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第19章-13 作戦開始

ライルSIDE


「閣下、敵は予想通りの速度で第一陣地に接近しているそうです」


「分かった。我々は予定通り後方に下がるぞ。第一陣地の者たちには、くれぐれも粘り過ぎるなと念を押しておけ!」


 第一陣地に限らず、王都から離れている陣地程その造りは簡素になっているので、それらはそこに籠って戦う場所というよりは、むしろ必要物資の置き場所のような扱いをし、こちらに被害が出る前に破棄すると予定していたが、第一陣地の前方は一番広く使えるスペースがあるし、わざわざ敵が近づくのを静かに待っている必要はないということで、ある罠を仕掛けることになった。ただ、その罠の効果を最大限発揮する為に、第一陣地に籠っている騎士たちの危険度は、当初の予定よりもかなり上がってしまったのだ。


「それと同時に第二と第三陣地には、第一陣地の者たちの受け入れと撤退の準備の確認を怠るなと伝えろ!」


「了解しました!」


 罠が成功するのか、成功したとしてもどの程度の打撃を与えることができるのかは不明ではあるが、幸いなことに二度の戦いで複数回成功させた例が存在するのだ。その成功者に話を聞いたうえで実行するわけだが、罠の性質上ぶっつけ本番と言うのはやはり心配ではある。


「テンマは、失敗したら所詮は副次的な効果を得られなかったと割り切るしかないと言ってはいたが……削れるときに削りたいところだな。まあ、それでこちらに被害が出てしまえば意味は無いか」


 本音を言えば無理してでも成功させたいところだが、それで失敗してしまえば上層部への不信感からくる士気の低下は免れないだろう。


「テンマに動いてもらえれば一番確実だったが、テンマはテンマでリッチに備えて体力を温存しなければならないからな」


 そう呟いていると、


「閣下! 第一陣地の方角に、大きな火柱が確認できました!」


「そうか! でかした! それで、こちらに被害は出ているか?」


「申し訳ありません。今のところ火柱が確認できただけで、第一陣地からの報告はまだありません」


「そ、そうか、そうだな。とりあえず、『火災旋風』を発生させることには成功したのだ。報告を待ちたいところだが、我々は予定通りここを離れるぞ」


 第一陣地から一km程しか離れていないこの場所は、元々あの罠の成否を確認する為に急遽用意されたものだ。もし失敗した時には軍の参謀たちがギリギリまでここに留まり、別の命令を出す為の仮の司令部になる予定の場所で、最初俺もここで罠の結果を確かめると告げた時、その場にいた軍の幹部たちのほとんどに反対されたのだった。まあ、それらを(強引に)言い含めることには成功したのだが、その条件として作戦の成否に関わらず、実行されたらすぐに王都のすぐそばに造られた司令部へ戻ることになっているのだ。


「この場にまだ残る者たちも、危なくなったらものよりも命を大事にするんだぞ! 書類に関しても、いざとなったら置いて逃げろ。何せ相手はゾンビたちだ。情報を残したとて、理解できる頭は無いんだからな!」


 そう命令して、いつでも移動できるように用意させていた馬車に乗り込み、すぐに仮の司令部を離れた。


「この罠でどれくらいの打撃を与えることができるのかは不明だが……例え倒せたのがわずかであったとしても、王国軍の指揮は上がるな」


 俺の言葉に、同乗していた幹部も頷いていた。派手な作戦を成功させたのだ。この勢いに乗って、終始有利にこの戦いを進めたいところだ。例え罠が成功したように見えただけだとしても、倒した数などどうとでもごまかすことができるのだからな。


 などと思いながら、王城の司令部に戻ると……そこに待ち構えていた兄上に捕まり、母上の前に正座させられてしまった。前線へと向かったのが(父上と兄上に許可を取らなかったことも含め)まずかったようだが……これは軍務卿としての役目なのだから、正直この状況は解せなかった。まあ、口には出せなかったが。


                            ライルSIDE 了



アムールSIDE


「む! またゴブリンの群れを発見!」


 私は今、王都を離れて南部の方へと向かっている。別に逃げ出したわけではない。単に、私が一番適任だという役目を、テンマから与えられたからだ。


「この調子だと、二十日もあれば余裕でナナオに着くかも? ……おわっ! ライデン、興奮しすぎない!」


 ライデンは自分からゴブリンの群れに突っ込み、まるでアリを踏み潰すかのようにゴブリンを蹴散らしていった。私も愛用のバルディッシュをゴブリンに向かって振るうけど、ライデンの方が圧倒的にゴブリンを屠っていた。どうやらライデンは、ちょっとばかし機嫌が悪いようだ。


