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第20章-12 龍

「これはひどいな……」


 女を追っていると女の方も追われていると気が付いたようで、寄り道先からすぐに離れていった。しかし、その寄り道のせいで俺との距離はかなり縮まっており、この調子なら『大老の森』のかなり手前で追いつけるはずだったが、女が寄り道した場所が問題だった。

 女が寄り道をしていたのはグンジョー市で、俺にとってククリ村の次に所縁のある街と言っていいくらいの場所だ。


「あの女がやったのか、それとも配下のゾンビがやったのかは分からないけど、かなりの広範囲に被害が及んでいるな。おやじさんたちが犠牲になっていないは幸いだったけれど……」


 そのせいで上空を通った際にグンジョー市の惨状を目の当たりにし、知らないうちに速度を緩めてしまった。すぐに気が付いて速度を上げたが、この調子だと『大老の森』に逃げ込まれる直前で捕まえることが出来るかどうかというところだろう。しかし、


「意地でも捕まえてやる……」


 幸いなことに『探索』で調べた結果、おやじさんとおかみさんを始めとした仲のいい知り合いは誰一人として犠牲になってはいないが、もしかしたらそれは『今のところ』のことかもしれない。だが、もし死にかけの状態であったとしても、俺はあいつの方を優先しなければいけないのだ。


「そして、少しでも早く倒す……いや、()()()()()……」


 もう二度とこんなことを起こさせない為にもあの女の存在は確実に消して、少しでも早くここに戻ってきておやじさんたちの無事を確認し王都に戻る。

 そう改めて決心し、女を追いかけた。



「追いつけた……かっ!」


 『大老の森』の目前で、俺は女に追いついた……いや、追いつかされた。

 女は、俺が目視で確認できるまであと少しというところで急に岩陰に隠れ、近づいてきた俺に魔法を放ってきたのだ。もっとも、俺は『探索』を使いながら追いかけていたのですぐに隠れたのに気が付き、さらに隠れた場所も知っていたので不意打ちのつもりで放ったであろう魔法は簡単に躱すことが出来た。


「あいつは俺が『探索』が使えることを知らないのか? それとも知った上で、()()()()()()()()()で倒せるとでも思ったのかな?」


 そう呟きながら、俺は上から落ちてくるように突っ込んでくるワイバーンの首を、体をひねって躱しながら切り飛ばした。


「驚いたようには見えないから、不意打ちが効かないことは予想していたというところか」


 二段階の不意打ちが失敗に終わったと言うのに、女は驚いたような顔は一切見せなかった。


「そんなに計画を邪魔した俺が憎いか? まあ、俺もお前と同じような顔をしているかもしれないけどな!」


 俺はお返しに『エアブリット』を放つが、女は格段に威力が上がっているはずの俺の魔法を片手であっさりとかき消した。


「本気の魔法じゃなかったけれど、まさか片手でとはな……やっぱり、能力的には互角か向こうがやや上ってところか」


 厄介ではあるけれど、負ける気はしなかった。

 それは同じ亜神になったということもあるけれど、それ以上に一人で戦うわけではないと知っているからだ。


「少し形は違うけど、昔殺し合いをした奴が相棒になって一緒に戦うとか、何番煎じのストーリーかよと思うけど……実際に体験してみると、これほど心強いものは無いな」


 それに時間が経てばたつ程、あの女の力は落ちていくはずだ。


「ああ、そうか。それがあるから森の中に逃げ込むよりも、自分の力が(まさ)っている内に俺と戦うことを選んだのか」


 だとしたら少し厄介かもしれない。

 これまでのあいつは逃げることを念頭に置いての戦闘が多く、俺を捕まえた時も自分に圧倒的に有利な状況にならないと姿を現さなかった。

 それが逃げることを止めて正面から戦うと決めた以上、どちらかの命が尽きるまで戦うことになる。手負いの獣が背を向けて逃げることを第一にしているのなら怖くはないが、背水の陣の覚悟で牙を剥いているのだ。あいつが万全の状態だった時以上の危険な存在になったと考えるべきだろう。


「ガァアアアッ!」


 あの女は、空気が震えるほどの唸り声を出しながら突っ込んできた。その手には前と同じく大鎌を構えている。ただ、あいつの大鎌も俺の『小烏丸』と同じ特殊な武器のようで、禍々しさは段違いに増していた。


