第19章-4 謝罪
「何故こやつがここにいるんじゃろうなぁ……用があるのなら、クリスにでも伝言を頼めばよかったのではないか?」
「ふんっ! わしはお主の家に来たんじゃない。テンマの家に来たのだ! お主にとやかく言われる筋合いはないわっ! それにクリスは仕事が忙しいわい!」
「じゃから、わしの家でもあるじゃろうが!」
「すでにこの家はオオトリ家の当主、つまりテンマの屋敷として登録されておる! それはテンマに屋敷を譲渡したお主が一番よく理解しておるじゃろうが! つまり、テンマに招き入れられた以上、お主がとやかく言うことではないのだ!」
ライル様からの依頼をこなした数日後の昼、アーネスト様が何故かアルバートたち三馬鹿を引き連れて、我が家へとやってきたのだ。
いきなりの訪問だったが大事な話があるとのことなので四人を招き入れ、応接間で話を聞こうと席に着いたところ、アーネスト様が来ていることに気が付いたじいちゃんがやって来て、いつものように口喧嘩が始まったのだった……本気で嫌い合っているわけじゃないのに、もう少し大人しく出来ないものかと頭が痛くなったが……
「おじい様、あまり興奮しますとお体に悪いですよ。アーネスト様、ご挨拶が遅れまして申し訳ありません」
プリメラが間に入ると、二人共すぐに静かになった。
「それで、大事な話とは何ですか?」
そう聞いてみたものの、このタイミングだと化け物がらみの話で間違いはないと思う。ただ、そうなるとアルバートたちがアーネスト様と一緒に来た理由が分からない。
「うむ、大体の察しはついておると思うが、本日の要件は化け物に関することじゃ。実は北側で見つかった二日後に王都の周囲を調査しなおしたところ、西側と南側でも化け物と思われれる痕跡が見つかった」
「西と南の担当者は何をしていたんですか?」
「西はシグルドで、南はクリスじゃな。しかし、二人を責めることは出来ぬ。二人共、痕跡自体は報告しておったからのう」
西で見つかった痕跡は数人が野営したと思われるもので、発見時はゴミが散乱して火の後始末がお粗末だったくらいにしか見えなかった為、「質の悪い奴らだったんだな」程度だったそうだ。その時はゴミを回収し、燃えカスを土に埋めてからその場を後にしたそうだ。
南の方の痕跡は野生の牛が食い荒らされていたというものだが、クリスさんは周辺に生息する狼の仕業だと判断し、牛の死骸を埋葬したとのことだ。
「しかし、北側で化け物が見つかったということで、怪しいと思われる報告があった場所は再調査することになったのじゃが、その再調査でシグルドの見つけた野営の跡地の近くで化け物になりかけの死体が埋められており、クリスの見つけた牛の死骸は狼ではなく、化け物が食い荒らしたものだというのが分かったのじゃ」
野営跡地の近くに埋まっていた化け物の死体が見つかったのは偶然に近いものだったそうで、再調査の為に派遣された騎士がその周辺を調べていたところ、枯草で覆われた地面が妙に柔らかいことに気が付き、掘り起こしたところ死体が埋められていたというもので、牛の死骸の方は再調査の話し合いの段階で「野生の狼が獲物を食い残すものなのか?」と言う疑問から始まり、「少なくとも、その獲物の近くに狼がいなかったことはおかしいのではないか?」と言うことになってもう一度調べることが決まったそうだ。その結果、歯型が狼のものよりも人に近いものであり、手を使って肉を引き千切ったような爪痕があったので、化け物の仕業と決まったらしい。
「牛に関しては、何故残された死骸が狼に食い荒らされていなかったのかが気になるがのう」
「それは簡単な話だと思いますよ。恐らくですが、狼は化け物を怖がったんですよ。化け物が牛を食い荒らす際に、牛の死骸には化け物の匂いがかなりこびり付いたはずですから、狼はその牛の死骸は化け物のものだと判断し、横取りして報復でもされたらたまったものでは無いと思ったんでしょう」
例えばの話だが、ヒグマは自分の獲物に対する執着心が強いらしく、自分の獲物が持って行かれた際には執拗に奪い返そうとするという。
「なるほどのう……狼はその嗅覚で牛の死骸の持ち主が化け物だと理解し、その周辺に近づかないようにしたというわけか」