「まあ、ライデンはテンマ以外に乗られるはあまり好きじゃないみたいだから、仕方がないかな」


 これが馬車に繋がれた状態で指示を出されるのなら、私の命令でも大人しく聞くのだけど、乗られるのは別の話のようだ。ただ、テンマと一緒なら嫌がらないので、多分だけど自分を負かした相手以外を単独で背に乗せるのはプライドが許さないのかもしれない。


「走りが少し荒いけどその分速度が出ているし、私に直接何かするわけじゃないから問題はない」


 と、王都を離れてからすぐにそう思うことにした。

 もしもの時の脱出の要でもあるライデンを、何故テンマが私に貸し与えてまで南部に走らせたのかと言うと、実は王国の西部が怪しい動きをし始めたからだ。

 それはレニタン(の部下)が秘密裏に仕入れてきた情報だが、どうやら王国西部のダラーム公爵家が、武器や食料を一か所に集めつつあるということだ。それだけならゾンビの群れに備えているだけだと言えるかもしれないが、重要なのはそんな重要な軍事行動ともとれるものを、王族にさえも秘密裏に始めたということだ。念の為テンマがレニタンの持ってきた情報を急ぎ陛下の所に持って行ったけど、陛下どころか軍務卿であるライル様も全く寝耳に水な話だったらしい。

 その話を聞いた陛下は、すぐにダラーム公爵を王城に召喚しようとしたらしいけど、ライル様は今の状況で獅子身中の虫を王城に招き入れるのは逆に危険だと説得し、アルバートたちの警備隊を西側に配置することにしたそうだ。もっとも、それだけでは到底ダラーム公爵軍を押さえるどころかけん制することも無理なので、まだ余裕のある王族派の貴族と信頼できる中立派の貴族から兵をかき集めるようにしたらしい。しかし、それでも数万を動員できるダラーム公爵軍を相手にするのは無理があるので、他にもサンガ公爵家を除く残りの二つの公爵家にも協力を要請するそうだ。

 しかし、数はそれでどうにかなったとしても、時間が圧倒的に足りないらしい。そこで私の出番となったのだ。今なら、南部からの援軍が王都に向かってきているはずなので、その予定されている進路を西に変え、ダラーム公爵軍をけん制する形で西側から王都に入って来て欲しいとのことだ。その為、王都で地上最速であろうライデンが、私の相棒となったのだ。本人(ライデン)は勝手に決められて不服だろうけど。


「南部軍もナナオを出発しているはずだから、大きく予定していた進路を変えていなければ、数日で合流出来るはず」


 ライデンの速度や南部軍の進行速度のこともあるから正確なことは分からないけど、レニタンの予想では南部は王都への行程の半分近くまでは来ているはずだから、遅くても十日くらいで合流できると言っていた。そこから進路を変えても、ダラーム公爵軍よりは先に王都に到着するのは十分に可能らしい……細かいことは分からないけど、レニタンがそう言うのならそうなのだろう。


「ん! ライデン、いきなり次の群れに向かって走らない!」


 少し考え事をしている間に、ライデンは次の獲物(今度は数匹のオークの群れ)を見つけて走り出した。どうやらゾンビの群れのせいで、東側にいた魔物の群れが西側に移動しているらしい。

 ゴブリンやオークの群れならば、全てライデンに任せていても問題はないけど、いきなり走り出されると落ちる危険があるので、休憩まで気が抜けないかもしれない……などと思っていると、オークの群れはいつの間にかひき肉に変わっていた。泥まみれで、到底食べることの出来そうにないミンチだけど。


