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第20章-11 願い

新年あけましておめでとうございます。

今年もよろしくお願いします。

(流石に今のはきつかったわね)

(俺もこの体じゃなかったら、今ので消し飛んでいたな……まあ、それも時間の問題みたいだがな)


 あの女の自爆とも思えるような爆発をとっさに風魔法で上空へと逸らしたまではいいが、俺一人では完全に防ぎきることが出来ず、母さんと父さんの協力があって何とか無傷でやり過ごすことが出来たという感じだった。しかし、俺たちが居た周辺や後方に被害は出ていないが、それ以外の方角はかなりの範囲で建物の崩壊が起こっている。もしこれが魔法で爆風を軽減させることに失敗していたのなら、今の倍以上に広い範囲に被害が出ていたかもしれない。

 しかし、俺にとって最も大きな被害は……


(テンマ、私たちは力を使い過ぎたみたい)

(もう少しテンマと一緒に居たかったが、どうやらここまでのようだ)


 母さんと父さんの限界が来たことだった。先程の爆風を防いだことで力の大部分を使い果たし、これ以上は一緒に戦うことが出来ないらしく、少しずつ体が透けてきているのだ。


(最後まで見届けることが出来ないのは残念だが、これ以上は足手まといになりそうだからな。俺とシーリアは元居たところに戻るとしよう)

(テンマ、これが本当のお別れね。悲しいし寂しいけれど、あなたともう一度会えて一緒に戦えて、あの時は出来なかった別れをやり直すことが出来ただけでも、私たちは幸せよ)


「父さん、母さん……」


 薄情かもしれないが、俺は涙を流すことが出来なかった。しかし、父さんはそんな俺を見て、


(それでいい。お前はまだ仕事が残っているんだ。悲しむのはそれが終わった後でも出来る)

(そうね。ただ、全てが終わった後でいいから、お菓子のお供えを忘れないでね。心残りがあるとすれば、テンマの作ったお菓子が食べられないことと、孫の世話が出来なかったことかしらね)

(そうだな。まあ、そこはマーリンに俺たちの分も可愛がってもらうとするか! それでテンマ。あの女の逃げ込む先は分かっているな?)


「間違いなく、『大老の森』だろうね」


(そうだ。獣が自分の巣穴に逃げ込むようなものだ。かなり先まで逃げているだろうが、今のテンマなら森の中に逃げ込まれる前に追いつくことも可能だろう)

(それに、完全回復するまでの時間を考えたら、途中で寄り道することも考えられるしね)


 あいつのことだから、逃げる途中で出来る限りゾンビの力を回収するだろう。そういったことが原因でこのような状況になっているのだから、普通ならまっすぐ逃げ帰りそうなものだが、今のあいつは冷静な状態ではないだろうし、俺たちを出し抜いたと思っているのならありそうな話だ。それに、あいつの目的の達成に必要な肉体を持つ人間が次いつ現れるか分からない以上、少しでも早く回復しようと考えでも不思議ではない。


「名残惜しいけど、行って来るよ」

(行ってらっしゃい)

(おう! 頑張れよ!)


 俺がもし死んだとしても、次にあの世で二人に会うことは出来ないかもしれないし、そもそも俺が死後に普通の人と同じ道をたどることは出来ないという話だ。

 本音を言えば、ここで父さんと母さんが消えるまで一緒に居たいが、それを二人は許しはしないだろう。それなら二人の言う通り、俺は俺のやるべきことをやるだけだ。それが今俺に出来る、最大の親孝行になると信じて。


「ククリ村はこっちの方角だな……ん? あいつ、やっぱり寄り道したみたいだな。少し進路がずれている」


 『探索』を最大限まで広げると、驚くことにセイゲンから『大老の森』の半分辺りまでの距離を感じ取ることが出来た。しかも、標的にした女が今どの位置にいるかまで分かるおまけ付きでだ。


