第2章-2 初仕事
今日は連続で投稿します
今日の目覚めは爽快だった。少し早めに寝たのが良かったのか、体の調子も良い気がする。早速身支度をして僅かに置いてあった荷物をバッグの中へとしまい込む。
階段を下りて庭へと向かい、シロウマル達を外へとだす。いつも道りに食事を与え、井戸の水で顔を洗う。その後食堂へ向かうと他の宿泊客で賑わっていた。
「おかみさんおはよう。今日の朝ごはんは何?」
「おはようテンマ、今日はパンかお粥が選べるよ。どっちにする?」
と聞いてきた。ここら一帯では米(ただしインディカ米)も栽培されていて普通に食べられるのが嬉しい。
「お粥でお願い」
「はいよ、付け合せは魚の干物だよ。ちょっと待っていておくれ」
とおかみさんは厨房に向かっていった。俺はその間にマジックバッグから自家製の梅干もどきを取り出した。これは俺がこの街に来る前に梅によく似た植物を見つけたので、その実で作ったものだ。植物の名前は『コマイ』と言って梅と同じく青い内は実に毒を持っている。
「お待たせ。おっ、またこれ食べてるんだね『コマイの塩漬け』お粥の時はいつも食べてるね~」
と、お粥を俺の前に置きながら話しかけてくる。
「ええ、好きですし体にも良いんですよ」
と答えたが、私は苦手だよ、と言っていた。この梅干もどきはここいらでは人気が無かった。
「そういえばテンマは今日から数日、依頼でこの街から出るんだったね」
「はい、ダッシュボアの駆除に行ってきます」
「頑張ってきな。でも無茶して怪我なんてするんじゃないよ!」
と激励の言葉を頂いた。何度も狩りはしてきたけど、プロとしての最初の狩りだ。つまらない怪我だけはしないようにしよう。
満腹亭を出て門へと向かう。途中で屋台が出ていたので、軽食やおやつなどをいくつか購入してマジックバッグにしまっていく、ふと見ると隣でシロウマルがヨダレを垂らしていた。どうやらすぐ先から漂ってくる串焼きの匂いに反応しているようだ。
つぶらな瞳で俺を見つめるシロウマル。ヨダレさえ垂らしていなければ完璧なのに…
仕方無しに串を三本購入しその場で食べる俺達、一本をスラリンへと渡して俺は両手に串を持つ。一本はそのまま齧り付き咀嚼していく。もう一本は小刻みに揺らしながら、粗熱を取っていく。スラリンは体から触手を出し串を持ち、少しずつ肉を身体に差込ながら消化していく、いつ見ても面白い食べ方だ。
一方シロウマルは揺れる肉を目で追いかけ頭が上下に動いている。
「うん、少し硬いけど噛みごたえがあって結構うまいな」
シロウマルは頭を上下に揺らしながら肉が冷めるのを待っている。
「もぐもぐ、もぐもぐ」
シロウマルは目を潤ませながら頭を揺らして待っている。
「もぐもぐ、ごっくん。あ~ん」
「キュゥ~ン」
俺がもう一口食べようと口を開けると、シロウマルが悲しそうに鳴いた。すまん、許せシロウマル、わざとだ。
シロウマルの反応が面白かったのでつい意地悪をしてしまった。俺はシロウマルに心の中で謝り串を差し出す。
シロウマルは歓喜の表情で串を縦に全部咥える。俺は串をそっと引き抜くと肉が口の中に全て残り、それをシロウマルは数回の咀嚼で飲み込む。そして、『もう一本』、とねだってくる。
俺は先ほどのお詫びの代わりに串焼きを数本買い、シロウマルとスラリンに分けてあげた。相変わらずシロウマルは数回の咀嚼で飲み込んでいた。
天馬が門へと到着するとほぼ同時にリリー達も姿を現す。俺が手を振って呼ぶと三人は子犬(猫なのに)のように駆け寄ってくる。
「おはようテンマ。もしかして待たせちゃった?」
「ごめんねテンマ~」
「ちょっと寝坊しちゃって、ごめんね」
「おはようリリー、ネリー、ミリー。俺も今来たところだから丁度いい時間だぞ」
と三人に挨拶をする。
「「「よかった~、実は昨日の夜、他の二人がはしゃいじゃって、寝るのが遅くなったの!」」」
三人ともハモりながら同じ言い訳を言ってくる。
「はしゃいでいたのはネリーとミリーでしょ!」
「違うよ、リリーとミリーだよ!」
