神たちの後日談
テンマが神に成って数百年が過ぎたという設定の話です。
書籍最終巻に載せる予定の書き下ろしと繋がる話なのですが、書籍を読まなくても大丈夫なように書いたつもりです。
簡単な説明をあとがきに載せています。
それと、新作始めました。https://ncode.syosetu.com/n3993ih/
『黒のジーク』というタイトルの異世界転生・転移もので、事故に巻き込まれた少年が別世界で活躍する物語です。
興味のある方は一度読んでみてください。そして面白いと思った方は、ブックマークと応援よろしくお願いします。
「ふぅ……」
神から人に転生してまた神へと戻る瞬間、この時だけはその前の人生の感覚が抜けきれずに感傷的になってしまう。特に今回の人生では、初めてこの世界に来た時に知り合った人たちの生まれ変わりが集まっていたせいで、気持ちの振れ幅が大きくなっているように感じた。
「収まってきた……これなら大丈夫みたいだな」
しばらくの間……人の時間にして約半日程動かずにじっとして、ようやく気持ちが落ち着いてきた。多分、他の神ではこういったことは……案外あるかもしれないが、流石に俺ほどではないと思うので、まだ俺は彼らと比べると未熟ということだろう。
そう思いながら自分の部屋(輪廻転生の神に与えられた空間)から出ると、
「……確保」
「はぁ~い、テンマちゃん。お久しぶりね。だけど、再会の喜びは後にして、今はちょっと大人しくしていてね」
「『輪廻転生の神』だ、武神。だが、大人しくしておいた方が身の為だぞ」
「そういうことだ。君には聞きたいことが色々とある……そう、色々とな」
すぐに獣神、武神、破壊神、魔法神に囲まれた。部屋から出る瞬間、サッとではあるが左右の確認は行ったはずなのに、どういった原理で姿を隠していたのかは分からないが、元々の力の差がある上に数的不利、さらには左右前後を囲まれているので抵抗はするだけ無駄だろう。というより、
「そろそろ言われる頃だと思っていたから抵抗はしないけど……話したくなるかは俺次第だよね?」
こんな手荒な歓迎を受けるとは思っていなかったけれど、皆が話を聞きたがるのは想定内だった。
「獣神、武神、破壊神! 輪廻転生の神を他の神たちのところへ案内するのだ! そんな真似は今すぐやめて、くれぐれも丁重にな!」
すぐに自分たちの聞きたいことが聞けなくなる可能性に気が付いた魔法神が、あたかも自分は三人とは関係ないというスタンスをいち早く取り、まるで俺を案内するかのように先頭に立って歩き出した。
「テンマを捕まえに行くと言ったのは魔法神だったはず」
「テンマちゃん、騙されちゃだめよ。あれが一番の腹黒だからね。自分の好奇心の為なら、利用できるものは何でも利用しようとするし、今のように自分が集めた仲間を簡単に切り捨てるのよ」
「そうだ。武神の言う通りだ。俺たちはあいつに言われなくても乱暴な扱いをするつもりは全くなかったぞ……まあ、最初のあのセリフはあれだ、その場のノリと言うやつだ」
皆の性格からすればまあそんなところだろうとは思っていたが、あっさりと仲間に裏切られた魔法神(とは言っても、最初に裏切ったのも今回の拉致を計画したのも魔法神なので、自業自得としか言えない)は、全くと言っていい程気にした様子を見せずに歩き続けていた。
「あっ! ようやく戻ってきた! 何度目だかの人生お疲れ様」
いつも皆が使っている部屋に到着すると、真っ先に創生神が声をかけてきた。そして俺のところに来て腕を掴み、席に案内しようとしていたが……明らかにあの席は俺を尋問する為に用意されたものだろう。その証拠に、その席を囲むように皆の席が配置されている。
まあ、まだいつものおふざけの範疇だろうと思い、その席に向かおうとしたところ、
