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第20章-16 没収

本日二話目です。

「ん? ……ここは」


 寝る前に見た風景とは違うが、見覚えのある場所だなと思っていると、


「テンマ君が起きたーーー!」


 案の定うるさいのが騒ぎ出し、あっという間に騒がしくなった。

 

「それで今回は……って、あの女のことだよな?」


 そう聞くと、


「そうだね。()()()()()()()()()しようか」


 目の前で騒いでいた創生神たちは急に真顔になって姿勢を正し、


「テンマ君のおかげで、最悪の事態にならなくて済んだ。あの世界を救ってくれてありがとう」


 と、神たち全員で頭を下げてきた。


「いや、まあ、色々と苦労はしたけど、あいつを倒さないと俺にとっても不都合があり過ぎたしな」


「それでもだよ。もしテンマ君が負けていたら、僕たちの中の誰かが介入してあいつを滅ぼさなければならなかった。そうしたら、介入した神はあいつと共に存在が消えていただろうし、あの世界のダメージはかなりのものになっただろう」


 どういったことが起こるかまでは分からないらしいが、もしかすると人が住めない環境になるか、そこまで行かなくても何らかの影響で人が減り、文明が数百年から数千年レベルで退化する可能性もあるし、最悪世界そのものが滅ぶことも考えられたらしい。


「それで申し訳ないんだけど、テンマ君から『亜神の力』と『権限』を取り上げないといけない」


 もしかすると何らかのはずみで俺の持つ亜神の力が世界に悪い影響を与えたり、可能性は低いが俺が力に溺れて狂い、第二の()()()になってしまったりということもありえるらしい。

 俺としては力に溺れるつもりはないと断言したいが、亜神となった影響で将来的に人とは違う思考回路に陥ってしまう可能性があるし、何よりも元死神が狂ってしまった前例があるといわれると、完全に否定することは出来なかった。まあ、力を取り上げられたとしても、亜神に成った際に得た力の全てが取り上げられるわけではないそうだ(魂レベルで一体化してしまった力に関しては、流石の神たちでもどうしようもないらしい)。

 一応、今よりは弱くなるものの人間として見れば規格外どころではないらしく、分かりやすく言うと『古代龍』と同等に近い力……創生神たちに言わせると、『古代龍を頑張ったら何とか倒せるかも』くらいになるらしい。ただ、その『古代龍』の基準がベヒモス(ひーちゃん)らしいので亜神でなくなったとしても、(創生神たちを除いて)世界で一番強い生き物から、一番か二番に強い生き物になる程度の違いしかないそうだ。しかも、これまでよりも緩やかにはなるが成長はするので、頑張れば世界一も狙えるとのことだ。


「ひーちゃんと争う気は無いから、別に世界一でなくてもいいや」


 あの女との戦いで何度か死にかけたし、俺の人生の中で一番の脅威になりそうだった女は倒したので、自分と周りの人たちを守れるくらいの力さえあれば、そこまで強さにこだわりはない。まあ、体が鈍らないように自己鍛錬はこれからも続けるだろうけど、積極的に強くなろうと鍛えることは無いだろう……多分。


「まあ、それがいいだろうね。ただでさえあいつを倒したことで、テンマ君の力がどれほどのものか世界中に知れ渡ることになるのに、ベヒモスまでどうにかしてしまったら、色々とあの世界のバランスが崩れることになるよ」


 創生神の言うバランスは、俺にとっていい方に崩れる可能性もあるだろうけど、それ以上に悪い方に崩れる可能性の方が高いような気がするので、これ以上話題にしない方がいいだろう。別にひーちゃんと敵対しているわけでもなく、むしろナミタロウやボンとの関係を考えたら友好的な方だと思える。