「それで、その西と南の化け物の話とアルバートたちに、どういった関係があるのですか?」
逸れた話を戻す為に、アルバートたちが同行している理由を尋ねると、
「今回の調査で、化け物の行動範囲に王都が含まれていることが分かった。しかし、帝国と戦争中である為、王都の騎士団を王都周辺の警戒に回すことは出来ぬ。その為、王都に滞在している貴族の中から有志を募り、臨時の警備隊を設立することになったのだ。この三人は、現時点で参加を表明した貴族の中で、爵位が上位に来る家の代表だな。つまり、警備隊の幹部候補となる」
アーネスト様は、いかにも王都に滞在している全ての貴族に声をかけたような言い方をしているが、選ばれた三人を見る限り王族派に属している貴族、もしくは友好的な貴族にしか声をかけていないような気がする。
「そして、その警備隊を率いることになったのがオードリー家……つまり、わしだな」
軍務に関することなので、ライル様か軍部の幹部が警備隊の代表になりそうなものだが、軍部の幹部は帝国との戦争や通常の業務で手一杯などの理由で適任者がいないらしい。そこで役職に就いていない王族が就くことに決まり、アーネスト様が選ばれたということだった。ちなみに、他の候補としてシーザー様とティーダがいたらしいが、シーザー様は正式な役職は無いものの王様の補佐をしなければならないし、ティーダは成人できる年齢ではあるものの、経験が圧倒的に不足しているということで弾かれたそうだ。
「三人が幹部候補ということは分かりましたが、家に来た理由は何ですか?」
「うむ、現時点で警備隊は五千人近く募集することが出来たのだが、王都周辺となるとまだ数が足りぬ。そこで、冒険者や傭兵からも募集しようと考えているのだが、その代表をテンマに務めてもらいたくてのう」
今日の訪問理由は、俺に募集した冒険者たちの代表、つまり幹部になれということらしい。
「残念ながら、辞退させていただきます。俺は集団を率いるのに向いていません」
「やはりそうなるか……テンマは集団よりも、単独で力を発揮するタイプじゃしな。マーリンも同じような感じじゃし……誰か適任はおらんのう?」
半ば俺が適任でないとの理由から断ると分かっていて、駄目元で話を持ってきたようだ。しかし、俺にそんなことを相談されても俺の交友関係は狭いので、パッと思いつくのは二人しかいなかった。
「幹部としてやれそうなのは、アグリとジンくらいしか思いつきませんね」
俺の知り合いの中でだと、アグリは色々なことに対してそつなくこなしそうで、ジャンは集団を率いることが出来るかは不明だが、王都でもかなり有名だし個人としての武も冒険者全体の中でも上位に来るはずだから名前を挙げた。
「うむ、確かにその両名なら代表となれそうだが、どちらかと言うとジン・ジードの方が適任だろうな。アグリ・モナカートも有能と聞くが、知名度と言う意味ではジン・ジードの方が勝っておるからな」
アグリも知る人ぞ知る冒険者というところだが、ダンジョンを攻略し武闘大会でも上位常連のジンとでは、知名度は段違いだろう。
「それなら、テンマからの推薦と言う形で、ジン・ジードに依頼を出してみるかのう。それでは、わしはこれでお暇するが、テンマが良ければ三人はもう少し残るといい」
俺としては断る理由が無いので了解すると、アーネスト様は四人で乗ってきた馬車で王城に戻って行った。見送る途中であの三人はどうやって変えるのかと聞いたところ、後で代わりの馬車を寄越すとのことだった。
「そう言うわけらしいから、歩いて帰ることにならなくてよかったな、アルバート」
「いや、そこは義兄の為に、義弟が馬車を用意するところではないのか?」
「そんな厚かましい義兄はいらないな」
「その言い方だと、すでにお兄様はいらない存在ということになってしまいますよ」
「実の妹にいらない判定をされたね、アルバート!」
「まあ、アルバートが厚かましいのはいつものことだからな!」
こんな感じで久しぶりに我が家にアルバートたちの笑い声(&怒声)が響いた。そして、すぐにアムールやアウラも加わって騒ぎ声が大きくなり、いつの間にか人数分の昼食が用意されてアルバートたちの滞在時間が延びることが決定するのだった。この調子だと、夕食までいることになるかもしれない。
