第19章-7 火災旋風
「予想以上におるのう……数えるのが嫌になるくらいじゃな」
「少なくとも、数万とか言う数じゃないよね。十万以上は軽くいると思う」
多すぎて正確な数は分からないが、少なくとも三万四万という数ではない。数万の帝国軍が進軍中という報告から、多くても五~六万程度だと思っていたのだが、その倍以上だと少し難しいかもしれない……全滅させるのが。
「まあ、敵の数が予想以上だとしても、予定以上に働けば問題は無かろう」
「だね。何せ、向こうはまだこっちに気が付いていないみたいだし、予想以上の数でも、やることは変わらないし……ねっ!」
そう言いながら俺は、『ファイヤーボール』を連射した。数の多さには驚いたが、多かろうとやることは変わらず、ただ群れに向かって魔法を乱射するだけだ。これだけ多いと、特に狙いを定める必要はなく、密集状態で行軍しているおかげで、一発の魔法で数体、多ければ十数体にダメージを与えることが出来ている。
「ちと延焼速度が遅いのう……こんなことなら、油でも持ってくるんじゃったな」
「あることにはあるけど、流石にあの群れに使える程は持っていないからね」
そんなことを言いながらも、俺とじいちゃんは魔法を放ち続けていた。開始十分程ではあるが、すでに千近く削っているだろう。
「流石にこうも数が多いと、上空から魔法を放つだけでは効率が悪いのう……このままじゃと、方々に逃げられるじゃろうな」
「それじゃあ、もっと接近して強めの魔法を使おうか? それと、俺は群れのなるべく後ろを狙うよ」
「なら、わしはこのまま前の方じゃな」
群れの前と後に分かれ、より強力な魔法でゾンビを倒すことにした俺とじいちゃんは、上空から一気に接近して群れの殲滅にかかった。
「やっぱり、『ファイヤーボール』よりも『ファイヤーストーム』の方が効率がいいな」
一発の『ファイヤーボール』で平均四~五体を燃やしているのに対し、『ファイヤーストーム』は最低でも二十体、密集している場所だとその倍以上倒している。ただ、時間が経つにつれてゾンビがばらけて逃げ出そうとしているので、ククリ村の時のように、ゾンビに命令を出している存在がいるようだ。まあ、流石にドラゴンゾンビのような存在感を持つものは『探索』には引っ掛かっていないが……ナミタロウのように気配を消すことの出来るものもいるかもしれないし、たまに普通のゾンビとは違う動きをしている強そうな個体もいた。しかもそう言った個体は、『鑑定』を使ってもそのステータスは文字化けのようになっていて正体が分からず、ゾンビだからと言う以上に不気味な存在ではある。まあ、その他のゾンビと同じく、魔法で簡単に倒せているので脅威と言う程ではないが……時おり武器を投げつけて落とそうとしてくるので、ゾンビよりは知能が高いみたいだった。
「このまま殲滅できそう……って、やっぱりいたか!」
攻撃が単純作業になりつつあった頃、燃えているゾンビをかき分けて、例の四つ腕の化け物が飛び上がって来た。
現在、地上から十m程の高さから攻撃を仕掛けており、この位置ならゾンビの攻撃(たまに来る投擲を除く)は届かないのだが、四つ腕の化け物はこれくらいの高さなら余裕で届く距離だったようだ。
とはいえ、元々四つ腕の化け物には帝国が絡んでいると予想していたので、この群れにもいる可能性は高いと思っていたのだ。その為、攻撃開始時より『探索』を使って、ゾンビとは思えない速度で動く存在には気を配っていたのだ。なので、飛び掛かってきた化け物の攻撃は数m上空に移動してかわし、落ちていく背中に『ファイヤーブリット』を打ち込んで倒した。
「あっ! じいちゃんの方は……大丈夫みたいだな」
俺の方は『探索』で不意打ちの心配はないが、じいちゃんは大丈夫だろうかと今更ながらに気が付いて振り向いたのだが……じいちゃんは俺が振り向くとほぼ同時に空中で攻撃をかわし、愛用の杖で化け物を叩き落したのだった。しかも、落ちた化け物に魔法で止めを刺す余裕もあった。