「まあ、神たちすら誤魔化した奴だから、本格的に隠れられたら見失う可能性もあるな。急ぐに越したことは無い」


 そう呟きながら『飛空魔法』を使うと、普段の数十倍の速度で飛ぶことが出来た。これも亜神となったことが影響しているのだろう。


「これが亜神の力か……あいつがいつの間にか現れたり逃げ出したりしていたのも納得出来る力だな」


 ただ、同じ亜神とは言え俺とあいつの能力値が一緒ということはあり得ないし、亜神としての経験値で言えば圧倒的な差があるわけだが、勢いは俺が勝っている。


「頼むぞ、『相棒』!」


 その勢いの作っているものの一つである小烏丸を握り、俺は元死神を追いかけるのだった。



シーリアSIDE


「行ったわね……」

「そうだな。それじゃあ、俺たちも行くとしようか。幸い、まだ時間は残されているみたいだしな」


 リカルドはそう言うと辺りを見回し、叔父さんを見つけて私の手を引いて近づいた。


「よっ! マーリンにディン。テンマがかなり世話になったみたいだな……って、やっぱり聞こえないか」


 昔と同じようにリカルドは軽く手を挙げて話しかけたけれど、二人にはリカルドの声が聞こえていなかった。これは、私たちが亜神であるテンマの眷属として存在していることが関係しているのだろう。まあ、私たちには二人の声が聞こえるし、二人も完全ではないけれど読唇術が使えるので、完全に意思疎通が出来ていないわけではないのだけど。


「シロウマルは大きくなったわね。スラリンは変わっていないようだけど……って、冗談よ。無理に大きくならなくても、ちゃんとわかっているから」


 二匹は私の口の動きではなく表情や態度から感じ取っているようで、ある程度私が何を言っているのか理解しているみたいだ。そのせいで、スラリンが体力をかなり消耗しているのに無理をして大きくなろうとしたので、慌てて止める羽目になったけれど。

 シロウマルに話しかけて気になったのは、ここにシロウマルの両親の姿が見えないことだ。どうやら私たちよりも先に力を使い果たしたらしく、一足先に戻ったようだ。


「それで、お前がジンか。テンマが迷惑をかけているみたいだし、一度一緒に酒でも酌み交わしたかったな」


 ジンの方は読唇術が出来ないようで困っていたけれど、叔父さんが代わりに伝えたところ、恐縮した様子を見せながら何度も頭を下げていた。


「叔父さん。私たちの代わりにマークやマーサ、それにテンマがお世話になった人たちにお礼を言っておいてね」


「ああ……分かっておる」


 叔父さんは、目に涙を浮かべながら約束してくれた。


「それじゃあ悪いけど、俺たちはまだ行くところがあるから、これでさよならだな」


 リカルドがそう言うと、二人は引き留めるような仕草をしたけど、すぐに手を引っ込めた。


「うむ。行ってこい。今のお主らなら、王都までアッという間なのじゃろ?」


「最後に会えて嬉しかったです。シーリアさん、リカルドさん」


 三人に別れを済ませ、スラリンとシロウマルの頭を撫でた私たちは、王都のある方角へと飛び上がった。

 王都までかなりの距離があるけれど、精霊と呼ばれる存在となった私たちには大した距離ではなく、力を使い果たす前に王都に……マリアとアレックス様のところへ到着することが出来た。時間にすると、数十秒と言ったところだろう。すごい速さだけどその分力を使うので、私たちがここに居られるのは後わずかな時間だろう。


「アレックスはあそこか」

「マリアはあっちね」


 目的の二人は別々の場所に行って、アレックス様はシーザー様たちのような国の重要人物で集まって話し合いをしていて、マリアは別の部屋でシーザー様たちの奥さんと一緒に居た。


「それじゃあ、行くか」

「ええ、アレックス様の方はお願いね」


 そう言ってリカルドと別れた私は、マリアのそばに近づいてそっと肩に手を乗せた。すると、


「あら? ここは……」

「マリアか?」

「あなた!」


 二人の意識だけを、別の場所に連れて行くことが出来た。どうやらここは、神に近い存在が目的の相手と話をする為の空間だそうで、テンマも何度か来たことのある場所と同じものだということだ。


