第2章-4 初めての奴隷?
連続投稿その3
バンザの家に着いた俺は改めて家の中を見渡した。
「ちょっとやりすぎだったかな?」
もしこの場にほかのメンバーがいたらちょっとどころでは無い、とツッコミを入れられていただろう。
家の裏の壁は吹き飛ばされ中にある28の死体の内、19は瓦礫で身体に身体に穴があくか一部を吹き飛ばされて死亡、残りの9体分はどれも体が二つに分かれ内臓をぶちまけて死亡、唯一生き残っているバンザは手首・足首の先を焼き切られ失神、失禁している。
それらのせいで部屋中に汚物の臭いと血なまぐさい臭いが充満しているのだ。
「さて、片付けるか」
中型ゴーレムを三体出して片付けに入る。まず最初にバンザを外に持って行かせ水をかけて洗う。途中で気がつき抵抗しようとしていたので、一体のゴーレムに縄をしっかりと巻かせて軒先に吊るしておく。
ほかのゴーレムには大きな瓦礫や壊れたテーブルなどの家具を外に運ばせた。その時に小型ゴーレムがやってきたので10体は部屋の中の死体を外に集めさせ、残りは引き続き捕虜の運搬を続けさせる。
30分程で部屋の中は物が無くなった。
なので部屋全体に水魔法を高圧洗浄機の要領で使い、床や壁の汚れを落としていく。
排水は外へと捨てていく。そして乾燥と空気の入れ替えを兼ねて風魔法を使う。最初の頃と比べるとかなりマシになった。
外へと出した死体は冷凍しバッグに放り込む、家具は燃やして処分した。
そこまでするとやることがなく暇になったので、畑の方まで行き土魔法で粘土を大量に取り出す。
その粘土に藁を混ぜて錬金術を使い、四角い箱型に形成する。
大きさは縦2m、横4m、深さ60cm程である。
それを風魔法と火魔法を使って乾燥させる。
最後に火魔法で焼成を行い完成だ。
作っていたのは土器で出来た『浴槽』だ。半端な知識で作った割には、まあまあの出来じゃないかと思う。
出来た浴槽をバッグに入れ、女性陣のいる家の庭へと向かう。
その庭に四角い穴を掘って固めてから浴槽を置き、隙間を土で埋めていく。
次は浴槽の周辺に土魔法で壁を作ってみた。壁の一部には穴をあけて入口にした。
最後に浴槽に水を張り、火魔法で水を温めたら『風呂』の完成だ。
ちなみに屋根は適当に作ると危険なので止めておいた。
俺は家の中にいる三人に声をかけて出てきてもらった。
「テンマ、何かあったの?」
「わっ、この小屋は何!」
「何造ったの?」
と小屋に興味深々、といった様子なので風呂を作ってみた、と答えると三人は、
「「「お風呂!」」」
と目を丸くして驚き、急いで中を確認して大喜びしていた。
「捕まっていた女性達を入れてやってくれ。ただ石鹸やタオルがないから、それだけはどうにかしてくれ」
と言うとリリーが中の女性達にタオルなどはあるのか、と聞きにいった。
その結果この家には清潔なタオルが無い、との事なので他の家を探して集める事になった。ちなみに石鹸はこの村には無いそうだ。
三人はタオルの他にも桶も探して集めていた。風呂には4人ずつ3交代で入るようで、それぞれの組にリリー達が一人ずつ加わり、補助とお湯の継ぎ足しを魔法で行うそうだ。
女性達が風呂に入っている間に俺は村を散策して食料庫を見つけたので中に入ってみる事にした。
家を離れる際にリリー達から、絶対に覗かないように、と釘を刺された。何だか釈然としないがとりあえず頷いておいた。
食料庫は意外と広かったが、中に食料はあまり残っていなかった。
その代わりに盗賊達のお宝が片隅に積んであった。
金がおよそ100万G、宝石類が詰まった小箱が2つ、剣が146本、槍が132本、弓が130本、矢が樽20個分で1万~1万2000本くらいと、武器の数が異常だった。
「おかしい、金や宝石はともかくとして、百人程度の盗賊団が持つには武器の数が異常だ」
これは三人にも知らせて相談したほうがいい、と結論づけて回収は後回しにする事にした。
そのまま家に戻ると3番目の組の入浴が終わったところらしく、担当していたミリーが丁度出てきた。
「ミリー、ちょっといいか?」
俺が声をかけると、まだ乾いてない髪をタオルでゴシゴシと拭きながら近寄ってきた。
「どうしたのテンマ?はっ!まさか私の入浴してるところを見てみたかったとか」
「真剣な話だ。リリーとネリーを呼んでくれ、話がある」
とかぶせ気味に真剣な顔で言うと、ミリーは気を引き締め二人を呼びに行った。
程なくして揃った三人に食料庫で見た武器のことを報告した。
「三人はどう思う?」
「確かに数が多すぎる気がするね」
「でも偶然ということは無い?予備を多めに集めておいた、とか」