「いや、手を振らないでいいから、ちゃんと前を見てよ……」
じいちゃんは俺が見ているのに気が付き、手を振る余裕を見せていたが……ゾンビの投げた石が顔の横を通り、かなり焦った表情をしていた。
そう言った油断からヒヤリとすることもあるが、化け物が参戦して来ようとも俺とじいちゃんの優位性は失われることは無かった。せいぜい、新たに化け物が飛び上がってくることと、化け物からの投擲に気を付ければいいだけだ。
「けど、化け物が出てきたせいで、ゾンビたちの殲滅速度が落ちてきたな……ここは一発、デカいのを放つか……じいちゃん!」
「どうした、テンマ?」
そのデカい魔法を使う為に、一度じいちゃんのところまで下がり、作戦の提案をした。すると、
「汚物は焼毒じゃー--!」
じいちゃんが楽しそうに火魔法を乱発しながら飛び回り始めた。ついでに、マジックバッグに入れてあった木材や油もばら撒いているので、すぐに多くのゾンビが火に飲まれることになった。
「じいちゃん、そろそろやるよ! 戻ってきて!」
「おお! 頼んだぞい!」
俺の合図でじいちゃんはすぐに後ろに下がった。じいちゃんが下がったのを確認して、俺は風魔法の『トルネード』を燃え盛るゾンビの群れの中心に発生させた。すると、
「『火災旋風』は、相変わらずの威力じゃな」
ククリ村での戦いにおいてゾンビの群れに大打撃を与えた魔法が、再びゾンビたちに猛威を振るい始めた。
「昔とは違って、今はこんなことも出来るようになったしね」
「おお! 動かすことも出来るのか!」
昔と違って余裕がある状況だし技術も魔力も上がっているので、完全にとは言えないが『火災旋風』を動かすことも出来る。その結果、
「ゾンビの動きでは、逃げ出すことも出来ずに飲み込まれておるのう」
ゾンビの逃げ足よりも速く『火災旋風』が近づき、続々とゾンビを吸い込み、上空へと巻き上げて行った。
「じいちゃん、落ちてくるものに気を付けてね」
「うむ、分かっておる。それよりもテンマ、吸い込まれても生きておるゾンビや、範囲から外れたゾンビはどうするのじゃ?」
確認はできていないが、『火災旋風』に巻き込まれたゾンビの中には、もしかすると奇跡的な確率で死ななかった? 個体がいる可能性もある。それに、群れの規模が大きいので、『火災旋風』の範囲から外れたゾンビがまだ多数いるのだ。
「範囲から外れた奴は、じいちゃんが遠距離から減らしていって。止めを刺そうとか思わなくていいから、『火災旋風』に気を付けながら足止めをする感じで。足止めされたやつと吸い込まれても生き残っている奴は、ゴーレムに処理させればいいんじゃないかな?」
ただ、ゴーレムのような土や石の塊が吸い込まれて上空に巻き上げられたら危険なので、『火災旋風』に巻き込まれることのない距離で活動させなければいけないが、吸い込まれていくゾンビのおかげで大まかだが安全な距離が分かるし、『火災旋風』の進路方向とは違う位置にいるゾンビを始末しろという命令にすれば大丈夫だろう。
「うむ、それが一番効率がいいじゃろうな……間違っても、わしの方に進ませるんじゃないぞ」
そう言うとじいちゃんは、『火災旋風』の範囲から運よくはずれ、逃げ出そうとしていたゾンビへと向かって飛び、背後から魔法を放っていた。そうして半殺しにされたゾンビは、さらに後から来るゴーレムたちに処理されていった。
「もう少し速度を上げることができたらいいけど、今のところこれが限界みたいだな。じいちゃんも文句を言っているみたいだし、速度に関しては今後の課題だな」
理想としては馬が駆けるような速度が出て欲しいところだが、現状は人の速足程度の速度だ。一応、もう少し速度を上げることは可能なのだが……今以上の速度を出そうとすると、コントロールが乱れてしまう。実際、試しにどこまで速度を上げることができるか試してみようとしたところ、『火災旋風』がじいちゃんの方へと向かいそうになり、かなり焦った。まあ、じいちゃんはもっと焦っただろうけど……
