第2章-7 ロックバードと盗賊もどき
グゥゥ~。目覚めの一番で聞こえてきたのはシロウマルのお腹の音だ。昨日の晩ご飯抜きで、かなりお腹が減っているようだった。俺の横でお座りをして、じっとこちらを見ている。
「おはよう、シロウマル。飯にするか?」
「ワン!」
元気よく吠えた。口からはヨダレを垂らしている。
俺は着替えを済ましてから、庭へと向かった。井戸には数人の宿泊客が集まっている。
流石にシロウマルを出すことはためらわれたので、顔だけ洗って街の外に向かうことにした。
街の外へと行くと涼しい風が吹いていた。門から少し離れた所で、シロウマル達をバッグから出して朝ご飯の準備をする。昨日のお詫びにとボアの肉を取り出して、魔法を使って焼いていく。
骨付きのもも肉(15kgくらい)だったが、シロウマルは直接かじりついていき、あっという間に完食した。肉だけでは良くないので、野菜も置いていたのだが全て食べていた。
その食べっぷりを見ながら、俺は自分用に焼いた肉をパンにはさんで食べていた。
流石にシロウマルは欲しがろうとはしなかったが、スラリンが俺の正面でねだっていた。
今日の昼用の肉も焼いて、マジックバッグの中へと放り込んでいく。門番が匂いに釣られてこちらを見ていたが、俺は見ていないふりをした。
少し早い時間だったが、本日の予定であるロックバードの狩りに行こうと思う。
バッグからタニカゼを出して、スラリンに入ってもらう。シロウマルは、久々に思いっきり走らせようと外に出したままだ。
俺の場合、準備自体はバッグに全て入れているため、食料さえあればいつでも行ける状態になっている。その食料も先ほど用意した。
タニカゼに手綱と鞍を付けて、鐙を調整する。そして跨り、いつでも行けるようになった状態でシロウマルに声をかけて出発した。
俺はタニカゼに指示を出して前に進ませる。指示は普通の馬と変わらない。ただし、走らせているとタニカゼの魔力が減っていくので、定期的に魔力の補充を行わなければならない。まあ、一日中全力で走らせなければ、魔力は空にはならないだろうがな。
俺はタニカゼを駆足(時速20kmくらい)で進ませる。シロウマルはタニカゼに並走しているが、たまに先に行ったり寄り道をしたりしている。
何人かの商人や旅人とすれ違ったが、皆タニカゼを見て驚き、シロウマルを見て怯えた。その都度、謝りながら進んだのだが、2時間もしない内に目的の山につくことができた。
ロックバードは、この山の中腹から上に生息していると聞いたので、麓までタニカゼで行ってそこからは歩きとなった。
タニカゼだけをバッグに戻し、少し休憩をとってから狩りを始めた。
探索を使ってみると、俺達の近くにいくつかの反応があったのだが、そのほとんどが鹿やウサギ、たまに猪で、目当てのロックバードは見つからなかった。
なので、近場は諦めて山登りに集中した。2時間ほど登ると、ようやくロックバードの生息域に入ったようで、チラホラと羽や糞らしきものが見つかりだした。
レーダーには、ここから100m程先に2つの反応があった。息を殺して近づくと2羽のロックバードがいた。巣があるみたいだ。
俺は50m程の距離から狙いを定めて、エアブリットを二発立て続けに放つ。二発の弾丸は、見事にロックバードの頭部に直撃し落下させた。
シロウマルが急ぎ駆け寄る。背中にはスラリンが乗っていた。俺も近づいて、獲物をバッグに収める。
上にある巣を覗いてみると、卵が2個もあった。
「おっ、ラッキ~!2つもあった」
ロックバードの多くは卵を一つしか産まず、しかも小ぶりな物が多い。その点この卵は、十分な大きさがあり、殻も厚そうだ。おそらくは、親の魔力が強かったか、餌が豊富だったのだろう。
ちなみに今回の卵の大きさは、長さ25cm、直径20cmの楕円形。重さは3kgもある。前世のダチョウの卵よりも大きい。普通はこれよりも、少し小さいくらいだ。
卵をバックに入れ、巣を壊しておく。ロックバードの巣は縄張りの象徴でもあるため、こうすることで他の個体が、新しい巣を作りやすくなるのだ。
「今度は200m先に反応有り!」
と、このような調子で狩りを続けていたら、3時間もしない内に20羽のロックバードと、13個の卵が手に入った。もうこれくらいでいいだろう、と狩りを終了することにした。
それと同時に、バッグから刀を取り出す。シロウマルにもいつでも戦闘態勢に入れるように、指示を出した。
