第18章-14 尋問
更新が遅れて申し訳ありません。
今月の頭より、体調不良のところに熱中症が重なり身動きが取れない状況でした。
大分回復してきてはいるのですが体調はまだよくなく、パソコンを使っていると気持ち悪くなる為、しばらくの間は更新が不定期になります。
「それで、タコが生息しているダンジョンはどうなったんですか?」
「川の流れを一度堰き止めてから中を調べてみるという話が出たそうだけど、結局のところ水中で活動できる人物が見つかりそうにないということで、入り口を石や粘土で固めて塞ぐそうだぞ」
セイゲンから帰ってきた俺たちはダンジョンの報告を兼ねて王城に遊びに来たのだが、報告を終えた後でプリメラはマリア様やイザベラ様に捕まり、ルナとアイナも連れてマリア様の部屋で女子会を行うことになった。取り残された俺は、ティーダに捕まりダンジョンの話をせがまれていた。ちなみに、ダンジョンを発見して唯一中で泳ぎ回ったナミタロウは、報告は俺に任せるなどと言って、王都に向かうルートの途中にある川で別れた。
セイゲンは王家の直轄地なので、王様に相談もなしに入り口を塞いでもいいのかとも思ったが、ダンジョンに関してセイゲンのギルドはある程度の判断を任されているそうで、今回の場合はナミタロウの言っていた『ダンジョン内の湖の水位が上がった理由』が緊急性のあるものと言う判断の元、一度入り口を塞いで様子を見るとセイゲンのギルドが決め、王家もそれを認めたということになるらしい。
一応、その報告の場にいた貴族の中からは塞ぐことに反対する意見も出たのだが、塞ぐのは一時的なものであり、水位に影響がなかった場合は元に戻すという条件がギルドからの報告書に書かれていると王様が言うと、すぐに反対意見は出なくなった。
「中の生態系はどうなっているんですかね?」
「基本的には湖と変わらないみたいだと、ナミタロウは言っていたな。ただ、湖にある出入り口がダンジョンの最下層と言うわけではないらしく、下手をするとセイゲンのダンジョン並みに深いんじゃないかとも言っていたぞ。だから、タコ以外にも未確認の生き物はいるだろうな」
タコや湖にいた大型の水中生物が近くの川で発見されないのは、川の底にある入り口が狭くて出られないことと、川がダンジョンの生き物たちの性質に合っていないからかもしれない。ただ、軟体生物であるタコならば、大きさによっては川で発見されていてもおかしくない気はするが、タコは基本的に底の方にいる生き物だし、小さいと入り口にたどり着く前に肉食の魚に食べられてしまうのかもしれない。
「でも、あのタコって、結構硬かったですよね? いや、硬いというよりは、弾力のせいでなかなか噛み切ることが出来ないと言うか……薄く切ってあれなら、丸のままだと無理なんじゃないですか?」
昔お土産として食べさせたタコの触感を思い出しながら、ティーダは肉食とはいえ、魚にタコが噛み切ることが出来るのかと疑問に思ったようだが、
「いや、昔倒したサイズだと無理だろうけど、二m程の大きさならそこまでではなかったぞ。多分、人間でも歯が丈夫であごの力に自信のある奴なら、生の丸かじりでも噛み千切ることが出来ると思う。それに大型の肉食魚ともなると、歯は頑丈な上に鋭くとがっていて、噛みついたら引き千切ろうとして素早く回転するからな。もしティーダが腕を噛まれたら、ものの数秒でもぎ取られるだろうな」
そう言うとティーダは以前見せた肉食魚を思い出したのか、腕をさすりながら苦笑いを浮かべていた。
「そう言えば、テンマさん。帰る途中で牛を見に行きましたか?」
「いや、いつもなら休憩もかねて生息地の近くまで足を延ばすけど、今回の旅はトラブル続きで予定よりも遅れたから行かなかったな。それに、元々牛の生息地付近はセイゲンから王都への道から少しずれるからな」
「そうですか……最近だと、生息地付近に行ったのはいつくらいになります?」
