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第18章-15 オオトリ家参戦

前の話の中で「三馬鹿とサモンス侯爵が来た」という感じで書いていたのですが、この話を書いているうちにカインがいる必要がないことに気が付き、侯爵邸でお留守番と言う形に変更しました。

それに伴い、前の話も「三馬鹿とサモンス侯爵」ではなく、「アルバートとリオンとサモンス侯爵」に変更しました。

「今、辺境伯領はどうなっているんだ?」


「詳しいことは分かっていないが、手紙によると攻め込んで来たのが一週間程前だから、すでに戦闘が始まっていると思う」


 帝国の数はおよそ三万で、辺境伯家で急ぎ動員したのは一万五千とのことだ。前に俺が基礎を作りその後辺境伯家が強化した国境線の砦を中心に戦うので、城攻めに三倍の兵力が必要という説を信じるのならば大丈夫そうだが、魔法が存在するこの世界において三倍と言う数値はあてにならないし、何よりも帝国はまだまだ兵を増やすだろうとのことだった。


「それで、リオンは俺に参加してほしいと頼みに来たのか?」


 あまり行きたくはないが、このままだと王都にまで戦火が広がる可能性がある以上、参加する必要があるだろう。そう思っていると、


「いや、テンマにはゴーレムを出してほしいんだ」


 とのことだった。


「オオトリ殿、今回の戦争は『王国対帝国』だけではなく、『王国対反乱分子』も同時に起こる可能性があるのです。そうなった場合、敵は西()からも攻めてきます」


 サモンス侯爵は、反乱を起こす者が現れるとすれば、それは王国の西側に領地を持つダラーム公爵だろうと確信しているようだ。まあ、ダラーム公爵は改革派のトップであるし、これまでの動きを知っているものからすれば、賭けが成立しないくらいの大本命で間違いないだろう。


「まあ、もし動いたとしても、王妃様のご実家である北の公爵家と、北西の端にある公爵家が対応に当たると思われますが、戦争の混乱とダラーム公爵の動きによっては間に合わない可能性もあります。その場合に備えて、オオトリ殿には反乱分子へのけん制として王都に残っていて欲しいのですよ。クーデターを成功させるには王族を根絶やしにするのが一番ですが、オオトリ殿ならば王城に攻め入れられる前に陛下たちの救出と、王都からの離脱が可能ですからな」


 そう言ってサモンス侯爵は笑っていた。辺境伯領へは、サンガ公爵家とサモンス侯爵家を中心とした王族派で軍を編成して向かうそうだ。その為、一時的に王都とその周辺の王族派が減るので、いざという時にそれを補える戦力として俺が必要ということらしい。とはいえ、別に王城に滞在して警護に当たるというわけではなく、王都から離れなければいいとのことだった。これは依頼と言うわけではないが俺の行動を制限するものなので、相応の謝礼が出るらしい。


「王都の防衛の為に辺境伯家が戦っているということなら、俺も出来る限り協力させてもらう。少し待っていてくれ」


 そう言ってリオンを待たせて、俺は自分の部屋と物置に使っている部屋に向かった。取りに行ったのは、


「リオン、これにゴーレムの核を五千入れてある。持って行ってくれ」


「そんなにいいのか! だ、だけど、辺境伯家にはそれに見合う対価は出せないんだ……」


 一瞬大きな声で驚いたリオンだったが、すぐに代金が用意できないと声がしぼんでいった。


「いや、これに関しては無料で貸し出す。それと、破損しても文句は言わない。ただし、戦争が終わった時に残ったゴーレムは、たとえ壊れた核であったとしても返却してくれ」


 知り合いが巻き込まれている以上、ゴーレムの破損など大した問題ではない。むしろ、防衛の為に全て使い倒してもかまわないくらいだ。ただ、貸出という名目がある以上は、例え一体分の核の欠片であったとしても返却したという事実が必要だ。そうしないと、改革派の連中が口を出して来そうだし。


「それで、サンガ公爵家とサモンス侯爵家は、いつどのように動きますか?」


「まずは王都にいる王族派の当主やその代理が集まり簡単な打ち合わせをし、その間に各領地に伝令を飛ばして兵を集めておき、ハウスト辺境伯領に向かいながら各領地の兵と合流、その軍を途中で二つに分け、後は砦の左右から押し返す形になると思われます」