「だけど、小烏丸の方が強い」


 いかにあいつの武器が特殊であろうとも、小烏丸が力負けするはずがない……そう思いながら俺は後退しつつ距離を保とうとするが、俺が下がるよりも女が突っ込んでくる速度の方が上だった為、距離は見る見るうちに縮まっていた。

 後退と前進による体勢の違いがあるにしろ、亜神に成りたての俺と亜神に堕ちたとは言え元神のあいつでは、身体能力に差があるのは仕方がない。

 どうにかして形勢を互角以上に持ち込みたいところだが、追いかけられている今の状況では、例え小烏丸の方が武器としての格が上だったとしても女に勢いで押し負けてしまうのは確実なので、このまま下がりながら魔法であいつの勢いを少しでも削ごうとするが……


「負けているのは数もだったな!」


 またしてもワイバーンが上空から襲い掛かってきたせいで、女への魔法を中断して回避に専念するしかなかった。


「戦闘中も『探索』を使わないとまずいな……だけど!」


 回避行動をしたせいで攻撃の機会を奪われ、さらに距離を先程よりも詰められてしまったが、いいように考えれば何もない空中に障害物が現れたようなものだ。『探索』を使いながら女から逃げ、おまけに死角から襲って来るワイバーンを回避するのは骨が折れそうだが、『探索』のおかげでワイバーンが接近してくるタイミングは分かる……なのでこの状況を利用して、


「『ファイヤーボール』!」


 襲って来るワイバーンを紙一重でかわしつつ、ワイバーンを盾にするような形で俺と女の間に配置した。

 女は邪魔なワイバーンを真っ二つにし、返す刀で俺に向かって大鎌を振るったが、俺は女の動きが鈍った一瞬の隙を突いて急上昇し、攻撃をかわすと同時に魔法で攻撃を仕掛けた。だが、俺の魔法はまたしても女が手を振っただけでかき消されてしまったが、そのおかげで女の勢いは完全に止まり、こちらから接近することが出来るようになった。


「小烏丸の方が上でも、一刀両断まではいかない、か……なら!」


 小烏丸の一撃は女の大鎌で防がれてしまったが、その大鎌には小烏丸によってできた傷がはっきりと残っている。つまり、一撃では大鎌を破壊出来なかったが、数回繰り返せば破壊は可能だということだ。

 ただ厄介なことに大鎌には回復能力があるらしく、先程まではっきりと見えていた傷や新たに付けた傷は徐々に小さくなっている上に、女は俺の作戦に気が付くと、すぐに同じ個所で攻撃を受けないような立ち回りを始めた。


「グ、ググゥ……」


 しかし、小烏丸(かたな)と大鎌では攻撃の速度が違うし、何よりも武器の取り扱い技術と経験に関しては俺の方が上だったので、時間はかかっているが俺の思惑通りにことは進んでいた。


「これだけ近いと、ワイバーンの横槍も入らない、な!」


 女は押されている状況を打破しようとワイバーンに俺を攻撃させたいようだが、俺が常に小烏丸での間合いを保ちつつ戦っているので、介入させる隙を見いだせないでいた。


(もし俺があいつの立場なら、それでもワイバーンに突撃させるけどな)


 押し込まれて手が出せない状況に追い込まれているのなら、自分もろとも弾き飛ばすつもりでワイバーンを突っ込ませるだろう。そうすれば、自分もダメージを受けるだろうが、それでも相手からは離れることが出来るかもしれないし、上手くやれば俺がしたように無傷でワイバーンを盾にして体勢を整えることも可能なのだ。


(そうしないのは、やる度胸か技術が無いからか、もしくはその両方か……)


 やはり、この女の身体能力は俺より上でも、戦闘技術は大したことないみたいだ。

 女がいくら大鎌が破壊されないように立ち回ろうとも、俺の攻撃を受け続けていれば大鎌の限界はいずれ訪れるし、それを回避する技術が俺を上回るものでない以上、女にはその『いずれ』を待つしか出来ない。


「よし、いける!」


 そしてその『いずれ』は思ったよりも早く訪れた。

 途中から攻撃の合間合間に小烏丸だけでなく、拳や脚を使った打撃やフェイントを混ぜたことにより、女は棒立ちに近い状態になった。

 その隙を突いて脆くなっていそうな部分を集中的に狙い、


「ふっ!」


 ついに大鎌の柄を破壊することに成功した。

 そしてそのままの勢いで、


「しっ!」


 女の胴体を切りつけた……が、


「な、に?」


 同時に俺のわき腹も、女に切りつけられていた。

 幸いなことに、振りぬいた小烏丸が女の動きを邪魔したようで、わき腹の傷は内臓までは届いていないようだ。だが、今は致命的ではないというだけで傷自体はかなり深いようで、わき腹から大量の血がズボンを伝って地面に流れ落ちている。このままでは失血のせいで動けなくなるだろうし、相手が相手だけに毒や菌に対する処置も行わなければならない。