「さぁな……一年近く前になるんじゃないかな? 結婚式なんかの準備で忙しくしていたしな。それで、俺は何の容疑をかけられているんだ?」
ティーダの話の変え方は少し不自然だったし、その後の質問は完全に尋問だ。ティーダもそのことを隠そうとしていないので、これで気が付かないわけがない。
「えっとですね……最近、狩猟禁止区域内に生息している牛の密猟が増えているみたいなのです。みたいというのは、実際に密猟をしているところが確認されたわけではないのですが、ここ数か月である場所で観測していた群れが消えたり、人に襲われたと思われる痕跡が見つかったりということが続いたので、一部の貴族が騒いでいるのです」
一部の貴族とは、主に改革派のことだろう。恐らくは、密猟者の手際が良くその正体が掴めていないので、これ幸いと王族派への嫌がらせの一環として俺に疑惑を向けたのだろう。
「そもそもそんな危ない橋を渡るくらいなら、王様のコネを使って間引く依頼を俺に指名してもらうか、間引いたやつを俺が買い取ることが出来るように頼むだろうな。そっちの方が楽だし」
「ですよね。それに、仮にテンマさんが密猟を行ったとすると血の跡など残るわけがありませんし、傷を負わせた牛に逃げられるはずがないです」
その言い方はどうかと思うが、仕留めた瞬間にディメンションバッグに放り込んだり、スラリンに捕まえさせれば血の跡が残ることは無いだろう。それに、例え傷を負わせた牛が逃げ出したとしても、シロウマルとソロモンからは逃げられない。うちの食いしん坊たちの食欲と意地汚さを侮ってもらっては困る。
「そのことをはっきりさせたかったから、俺の話し相手がティーダだけだったのか?」
「ええ、一応僕が発案者で責任者ということになっていますから……それに、陛下や皇太子殿下がテンマさんに尋問したとなると、物事を大げさにしたがる者が少なからず存在しますので」
確かに俺や王様たちは気にしないだろうが、そこにくちばしを入れて騒ぎを起こそうとする輩は確実に存在する。なので、王家で一番付き合いがあり、書類上の親戚(エイミィの関係で、ギリギリ書かれるくらい)でもあるティーダが担当するのが一番簡単で手っ取り早いのだろう。
「あまり牛の生息地に行くことは無いけど、行く機会があれば群れのことは気にかけておこう。まあ、効果は薄いだろうけど」
「お願いします。一応王家の方からも、直接ギルドに見回りの依頼や犯人に関する情報、もしくは捕縛に賞金を出すことになっているので、密猟者へのけん制にはなると思います」
その依頼に合わせて、俺が疑いをかけられたせいで密猟を気にしていると言った感じの噂を流すはずだ。
俺の名前を使う場合、その裏にはシーザー様がいるような気がするが……俺も王族の名前を出したりするので、持ちつ持たれつと言った感じだろう。ちなみに何故シーザー様かと言うと、ティーダは勝手に俺の名前を使っていいのか気にした結果、結局使わないということになりそうだし、王様の場合はマリア様に何か言われるのを嫌がって使わない可能性があるからだ。その点シーザー様なら、「必要だから使った」や、「噂を王家が流したと気が付かれても、逆にそれだけ遠慮のない関係なのだとアピールすることが出来る」と言いそうだからだ。
付き合いの密度もあるだろうが、王家の中で一番王族らしい性格をしているのがシーザー様だが、王家の中で一番空気が読めるのもシーザー様なのだ。おまけに、王様やライル様、ルナにアーネスト様と比べると面倒くさいところが無いに等しいので、ある意味一番気疲れしない人だったりする。
「さて、と……プリメラが解放されるまでまだまだ時間がかかるだろうから、今のうちに厨房に行って来るか」
時間のあるうちにお土産を厨房においてこようと部屋を出ると、ティーダも気になるのかついてきた。まあ、俺の相手をする役目を王様たちから押し付けられているので、放っておくことも出来ないのだろう。
