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第20章-8 勝機到来

エイミィSIDE


「皆さん、落ち着きなさい! 今は慌てずに、指定されたところまで避難するのです!」


 学園の先生たちの一部が必死になって生徒の避難誘導をしているけれど、さっき聞こえた大きな唸り声のせいで生徒どころか先生たちもかなりの数が混乱しているので、まともな誘導が出来ていない。

 こう言った時の為に、まずは高等部の三年生が冷静になって下級生をまとめなければいけないはずなのに、三年生の誰かが、「すぐにでも王都は敵に攻められるだろうから、ここに居る方が逆に危険だ!」と叫んだせいで、すでに学園から逃げ出した生徒もいるみたいだ。このままでは、学園の混乱が外にまで広がるか、あるいは外の混乱が学園に流れ込んでくるか……どちらにしろ、ものすごく危険なことになりかねない。


「とにかく、今の状態で避難場所に行くのは危険だから、ある程度落ち着くまで私たちはクラス全員で端の方に固まっていよう!」


 こう言った時、いつもはティーダ君が皆をまとめるのだけれど、今ティーダ君は万が一の場合に備えて王城にいる。もしもの場合は、責任者の一人として戦場に出なければならないらしい。

 なので、代わりにクラス委員でもある私が皆に指示を出しているのだけれども、今のところは皆素直に従っていてくれる。多分、ティーダ君の婚約者と言う肩書が、いい方向に働いているのだろう。

 ただ、クラスの皆は私のことをよく知っているから言うことを聞いてくれているけれど、他のクラスをまとめるのは難しいと思う。だから、誰か私よりも発言力のある生徒か先生が来てくれれば、少しは周囲を落ち着けることが出来るかもしれないけれど……そう都合よくはいきそうにない……


「エイミィちゃん、見つけたっ!」


「えっ? ルナちゃん?」


 などと思っていたら、この学園でティーダ君に次いで地位の高いルナちゃんが走ってきた。


「何でここに居るの? ティーダ君と一緒に王城に行ったんじゃないの?」


「そう言う話もあったけど、私が戻っても邪魔になるし、私たちが揃って王城に行ったら、王城に逃げたとか思われそうだから、私はこっちに残ったの。お友達の皆も気になるし」


 そう言ってルナちゃんが後ろを振り向くと、私のクラスを上回る人数の中等部の生徒たちがこちらを見ていた。全員がルナちゃんのお友達と言うわけではないだろうけど、そこら辺の高等部の生徒よりも冷静みたいなので安心できる。


「とりあえず、皆を落ち着かせないといけないから、ゴーレムを出そうよ。お兄ちゃんから貰った小さいのが沢山あるから、いざという時の為のゴーレム以外を出しておけば、それだけで落ち着く人もいると思うよ」


 本来、先生から貰ったゴーレムは、万が一の場合に備えて秘匿するようにと言われていたのに、ルナちゃんはそれをここで使うつもりのようだ。まあ、このまま混乱が続けば、いつの間にか帝国側の暗殺者や裏切者がすぐそばまで来ていたということになりかねないから、ここに残ると決めた以上は今ゴーレムを出すのは正解なのかもしれない。


「エイミィちゃん。今私の持っているニ十体のチビといつも持ってる十体を出すから、エイミィちゃんも出してね」


「分かった」


 ルナちゃんの言う通り、私が持っているゴーレムのうち、量産型を二十体と前に貰ったものを十体()()出した。本当は量産型も前に貰ったタイプももっと持っているし、特別に作って貰ったゴーレムも残っているけれど、ルナちゃんが数を指定しているということは何か理由があるんだろう。


 二人で出した量産型四十体と通常型二十体を、私のクラスメイトとルナちゃんのお友達を護るように周囲に配置して、即席の安全地帯を作った。


「先生! こっち! こっちに来て下さ~い!」


「ルナ様?」


「このゴーレムたちを移動させながら避難場所に行くので、先生も移動しながら生徒たちに声をかけてください」


「あ……はい! 了解しました! 先生方、ルナ様の下へ!」


 ルナちゃんは、私たちの一番近いところで生徒たちに指示を出し続けていた先生を呼ぶと、その先生は他のところで声を出していた他の先生を呼び、そこから連鎖的に私たちのところへ集まってくる生徒が増えてきた。