「創生神、それは少し失礼ではないか? 輪廻転生の神は戻って来たばかりで疲れているはずだ。まずはお茶でもお出しして、ゆっくりしてもらおうではないか」
魔法神が俺を庇うように前に出て、創生神に苦言を呈していた。
そんな様子に驚く創生神と他の神たち(獣神、武神、破壊神を除く)だったが、
「魔法神の奴、ここでテンマちゃんの機嫌を損ねたら話が聞けなくなると考えて、私たちを裏切ったのよ……自分が言い出しっぺの癖に」
武神が魔法神の裏切りをばらすと、皆すぐに呆れ顔に代わった。
「まあ、いつものことと言うわけだね。とにかく、魔法神の思惑はどうでもいいけど、確かに輪廻転生の神は戻って来たばかりだし、話を聞きたいのは僕たちなんだから、ふざけるのはちょっと早かったかもね」
そう言うと創生神たちは、俺に用意されていた椅子とそれを取り囲むように配置していた自分たち用の椅子を回収し、代わりに円卓を出して椅子の再配置を行った。ちなみに、魔法神は俺の横の席を取ろうとしていたが、獣神と武神と破壊神に阻まれて俺の斜めの席に着かされていて、その間に俺の横は創生神と死神が滑り込んでいた。
「それで、僕たちが聞きたいことは分かっていると思うけど……率直に聞くけど、僕たちも輪廻転生の神と同じように生まれ変わることは可能なのかな?」
皆が席に着くのを確認した創生神が早くも本題に入り、周囲を驚かせていた。まあ、いつもの調子で話を進めると絶対にどこかで脱線して、下手をすると本題に入る前に休憩ということになりかねないので、正しい判断だと言えるだろう……と思ったが、
「そやそや! はよ、テンマの秘密を教えんかい!」
先程から視界の隅にちらちらと見えていたお調子者のせいで、創生神の判断は無駄になるかもしれない。
「はいはい、ナミタロウは少し大人しくしていましょうね。テンマちゃんが話す気を失ったら大変だから」
それを危惧したのか武神がナミタロウをたしなめて、俺に視線で話を続けるように促してきた。
「まあ、出来ると言えば出来るけど、かなり難しいかもしれない。それに、一応生まれ変わりとは言っているけど、実際は意識と魂の一部を一時的に神の肉体から切り離すだけだからね」
普通の魂と違い、俺は死んで次の人生に移るわけではないので、輪廻転生とは少し違うのだ。それに、俺の場合は『テンマ』として生きていた時とその後で生まれ変わった時の子孫がいるので、少なくとも何世代かに一人は相性のいい『肉体』が現れるのだ。
そう説明すると、
「それなら俺と武神に技能神、そして死神は何とかなりそうだな」
破壊神が嬉しそうにしていた。前にも少し聞いたことがあるが、破壊神たちは俺と同じように人から神に成ったそうで、探せばどこかに子孫が残っている可能性があるそうだ。
「破壊神たちは分からないけど、僕の子孫は確実に生き残っているから大丈夫」
そんな中、死神は今でも子孫のことを知っているのか、自信満々に胸を張っている。
「まあ、確かに輪廻転生の神の言う条件だと、確実に死神は生まれ変わることが出来るよね」
創生神たちはそんな死神は羨ましそうに見ていた。しかし、俺には何が何だか分からないので、死神たちを茫然と見るしか出来なかった。
「そう言えば、輪廻転生の神は死神の子孫のことを知らないんだったね」
そんな俺に気が付いた創生神が、
「死神の子孫はね、テンマ君の奥さんにもなったあのアムールだよ。だから、輪廻転生の神が転生できるということは、死神も生まれ変わりの条件に当てはまる可能性が極めて高いということなんだよ」
と、俺が神に成って一番というくらい驚きの情報を教えてくれた。ちなみに、流石のナミタロウも予想外過ぎる情報だったのか、丸い目をさらに丸くして声も出せないくらいに驚いていた。
「うん。正確には僕が人間だった頃の姉……だったか妹だったかの子孫だけど、僕に極めて近かった人の血が今も確実に残っている」
