえるのか?だったら、金貨2枚……いや、1枚と大銀貨5枚でどうだ?」


「う~ん……まあいいだろう。直せばそれなりに使えるだろう」


 と、ちょっとした芝居を入れて、バッグからお金を出して渡し、商品を引き取ってバッグに入れた。


「おっ、あんたはマジックバッグ持ちなのか、だからこんなボロいものでも買おうと思ったのか。修理に出したら使い物になるぜ!なんせ見た目はボロイが頑丈だからな」


 と、言っているが、全部を修理したら、それこそ白金貨数枚分の価値がある物なので俺のボロ儲けだ。


「毎度有り~」


 と、親父の顔は随分とにやけていたが、俺の方が礼を言いたいくらいだった。


 宿に戻って、早速ナイフと小刀をきれいにしていく。方法は簡単だ。ただこの2本を、互いにぶつけ合うだけだ。

 ナイフは刃渡り20cm、柄の部分が15cm程のサバイバルナイフのような物だ。

 小刀の方は脇差と言っていい物だ。何せ見た目がほぼ日本刀の造りで、鞘こそないが、片刃で少し反りがある。刃渡りは40cm、柄が20cmちょっとの大きさだ。


 二本の峰と峰を叩き合わせると、ポロポロ、と表面の金属が剥がれ落ちて、その下から曇り一つ無い刀身が現れた。

 アダマンティンの剣は、シンプルな造りのグレートソード型で、刃渡り1m、柄が50cmとかなり大きかった。こちらはオリハルコンのナイフで、表面を削るようにしていくと、黒っぽい刀身が現れてきた。

 鎧と手甲は俺にはサイズが合わないので、しばらくはバッグに死蔵する事になるだろう。


 細かいところまで綺麗にしていると、あっという間に2時間近く経っていた。外は薄暗くなっており、食堂からはいい匂いが漂ってくる。

 俺はシロウマルに、ある実験をする為、念じて小さくし部屋に出した。


「シロウマルご飯だよ、お食べ」


 シロウマルに、いつも食べさせている量の半分ほどの餌を与えてみると、最初は勢い良く食べていたが、半分ほど食べ終わる頃には目に見えて勢いがなくなり、


「ゲェップ」


 と三分の一程を残して食事をやめた。


「よしっ!これで量が抑えられる!」 


 これで節約できるし、食事の用意が少しは楽になる。そう思うと、俺は自然とガッツポーズをしていた。


「よし、俺も飯にするか」


 そう言いながら、スラリン用の餌と水を置いて食堂に向かった。


 食堂に入ると朝は気がつかなかったが、妙に機嫌が良く肌がつやつやのおかみさんと、ひどくやつれて老け込んだようなおやじさんがいた。


「……テンマか……俺は頑張ったぜ……夜も、昼も……な」


 何があったのか気にしないようにして、


「大変だったんですね……これをどうぞ、お手製の回復薬です」


 そう言っておやじさんに渡そうとすると、


「悪いね、テンマ!ゴクッ、ゴクッ、あら、意外と飲みやすいんだね!」


 と、おかみさんが横から取って、一気に飲み干した。

 ……その時のおやじさんの顔を俺は忘れないだろう……あれはまるで、砂漠のど真ん中でオアシスを見つけて、這這の体で近寄ったら、無残な事に蜃気楼だった……そんな絶望の顔であった。


 俺は、ジョーのように真っ白になっているおやじさんに、


「……何と言うか……頑張ってください……」


 そう言って、おやじさんの手に回復薬を二本握らせ、さらに、ポケットに四本程突っ込んでその場を後にした。


 俺はそのまま席に着き、


「おかみさん、おすすめをください!」


 何事もなかったかのように、注文をした。


「はいよ!あんた、おすすめ一丁、追加!」


 おやじさんは、その言葉にもぞもぞと動き出し、手にあった回復薬二本を一気飲みして、


「あいよ~」


 と、厨房に入っていった。出てきた料理は、心なしか少し塩味が強かった。

  