「だとしても盗賊達がそんなに新品で数を揃えることができるかな?それに私達が倒した盗賊の分も合わせるとなると、予備にしても多いよ」
と話し合ったが、全ての数を記録しギルドへ提出する、ということでひとまず落ち着いた。
話し合いが終わったところで俺も風呂に入ろうとしたが、三人からなぜか猛烈に反対され仕方なく鍋にお湯を沸かして、そのお湯を使って体を拭くだけにした。
いろいろあったせいで明け方近くになってしまったので、睡眠を取って起きたあとでまた話し合うことにした。
腹の音が鳴って起きてみると、すでに日は高く昇っていた。太陽の位置からするとお昼前くらいだ。
俺は欠伸をすると眠っていた馬車から降りた。あの後、流石に女性達と一緒の家で寝るのには抵抗があったため、俺一人だけ馬車を出してその中で眠ったのだ。
中途半端な時間だったが、ちょっと早めの昼食にしようと調理を開始する。
メニューは昨日の残りのスープに、干し肉と野菜を足し水を加えて量を増やし塩等の調味料で味を整えた物と、街で買ったパンを用意した。女性たちの分もあるので家の中に声をかける。
すると出てきたのはリリー達ではなく、昨日バンザの家でお茶を出した女性だった。
「昨日は助けていただいたのに失礼な態度を取ってしまい、申し訳ありませんでした」
「いえ、俺は気にしてはいません。あのような状況でしたので仕方がありません」
開口一番に謝ってきた女性は名前をセルナと言い、この村の村長の娘だったそうだ。
俺は謝罪を受けた後、申し訳ないと思いながらもここで起きた事を聞いてみた。
セルナさんは少し戸惑った後ゆっくりと口を開いた。
セルナさんによると、バンザ一味は3週間位前の夜中に突然この村を襲ったそうだ。当時この村には60人くらいいた村人全員が揃っていたが、夜中ということと前から計画を立てていたようで、村人は何も出来ずに全員捕まってしまったそうだ。
その後、女性と男性に分けられたが男性の方はすぐに皆殺しにされたそうだ。
女性の方は25人いたのだが、その中でも年を取っていた13人が同じように殺されて、あいつらにとって女としての価値があった12人だけが残された。しかし、それに耐え切れなかった二人が舌を噛み切り自殺したところでバンザはセルナさん達に『奴隷の首輪』をはめたそうだ。
そう言ってセルナさんはスカーフで隠してあった首輪を見せた。彼女がスカーフを巻いて俺達にお茶を出したのは、女性がいないことを怪しまれないようにするためだったらしい。
この『奴隷の首輪』は本来『正規の奴隷商人』にしか扱うことが許されていないのだが、この世界でも違法な者や裏社会というものが存在し、裏のルートで仕入れて使う者も多く根絶やしにすることは不可能だと言われている。
奴隷の首輪には、『主人に危害を加えてはならない』、『主人の命令に服従しなければならない』、『主人の命令の範囲内で自身を守らなければならない』、とロボット工学三原則のような物に強制的に従わせる呪いの効果があり、無理に外そうとすると身体に痛みが走り、最悪の場合死に至ることがある。
そして奴隷の首輪は主人の許可がない限りは、基本的に外すことはできない。また、外すのは、呪いを上回る威力の浄化魔法か解呪魔法が使える者にしかできない。ただし、浄化や解呪は主人の許可なしでは使えない上、自分の首輪に対しては効果が出ない。
奴隷には種類があり、犯罪奴隷、戦争奴隷、一般奴隷、違法奴隷があり、犯罪奴隷はその名の通り犯罪者の奴隷でこちらには最低で1年、最高で無期と罪の重さで変わる。
戦争奴隷は戦争で捕虜となり奴隷に落とされた者の事を言い、戦争で負けた者が多い。
一般奴隷は身売りや口減らしの為になるものが多く、ほとんどが自分で志願してきたり、親に売られたりした者達だ。
最後の違法奴隷は誘拐や奴隷狩りなどで違法に売られた者達の事で、訴えを起こした後、審査を受けて訴えが正当だった場合のみ解放され、取り扱った店には程度によって罰則が科せられる。
なお、審査の時には厳重な監視の下、一時的に首輪が外されるが、審査中に故意に嘘を吐いたり、ひどい間違えのものであったり、逃亡しようとした場合は無期の犯罪奴隷に落とされる。
だが、一般的に違法奴隷は表に出ることが少なく、また見分けが付かないため発覚することは少ない。
戦争奴隷と一般奴隷は期間が無く、主人しだいで解放することができるが、最低一年は奴隷として過ごさねばならない。
奴隷の所有者は国家(国王)、領地持ちの貴族、団体、個人と分けられ、犯罪奴隷は国家と国王から許可を得ている領地持ちの貴族しか所有ができず、用途も決められている。