「アレックス!」

「マリア!」


 混乱している二人に声をかけると、二人は同時に私たちの方へと振り向き、驚きのあまり声を失っていた。

 そんな二人に私たちは近づき……と言うか、リカルドはアレックス様の目の前まで走り込み、


「ふんっ!」

「ぐふっ!」


 何故かお腹に一撃入れていた。不意打ちを食らって苦しむアレックス様だったけど、そんなアレックス様を見たマリアは、


「本物のシーリアなのね! リカルドも!」


 私たちが本物だと確信し、苦しむアレックス様をほったらかしにして私のところに駆け寄ってきた。


「いや、気が付いてくれたのは嬉しいけれど……アレックス様を放っておいていいの?」

「むしろ、リカルドがあんなことをしなかったら、二人は偽物じゃないかって疑って近づかなかったわよ!」


 などと言って、私に抱き着いてきた。


「う……ま、まあ、確かに、この一撃はリカルドのものだが……そいやっ!」

「ぐっ! ふふ……老いたな、アレックス。昔ほどの威力がないぞ」


 抱き着いて喜んでいるマリアを他所に、二人は二人で友情を確かめ合っていた。


「まあ、アレックス様の方が肉体的には十年近く年上になったわけだから、老いるのも当然だけど……もっと他にやりようはないのかしら?」

「あの二人に言っても無駄よ。昔からああなんだから。むしろ、今更頭を下げ合って挨拶しているところを見たら、私は絶対に気持ちが悪くなるわ」

「そうかもね」


 リカルドとアレックス様と同じように、私たちも久々の友情を確かめ合った後は、それぞれの話を思い思いにした。

 くだらない話や学生時代の話、ククリ村での話や私たちが知らないテンマの話など、話のタネは尽きることがなく、このまま一日中途切れることなく話せる自信があったけれど、私とリカルドにはそんな時間は残されていない。


「この空間はマリアたちが居た空間よりも時間が引き伸ばされているんだけど、それでも私とリカルドに残された時間は少ないの。だから、大事なことを先に話すわね」


 それまで、ふざけた話で笑っていたマリアとアレックス様だったけれど、私の言葉に一瞬寂しそうな顔をした後で、すぐに真剣な表情に切り替えた。


「まずテンマのことだ。気が付いているかもしれないが、テンマは複数の神の加護を持っている。恐らく、歴史上最多と言っていいくらいの数だ。その恩恵で、俺とシーリアはテンマの手助けの為に戻って来れた。ただ、戦っている最中に敵の悪あがきにあって力を使い過ぎたせいで戦う程の力を使い過ぎたせいで、テンマと別れてここに来た。まあ、あの世に戻る前の、最後の挨拶だな」


 ふざけた口調で言うリカルドだったけど、二人はにこりとも笑うことなく、逆に泣き出しそうな顔になってしまった。


「それで敵の親玉だけど、今テンマが追い詰めているところよ。まだ決着はついていないだろうけど、負けることは()()()()()()。王都までの距離を考えて、数日中には勝ったという報告がもたらされるはずよ」


 テンマとあの女。総合的に見れば互角であり、経験などを加味すればテンマの方が少々分が悪いとは思う。でも、テンマにも隠しているもの……()()()()()()がある。その中には、恐らく格上との戦闘経験も含まれていることでしょう。

 生きている頃よりも力は落ちていたとはいえ、この世界で最強の一角である黒い古代龍を倒したというテンマの経験は、あの女には絶対にないものだ。もしあの女にそんな経験があったのなら、敵を目の前にして何度も油断するという愚かなことは絶対にしない。そのことからも、あの女は本来戦闘向きな能力や性格をしていないと見ていいと思う。

