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第20章-15 希望の光

本日一話目です。

(熱いって感じじゃない。むしろ心地いい……小烏丸から?)


 小烏丸から伝わる熱は、金属であるはずの小烏丸が文字通り俺の手足となり、今にも血管が繋がって脈を打ち始めそうな錯覚を覚えてしまうような、どこか落ち着くような感じの温かさだった。


(小烏丸……もしかして!)


 熱の発生源に気が付いた俺は、俺が今求めているもの……ソロモンとナミタロウ以上に、俺が理想とする魔法を放った存在がいたことを思い出した。

 その魔法は当時の俺から大切なものを奪って絶望に追い込み、自分の命すら捨ててもいいと思える程の怒りを覚えさせた存在が放ったもので、俺が知る魔法の中でも最高クラスの威力を誇るものだ。つまり、


()()()()()()()の『ブレス』……)


 俺が出会った中でも、最悪と言っていいくらいの災害であるドラゴンゾンビ。しかもあの時は放ったブレスは、女に意識を奪われてゾンビと化し、最盛期よりもかなり力の落ちた黒い古代龍のブレスだったのだ。


(俺と今の小烏丸だったら、黒い古代龍の最盛期とまではいかないものの、あの時のドラゴンゾンビのブレス()()()()()超えられるはず……いや、絶対に越えてやる!)


 俺と一体化した小烏丸を通せば、頭では理解できない龍のブレスも放てるという確信があった。何故かはわからないけれど、確実に出来ると思えるのだ。それだけでなく、どのタイミングや角度で放つのが一番いいのかも分かる。もしかすると、小烏丸と一体化している感覚がそうさせているのかもしれない。


(俺の持つ全魔力……だけじゃなく、周囲の魔力も使ってやる)


 やることが決まった以上、ただ指を咥えてあいつの周辺にある魔力をくれてやる必要はない。

 どこまでの範囲の魔力を集めることができるかは分からないが、同じ亜神である以上、あいつに出来て俺に出来ないわけがない。


(あいつ程ではないみたいだけど、思ったよりは集めることができているというところか?)


 俺が魔力を集め始めたことはすぐに女も気が付いたようで、女が魔力を集める速度が一気に上がった。その為、俺が集める速度と量は女と比べて数分の一というところではあるが、元々増える予定ではなかったものがわずかとは言え増えて、逆に相手は減っているのだ。

 そう言った意味ではやってよかったといえるだろう。


(集めた魔力と俺の魔力を、限界まで押し込むようにして小烏丸に集めて……)


 小烏丸に魔力を集め出した俺を見て女は危機感を覚えたのか、さらに魔力を集める速度が上がった。その結果、俺が周囲から集める魔力はほとんどなくなってしまった。だが、ここまで俺とあいつで派手に集めまくったのだ。周囲の魔力も、あと少しで尽きるだろう。


(つまり、集めるものが無くなれば、あいつの自爆の準備も整うというわけだ……)


 どちらの準備が先に終わるのか分からないが、ここまで来て中途半端な状態で撃つよりは最大の威力で放てる時を待ち、確実にあいつの息の根を止める。

 その考えはあいつも同じようで、俺を拘束する力はかなり弱っていた。それは、俺が拘束から逃れることを優先すれば、即座に女は自爆する気だからだろう。この状況で少しでも気を逸らせば、取り返しのつかないことになりかねない。


 互いに睨み合ったままの状態が続き……最初に動きを見せたのは女の方だった。

 

(締め付けが強くなった……来るか?)


 弱くなっていた拘束が一瞬だけ強くなり、それと同時に強く女の方へと引っ張られた。そのせいで太腿の辺りの骨が折れたようで激しい痛みが走り、おまけにバランスを崩して女に対し背中を向けてしまう。そしてその次の瞬間、女から膨れ上がる莫大な魔力を感じた。

 この感じでは、もしかすると魔力の量はあいつの方が多いかもしれないが、俺は不利な体勢でも落ち着いていた。何故なら、勝てるという確信があったからだ。


 例えあいつの方が魔力量が上だったとしても、向こうの攻撃は全方向なのに対し、こちらは一点集中型の攻撃なので、魔力がぶつかる箇所の密度ではこちらが上だ。

 そして何よりも、小烏丸からはこの状況でも勝てるという思いしか伝わってこない。百戦錬磨の黒い古代龍の魂を受け継ぐ小烏丸がそうなのだ。今の俺にはあいつを恐れる理由はない。


(タイミングは小烏丸が教えてくれる。俺はそれに合わせて、黒い古代龍の『ブレス』を放つだけだ! )

 

 俺は大きく息を吸い込み、小烏丸の合図に合わせて切先が女の方へと向いたタイミングで、


「くらえ……『カタストロフィ』!」


 全力で『ブレス』を放った。

 俺にとっては相手を『倒す』と言う意味を持ち、相手にとっては『破滅』を意味するこの技の名は、黒い古代龍の『ブレス』に相応しいものだった。当然、その威力も。


 女は俺よりも一瞬早く爆発を起こしたものの、俺に到達するかなり手前で『カタストロフィ』はその衝撃とぶつかり一瞬だけ拮抗し……


「いけ!」


 あっさりと突き破って女に直撃した。そして『カタストロフィ』は、女で止まらずにそのままの勢いで地面を深く大きく抉りながら突き進んだ。おまけに、それに女の爆発の威力も加わり、『カタストロフィ』が収まるまでに、百m以上の深さと半径千m以上のクレーターを『大老の森』に造りだした。


