第2章-12 告白
あの後、俺達は騎士団本部へと足を運んだ。一緒にいるのは俺と公爵とプリメラとギルド長。その後ろから、こっそりとついて来ている者がいる。
本部で会議室を貸してもらい、今後のことについての話し合いを始めた。
「じゃあ、始めよう。まずは、ギース達の処分から…」
と公爵は話し始めたが、
「公爵様、話し合いの前に、私達に紹介する人が居るんではないですか?」
そう言って、ドアの方を見る。公爵は、そうだったね、と言って、
「入ってきなさい」
と呼びかけた、ドアから現れたのは、
「レギルの仲間がなぜここに!」
フードの男だった。プリメラが警戒して剣に手を伸ばすが、
「ここにいるということは、彼は公爵様の手の者、という事ですよ」
と言って、俺はプリメラの手を抑える。
「はあっ?どういうことですか!お父様!」
とプリメラは驚いた声を上げた。
「大方、公爵様がレギルのそばに送り込んだスパイ、と言ったところでしょう」
そうですよね、と公爵と男に向かって確認した。
「すごいね。そこまでわかってたんだ。その通り、彼は私の部下で主に諜報活動をやっている者さ」
とあっさりと白状した。男は焦ったように、
「公爵様!そのような事を教えては、今後の活動に支障が出ます!」
と最もな事を言っているが、
「しょうがないだろ。テンマ君にはバレてるし、プリメラは娘だし、ギルド長は…めんどくさい事はしない方ですし」
ですよね、と聞くと、ギルド長はコクリと頷いた。
「まあ、公爵様がそう仰っしゃるなら、信用しておきましょう」
と言った後、俺達に向き直り、
「先程は敵陣営にいたが、一応味方だ。名は明かせないが」
「ステイル、構いません。挨拶をしなさい」
公爵は、とことんこの男…ステイルを困らせていた。
「……ステイルだ。公爵様の元で働いている」
と、多少嫌々ながら自己紹介をした。鑑定によると、
名前…ステイル
年齢…29
種族…人族
称号…諜報員・暗殺者
HP…17000
MP…10000
筋力…B
防御力…B-
速力…A
魔力…B-
精神力…A
成長力…C+
運…B-
と、かなりの強さを持っていた。
「やっぱり、只者じゃあなかったんですね」
との俺の言葉に、苦虫を噛んだような顔をした後、
「だが、正面から戦ったら十中八九…いや、それ以上の確率で俺が負けただろう」
「搦手なら勝てる自信があると?」
と意地の悪い質問をしてみたが、ステイルは顔色を変えずに、
「そちらの方は正面からよりは、少し可能性が高くなるくらいだろう」
と淡々と言った。
戦国漫画で、忍者は究極のリアリストだ、と言っていたが、ステイルも似たようなものなのだろう。
「話が逸れたね。元に戻そう。ギース達は約束通り、私に権利を売る、という事でいいね」
「構いません。ついでにレギルに関しても、事前の打ち合わせ通りでお願いします」
との事で、話し合いのほとんどが終わってしまった。
「ギースやレギルは今後、どうなるんですか?」
「ギースは罪を調べた上で、軽くても鉱山送り重ければ死刑。レギルは恐らく死刑になるでしょう。こちらは王都に移送した上で審議にかけられますが、それは国家反逆罪が適用されるかを調べるだけで、決定権の多くは私にあります。国家反逆罪なら、レギルの家族は全て死刑ですが、ただの死刑ならレギルだけで済みます」
そこで一息入れて、
「まあ何かの横槍が入ったとして、死刑が免れたとしても、爵位剥奪の上で私財没収。さらに奴隷落ちになるでしょう」
まあ、私の裁量次第なのだけど、と笑いながら言った。
「では、それらが終わってから、私に報酬が渡されるわけですね?」
と聞くと、公爵は頭を掻きながら、
「そのことなんだけどね。あいつ隠し財産をたくさん所有していて、計算や犯罪性の有無を調べるのに1年近くかかるかも知れないんだ。そこで表向きの財産の分を先にあげて、隠し財産の方は計算が終わってからでいいかな?」
と提案してきた。俺は今のところはお金に困っているわけでもないので、
「その案で構いません。終わったら、ギルドに知らせてください。たまに確認に行きますから」
と合意して契約書を書いていく。それを以前と同じように、俺と公爵家とギルドで保管する。