 言い切った私に驚いた顔をするマリアだったけれど、テンマの前世のことも含めて詳しく話すことは出来ないので、


「我が子に対する母親の勘がそう告げているわ」


 それで納得してもらうことにした。もし本当のことを話す機会があるとすれば、マリアが死んだ後で私と再会することが出来た時でしょうね。そんな未来があるのか分からないけれど、テンマの正体を知った時のマリアがどんな顔をするのか楽しみで仕方がない。

 リカルドとアレックス様のじゃれ合いを見ながらたわいもない話を続けていると、


「あ……ごめんなさい。そろそろ時間のようだわ」


 ついに限界が近づいてきているようだ。何となくだけど、あと少しでこの世界から消えてしまうというのが分かった。

 ただ、一度目の時よりも不思議と恐怖と言うものは感じなかった。それは、消えるのが今回で二度目ということもあるのだろうけど、ことより今回は例外中の例外で奇跡のようなものだったし、何よりも一度目とは違ってテンマにちゃんと別れを告げることが出来たからだろう。

 もしそれをマリアに知られたら、「私のことはおまけなの?」と問い詰められそうだから言わないけれど。


「本当は最後の最後まで一緒に居たいけれど、後一か所だけ行かないといけないところがあるから」


 一目見る時間があるかどうかというところかもしれないけれど、最後にテンマのお嫁さんを見てみたい。出来れば孫の姿も見たり抱いたりしたかったけれど、それは無理だから我慢しましょう。


「リカルド、時間よ! 早くいかないと間に合わないわ!」


「おう! 分かっている! じゃあなアレックス、マリア!」


「バイバイ、マリア!」


 最後は慌ただしくなったけれど、私たちはマリアとアレックス様に別れを告げてこの空間から抜け出した。

 あの二人も、私たちが抜け出したすぐ後に元の世界で意識を取り戻すことでしょう。



マリアSIDE


「お義母様、どうなさいましたか!?」


「あれ、イザベラ、ミザリア……そんなに慌てて、どうしたのですか?」


「どうしたもこうしたも、意識を失ったのかのように動かなくなったんですよ!」


「そう……だったのね……」


 何か懐かしくて嬉しいような夢を見ていた気がするけれど、頭に靄でもかかっているかのように思考が纏まらない。


「それに、動かなくなったかと思ったら急に涙を流し始めて……お義姉様が体を揺さぶっても、なかなか反応しなかったんですよ!」


「涙……あっ!」


 そう言われて頬に手を当てると、イザベラの言う通り涙の流れた跡があった。そしてその涙の跡に手を当てた瞬間、頭の中の靄が一気に晴れた。

 何もかも思い出した私は椅子を倒さんばかりの勢いで立ち上がり、廊下へと飛び出した。


「待ってくださいお義母様! どちらに行かれるのですか!?」


 廊下に飛び出す直前にイザベラが驚いて声を出したけれど、私は足を止めずに「あの人のところに行って来る!」とだけ叫んで走り続けた。ただ、途中でヒールを脱ぎ捨てて裸足で走ったり、年を取って衰えた肉体を嘆いたり、護衛の騎士に追いつかれたりしたけれど、私は走ることを止めずにあの人がいる会議室へと向かった。

 しかし、その会議室の直前で扉のところに居た騎士に止められてしまったけれど、


「すぐに戻ってくる! 急いで確認することが出来ただけだ!」


 私が止められたすぐ後で扉が中から乱暴に開かれ、あの人がシーザーとザインを半ば引き摺りながら現れた。


「あなた!」

「マリアか! ということは、やはり()()はただの夢ではなかったのだな!」


 皆の見ている前だと言うのに、()()()()()()はかまわずに私に抱き着いてきた。まあ、私も同じように抱き着いたのでお相子ではあるけれど……少し冷静になって考えてみると、置いてけぼり状態のシーザーたちは何が起こっているのか分からないだろうし、この年で周りが見えずに抱き合っているのはかなり恥ずかしい。