「あっと! 忘れるところだったけど、テンマに頼みがあるんだった」
食後のお茶を皆で楽しんでいると、突然カインがそんなことを言いだした。
「ああ、確かにそうだったな。テンマ、私たちに訓練をつけてくれないか? 警備隊の仕事が始まると、これまで以上に荒事に遭遇する可能性が上がるからな。それに、あの化け物と対峙した時に、少しでも生き残る可能性を上げたいからな。テンマとの訓練の中で何かしらのヒントを得ることが出来れば、隊全体の生存率も上がりそうだしな」
「それはかまわないが……そうなると、俺はあの化け物と同じような動きをした方がいいか?」
「出来るならそれでお願いしたい」
「まあ、そんなことをしなくても、テンマの場合は普通にしているだけで化け物じみているけどな!」
「なるほど……なぁ……」
と、言うわけで、アルバートの……と言うか、リオンのリクエスト通り、俺なりの戦い方であの化け物じみた動きをしてみることにした。その結果、
「行け、リオン! 責任を取って玉砕してこい!」
「骨が残っていたらなるべく拾って埋葬するから、遠慮せずに潰されてきて!」
「すまん! まじで、すまんかった!」
開始早々に三人はあっさりと降参してしまった。
ちなみに、俺は開始直前に化け物の四つ腕を表現する為に、『ガーディアン・ギガント』を展開して三人との訓練に臨もうとしたのだった。
「全く、化け物がお望みと言うから真剣に演技しようとしたのに、まさかお気に召さないとは……もしかして、もっと化け物感を出した方がよかったのか?」
「「「いや、違うからな!」」」
そんなわけで、気を取り直していつも通りの俺で三人の訓練に付き合うことになるのだった。
訓練は空が暗くなるまで続き、そろそろ夕食の時間というところで終わることになった。すると、
「四人共すごく汗臭いですから、それ以上妊婦に近づかないでくださいね」
「何でエリザがここに居るんだ!?」
エリザからプリメラへの接近禁止令が出されたのだった。まあ、今自分が汗臭いのは自覚しているし、汗と砂や土で汚れた三人がプリメラに近づいてしまい、万が一にもお腹の子に何かあったら大変なので、このままプリメラに近づかずに風呂場へ直行なのは当然のことだ。
カインとリオンも、素直にエリザのいうことを聞いて風呂場に足を向けたが、アルバートは接近禁止の理由よりもエリザがいることに驚いて不用意にプリメラ(の横にいるエリザ)に近づこうとしてしまった。すると、
「ちょえい!」
「うごっ!」
二人の後ろに隠れていたアムールに棒で突かれ(と言うレベルではない一撃だったが)て、腹を押さえながら膝をついた。
「プリメラはもうちょっと下がって……そこでいい。リオン! さっさと汚れのアルバートを風呂に連れて行く!」
「はいよ……そら、行くぞアルバート」
そして、アムールに命令されたリオンによって、風呂場まで連行されていった。
「それで、何か参考になるようなことはあったのか?」
「う~ん……いい訓練にはなったけど、『これだ!』って感じのものは無かったかな?」
「そうだな。実際に化け物とやり合ってみないと分からんけど、手加減した状態のテンマの半分以下の強さだとしても、一人だと無理な気がするな。この三人でかかって、何とかなりそうというレベルか?」
「化け物の強さにも差があるみたいだけど、確かにそれくらいが妥当だろうね。ただ、あくまでも『長年の付き合いがある僕たちの連携で』だけどね」
まあ、俺とちょっと訓練したくらいで簡単にヒントを見つけることが出来る程度の化け物だったら、ここまで王都が慌ただしくならないだろう。それこそ、この三人より強い騎士はこの王都に数多くいるので、アルバートたちが警備隊として警戒に当たるようなことは無かったかもしれない。
「邪魔するぞ」
風呂場でくつろいでいると、じいちゃんが酒盛りセットをもってやってきた。多分、じいちゃんを除いた男性陣が風呂場に移動したので、居辛くなってやってきたのだろう。
「アルバートは……ってなんじゃ、落ち込んではおらんのか。てっきりエリザたちに汚物扱いされて、落ち込んでおると思っていたのじゃがな」
