表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
36/318

第2章-9 交渉人

 俺は騎士団本部に来ていた。今日は、サンガ公爵の使者がやってくる日である。場所は、前にプリメラと契約を交わした部屋だ。


「テンマさん、お茶をどうぞ。あっ、こちらはお茶菓子です」


「ありがとうございます」


 プリメラが、お茶とお菓子を俺の前に置いていく。自身は俺の向かいの席に着いたのだが、どこか落ち着きがない様子だ。

 何も知らない者が俺達を見たら、どちらが騎士なのか判断に迷うのではないか?と、そんなことを考えてしまうくらいの落ち着きのなさだ。


「プリメラさん。なにか、俺に隠していませんか?」


 と聞いた瞬間、ビクンッ、とプリメラの体がこわばった。


「な、何もないですよ!隠し事なんて!」


 どう見ても怪しい。じろーっとプリメラの目を見ると、スーッと目を逸らした。額には汗が滲んでいる。

 俺は目を逸らさずにじろーっと顔を見続ける。2~3分程見続けていると、不意にドアがノックされた。


「は、入れ」

 

「失礼します。隊長、サンガ公爵様の御使者の方がお見えになりました」


 入ってきたのは若い女性だった。


「あ、ああ、分かった。私が出迎えて案内しよう」


 女性の言葉に答え、俺の視線から逃げるようにして、部屋から出るプリメラ。

 面倒なことにならなければいいのだが。


 それから4~5分も経たないうちに、再びドアがノックされて、入ります、とプリメラの声がした。

 ドアが開いてプリメラと共に入ってきたのは、30代くらいの優しげな顔をした男性だった。

 俺はすかさず鑑定をして席を立ち、挨拶をした。


「お初にお目にかかります。私は冒険者のテンマ、と申します。お見知りおきをサンガ公爵(・・・・・)様」


 と、度が過ぎず、尚且つ失礼にならない程度の挨拶し、男性に向かって頭を下げた。


「な、なんでそれを!」


 真っ先に驚きの声を上げたのは、プリメラだった。公爵は一瞬だけ驚いた顔をしたが、直ぐににこやかな顔に戻っていた。


「プリメラ、そんなはしたない声を出すものじゃないぞ。君がテンマ君だね?初めまして、私がこのプリメラの父のアルサス・フォン・サンガです。公爵もしています」


 公爵はプリメラを窘めた後、俺に丁寧な自己紹介をした。


 名前…アルサス・フォン・サンガ

 年齢…48

 種族…人族

 称号…サンガ公爵家当主


 この顔で48歳だと!プリメラと並んでいると、下手したら恋人に間違われるんじゃないのか?と思いながら。


「……随分とお若いのですね」


 と返した。すると公爵は苦笑いをしながら、


「こう見えても、もうすぐ50になるんだけどね。友人達からは、実はエルフなんじゃないか、とか疑われることもあってね」


 と見た目で、それなりに苦労しているようだ。その友人は、単に羨ましがってるだけだろうけど。


「そろそろ本題に入ろうか。席に着いてくれ」


 と俺を座らせた。自身は、俺の正面にプリメラと並んで座った。


「まず、宝石を取り返してくれてありがとう。あの宝石は詳しくは言えないけれど、ある貴族の奥方の持ち物で、他の盗賊に盗まれた物だったんだよ。なんでも、旦那さんから贈られた物も入っていたらしく、かなり落ち込んでいたんだ。あの値段しか出せなくて悪かったね」


 それ以上のお礼が出たら、いくらか別に支払うからね、と話していた。前のは強制ではなく、本当にお願いだったのかもしれない。

 プリメラと同じ種類の匂いがする……天然、という名の匂いが!