「う、うむ、取り乱して済まなかった。皆の者、実は先程余が気を失っている少しの間に、ある()()()()()()()()()を聞いたのだ。余の目の前の風景が突然切り替わったかと思うと、この世とは思えないなんとも不思議な空間に立っており、そこで同じように呼ばれたというマリアと合流し、我らの親友でありテンマの両親であるリカルドとシーリアに再会したのだ。その場でよとマリアは、テンマが無事に敵の親玉の拘束から逃れ、逆に追い詰めていると二人から聞かされた。さらにテンマは逃げ出した親玉を追いかけており、勝利はすぐ目の前であろうとのことだった」


 お告げときかされたシーザーたちは驚いたような顔をすると同時に怪しんでいるような目を向けていた。


「ただ皆が見ていた通り、余はほんの数秒だけであったらしいが寝ているのと同じ状態であった為、もしかすると余の願望が無意識のうちに夢の中で親友に知らされるという形になったという可能性もあった。そこで、もしマリアも同じような夢を見ていたのだとしたら、それは余の願望が見せたお告げもどきの夢ではなく、何か超常的な存在が見せた本物のお告げだったのではないかと思い、マリアのところに確認しに行こうとしていたのだ」


 そう言うとアレックス様は私の方に視線を向けたので、


「陛下の言う通り、私も同じような夢を見た為、陛下に確認する為にここまで走ってきました」


 そう言うと一斉に皆の視線が裸足になっている私の足に向き、背後でアレックス様の登場で膝をついていた護衛の騎士が、慌てて私の前に脱ぎ捨てたヒールを揃えて置いた。


「母上、今の話について確認したいと思いますので、少しの間外でお待ちください」


 まだ半信半疑と言った様子の皆を代表するようにシーザーが口をはさみ、有無を言わせず私を部屋の外へと追い出した。まあ、シーザーの立場ならこんな大切なことを確認しないわけにはいかないのは当たり前だし、まさかあの人の方を外に追い出すわけにはいかないので私の方が出されるのは当然のことだとは思うけれど……隣の部屋で待っていてくれくらいは言ってほしかったわね。シーザーも珍しく混乱しているのかしら?

 そう思いながら廊下に立っていると、すぐにザインが慌てて出てきて隣の部屋に案内してくれたので、廊下で待たなくてよかったのはありがたかった。


「母上、こちらへ」


 しばらくして私はザインに呼ばれて先程の部屋に戻り、夢の中で聞いたことを皆の前で話した。ただ、その話の合間にシーザーとザインが何故か急に昔話を挟んだり、しかもその話が所々間違っていたり、さらにそこを指摘してしまったせいで本当の話をさせられたりで、思った以上に時間がかかってしまった。


「細かいニュアンスの違いはあるものの、陛下の話とほぼ一致するか……それに、私たち王族にしか知らないようなことまで合っているとなると……」

「二人は本物の父上と母上で、夢の中で聞いたという話も本当のことだと判断してもいいと思います」


 などとシーザーとザインが言い出した。つまり、私とアレックス様は、偽物ではないかと疑われていたということだ。


「だから言ったであろう。余とマリアは本物だと」


 あの人が不貞腐れた感じでシーザーとザインに抗議するけれど、


「そう言いますが、いきなりお告げを聞いたなどと言い出したら、普通は気が狂ったか偽物なのかと疑ってしまうのは当然のことかと」

「このような時に内部で混乱を引き起こされては王国が滅びかねますから、相手が陛下であったとしても慎重になるのは仕方がないことかと思われます」


 二人は当たり前のことだと悪びれることも無く言い放った。


「まあ、これで分かったであろう。不利であった状況はひっくり返り、我々が優勢だということに」


「リカルド殿とシーリア殿のいうことが本当であるのなら、確かに有利な状況となっているのでしょうが、まだ確定したわけではありません。現に王都の東側では戦闘がまだ続いているのですから」