「倒した……いや、姿は見えないけど、まだいるな」


 薄っすらと、亜神に成って居なければ気が付けなかっただろうくらい薄い女の気配を感じ、俺は土煙を風魔法で散らしながらクレーターの一番深い場所へと降りた。

 かなり体力と魔力を消耗してしまい今の風魔法もかなりつらかったが、女は俺以上に消耗しているので危険はないだろう。


「前の時も、それで神たちの目を欺いたのか」


 女の肉体は『カタストロフィ』によって消滅しているが、女は幽霊のような姿の見えない状態でまだ存在していた。

 近くにいてようやく気が付く程度の気配なら、創生神たちのように違う次元にいると見落としてしまうのは仕方がない。


「ウゥ……アァァ……」


 もしここで俺も見落としてしまっていたら、この女は時間をかけて復活し、数百年後にまた同じことを繰り返すのだろう。

 しかし俺に見つかった以上、女は前回のようなことは出来ず、今後も今回のような事件を起こすことも出来ない。


「お前は亜神としてゾンビを生み出し操る能力を持っているが、俺も亜神になった時に特殊な能力を得たんだ……まあ、()()()に役立つ能力じゃないし、生活に役立つような能力でもない、とても限定された能力だけどな」


 そう言いながら小烏丸を女の気配のするところへと向けると、薄っすらとした女の姿が現れた。女の胸には男性のものと思われる頭蓋骨が抱かれている。あれは恐らく、女が神でなくなる原因となった転生者のものだろう。

 もしかすると恋人関係にあったのかもしれないが、もし恋人の為だったからと言っても、同情はこれっぽっちも出来ないしする必要もない。

 俺は、未来永劫この女によって今回のようなことを起こさせないようにする為、


「今ここで、お前の存在を確実に消す!」


 そう女に向けて啖呵を切った。だが、女は怒りを向けるだけで俺の話は聞いていないようで、まだどこか余裕があるような感じがした。しかし、


「俺の神としての名は、『輪廻転生の神』。命の生まれ変わりを司る神……今はその見習いだがな」


 俺の言葉を聞いた女は、ようやく焦りの表情を浮かべた。


「その神の力で、お前を生まれ変わらせる。お前の魂から、記憶と死神の力を失わせてな」


 その性質上、俺の神としての能力は戦闘には全くと言っていい程役に立たず、人が……生あるものが命を失わないと発揮されない力だが、女にとってはとても恐ろしい能力だろう。もっとも、未熟な俺には女を今すぐに転生させることは無理だが、死神の加護を持つ亜神の俺なら、死を司る現死神の下へ送るくらいならできる。

 送っておけさえすれば、後は神たちが俺が正式な神になるまで見張ってくれるだろう。神たちの居る空間なら、亜神でしかない女は手も足も出ないはずだ。


「ヤ、ヤメ……」


「お前を転生させるのが何十年、何百年後になるか分からないが、それまで死神たちに囲まれながら反省しろ」


 そう言って小烏丸を振り下ろすと、女の気配は完全に消えた。

 手下だったゾンビや反乱軍はまだ残っているが、元凶であり一番の脅威でもあったあの女は居なくなったのだ。これで俺の亜神としての戦いは終わったと言えるだろう。


「後はみんなのところに戻るだけか……」


 『カタストロフィ』を使ったことで魔力と体力の大半を使い、女に止めを刺す際に残りの力を使ってしまったのでほとんど動くことができないが、亜神になったことで回復力がかなり上がっているので、すぐにでも動けるようになるだろう。


「それまで少し休憩するか……って、うん?」


 立っているのもきついので、近くにあった手ごろな岩に腰かけようとしたところ……地面が湿りだして、そこら辺にいくつもの水溜まりが出来ているのに気が付いた。女を貫いた『カタストロフィ』は、どうやらこの周辺にあった地下水脈にまで影響を及ぼしたようだ。

 

「流石にこのクレーターを満たすほどの水量は無いよな?」


 ククリ村に住んでいた頃、この辺り巨大な水脈があるとか聞いたことは無いが……『大老の森』の中を正確に調べたことがあるはずはないだろうし、セイゲンのダンジョンの中の湖の例もある。


「その水脈がダンジョン化していたら……せっかく勝ったのに、溺れ死になんて嫌だぞ! まじで!」


 疲れた体に鞭を打ち、俺は少しでも高いところを目指して必死に足を動かしたが……クレーターが大きすぎる上に水の湧きだす勢いが増してきたせいで避難出来ず、諦めた俺は覚悟を決めて、水に浮いて魔力と体力の回復を待つことになった。



「そろそろ行けそうだな。それにしても……こんな短時間で、よくここまで増えたな……」


 クレーターからの脱出に三十分かけ、岸に上がってからさらに三十分休んだ俺は、ようやく王都まで飛んで行けるくらいの魔力と体力を回復させることができた。

 前にリッチと戦った時とは比べものにならない程の回復速度ではあるが、疲労や怪我の治りは以前とあまり変わりないようだ。

 今からセイゲンを目指すとなると、ほぼ休みなく飛び続けたとしても恐らく夜中の到着となってしまうだろうが、俺はかまわずに向かうことを選んだが……飛び始めて一時間もしない内に、我慢できないくらいの眠気がいきなり襲ってきた。

 流石にこのままでは危険なので急遽予定を変更し、土魔法で安全地帯を作って一度睡眠をとることにしたのだった。

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