 上手くいけば敵の背後から襲いかかることができ、さらには砦の兵たちとで挟み撃ちも可能ということか……あくまで上手くいけばの話だけど。


「そもそも、敵はどうやって辺境伯領に侵入したのですか?」


「詳しくはまだ分かっていませんが、恐らくは山越えをしたのだと思われます。それも、兵を何度も使い捨てのような形で」


 辺境伯領と帝国の間にある山は相当険しく、まともな考えを持つ者ならば登ろうとは思わないはずだ。ただ、この世界には魔法が存在するので、『浮遊』や『飛行』の魔法が使える兵が大量にいるのならば奇襲には有効的な手段かもしれないが、そもそもそれだけの数の魔法が使える兵がいるのならば、山越えなどせずに直接砦を攻めた方が攻略の可能性が高い、それに何より、あの山には『ワイバーン』を始めとする空を飛ぶ凶暴な魔物が数多く存在している。


「道を作りつつ餌をばら撒き、魔物の腹が膨れて大人しくなった隙に山越えをしたということですか?」


「その可能性が高いでしょうな。もしそれが本当ならば、外道、非人道的な行いというところですが、戦争として見れば非常に有効的な作戦と言えるでしょう。反吐が出ますが」


 サモンス侯爵の言う通り、それが本当ならば敵とは言え実行させられた兵士には同情するし、実行させた上層部には怒りを覚える。

 しかし、今後手に回って攻められているのは王国側なので、それらの感情はすぐに捨てないといけない。


「それと、リオン。これは家に備蓄していた小麦粉だ。パン用のやつで五百kgはあるはずだから、ついでに持って行ってくれ。まあ、無いよりはましという程度の量だろうけどな」


 五百kgでいくつのパンが出来るのかは分からないが、少なくとも一万個は軽く超えるだろう。しかし、それでも数万からなる軍にとっては微々たるものなので、気持ちばかりの贈り物と言ったところだ。まあ、これに触発されて他の貴族からも食料の提供があればいいかなぁ……と言った考えも、多少はあるけれども。


「五百でも助かる! じゃあ、俺はすぐにでも砦に向か……」

「待て、リオン!」


 走り出そうとしたリオンを、アルバートが即座に体を張って止めた。


「何するんだアルバート!」

「何するんだ……ではないわ! この脳筋! お前は王都に残って、私やカインと一緒に後方支援だ! テンマからの物資は、王都のハウスト辺境伯家から出陣する者の中で一番信用のおける者に預けておけ!」


 アルバートの言葉の意味をいまいち理解していないようなリオンだったが、サモンス侯爵がアルバートの言う通りにしておけと言うとあっさりと頷いた。ただまあ、やはり意味は理解していないようだったけれども。


「それと、アルバート。これはサンガ公爵家とサモンス侯爵家の分のゴーレムの核だ。それぞれ三千は入っているはずだから、いざという時は遠慮なく使ってくれ。条件はハウスト辺境伯家と同じでいい」


 ハウスト辺境伯家に貸し出すゴーレム核を集めると同時に、他の二家の分も用意しておいたのだ。

 とりあえず目の前にいたアルバートに説明すると、アルバートだけでなく、リオンに王都に残る意味を教えようとしていたサモンス侯爵も驚いた顔で固まっていた。


「ああ、でも一つだけアルバートに注意することがあったな」

「それは何だ?」


 神妙な顔つきで尋ねてくるアルバートに俺は、


「ネコババするなよ。これまでの行動からすると、お前が一番やりそうだからな」


 そう真面目な顔で言うと、アルバートの否定の声とサモンス侯爵やリオンたちの笑い声が屋敷に響いた。ちなみに、その声を聴いてやってきたプリメラとアムールたちに説明すると、プリメラとアムールは声を揃えて「「確かに!」」と納得し、ジャンヌとアウラは小さく頷いて肯定していた。なお、その次にネコババをしそうな人物を試しに聞いてみると、真っ先にサモンス侯爵から「それはうちのカインでしょうな」と名前が挙がったのだった。


「テンマ殿、三家に渡すゴーレムですが、私に預けてもらえませんか?」


 一通り話が終わったところで、サモンス侯爵がそんなことを言いだした。確かに王都から出陣する関係者の中で一番地位が高く、道中の総大将となるのは間違いなくサモンス侯爵なので俺はそれでもいいと思うのだが、それだとサンガ公爵家とハウスト辺境伯家を蔑ろにしてしまわないかと言う疑問があった。実際に、リオンは気にしていないのか気が付いていないのかは分からないが気配に変化はなかった。だが、アルバートは少し腹を立てている感じがした。