それというのも1時間くらい前から、俺を尾行している奴らがいるのだ。数は五人。性別や種族までは分からないが、ロクなことではない可能性が高いと判断した。
警戒をしながら山を下りる。それに合わせて向こうも下りていく。やはり、ロクでもない事みたいだ。
そこで、麓の近くまできた時、俺は全力で走りだした。虚を突かれて、慌てる5人。俺は見晴らしの良い草原まで走り、足を止めた。そこでタニカゼを出し、スラリンを入れて待機させておく。シロウマルはわざと森に待機させて、5人の後ろからこっそりとついて来るように指示を出した。
5分ほど遅れて五人が姿を現す。男三人、女二人。いずれも人族だ。男の一人が前に出て来る。
「おい、ガキ。なんで逃げやがった!」
「ならば、なぜお前達は森の中で俺の跡をつけていた」
この言葉に5人は動揺した。
「気づかれていないとでも思っていたのか?あんな下手くそな尾行で」
事実、この五人の尾行はお粗末だった。距離には気をつけていたようだが、五人がまとまって歩いていたため音は鳴るわ、姿は隠しきれないわで、わざと見つかりたいのか?と思ったくらいだ。
「そんなことはどうでもいいんだよ!お前のロックバードをすべて寄越せ!」
「ついでに、その馬も置いていけ!」
とふざけたことを言って笑っている。俺が黙っているのを見て、調子に乗った女が、
「こいつのそばにいた、白い狼の毛艶も良さそうだったね」
「そいつも貰って、皮を剥いで飾っておきたいね」
と言っている。俺は呆れながら五人の背後に向かって、
「だとよ。どうするシロウマル?」
すると、五人の10m後ろまで忍び寄っていたシロウマルが、唸り声を上げ五人に向かって突進した。
ドゴンっ!
大きな音を立てて、二人の女が吹き飛ぶ。一人は空に舞い、もう一人はまるでボーリングのように、男どもを巻き込みながら転がっていった。
シロウマルの一撃で、五人は壊滅状態となった。ぱっと見た感じでは、死んではいないようだが、骨が折れていたりと重傷だ。俺は最初に口を開いた男に、軽いケリを食らわせて起こし、
「で、俺になんの用事だ」
と地面に這いつくばっている男に話しかけた。
「ふざけるなよ……俺を誰だと思っている」
「知らん!」
と、顔面にパンチをお見舞いして気絶させた。男の懐を探って見たが、ギルドカードなどは見当たらなかった。
取り敢えず縄で縛り、街まで連れて行くことにした。
帰りの道中は、タニカゼに馬車を繋ぎ五人を運んでいく。馬車というよりも大八車のようなもので、幌もついておらず周りからは丸見えだ。さらに五人を座らせた状態で一纏めに縛り、猿轡を噛ませた上にそれぞれの首には、
『獲物を奪おうとしましたが、返り討ちにあいました』
『一言も喋れずにやられました』
『襲いかかってすみませんでした』
『男三人(味方)を巻き込んでやられました』
『鳥のように空を舞いました』
と書いた板を掛けておいた。途中で頻繁に休憩しながら街を目指したので、すれ違う人々に指をさされて笑われていた。中には、俺に何があったのかを聞きに来る人もいたので、丁寧かつ詳細に話をしてあげた。
ゆっくりと帰ってきたせいで、街に着いたのは予定の時刻よりも大幅に遅れてしまった。もう7時は過ぎているだろう。
俺は門番に事情を説明し、タニカゼごと街に入ってギルドを目指した。その時門番は、またか……、と呟いていた。
ギルドに着くと丁度外にいた職員に声をかけ、フルートさんを呼んでもらった。それから直ぐにフルートさんは来てくれたのだが、今から帰るところだったのに、と少しご立腹の様子だった。
「事情はわかりました。テンマさんと五人は、これから審議を受けていただきます。その結果で対処法が決まります」
と言った時、五人がもごもごとなにか言いたそうだった。フルートさんが猿轡を外すと、
「なんで俺達が審議なんか受けなければならないんだ!俺達は被害者だ!」
と言い出した。他の四人は頷いている。
「そのガキが後ろから白い狼をけしかけてきて、俺達のロックバードを奪ったんだ!」
さらにヒートアップする男。周りには人だかりが出来始めた。
「でなければそんなガキが、ロックバードを狩るなんてこと出来る訳がねえ!」
だろ!と周りに同意を求める男。周りの人達は俺を見た後、呆れた顔で男達を見ている。そんな周りの反応に男は気がつかず、熱弁を振るっていた。
「ではどういった方法で、お前達はロックバードを仕留めたんだ?」
俺は男達に向かって質問した。男は、
「弓だ!弓で仕留めた!」
と答えた。そこで俺は、その場にロックバードを全て出して、