「あっ、おかみさん、俺、明日には出ようと思っています。お世話になりました」

「はぁ~~~!いきなりだね、あんたは!」


 おかみさんの驚きは最もだった。


「あんたー!ちょっとおいで!」


 おかみさんはおやじさんを呼びながら外に出ていき、ドアに『本日休業』と書いた札をかけた。


「どうした~……」


 まだ本調子じゃないおやじさんが、ぬぅと現れた。おかみさんから事情を聞くと、


「なにぃーーー!」

 バタンッ


 無理して叫んだせいで倒れてしまった。


「おやじさーーーーん!」

「あんたぁーーーー!」


 周りの客も騒ぎ出して大変だった。

 おやじさんはそれから一時間ほどで気がついた。


「はっ、変な夢を見た!」


「あんた……夢じゃなくて、テンマが明日、この街を出て行くそうだよ!」

「まじでっ!!!」


 おやじさんは、驚きすぎてキャラ崩壊を起こしかけていた。


「ごめんよ、おやじさん。でも、すぐに行かなきゃいけない気がするんだ」


 夢で武神に教えられた事を、おやじさん達に話す訳にはいかないのでそう言ったが、


「そうか……冒険者は勘も大事だからな……しかたがない」


 おやじさんはあっさりと納得した。


「おやじさん。これ、二年以上お世話になったお礼です」


 そう言って俺はおやじさんに、数枚の束ねた紙を差し出した。


「こっちは商売なんだから、気にしなくてもいいのに………マジかこれっ!」

「どうしたんだい……本当に!」


 おやじさんに渡した紙は、俺の知っているお菓子のレシピのうち、再現に成功したものだ。


「お前……これだけでもひと財産だぞ!」


 実はこの世界は、甘味のレシピが少ないのだ。その理由として、砂糖が高く、甘味と言ったら果物、というイメージが強い事があげられる。

 下手に砂糖を使ってはもったいないし、生の果物や加熱した果物、ドライフルーツなどをパンやクッキーに混ぜたり、砂糖を直接かけるだけでも、それなりに甘く美味しいものができるので、それで十分という人が多いのだ。


 レシピには、ドーナツ、ホットケーキ、プリン、シュークリームなど特に難しくなく、それでいて女性や子供に受けそうなものを選んで書いた。


「心配しないでください。それに書いてないレシピもあります。そこに書いてあるのは、ここの厨房でも簡単に作れるもので、さらに工夫次第で色々な味が作れるものです。そして、保険としてサンガ公爵様にお墨付きをもらってあります」


 そう言ってバッグから書類を出すと、二人はホッとしていた。その訳は、かなり昔に王都の料理屋で甘味のレシピを貴族が無断で商売に使い、抗議した料理屋の主人を死刑にした、という実話があったからだ。


 そのため、この間の話し合いの時に俺がサンガ公爵に相談すると、


「じゃあ、一筆書いてあげよう。これでその店に何かしたら、それは私に喧嘩を売る行為と同じ、という事になるからね」


 と言って、あっさりと書いてくれた。


「ただ条件があって、たまに公爵様からの使いがきますので、お菓子を作って渡して欲しい、との事です」


 サンガ公爵クラスになると、例え王族だとしても簡単に手が出せないため、最高クラスのセキュリティだとも言える。


「それくらいならお安い御用だ」


「これで毎日、お菓子が食べられる!」


「おかみさん、食べ過ぎると大変なことになるからね。特に女性の秘密が……」


 俺の言葉におかみさんは、一瞬動きを止めて、


「これでたまに(・・・)お菓子が食べられる!」


 リテイクした。どの世界においても、女性にとって体重は憂慮すべき事柄らしい。


「とにかく、ありがたく使わせてもらうぜ」


 その後はおやじさんに、レシピの事で質問を受けながら最後の夜を過ごした。



 その日は旅立ちにふさわしく、青く澄み渡った空だった。

 朝早いにも関わらず、見送りにはこの街で親交を深めた人達が集まってくれた。

 リリー達におやじさんとおかみさん、フルートさんにギルド長、セルナさんにマルクスさん、プリメラに隊長達。

 それぞれ用事があるだろうにも関わらず、顔を出してくれた。


 皆とは別れの挨拶は済んでいるので、軽い挨拶だけかわしていく。

 その時に皆は思い思いの選別をくれた。手作りの軽食や食材に飲み物、治療セットに手書きの地図などを用意してくれていた。


「テンマ、これを持っていけ」


 そう言ってアランは、壊れた剣や槍、防具などをくれた。


「これは修理が難しいものばかりだが、テンマだったら作り変える事が出来るだろう」


 確かに俺の錬金術なら可能だろう。ありがたく頂いておこう。


「テンマさん、これはお父様からです」


 プリメラは蝋で封をしている封筒を渡してきた。開けてみると、


「これはもしかして、サンガ公爵家の紋章ですか」


 中に入っていたのは、手のひらサイズの六角形の金属板の中につがいの鹿の紋章が描かれていて、板の上の方に紐が通されていた。


「はい、そうです。これを持っていれば、何かあった時に役に立ちます。それと伝言があって、この紋章は色々と迷惑をかけたお詫びです。遠慮なく使ってください。ただ、悪用だけはしないでくださいね、との事です」


「お気遣いありがとうございます。もちろん、悪い事には使いません。そう伝えください」


「了解しました。テンマさん、お元気で」


 俺はその言葉を受けて馬車に乗り込み、


「皆、これまでありがとう。また、この街にやってくるよ!」


 タニカゼをゆっくりと進めさせた。

 俺は皆が見えなくなるまで後ろを向いて、手を振り続けた。

 やがて皆が豆粒よりも小さくなり、見えなくなったところで前に向き直り、寂しさを振り切るようにタニカゼの速度を上げた。

リリー達がおとなしすぎる感じがしますが、心に折り合いをつけたらこんな感じかな、と思ってあえてセリフ無しにしてみました。


ちなみに、王都で問題のあったお菓子は、メロンパンのようなもの、という設定です。その貴族は王様から死刑にされています。

甘味として、はちみつやジャムもありますが、養蜂技術が難しいため、はちみつは砂糖以上に高く、ジャムも果物の煮込み、みたいな感じで甘味が弱いです。


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