「万が一に備えて、上級生は下級生を少しでも内側へ! でも、焦る必要はありません! 先程の声の主は遠くへ行きましたし、王城の外では王国軍が()()で、帝国を少しずつ追いやっているとのことです! 私たちは先生の指示に従って、冷静に避難しましょう!」


 最上級生と言うことで、私が音頭を取るような形になってしまったけれど、それでも皆は私の言うことに耳を傾けてくれている。ただ、急にルナちゃんが静かになったのと、最初に集まってきた先生たちの姿が見えなくなったのが気になるけれど、冷静な生徒が増えるにつれて混乱は収まっているように思えた。しかしその時、


「ルナちゃん! ……あれ?」


 一人の生徒がルナちゃんに襲い掛かり……すぐに取り押さえられた。取り押さえたのは、最初にルナちゃんが声をかけた先生だ。


「やっぱりいたね……すぐに運んで」


「はっ!」


 取り押さえられた生徒は、数人の先生によってどこかへと運ばれていった……と言うか、先生ごと一緒に消えた。


「ルナちゃん、大丈夫なの!」


「大丈夫だよ。これは()()()のことだから」


 何が想定なのか分からず、詳しく話を聞こうとしたところ、


「ルナ様、吐きました。暗殺を企てた生徒……いえ、()()()は残り十人。他も捕縛次第尋問し、更なる情報を引き出します」


「お願いね」


「え? ……本当に何なの?」


 生徒を取り押さえた先生が人垣の中から急に出てきたと思ったら、その後ろから服装は変えていたけれど他の合流した先生たちも続々と現れてあちこちに走って行き、十分程でそれぞれ気絶した生徒を抱えて戻ってきた。


「少々お待ちください」


 そう言って先生たちは、またどこかに消え……たように見せかけて、ディメンションバッグの中に入っていった。そして、


「あの者たちが知っている暗殺者は全部で十一人とのことなので、全員捕まえたことになります。ただ、他に知らされていない暗殺者が潜んでいないとも言えませんので、引き続き護衛を続けさせていただきます」


「お願いね。もう少ししたら、王城から追加で人が来ると思うから」


 と、やはりよく分からない会話をしていた。そこに、


「ルナ様、援軍が到着したようです」


「護衛隊クリス以下十名、只今到着いたしました」


 タイミングよく護衛隊だというクリスさんが、九人の騎士を引き連れてやってきた。そのままクリスさんと先生が何か話していたけれど細かいところまでは聞こえず、唯一後でまた追加の護衛が来ると言うことだけは分かった。


「それでルナちゃん、そろそろ説明して欲しいなぁ……って、思っているんだけど?」


 クリスさんと一緒に私のそばにやって来たルナちゃんに尋ねると、ルナちゃんは困ったような顔をしてクリスさんの方をチラリと見てから、


「えっとね、王家直属の諜報部隊が王族の暗殺を企てている貴族がいるという情報を掴んでね。その貴族自体はすぐに捕まえたそうなんだけど、他にも協力者がいることが分かってね……あぶり出す為に、私が囮になったの!」


「そんな危ないことは止めてよね!」


 まるでいたずらが見つかった程度の軽さで言うルナちゃんに、思わず怒鳴ってしまったけれど、


「エイミィ、これは王家の決定でルナ様が自ら発案したことです」


 クリスさんは、何故ルナちゃんが囮になったのかの理由を教えてくれた。何でも、暗殺者対策にルナちゃんを王城から出さないという話もあったそうだけど、それだと戦争中に王族は安全な場所に籠っていたとも言われかねない為、ライル様は前線に赴き、アーネスト様は警備隊の責任者として王城を出て、王都の中やその周囲を移動しているとのことだった。ただ、その二人だと常に兵士や護衛に囲まれているので暗殺者をおびき出すことが出来ないので、代わりにルナちゃんが学園で囮になることになったそうだ。

