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第20章-19 オオトリ領

4話連続投降の3話目です。

次が最終話となります。

 一年前の王様の勝利宣言に合わせて発表される予定だったオオトリ家への褒美について、貴族たちの間で意見は割れた。

 一つ目は俺に対して爵位を与えるが領地は与えず、法服貴族という形で王国に組み込もうという意見。二つ目はオオトリ家に対して爵位と領地を与え、家ごと王国に組み込もうとする意見。三つ目は俺用に特別な爵位を作って与えるという意見の三つだ。


 一つ目は俺に領地を与えると力を持ちすぎるので、爵位を与えて優遇はするが軍と言うものを持たせないようすると言うもので、爵位は子供に継げるものにするそうだ。この意見は、王族派と中立派の文官から出されたものだった。

 二つ目は俺に領地を与えなくとも、オオトリ家はゴーレムを使えば軍などどうとでもなるというか、俺とじいちゃんが居れば下手な軍など足手まといにしかならない筈だという考えの下、それならば逆に土地を与えて王国から離れられないようにしようと言うものだ。こちらは王族やサンガ公爵家やサモンス侯爵家にハウスト辺境伯家(それぞれ嫡男が代理)、そしてマスタング子爵と言った王族派と中立派の俺の知り合いと、知り合いではないが東側と西側でジャンヌと共闘した貴族たちから出たらしく、一番多かった意見だったそうだ。

 三つ目は単純に、平民である俺が自分たちの上に立つことを嫌った貴族たちから出たもので、その多くは改革派から寝返った者や何らかの理由でオオトリ家によって不利益をもたらされた者たちの意見らしい。


 一つ目は権力と領地を持った俺がもしかすると王国に対して不利益な存在になるのではないかと言う危機感からで、二つ目は褒美を中途半端にして遺恨を残すよりは、出せるものを出した上で完全に取り込んだ方がいいと言うものなので、どちらも王国の為にと言う考えから出たものだったが、三つ目に関しては完全に私怨や嫉妬からのものであり、下手をするとそれこそ俺を敵に回しかねないということで、一つ目と二つ目を出した者たちから反対されたそうだ。


 意見が分かれた場合、基本的に王族が支持、もしくは半数以上の賛成があったものが採用されるが、一つ目の意見にも否定できない内容が含まれていた為、王様を中心とした主だった貴族たちの間で話し合いが続けられたが、最終的にはオオトリ家への褒美をケチるということは、それ以下の手柄だったという貴族たちの褒美もオオトリ家に合わせて大幅に減らさないといけないということと、肝心のオオトリ家の話も聞かないといけないということになり、オオトリ家からの返事待ちという異例の事態になったのだった。


 そして、王様たちの話し合いと同時に行われていたオオトリ家内での一回目の話し合いでは、俺とじいちゃんの『貴族は色々と面倒臭そう』と言う発言により、最初の方は爵位を断る方向で進められていた。

 その話し合いに参加することになったアルバートも、貴族としての大変さは身に染みていることから俺とじいちゃんがそれでいいのならと言う感じだったのだが……少し遅れて参加したティーダとプリメラに反対(ティーダは消極的だったが、プリメラは断固反対と言う感じだった)され、結論はプリメラの体調を考慮して二回目以降の話し合いに持ち越された。


 そして、二回目の話し合いでは、何故プリメラが反対しているのかと言うところから始まり、その話が終わる頃には、俺を含めて爵位を受け取る方向で決まった。

 二回目の話し合いで決まるのは思っていたよりもかなり早かったが、それもこれも双子の将来のことを考えたからこその決定だった。


 プリメラの主張によると、ここまで手柄が大きくなりすぎるとオオトリ家が褒美を辞退することも少なくしてもらうことも出来るはずもなく、かと言って平民の立場にそぐわない褒美は周囲からやっかみを受けることは間違いない。

 そのやっかみの多くは貴族からのものになるのは火を見るよりも明らかであり、俺やじいちゃんの目が届くところや存命中は何の問題もないだろうが、目の届かないところだったり死後であったりすると、それらの積もり積もった感情は、ほぼ間違いなく双子や双子の子と言った子孫に対して向けられることになるはずだ。死後については数十年後の話になるだろうが、それでも俺のオオトリ家の持つゴーレムの技術などは貴族にしてみれば喉から手が出るほど欲しいものであり、俺と言う脅威がなくなれば、間違いなく子孫から奪おうとするだろうとのことだった。

 そうさせない為にも、俺だけでなくオオトリ家として対抗できる力を持つことは絶対条件であり、それを確実に出来るのは俺が爵位を受けることであると言うのがプリメラの考えだった。