「それで、亜神の力はどうやったら取り除くことができるんだ? あまり痛い方法は止めてくれよ」


 そう言うと創生神は、


「ああ、大丈夫、痛みとかって全く無いから……ただちょっと寝ていてくれれば、その間に済むよ。具体的に言うと、二~三年くらい」


「断る!」


 そんな長い間拘束されたら、間違いなく死亡判定を受けるし、何よりも我が子の誕生の瞬間に立ち会えない。


「大丈夫だから! この空間はテンマ君の住んでいる世界とは時間の流れが違うし、その中でも特別な部屋を用意しているから、テンマ君がその空間で二~三年寝ていたとしても、実際には二~三時間くらいしか過ぎないから! ……誤差はあるけど」


 最後の方に不吉なフラグを立てた創生神だが、その誤差も長くなってもせいぜい一日くらい(すでに神たちで実験済みらしく、この場にいる男性神全員でやった結果らしい)なものだそうだ。


「ならいいけど……何かの手違いで長くなりそうなら、一度起こせよ! 絶対にだぞ!」


 そう言いながら、創生神の言う特別な部屋に案内してもらおうとすると、


「それと、テンマ君が次に起きた時は、元いた場所で目覚めるからね。そして次に僕たちが会うのは、テンマ君が僕たちの仲間になる時だから」


 などと、重要なことをさらりと言われた。


「は?」


 いきなりそんなことを言われても訳が分からないので、詳しい話を聞こうと振り返った瞬間、創生神は「へぶっ!」という声を出して目の前から消えた。


「重要なことなんだから、最初から順を追って説明しようって決めていただろうが!」


 創生神をぶっ飛ばしたのは武神だった。今の一撃は、あの女ですら体に穴が開くのではないかと言う威力があったように思えるが、創生神のことだからしばらくすれば何事もなかったかのように戻ってくるだろう。


「テンマちゃん、そのことについての話をするから、一度座って話をしましょうね」


 愛の女神に案内され用意されていた席に着くと、次々に創生神を除いた神たちが席に着いた。


「それで創生神の言った『力を取り上げる』っていうのは、これ以上私たちが干渉するのは危険かもしれないからなのよ」


「人間のままならこれまで通りで大丈夫なはずだったのだけど~……転生者が短い時間とはいえ、亜神に成ったという前例がないのよ~」


「だから、万全を期した方がいいと多数決で決まってな……私としては貴重な実験体を逃がす……もとい、これまで通り接した方が、テンマの異変にすぐ気が付けると主張したのだがな」


 愛の女神と大地の女神の説明の後で魔法神がとても残念そうに言うと、両脇に座っていた獣神と破壊神が左右からきつめのツッコミを入れて黙らせていた。


「まあ、あれは無視していいさ。私としてもテンマの異変にすぐ気が付けるというのは利点だとは思うが、何が起こるか分からない以上、世界が壊れるかもしれないリスクは避けるべきだからな」


 破壊神は魔法神の言いたいことも多少は理解出来るが、同様に取り返しのつかない可能性があるのなら避けるべきという理由から、多数派に回ったとのことだった……と言うか、魔法神以外が多数派とのことだった。


「テンマちゃんと会えなくなるのは残念だけどね……私たちのわがままで世界を危険にさらすのは、可能性であったとしても避けるべきなのよ」


「まあ、人族の寿命は数十年……テンマなら、あと百年くらいかね? それくらいなら、あたしたちにとってはさして苦にする程の時間ではないからね」


 武神も魔法神とは違う意味で残念そうにしていたが、反対に生命の女神はあっけらかんとしていた。と言うか……俺、これから百年近くは生きられるのか……下手するとと言うか、高確率で今度生まれてくる子供を看取ることになるのか……


 俺の寿命に関してポロリとこぼしたのが、よりにもよって生命の女神だった為、俺はかなり落ち込んでしまったが……


「多分、テンマはそこまで寿命は長くはないと思う。テンマの肉体を作った時に参考にしたのは前世の肉体だったから、いくら強化したとはいえ、元の肉体の倍以上にはなっていないはず」