「えぇ~リリーとネリーだよ!」
三人とも他の二人がはしゃいでいたと言い出す。俺はため息をつきながら、
「三人共はしゃいでいたのが原因で、三人共朝寝坊したんだろ」
「「「ごめんなさい」」」
俺が指摘すると三人共すぐに謝ってきた。
「とにかく、全員揃ったんだから出発しよう」
「そうだね、今から出たら夕方前には依頼のあった村に着くね」
「それがいいね。なるべく早く着いて、情報も集めないと!」
「さんせ~!早く行こっ!」
と門番の所へ行って挨拶をする。門番と軽く話した後、村へと続く道へ行こうとする猫娘達、
「あっ、ちょっとまって、今いいものを出すから」
と行って俺はマジックバッグから、大きな箱型の物を道の端に取り出した。
「馬車?」
「馬はどうするのテンマ?」
「シロウマルが引いていくの?」
と三人とも頭の上に?マークが浮かんでいる。ディメンションバッグから驚いたような気配が伝わって来る。
「いや、コイツに引かせる」
と言ってバッグから続けて、大きな黒い金属製の塊を出して、俺が塊に手を置き魔力を流して一言……
「起きろ」
その言葉で塊にいくつもの赤黒い光の線が走る。そして塊だった物は四本脚で立ち上がった。
それは体高は2m、体長は3m程の馬の様な物だ。
「わっ!ビックリした!」
「これに引かせるの?」
「おっきいね~」
「いや、最後の仕上げがまだだよ。スラリン、ゴー!」
俺が命令するとスラリンは馬の背中へとよじ登る。そして首元にあるハッチを開けるとその中にスルリと潜り込んだ、スラリンがハッチを閉めると馬の目に鮮やかな赤い光が二つ輝いた。
目に光が灯ると本物の馬のように歩き出した。俺はその馬を馬車に繋いでいく。
三人娘は馬に驚き、スラリンが入り込んだ事でさらに驚いていたが、その後、
「わっ、動いた!」
「すご~い、本物の馬みたい」
「ね~テンマ、スラリンはどうなったの?」
とすごくはしゃいでいた。女は三人集まれば姦しいとはよく言ったものだ。
「これは擬似生命体馬型ゴーレムのタニカゼ、スラリンが中で魔力制御を補助することで起動することができるんだ!」
と説明した。このタニカゼには魔核を使用しており、人工的な魔物とも言える。将来的にはスラリン無しでの単独起動を目標にしている。
使用した魔核は前に倒したドラゴンゾンビのもので、スラリンがちゃっかり回収していたものだった。
魔核は元古代竜のモノだけあって、直径が1m程の大きさだったのだが運悪く無数にひびが入っており、三分の一程の大きさの物が二つとそれより少し小さな物が一つ、小さな物が何十個かに割れてしまった。
その内の三番目の大きさのものと、小さな物の三分の一程の数を使い完成したのがタニカゼの核である。外殻には魔力を込めた純度の高い鋼鉄、『魔鉄』を大量に使用している。
ちなみに外殻は取替が可能で、いずれはミスリルやオリハルコンなどのファンタジー素材で作ってみようかと思っている。
「スラリンが入っているならなんて呼べばいいの?」
「タニリン、それともスラカゼ?」
「どっち?」
「タニカゼだよ。擬似生命体の核の名前がタニカゼで体もタニカゼの物で、スラリンはタニカゼの体の魔力循環を手伝っているだけなんだ」
との天馬の説明に首をかしげる三人、そのうちに考えることを止めタニカゼとはそういうモノなのだ、と思う事にしたようだ。
「じゃあこの馬車で村まで移動するの?」
「予定より大分早くなりそうだね」
「ラッキーだね」
と馬車に乗り込む三人。俺は御者席に乗り込みタニカゼに指示を与え、馬車を進ませ始めた。
村への道中は何事もなく過ぎてゆく。三人も初めは馬車に搭載したサスペンションによる乗り心地や、馬の動きに連動して動く前輪などの仕掛けに驚きはしゃいでいたが、昼食を摂ったあとははしゃぎ疲れたのか居眠りをしていた。
「お~い、三人とも村が見えてきたぞ~、もう起きとけよ~」
と後ろに声をかけた、その声に反応したのかゴソゴソと動く音が聞こえる。そして村の直前で、
「「「オファイヨ~」」」
と同時にあくびをしながら三人が声を出した。