じいちゃんは「何じゃ、つまらん」と言いながら風呂に入ると、すぐにカインがそばに寄ってお酌を始めた。
「いや、つまらないなどと言われましても……」
と、アルバート(洗髪中)は抗議……と言う程ではないが、じいちゃんの発言に返事をしたが……当のじいちゃんは酒の方に意識を向けていたので、アルバートは無視される形となった。
「マーリン様、警備隊が化け物と遭遇した時に、どうやったら生き残る可能性を上げることが出来ると思いますか?」
カインがすぐにじいちゃんのそばに寄ったのは、何か警備隊に対してのアドバイスが欲しかったからのようだ。
「そうじゃな……出会ってしまったら死ぬ可能性が高いから、全員バラバラの方向に逃げるというのもいいかもしれんのう」
「マーリン様、それはちょっとカッコ悪いんで、何か他の方法はないですかね?」
じいちゃんの提案に、カインではなくリオンが口を挿んだが、
「何を言う。自分が勝てぬ相手に対して背を向けるのは、決して恥ずかしいことではないぞ。これが王国から給料をもらっている騎士や兵士なら問題かもしれぬが、お主たちのように経験の浅い者たちを集めた警備隊なら、別に逃げることは恥ではない。むしろ、無事に逃げた者が一人でも騎士団に報告すれば、全体的な被害を押さえることに繋がるじゃろう」
「確かに……」
などと、逆に丸め込まれていた。
「じいちゃん、もうちょっと真面目に答えたら? 確かに騎士や兵士が逃げ出すのは問題だろうけど、アルバートたちのような貴族が逃げ出すのも、それはそれで問題だよ」
「ん? ……あっ!」
俺の言葉に、リオンはじいちゃんの言っていることはあまり役に立たないと気が付いたようだ。確かにじいちゃんの言う通り、敵わない相手から逃げ出すことは仕方がないかもしれないが、それをすると色々なところから白い目で見られるだろう。場合によっては、廃嫡される者も出てくるかもしれない。
「逃げることも選択肢の一つでしょうが、後々のことを考えると、最低限の仕事はしておきたいんですよ」
カインの言う通り、結果的に逃げたのだとしても、戦って勝てないから逃げたのと、戦う前から逃げるのでは印象が大きく違う。
「じいちゃん、遊んでないで真面目に考えてあげたら?」
「仕方がないのう。もう少しリオンの反応を見たかったんじゃがな。すぐに思いつくものとしては、いくつものパターンを考えておいて、状況に合わせてどう動くかを事前に決めておくことじゃな。例えばじゃが、化け物と遭遇した場合は、まず距離を空けて弓や魔法で攻撃する。接近戦になった時は、決して一人で対応せずに、常に複数で囲むようにする……とかじゃな。学園や騎士団でも同じようなことを訓練しておるじゃろうから分かりやすいじゃろう。ただ、決められたパターン以外の行動をしなければならなくなった時は、あっけなく崩れる可能性もあるがな」
じいちゃんの考えも、大体俺が考えていたのと同じようなものだった。まあ、三人以外の隊員がどれくらいの強さと経験があるのか分からないので、無難な答えしか出来ないというところだ。
「パターンですか……そうなると、『戦う』『逃げる』『時間を稼ぐ』とか言う感じで分けて考えた方がいいかもしれませんね」
「そうじゃな。それと、分かりやすく簡潔にしないと駄目じゃろうな。そうでなくとも、絶対にいくつかのパターンがごっちゃになる者もいるじゃろうからな」
「なるほど、特に戦闘の経験がない奴ほどなりそうっすね!」
現状で一番間違えそうな奴が、さも自分は違うと言わんばかりにじいちゃんの提案に賛成していた。
「リオンは、自分がその筆頭だと理解してほしいところだな」
「まあ、リオンがそれくらい記憶力がよかったら、学生時代に学年トップの成績を取れたかもしれないしね」
リオンはほぼ体力的な試験だけで学年上位の成績を取っていたそうなので、記憶力が良ければトップ争いに加わっていたとしてもおかしくはないだろう。
