第1章ー2
サブタイトルは付ける時と付けない時があります。ご了承下さい。
天馬が拾われて3年がたった。ちなみに天馬を連れて来た男は名をリカルド。狩人をしている。奥さんはシーリアと言った。2人は元冒険者でかなりの実力者であったらしい。その他にもこの村には元冒険者が多くいる。
村の人口はおよそ200人。その内元冒険者は150人を超える。小さな村ではあるが農業の他に近くに良質な薬草が採れる大きな森があり、地理に明るく元冒険者でもある村人達が自分たちで採取したり、薬草を求めてくる者たちの道案内をしたりすることで利益を上げているため、裕福とは言えないが暮らしに困る事は無かった。
天馬は最近になって村の中を1人で歩くことを許されていた。それまではどこに行くにも母さん(シーリア)が付いてきて手を放してはくれなかった。まだ一人では森へ行くことは許してもらってはいないが、それでも一人で自由に歩けることに喜びを感じていた。
「お~い、テンマこっちにこ~い」
天馬に気が付いた村人が声を掛けてくる。どうも狩りからの帰りらしい肩には山鳥が数羽かかっている。
「マークおじさん、こんにちは」
「おうっ、こんにちは。みろテンマ、大猟だ!マル鳥が5羽とれたぞ」
マル鳥とは飛ぶことは苦手だが足が速く1~2kgほどの大きさの美味しい鳥だ。
「まあ、リカルドはマル鳥3羽に猪を仕留めていたけどな、あと少しで帰って来るだろうから解体の準備をして待っていよう」
このマークおじさんも元冒険者で父さん(リカルド)とはそのころからの知り合いらしい。待っている間に弓の扱いを教えてもらう。さすがに大人用の弓を引くことはできないが経験値としては貯まっていると思う。弓を扱っているうちに父さんがやって来た
「父さん、おかえり大猟だね」
「テンマただいま、今日はごちそうを母さんに作ってもらおう!」
父さんは上機嫌で肩にかけた鞄から猪を取り出しながら笑っていた。鞄から200kg近い猪が出て来るのにはいまだに違和感を覚える。
「相変わらず便利だな『魔法の鞄』は、羨ましい」
マークおじさんの言葉に気を良くする父さん。これは冒険者時代に苦労して手に入れた宝で、一流の魔法使いでも作るのが難しい代物らしい。効果としては500kgまでの生き物以外(死体などに寄生している虫や微生物や、卵のように生命活動が微弱なものは含まない)を収納できる優れものだ。
「便利な道具だがこれで中級のバッグというから驚きだ」
持ち主である父さん自身も言っているが、この世界には下から、「下級」「中級」「上級」「特級」「超級」「伝説級」「神級」といった区分がありこの区分は魔法にも適用される
「そういえば聞いたかリカルド?近々マーリンのじいさんが帰ってくるらしいぞ」
「『賢者』のじいさんか!初耳だ。ここを出て10年くらい経つだろ」
「『賢者』のじいさんってだれ?」
天馬の疑問にリカルドとマークが口をそろえて答えた。
「「変人だ」」
要領を得ない答えにマークが、
「歴史に残るであろう最強の魔法使いなんだが、変わり者としても有名でこの村に昔住んでいたんだ」
「過去にダンジョンから魔物があふれた時に、素っ裸で一人で突っ込んでいって撃退したとか、王様に謁見した時にはローブの下には何も着ていなかったとか、パンツ一丁で街を闊歩していたとかいう話がある」
リカルドの話を聞いた天馬は、
(変人じゃなくて裸族の変態か)
と思っていた。
「あっ、後魔法使いにしては珍しく『武神の加護』を持っていたらしい」
とのマークの言葉に少し納得した天馬であった。
「まあそんなことより、猪を解体して半分は焼いてみんなで食おう、マークは火をつけてくれ、テンマは近所の人を呼んで来てくれ」
「それはいいけど俺、今日は火打石を持ってきてないんだ」
「それじゃあしょうがない、じゃあマークが猪をさばいてくれ。俺が魔法で火を着けるから」
それを聞いた天馬はいい機会だと思い。