 と死神が言ってくれたので、ひとまずは安心した……が、


「って、前世の俺の寿命は六十くらいしかなかったのか!?」


 今度は違う意味で驚く情報が出てきてしまった。


「前世のテンマは、運の値がかなり低かったから……それが肉体にも影響していた。どんまい」


 まあ、所詮は前世での寿命の話だから、今の俺には関係ないと割り切るしかないけれど……それでも、自分の寿命の話をするのは少し変な気持ちになってしまう。


「そう言うわけだからテンマ君の寿命は、生命の女神が言う程長くはないと思うよ。生まれ変わる際に肉体を強化した分や、魔力で伸びた分を足したとしても、平均的な人の寿命よりは長いけれど、少なくとも人の範疇から大きく外れる程ではないはずだよ。それに、転生者の子供は親の影響で寿命が長くなる傾向があるから、病気や事故がなければ順番通りになると思うよ」


 いくら生命の女神とは言え、正確な寿命が分かるわけではないらしい。

 一応、大まかにどれくらいだとかは何となくわかるらしいが、それはあくまでも生命の女神の経験から来る勘でしかない上、生命の女神は割と大雑把な性格をしているので、同じように命に関わる役目を持つ死神の方が信頼できるそうだ。


「というか、さらりと戻って来たな。創生神……」


 思っていた通り、あれだけの威力で殴られたにもかかわらず創生神は何事もなく戻ってきて、しっかりと自分の椅子を用意してから話の輪に加わってきた。


「テンマ君の能力値は人のレベルから大きく外れはするけど、肉体は人のままだから、余程のことがない限り寿命は人の範疇から外れることは無いよ」


 余程のこととは、肉体を細胞レベルで改造したり、薬物などで無理やり寿命を延ばしたりと言ったことらしい。それと、


「テンマ君に限っては無いと思うけど……()()()と同じように、リッチになっても寿命は延びるね」


 などと洒落にならないことを創生神はさらっと言うが、他の神たちの気配は剣呑なものになっていた。それは、創生神に対してなのか、それとも俺の反応を見る為なのかは分からないが、もし神たちがその気になれば、亜神でしかない俺はちりも残さずに消されてしまう……だろうが、


「戻って来て早々に、ふざけたことを言うんじゃない!」


「げふっ!」


「言っていいことと悪いことがあるだろ!」


「ぐへっ!」


「悪ふざけが過ぎるな」


「がふっ!」


「……ふんっ!」


「ぶひっ!」


 『リッチ』と言う単語が出た瞬間に動き出した武神、破壊神、技能神、獣神の連続攻撃により、またしても創生神はどこかへ吹っ飛んで行った。今度の連続攻撃は、亜神となった俺でも耐えることは出来ないかもしれない。

 今度こそは、創生神でもしばらく戻って来れないだろうと思ったのだが……先程と同じくらいの時間で、創生神は戻ってきたのだった。もっとも、流石に受けたダメージは大きかったらしく、足取りはかなり怪しかったが。

 その後はたわいもない話から、軽いものから割と重めの神たちの暴露話、それを切っ掛けに始まる乱闘騒ぎといったいつも以上に騒がしい時間が過ぎていった。


「そ、そろそろ、テンマ君を特別製の部屋に連れて行かないと!」


 調子に乗って余計なことを色々と言ってしまった為に、代わる代わる他の神たちにボコられていた創生神が、慌てた様子で叫んで俺のそばへとやって来た。

 それは他の神たちから逃げる為の口実でもあっただろうが、実際に予定していた時間よりも長引いていたようで、他の神たちは俺を引っ張って行く創生神を捕まえようとはせずに黙っていた。そのことを確認した創生神は、俺の腕を引っ張りながらいつもの部屋を出て、突き当りが見えない程の長い廊下を歩きだした。