「内臓までは届いていないけれど、近いところまで切られているな……」


 片手で小烏丸を握り女をけん制しつつ、もう片方の手で傷の治療を行うが、女の方もこの状況を見逃すほど馬鹿ではないので、自分から距離を詰めて攻勢に転じてきた。


(女の方から近寄ってきているおかげでワイバーンは襲ってこないが、一転して不利な状況になったな。それに、大鎌の()()()か……使いこなせていないようだが厄介だ)


 俺に傷を負わせたものの正体……それは、破壊したはずの大鎌の柄だった。

 正確には、石突(鎌の反対部分)から()()()()()刃に切り付けられたのだが、急に生えてきた割には元からあった刃と同等程度の強度があるらしく、小烏丸の攻撃を受けても軽く傷がつく程度だった。


(片手じゃ大した傷は付けることが出来ないか……しかも、回復能力まで備わっているのか)


 大鎌は長さが半分程になったせいで至近距離でも振り回しやすくなったらしく、攻撃の回転速度が段違いに上がっている。しかも、女は大鎌を片手で振り回すだけの力を持っている上に、それを両方の腕で行うことが出来るのだ。

 技術と経験不足で鋭い振りとは言えないものの、カマキリのように左右から振るわれる鎌を片手で防ぐのは難しく、わき腹の傷程ではないにしろ、俺の腕や脚には小さな傷がいくつも付けられていた。


(くそ! 毒かばい菌のせいかは知らないが、傷の治りが遅い! こうなったら……)


「ぐっ……」


 内臓に近い部分だけ集中的に治療し、表面に近い部分は火魔法で焼いて塞ぐことにした。

 かなりの痛みで一瞬だけ意識が飛びそうになり、その隙を突かれて女の攻撃を食らいそうになったが、ギリギリのところで攻撃を防ぐことができた。


「流石に素手で掴むのは危なかったけど、やろうと思えば出来るもんだな」


 鎌の刃の付け根近くの柄を掴んだつもりだったが少しだけずれてしまい、親指の根元に刃が食い込んでしまったが、わき腹に比べればかすり傷のようなものだ。これくらいなら、魔法ですぐに治る。


 女は俺の対応が予想外だったらしく、驚いた様子を見せながら鎌を引いて俺の手を振りほどこうとした。女とは密着と言っていいくらいの距離なので、鎌を引いただけでは簡単に手が離れることは無いだろうが、女の身体能力で力任せに振り回されると流石に長くはもたないので、逆にこちらから女が鎌を引いたタイミングで手を放してバランスを崩させた。そしてもう片方の鎌と鍔迫り合い状態だった小烏丸の角度を変え、柄を滑らすように振り下ろし、


「グァッ!」


 女の左手の四本の指と左脚の太ももから下を切り落とした。


「普通ならこれで勝負ありになりそうなものだけど……化け物相手だと、そうはいかないよな」


 女は痛覚が鈍いのか、指と脚が切り落とされたのに大して痛がっている様子を見せなかった。それに、指を落としたと言うのに、大鎌はまるで吸い付いているかのように女の手の中にある。


「いや……吸い付いているんじゃなくて、()()()しているのか!?」


 中途半端に残っていた四本の指は傷口から根のようなものを生やし、大鎌はそれによって手のひらに固定されていたのだ。

 それだけでも奇妙な光景だと言うのに女の変化は指だけに止まらず、指から生えた根の次は腕までもが大鎌の柄に巻き付いていった。それと同時に、女の腕はそれまでの人の形から、


「鎌を振りやすい形に変えた……というわけか」


 まるでカマキリのような形状へと変化した。ただ、本物のカマキリとは違い刃に棘がないので捕獲能力は落ちているみたいだが、手首が回る上に鎌が両刃になっているので殺傷能力はかなり上がっていそうだ。


