第2章-3 返り討ち
本日連続投稿その2
最初に囮となる見張り場所を造る事にした。
畑から50m程離れた場所に幅2m、深さ50cm程の穴を掘り畑側の穴の外に土を50cm程盛って固め塹壕のような物を完成させる。
その30m程横に離れた所にも同じものを造る。
馬車を出す場所を塹壕から後ろへ50m程の位置に決め、地面にマーキングを施しておく。
「これで準備は大体整ったな。日が落ちる前に食事の準備をしよう」
と三人に言ってマーキングをした場所で食事を作っていく。食事を作るといっても街で買ったものと干し肉を使った簡単なスープを作るだけだ。
ただし、スープは多めに作って置いて、夕食の分以外は鍋ごとマジックバッグに入れて夜食替わりにするつもりだ。
俺達が夕食を食べて30分もしない内に日が完全に落ち、辺りは暗くなった。
俺はマーキングした場所に結界の魔法を使い、認識されにくくしてから馬車を置く。
それとともに馬車を中心とした半径200mに結界を広げ、俺たち以外が侵入すると俺の頭の中にアラームが鳴って知らせるようにした。
ダッシュボアの討伐だったはずが随分と大事になってきたな、と思いながら馬車の中で身代わりのゴーレムを作成していく。
後は最後の仕上げのみ、というところで俺は三人に顔を向けて、
「髪の毛を一本ずつくれない?」
と聞いた……ら三人は頬を少し赤らめて、
「何に使うの?」
「変なことに使わない?」
「でもテンマだったら構わないかな?」
と、どんな思い違いをしたのか変な事を聞き返してきた。
「ゴーレムを作るのに必要なんだよ」
と俺は三人に特に感情を込めていない声で答えた。三人はそれを聞いて髪の毛を差し出してきた。
その時に、残念、とか、遠慮しないでいいのに、とか聞こえたのは気のせいだろう……と思いたい。
それはともかく受け取った髪の毛をゴーレムに埋め込んで魔力を込めていく、するとゴーレムは見る見るうちに三人の姿に変化していった、ただし生まれたままの姿で。
これには流石に俺も焦った、しかしそれ以上に三人は焦っていたようで混乱している。
「ニャーー!ニャにしてるのテンマ!」
「テンマのエッチ、スケベ、変態!」
「テンマのエッチ!…テンマが見たいならいつでも見せてあげたのに」
とリリーは猫化しながら、ネリーは罵倒しながら、ミリーはボソッと何かをつぶやきながらそれぞれ自分達が使っていたブランケットを慌ててゴーレムにかけていく。
そんな中、俺は土下座をしながら謝っていた。
「ごめん!そんなつもりはなかったんだ!前に作った時はシロウマルのゴーレムだったから、こうなるとは思っていなくて」
と謝りながら、よくよく考えればシロウマルは狼で人間で言ったら常に全裸状態だよな、と思っていたが口には出さなかった。
三人はゴーレムに予備の服を着せていく。もちろん俺はその間後ろを向いていて、許可が下りるまで振り向くなどという愚行を犯すことは無かった。
許可が下りたので振り向くと同じような顔が6個並んでいた、正確には同じような3つの顔にまあまあ似ている色違いの3つの顔である。
「よく見てみると結構似てない所があるね」
「まあ暗闇の中遠目で見たら気がつかないよ」
「テンマ、この技術で本当に変なことなんてしていない?」
と最後のミリーの言葉で三人が、どうなのテンマ、と聞いてくる。
「勘弁してくれ。誓って変な事に使ってなんか無いよ」
と答えると三人はいやらしい笑みを浮かべ、
「あれ~テンマ、『使った』なんて何を想像したの~?」
「私達はただこのゴーレムで、人にいたずらをしてないか聞いただけなのに~?」
「何を想像したのかな~?お姉さん達に教えてご覧なさい」
と少々キャラ崩壊を起こしながらにじり寄ってきた。俺はため息をつきながら、
「何を言ってるんだか、今更お姉さんぶっても遅いぞ。それに今から俺のゴーレムを作るから後ろを向いていてくれ」
と三人に言うと目を輝かせながら近寄ってきた、