「いえ、追加の支払いは結構です。私達には、あの金額でも十分すぎる程です」


 と断る。金額は前回の契約の時に決めたことだ、その金額で取引したほうがこじれる事など無いだろう。


「そうかい?」


 と言って、公爵がマジックバッグから白金貨を22枚取り出して、俺に渡してくる。俺は碌に調べる事なく、そのままバッグに入れた。


「それで、ギースの権利の譲渡については、どのような条件でしょうか?」


 と言うと、公爵は少し渋い顔をして、


「そのことなんだけどね、彼の父親である準男爵が、今回のことに異を唱え出してね…」


 と言いづらそうにしていたので、


「つまり、息子(ギース)は無実で、裁かれるのは私の方、だと言っているのですか?」


 公爵はため息をつきながら、


「そうなんだよ。卑怯な手を使われなければ、息子(ギース)が子供に負けるわけが無い、と騒いでいるんだよ」


「卑怯な手とギースの罪は、関係がないはずですけど」


 と聞くと、


「そうなんだけどね。彼が言うには、卑怯な奴が言う事が正しい訳がない、と言うんだよ」


「卑怯さなら、ギースの方が上なんですけどね」  


 と笑いながら言うと、不思議なものを見るような目で、


「君は貴族が怖くないのかい?」


 と聞いてきた。俺は、この国の王様(貴族の頂点)と知り合いです、などと言う訳にはいかないので、


「貴族を舐めているつもりはありませんが。その準男爵様は公爵様より怖いですか?」


 と(公爵)の威を借る狐ではないが、少しふざけた感じで言った。この公爵はおそらく俺の味方だろう。それに何かあっても、逃げ切るだけの自信はあった。


「そんな発言は、他ではしないでくださいね」


 と笑っていた。軽い冗談だとわかったのだろう。


「すいません、言葉が過ぎました。でも、その様子では、審議も拒んでいるのでしょうね」


「ええ、そうです。彼は仮にも貴族です。その息子に対し、許可なく審議にかけるのは体面上よくありません。しかも彼自身は、息子以外の事に限って言えば、ある意味優秀な部類の男なのです」


「でも犯罪者ということで、強引にでも審議にかけることができるのではないですか?」


 と聞いてみると、公爵は首を振った。


「そんなことをすると、彼は反乱を起こしかねません。しかも、彼の派閥にはそれなりの力があるので、ヘタを打つと被害が大きくなるでしょう」


 どうしましょうか、と首をひねっている。


「決闘でもしますか」


 と軽い気持ちで言ったら、


「いいですね、それ!」


 といった反応が返ってきた。


「そうですね、決闘なら相手側も文句を言わないでしょう。彼は、貴族らしい事をやりたがるところがあります。軽く煽れば乗ってくるでしょう」


 この公爵、結構ノリノリである。でも、俺もそんな悪巧みは嫌いではない。


「手袋でも投げつけます?」


 と返した。いいですね、と二人で計画を立てていくが、プリメラだけは蚊帳の外といった感じだ。


「でも本当に大丈夫ですか?彼は腕利きの冒険者を何人か囲ってますよ」


 と、初めて心配そうな顔をした。


「一流どころが相手でなければ(束で来なければ)、なんとかなるでしょう。切り札もありますし」


 その言葉に公爵は、


「(そういえば、Aランクの魔物を使役していると聞いたな)そうですか、バンザ相手に完勝できるのならば、大丈夫でしょう」


 と納得していた。決闘のための説得(挑発)は公爵に任せて、俺達はギースの権利の代金について、話しを始めた。


「一人あたり20万G、さらに準男爵家の資産、20分の1でどうですか」


 と提案してくる。


「それで結構です。ただし、報酬は全てお金でお願いします」


 お金で、と指定したのは、もしも何かの権利が報酬だった場合、そのために公爵家に取り込まれるのを防ぐためだ。


「……引っかかりませんか。残念です」


 やはりそういった思惑があったようだ。プリメラだけは、訳が分からない、といった顔をしている。


「そのような引き込みは、やめて下さい」


 ニコリと笑って答える。公爵も笑っていた、できたらラッキー、くらいの考えだったのだろう。


「では、契約書を作成しましょう」


 と言って、サラサラと紙に契約内容などを書いていく。


「内容をよく読んで、こちらにサインを」


 と契約書を3枚渡してくる。全てに目を通してから、俺はサインをした。


「では、それぞれが一枚ずつ保管し、一枚はギルドに保管を頼みましょう」


 と言って、互いに握手をして契約完了となった。




---サンガ公爵宅にて---


「公爵様。不届き者の小僧はどうなりましたか?」


 アルサス(サンガ公爵)が天馬と契約(密約)を交わした翌日。公爵宅に、一人の男が待ち構えていたかのごとく現れた。男の名は、レギル・ヴェンド名誉準男爵。ギースの父親だ。