                           アムールSIDE 了



「じいちゃん、ライル様の馬車が王都に入って行ったよ」


「戦争が始まったということじゃな。わしらはどう動く?」


「まだ待機でいいと思う。今ここで前線近くまで移動してしまうと、リッチが別方向から王都に襲い掛かってきた時に合わない可能性が高いから」


 俺とじいちゃんはリッチに備えなければならないので、もし仮に前線が崩れて味方が敗走したとしても、助けに向かうことは出来ない。


「ここからでは王国軍とゾンビの群れの戦いがどうなっておるかは分らぬが、余程のことがない限りは王国軍が負けることはあるまい」


 余程のこととは、四つ腕の化け物が群れを成して襲い掛かってくるとか、リッチかリッチクラスの魔物が出てくるとかだろう。


「他に心配なことと言えば……『ドラゴンゾンビ』のような、規格外の化け物ゾンビじゃろうな。流石に古代龍クラスのドラゴンゾンビはククリ村の時で打ち止めじゃろうが、それ以下の地龍や走龍がゾンビになっておる可能性は十分考えられるからのう。まあ、ゾンビにな(くさ)れば龍種の強みである頑強さは失われるはずじゃから、倒すことは十分可能じゃろうがな」


 王国の騎士団なら、例え地龍クラスの魔物がゾンビになったとしても対応できるだろうが、問題はその間他のゾンビに対する警戒が薄れてしまう可能性があることだ。


「あまりにも酷い事態になるようなら、わしかテンマが出なければならぬかもしれぬが、騎士団とて魔法使いの数は揃えておるじゃろう」


「俺たちは王城の近くまでゾンビが攻めてこない限り、動かない方がいいかもね」


「そうじゃな。下手に動くと邪魔になるかもしれぬしのう」


 ライル様には、俺とじいちゃんはリッチに専念すると言っており了承も得ているので、俺たちの判断で動くと逆に邪魔になる可能性が高く、動くにしても軍部からの正式な要請があってからの方がいいだろう。


「ゾンビの群れとの衝突に合わせるように、改革派の動きもきな臭くなってきておるし、どうなるかが全く読めんというのも怖いのう……テンマ、王都内で暴動が起こった時、本当に抑えることができると思うか?」


「確実ではないだろうけど、起こる時は改革派が暗躍するはずだから、それさえ事前に察知できれば大規模なものにはならないとは思うけど……王都は広いからね。最悪、暴動に参加した一般人への武力による制圧は行われ、それなりの人死には出るだろうね」


 大を生かす為に小を犠牲にする……嫌な考えではあるが、大に属している俺としては家族を害されない為にも、小を犠牲にすると言う考えに口は出せない。せいぜい、自分の知り合いが小にならないように注意し、なりそうならば説得するくらいしか手立てはないだろう。


「まあ、それも含めて『戦争』じゃからな……この国難の時に、同じ国民であるはずの一部の馬鹿どもが騒動を起こそうとしているのには虫唾が走るがな」


 じいちゃんも一般人に犠牲が出るのは仕方がないと思っているようだが、その犠牲が改革派のせいで出るかもしれないというのは納得が出来ないらしい。


「ライトのハードリンクスたちのように、鼻の利く魔物を眷属にしているテイマーたちが中心になって王都中を見回っているから、ある程度の抑止にはなると思うけどね。勝った後のことを考えたら、一般人の犠牲は少ないに越したことは無いからね」


 警備隊の主な仕事の一つとなっている街中の見回りは、警備隊に組み込まれたテイマーが中心になって行っている。

 これは前世の警察犬からヒントを得てアーネスト様に提案したものだったが、今のところけん制に成功しているのかは分からないが、改革派が行動を起こしたという話は聞こえてこない。

 しかし、散歩の効果があるのかテイマーたちの眷属のストレス解消には役立っているし、人では見落としてしまうようなところまで調べられるので、見回りの仕事はテイマーと眷属に適任だと言えるだろう。


「それと、ライトが調べた逃走に適したルートを、秘密裏に流してくれたよ。今のところの話らしいけど、レニさんの知っている情報と合わせたら、いざという時に役に立つと思う」


 テイマーたちの中には王都が危機的状況に陥った時の為に、見回りと並行して逃走経路を調べている者もいるそうだ。王都内の情報を漏らすのは褒められたことではないだろうが、いざという時に逃走するオオトリ家の中には、王族関係者が居る可能性が高いということで、ライトは自分の得た情報を流したとのことだ。まあ、それを盾にすれば罰せられる可能性は低くなるということと、オオトリ家に恩を売っておけば、逃走の際には同行しやすくなるという理由もあるらしい。