 状況が有利になったと聞いた貴族たちが少し浮かれ始めたように見えたが、シーザーが油断するのにはまだ早いと釘を刺した。そこに、


「報告します! 王都の東側に、赤い古代龍が現れました! 陛下はすぐに避難の準備を!」


 絶望的な知らせがもたらされた。

 これにより会議室は騒然となり、急いで陛下と私を含む王族の避難の準備が進められた。その最中、最低限の責任者は必要だとザインが言い出しシーザーが残ろうとしたが、ザインは言い出した本人が残ると言い張った。

 それで二人がどちらが残った方がいいのかで揉めたがそこにまた、


「報告します! 東側に現れた赤い古代龍は、オオトリ家の援軍として参戦したベヒモスにより打ち倒されました! その際、同じく参戦したナミタロウ殿により、龍王と思われる存在も撃破されております!」


 などと言う、二度目となる斜め上を行く報告がもたらされた。

 これこそ疑われるべき知らせではあるが、報告書にはライルの名が記されており、さらには王族しか使えない判を押された封蝋があったので、口頭のみの一度目の報告よりも信頼度が高い。


「ライルは今どこにおる!」


「ライル様はできうる限りの数で部隊を組みなおし、二つに分けて北側と西側に向かっております」


 ライルは東側を中立派の騎士たちに任せ、自分は西側への部隊を率いているそうだ。


「王城からも援軍を出しますか?」

「いや、ならぬ。ここで王城を手薄にすれば、王都に潜んでいる敵が向かって来るであろう。それよりは万が一の時の為に守りを固め、いつでも籠城できるようにするのだ。ベヒモスとナミタロウがこちらに付いたとなれば、時間がかかって困るのは敵側の方だ!」


 こうして私たちは、さらに守りを固めて改革派……ダラーム公爵率いる反乱軍に備えることになった。


「後はテンマが勝つだけだな」


 そう私のそばに来たアレックス様が言うけれど、


「テンマが勝つのは決まっているのよ。何せ、シーリアの母親としての勘がそう告げていたらしいから」


 私にしてみれば、赤い古代龍が倒されたという知らせが入った時点で、この戦争は王国の勝ちで終わることが決まっていたのだった。


                            マリアSIDE 了




「テンマの屋敷はあそこね」

「何とか間に合ったな……はは、マークやらマーサやら、懐かしい顔が揃っているな」


 マリアたちと別れた私とリカルドは、いつ消えてもおかしくない状態でテンマの屋敷まで飛んできた。近づくと屋敷の庭に大勢の人がいるのが見え、そこにマーサやマークたちククリ村の人々が混じっていることに気が付いた。しかし、私たちにはマーサたちに挨拶する時間は残されていない。


 出来る限り皆の顔が見えるようにククリ村の人たちの間を進むと、屋敷の近くにマーサとマークがいた。


「二人共、私たちの代わりにテンマを守ってくれてありがとう」

「あの世でまた会えたらいいな」


 すれ違いざまにそう呟くと、二人は何かに驚いたように振り返ったけれど、私たちの声が聞こえたわけではないだろう。


「あの女性がテンマのお嫁さんね」

「俺たちの義娘だな」


 その姿を一目見れて満足したからか、私とリカルドの体はわずかに輪郭が見える程度にまで薄れていた。


「このお腹の中に俺たちの孫が居るんだな」

「そうね……あら? これは……」


 孫を抱けない代わりに義娘のお腹に手を当てたところ、予想していなかったことが分かった。多分テンマも気が付いていないのかもしれないことだった。


「驚くでしょうね」

「そうだろうな。まあ、めでたいことには違いない」

「そうね。私たちの子に孫に、幸多からんことを……」


                           シーリアSIDE 了

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― 新着の感想 ―
[良い点] 双子ですか。めでたい! [一言] 明けましておめでとうございます。
[一言] プリメラとは少しでも会話させて欲しかったなぁ。
[一言] いつも更新楽しみにしてます あけましておめでとうございます。 今年もよろしくお願いします。
感想一覧
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