 

 この国では名誉爵位の者はミドルネームを名乗ることが出来ない。そして一般人にも、ファミリーネームを持つ者がいる。そのため名誉貴族は本物の貴族では無い、との考えを持つ貴族もいる。

 このレギルは、このままの調子だと死ぬまでには、ミドルネームを名乗ることが許されるのでは、と言われるくらいの男ではあった。だが、その才能も二人の息子には、受け継がれなかったようである。


「公爵様。それでギースは…息子はどうしたのですか?」


 レギルは最近では、若い頃のような頭の切れを見せることがなくなってきてはいた、だがそれを差し引いても有能だ、とアルサスは思っていた……息子に関する事以外では、と。

 アルサスは残念そうな顔をして、


「レギル準男爵。残念ながら交渉は決裂だ。相手は、君の息子に非があると譲らなかったのだ」


 その言葉にレギルは激昂し、


「なんですと!そんなはずはありません!それに、なぜ公爵様は、小僧相手に引いてしまったのですか!」


 その顔からは、公爵なのに不甲斐ない、と見て取れた。


「そう言うな、向こうにはギルドが後ろ盾になっているのだ。公爵といえども、なんの策もなくギルドを敵に回すのは無謀だ」


「では、策があるのですね!」


 かかった!とアルサスは内心ほくそ笑んだ。


「ああ、それは決闘だ!十日後に、あちらの代表とこちらの代表を戦わせ、勝った方の言い分に従う、というものだ!もちろんあちらは、例の小僧が出る。確約を取ってきた。これが証拠だ!」


 レギルに、天馬のサインの入った、決闘のルールを書き記した誓約書を渡すアルサス。

 その誓約書を受け取り、一読したレギルは、ニヤッと笑い、


「もちろん、こちらの代表は私が決めさせてもらいます。構いませんかな?」


 と言った。


「構わん。君の息子のことだ、私は手を出さないでおこう」


 と、自分は関わらない、とレギルに言ったが、本人はその意味に気が付いていないようだ。


「では、私は家に戻り準備を始めます」


 そう言って去っていくレギル、アルサスはその背中を見ながら、


「優秀な人材だが仕方がない。代わりが居ない訳でもないからな」


 と、呟いたのだった。




                      誓約書


 ○の月××日の決闘において、双方のどちらかに正当性があるのかを決定させる。どのような事があろうとも、この決闘の敗者は勝者に異議申し立てをすることは許されない。

 この決闘は双方の代表(・・)が戦い、どちらかが気絶するか、負けを認める、もしくは戦闘不能になる事で決着とする。

 武器、魔法についての制限は無いが、故意に負けた相手へ攻撃を加えたり、戦闘区域外への攻撃は禁止とする。違反した者は、その時点で負けとする。

 尚、この決闘においてルール内での出来事に限り、相手を死亡させても罪には問わない。


 上記の内容に不服がないことを認め、この内容に従うことを誓う。 

                      

                       決闘者…テンマ

                       決闘者…レギル・ヴェンド


 この誓約書の決闘者の欄に、自分のサインを書いたレギルは、ある一文を読んでニヤリと笑った。


代表(・・)、ね…」


流石に天然なだけじゃ公爵は務まらないだろうと、腹の黒いところも出してみましたが、彼は基本的には(天然)(腹黒)の割合です。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
[気になる点] 決闘に関してテンマの実力ではギースに勝てないとの準男爵からの言ですので、当人同士で助勢無しの公開決闘とするのが筋に感じたので気になりますね。  テンマが卑怯な手を使ってギースに勝ったと…
[気になる点] 誓約書及び決闘ルールで 戦闘区域外への攻撃は禁止とする。 戦闘区域外から区域内への攻撃は禁止されていないのでは、 手の者を区域外に置いて攻撃されると、ちょっと厄介ですね。テンマが区域内…
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