「正直に言うと、今の状況ではこの場にいるリオンとアルバート以外、その家人……サモンス家の者も含めてですが、私は完全に信用が出来ないのです。これは当主として失格ではあるのですが、いくら帝国が辺境伯家の想像を超える動きをしたからとは言え、これほどまで完璧と言っていいくらいに裏をかけるものなのかという疑問があるのです」


「つまりサモンス侯爵様は、ハウスト辺境伯家の中、もしくは王族派の中に裏切者がいると考えているのですか?」


「有り体に言えばそうです。もしアルバートやリオンがゴーレムの核を預けた者の近くにその裏切者がいれば、その強力な武器は私たちに襲い掛かることとなってしまいます」


 ゴーレムの核のことは三家とも最重要機密扱いにするのだろうが、物が人から人の手に渡れば情報も漏れる可能性がわずかだがある。そこを狙われる可能性もあるし、何より重要なものを持っていると裏切者に悟られれば、殺してでも奪おうとするかもしれない。

 その点サモンス侯爵ならば、重要人物として襲われる可能性がある反面、そうならないように周囲を厳重に警戒し護衛が何人も付くので、サンガ公爵家やハウスト辺境伯家の家人よりは安全かもしれない。まあ、その裏をかいて家人に預けるという手もあるが……サンガ公爵やハウスト辺境伯と合流した後のことを考えると、サモンス侯爵が持っていた方が色々と都合がいいのは確かだ。


「それに、テンマ殿の支援物資の食料を渡す際に目録でも作って皆の前で報告し、その後でトップ会合だなどと言えば三人だけになる機会も作ることが出来るので、その時にこっそりと渡せば切り札の正体をギリギリまで隠すことが出来るかもしれません」


 と言うサモンス侯爵の言葉に、アルバートは渋々と言った感じで納得しかけていたが、一つだけその作戦には大きな落とし穴があった。それを指摘したのは、


「サモンス侯爵様、失礼を承知でお聞きしますが、サモンス侯爵様がその()()()ではないという証拠はございますか?」


 プリメラだった。かなり……と言うか、サモンス侯爵を貶したとみなされて無礼討ちされてもおかしくない発言だった。まあ、実際にはオオトリ家とサンガ公爵家が謝罪と賠償金を払って手打ちと言ったところになるだろうが、一歩間違えれば争いになるくらいの危険な状況だ。


「侯爵様、プリメラが申し訳ありません」

「本当に申し訳ありませんでした。後ほど、サンガ公爵家からも正式な謝罪を行います」


 俺とアルバートは、すぐにサモンス侯爵に頭を下げて謝罪した。その間プリメラは、ずっと頭を下げたままだった。


「いやいや、オオトリ家の夫人としてもサンガ公爵家の血族としても、その心配はごもっともとしか言いようがありません。何せ私が本当に裏切者だった場合、一万を超えるゴーレムを使ってサンガ公爵軍とハウスト辺境伯軍に奇襲をかけて滅ぼすことも可能な状況となるわけですから。むしろ、そこはテンマ殿かアルバートが指摘しなければならないところでしょう。まあ、テンマ殿はその可能性に気が付いていて、なおかつ報復方法くらいまでは考えていそうでしたけど……アルバートは見事に言いくるめられていましたからな」


 こんな状況でいたずらしないでくれとは思うが、対応しなかった俺とアルバートが全面的に悪いだろう。なお、リオンは完全に論外判定だと思われる。


「まあ、私が裏切者ではないというのは信じてもらう以外に方法はありませんが、秘密裏に核を配るのならば有効な手段の一つであることは間違いありません。それを踏まえた上で、どうしますか?」


「サモンス侯爵様にお預けいたします」


 独断で即座に預けることにし、核の入った袋を三つサモンス侯爵に預けた。アルバートは少し迷っていたようだが、そもそもゴーレムの核は俺の所有物なので何も言わずに頷いていた。


「大切に保管させていただきます……ところで、私が本当に裏切者で公爵軍と辺境伯軍に襲い掛かっていたら、どんな報復をするつもりでした?」


 と、サモンス侯爵は少し怯えた感じで聞いてきたので、


「まずは王族の安全を確保して、その後でカインたちを確保してからサモンス侯爵領に飛んでいき、大きな街から順に『テンペスト』などで領民ごと破壊します。その後は後回しにしていた目に付く中小規模の村や街も破壊して、最後に侯爵軍を壊滅させに行きます」