 学園なら普段見かけない大人は入り込めないし、親から言われた生徒が暗殺を行おうとしても、生徒ならルナちゃんの護衛(先生に扮した特殊部隊など)で対応は十分可能だからと言うのが決め手だったらしい。


「まあ、私に何かあったとしても、お父様かお兄様が生きていれば王家はどうにかなるし」


「だから、自分を犠牲にするような作戦は止めてって! もう二度とやらないで!」


「ごめんなさい!」


 先程よりも強く大きな声で起こると、ルナちゃんは驚いた顔をして頭を下げた。


「エイミィ、それくらいにして。ここで大きな声を出すと、変に目立つわ。それに、まだ暗殺者がいるかもしれないからね」


「はい……」


 クリスさんに注意され、ルナちゃんを怒るのは後にしようと決めた私は、改めて周囲の状況を確かめたのだけれど……


「クリスさん、もしかしてルナちゃんのクラスメイトって、何人か騎士が混じってますか?」


 私よりも学年が下なのに、明らかに雰囲気が違う生徒が何人かいた。見た感じでは騎士と言うよりは冒険者のような警戒の仕方に近いと思うけれど、所々クリスさんのような所作が混じっているので、もし街中で見かけたら元騎士の冒険者か、冒険者上がりの騎士と思うかもしれない。でも、そんな人がわざわざ学園に入り直すはずはないと思う(それに、見た目は私よりも幼いか同じくらいに見える)ので、冒険者の経験がある騎士見習いというところかもしれない。


「流石冒険者の街(セイゲン)の宿屋の娘ね。本当は秘密なのだけど、エイミィなら問題は無いわね。彼らはエイミィの思っている通り、ルナ様の影の護衛として王家から送り込まれた騎士見習いよ。王家に忠誠を誓っている王族派の子息だから、騎士に近い動きをするのは当然ね。それに最近は、テンマ君の影響で冒険者の良いところを取り込もうとする騎士も多いから、エイミィが冒険者のようだと感じるのも当たり前よ」


「お兄ちゃんの影響を受けているのは、特に()()()()に多いよね」


 などと、説明をしてくれていたクリスさんの言葉に被せるようにルナちゃんが言うと、クリスさんの目が一瞬険しくなった。それはもう、周囲の温度が急に下がったと錯覚するくらい鋭い目つきだった。


「と、ところでクリスさん、その怪我はどうしたんですか?」


 少しでもルナちゃんからクリスさんの気を逸らす為に、先程から気になっていたクリスさんの怪我のことを聞いてみると、


「ああ、これ。ちょっと下手を打ってね……かなり酷い怪我をしたけれど、テンマ君の薬でここまで動けるようになったのよ。その代わり、前線からは外されたけどね……」


 ルナちゃんから気を逸らすことには成功したみたいだけれども、今度は別のことでクリスさんの気配が怖くなってしまった。


「ともかく、避難誘導を続けるわよ! あなたたち! もし誘導に従わない生徒がいたら、ひっぱたいてでもいうことを聞かせなさい! そして、まだ混乱している教師がいたのなら、ぶん殴ってでも冷静にさせるか、大人しくさせなさい!」


 クリスさんが周囲にいる部下たちに指示を出すと、皆揃って(ルナちゃんの護衛の見習い騎士と関係のない生徒や先生まで)敬礼した。ついでに私も……


 その後の避難はクリスさんの指示が的確だったこともあり、多くの生徒が無事に移動することが出来た。もっとも、生徒の中には混乱から暴れて取り押さえられた人や怪我をした人、そしてすでに学園から逃げ出した人もいたので全生徒が揃ってと言うわけではなかった。