 それに対してアルバートが、「何かあればサンガ公爵家がオオトリ家を保護できるようにすればいい」と言ったのだが……プリメラからすれば、それは保護と言う名の大義名分のもとに、公爵家によってオオトリ家の強みを奪われるのと違いがないので、保護された後で子孫がどういった扱いをされるか分からない以上、それを鵜呑みにすることは出来ないと言って反対した。

 完全に公爵家……と言うか、実の兄を信用できないと言ったようなものではあるが、アルバートも自分の代ではそんなことは絶対にないと胸を張れる自信があるようだが、流石に生まれてもいない子や孫の代まではどうなるか分からないらしく、バツの悪そうな顔をしながら納得していた。アルバートもプリメラが言ったほどでないにしろ、オオトリ家を保護するような状況になれば、俺の持つ何かしらの技術を得ることができると考えていたのだろう。


 そう言った理由から、まずはオオトリ家が爵位を受けるということが最初に決まり、それから爵位を得る際の条件を決めることになった。これに関しては全部がそのまま通るとは思っていないが、ある程度は詳しい要望を出してもらわないと褒美を出す方としても困るというティーダの意見により、領地の場所や規模と言ったことを話し合うことになったのだが……そこからは面白半分と言った感じの意見が出てきて……正直言うと、かなり悪い方向に盛り上がってしまった。

 その話し合いの途中(悪い方向に盛り上がる前)でプリメラが双子のそばに戻ることになり、それにアイナが付き添うことになった為、この場から俺たちを冷静に見ることができる者がいなくなってしまったのも大きかったが、あれもしたいこれもしたいと言った計画前の夢物語のような話し合いがとても楽しかったのもあり、どんな条件を出せば面白くなるとか利益に繋がるとかあいつが困るからやってやろうとか、悪ふざけしながら話し合った結果……


「領地は将来性と爵位に相応しい広さを持つ場所で、自前の軍と領地経営に対して王家は必要以上の干渉はせず、国に納める税に関しては数十年単位での免除、もしくは減税をし、オオトリ領に対して故意に不利益になることはしないこと」


 などと言った、ふざけ過ぎと言われかねない内容に決まってしまった。

 ちなみに、一番ふざけていたのはじいちゃんで二番目がハナさんとアムールだった。アルバートは王族派の重鎮の嫡男と言う立場からか、何とかじいちゃんの要望を現実味のあるところまで持って行こうと頑張っていたティーダの補佐に回っており、ディンさんは俺やじいちゃんに有利になるようなアドバイスをしていた。そして、ジャンヌとアウラは途中からお茶の用意などのメイドの仕事に回り、マークおじさんは……じいちゃんのおふざけに巻き込まれないように、こっそりと俺に謝りながら部屋から出て行った。なお、アムールは途中から話についていけなくなったのか、ジャンヌたちの用意したお菓子に夢中になっており、ハナさんは所々で南部の為になるような意見(オオトリ家の領地の一部を南部自治区の中に食い込ませようとしたり、南部自治区のそばかつ王都から一番離れているところにさせようとしたり)を出してくるので、即座にティーダとアルバートに却下されていた。


 そんな感じで決まった条件は、プリメラとアイナを呆れさせるのに十分なものであり、ティーダもどうなるか分からないけれど、とりあえず王様とシーザー様に見せてみると、王様(と言うよりもシーザー様)に叱責されることを覚悟したような顔で持って帰ったような代物だったのだが……俺の予想に反して、オオトリ家から出されたふざけたような条件は、ほぼそのままの形で採用されたのだった。

 後にティーダからシーザー様がその条件について、「普通ならふざけた内容だとして即座に却下するような条件ではあるものの、オオトリ家の功績からすれば思っていたよりも安く済みますね」と、その場にいた王様や貴族たちに言ったと聞かされた。


 そうして最終的にオオトリ家への褒美として選ばれたのは、『大老の森』を含むククリ村周辺(ついでに、西側に潰すことになった男爵家や子爵家があったので、そのうちの半分程の広さもおまけされた)と伯爵位、そして三十年の無税に三十年の減税だった。ただ、ククリ村周辺に関してはハウスト辺境伯の領地なので、細かな打ち合わせは辺境伯と王家が後ほど行うことになるということだったのだが……実は今回の戦争が始まる前に王家とハウスト辺境伯家でいくつかの密約が結ばれていたそうで、その中の一つに、もし仮に辺境伯領に隣接している帝国側の領地を制圧した場合は、その切り取った領地を辺境伯家のものにする代わりに、辺境伯領の南側を王家に返上すると言うものがあったらしい。

 これに関しては俺にとってかなり都合のいい条件のようにも思えるが、実際にこれは戦争前に辺境伯家から提案されたものであり、その理由も俺に関係なく、ただ単に辺境伯領を管理しやすくする為(現在の辺境伯領は森に沿って縦長になっているので、他の領地との境界線が領地の広さ以上に長いので守る場所が多い)であるそうだ。