戦争奴隷と一般奴隷は身分年齢関係なく誰でも所有できる。ただし主人が犯罪者であり尚且つ死亡した場合は、奴隷の権利はその主人を殺した者か第一発見者に移る。
そう思い出している時にセルナさんが、
「ですので私達が違法奴隷と認定されるまでは、テンマさんが私達の主人となります。よろしくお願いします」
あえて考えないようにしていた事をセルナさんがあっさりと告げた。さらに最悪なことに、俺がセルナさん達の主人になる、というところだけを聞いた三人が烈火のごとく俺に詰め寄ってきた。
「どういう事ニャのテンマ!」
「弱みにつけこむなんてサイテーだよテンマ!」
「テンマのエッチ、スケベ、変態!」
と責め立てられた。俺とセルナさんが落ち着かせようとしたが全く効果がなく、かなり辛辣に俺を責める。
どうにか落ち着かせて事情を説明できたのは俺を責め始めてから30分を過ぎてからで、三人が息切れを起こしたところを、俺とセルナさんが早口で説明して収まったのだ。
現在三人は俺に土下座する勢いで謝った後、恥ずかしさのあまり庭の隅でうずくまっている。
「お~い、三人共。もう気にしてないからこっちにこいって。ご飯にしよう」
俺の声に三人はビクッと反応し恐る恐る振り返る。俺はなるべく優しく見えるような表情を作り、手招きをした。
そのかいあってか三人はおずおずと近寄ってくる。
三人にスープとパンを渡して昼食を一緒にとることにした。セルナさんは他の女性たちの分を家の中に持って行って、そこで一緒に食べるみたいだ。
ご飯を食べ終わる頃にはいつもの三人に戻っていた。全員が一息つくのを見て俺は話を始めた。
「俺はなるべく早くに街に戻ったほうがいいと思っているのだが、三人はどう思う?」
「私は女の人達の事を考えると反対かな」
俺の考えにリリーは反対した。
「私はリリーに賛成。もう少し様子を見てから動いたほうがいいと思う」
「私はテンマの意見に賛成。この村の事は早くギルドに知らせたほうがいいと思う。それにできるなら早めに奴隷から解放させてあげたい」
ネリーは反対派でミリーは賛成派だ。丁度意見が同数の二つに分かれてしまった。
どうしようかと考えていると、セルナさんがやってきて口を開いた。
「あの、私たちで話し合った結果、できるなら早めにこの村を離れたい、と意見が一致しまして…」
と遠慮がちに声をかけてきて続けて、
「ご迷惑とは思います。しかし、あのような日々を思い出しやすい所から早く離れたい、というのが私達の本音です」
と主張した、それならと反対していた二人も納得したので、移動する準備を始めた。
最初に女性達が乗る物と盗賊達を運ぶための馬車を探した。運のいいことに無事な馬車とそれを引くための馬が見つかったので、その中から三台の馬車を選び軽く掃除して馬を繋いだ。盗賊達はボロい馬車に一纏めにした。
バンザの事を忘れそうだったのでこの時に一緒に放り込んだ。もちろん盗賊達の手足は念を入れて縛っておいた。
女性の馬車は三人が、盗賊の馬車は俺がそれぞれ御者をすることになった。
女性達はこれから先この村に暮らしていくつもりが無い、との事なので各家々の中から金に変える事ができそうな物を集めてもらう。街で換金して当座の資金に当ててもらうためだ。残りの馬車と馬も連れて行く。
最後に食料庫の中にあった物を俺のバッグに収納する、その際三人とセルナさんに目録を作ってもらい一つ一つ確認しながらバッグに入れていった。
作業が終わったのは夕方前だったが、構わずに出発することにした。
いざ出発、という時になってディメンションバッグの中にシロウマルとスラリンがいないことに気がついた。
探索を使って探してみると、丁度森の方から走ってきているところだった。
「何してたんだお前たち?」
俺の質問にスラリンが、ズイっと俺の前に出てきて、口を開けるように体が裂けたかと思うとドサドサッと6体ほどのダッシュボアを吐き出した。唖然とする俺達を尻目にもう一度体が裂け、今度は他のよりも2倍以上はある猪を吐き出した。
その猪はキングダッシュボアと言い、ダッシュボアの上位種でCランクの魔物だ。しかし本来は体長が2.5m程のはずだが、この個体は3mを越えている。
スラリンとシロウマルは得意げな感じだ、周りは60cm程のスライムから猪がドバドバ出てくる光景に目を丸くしていた。
俺はダッシュボアをバッグにしまうとスラリンとシロウマルを撫でて褒めた。2匹は喜んだあと俺から肉を受け取りディメンションバッグに入っていった。
気を取り直して村を出発する。道中、盗賊が転げ落ちたり狼型の魔物がこちらを窺っていたりしたが問題なく進み、日が沈んで少しした頃には街に到着することができた。