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第20章-18 家族会議

4話連続投降の2話目です。

「貴族云々は報酬の話なんだろうが、俺が貴族に興味がないのは前から知っているだろ? そもそも貴族になるつもりがあるのなら、それこそ昔王様をククリ村の近くで助けた時とか、ドラゴンゾンビのこととか、武闘大会で優勝した時とか色々と機会はあったわけだし」


 他にも、地龍を倒したとか王族に売ったゴーレムの代金の代わりとか、セイゲンのダンジョンを攻略してさらにその下にあった別のダンジョンを発見したとか、機会だけなら両手の指で数えるくらいにあったのだ。そう考えると貴族になっていない方がおかしいのかもしれないと思えるが……ともかく、貴族になるならないは今更の話だ。


「そうなんですけど……テンマさんにその話を断られると、王家としても色々と大変なことになりそうで……」


 何が大変なのかと言うと、そもそも王家が平民に直接爵位を授けるというのは、普通ならこれ以上ないくらい褒賞であり、間違っても断ることは出来ない強制的な褒美であるはずなのに、それを断られると王族としてのメンツが立たないそうだ。まあ、オオトリ家はじいちゃんの代から三代続けてお断りしているので、貴族になることよりも王家と近しい立場であることを選んだ家系なのだと、これまではことある毎に言い広めてきたらしいが、今回はそうもいかないそうだ。


 これまでのオオトリ家の功績は、そのほとんどが個人的なものか冒険者活動の中でのものと言えるのだが、今回は王国の存亡がかかっていたような超が付くほどの大規模な事件の中で得たものであり、王家として出せる最大のものを俺に与えなければ、俺の下に位置付けられた功績を挙げた者たちの褒美まで下げなければならなくなり、そのせいでようやく戦争の終わりが見えてきたばかりだというのに、今度は別の種類の争いが新たに起こる可能性が出てくるらしい。

 それに、俺にとっては爵位などどうでもいいと思えるものでも、それを得ることが最大の喜びだという者もいるし(と言うか、世間一般の常識としてはそれが普通)、俺が拒否することで自分たちの存在を貶されたと考える者も出てくるだろうとのことだ。

 例え本当にそう言った奴らが出てきたとしても、オオトリ家だけなら逃げることも出来るが王家はそうもいかないし、続けての争いとなれば、被害に遭うのは力を持たない者たちからとなってしまうだろうとのことだ。

 なので王家としては、オオトリ家が爵位を受けてくれることが、一番手っ取り早くて確実にそれらを回避することができると考えているそうだ。まあ、今はまだティーダ一個人としての考えということにはなっているみたいだけど。


「一応聞くけど、俺がその褒美を受けた場合、どの爵位が与えられるんだ?」


「今の段階では、テンマさんに与えられるのは伯爵になると思います。しかし伯爵位だと、これまでと今回のテンマさんの功績に全く見合うものではないので、それ以上の爵位……辺境伯か侯爵の位の話が出ると思うのですが、辺境伯以上だと領地が必要になりますし、侯爵はその……テンマさんの血筋のこともありますので……」


 辺境伯と言うくらいだから、領地を与えられるとしても中央から遠く離れた場所に行かなければならないだろう。そして侯爵と言えば、上から数えて三番目(大公を除いた場合)の爵位となる大貴族なので、ティーダは言いにくそうにしていたが、本人の血統と言うものがとても大事になってくるだろう。俺は一応元貴族である両親の養子なので、伯爵(力が重要な要素となる辺境伯もギリ行けるかもしれない)なら問題は無いだろうが、父さんと母さんの実家は貴族としては下位の部類に入るし、肝心の俺自身の出自は全く分からない(分かるわけがない)ので、侯爵の話は出るだけでて即却下されるだろうとのことだ。


「テンマさんが独身であったなら大叔父様の養子に入るなりして、形だけでもルナと婚約すれば侯爵でも大丈夫だと思いますが……すみません、そう言う方法もあったというだけで、他意は全くありません」


 それをやるとなると、形だけでもプリメラと離婚しろということになるので、知らないうちに目つきが鋭くなっていたようだ。まあ、実際にその方法ならやってやれないことも無いだろうが、それはそれで大勢の貴族から反対意見が出るだろう。


「ですので、もしテンマさんが爵位を受けるとなると、伯爵か領地を与えられて辺境伯、もしくは一時的にテンマさんに伯爵位を与えて、将来的に今日産まれた子供のどちらかに辺境伯の位か侯爵の位を与えるという確約がされると思います」


 うん、とっても面倒な話だ。どのような形になるとしても、その全てが面倒なことになる可能性が高く、今ここで俺個人が決めていい話ではない。


「ティーダ、悪いけど、褒美を受ける受けないの話は俺だけで決められるものじゃないから、家族で話し合う時間を貰ってもいいか?」


「それは当然のことです。今ここで決めろというつもりは全くありません。ただ、答えを出すのは出来るだけ早くしてもらえると、我々としても助かります。そうですね……恐らくですが、おじい様はダラーム公……反乱軍の首魁であるダラームを捕縛、もしくは討伐の確認が出来次第、王国の勝利宣言をすると思います。それから論功行賞の準備に入ると思いますので、引き伸ばせても論功行賞は勝利宣言から一週間と言ったところになると思います」


 期限はダラーム次第と言うことになるが、下手をすると南部子爵軍によって既に捕縛もしくは討伐されている可能性もあるし、実際に一週間も引き伸ばせるかは不明なので、話し合う時間は思っているよりも少ないと考えた方がいいだろう。そうなると、プリメラの体調が不安である。