「それで、テンマさん。今回のお土産は何ですか?」
「それは後のお楽しみ……とか言っても、大体予想は出来ていると思うけどな」
苦笑いのティーダを引き連れて、王城の施設の中では一番と言っていいくらい足を運ぶ厨房へとやってきた。厨房にいた料理人たちは、俺が入ってきた時は軽く手を上げたり遠くから声をかけたりするだけだったが、その後ろにいたティーダを確認すると驚きからか少しの間動きを止めて、すぐに床に膝をついて臣下の礼を取った。そして、異変に気が付いてやってきた料理長に手と服を汚すなと怒られていた。
王城の料理長は平民の出ながら先代の王様に料理の腕を見込まれて名誉男爵を得た人物であり、さらには料理長の長男も実力で副料理長の座についている有名人である。ちなみに、厨房で怒鳴り声が聞こえた場合、その大半がこの親子の口喧嘩だそうだ。あと、料理長の奥さんは食堂の配膳係兼助っ人料理人で、下の息子は自称さすらいの料理人とのことだ。奥さんとは何度も会ったことがあるが、下の息子との面識はない。
そんな料理長の前にナミタロウからもらったタコの半分を渡すと、興奮しながらタコを厨房の奥へと運んで行った。あのタコはティーダたちへのお土産なのに、あのままだと料理長の練習台にされそうだったので追いかけると、料理長は早速タコの足の先を小さく切り取って咀嚼していた。
ぬめりも取ってない状態では美味しくないと思うが、料理長は真剣な表情で味を確かめている。この状態だと俺の話が耳に入らない可能性が高いので、奥さんの方にタコの下処理の仕方と『タコは王様たちへの土産』ということを伝え、料理長が暴走しないように見張りを頼んだ。
「奥さんに頼んでおけば食い荒らされることは無いだろう。奥さんにしても、料理長が王族への土産を盗んだとなれば、良くて料理長の死罪で奥さんと息子が王都追放。悪くて一族連座だからな」
「そうですね。流石に連座は無いでしょうが、普通なら料理長は死罪を言い渡されても仕方がありません。もっとも、なんやかんやあって、一家揃って王都からの追放に収まりそうではありますけど」
ティーダの言う通り、王様は食べ物の恨みで死罪にはしないだろうし、内心では文句を言いながらも不問にしたいだろうが、そうすると他の人に示しがつかないので追放という形になるだろう。まあ、追放されてもあの一家ならどこでも順応するはずなので心配はいらない。
「それでテンマさん、次はどこに行きますか?」
「そうだな……訓練場にでも行ってみるか。あそこなら相手をしてくれる人がいるだろうし」
書庫で時間を潰してもいいが、本に集中してしまうとプリメラが解放された時に気が付くのが遅れて、帰るのが遅くなってしまうかもしれない。その点訓練場なら、集中して解放されたのに気が付かなかったとしても、俺がいるというのはすぐに伝わるだろうから、誰かが呼びに来てくれるだろう。
そう言った軽い思い付きで訓練場に向かったところ……真っ先にディンさんに捕まり、武闘大会個人戦決勝並の戦いを強いられただけでなく、ディンさんとの訓練の途中からやってきたライル様により、近衛隊及び騎士団の中から選ばれた騎士相手(近衛から五人に騎士団員から五人)と一対一で戦わされたのだった。なお、近衛隊はいつもの面々が選出されて(正確には自薦した)おり、姑息なことに騎士団を先に戦わせて、俺が疲れたところを狙ってきた。まあ、相手が近衛隊に切り替わったところでそれまで使っていなかった魔法を使うようにしたので、騎士団と戦った時よりも早く試合を終わらせることが出来た。そのことに関して、騎士団で一番最初に負けることになったクリスさんが文句を言っていたが、そもそも魔法なしと言うルールではなかったので、つい調子に乗ってからかいながら言い負かしてしまった。なので、後で文句を言いに来ることは間違いないだろう。今も、恨みの籠った目で俺を見ているし。
「ところでティーダは……邪魔しない方がいいかな?」
