第2章-15 夢での邂逅
15で2章を終わらせようとしたら、思ったよりも長くなってしまったので、2つに分けました。
本日、一つ目
さあ、突然ですが問題です!俺は今、どのような状態でしょうか?
1、正座している。
2、正座して怒られている。
3、正座して、すごく怒られている。
チッ、チッ、チッ、チッ、チーン!
正解は、4、リリー達と一緒に正座して、おかみさんめちゃくちゃ怒られているでした~……はぁ、なんでこうなった。
原因はリリー達のピー音だ。三人同時にしたせいで、思った以上の大きな音になってしまったのが原因だ。
おかみさんは、最初はリリー達だけを怒っていたんだが、リリー達が、テンマに唆された、と俺を主犯のように(まあ、完全に否定は出来ないが)仕立て上げたので、俺にも雷が落ちたのだ。
「テンマ!ここは食事処でもあるんだよ!何をさせているの!」
「いえ、おかみさん。俺はただ……」
「言い訳はいいの!」
「はい、すいません!」
このように、言い訳すら聞いてもらえない状況が、先程から続いていた。
「おいおい、そろそろいいだろう?テンマ達に悪気があった訳ではないんだ」
「あんたは黙ってて!」
「……はい」
おやじさんの援護射撃は不発に終わってしまった。
「おかみさん、ごめんなさい!」
「悪気はなかったんです!」
「ただ、楽になりたかっただけなんです!」
「「「悪いのはテンマです!許してください!」」」
「ちょっと待て、お前ら!俺は助言をしただけだ!」
「テンマが余計な事を教えるから悪いんだよ!」
「そうだよ!私達はそれに従っただけだもん!」
「大体、テンマがこの街から出ていくのがいけないんだよ!」
「そんなの関係ねぇーーーー!」
そんな漫才のようなやり取りを見て、
「あんたら、いい加減にせんかーーーーー!」
おかみさんの声が、街に響き渡った。
ちなみに、その声を聞いた巡回中の第四部隊があまりの迫力に敵襲と勘違いをして、街の内外を夜通し警戒したそうだ。
やっとの事で解放されたのは、もう少しで日付が変わろうとする時間帯だった。もちろん飯抜きだ。
ものすごい精神的疲労と空腹を感じながら部屋へと戻ると、シロウマルがバッグから顔を出して餌の催促をしてきた。
あまりにも疲れていたので、無視して寝ようとすると、
「ク~ン(ギュルルルル~)」
「ク~ンク~ン(ギュルル、ギュルルルル~)」
「ク~ンク~ンク~ン(ギュルル、ギュルル、ギュルルルル~)」
シロウマルが、世にも不思議なハーモニーを奏でだした。
「わかったから、ちょっと待ってくれ」
そう言いながらバッグの中を漁ると、
「生肉しかないけど、別にいいよな」
そう言った瞬間、シロウマルがヨダレを垂らしだした。まるでパブロフの犬(狼)だ。
ロックバードとボアの肉を放り込むと、すごい勢いで食べていった。
「お前の食料の確保も考えておかないとな……」
そう呟いている間に、シロウマルは放り込んだ肉を食べ尽くした。
「早いな~、もう少し味わって食えよ……」
腹を満たしたシロウマルは、ウォン、と一声吠えると、丸くなって寝息をたて始めた。
「はぁ~、旅の初めは食料の確保からだな。主にシロウマルの……」
そう言いながら、俺も寝床についた。
食欲よりも睡眠欲の方が強かったみたいで、ベッドに横になった俺は、空腹を感じるよりも早くに眠り、夢の世界に落ちていった。
しばらくして目を開けると、目の前にはどこまでも白い空間が広がっていた。
「……何だ夢か、もう一回寝よ」
夢だとわかったのだが、あまりにもつまらなさそうなので、目を瞑ろうとしたら、
「やっほ~、久しぶり!」
と、声をかけられた。目を開けて振り返ると、
「15年ぶりだけど覚えてる?僕だよ、創世神だよ!」
目の前に現れたのは、俺をこの世界に連れてきた神だった。
「久しぶり。そしてお休み」
「うん、おやす……じゃないよ!起きてよ!テンマ君!」