 現状ではまだ帝国側の領土を切り取ってはいないが、抵抗があの女に乗っ取られていたのは間違いなく、その手下だったゾンビの多くはすでに討伐されているし、王家も辺境伯家の支援を行い、冒険者である俺に指名依頼を出すので、まず間違いなく辺境伯家は帝国側の領地を切り取れるだろうとのことだった。もっとも、指名依頼に関してはその時初めて聞かされたのだが……断る理由がなかったので、そのまま受けることにした。


 そうした一部(仮)(カッコかり)な褒美を含めた論功行賞の後、俺は辺境伯領にいる連合軍への連絡を請け負ったという建前で援軍として国境線近くの砦に向かい、その途中で王都に向かっていた辺境伯軍からの使者の一団を発見したので事情を話し、その一部と共に砦の方へと向かった。


 そして、俺が辺境伯軍と合流してからの領土の切り取りは早かった。

 まず、俺が先行して国境線の砦から東側……帝国領内側の数十km地点まで飛んで行き、その場に千人程度が入れる塀と堀だけの拠点を作り百体以上のゴーレムに守らせる。そして、次はその拠点から数km程程離れた北側と南側にも同じような拠点を作り同じくゴーレムに守らせる。

 この三つの拠点を一セットの防衛戦ということにして、それと同じものを東側に移動しながら数十km間隔で二セット作り、最初の拠点に戻った。

 最初の拠点に戻ると辺境伯軍が来ていたので合流したが、その三つの防衛戦を作って戻るのに一日もかからなかったので、拠点に到着してまだ時間が経っていなかった(騎士団長に出世した)ライラ・アグリッサは、飽きれた顔で俺を出迎えてくれたのだった。


 こうしてハウスト辺境伯家が帝国側の領土を切り取り支配下に置くと同時に南側の領地を王家に返上し、それをオオトリ家への褒美として正式にもらい受けることになり、正式に伯爵となった俺だったが……広大な領地と爵位を得て終わりと言うことなどあるわけはなく、俺は領地の下見(と言う名の家族旅行)を繰り返す傍ら、伯爵家に相応しい家臣団を結成しなければならなくなり、非常に多忙な日々を送ることになった。


 ちなみに初期のオオトリ家家臣団として、ディンさん、ジン、ガラット、メナス、リーナ、ケリー、アグリを登録した。

 ディンさんは俺を助け出す為に近衛隊を辞めてオオトリ家の傘下に入ったということになっているのでそのまま残ってもらい、ジンたちは酔う度に「国興すなら手伝う」とか、「テンマが偉くなったら雇え」とか言っており、俺が爵位と領地を得たと発表があった後でジンたちは自ら売り込んできたので取り込んだ。多分、将来的にジンも爵位を得ることが決定しているので、その前にオオトリ家に所属しておこうということだろう。そうすれば早い段階で爵位を得たとしても、煩わしいことは俺の方に回せるとでも思っているのかもしれない。まあ、俺としてはそれでもいいが、その分は働いてもらうつもりだけど。

 ケリーは前からオオトリ家と親しくしているし、今回の戦争が始まる前からオオトリ家の一員のような形で重要な役割を担っていたので試しに誘ったところ、条件付きで了承してもらえた。その条件も家臣になったとしても鍛冶師としての活動を優先させると言うものだったので、特に不都合はない。

 アグリに関しては家臣と言うよりは相談役と言う感じだ。何せ俺が誘ったのは武闘派ばかりなので、皆に意見や注意を出せる、いわゆる『人格者』と言う人物が一人はいないと確実に苦労すると思ったからだ。それにアグリが来れば、芋づる式にテイマーズギルドも引き込めると思ったし。


 伯爵家にしては家臣の数は少ないが、今のところは三十年の無税のおかげで領地経営には余裕があるので、まずは小規模でも信用できる人物で固めることを優先したのだ。下手に伯爵家に見合う規模の家臣団を作ることを優先してしまうと、絶対に他の貴族の息がかかっている者が入り込むことになるので、ろくなことにならないのが目に見えているからだ。それに、家臣の数は少なくてもオオトリ家にはゴーレムの軍団があるので、それを指揮できる信頼できる人物と言うのが重要なのだ。


 そう言うわけで、ゆっくりと確実に家臣団を揃えると同時に領地の整備をやっているわけだが……今のところまともに税収が見込めそうなのがラッセル市だけ(しかも、ゾンビの襲撃を受けて街としての機能低下中)なので、早急に経済改革に乗り出さないといけなかった。それと、オオトリ領の中心地となる街づくりも。


 色々と前途多難で先行き不明だが……まあ、何とかなるだろうと、関係者全員、何故か楽観的だった。

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[気になる点] 現状ではまだ帝国側の領土を切り取ってはいないが、抵抗があの女に乗っ取られていたのは間違いなく 抵抗帝国っ!
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