「それじゃあ、しっかりと見なくちゃ!」
「私達のも見たんだから、問題無いよね!」
「ワクワクするね、男の人のを見るのは初めてだし!」
とウザかったので、彼女達の後ろに控えているゴーレムに三人を捕まえて、後ろを向かせているように命令を出した。
「不公平だ~!」
「横暴だよ~!」
「ケチ~!見せてくれてもいいじゃない!」
と騒いでいたが無視をしてちゃちゃっと作っていく。
服を着せ終わってから三人を解放した。
三人はブーブー文句を言っていたが気にしないことにした。
その後、ゴーレムを二体ずつに分けて塹壕に向かわせる。
その時にも三人は俺のゴーレムと誰のゴーレムを組ませるのかで言い合いを始め、最終的にはジャンケンで勝敗を付けた。
その結果ネリーのゴーレムと組ませることとなったが、俺は意味があるのかと終始首をひねっていた。
しばらくは馬車の中でゆっくりとした時間を過ごしていた。
「やっぱりダッシュボアがやってくる気配はしないな」
案の定というか当然というかダッシュボアがやってくる気配はしなかった。
そのまま時間は過ぎていき日付が変わって1~2時間が過ぎた頃だろうか、突然頭の中にアラームが鳴り響いた。
「三人とも敵が動いたぞ、いつでも動ける準備をしてくれ!」
その言葉に横になっていた三人は飛び起き、急ぎ支度をしていく。リリーは弓を、ネリーは双剣を、ミリーは盾と片手剣をそれぞれ装備した。
俺はシロウマルにいつでもバッグから飛び出せるように待機させ、刀を取り出す。
刀は以前の物と形や造りは同じだが、素材にはドラゴンゾンビの肩に生えていた金属を使ってあるため、アイテム区分としては「超級」に値する物となっており、切れ味や強度は以前の物とは比べ物にならない。(以前の刀は「上級」に相当する)
「三人とも、敵がゴーレムの背後50mまで近づいた」
敵達が馬車を無視してゴーレムに近づいていく、認識阻害の魔法が働いているようで馬車は敵の意識外に追いやられているようだ。
「敵が矢を放ったみたいだ、俺のゴーレムが倒れた!もうそろそろ作戦開始の時だ!」
敵の矢を受けたゴーレム達が命令に従い倒れたふりをする。
ゴーレムが倒れてから5分ほどで二箇所の塹壕へ敵が二人ずつ近づいていく、探索で調べた限りでは塹壕から50mの位置に40人、100mの位置には30人がいて村に残りの38人が待機している。
そして偵察に近づいた者達がゴーレムに捕まった。
「今だ!作戦開始、三人とも気を付けて!」
「「「テンマも頑張ってね!」」」
俺はシロウマルを外に放ち隠れている者達、主に後衛の敵を優先して狙わせ、ゴーレムを三人の護衛用に出す。俺自身は飛空を使い、バンザを捕まえに村へ向かう。
流石に偵察が捕まったことで塹壕に少しずつ近づいていた盗賊達は自分達の作戦がバレていたことに気付き辺りを警戒した。そして自分達の後ろから三つの影が襲いかかってくるのを見つけた。
「女たちは絶対に傷つけるな!価値が下がるぞ!」
「その前に俺の相手をしてもらうけどな」
「馬鹿野郎!俺達の、だ!」
と下卑た笑い声を挙げる。
盗賊達は三人が若い女というだけで舐めていた。障害となるのはせいぜい若い男くらいだろうと。
だが、それは大きな間違いだった。彼女らはCランクのパーティーだが単独でもそれぞれが既にCランクの実力の持ち主なのだ。
更に、三人ともCランクの中でもBランク寄りに近い実力者と言われている。
この評価は冒険者歴が二年の者としてはかなりのものである。このことはCランクに十年、二十年と在籍する者も珍しくは無く、CランクとBランクの間にはそれほどの壁がある、と言えばわかるであろうか。
更に三人とも、火、水、土、風の魔法の簡単なものが使える為、将来的にはもっと上のランクも目指せると言われている。
おまけにこの三人は個人で戦うよりも、三人一組で戦ったほうが実力を発揮するのだ。