 他の神たちは俺と創生神に付いてきたので、その特別製の部屋に着くまでの間に、俺は個別に別れの挨拶をすることが出来た。そして別れの挨拶が済んだ神から順に、歩みを止めない程度の威力で創生神を小突いている。


(こんな騒ぎも、しばらく見納めか……いや、死んだ後はずっと付き合うことになるんだから、定期的な休みが欲しいな)


 などと考えていると急に創生神が止まり、ぶつかりそうになってしまった。


「ここが例の特別製の部屋だよ。この部屋は一度入ると出られなくなっているから、テンマ君一人で入ってね。部屋に入ると中央にベッドがあるから、そこに横になれば次に目が覚めた時には元居た場所で横になっているよ」


 そう言って創生神は部屋のドアを開けたが、外から見た限りでは中央にベッドが一つあるだけの殺風景な部屋だった。特に変わったところは見当たらないが、創生神以外の神たちの様子からすると、ここが特別製だという部屋で間違いないようだ。


「それじゃあ……って、躊躇せずにあっさりと入ったね」


 この部屋がそうだというのでとりあえず入ってみたが、入ってみても普通の部屋と変わりがないように思えた。ただ、


「本当に出られないんだな」


 試しに一度外に出てみようとしたが、ドアは開いたままなのにまるで見えない壁のようなものに阻まれて、指の先すら部屋の外へと出すことができなかった。


「このドアを閉めたら声すらも届かなくなるけど、何か聞いておくことは無い?」


「特には……ああ、そうだ。ナミタロウはどうなるんだ?」


「ナミタロウは前世でも神格を持っていたから、これまで通りの付き合いをしても大丈夫だとは思うんだけど、念を入れてテンマ君が死ぬまでは会わないようにしておこうってことになったよ」


 俺のせいで、ナミタロウにも迷惑をかけたな……と思ったら、


「あいつ、『その間はわいがテンマを独り占めやな!』……とか言っていたから、次に会う時は覚えとけ! ……って伝えといてね」


 特に気にしてはいないようなので、安心して会うことができそうだ。


「それじゃあ、テンマ君。また会う時まで、良い人生を」


「ああ……皆、この世界で生きる機会をくれて、ありがとうな」


 そう言うと俺は、すぐにドアを閉めた。あれ以上神たちの顔を見ていると、間違いなく泣いてしまっていただろう。もっとも、創生神と武神の号泣を始め、他にも泣きそうになっていた神がいたから恥ずかしい状況にはならなかっただろうけど。


 とりあえず他にやることも無いのですぐにベッドに横になってみたものの、気持ちが高ぶっているのでしばらくは眠れないだろうなと思いながら目を瞑ってみると……


「まじか……」


 次の瞬間には俺が作った岩の壁が目の前にあった。

 寝る前に感じていた眠気やだるさがきれいさっぱり消えていたので安全地帯から出てみると、丁度朝日が昇るところだった。

 感覚的には、あの特別製の部屋で目を瞑ってから一度瞬きをしたくらいの時間しかたっていない。創生神の話では、誤差は長くても一日程度とのことだったがそれは神たちで試した結果なので、俺だとどうなるのかはっきり分からないはずだ。もしかすると、俺の時だけ大幅に狂う可能性もあったわけだし。

 現状で、こちらの世界で寝てから少なくとも半日近くは経っており、最悪だと数日経過しているかもしれないので、急いでセイゲンに向かわないといけない。


 幸い、神たちのところで数年分の時間を寝ていたおかげか、体調は回復している。それに、亜神となってあの女と戦った時よりは力が弱くなっているようだが、亜神となる前と比べるとかなり強くなっているみたいだ。それこそ、あの女とやり合う前に倒したリッチになら余裕で勝てそうなほどだ。


(これなら、思ったよりも早くセイゲンに着きそうだな)