「とりあえず、早いうちに答えを出すようにするから、王様たちにはそう伝えてくれ。後、話し合いには、なるべくティーダも参加してくれよ」


「え?」


「王様が俺のところにティーダを送り出したということは、オオトリ家との()()()()()はティーダということだろう? なら、褒美の細かな条件とかもあるし、窓口であるティーダにはオオトリ家の話し合いに参加してもらわないと、王家とオオトリ家の間で行き違いが出たら大変だからな」


 ティーダとしても、戦争の終わりが見えてきたことで色々と忙しくなるだろうが、それはそれとしてこちらの話し合いに参加してもらわないと、俺たちだけで決めていい範疇を越えてしまう可能性が高い。


「大変だとは思うけど、頼りにしているからな! 色々と……」


 そう言って笑いかけると、ティーダはまたしてもテーブルに突っ伏してしまった。多分、今になって王様かシーザー様に、一番大変なオオトリ家との交渉を押し付けられたのだと気が付いたのだろう。


 その後、少しの間テーブルに突っ伏していたティーダが王城に戻らなければならないと言うので、その前に子供たちと会っていくかと聞くと、ティーダは食い気味に「会いたいです!」と答えた。

 なので、プリメラと子供たちがいる部屋まで行き、プリメラと産婆さんに許可を取ってから中に案内すると、俺とティーダが部屋に入ったタイミングで寝ていた双子が起きて動き出したのだった。ただ、起きたからと言って泣くわけでもなく大人しくしており、それを見た産婆さんが抱いても大丈夫だと判断した為、ティーダはマリア様よりも先にうちの子を抱っこすることができたのだった。

 そのことでマリア様や王様に何か言われないかとからかったところ、


「面倒事を押し付けたから幸運が逃げて、その分が僕に回ってきたのだと言っておきます」


 などと胸を張って答えていた。

 確かにティーダが子供の産まれた日に来たのはたまたまだったが、ティーダの本来の目的は王都に戻ってきた俺に会う為だったので、もしティーダの代わりに来たのがマリア様だったり、ティーダの付き添いという形で家に来ていたりすれば、王族で双子を一番に抱っこしたのは間違いなくマリア様になっていたはずだ。そう言った意味では、タイミングを逃したことで運気がマリア様からティーダに流れたと言えるだろう。


 王城へと戻って行くティーダを乗せた馬車を見送ったあと、俺は報酬のことで話があるとじいちゃんを始めとするオオトリ家関係者を集めようと声をかけたところ……予想以上に集まり過ぎたので、いつも屋敷にいるメンバー(ただし、プリメラは出産直後の為不参加)に加えてマークおじさんとケリー、そしてディンさんとアイナ、さらにアムールの保護者だからと言い張ってついてきたハナさんで話し合うことになった。

 正直、ケリーとアムールとハナさんは居なくてもいいとは思うが、ケリーはジャンヌの補佐で東と西の戦いについて行ってオオトリ家の戦果に貢献していると言えるし、アムールは今後もオオトリ家の居候でいるからと言って聞かないし、ハナさんは……この場にいる中で、唯一の領地持ちの貴族なので何か参考になることが聞けるかもしれない……からだ。


 この日は話し合いと言っても、プリメラが参加していないし各自色々な疲労が残っているので、ティーダから言われたことと俺はあまり乗り気ではないということを話して簡単な意見交換程度にし、明日以降本格的に話し合うことにした……のだが、


「戦闘関連で乗りに乗っている時の南部子爵軍は、無駄に仕事が速いな……いや、まあ、いいことなんだけど、もう少しゆっくり戻ってきても良かったのに……」


 昼からの話し合いの為、少し早めの昼食を食べている最中に、反乱軍を追いかけていた南部子爵軍が、反乱軍を率いていたダラームを捕縛したという知らせが、早馬で王都に運ばれてきたのだった。


 一応、ダラームの捕縛から一週間程度は引き伸ばしてくれるとティーダは言っていたが、逆に言えばこれからのオオトリ家のこと……もっと言えば子供たちの将来に関わることをこの短時間で決めないといけないということになったのだ。

 ただ、少しだけよかったと思えることもあった。それは、オオトリ家にダラーム捕縛の知らせを持ってきたのがアルバートだったということだ。普通なら、一協力者のところに軍関連の重要な知らせなど持ってくるはずはないのだが、王家がオオトリ家に与える褒美の内容について知っていたアーネスト様が、俺が貴族になるかならないかの話し合いをするはずだと予想して、義兄であるアルバートを一時的に警備隊の任を解いて送り出してくれたのだった。


 こうして、アルバートとプリメラ(長時間は無理なので、回復魔法を使いながら休憩を挟みつつ短時間での参加)、そして王族代表のティーダ(と時々マリア様)を交えて何度か話し合った結果……王様の勝利宣言からおよそ一年後には、オオトリ家の王都とククリ村周辺を行き来する生活が始まったのだった。

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― 新着の感想 ―
[一言] どうしても貴族位を叙爵してもらいたいなら侯爵ぐらい気前よく渡してあげればいいのに
2023/11/05 01:00 退会済み
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[一言] 公爵は王族に連なるものとして与えられないのは分かるけど侯爵は血統関係なく与えられると思うけどなぁ。
2023/11/05 00:59 退会済み
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