俺の方は一通り(勝手に組まれた)予定を消化したので、ほったらかしになっていたティーダはどうしているのだろうと探してみると、訓練場の端の方でライル様にしごかれていた。昔よりはティーダも実力が上がっているし体力も増えているので、傍から見ると割と善戦しているように感じるが、肩で息をして限界の近そうなティーダに対し、ライル様は余裕そうな表情でアドバイスをしながら相手をしているので、手のひらで転がされているというというのが正しい見方だろう。
「お疲れ、ティーダ」
ティーダがこけたところでライル様のしごきが終了したので、水の差し入れをもって声をかけたのだが疲れすぎているようで反応が無かった。
「おう! テンマもお疲れさん! ティーダはそのまま放っておいても……ん? 何だ? ……分かった、すぐに行く。お前はそのまま各所に連絡を回せ!」
ティーダとは違い、いい運動程度と言った感じのライル様が俺のところへとやってきたが、すぐに走ってきた部下の報告を聞いて真剣な表情になった。
「テンマ、緊急事態が起こったようだ。それが何なのかをここでは話せないが、すぐに屋敷の方に戻ってくれ。もしかすると、テンマのところにも話が行くかもしれない」
ライル様の言い方は気になるが今聞いてもこれ以上の話は聞けそうにないので、とりあえずプリメラと合流して屋敷に戻ることにした。それに俺の方にも話が来るかもしれないということは、報告には俺と縁の深い人物が関係していると思われるので、誰か絶対に来ると想定していた方がいいだろう。
そう判断し、ティーダのことはディンさんに頼んでプリメラを迎えに行こうとすると、ディンさんはプリメラの迎えにはクリスさんが行くように命令し、俺はその間にライデンの準備が出来るようにしてくれた。
王城に来る時はライデンの引く馬車だったが、緊急事態かもしれないということでライデンに二人乗りで帰ることにした。流石に郊外を走るような速度は出すことが出来ないが、馬車を引かせて帰るよりは断然早いという判断だ。まあ、接触事故には当然気を付けなければならないけれど。
「テンマ~! 客が来てる!」
屋敷のすぐ前まで来ると、待ち構えていたらしいアムールが門を開けて来客を知らせてきた。家で預かっている立場で一応子爵令嬢のアムールが門のところで待つことなどこれまでなかったことから、もしかすると緊急性の高い事態になっているのかもしれない。
「誰が来ている?」
「アルバートとリオンとサモンス侯爵」
「サモンス侯爵も? そうなると、緊急事態が起きたのはハウスト辺境伯家か?」
問題がサンガ公爵家で起きたのなら義兄であるアルバートのみで来るだろうし、サモンス侯爵家なら当主のサモンス侯爵のみか侯爵とカインで来るはずだ。
それなのに三家が揃ってやってきたということは、親戚でも当主でもない人物のフォローの為だと考えた。そしてその考えは、応接間に入って確信に変わった。
普通なら、三人の中で一番地位の高い人物であるサモンス侯爵が中心になるはずなのに、当主でも親戚でもないリオンが中心になって座っているのだ。
「テンマ、何やらハウスト辺境伯家から頼みたいことがあるそうじゃ」
リオンの頼みごとは政治的なものなのだそうで、アルバートはオオトリ家側の証人、サモンス侯爵は辺境伯家側の証人としてついてきたらしい。
「リオン、王城がバタバタしていたけど、辺境伯領に関係することというので間違いないのか?」
「ああ」
「オオトリ殿、正しくは今のところ辺境伯領に関することですが、このままだと王国全体の問題になるものです」
リオン側のスタンスの為か、サモンス侯爵はいつもとは違う口調と雰囲気で訂正を入れてきた。
「リオン、どういうことだ?」
このままサモンス侯爵に問いかけてもよかったが、一応辺境伯家の頼みということなのでリオンに聞くことにした。すると、
「帝国が辺境伯領に攻め込んできた」
と言う言葉が返ってきたのだった。