 考えていた万が一の時の計画を話すと、サモンス侯爵だけでなくアルバートにリオン、プリメラやジャンヌにアウラまで顔色を悪くしていた。ちなみに、じいちゃんは「それくらいは当然じゃろうな」と言い、アムールは「まあ、仕方がないよね」と納得していた。


「……うん、まあ、絶対裏切らないから、もし失敗してしまったとしても領民だけは見逃してくださいね。本当に……」


 実際に裏切られたとしたら、まずは王様たちに相談してどうしたらいいのかを聞いてから動くと思うから、「目に付く者は侯爵軍や侯爵領の領民関係なく皆殺しだ!」……みたいなことにはならないはずだ。多分……


「リオン、アルバート、この後は王城で陛下に挨拶と軍の編成の許可をいただくことになる。それから各屋敷に戻り軍の編成の手続きと他の当主たちとの打ち合わせ。それがすんだら陛下に出陣の挨拶だ。他にも色々とやることはあるから、慣れないうちは大変だろうが頑張りなさい」


 武器と食料の手配に、王都に残る者と戦場に向かう者の名簿の作成。他にも領地への連絡などやることは多く、こう言った仕事に慣れているサモンス侯爵ですら大変とのことなので、経験が浅いアルバートとリオンは寝る暇もないだろうとのことだった。


 これから地獄を見ることになりそうな二人は肩を落としながら力なく俺にゴーレムの核の礼を言うと、サモンス侯爵に背中を押されながら屋敷を去って行った。二人が最初よりも老けて見えたのは、決して俺の見間違いではないだろう。


「帰って来て早々に大変なことになったな」


「ええ、でも旅行中に巻き込まれなかっただけよかったのではないですか?」


 確かにプリメラの言う通りだった。もしリンドウに滞在している時に帝国が攻め込んできていたら、そのまま旅行を中断して王都に引き返すか万が一に備えてサンガ公爵邸に滞在延期。最悪の場合はハウスト辺境伯領まで足を延ばすこともありえたかもしれない。


「それはそうだけど、いくら旧知の間柄のサモンス侯爵だからって、あの発言は危なかったぞ」


「それは分かっていたのですけど……あまりにも兄様が不甲斐なかったのでつい……兄様の不手際のせいでお母様たちやお義姉様が巻き込まれるのは見過ごせませんから」


 サンガ公爵はいいのかと聞くと、「兄様の責任はお父様の責任でもありますので」と返ってきた。サンガ公爵も巻き込まれたら可哀そうだと思ったが、アルバートを公爵家の跡取りとしたのはサンガ公爵であり、その跡取りのミスはサンガ公爵の教育に間違いがあったという判断だそうだ。


「まあ、サンガ公爵家に関しては今のところゴーレムを貸し出す以外に手伝うことは無いし、何かあればアルバートが来るだろうからそれまでは静観と言う感じでいいか。問題は本当に改革派が攻め込んで来た時だな。辺境伯家に食料の支援をしたという話はすぐに広まるだろうから、王様たちを救出しなくても改革派はオオトリ家を敵だと認識して攻撃してくるだろうし、念の為屋敷の警備をもう一段階上げておくか……」


 庭の空いているスペースに、追加でゴーレムを配置しようかと本気で考えていると、じいちゃんが「それでは逆にゴーレムが動きにくくなるじゃろう」と言うのでゴーレムの配置は諦めて、その分の核をそれぞれで持っておくことにした。


「それじゃあ、本当に改革派が裏切るとしたらいつ襲われてもおかしくないわけだから、外に出る時は周囲の警戒を怠らないこと。何かあればゴーレムを出すこと。出来るなら逃げること。以上!」


 本当に裏切るのか、いつ襲って来るのかが不明なのに、屋敷に引きこもってばかりというわけにはいかないので、いつもと同じ注意事項ではあるが改めて徹底することにしてこの話は終わることにした。


「そろそろ夕食だけど、色々あったせいでまだ食べなくてもいいって感じだな」


「私もです。それに、気が緩んだらなんだか疲れが出てきました」


 いつもなら夕食の時間だが、皆に聞いたところ腹がすいているのはじいちゃんとアムールだけらしいので、二人の食事は俺が準備することにして、疲れているというプリメラとジャンヌとアウラは先に風呂に入らせることにした。

 俺が食事を準備すると言うとジャンヌとアウラが遠慮しようとしたが、あの二人の場合はある程度旨くて腹が膨れるのなら特に文句は言わないので、準備は簡単だからと言ってプリメラに二人を風呂に連れて行くように頼んだ。