「相変わらず振り回すばかりの癖に、腕力が並外れているせいで洒落にならない鋭さだな」


 反対の右腕はまだ人間と同じ形だが、それが逆に厄介に感じた。

 もし両腕が大鎌と融合していれば、二本あるとはいえ同じような対策を採れて隙も見つけやすかったと思うが、女は左のカマキリ腕を主武器として俺に向け、右腕は人間の腕のままで大鎌を持ち、いつでも魔法を放てる構えを取っている。

 俺が女との戦いで亜神としての力に慣れつつあるように、女も俺との戦いの中で一対一の戦法を覚えつつあるということのようだ。


「少し想定外だな……」


 長引けばそれだけ俺に有利になると思っていたのが、ここに来て女にも成長の兆しが表れ始めている。女にはこれ以上の能力的な伸びしろはほぼ無いとは思うが、今の能力を十二分に活かされると少し……いや、かなり厄介だ。

 今のところ、女は戦い方を覚え始めたという感じなので技術で俺が押されることは無い。だが、女がけん制のやり方を覚えただけで、かなり戦いにくくなっているのも事実だった。


「どちらにしろ、至近距離で戦うしかないか」


 戦いにくくなったというだけで、至近距離では俺に分があるままだ。ここで離れてしまうと、ワイバーンの介入を許してしまうし、魔法では互角にすら持って行けるかどうかわからない。それに、わき腹の傷のこともあるので、離れてじわじわと体力を削られるのはまずい。


(わき腹の回復まで、あと少し……)


 わき腹の痛みもあと数分すればなくなるはずだ。それまでは、至近距離で女の攻撃をさばきながら反撃の時を待つ。


 そう思いながら戦い続けるが、わき腹が回復しても決定的な隙は見つけられなかった。

 元々戦いを長引かせて俺の有利な状況に持ち込むつもりだったのに、その状況はなかなか訪れない。今の戦い方に間違いはないと思うが、しっくり来ていないのも確かだ。


 ここで一気に攻勢に出るか、それとも現状維持で弱るまで待つか……そう考えてしまったのがまずかった。


「なにっ!」


 女とは至近距離で戦っていたというのに、急に背後からワイバーンが接近してきたのだ。

 今の距離だとワイバーンを倒すことは簡単だが、ワイバーンを倒すにしろ躱すにしろどうしても女に向けていた意識を割かなければならない。一番最悪なのは、中途半端な対応をしてワイバーンの体当たりを食らい、なおかつ女に対して大きな隙を見せてしまうことだ。


「くそっ!」


 どちらにしても、今の距離にこだわると女に致命的な隙を見せてしまうかもしれないのなら、今まで保ってきた距離を捨て、ワイバーンをどうにかしつつ女に備えるしかない。

 瞬時にそう判断した俺は、背後から迫るワイバーンを躱しながら切りつけ、同時に女から大きく距離を取った。そして、迫ってくるであろう女を迎え撃とうとしたのだが……


「こない?」


 女は全くと言っていい程動いておらず、それどころか勢いを殺しきれずに迫ってくるワイバーンをよけようとすらしなかった。


(何を考えているのか知らないが、もう一度距離を詰めて、出来れば攻撃まで持っていければ!)


 ワイバーンとぶつかる寸前の女に対し、俺は『エアブリット』を放ちつつ小烏丸を構え、もう一度至近距離まで接近しようとした……が、


「うわっ! ぐっ!」


 女とワイバーンがぶつかった瞬間、ワイバーンの尾の先から女の大鎌と一体化した左腕が現れ、俺に向かって伸びてきた。

 完全に予想外な不意打ちだったが、先に放っていた『エアブリット』のおかげでわずかに鎌の速度が落ち、何とか小烏丸で防ぐことに成功した。

 しかし、中途半端な体勢で防御してしまった俺は、大鎌の勢いに負けて大きく弾き飛ばされてしまった。そのせいで女から五十m近く話されることになってしまったのだが、そのおかげで何が起こったのか確認することが出来たのだ。


「ワイバーンを()()しているのか!?」


 女の左腕は、自分とぶつかったはずのワイバーンの鼻っ面の辺りに肘までめり込んでいて、肘から先がワイバーンの尾の先から生えていたのだ。しかも、尾の先からは現れた大鎌は触手のようなもの延長されていて、ワイバーンの体と合わせた腕の長さは二十m近くにまでなっていた。


(それで物理攻撃の射程を伸ばしたつもりか? でも、これなら!)