「それでも、一~二万は吸い込んだかな? ゾンビの足が遅くて助かった……と言いところだけど、逃げ延びているのは四つ腕の化け物か、飲み込まれたゾンビよりも強い個体が多いということだよな」
足が遅くても強い個体はいるだろうが、基本的に動きが早い個体は普通のゾンビより強い傾向があるようなので、倒せているのは弱い個体ばかりという可能性が高いだろう。もっとも、元々の目的が群れの数を減らすことだし、強いと言っても所詮はゾンビなので、余程の規格外がいなければ一対一なら警備隊の隊員でも対処できるだろう。
そんなことを考えながら『火災旋風』を前進させていると、最初の頃と比べて若干威力が落ちてきているように見えた。そして、吸い込んだゾンビが三万を超え、四万に届くかどうかというところで急速に威力が落ちていき、ついには自然消滅してしまった。
「どうしたテンマ! 何かあったのか!」
「いや、何かのはずみで自然消滅しただけだから、特に問題があったというわけじゃないよ」
『火災旋風』は大きくて威力の高い魔法ではあるが、かなりの部分で自然現象を利用しているので、地形や気圧の変化がきっかけで消滅してしまうこともあるのだろう。まあ、この魔法を使ったのはククリ村の時を含めて数度しかないので、本当にそうなのかは分からないが、消滅してしまったのならもう一度使えば問題は無い。
「そう言うわけでじいちゃん、もう一度『火災旋風』を使うから、手伝いよろしくね」
「わし、テンマ程魔力があるわけではないし、さっきまで飛び回りながら魔法を使っておったんじゃがのう……まあ、次の一回で群れの三分の一は潰せそうじゃし、もう少し頑張るとするかのう」
「と、言うわけで、行くぞい!」と言って、じいちゃんは逃げるゾンビの群れに突進して行った。
「追加でゴーレムを出して掃除させて……俺も行くか!」
追加のゴーレムを出したので、じいちゃんに少し遅れて俺も群れに火魔法を放ちに向かった。木材や油は少なかったがその分二人で念入りに燃やしたので、火の勢いは一回目よりも激しくなった。
「じいちゃん、そろそろやるよ」
「うむ……今回の方が危険そうじゃから、念の為もう少し下がっておくかのう」
じいちゃんが十分に下がったのを確認して、もう一度『トルネード』の魔法を放つと、一回目よりも大きな『火災旋風』がゾンビの群れを襲い、すさまじい勢いで吸い込み始めた。
「この調子なら、すぐに終わりそうだな。じいちゃん、処理の方よろしく。吸い込まれないように気を付けてね」
「任された! テンマの方も、先程のように操作を誤るんじゃないぞ」
やっぱり言われたか……と思いながら、『火災旋風』をさらに前進させようと前を向くと、
「じいちゃん、防御!」
「ん? ぬおっ!」
急に『火災旋風』が乱れ、その次の瞬間に爆散した。暴走した結果と言うよりは、何者かの魔法で妨害されて弾けたという感じだ。この爆風で、『火災旋風』の近くにいたゾンビの数千程が粉々になり、俺とじいちゃんもかなり吹き飛ばされた。ただ、乱れに気が付いた俺はすぐに魔法で防御したし、じいちゃんもギリギリで防御が間に合ったので、二人共爆風による衝撃はかなり軽減することができ、即座に行動不能となるようなダメージは受けていない。
「じいちゃん、大丈夫!」
爆風の衝撃で体のあちらこちらに傷みが走り、視界がぶれて吐き気もするが、動けないと言う程ではない。しかし、じいちゃんの方はそうではなかったようだ。
今のところはふらつきながらも宙に浮いてはいるが、俺よりも目が回っているようでいつ墜落してもおかしくなさそうに見える。さらには聴覚にも異常をきたしているようで、先程から大きな声で呼びかけていると言うのに反応がない。