強制的に起こされる俺、
「今更なんのようだ?転生させたら関わりが無くなるんじゃないのか?」
「そんなことはないよ。十数年に一回ぐらいだけど、転生者の夢の世界と僕達が創った空間とを繋ぐ事ができるんだ。人数は限られるけどね」
創世神がそう言った瞬間、俺の首筋に悪寒が走り、体が勝手に動き出した。
「テ・ン・マ・ちゃん!ちゅ」
その時の俺は前世も含めた人生の中で、最速で最適な動きだったと思う。
首筋に悪寒を感じた俺は思いっきり前方に踏み出して、創世神を俺の立っていた位置と入れ替えるようにして引き寄せた。その結果創世神は、俺を後ろから抱きしめてキスをしようとしていた武神と抱き合うことになった。情熱的なマウス・トゥ・マウスのおまけ付きで……
「なにさらすんじゃ、このボケェ!いてまうぞ、コラ!」
「それはこっちのセリフだ!このオカマ!」
そんな醜い罵り合い……からの殴り合いを見ていると、
「おう、テンマ!久しぶりだな!会いたかったぜ~!」
横から技能神が現れた。
「ああ、久しぶりだな。ところで、俺はどうしてここにいるんだ?」
よくよく見てみると、ここは転生する時に、最初に連れてこられた空間に似ているのだ。
「ここは、前に俺達が会った場所ではではないが、似たようなもんだとでも思ってくれ!それで、呼んだ理由だが、軽い聞き取り調査みたいなもんだから気にしないでもいい。世間話でもしに来た、くらいに思っていてくれ」
「そういうもんか……で、今日は何人で来たんだ?」
そう聞くと、技能神は指を折りながら、
「俺とあそこの二人と獣神の四人だな」
「獣神はどこに……」
クンクンクン……
「おわっ、ビックリした!」
いつの間にか俺の背後に現れて、匂いを必死に嗅いでいた。
「……久しぶり」
クンクン……
引き離そうとしても、強い力で鼻を寄せてくる。だが、オカマと違い特に害は無いので諦めて、
「それで、何を話せばいいんだ?」
「ああ、特にはない。大体の事は見ていたからな」
その言葉に気が抜けてしまった。
「じゃあ、来なくても良かったんじゃないか?」
「ひや、しょんなこちょはにゃいんだよ。ヘンマふん」
何を言っているのか分からない声がした方を見ると、顔をボコボコに腫らした創世神がいた。相手をしていた武神は、大したダメージを受けていない様子だ。
「取り敢えず顔を直せよ。何を言っているかわからないから」
「ひょうだめ、へい!」
そう言うと見る見るうちに傷が治っていった。
「最初からそうしろよ」
俺の言葉に創世神は、
「これってこの場所でやると、かなり疲れるんだよ」
と、笑っていたが、突然真面目な顔になって、
「実はね、テンマ君。このままじゃ君、精神と肉体のバランスが崩れてしまって、いずれ死んじゃうよ」
と、衝撃の発言をした。
「はぁあ!どういうことだよ、それ!」
興奮する俺を創世神は宥めるように、
「あくまでも、このまま何も対策を取らなかったら、の話だよ」
「その言い方なら、何か対策があるってことだよな?」
幾分落ち着いた俺は、創世神にそう聞き返すと、
「うん!これを使うといいよ!」
チャララチャチャッチャラ~、〇〇~(初代の声で)みたいな感じで、二つの腕輪のようなものを懐から取り出した。
「何だ、それ?」
「これはね、テンマ君の力を抑える効果のある腕輪だよ。抑えるって言っても、今現在の能力が落ちるわけじゃなくて、これ以上はテンマ君の体が持たない、ってなる前に発動する道具なんだ。具体的に言ったら、古代竜クラスを楽に倒せる、から、古代竜を頑張ったら何とか倒せるかも、まで抑えることが出来るんだ」
わかったかい、の〇太君、みたいなノリで言っているが、
「古代竜を倒せるかも、ってだけで十分に化物なんじゃないか?」
と、この世界(神を除く)で最強クラスの化物を、ちょっと強いくらいの魔物、みたいに言われても想像がつかなくて困るわ!