それは三つ子ならでは、としか表現できない程のコンビネーションを見せるため、パーティーランクはすでにBランクのパーティーと比べても遜色がないと冒険者の間では有名だ。
「ネリー、私は槍を持っている奴を集中的に狙っていくから、それ以外をお願い。あまり突出しないようにね」
「了解!」
「ミリーは向かってくる奴を迎撃して、私も援護するから」
「は~い」
リリーが二人に指示を出す。三人の中では一番しっかりしており、一応長女なので自然とリーダーの役割をしている。
ネリーは三人の中で一番身軽で攻撃的なところがあるため、アタッカーの役割をこなすことが多い。
ミリーは少しのんびりとしたところがあるが、一番器用なため二人の間のポジションで戦うことが多い。
しかし三人のポジションは、強いて言えばそれが得意、というだけで基本的にはオールラウンダーである。
リリーの弓で槍を構えようとした盗賊が顔のど真ん中に矢を生やして倒れ、ネリーによって前に出てきた者は切りつけられ血を流す、それをミリーが盾で押しのけながら道を広げ、ゴーレム達が三人の脇を固める。
油断していた盗賊はリリー達を簡単に二体のゴーレムと合流させてしまう。
「糞がっ!女と思って油断した!おいっ、後ろの弓を持ってる奴らはこっちに来い!」
盗賊の中の一人が後方に隠れていた奴らを呼びかけるが返事が帰ってこない。
「こいって言ってるだろうが!」
怒鳴り声を上げるが一つとして返事が無い。
と、その時男の下に何かが投げ込まれた、コロコロと転がってくる物体をよく見てみると、それは後ろに隠れていた仲間の首だった。
「ワオォォーーォン!」
首が投げ込まれると同時に大きな遠吠えが響いた、盗賊達はその遠吠えで竦み上がり自分達が対峙していた三人から一様に気を逸らしてしまった。
その隙を逃すような三人では無かった。ゴーレムと連携して襲い掛かり被害を与えていく。
盗賊達が三人に向き合えば今度はシロウマルが飛びかかった。
まさしく前門の虎、後門の狼の様相である。
その後は残りのゴーレムとも簡単に合流でき、シロウマルと4体のゴーレムを加えたリリー達は、残りの数十人の盗賊を危なげなく狩っていくのだった。
時は少し遡り、天馬のバッグから飛び出したシロウマルは自身の嗅覚で敵の位置を知り、その背後へと音も立てずに忍び寄った。
「おい、何だか様子が変だぞ!近づいた奴が捕まっている!」
「俺達も声がかかれば、すぐにでも駆けつけるようにしておこう!」
と背後に忍び寄るシロウマルにはこれっぽっちも気がつかずに、塹壕の方を見つめている。
次の瞬間にはその場にいた15人が声も出すこともできずに首を落とされた。15人がこの世で最後に感じたものは自分達の間をすり抜けていく一陣の風であった。
シロウマルはその場を見渡し、生き残りがいないことを確かめてからもう一つの後方部隊へと忍び寄りこれも壊滅させたのだった。
その頃、天馬はバンザの家の上空で中の様子を探っていた。
この家にはバンザを含む29人が集まっていた。残りの9人はここから少し離れた家の中にいた。
そっと家のそばに降りて中の様子を窺う。
「頭ぁ、うまく行きそうですね。男の方はどうでもいいが女の方は高く売れそうだぜ」
「あれ程の器量の上同じ顔が三人もいやがる。好き者の貴族あたりが大金を出してでも欲しがりますぜ」
取り巻きがバンザに話しかけている。当のバンザも厭らしい笑顔を浮かべ浮かれているようだ。
「やはり俺の計画は間違っていなかった、ってことだ!最初から上物が三匹もかかるとはな!」
ガッハッハッと高笑いをしている。俺は段々と腹が立ってきていた。
「それにこの村は便利だ。人数が少なかった上に冒険者や、街の騎士どもがやって来る事などめったにない。そのお陰で簡単に占領することができたしな。たまに来る旅人なんかは薬で眠らせれば簡単に捕まえられる」
と俺に気付くことなく得意げに話している。
「それに村の奴らを役立たずのジジババから順に殺していくのは最高だったぜ!」