「じいちゃん!」
「ぬ? ……おお、テンマか。すまんが、何を言っておるのか分からぬのじゃ」
俺はすぐにじいちゃんの腕を掴み、この場からいったん離れることにした。その最中にもう一度声をかけると、じいちゃんは耳がおかしいとジェスチャーを交えながら今の状態を伝えてきた。それ以外では体中に痛みを感じるそうで、回復魔法を使って対処することにした。これで、吐き気やめまい以外はすぐによくなるはずだ。
「テンマ、念の為もう少し下がった方がよいかもしれぬ」
「だね。なんだか、ドラゴンゾンビが姿を現した時に状況が似ているし……とてつもなく嫌な予感がする」
今ならあの時のドラゴンゾンビが相手でもなんとかなりそうな気がするが、そんなデカくて目立つ奴が群れに居たら真っ先に気が付くだろうし、サンガ公爵たちも何が何でも報告を寄越すだろう。そもそも、そんな奴が何体もいてたまるかと言うところだ。
「もしかすると、ドラゴンゾンビの方がマシだと思える化け物かもしれんのう……」
などと、じいちゃんがとてつもなく不吉なフラグを立てたところで、俺たちは避難を終えた。今いる位置は、最初にいたところから五kmは離れている。かなり念を入れて距離を取ったが、『火災旋風』が爆散した時の煙が最初にいたところをも飲み込み、まだまだ晴れる様子を見せていない。もし本当に煙の中にドラゴンゾンビ級の化け物がいた場合、この距離であっても危険かもしれない。
「とにかく、煙の中だけじゃなく周囲も警戒しながら、今のうちに回復薬を使っておこう。大して回復できないかもしれないけど、しないよりはましだろうし」
「そうじゃな。出来れば地上に降りて一息つきたいところじゃが……それは怖くてできんのう」
確かに俺もそうしたいが、この距離で地上に降りると地形のせいで煙の中心地が見えなくなるので、相手側に遠距離からの攻撃方法や高速移動ができた場合、致命的な隙を与えることなるかもしれないのだ。
その為、俺とじいちゃんは空中で待機し、警戒したまま回復薬を使用した。本来ならば、少しでも腹に何か入れた方がいいのかもしれないが、今は回復薬を飲み込むのですらきつい。
「大分煙が薄くなってきたようじゃが……『火災旋風』が弾けたのは何かの事故だったと言うことは無いかのう?」
「大分時間が経つのに何の動きも無いから、俺もそうであってほしいと思うけど……それは無いだろうね。何で静かなのかは分からないけど、何かがいることは確かだよ」
じいちゃんの言う通りだったらどんなにいいことかと思いながらも、それは絶対に無いと確信している自分がいた。
「じいちゃん、何がいるのか分からないけど、互いに距離を取っておこう。このままだったら、下手をすると二人まとめてやられるかもしれない」
「そうじゃな。姿を見せない理由は分らぬが、このまま何事もなく終わるということは無かろう」
相手が単体だった場合は交戦し、複数だった場合は逃げると決め、互いにある程度の距離を取ろうとしたその時、辺り一帯に強い風が吹き、残りの煙が一気に流されていった。
煙の中から姿を現したのは……
「人?」
俺たちとそう大きさの変わらない、全身をマントで覆った人型の何かだった。
ハウスト辺境伯SIDE
「こちらの被害はどうなっておる!」
「砦の外で待機していた五隊の内、前方に配置されていた三隊が交戦し敗走! 退避出来たのは後方にいた二隊と、交戦した三隊の半数ほどであります!」
「追撃してきた四つ腕の化け物数体が砦に取り付きましたが、現在は撃退しております! その際、一体に侵入を許し、数名が犠牲になりました!」
最悪だ! これまで均衡を保っていたのが、一気に押されてしまった! しかも、
「それで、帝国の軍勢がゾンビの群れだったというのは本当か?」