「実は君が転生した時に、あの場に居た皆が張り切りすぎちゃって……テンマ君の能力の最高予測値が、人類史上最強を簡単に超えてたんだ。しかも、現在進行形で予測値が上昇中なんだ」
話によるとこれまでの最強は、能力値が平均でS~S-の間くらいだったらしい。
俺の最初の予測値は、最低がS+だったのに、今ではSSだそうだ。
「だからこそ、この腕輪を皆で作ったんだよ。これをしていれば成長しても、何とかギリギリで人間の強さの範疇に収まるからね」
創世神がそう言った後で、
「……これもやる」
と、獣神が三つの首輪を差し出してきた。
「これは?」
「………技能神」
「ああ、わかったよ。テンマ、代わりに俺が説明しよう。これは獣神に頼まれて作ったもので、首輪を嵌めた眷属を小さくする事が出来るもんだ!」
どうだ!と、技能神は獣神と共に胸を張っている。
「かなり便利だな。どれくらいまで小さくできるんだ?」
「大きさは個体によって変わるが、シロウマルなら大体1~1.5mくらいかな。ただし、タニカゼのような人工生命体や人間には効果がないぞ」
「……小さな状態でも強さは変わらない。さらに、食事量は少なくなる……」
思っていた以上に便利な物だった。強さが変わらないならダンジョンでシロウマルを出せるし、何よりも食費が抑えられる。
「ありがとう、二人とも。起きたら早速使わせてもらうよ!」
その言葉に、二人は嬉しそうに頷いていた。
「あっ、言い忘れていたけど、その腕輪にはマジックバッグの効果もついていて、かなりの量が入るよ!それと装着すると重さも感じないし、たとえなくしても、念じるだけで腕に戻ってくるよ」
と、これまたすごい機能が付いていた。
「本当にこんな物もらってもいいのか?」
「心配ないよ。これまでも転生した者にはたまにあげていたから。ナミタロウも持っているよ」
それからは久々に聞く名前を切っ掛けに話が弾み、いつの間にか目覚める時間が来たようだ。
「じゃあ、テンマ君またね。今度はもっと早くに会えるはずだから」
この腕輪には神達と会いやすくなる効果まであるそうで、短時間なら俺の能力を限界まで使うことも出来ると教えてもらった……まあ、発動できるようになるのは、あと二~三十年は先のことらしいけど。
創世神、技能神、獣神と挨拶を交わしていると、これまで不気味なくらいに静かだった武神が、
「テンマちゃん、本当はこんな事を教えてはいけないのだけど……あなたの家族が一人だけど生きているの」
武神の言葉に俺は一瞬、何を言っているのかが分からなかったが、
「誰だ!それは誰なんだ!教えてくれ武神、それは誰で、今どこにいるんだ!」
と詰め寄ったが、
「落ち着いて、テンマちゃん!悪いけど、詳しくは教えられないの……もし、そこまで教えてしまったら、その人物に不幸があるかもしれないの……」
武神は詳しく教えられない訳を、俺に話してくれた。
それは神達の呪いに似たもので、加護とは正反対のものであり、神が転生者以外に肩入れできないようにする、システムみたいなものだそうだ。
過去に神の一人が転生者に肩入れをしすぎて、関係者にまで過度な肩入れした結果、その関係者は皆精神に異常を起こし、そのほとんどが死んだそうだ。その数は1000人以上。さらに、その神自身も力を無くして消滅したそうだ。
詳しくは分かっていないが、この世界に必要以上に神の力を加えさせない為の、世界の防衛本能か、又はバグだろうと考えているらしい。
「だからごめんね。これくらいが限界なの」
「いや、それで十分だ。そこからは俺自身でやるよ。幸い、次の行き先のダンジョン都市は王都にも近いし、ダンジョンを求めて大陸中の冒険者なんかが集まるから情報も入り易いだろうからな」
俺は武神に礼を言った。そして武神と握手を交わしていると、
「あら、もう限界みたいね。じゃあね、テンマちゃん。また会おうね」
と、視界が白で塗り潰されていった。
久々に神様のご登場、となりました。
腕輪はこのままいくとテンマが、Dボール状態になりそうなので、急遽装備させました。