アルバートとカインがリオンの学生時代のことを話している間に、当のリオンは二人の話(悪口含む)に気が付くことなく、思いついたパターンをじいちゃんに聞かせていた。まあ、そのうちの半分……いや、八割九割はじいちゃんに却下されていたが、却下された中にはもう少し改良したら使えそうだという案がいくつかあったそうだ。なお、アルバートとカインはリオンほど案を出さなかったので、風呂から上がった後でじいちゃんに注意されていた。
アルバートSIDE
「まさか、リオンよりも指揮官として劣ると言われるとは思わなかったな……しかも、作戦の立案についてで」
「まあ、確かに言われてみればそうなんだけどね……」
テンマの屋敷に相談に言ったあの日の風呂上り、私とカインはマーリン様に叱られてしまった。マーリン様曰く、「使える使えないは別として、案を出さない者といくつも出す者の、どちらが指揮官として優れておるか分かっておるのか?」とのことだった。続けて、「確かに指揮官がすべての作戦を考える必要はないかもしれぬが、他人の出した作戦を実行するだけなら、その者は別に指揮官でなくともよかろう。リオンはそこまで考えておるわけではないじゃろうが、率先して動くことも指揮官には必要なことじゃ」とも言われた。
「それに、私たちは相談した立場だと言うのに、風呂場でいつものようにくつろぐだけというのは、普通に考えれば失礼過ぎることだったな」
「そうだね。いつもと同じ状況だったらマーリン様は何も言わなかっただろうけど、僕たちが相談しに言った理由は生存率上げる為……つまり、生き残る為だからね。怒られて当然だよ」
久々にテンマの屋敷に集まったせいで、いつもと同じようにはしゃいでしまった。そのせいで、本来の目的から大きく逸れて……と言うよりも、情けないことに完全と言っていいくらいに忘れていた。あの時の振る舞いを見ていたのがテンマとマーリン様だけだったからこそ大事にならなかったが、そうでなかった場合、警備隊の幹部を下ろされることになっていたかもしれない。
「そんな理由で幹部を下ろされたりしたら、家にも迷惑をかけることになるからな……私は戦場の父上に今回の件を知らせたぞ。恐らく数日中に怒りの手紙と共に、マーリン様への謝罪の品が送られてくるはずだ」
「僕もだよ。これを秘密にしておいて後でバレたら、どんな目に合うか……まあ、それくらいで済めばいいけど、父さんどころか最悪マーリン様の信頼を失うことにもなりかねないからね」
カインも私と同じ考えだったようだ。正直、父上から怒られるだけなら耐えられるし挽回する自身もある。だが、信頼は戻りはしないだろう。もしかするとすでに失いかけているかもしれないが、完全に失う前に誠意を見せる必要はある……打算的な考えかもしれないが、テンマやマーリン様の信頼を失うのは、ものすごく怖い。
「そこでだ。今日の打ち合わせは夕方前には終わる予定だから、その後でマーリン様のところに謝罪に行かないか?」
「そうだね。僕もそれがいいと思うよ。恐らく父さんもサモンス侯爵家として何かしらの品を送るだろうけど、僕たちの謝罪と家からの謝罪は分けた方がいいよ。同時にやったら、どちらか……いや、僕たちの謝罪はついでだと思われるかもしれないからね」
「それでは、終わり次第向かうとしよう」
こうして私とカインは、マーリン様に改めて謝罪をする為にオオトリ家を訪ねたが……状況を理解していないリオンまでついてきた上に、私とカインの謝罪に合わせて何故か一緒に(意味の分からないまま)頭を下げたので、マーリン様とテンマは笑いをこらえていた。そのせいで、なんとも締まらない謝罪となったのだった。なお、マーリン様とテンマは全く怒ってはいなかったが、プリメラの方はかなり腹を立てていたようで、謝罪の後でプリメラから叱られてしまった。しかも、その時にプリメラが先にマーリン様とテンマに謝罪していたと知り、なんとも恥ずかしい気持ちになったのだった。
アルバートSIDE 了
少し前に、12巻の書籍作業中にふと気になったことがあったので最初の方を読み返したところ……『ギルスト帝国』ではなく、『ギルスト共和国』と書いていたことに、今更ながら気が付きました。
書籍の方でも間違って書いており修正が効かない状態でしたので、今後は長く使っている『ギルスト帝国』を正式な名前とします。大変申し訳ありませんでした。