 軽く動いて体の状態を確かめた俺は、改めてセイゲンの方へ向かって飛んだ。

 亜神に成る前と同じような感覚で飛んだが、明らかに飛ぶ速度が違った。具体的に言うと、亜神に成る前の倍近い速度が出ている。

 流石に亜神の時のような速度は出なかったが、それでも三時間程でセイゲンの近くまでくることができた。

 ここまで来る間、見つけたゾンビは全て魔法で倒してきたが、大きな群れと言う程集まっているゾンビはおらず、多くてもせいぜい四~五体と言った群れを二つ三つ見つけたくらいだった。

 ここまでの道中で、あれだけいたゾンビをあまり見かけなくなったのは、恐らく女が『大老の森』方面のゾンビを片っ端から吸収したおかげでもあるのだろう。

 後はセイゲンの中に敵がどれだけいるかというところだが、ワイバーンは女との戦いの中でついでに倒していたし、何より女の自爆攻撃に巻き込まれているので全部いなくなっているだろう。スケルトンや腐肉のゴーレムにしても、あいつらの行進速度だとダンジョンの最下層から地上に出てくるまでは何十年もかかるはずだ。他にもどこからか集まって来ていた魔物やゾンビがいたが、シロウマルの両親が倒して回っていたし、こいつらも女の自爆攻撃に巻き込まれているはずなので、生き残っていたとしてもかなり数は減っているだろう。


 もし残っていたとしても、その中で危険度が一番高そうなのはオーガくらいなので、余程の数が居なければセイゲンの残存兵力でも対応可能なはずだ。もし厳しかったとしても、王都がどうなっているのか分からない状況なので、自分たちだけで何とか粘って欲しい。


 そう思いながらセイゲンに乗り込んだが……すでに戦闘行為は終わっているようで、生き残った冒険者を中心に、魔物の解体が始まっていた。中にはかなりの大怪我を負っている冒険者や一般人も交じっていたので、早い者勝ちになっているのかもしれない。

 そんな感じで、戦争中とは思えないある種の活気が満ちている街中を飛んでじいちゃんたちと別れた場所を目指していると……何故か素材の山積みにされているのが見えた。しかもその山は二つもある。


「あそこにいるのはじいちゃんたち……と、ガンツ親方にギルド長?」


 じいちゃんたちは何やら真剣な表情で話しているが、その間にもガンツ親方の弟子たちによって魔物の素材が積まれている。よく見てみると、何故か冒険者が列をなして親方の弟子たちに素材を渡していた。


「じいちゃん!」


 余裕があるのなら、今ここでこの状況を説明して欲しいところだが、そんな暇はないので後回しにしていいだろう。


「わしらの準備は出来ておる! 悪いがテンマ、運んでもらうぞ!」


 それはじいちゃんも分かっているようで、じいちゃんはそう言うとすぐにディメンションバッグの中に入っていった。

 俺はじいちゃんたちが入ったディメンションバッグを掴むと、今度は王都を目指して全力で飛んだ。そんな俺を見ていた親方たちや何人かの冒険者が手を振っていたので、まだ王国は戦争中とは言え、セイゲンでの戦争行為はほぼ終わったというところなのだろう。



「じいちゃん、王都が見えた! 王都が戦場になっていないように見えるけど、このままの速度で屋敷まで突っ込む!」


 王都まではおよそ半日で到着した。もしも途中で休憩しなかったら(休憩とは言っても、代わりにシロウマルが走ったりしたが)もう少し早かったかもしれないが、王都に着いてそのまま戦闘に入るということも考えられるので、話し合いの必要があったのだ。

 その話し合いの中で、女を確実に倒したこと(亜神や神たちに関係することはごまかした)やじいちゃんたちの怪我の状態(じいちゃんとジンの怪我はほぼ完全に治っているが、ディンさんの目は少し視力が落ちているそうだ)を確認し、王都で戦闘になった場合の動き方を決めた。その後でセイゲンで見た素材の山の話も聞いたのだが……あれはオオトリ家と王家に渡される予定のものだそうだ。