昔のこと過ぎて死神自身も家族構成に関しては詳しく覚えていないそうだが、アムールが死神の姉妹の子孫であることは間違いないらしい。なお、死神を含めて姉妹は全員人間であり、その子か孫が獣人に嫁入りして、その子孫の一人が山賊王と結婚したとのことだ。
「そう考えると、アムールはどことなく死神の面影があったよね。もっとも、死神の姉……あっ! アムールのご先祖様はね、死神やアムールと違ってスタイルのいい人だったけどね! へぶぅ!」
などと、創生神が死神とアムールの関係性を説明したのだが、その最後に余計なことを言ってしまった為に、死神の右ストレートを顔面に受けて椅子ごと吹っ飛んで行った。そして、創生神のいなくなった場所に今度はナミタロウが滑り込んだので、創生神が戻ってきたとしても座る場所が無くなってしまった。
「そうだとすると、死神たちと違って私たちは地上に遊びに行くことが出来ないのかしら?」
愛の女神は遊びに行くと言っているが、俺が生まれ変わるのにはそれなりに理由があるので、それだけは先に説明しておかなければならないだろう。
「一応、俺が生まれ変わって死ぬことで、死者の魂がちゃんと転生できるかを確かめるという意味合いがあるからな。あと、死ぬときに世界の澱みも多少ではあるけど直接浄化している。それと、もしも輪廻転生のシステムのどこかに不具合があれば、その時の魂は自分の部屋に保管している体に戻ることが出来ないはずだから、そこで一度全ての転生を止めて調整しなければいけないし」
これに関しては、死神にも協力してもらっているので、そこから皆に話が行っている可能性もある……と思っていたが、死神と他の皆の表情からすると、死神は説明していなかったようだ。まあ、俺も皆に説明していなかったから、死神というよりも俺の方が悪かったかもしれない。
「質問があるけど、いいかい? もし仮に戻って来ることが出来なかった場合、神でも死ぬ……いや、存在が消えるという可能性があるんじゃないのか?」
生命の女神の質問に、皆も危険ではないのかというような顔をしたが、
「いや、あくまでも生まれ変わりに使った魂の一部が消えるだけで、意識は肉体が死んだ時点で保管している体に戻って来るようにしているし、魂の一部が消えたとしても、生まれ変わる時に分けるのは時間が経てば元に戻るくらいのものだから、危険性は限りなく低いと思っている。少なくとも、存在が消えるということは無いはずだ」
「なるほど、それなら大丈夫みたいだね。でも、そう言った『命』にかかわるようなことは、最低でも私に直接報告くらいはして欲しかったね」
「それは……まあ、悪かった。ごめん」
「ごめんなさい」
生命の女神に、俺と死神は素直に謝った。
俺が神に成る以前の仕組みでは、ざっくり言うと死神が回収した魂は生命の女神に渡され、新しく生まれる予定の肉体に入れてていくという形だったのだが、この方法だと回収した魂に不具合があった場合でもそのまま使われてしまい、それが増えると世界の澱みとなってしまうので、それを解消させる為に俺のように異世界から魂を持ってくるという方法を採っていたのだ。しかし、俺がその間に入って魂を浄化することで、異世界の魂を呼ばなくても澱みを限りなく少なくすることが出来るようになったのだ。ただし、その方法でも以前よりゆっくりとではあるが澱みは溜まってしまうので、この世界を活性化させる為にも異世界から魂を呼び寄せる必要はあるのだが、澱みの溜まる速度が遅くなったおかげで頻度は格段に少なくなっているのだ。
なお、呼び寄せた異世界の魂は俺が神に成ってからは一回だけで、俺とナミタロウが生きていた世界とは違うところの牛(のような生き物)の魂だった。
「幸い、これまで問題は起こっていなかったわけだし、報連相は基本ということで、これからは気を付ければいいさ」