「ライトがそう動くとなると、いざという時はテイマーズギルドはオオトリ家を頼ってくると思っておいた方がよいな。わしとしても、信用出来る戦力は大歓迎じゃ」


 じいちゃんは俺よりもアグリと仲がいいので、そう言った理由からもテイマーズギルドがオオトリ家の味方になるのは喜ばしいことらしい。俺としても、ククリ村の皆を連れて逃げる際にテイマーズギルドは色々と頼りになるし信用できるので。味方に付いてくれるのはありがたい。


「じいちゃん、今のうちに食事と持ち物の確認をしておこう。出来れば、少しでも寝て体力の温存もしておきたい」


「そうじゃな。持ち物の確認とは言っても、愛用の武器はすでに何度もやっておるし、ゴーレムと薬の類は確認するには時間が足らぬから、種類と数の確認くらいしか出来ぬな……まあ、そのくらいなら食べながらでも十分じゃろう」


 まだ余裕のある後方の陣地とは言え、流石に堂々と食事をしたり仮眠をとったりするのは他の視線が痛いので、一度オオトリ家に用意されたテントに戻り、持ち物の確認をしながら食事をとることになった。

 いつ出番が来るのか分からないので、消化に良いように硬めに仕上げたおじやを少量だけにしたので物足りないが、食べ過ぎて動けなくなるよりはいい。


「じいちゃん、おかわりは我慢してね」

「うむ……まあ、仕方がないのう。なら、少し横になるかな」


 空になったお椀を俺に差し出していたじいちゃんは、渋々ながらお椀を引っ込めて床に横になった。俺もじいちゃんに倣って横になっているといつの間にか眠っていたようで、誰かがテントに入ってきた気配に気が付いて目を開けると、テントの入り口には様子を見に来たらしいクリスさんが呆れた様子で横になっている俺とじいちゃんを見下ろしていた。



プリメラSIDE


「プリメラ()、ケリーさんと工房の従業員の方たちが訪ねてきました」


「敷地に入れてかまいません。その後は従業員の方たちには庭で待ってもらい、ケリーさんをここに連れて来てください」


 いつもとは違い、()()ではなく()で呼ぶジャンヌに、ケリーさんをここに連れて来てもらうことにした。

 ケリーさんたちの避難は予定通りのことではあるけど、形だけでも訪問理由を聞くと同時に、今後の行動の打ち合わせをする必要があるからだ。


「プリメラ様、この度は私と私の部下たちを受け入れてもらい、感謝の念に堪えません」


「かねてよりの約束なのでかまいません。その代わり、有事の際にはオオトリ家の指示に従ってもらいますが、よろしいですか?」


「それはもとより承知の上です。実戦経験に乏しい者ばかりではありますが、荒事には慣れておりますし、何よりも武器の扱いに関しては自信のある者揃いです。遠慮なく、お使いください……でいいのかな?」


「はい、オオトリ家としてはケリーさんたちの協力はありがたいですし、オオトリ家と行動を共にしてくれるということが確認できればいいだけですので、後はいつも通りに接してくれてかまいません。まあ、ある程度時と場合を考えてくれればありがたいですが」


 要は、いざという時にケリーさんたちはオオトリ家の傘下に入って動くということの確認なので、いざという時が来るまではいつも通りでもいいということだ。


「とりあえず、そのいざという時が来るまでは、テンマが集めてほったらかしにしているという武器の手入れでもさせてもらうとするかね。流石に炉は持ち運べなかったけれど、それ以外の道具は粗方持ってきたし、ある程度の手入れなら十分出来るはずだよ。それと、庭の片隅にテントを張らしてもらうけど、かまわないよね?」


「ええ、屋敷の中はもしかするとやんごとないお方がお使いになるかもしれませんので、申し訳ありませんがなるべく空けておくようにしております。その代わり、お風呂やトイレは自由に使ってかまいません。庭は地面に簡単な区切りをしているので、その区切りの中なら好きなところを選んでください。ただ、ジュウベエたちの小屋の近くは少々臭いますので、おすすめは出来ません」


 最終的には屋敷の中に避難してもらうことになるかもしれないけれど、王族の方々が避難してきた時に使うこともあるし、他にもシルフィルド伯爵家のようなオオトリ家と友好関係にある貴族の方々が来る可能性もある。それに、作戦会議などを行う部屋や病室なども必要になるので、出来る限り屋敷の部屋は空けておくようにテンマさんたちと話し合って決めたのだ。