 セイゲンは王家の直轄地となっているので、王家に倒した魔物の数に応じたの量の素材を引き渡さないといけないというのは分かるが、何故オオトリ家の分もあったのかと言うと、セイゲンに転がっている魔物の死体は俺が女と戦っている時についでに倒されたり、シロウマルの両親たちが倒したり(俺と一緒に飛び出して来たので、俺の眷属扱いとするそうだ)したものが大半であり、それ以外のほとんどはじいちゃんたちや俺のゴーレムが倒した魔物とのことで、ギルドとしてはオオトリ家の取り分を無視することは出来ないとのことからだった。ついでに言うと、あんな化け物と互角以上の戦いをしていた俺が倒した素材をネコババして、もし報復でもされたら目も当てられないからだとのことだ(ちなみに、俺は報復する気はないのだが、冒険者の間では自分の倒した獲物をネコババされたとして報復されることはよくあることで、その場合はネコババした方が悪いとされることも関係している)。


 ならば、何故一般人と思われる者まで解体作業をしていたのかと言うと、解体した魔物の一部を納めれば残りは持って行っていいということにしたらしい。こうすることで、街中に溢れている魔物の死体が腐るということで起きる疫病を防止すると同時に、被害に遭った人たちを少しでも救済する目的とのことだ。

 そしてガンツ親方の弟子たちに素材を渡していたのは、納める為の素材を持ってきていた冒険者だったらしい。冒険者に対しては、そのほとんどがセイゲンで活動している者たちだったらしいので、『誰がどれだけ素材を持ってきた』と言うのをギルド職員が記録しているそうだ。ただ、かなり大雑把なやり方なので不正はやりたい放題になるだろうが、そこはあえて目を瞑るらしい。あまりやり過ぎると、いずれボロが出るだろうし、何より近くで作業している他の冒険者たちが気が付かないはずがない。それは一般人に対しても同じことだ。なので、あまりにも目に余るようならば口を出すつもりらしいが、ある程度はこんな状況なので見逃すということで話を付けているらしい。

 あと、今回オオトリ家が得る素材に関しては、一度王家に話を通した後で、セイゲンに寄付するということになっているそうだ。

 そのことを勝手に決めたとじいちゃんは俺に謝っていたが、あの状況でオオトリ家が素材を持って行けば、こちらに非は無くても悪感情を抱く者はいるだろうし、元々素材のことは考えていなかったので、じいちゃんの決定は俺としても納得の行くものだった……が、さり気なくワイバーンの素材だけは王家のものとしている辺りは流石と言うべきだろう。


 王都に突入してすぐに一度も戦場になっていないことが分かったので安心したが……屋敷が見えてきたところで、その光景に違和感を覚えた。庭がごつい奴らで溢れているのだ。

 まあ、すぐに南部の兵だと気が付いたが、南部の兵にしては数が少ないし、怪我人が多いのも気になった。それに、何故か南部の兵だけでなく、避難している知り合いたちの間にも変な緊張感が走っていることも。

 もしかすると、いつ戦闘が再開するか分からない南部の兵たちに釣られて気が張っているのかもしれないと思いながら屋敷の庭に降り立つと……庭に空から現れた俺に最初は皆身構え、俺だと気が付くと一斉に寄って来た。しかし、


「テンマ!」


 皆をかき分けるようにしてハナさんが近づいてきて……俺を担ぎ上げた。そのはずみで、ディメンションバッグが飛ばされて、中から出てこようとしていたじいちゃんが地面に転がった。


「ちょ! ハナさん!?」


 ハナさんの意味不明な行動に抗議しようとした俺だったが、


「テンマ、プリメラが産気付いた! すぐに行くよ!」


 と言われたので驚いて黙っていると、そのまま屋敷の中に運ばれたのだった。

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