 奇襲のつもりだったのだろうけど、それを躱してしまえば重量が増えた分だけ動きは当然鈍くなる。だから俺は、もう一度魔法を放ちつつ接近戦に持ち込もうとしたが、


「嘘だろ!」


 女の新たな腕の動きは鈍ることはなく、俺を迎え撃とうと鞭のようにしなりながら迫ってきた。

 しかし、その攻撃さえ躱せば、そんな速度で重い腕を振るわれた腕は遠心力のせいで次の攻撃はまともものにならないだろうと思ったのだが、大鎌は速度を落とすことなく何度も俺に襲い掛かってきた。


「本当に化け物だな……」


 想定外の出来事に、俺はまた女から距離を取るしかなかった。そして分かったのは、またしても女が急速に姿を変えていたということだ。

 女の腕と一体化していたはずのワイバーンの形は無くなり、腕全体が尾の先から生えていた触手のようなもの変わっていた。さらに周辺……女の居る場所の下辺りを良く見てみると、ワイバーンの者と思われる残骸が散らばっている。


「ワイバーンの体から使える部分だけを吸収して腕の形を変え、残りの不要部分は捨てたということか?」


 あの女はこれまで人間の体をいじくり回し、魔核を埋め込んだり四つ腕にしたりと色々なことをやっているのだ。それと同じことを、自分の体で行ったのかもしれない。


(流石に一瞬で自分の体を改造するのは馬鹿げた話だけど、それも()()の成せる業と言うわけか……この化け物が!)


 上下左右から襲い掛かってくる大鎌付きの触手(腕)に攻めあぐねていると、この方法が俺に有効だと判断したのか、女は次々と俺に向けてワイバーンを突撃させてきた。


「あいつの攻撃に加えてワイバーンの突撃か……厄介だが、避けられないこともな、いっ!?」


 ワイバーンの突撃は体当たりの他に、頭から突っ込んできてすれ違いざまに噛みつく、足の爪でひっかく、尾を振るうくらいだったので、女の攻撃と同時でも回避は特に難しいものではなかった。攻撃をしないのは、下手に切りつけて致命傷を与えれば、今は攻撃に専念している女がいつワイバーンを吸収する戦法を取る方へと切り替えるか分からないからだ。それは対策が見つかるまで、出来る限り引き伸ばしたかった。

 しかしそんな中で、いきなりそのパターン以外の攻撃……いや、攻撃とは言えないものが組み込まれたのだ。

 それは、数頭のワイバーンによる包囲……正面、上下左右から、翼を広げたワイバーンが抱きつこうとするかのように隙間なく進路を塞ぎながら迫ってきたのだった。

 背後からは女が迫り、残りはワイバーンが塞いでいるとなると、抜けられるか分からない背後よりも、確実に抜け出せるワイバーンを選ぶしかなかった。ただし、抜け出すにはワイバーンを倒すのが絶対条件だった。


「ちっ!」


 仕方なく俺は、牙を向けてきた正面から迫るワイバーンの首を刎ね、邪魔だった翼を切り飛ばしたが……案の定女は、死体となったワイバーンの首と胴体に鎌を突き刺して回収した。

 そしてその首を右腕で掴み、胴体はそのまま左の大鎌に突き刺したまま吸収していき……右腕は長さが倍、太さは四倍程となり、左腕は肘(のように見える部分)の辺りからもう一本の触手が生えるという変化を起こした。

 それだけでなく、女はその変化に不満があったらしく、今度は自分の手でワイバーンを殺し、その死体を吸収し始めた。

 ワイバーンたちは、仲間が殺されようが大鎌が自分に向かってこようが気にした様子は全く見せず、自分が吸収されかけても逃げ出す素振りは一切見せなかった。俺もこれ以上強化されないように女に攻撃を仕掛けはしたものの、ワイバーンが自分を犠牲にするように……いや、させる為に自分の体で盾になるし、その後ろから(ワイバーン)を貫通して大鎌の攻撃が来るので、女に攻撃を加えることが出来なかった。

 そうして三十頭近いワイバーンを吸収し、新たな変化をした女は……


「それが、お前の考える()()()姿()か……」


 右腕は変化していないものの左腕は大鎌付きの触手が十に増え、胴体は腰の辺りから伸び、さらにその下にはワイバーンに……いや、ソロモンのような四肢を持つ中級以上の龍に似た胴体が付いた、とても奇妙で見ようによっては滑稽で、とてつもなく不気味な姿だった。

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