その言葉で俺は我慢が出来なくなった。
俺の前面以外の壁に強化魔法を強くかけて壊れにくくした後、左の手のひらを壁に向けて『爆発』の魔法を放った。
壁はクレイモア地雷のように吹き飛び盗賊達に襲いかかった。
壁の近くにいた者はもちろんの事、中にいた29人の内、10人が即死し9人が虫の息だ。バンザを含む残りの10人は死んだりした者達が盾の代わりになったみたいで無傷だ。
だが何が起こったのか分からずに固まっていた。
俺は抜き身の愛刀『小烏丸』を肩に担ぎながら中に踏み込む。俺に気づいたバンザが声を荒げる。
「お前がなんでここにいる!いや、それよりもこれはお前の仕業か!」
「だとしたらどうする」
俺は平然と聞き返す。
「ただで済むと思うなよ!お前ら、相手はガキが一匹だけだ負けるはずがねえ、ヤッちまえ!」
バンザは無傷の手下9人に命令を出していた。
俺はその様子を見ながら声を出さずに笑っていた。
「何を笑ってやがるんだ!このガキっ!」
と怒鳴りつけてくる、手下どもは近くにあった武器や、椅子などの武器になりそうな物を持って、ゆっくりと近づいてこようとしている。
それを見ながら俺は、
「この状況を作ったのは俺なんだぜ。お前らはガキ一匹に、一瞬で19人の死傷者を出された、という事が分かっているのか?」
と言うと、近づいてこようとした手下どもが徐々に後退りを始めた。
そんな手下どもの一人に、バンザは剣を抜いて男の背中に突き付け俺を殺すように命じた。
剣を突き付けられた男は半狂乱状態で俺に掛かって来た。
「邪魔だ」
俺は男の振り上げた一撃を足を一歩引いて躱すと、そのまま袈裟懸けに刀を振るった。
あまり力を入れたようには見えない一撃だったが、男の体は斜めに切り裂かれ、腹わたを撒き散らして絶命した。
それを目撃した他の手下達は、バンザの制止の声を聞かずに俺の反対側にあったドアへと殺到した、のだが、
「あ、開かねえ!」
「な、なんで開かねえんだよ!」
「窓だ!窓を割って出るんだ!」
「窓が割れねえ!どうなってやがるんだ!」
とパニックを起こしていた。
それもその筈だ。俺は壊した壁以外は、ドアも窓も壁の一部、と認識して強化魔法をかけた為、俺のかけた強化魔法以上の力でないと開けたり壊したりはできないのだ。
つまりは奴らは、『コの字型』の逃げ道の無い壁へと追い詰められた、ただの非力な獲物と成り下がったのだ。
奴等に残された方法は屋根を突き破って逃げ出すか、俺を抜いて壊れた壁から逃げ出すか、もしくは俺に狩られるかの三択だった。
「どうした、逃げないのか?」
俺の挑発に手下どもは首を振り命乞いをしてくる。
「俺らは何もしていないじゃないか」
「そ、そうだ。俺らは頭に脅されて仕方なくやったんだ」
「悪いのは全部頭だ。俺らはお前に敵対するつもりは無かった」
と戯言を言っている。バンザが怒鳴ろうと口を開きかけた時、
「黙れゲスども」
俺の口から自分でも驚くくらいの、魔力と怒気を孕んだ声が出た。
その声を聞いた手下どもは顔を真っ青にして震えている。何人かは漏らしていた。
「お前らがこの村に住んでいた人達にしたことは何なんだ?命乞いした人をお前らは助けたのか?自分達はそうなるとは、考えたことがなかったのか?」
俺の言葉に追い詰められる手下たちに、
「あいつは俺達を逃がすつもりなんかねえんだ!助かるにはあいつを殺すしかねえ!全員でかかるぞ、そらいけ!」
バンザが再び焚きつけた、手下どもは半狂乱のまま思い思いの武器でかかってくる。
俺はほとんどその場から動かずに、袈裟斬り、逆袈裟切り、左薙ぎ、右の切り上げ、唐竹、切り上げ、 袈裟斬り、右薙ぎと、迫り来る順に一刀で切り捨てる。手下どもは全員、体が二つになりながら絶命した。
残ったのはバンザだけだ。
「おい、お山の大将。手下をけしかけて自分は高みの見物か?反吐が出る」
俺は、手下が簡単に切り伏せられた事に驚きを隠しきれてない『お山の大将』に話しかける。