今の時間は三時前くらいだろう。出発してから三時間とちょっとくらいかかっただろうか、少しゆっくりと来た割にはいい感じの時間だった。俺は村の入口でタニカゼを止めて三人と一緒に降りた。
「依頼主の村長の所に行ってみよう」
と言って水で濡らしたタオルを三人に向けて放る。
「まずはそれで顔を拭いてくれ」
と言って俺はタニカゼと馬車をマジックバッグに収納する。スラリンは俺が馬車から降りるのと同時に外へ出ていてディメンションバッグに潜り込んだ。シロウマルにはダッシュボアに警戒されないように、バッグから外に出ないように言っているので中で寝ているみたいだった。
村に入り最初に出会った村人に村長宅の場所を聞いてから向かった。ここから5分くらいだそうだ。
村人に礼を言って歩いていくと周りの家よりは立派な家が見えた。
「ここみたいだな、この家だけ作りが違うな。村長だからか?」
「そうかも。でもなんか変な村だよね、雰囲気が暗いっていうか不気味っていうか」
「ああ~、なんか分かるそれ!」
「さっきの人も私たちを値踏みしているみたいだったしね」
俺に返事した後に言ったリリーの言葉にネリーとミリーも同意する。
「とにかく村長に話を聞いてみよう」
そう言うと俺は家のドアをノックした。
「はいはい、どなたですかな」
とドアを開けながら出てきたのは小太りの男性だった。
「グンジョー市の冒険者ギルドの者です。依頼を受けて来ました。村長さんでしょうか?」
と四人を代表して俺が答えた。男性は俺と後ろの三人を見て、
「そうでしたか、ご苦労様です。どうぞお入りください。詳しくお話しします」
と俺達を迎え入れてくれた。居間へと通されて椅子を勧められた、座ると首にスカーフを巻いた女性がお茶を持ってきて俺たちの前に置いていく。女性が部屋を出て行ったのを見て男性が口を開いた。
「依頼を引き受けていただきありがとうございます。私はこの村の村長をしておりますバンザと申します。もっとも100人程度しかこの村にはいませんが」
バンザと名乗った村長は依頼の詳細を語っていく。要約すると、
1週間前より、夜になるとダッシュボアが5~6頭の群れで収穫前の作物を食べに現れる。村の男たちで退治しようとしたが無理であったため依頼を出した。
との事だ。被害にあった畑は村から少し歩いた所にあるらしい。俺達は村長に案内してもらうことにした。
家から出ると建物の影や家の中から視線を感じた。最初は冒険者が珍しいからかと思ったが、すぐに悪意だらけの視線だと感じ取った。特に俺の後ろの三人に視線が集まっていた。
念のため探索を使うと、この近くに村の半数近くが隠れていた事が分かった。
三人は視線を感じて落ち着かない様子だ、視線に含まれている悪意までは感じ取れていなかったようだったが。
村から出て10分もしないうちに畑へと着いた。
「ここが被害のあった畑です。まだ収穫前の野菜などが残っているので、今日あたりにも現れるのではと思っています」
「少し調査してみます」
「お願いします。私はまだ仕事があるので家に戻りたいのですが、かまいませんか?」
「はい、大丈夫です。俺達はそのまま見張りに入りますのでこちらで夜を明かして、朝になったら一度お宅に報告に行きます」
「わかりました。よろしくお願いします」
と村の方へと歩いていくバンザを鑑定して結果に納得していた。
「ねえテンマ、一旦村に帰ってから準備をしたほうが良かったんじゃない?」
と聞いてくるリリーに対して俺は畑を一瞥して、
「この依頼はかなり怪しい感じがする。村に戻るよりここにいた方が対処しやすい」
と言い切った。そのことに三人は驚いて声を上げようとしたが、静かにするようにジェスチャーをした。
「どういうことテンマ」
「怪しいって何か根拠でもあるの?」
「変な感じの村だけど、根拠も無しに疑うのは悪いよテンマ」
と三人は声を落として聞いてくる。それに対し俺は先程から気になっていたことを話す。
村で人を三人しか見ていないのに、バンザの家を出た所でいくつもの視線を感じ、その視線からは悪意を感じたこと。