と生命の女神が笑って言ったので、この問題はこれで終わった。
「それじゃあ、話を戻すぞ。それで、死神たち以外が生まれ変わるのはどうすればいいんだ?」
技能神が話を戻すと、生まれ変われる可能性の高い死神たち以外が一気に真剣な表情になった。そこに、
「なあなあ、少し気になっとったんやけど、テンマが初めてこの世界に来る時に、皆がテンマの体を作ったんやろ? やったら、死神とは違う意味で、テンマの子孫は皆の子孫とも言えるんやないか? ある意味、テンマの生みの親はここに居る神たちともいえるんやし」
というナミタロウの言葉が投げ込まれ、
「生命の女神、すぐに確認してもらえる? それと、愛の女神も」
大地の女神が珍しく間延びした言葉遣いではなく真剣な表情で指示を出し、指示を受けた生命の女神と愛の女神がすぐに俺の体をまさぐり始めた。
「うん……確かにナミタロウの言う通り、とても薄いけれど私たちと同じ気配がテンマの体から感じられるね。テンマの肉体を作る時に、私たちの魔力を混ぜたのが原因かもしれないね」
「私の方も、私たちとテンマちゃんの子孫との間に、薄くではあるけど縁が繋がっているのが確認できたわ」
俺の体をまさぐり終えた生命の神と愛の女神がそう報告すると、皆から歓声があがった。
「どうでもいいけど、皆たまに俺のことを輪廻転生の神じゃなくて、『テンマ』って呼ぶよな。それって大丈夫なのか?」
「まあ、その姿形はテンマと変わりないし、『輪廻転生の神』と言う名は役職のようなもんやから、特に問題は無いんやないか? それに、わいからすると、神に成ってもテンマはテンマやし。それと、ここまで来たら一度は生まれ変わらせんと、絶対に暴動が起きるで」
俺の呟きに他の神たちは反応せずに、誰が最初に生まれ変わるかを話し合っていた……まだ一言も俺は生まれ変わらせるとは言っていないのに……
そんな俺の考えを察したナミタロウがそんなことを言っているが、ナミタロウを含めた皆、肝心なことを忘れているようだ。
「よし! 俺が一番だな!」
「私が二番ね!」
「僕は三番目」
「四番ね~」
などと、次々に順番が決まっているが……
「皆忘れているみたいだけど、順番を決めたからと言っても、その順番通りに相性のいい肉体が現れるわけじゃないぞ」
俺の発言で、皆一気に静まり返った。特に一番を取った技能神と二番の愛の女神は、これまでに見たことの無いくらい面白い顔で固まっている。
「確かにそうだったわね。前々からテンマちゃんはそう言っていたわ。皆生まれ変わる可能性が出てきたせいで、すっかり忘れていたわ」
技能神と愛の女神の落ち込みようとは反対に、最後になって(不参加の創生神を除く)しまっていた武神は、どこか嬉しそうにしている。
「それで輪廻転生の神よ。私の番はいつごろになりそうだ?」
同じく最後を武神と争っていた魔法神が、気持ちを抑えきれないと言った様子で詰め寄ってくる。
「ちょっと待ってくれよ……まず、今一番可能性がありそうなのは……死神だな」
「いつ? 僕は今からでも問題ない!」
三番目から一番になった死神はとても喜んでいるが……
「前回の俺が死ぬ少し前に、ある女性のお腹に宿ったばかりの新しい命だな。まだ魂が入っていない状況だから、今からでもいけることは行けるけど……諸々の説明と準備があるから、もう少し待ってくれ。一応、死神の魂以外が入れないようにはするから」
今すぐにでも入ることは出来るが、それをすると死神がいない間の仕事が滞る(一応、百年二百年でどうにかなるわけではないらしいが、何かあった時に何も知らないと最悪の場合死神を強制的に戻さなければならなくなるので、そうならない為の準備が必要)のでその対策と、死神と相性のいい肉体にはちょっとした事情があるので、もしかすると死神自体が嫌がるかもしれない為、このまま生まれ変わらせることが出来ないのだ。