バンザは突然笑みを浮かべだした。
「いや~、やるじゃねえか。どうだこいつらの代わりに俺と手を組まねえか?もちろんお前が頭だ。俺は二番…いや五番でいい。取り分はお前たちが7、俺が3でどうだ?ん」
と揉み手をしながら近寄ってくる。
そして俺から2m程の距離まで近づいたその時、
「バカめがっ!」
「バカはお前だ」
と懐からナイフを取り出して飛びかかってきたが、そんな見え見えの手にかかる奴など居るはずがない。
俺はバンザのナイフを持っていた手を切り落とした。
手は、ジュッ、という音と焦げた匂いを出しながら、ポトリ、と手首から落ちた。
「ギィヤァァァァ!俺の手がぁぁ!」
俺は小烏丸に火の魔法を付与して切りつけており、小烏丸の黒い刀身が薄い赤色を帯びていた。
バンザは焼き切られた右腕を押さえ悲鳴をあげている。
俺はバンザの悲鳴を無視し残りの手足を切り捨てる。
バンザ大きな悲鳴をあげていたが、最後には痛みからか静かになり、失禁していた。
とりあえず切り口は焼き塞がっているので出血死はしないだろう。
念のため舌を噛まれないように、切り捨てた男の服の切れ端をバンザの口に詰め込む。
その時になって、ここから少し離れた家にいるはずの9人が来ないのが気になった。
探索を使うと最初の家から動いていない、それどころか位置も変わっていなかった。
俺は一つの可能性を思いつき、警戒しながらその家に向かった。
静かにドアを開けて中に入ると、カタカタと何かが動いた音が聞こえた。
音の聞こえる方へと慎重に足を進めると、一番奥の部屋の中から音は聞こえてくる。
意を決してドアを開けて光魔法で中を照らしながら覗き込んだ。
「誰かいるのか?」
覗き込んだ俺が見たのは想像した通りの9人の女性達だった。
女性達は皆一様に手を後ろで縛られ猿轡をされて、足まで縛られていた。
俺に気がついた女性たちは皆怯えており、近づくと泣き出したりしていた。
どうしようかと思っていると。
「テンマ~、どこにいるの~?」
「クゥ~ン」
「どうしたのシロウマル?」
「そっちにテンマがいるの?」
「ウォン!」
と声が聞こえてきたので、一旦家から出て三人と一頭に手招きをする
「お~い、みんなこっちだ!怪我はなかったか?」
と呼びかけるとバンザの家の前にいたリリー達が駆け寄ってきた。
「こっちは大した怪我はないよ!」
「テンマ、怪我はない?」
「どうしてこんな所にいたの?」
と詰めかけてくる、三人に怪我は無いよ、と言いながら、
「実は予定外の事が起こって…」
とこれまでのことを話していく。
バンザや手下達を倒したこと、ここに9人分の気配を感じたこと、女性達が捕まっていて俺に対して怯えていること、などを順に話した。
三人は、それなら自分達が解放し説明するから、と行って中に入っていった。
その間に俺は寸胴を取り出して大量の湯を沸かしていく。それとは別の鍋に湯を張り簡単なスープを作っていく。
15分ほどして三人が家から出てきた。
女性達は数人が衰弱していると、まだ男に会うのは決心がつかないという事なので、俺は三人にスープ入りの鍋と、お湯を沸かした寸胴を渡してここから離れることにした。
そのことを三人に話してバンザの家に向かうと伝えると、畑の所に20人程の捕虜がいてゴーレムが見張っているから連れて来といて、と頼まれた。
畑に行くと血や人の一部や死体が散乱しており、その中央には縄で縛られた盗賊達が23人いて、4体のゴーレムが見張っている。
盗賊達が俺に気づいて怒鳴り声を上げていたが、あまりにもうるさかったので『スタン』を使って静かにさせた。
俺はバッグから小型ゴーレムの核を30個取り出し、畑にまきゴーレムを作り出して死体を一箇所に集めさせた。
集めた死体は魔法で氷漬けにしてからバッグにしまい込んだ。
その後、ゴーレム達には捕虜に猿轡をしてバンザの家まで運ぶように指示を与えて、俺は馬車を回収してから一足先にバンザの家まで飛んで行った。