「それで、無理やりジャンヌたちを風呂に追いやった理由は何かのう?」


 流石にわざとらしかったのか、じいちゃんもアムールも俺が二人に話があって追い出したと確信していた。


「正直、あの二人がいてもいいことなんだけど、なるべく秘密にした方がいい話をしようかと思ってね」


「うむ、秘密の話は人が少ない時にするのが鉄則! それに、ジャンヌはともかく、アウラはどこかで秘密を漏らす! ……可能性が高い」


 アムールは少し考えて言葉を足したが、ほとんどフォローになっていなかった。まあ、俺も追い出したのにはそう言う考えがあってのことだが、それ以外にも今からする話の内容の重圧に耐えきれないかもしれないとも考えてからだ。


「もし改革派が裏切った場合、王都でクーデターを起こす可能性が高い。そうなると、王都のあちこちで戦闘が起きるはずだ。その混乱の中で本命の王城を攻めるだろうけど、城内の勢力によっては王様たちの全員を助けることが出来ないかもしれない。最悪の場合は誰か……もしくは全員を見捨てるということもありえると思う」


 ギリギリまで助けるつもりだが、すでに手遅れだったり同時に助けることが出来なかったりということも考えられる。そんな状況で無理をすれば、すでに保護した人や自分の命を危険に晒してしまうかもしれない。助けに行って共倒れになったら、それこそすべてが無駄になる。


「それと、街中で戦闘が起こった場合、うちの屋敷に逃げ込もうとしてくる住民が絶対に出るはずだ。それがククリ村の人たちやケリーたちと言った、我が家と直接付き合いのある人なら保護するけど、それ以外は駄目だ。敵と見分けがつかない以上、危険は冒せない。それに、うちが普通の家より広いと言っても、防衛のことも考えたらせいぜい二~三百人、詰め込んでもいいとこ五百人が限界だと思う。申し訳ないけど、助けることのできる人数が限られている以上、人の命に優先順位をつけさせてもらう」

 

 乱戦になればなるほど全ての命を助けることなど不可能だし、余裕のない状況で見知らぬ他人を助けた為に知り合いを死なせてしまうという状況だけは避けたい。


「可能性の低い話じゃが、最悪の状況は想定しておかねばならぬか……アレックスたちを助けておいて、他は助けぬとなったら批判が集まるじゃろうが、死んでは元も子もないからのう。それと、その万が一の時の対応については、一度アレックスたちにも話しておいた方がいいじゃろうな。簡単な打ち合わせをするだけでも、万が一の時の生存率が上がるからのう」


「その時はじいちゃんからも説明をお願いね。それでアムールにも頼みがあるんだけど、その万が一の時の逃げ場所を確保しておきたい」


「分かったレニタンかラニタン経由で南部に知らせておく。多分、そろそろ南部に帰る前に一度顔を見せに来ると思うから」


 南部まで逃げることが出来たら、反乱軍に反撃することも可能だろう。まあ、南部に主導権を握られることになるだろうけど、それはハナさんや王様たちの問題であって俺には関係がない。皆の安全が確保出来たら、俺は安心して闘うことが出来る。


「でも、仮に五百人保護したとして、その状態でどうやって南部まで逃げるつもりじゃ?」


「ディメンションバッグをフル活用する。ディメンションバッグの中に入っているものは必要なものだけマジックバッグに詰め込み、残りは破棄することでスペースを作って、そこにギチギチになるだろうけど出来る限り入ってもらう。もし全員が入らない場合は、俺たちと一緒に走って逃げてもらう。まあ、ディメンションバッグは数があるから、五百人くらいなら大丈夫だと思うけどね」


 空きが出来たらその分だけ助ければいいのかもしれないが、やはり誰が敵なのか分からないので無理だろう。


「それでは、話はこの辺りで切り上げて、そろそろ夕食でも作ってもらおうかのう?」

「うむ、じゃないとジャンヌたちが怪しむ」


 二人がそう言うので、マジックバッグに保存していた作り置きの牛丼を出した。すると、いつの間にかじいちゃんとアムールの横にシロウマルとソロモンも並んだので、二匹には特別な牛丼(玉ねぎ抜きでゆで野菜追加)を出したのだが、少しばかり不評だったようだ。まあ、お代わりしていたことから口に合わなかったわけではないようだけど。


 じいちゃんたちがお代わりしている間に風呂から戻ってきたプリメラたちには、同じく作り置きしていたスープを使ったおじやを出して俺と一緒に食べたが、食べ終わった後でプリメラは風邪を引いたかもしれないと言って早々に自室に戻って行った。