 怪我人に関しては骨折を除いて薬で対処可能な範囲だったのでどうにかなったけど、学園から勝手に逃げ出した生徒に関しては、後の点呼で確認するだけで放っておくことになった。自分の判断で勝手に逃げ出した以上、何があっても学園側に責任はないとのことらしい。


「まあ、王都の中が戦乱に巻き込まれているわけじゃないから大丈夫だとは思うけど……混乱しているのは学園だけじゃないから、どうなるかは分からないのにね」


 もしかしたら学園よりもひどいことになっている可能性があるそうだけど……知らない生徒のことを私が心配しても仕方がないので、一度だけ無事を祈って後は忘れることにした。


「ルナ様、追加の騎士たちが来たようです。ルナ様とエイミィは他の生徒たちとは違う場所に移動しますので、いつでも動ける準備をしておいてください」


 ルナちゃんをいつまでも暗殺の危険性のある場所に置いておくのは出来ないということらしく、人が密集している場所は避けてどこかの教室を用意しているそうだ。そのついでにティーダ君の婚約者の私も一緒に行かないといけないらしい。

 王族が皆と違う場所に特別扱いで避難することは、戦争の後で批判される可能性もあるそうだけど、実際に生徒が暗殺者と化して襲い掛かってきているので、誰が敵か分からない所から明確に標的とされたルナちゃんと、標的にされる恐れのある王族の関係者(私)を護りやすいところに移動させることは当然だということらしく、それでも批判された場合は暗殺をしようとした生徒とその親たちを生贄にしてやり過ごすらしい。もっとも、例え批判されなくとも暗殺に加担したということで、処分は厳しいものが下されるそうだ。

 その話を聞いた時、正直暗殺に関わった生徒に知り合いがいなくてよかったと思った。そして、そこまでのことをした生徒とその関係者に(例え生徒の家族が何も知らなかったとしても)厳しい処分が下されるのは当然で、実行犯に同情することは全く出来ないとも。


「あっ! クリスさん、今先生はどうしているんですか?」


 追加の騎士たちと話に行こうとしていたクリスさんに、先生のことを聞いてみたのだけれども、


「ごめんね。いくらエイミィがテンマ君の身内だとしても、今は緊急事態だしテンマ君は極秘任務に関わっているから話せないの」


 と言われて、何も教えてもらうことは出来なかった。

 クリスさんの言葉を聞いて何故か嫌な予感がしたけれど、先生ならその極秘任務と言うのも簡単にこなして来そうだし、多分大丈夫……だと思いたい。


                           エイミィSIDE 了



「は? え?」


 額とは言え、いきなりキスされて驚いていると、


「テンマ、そろそろ動けるのではないか?」


 黒い古代龍が、呆れたような声で話しかけてきた。


「え、あ……動く。それどころか、力が漲ってくる」


 何故キスだったのかは分からないが、あのキスで俺の体力は元に戻り、更なる力を得ることが出来たようだ。


「これでテンマは人ではなくなった。私の加護も得たテンマは、人以上神以下の存在である亜神。死した後に神の一員となる資格を得て、この世界にとって特別な存在となった」


 確かに、亜神と言われて納得できるような力だと思う。だが、


「それでも、あの女に勝てるかは分からない。あの女は、以前の力には及ばないとはいえ元神。いわば、テンマとは違う方法で亜神となった存在」


 相手の全力を見ていないから正確なことは分からないが、俺の感覚では良くて互角と言うところだと思う。


「それに奴には、配下であるゾンビや龍が多数いるからな。このままでは不利だろう。我が()()姿()()()()()外に出ることが出来れば、確実に勝てるのだがな」


 黒い古代龍の今の姿は、過去の記憶から再現されたこの空間限定の姿なのだそうで、外に出れば動くどころか声さえ出すことも出来なくなるらしい。


「だが安心しろ。お前は確かに現時点ではあの女よりも弱い。しかし、それはお前が亜神になりたてだからだ。あの女はこれ以上強くなることは無い。それどころか、このままでは力を分け与えている配下が削られ続ければ、弱くなる可能性すらある。まあ、配下から力を吸収して、一時的に力が増すことはあるだろうが、奴は配下の数を大きく減らすという選択は取れぬだろう。そうすれば、王都周辺で戦っているテンマの仲間が向かって来るからな」