「フルートさん、それから周りの皆さん!これらのロックバードの頭部をご覧下さい!」
と言って、1羽のロックバードを掲げた。
「ここにあるロックバードは、全て魔法で仕留めました。矢傷などは一つもありません。確かめてください」
とロックバードを差し出した。フルートさんが先にひと通り見ていき、その後で周りの人達も確認していく。
「ホントだ。綺麗に穴が貫通している。矢ならもっと傷口がぐちゃぐちゃになる筈だ」
「本当に綺麗な傷口だね!これなら、変なストレスを与えることなく死ぬな。肉の旨みが損なわれないだろう」
「しかも全ての傷跡がほぼ同じ位置に、一箇所だけついてるよ。一流の魔法使いでなきゃ、こうはいかないよ」
と周りでは歓声が上がっていた。男達は顔を真っ青にしている。
「これは審議するまでも無く決まりですね。どうしますか?」
フルートさんは男達に尋ねるが、男達は答えなかった。
「テンマさん。罰金刑ですか、それとも奴隷に落としますか?罰金の場合は最低でも10万Gですが、この場合は悪質なので、30万G以上の可能性が高いです。もちろん一人当たりの金額です。奴隷の場合は所有権が発生します」
と聞いてくる。フルートさんは機嫌が悪いみたいだ。言葉に苛立ちがみえる。今度、差し入れをしよう。
「それは俺が決めるんですか?」
「はいそうです。今回の場合は、盗賊行為と見なされます。盗賊に人権はありません」
とそこまで言った時、
「ちょっと待てよ。俺の親は貴族なんだ。どうなるか分かってるんだろうな!」
と得意げに言っている。そんな男に対して俺は、
「だからどうしたって言うんだ?」
と言い放った。実は鑑定を使って知っていたのだ。
名前…ギース
年齢…23
種族…人族
称号…名誉貴族(準男爵)の次男・盗賊もどき
だった。名誉貴族の息子なので、本人は貴族では無いようだ。しかも称号に、盗賊もどきとある。これはもうダメだろう。
「な、貴族だぞ。貴様らとは違うんだ!」
叫びだす男。それを見ながら、
「名誉貴族は一代限りだぞ。つまりお前は、ただの盗賊もどきだ!」
と言ってやった。男は顔を真っ赤にして、
「俺の親はサンガ公爵とも繋がりがあるんだぞ!」
ついには公爵の名まで出し始めた。それを聞いた俺は、
「フルートさん、誰かに騎士団本部まで行ってもらって、第四部隊長に俺が呼んでいると伝えてください」
俺の言葉にフルートさんは頷き職員を行かせた。男は得意げな顔をしていたが、この街の騎士団の第四部隊長の正体を知っている者は、可哀想な人を見る目を男に向けていた。
10分くらい経った頃だろうか、プリメラは走ってやって来た。
「テンマさん、なにかありましたか!」
なぜか、敬語で話しかけてくるプリメラ。俺は軽く挨拶をして、
「すいません。少し問題が発生しまして。俺だけでなく、隊長のご実家にも関わる事がありましたので」
と言い、順を追って説明をする。プリメラの顔は段々と険しくなっていった。
「お~い、騎士さんよ。俺の親は貴族なのに、このガキが襲ってきたんだぜ。不敬罪だろ。さっさと開放してくれよ」
と空気を読まずに発言する。プリメラは男と向き合い笑顔を作っていたが、よく見るとこめかみの辺りがピクピクしている。
「取り敢えず自己紹介をしておこう。私はこの街の騎士団の第四部隊隊長、プリメラ・フォン・サンガだ。あなたが口にしたサンガ公爵の三女だ」
とプリメラが言った。男は少しの間動きが止まり、
「だったら話が早い。俺の父はサンガ公爵の……「黙れっ!」」
プリメラが怒気を孕んだ大きな声を出した。その声の大きさに男はもちろんの事、周りにいた人達も驚き、わずかな怯えを見せていた。
「盗賊ごときが貴族を語り、あまつさえ公爵の名を出すとは何事だ!不敬罪はお前だ!死罪は免れんぞ!」
と怒りを顕にした。男はあまりの剣幕にすくんでいた。
プリメラは俺の方に向き直り。
「この者達の身柄は騎士団に預からせてくれ」
言葉自体は頼んでいる感じだが、有無を言わせぬといった迫力があった。
「いいですよ。ただし、そいつらの第一の権利は俺にあるので、それだけは覚えていてください」
と承諾した。助かる、と言ったプリメラだったが、少し考えた素振りを見せて、
「すまないが、こいつらを運ぶのを手伝ってくれ」
と、やはりどこか抜けていたのだった。
ロックバードを狩りに行って、またもや盗賊(もどき)を捕らえてしまいました。
お金が順調に貯まっています。いずれダンジョンに挑戦させたいです。