「テンマは寂しく一人で寝るのか……残念じゃったな」


「いや、別に毎日一緒に寝ているわけじゃないからね。それに、今日はちょっと試したいこともあるし」


 結婚してからはなるべく一緒の時間に寝るようにはしているが、今日のようにやりたいことがある時は別々に寝ることも珍しくはない。


「からかわれるのも慣れてきたようじゃな……面白くないのう。それで、何をするつもりなんじゃ?」


「少し性能のいいゴーレムを量産できないか試してみようと思ってね。よくよく考えたら、リオンたちに渡したゴーレムは、部屋の中だとあまり役に立たないからね」


 渡したゴーレムの核は、魔力を込めて地面に置けば勝手に周囲の土や石などで体を作り出すのだが、体の基になる物がない室内や、固まらないもの(泥や砂、水など)の上だと全く戦力にならないことを思い出したのだ。


「そのことはすぐにでも侯爵たちに伝えないとまずいのう。それで、そのような状況でも使えるようにジャンヌとアウラのサソリ型のように核にマジックバッグでも付けるつもりなのか?」


「いや、それをすると手間がかかり過ぎて量産は難しいだろうから、騎士型ゴーレムみたいに核を最初から体に埋め込むタイプにするつもり」


 今考えているのは、金属で出来たマネキンのようなゴーレムを作り、そのゴーレムに鎧を装着させるという方法だ。イメージはゲームに出てくるようなリビングアーマーで、マネキンの中を空洞にすることで軽量化を図り、鎧で防御力を上げようと考えているのだ。想像通りのものが出来れば、プリメラにプレゼントした騎士型ゴーレムに近い動きが出来るだろう。ただ、核は一個で作るつもりなので、性能は全体的に劣るものになるだろう。


「ふむ、普通のゴーレムが使えない場所での足止め役と言うわけか。それの量産型となれば、とがった性能よりはバランスの取れたものの方が使いやすいかもしれぬな」


 じいちゃんも俺の考えに賛同した(と言っても手伝ってくれるわけではない)ので、夜通しで試作品を作り上げてみた。要はライデンや騎士型ゴーレムの簡易版なので、試作品くらいならすぐに出来たのだが……作ってみて、いくつかの性能外の弱点が発覚した。それは、


「思ったより場所を取るな。それに、意外と金がかかる……」


 マネキン自体は人型のプラモデルを思い出しながら、錬金術と魔法を使えば割と簡単に出来たのだが、マネキンの素材は強度の関係上、魔鉄以上のものを使わないといけないし、マネキンに装備させる防具や武器もサイズの合うものを用意しなければならない。そして何よりも、最低でも鎧分の場所を必要としてしまうのだ。

 今は試作品の一体だけなのでそこまでではないが、これを量産したらディメンションバッグやマジックバッグの容量を圧迫してしまうだろう。


「騎士型ゴーレムの半分以下の大きさだけど、性能は十分の一以下ってところか……量産型って、作る意味があるんだろうか?」


 これなら、少し時間をかけて騎士型ゴーレムに近い性能のものを数体作った方がいいのではないかと本気で考えたが、それはそれで素材が足りないから無理だということに気が付いてしまい、量産型をどうするかものすごく悩んだのだった。

騎士型ゴーレムの量産型に関しての疑問が来ていたので、現時点でのイメージで説明します。


騎士型ゴーレムはガンダム(万能型)クラスのMSで、王族の護衛用やエイミィのゴーレムがジムカスタム(攻防速の特化型)、普通のゴーレムがジムで、量産型はジムを超えるくらいの性能を目指そうとして、結果それ以下の性能(平均的な騎士より少し強いくらい)になりました。

思い付きで作った試作機なので失敗した感じです。

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[良い点] 仮にサモンス侯爵が反旗を翻したとしても、譲渡ではなく貸出ゴーレムなら、製作者としてマスター権限がある(残ってる?)はずだし、一万以上のゴーレムが一転反乱軍鎮圧か、もし命令出来なくとも一時停…
[気になる点] 最後のゴーレムの説明はわかりやすくはあるんですけど、ジムカスタムの部分だけは微妙な感じですね。 ジムカスタムってMSがガンダムより高性能ではあるけど特長がないのが特徴って感じの機体なの…
[気になる点] テンマは大規模戦争に対して、 一騎当千の騎士か量産型を沢山で悩んでるのが不思議、 テンマ個人が戦争を処理出来るんだろうしカッコいいけど。
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