「流石の亜神でも、テンマに加えてナミタロウにベヒモスを相手にするのは自殺行為」


「ほぅ、ベヒモスも来ているのか。なら、ますます王都周辺の攻め手を薄くすることは出来ぬな。もっとも、我があ奴なら力を集めるだけ集めてこの場から離脱し、百年ほど逃げに徹して次の機会を窺うがな。そうすれば、少なくともテンマはこの世に存在していないし、奇襲であればナミタロウとベヒモスはすぐに動けない、もしくは動く理由がなく、今よりも楽に王国を滅ぼすことが出来るであろう」


「でも、そうするとテンマは手に入らない。あいつの目的が贔屓にしていた人間の復活で、テンマの体が復活させるのに最適と言うのなら、逃げることはしないはず」


「あの女は戦い方が下手なのだ。そして、視野が狭い。一つのことに集中しやすいとも言えるが、もう少し視野が広ければテンマが奪い返される可能性を考えて寄り道なぞせずに、『大老の森』の奥深くにでも直行していたはずだ。それに、テンマを下した時に、マーリンを殺して配下にしておけば、もう一体の強力な手駒が手に入ったのに……それをしなかったというのは、奴が戦いに慣れていないからだ」


 確かに黒い古代龍の言う通り、じいちゃんを見逃した上に寄り道をしたせいで、俺は反撃のチャンスを得たわけだ。


「それでは、そろそろこの場所から出るとするか……テンマ、この戦い勝てるぞ。あ奴は配下こそ多いが、自分の為に命を懸けるような仲間は誰一人としていない。いるのは利害が一致した数匹の()()()だけだ。しかしテンマには、多くの仲間がいる。我だけでなく、ナミタロウにベヒモスと言った強者に、直接の手出しは出来ぬだろうが、この死神を始めとした神たちもな……さあ、我の背に乗れ!」


 黒い古代龍に言われていつもの感覚でジャンプすると、一度で背中に飛び乗ることが出来た。普通なら魔法を使わなければこんなことは出来ないのだが、今の俺ならこれくらいは簡単にできるという確信があった。


「テンマ、忘れないうちに()()()()()()を渡しておく。ここと外では時間の流れが違うから、外に出てすぐに治療をすれば、マーリンの腕は元に戻るはず」


 いつの間にか俺の後ろにいた死神が、じいちゃんの腕を渡してきた。

 時間が動いていないかのように血は止まっているが、その温もりからほんの数秒前に切断されたものだと分かり、じいちゃんをこんな状態にした女に更なる怒りが湧いてきた。


「振り落とされるなよ! ……まあ、今のお前にとってはいらぬ心配だな」


 黒い古代龍は、翼を数度羽ばたかせただけで高くまで体を浮かせ、そのまますごい速さで上へと飛び始めた。俺が全力で飛んだ時よりも速いみたいだが、黒い古代龍はまだまだ余裕があるようだ。


 この空間がどれだけ広いのかは分からないが、黒い古代龍に乗って数分程で、進んでいる方角から光が差しているのが見えた。間違いなく、あれがこの空間の出口だ。


「そう言えば、お前に名前はないのか?」


 後数分でここから出られるという時、不意に気になり黒い古代龍に名前を聞いた。


「あるにはあるが、それはこの姿の我に付けられたものではない」


 話している最中にも、次第に出口は近づいてくる。恐らくだが、ここから出るともう二度とこの黒い古代龍とは話すことが出来なくなるのだろう。


「姿は変われど、我に付けられた名は後にも先にも一つだけだ」


 出口はもう目と鼻の先だ。


「なかなか気に入っているぞ。テンマが付けた、『小烏丸』と言う名前は」


 その言葉と共に、俺たちは光の中に飛び込んだ。

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まさかの小烏丸! 地味に嬉しい。
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