ダッシュボアが1週間前から出ているのに畑の被害が少ないこと。
そして俺は近くにあったボアの足跡を指差し、
「この複数の足跡をよく見てみるとどれも同じ大きさで、尚且つ深さまで同じだ」
「あっ、ほんとだ」
「でもここらへんの足跡が、同じボアが付けたものだったらおかしくはないんじゃない?」
「そうだよ考えすぎだよテンマ」
と三人は言っているが俺は近くにあった二つの足跡を指差し、
「だとしても、ここの二つの足跡が同じ深さなのはおかしすぎる」
と畝の上にある足跡を指さした。三人は不思議そうに足跡を見ていたが、あっ、とリリーが声を出した。
「確かにこれは変だね。普通じゃこうならない」
しかし、未だに分かっていない様子のネリーとミリーには俺が説明する。
「畝というのは作物を植えるために土を盛り上げている。そのため普通の地面より柔らかいんだ、だから他の平地より深く、それこそ足跡が埋まるくらいになるはずなんだ」
なのにこの足跡は他の所と同じ深さしかない。探してみると、同じような足跡がゴロゴロと見つかった。
これにはネリーとミリーも納得し首をひねっていた。
周囲を探索をしてみると、こちらから見えない複数の場所に5人が潜んでいた、見張りなのだろうたまに交代しているみたいだ。
さらに極めつけが先ほどバンザを鑑定した時のステータスだ。
名前…バンザ
年齢…46
種族…人族
称号…盗賊の首領
HP…8000
MP…1100
筋力…B-
防御力…C+
速力…C-
魔力…D-
精神力…D
成長力…D-
運…C
スキル…斧術6・格闘術6・夜目6・剣術5・罠5・投擲術4・異常効果耐性4・隠蔽3・感覚強化2
だった。称号に盗賊の首領とある。完全にアウトだ。しかし鑑定自体を三人に話すわけにはいかなかったので、いくつか感じていた事とこの畑で見つけたもので説得する事にしたのだった。
ちなみにこの畑の足跡について俺がすぐに気付たのは、この村の雰囲気と悪意の視線に警戒していたので、全部を疑って見ていたからだ。
「だったら今から逃げる?」
「それがいいかも」
「ギルドに戻って理由を話そうよ、ねっテンマ?」
と言っているが、
「俺は反対だ」
ときっぱりと反対した。
「なんでテンマ!」
「どうしてテンマ!」
「ここは危ないよテンマ!」
と言う三人に俺は静かに諭すように言った。
「いいか、たとえギルドに戻って訴えたところで証拠がないんだ。この足跡にしたって、消されたりしたらそれで終わりだ。消されなくても足跡だけならいたずらだったと判断されるだろう。そうなると最悪、依頼の失敗を隠そうとした卑怯者達、という汚名を被されかねん」
「じゃあ、どうすればいいの?」
俺の言葉に顔を青くする三人。
「じゃあ、どうすればいいの?」
三人を代表してリリーが訪ねてくる。
「簡単な事さ、返り討ちにすればいいだけの事だ」
と俺は言い切る。その言葉に三人は目を見開いていたが、俺は続けて作戦を話す。
「まずは俺達が何も疑っていないかのように見張りをする…ように見せかける。相手を分散させるためにも二箇所くらいに分けた方がいいだろう。だが実際に見張りに立つのは俺達に擬態させたゴーレムだ。その間俺達は結界を張った馬車の中で待機だ。ゴーレム達には攻撃らしきもの受けたら倒れるように命令しておく。倒れたらおそらくは誰かが確認に行くだろうから、それを合図に相手の無力化に動く」
「動くってどういった感じで?」
「相手は100人くらいいるんだよ?」
「数が全然違うんだよ?」
「それなら大丈夫だ。擬態ゴーレム達には近寄ってきた敵を死なない程度で無力化させるから、三人はそいつらの確保に三人一緒になって一箇所ずつ行ってくれ。それと同時に俺は中型ゴーレムを三人の護衛に一人5体ずつだす。そしてシロウマルに逃げたり隠れている奴らの無力化に向かわせて、俺自身はバンザを捕らえに行く。雑魚どもは逃がしてもいいから自分の身を守ることを優先してくれ。それじゃあ準備を始めるぞ」
と三人に指示を出していった。