契約書には、万が一に公爵に不幸があった場合でも、間違いなく遂行されるようにとプリメラが証人となった、との一文とサインを入れた。
「これで契約終了だね!それと、テンマ君。こちらがギース達の代金の100万Gで、こちらがレギルの私財の分の150万Gね」
と250万Gの入った袋を渡してくる。
「準備がいいですね。私がゴネるとは思わなかったんですか?」
そう聞くと、こうやって用意しておくのが公爵だよ、とはぐらかされた。
「今後もテンマ君は、ここを拠点に活動していくのですか?」
との公爵の質問に、俺は少し考えたあと、
「近々、この街を出ようと思っています」
と、ここ最近考えていたことを話した。
「何か目的でもあるんですか?」
「目的というよりは、目標です。私はいずれ、大老の森を踏破したいのです」
とあまり思い出したくない記憶だったが、俺がここに居る切っ掛けになった、とも言える存在を思い出しながら言った。
「あの森には、ちょっとした思い入れがあります。ですので、自分が踏破してみたいのです」
「あのククリ村の事件があった森ですか…」
と村の名前が出た時、一瞬体が強張ってしまった。運の悪いことに、それを見逃さない者がここには三人いた。
それぞれの反応は、一人は興味津々に、一人は警戒を強めて、一人はめんどくさそうに、と三者三様だった。
「何か訳ありですか?」
公爵の言葉に内心、しまった、と思ったが、
「ええ、親戚が巻き込まれて全員死んだ、と聞いたので……」
と誤魔化したが、公爵は、
「確認には行かなかったのですか?」
と聞いてくる。俺は話の筋が通るようにと、話を組み立ててから、
「ええ、当時の私は12歳でしたので、ククリ村までは遠かったのと、その同時期に両親が死んでしまったので、私を可愛がってくれた人達の死を、また確認するのが怖かったんです」
今では後悔していますが、と話した。公爵は幾分、怪しんでいたみたいだが、
「そうですか…、それならば仕方がありませんね。ククリ村は今では廃村になっていますけど、生き残った人達は、ラッセル市や王都に移り住んだ人が多いと聞いています。何かの機会があれば、その人たちに親戚の話を聞きに行ってみるのもいいでしょう」
と余計な詮索はしてこなかった。俺はこの時になって誰かに、俺が生きていて旅に出る、くらいは知らせてもよかったかもしれないな、と初めて思ったのだった。
その後、話し合いの場は微妙な空気が漂っていたので、早々にお開きとなった。
俺は帰りにギルドに寄って、賭けの換金を済ませることにした。
「テンマだ~」
「テンマ、おめでとう」
「テンマが勝つって信じてたよ~」
「おめでとうございます。テンマさん」
ギルドに入ると、リリー達とフルートさんが出迎えてくれた。
「待っていてくれたんですか?」
と聞くと、リリー達は、うん!と答えたが、フルートさんは、
「私は、決闘の後から仕事に復帰です。休職中の手当もたくさんいただきましたし」
満足だ、といった表情をしている。…あの様子では、かなりの額をもらったようだ。流石に副ギルド長だけあって、抜け目がない。
「ところで、テンマさん。ギルド長は?」
と俺の後ろを確かめるが、
「いつの間にかいなくなっていたので、先にギルドに戻っているのかと思っていましたけど…帰ってないんですか、ギルド長?」
との俺の言葉に、フルートさんの背後に、般若が現れた……ように見えた。
「ふっふっふっ、いい度胸ですね、あの親父。帰ってきたら、地獄を見せて差し上げましょう」
…ギルドに地獄の使者が現れた瞬間だった。余談だが、この日の夕食の時間帯に、街(主にギルド周辺)に男性の悲鳴が響き渡り、騎士団が出動する事態になった。
「ま、まあ、フルートさんそれは置いといて、換金に来たんですけど…」
と言ったところで、ようやくフルートさんの背後から、般若が一旦消えた。
「あっ、はい。賭札をお見せください……はい、確認しました。少々お待ちください」
そう言って、奥の部屋に入っていった。10分程でフルートさんは、お金の入った袋を持って来た。
「こちらが、今回の賭けの配当金の360万Gになります。お確かめください」
と中を見ると、大金貨が36枚入っていた。
「申し訳ないのですが、白金貨が不足していますので、大金貨の支払いになります」