「まず、死神と相性のいい肉体の母親は、数代前に獣人の血が混じってはいるが人族だ。父親は虎の獣人だな。健康状態に問題はなさそうで、性別は女。ただ、まあ……」
「なに?」
「死神の生まれ変わり先の候補……実は前回の俺の妹のひ孫にあたるんだよ」
「なるほど……問題ない。あれのひ孫でも、あれとは別人。それに、あれも生まれ変わってからやんちゃはしたけど、致命的な問題は起こしていない」
一応、前回の人生では俺の妹であり、この場所での記憶が無かったこともあってかなり可愛がっていたので、そう言ってもらえるとありがたい。
「それに、前回の輪廻転生の神の妹ということは、産まれる家がどうなっているかは分からないけれど、血筋的にはかなり上等な部類に入るのは間違いない……特に何もしなくても、それなりにいい暮らしが出来そう」
かなり俗物的な考えもあったみたいだが、確かにあの世界では有数の名家と呼ばれる貴族の血筋として生まれるので、余程の下手を打たなければ、死神の言う通り死ぬまでそれなりにいい暮らしが出来るだろう。
「それで輪廻転生の神、私の番はいつなんだ?」
「今すぐに生まれ変われそうなのはいないな。ただ、いたとしても、続けて神を生まれ変わらせるようなことはしないぞ。流石に何柱か同時に送ったら、何かあった時に大変なことになるし、少なくとも次に送るのは何十年後か、死神が戻ってきてからだな」
実を言うと、破壊神と武神は相性のいい肉体が見つかっているし、破壊神と武神は死神と同時に送っても仕事的にはあまり影響がないと思われるのだが……なし崩し的にとはいえ、ここに居る全員が生まれ変わることを決めている以上、最低限のルールを決める必要があり、それを影響がなさそうだからと言っていきなり例外を作ることは流石に駄目だろう。
「とにかく、もしも同時に相性のいい肉体が見つかった時の為に、順番だけははっきりさせておいてくれ。ただし、状況によって順番が変更されることがあり、皆が決めた順番の間に俺が割り込むことがあるというのものも理解した上で、文句は言わないこと。それと、一度生まれ変わった後は、余程の理由がない限り俺を除いて後回しとなる。これを基本的なルールにしたいと思う」
このルールだと、場合によっては俺が連続で生まれ変わることになると魔法神から物言いがついたが、この生まれ変わりは輪廻転生の神としての仕事の一環であり、皆が生まれ変わるのはあくまでも俺の代理としてのことだと説明すると、それ以上は何も言わなかった。まあ、この件に関して言えば、本来なら今のところ俺の代理など必要ないので、文句を言えば言うだけ自分の不利益になると分かっているのだろう。
(だけど、魔法神だけは何かしらの理由を付けて、早めに順番を回した方がいいかもしれないな……変に暴走されても困るし)
その辺りは誰か……創生神あたりにでも相談した方がいいかもしれない。色々と頼りにならない奴ではあるが、神たちの中では一番格が上なので、一人で判断するよりはましだろう。それに、バレて他の神たちから責められた時に、俺の代わりの生贄になりそうな奴が必要だしな。
「それで、テンマ……じゃなかった、輪廻転生の神。僕は生まれ変わるまで何をしたらいい?」
どういった基準で呼び名が変わるのか分からないが、あまり特別なことをする必要はないので、いつでも生まれ変われる準備だけしておいてくれと伝えると、「それじゃあ、今から」とか言い出したので、死神の仕事の引継ぎが終わるまでということにした。
そして数日後、
「生まれ変わっている最中の体を休ませておく特製の部屋もできたし、死神はそこのベッドに横になってくれ。こっちの準備が出来たら声をかけるから、それまで少し待っていてくれ」
「分かった」