「間違いありません。交戦した部隊の生き残りの証言もありますし、何より四つ腕の化け物と一緒になって攻めてきた中にゾンビがいたそうで、多数の目撃証言があります。いくら日が暮れたとはいえ、砦付近は明かりを絶やさないようにしているので、証言した者たちが同時に見間違うことは考えられません」
確かにそうなのだろうが……それを言うのなら、警戒していたはずの部隊が、揃って数百m先まで進行してきた敵を見落とすということも考えられない。
「しかし、敵軍は今のところ本腰を入れて砦を落とす気はないようで、砦を攻略するよりも、王都の攻略に軍の大多数を割いているようであります」
だとすると、今すぐ隊を整えて打って出る必要があるかもしれない。サンガ公爵軍とサモンス侯爵軍と連携出来れば、帝国軍の数を大きく減らし、進軍を停滞、もしくは中止させることも可能かもしれないが……こちらは何人が生き残れるかというところだ。流石に敵軍に囲まれながら戦い、敵に打ち勝ちなおかつ軍としての体制を保てるなど、夢を見るにもほどがあるだろう。
「辺境伯様、たった今サンガ公爵軍とサモンス侯爵軍から報告がきました!」
「寄越せっ! ……くそっ! 向こうも同じような状況か!」
つまり、助けには来れないというわけだ。あちらとしても、こちらと同様に助けが欲しいくらいだろう。
こうなれば、籠城をしつつ機を窺うしかない。三軍が足並みをそろえたとしても壊滅の可能性が高いのに、辺境伯軍だけでは無駄死にに行くようなものだ。
不幸中の幸いがあるとすれば、公爵軍と侯爵軍用の砦が完成、強化していることと、三つの砦には十分な食料を運び込んでいること、そしてオオトリ家から秘密裏に貰ったゴーレムの核があることだ。
いくらテンマのゴーレムの性能が高いとはいえ、五千ではどれだけいるか分からない敵軍の撃破は難しいだろう。その代わり、休憩を必要としないゴーレムは今の状況では心強い限りだ……が、もしゴーレムの存在を明かすタイミングを間違えば、進軍よりも先にこちらを潰しにかかるかもしれないし、辺境伯軍の中に帝国の内通者がいた場合も同じような結果になるだろう。
「(ギリギリまで伏せておく方がいいか……)それで、王都やシェルハイムへの連絡はどうなっている?」
「そちらの方はすでに済んでおります。まずはシェルハイムの方に知らせを送り、そこから王都へと運ばせる手筈となっております」
こう言った身動きが取れない時の為に、鳥型の魔物を使役しているテイマーを数名雇い入れたことが功を奏しているようだ。こちらで雇ったテイマーはサンガ公爵とサモンス侯爵にも預けたから、砦から出ずとも三軍の間で連絡が取れるのは大きい。それに、本来はこの砦の責任者だったライラを、俺と入れ替わりでシェルハイムに送ったのも良かった。もしこの場に留まらせていれば、シェルハイムにおいて軍の全権を安心して任せることの出来る者が不在となるところだった。
「ふむ……急ぎシェルハイムに追加の伝令を届けさせろ。内容は、『シェルハイムに周辺の住民や兵を出来る限り集め、籠城して帝国軍をやり過ごせ。集める際に住民には必要最低限の生活物資のみ持ち込みを許可し、兵にはそれぞれの拠点にある物資を出来る限り持ってこさせるように』……だ。それと、サンガ公爵とサモンス侯爵に、『辺境伯軍は籠城を選択した』と伝えろ」
細々とした連絡は後回しでいいだろう。あの二人なら、これだけでこちらの考えを理解してくれるだろうからな。それよりも先に、籠城の為の編成をしなければ……こうなると、奇襲のせいで部隊が減ったのが後々影響してくるかもしれない。
「今一度兵たちに軍の規律を心に刻むように伝えろ。ただでさえ厳しい状況となっているのに、つまらんことで軍を疲弊させるわけにはいかんからな」
これまで経験にないほど厳しい状況ではあるが、少しでも長く粘って状況の変化を待つしかないだろう。なるべくいい方に変化することを、神に祈らねばならんな。
ハウスト辺境伯SIDE 了