と言っていたが、俺はどちらでもいいので、いつものように金貨だけをマジックバッグに入れて、袋は返した。
リリー達も今回の賭けで、10万G以上の収入があったらしい。そして、冒険者には俺に賭けた者が多いので、かなりの人数にお礼を言われたが、反面、俺を気に入らない奴や、レギルに賭けた市民にはかなり睨まれることになった。(自業自得なんだけどな)
「テンマ、今日は晩ご飯を一緒に食べよう!」
「そうしようよ!」
「もちろん、テンマの奢りで!」
と、ふざけながら言っているが、今日はかなりの儲けがあったので、それでもいいよ、と了承した。フルートさんもセコンドのお礼として誘ったら、遅くなるがそれでもいいなら、と了解を得たので、満腹亭にフルートさんの仕事が終わる時間に合わせて集合することになった。
フルートさんの仕事上がりまでには、まだ4時間近くあるので、一旦解散して、俺はおやじさんに夜の予約をするべく、宿へと戻ることにした。
満腹亭に戻ると、おやじさんは厨房で夜の仕込みをしていた。
「おお、テンマ。帰ってきたのか、今日はおかげで稼がせてもらったぞ」
と上機嫌に笑っていた。おやじさんに予約の事を話すと、任せろ、と了承してくれた上に、特別メニューを用意してくれることになった。俺もおやじさんに、ロックバードの肉や卵を渡して、何か作ってくれるように頼んだ。
予約が終わっても、まだまだ時間が残っているので、図書館へと足を運んだ。
その理由は、近々この街から出ると決めたので、どこかのダンジョン攻略にでも挑戦しようかと思い、目的地を探すためだ。
図書館は三階建ての建物で、一階は受付や、メモするための紙などを販売している売店があり、二階には物語や旅行記などの娯楽系の書物で、三階が専門書や学術書などの本が所蔵されている。
俺はいつもは三階で、魔物の勉強や魔法の参考のために利用することが多いが、今日は珍しく二階の利用だ。
この世界の紙で出来た本は貴重なので、貸出などはしていなく、壊したり破いたりすると程度により、罰金や最悪投獄もあるという。
そのため勉強熱心な者などは紙を買ったり、持参したりして書き写す者も多くいる。字が読めない人のため、手の空いた職員に代読してもらうこともできるが、これは30分で50G必要になる。
入館には一日、200Gで館内で迷惑行為などをしなければ、帰る祭に100Gが戻ってくる仕組みになっている。
二階に上がった俺は、司書にダンジョン関係の話が載っている旅行記などを探してもらい、その中からいくつか街や地域の名前を紙にメモして、三階の専門書などで詳しく調べて候補を比べていく。そうすると、3ヶ所に絞られた。
一つ目はこの街から西に100km程の所にあるダンジョンで、三十五年前に発見、その二年後には攻略されている。深さは地下20階で、規模としては小型の部類に入る。
二つ目はこの街より北西に300km程で、王都からは200kmくらい離れている。ここはダンジョン都市と呼ばれる街にあり、二十数年前に発見されたが攻略はされておらず、深さは地下100階は超えているのは確実とされている。規模は特大。
三つ目は一つ目のものから、さらに西へ500km程にあり、ここもダンジョン都市で三十二年前に発見、その三年後に攻略済み。深さは地下45階、規模は中型。
これらを比べながら、なんとなく手元にあった、初めてのダンジョン、という本を開いてみた。
ダンジョンとは主に、迷宮と地下迷宮を指す。しかし、例外として魔力が暴走して、空間に歪みができ、それを入口として、異次元にダンジョンができることもある。その場合の多くは、その入口周辺に似たダンジョンになるが、魔物などはほぼ生息せず、また、脱出も困難である。見つけても入らない方が良い。これまでに2つの発見例が有り、犠牲者は200人を超え、生還者は20人程である。
迷宮は魔力が濃い樹海などを指す言葉であり、核が存在せず、また攻略という概念がないが、人によっては、中心部にたどり着くことを攻略と呼ぶ。