この部屋はあの話し合いの後で戻ってきた創生神に理由を話し、急遽作った新しい部屋だ。緊急時を除いて、部屋に誰かが入っている状況では内側からしかドアを開けることが出来ず、緊急時の時も三柱以上の神が揃っていないとドアを開けることが出来ないので、生まれ変わっている間にいたずらされるということは無いはずだ。まあ、もし仮に三柱以上が結託していたずらを仕掛けた場合はその限りではないが……その場合の被害者(被害神)は創生神くらいなはずだ。ただ、俺の場合も皆に順番を回さなかった時は生まれ変わっている最中にいたずらをされる可能性があるので、気を付けなければならない。
「よし、準備が出来たぞ。じゃあ、目を瞑って体の力を抜いてくれ。すぐに眠気が来るはずだから、そのまま身を任せれば生まれ変わっているはずだ。ただ、生まれ変わっても神の時の記憶は無いし、あったとしても妄想と思える程度のぼんやりとしたものの筈だ。あと、自我が芽生えるのは個体差があるから、いつになるのか分からない。まあ、そんなことをこの場で言っても、生まれ変わったらここでの記憶がないから問題は無いけどな。じゃあ、次に会うのは、死神が戻ってきた時だ。よい人生を」
「ありがとう、テンマ。じゃあ、行って来るね」
そう言うと死神は死んだように動かなくなった。念の為、死神の生まれ変わり先の様子を見てみると、問題なく死神の魂(の一部)が肉体に定着したのが確認できたので、死神が死神としてここに戻ってくるのは、天寿を全うすれば百年近く先になるかもしれない。
「それまで、こっちから死神の成長を見守ることになるのか……俺が行っている間、皆はこんな気持ちだったんだな」
特製の部屋を出て鍵がかかっていることを確認すると、何故だか知らないけれど自然と頬が緩んだ。
「テンマ君、終わったのなら早く戻るよ……念の為聞いておくけど、死神にいたずらなんかしていないよね? 頬をつねったり、額に肉や中や米の字を書くくらいなら目を瞑るけど、身体接触によるセクハラ行為だけは絶対に駄目だからね!」
「誰がするか! 全く……創生神の順番が来ても、わざと見送ろうかな?」
「いや! 謝るからそれだけはやめて、この通り! 僕も生まれ変わるのを楽しみに待っているんだから!」
必死になって手を合わせて頭を下げる創生神の姿に笑いが出た。そして、何となく前の世界の時に、創生神にスカウトされた時のことを思い出した。
「なあ、創生神」
「何?」
「ありがとな」
「本当に何? いきなり」
「何となくだ」
「変なテンマ君だね」
「創生神ほどじゃないさ」
我ながらいきなり変なことを言ってしまったなと思ったが、これもまたこっちの世界での日常のやり取りの範囲内だろう。まあ、戻った時も笑っていたせいで皆からは怪しまれはしたが、いつものように創生神がふざけたからだろう思われたらしく、話題はすぐに死神の生まれ変わり先へと移った。
テンマは輪廻転生の神の仕事の一環として何度か生まれ変わっており、その中で色々な経験をしていますが、あくまでも生まれ変わっているのは自分の一部なので、ベースはテンマが元になった輪廻転生の神のままです。イメージとしては、元の記憶が無い状態でVRをプレイする形でしょうか?
なので戻ってきた際に、生まれ変わっている最中のことは記憶として残っていますが、性格などはベースである輪廻転生の神に上書きされます。
死神の生まれ変わり先の先祖でテンマの妹は、テンマと敵対していた元死神が輪廻転生した人物です。
※書籍の最終巻の原稿を書く際に入れた二本の書き下ろしと繋がっている話になっていますが、新作を書いている最中に何となく思いついたのを元にした話なので、現在のところ書籍を発行していただいているマッグガーデンの担当さんに送った原稿には入れておらず、最終巻の文字数によっては入らない可能性もあります。