「父さん、僕が火を着けてみたいから、魔法を教えて」
と、言ってみたところリカルドは少し考えて、魔法としては初歩の初歩だということで教えてくれることになった。
「分かった、ただし魔法は使えない人も多くいるから出来なくても気にしないこと、出来たとしても大人の居ない所で勝手に使わないこと、これを守れるなら教えよう」
「わかった!約束するよ!」
その言葉にリカルドは頷きながらマークに近所の人を呼びに行ってもらうようにした。
「いいか、まずは心を落ち着かせて火を着けたいところに指を近づける、次に火をイメージして言葉にする、『火よ』」
リカルドが言葉を発すると集めていた落ち葉に火が着いた。
「手順としてはこれだけだ、簡単な魔法だからな。大切なのは明確に火をイメージすることだ、やってみろ」
リカルドの教えに結構単純なんだなと思いながら指を落ち葉に近づけて、
「『火よ』」
と、唱えた瞬間、一気に落ち葉に火が着き小さな爆発が起きた。予想外の出来事に天馬は後転するように転がってしまった。リカルドも驚き固まっていたが、すぐに辺りを確認し天馬を抱き起こした。
「テンマ!大丈夫か!」
慌てて確認するリカルドだったが、幸い天馬にケガ等はなかったためホッとしていた。そこへマークに呼ばれて向かっていたシーリアも慌てて駆け寄って来た。
「テンマ!何があったの!ケガはない!」
慌てるシーリアにリカルドが事情を説明していたが、天馬に攻撃魔法を教えたと勘違いされ怒られていた。
リカルドの必死の説明と天馬の説明により状況を把握したシーリアはしぶしぶといった感じで納得していた。
「取りあえずこの事は夜にでも話し合う事にして猪を焼いて夕食にでもしよう」
「わかったわ」
天馬の魔法に関しては一旦切り上げて集まった近所の人たちと共に夕食を食べたのであった。
その夜、天馬が眠るのを確認してリカルドとシーリアは話し合いをしていた
「私はテンマに魔法を教えるのはまだ早いと思うの」
シーリアは天馬がもう少し大きくなるまで魔法は教えない方がいいとの主張している。
反対にリカルドは、
「おれは逆に積極的に魔法を教えた方がいいと思う」
と反対の意見を言った。
「テンマにはかなりの魔法の素質が眠っていると思う。それも普通なら火傷をする程度の魔法が攻撃魔法なみの威力になるほどに、だ」
「だから大きくなってから教えないと危険だと思うの」
「シーリア、君が俺とは比較にならないほど魔力が高いのは十分に分かっている。しかし、テンマも現時点で俺を優に超えているだろう。そして君の魔力すらも、あと数年でテンマは超える。それほどの素質だと俺は思っている」
「何を根拠にしているの?」
「俺の元冒険者としての勘だ」
「勘…ね」
「信じられないか?」
「いいえ信じるわ、昔は何度もあなたの勘に助けられていたから、でも…」
「シーリア、言いたくはないがテンマは俺たちの本当の子では無いんだ、明日にでも本当の親が現れるかもしれない。善人ならいいが悪人と言うこともある。その時にテンマの素質に目をつけ悪用しようとするかもしれない、それならテンマには自分を守るすべを教えてやるべきだ。鋭いナイフを持ってしまっているなら知らない所で自己流で使われるよりも、目の届く位置で基礎からきっちりと教えた方がテンマの為にも俺たちの為にもなる」
「……わかったわ」
「明日の朝にでもテンマに話そう」
「ええ、でも一時は座学をみっちりと教え込むつもりよ」
「ああ、俺は少しずつ体の動かし方から教えていくつもりだ、魔法にしろ格闘術にしろ、最低限自分の体の使い方を知っていた方がいいからな」
こうして、天馬の教育方針を決めていくリカルドとシーリアだった。
天馬が才能の片鱗をのぞかせました。それによって教育方針を急遽決定したようです。
『賢者』のじいさんは次回登場予定です。変態エピソードは誇張されたものも多く混ざっていて事実とは異なるものもあります。