地下ダンジョンは、その名の通り地下にできるダンジョンで、ダンジョン核が成長限界を迎えるまで深くなっていく。深くなる仕組みは不明だが、基本的に核は最下層にあることが多く、壊したりその場から持ち去っても、相応の時間が経てば同じ位置に復元する。不思議な事に、核をダンジョンの外へと持ち出すと、核は魔力を拡散して崩れてしまう。一般的に、核を破壊すると攻略と呼ばれる。証拠には崩れた核が使われる。
ダンジョン核とは魔力が集まって出来たもので、魔力の質により最大の大きさが決まると言われている。核は魔物をおびき寄せ、魔物や侵入者から魔力を吸収する。核に近い位置にいる魔物ほど核の影響を受けて強力な個体になっていく。特に強いものをボスと呼ぶ。
ボスは縄張りを持ち、一定の間隔でいることが多く、縄張りから出ることは稀である。
ダンジョン都市とは、ダンジョンを中心として栄えている都市の事で、独自の法律がある場所も多い。初心者がダンジョンに潜る場所としては、サポートも受けやすく情報も集まりやすいので最適である。
と書かれていた。それから考えると、一つ目は却下だな。そうなると二つ目と三つ目だが、どうせなら大きいほうがいいか、二つ目を第一候補にして、三つ目を第二候補としておこう。
その他にもどこかいい所があるかな、と調べていたら、そろそろ閉館の時間となっていた。
俺は本を元の位置に戻すと、司書に挨拶をして図書館をあとにした。
その後は満腹亭の部屋で、シロウマルやスラリンの相手をして時間を潰していく。
「スラリン、シロウマル。この街を出ようかと思うけど、どうだ?」
などと話しかけるが、当然返事は無い。スラリンは俺の言葉の意味を、なんとなく理解をしているようで、俺の顔をじっと見て、何か言いたそうに体をくねらせている。
対してシロウマルは、仰向けで腹を見せた状態のまま寝ていた。
そろそろ時間だろうと食堂へ向かうと、おかみさんが予約席へ案内してくれた。
席についてしばらくすると、リリー達とフルートさんがやって来た。聞いてみるとリリー達がフルートさんを迎えに行ったそうだ。皆が揃ったのを見たおかみさんが、料理や飲み物を運んでくれた。
「じゃあ、料理も揃ったし始めるか!」
との言葉に、各々お酒の入ったコップを手に取り、乾杯をした。
「「「ご馳走になりま~す。テンマ!」」」
「いただきます。テンマさん」
と言って、次々に料理を口に運ぶリリー達。対してフルートさんは、動きはゆっくりとしているものの、確実に料理の美味しい所だけを狙っていく。
最初の話題は当然のごとく、決闘についてだ。
「そういえば、あの後、レギルはどうなったの?」
ミリーがなんとなく、といった感じで聞いてくる。ほかの二人も興味があるようだが、フルートさんだけはギルド長から聞いたのか、特に気にしている様子はなかった。
「ああ、あいつは王都に移送されて、審議に掛けられるらしい。最悪、国家反逆罪もありえると言っていた。死刑はほぼ確実だそうだ。ギースは死刑か奴隷落ちのどちらからしい」
と食事中の話題としては相応しくないように思えるが、ミリーは、そっか、と気にしていないようだ。
「まあ、そのお陰で、テンマさんに料理を奢って貰えるんですから、お礼を言わないといけませんね」
とフルートさんは、まだ根に持っているらしく、かなりの毒舌だ。
その後は、たわいも無い話題で盛り上がり、料理を食べてお酒を飲み、楽しい時間が過ぎていく。
「そう言えば、次の依頼は何を受けようか。今はお金に困ってないけど、変に間隔を空けるのは良くないしね」
とリリーが言い出した。
「そうだね。今度はちゃんとした依頼を、テンマと一緒に受けたいね」
「フルートさん、何かいいのない?」
とネリーとミリーも続く、フルートさんも何かなかったか、思い出そうとしているみたいだ。
俺は、言うなら早いほうがいいかな、と思って、四人に向かって声をかける。
「ちょっと聞いて欲しい事があるんだ」
俺の真剣な声に、四人は料理から手を放して体を向き直す。
「実は近いうちに、この街を出ようかと思っているんだ」
そう言うと、俺の言葉に四人は動きを止めて、
「「「「ええええぇぇぇぇ~~~~~!」」」」
四人揃って絶叫した。
女性に対しての、愛の告白ではありませんでした。
期待した人がいましたら、紛らわしいタイトルを付けてすいませんでした。
感想に、テンマが村に帰らないのは違和感がある、と頂きましたので、一応、テンマの考えを書いてみました。