「プリメラ様、マークさんがククリ村の方々とお見えになりました」


「おっと! もたもたしていると、いい場所が無くなっちまいそうだね。それじゃあ私はうちの連中とテントの場所を決めて、その後で作業に入らせてもらうよ。お風呂の準備の方、よろしく頼むね」


「あっ! テントの場所が決まったら、一度確認させてください」 


「了解」


 ケリーさんはそう言うと、足早に部屋から出て行った。そしてそのすぐ後に、マークさんがアウラと一緒にやってきた。


「プリメラさん、今日はククリ村関係者の半分程を連れてきたよ。残りは俺を含めて商売をしている連中だから、すぐに集まるのは無理だった」


 料理屋や商店をしている人たちは、材料や商品が無くなり次第店を休業して合流するつもりらしいが、マークさんのように宿屋を経営している人は宿泊客の関係上、ギリギリまで店に残るそうだ。一応、宿泊客には状況次第で宿の営業を休止するかもしれないと伝えているそうだが、最悪の場合は宿泊客をそのままにして宿を放棄するかもしれないとのことらしい。


「料理の材料や商品などについて、今後の入荷はどうなっているか聞いていますか?」


「軽く聞いた感じだと、今後の入荷は厳しいみたいだね。外からは以前のような量が入ってこないし、入って来ても軍部が真っ先に手を付けるから、今は個人的な付き合いのある商人から仕入れているらしい。ただ、こんな状況だからいつもの倍以上の値段になっているせいで、仕入れもままならないそうだ。今まともに商売できているのは、大手かその傘下にあるところだけらしいよ」


「そうですか……では、お店に残っている材料や商品を、オオトリ家で買い取ると言うのはどうでしょうか? 今後王国の状況がどうなるのか分からない以上、出来る限り私たちは一か所に集まっていた方がいいと思います」


 食料は今日からでも食事に使えるし、逃走中に必ず必要になるものでもある。商品ならば、逃走後の生活資金に変えることができるかもしれない。それに何よりも、王国の硬貨が金属的な価値以外に無くなる可能性がある以上。出来る限りそれ以外の資産を手に入れる必要があるのだ。もっともオオトリ家の場合は、テンマさんとおじい様がいればどこに行っても生活に困ることは無いとは思うけれど……マジックバッグにはまだかなりの余裕があるので、集めておいても全くの無駄となることは無いだろう。


「それなら、後でまだ来ていない奴らに話をしてみよう。買い取ってもらう場合は、直接ここに持ってくるということでいいかな?」


「かまいません。持ってきてすぐに買い取れるようにしておきます。買い取り額は各々のお店で出している値段でかまいませんので、事前にまとめておいてくれるとありがたいです。それと、出る前に今来ている皆さんがテントを張る場所を決めて、誰がどこにして何人で利用しているのかを教えてください」


「ああ、分かった。俺はいないと思うから、他の奴に報告するように伝えておく」


 

「プリメラ()()、お茶でも入れましょうか?」


「ええ、お願い。お菓子も出して、ジャンヌも一緒に休憩しましょう。もうすぐアウラも戻ってくると思うから、三人分ね」


 マークさんがいなくなると、ジャンヌはいつもの口調に戻ってお茶を入れてくれた。ここ最近……と言うか、妊娠が発覚してからのお茶と言えば主にハーブティーなので、ジャンヌは当然のように三人分のハーブティーを用意し始めた。


「テンマさんにおじい様、それにアムールもいないから寂しくなると思っていたのに、すぐにいつも以上の賑わいになったわね」


「そうですね。それでも、当たり前のようにいる人たちがいないというのは、やっぱり寂しいです」


 オオトリ家が完全にいつも通りの賑わいを取り戻すのがいつになるのか分からないけれど、一日でも早く戻るといいなとジャンヌに言うと、


「そうですけど、その時にはもう一人分のにぎやかさが増えているかもしれませんね」


 と返ってきたのだった。


                           プリメラSIDE 了

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― 新着の感想 ―
[気になる点] 改革派のダラーム公爵家を筆頭とする貴族達の動向等は気になりますね。  ダラーム公爵を筆頭とした改革派中枢の能力が"思っていた(国の大臣職に就いている者や他の政務官等が国を支えてきていた…
[一言] >善美の群れに備えているだけ 「ぜんび」の群れとは一体・・・(スットボケ
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