表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
269/318

第18章-11 新作

7/14に、漫画版『異世界転生の冒険者』の5巻が発売されます。

応援、よろしくお願いします。

「本日は晴天なり! 平和で何より!」

「アムール! そんなところに上って、もしソレイユちゃんが真似したらどうするんだ!」


 俺とじいちゃんがギルド長からの依頼をこなしてから四日後。無事にじいちゃんの無罪が証明され、ジェイマンたちを囮にしようとしていた冒険者たちは犯罪者として騎士団の牢屋に収容され(囮以外にも、多くの犯罪行為とすれすれの行為が発覚した為)たと、つい先ほど朝一番でギルドの職員が知らせに来てくれたのだった。ちなみに、アムールのテンションが高いのは、じいちゃんの無罪が証明されたからでも天気がいいからでもなく、ただ単に『山猫姫』の三人が依頼で他所の町に出かけていていないからだ。


「うむ、すぐに降りる……とうっ!」


「だから、それもやめろって……」


 屋根の上で叫んでいたアムールは、俺の注意を受けて屋根の上から飛び降りた。屋根と言っても一番低いところなのでアムールなら大した問題ではないだろうが、もしソレイユちゃんが真似でもしたら命に関わるだろう。

 幸い、ソレイユちゃんは食事中だったのでアムールの行動を見ていなかったが……もし見ていて興味を持ってしまっていたら、おやじさんとおかみさんの拳骨が落ちてくるかもしれない。俺の頭のてっぺんに……

 おやじさんとおかみさんは俺との付き合いが長い分遠慮がなく、アムールやアウラを口で叱ることはあっても手を出すことは無い。その代わり、監督不行き届きだとでも言わんばかりに拳骨が俺に向かうのだ。アウラに関しては俺の奴隷(メイド)と言う扱いなので、仕方がないと言えばそうなのだが、アムールに関しては関係ないと思う。まあ、そう思っていても、アムールはああ見えても子爵令嬢であるから手を出すわけにはいかないし(ハナさんたちは気にしないと思うけど)、オオトリ家で預かっているということで責任は俺にあるという判断なのだろう。


「無事にじいちゃんの無罪が証明されたので、明後日くらいにはグンジョー市を立とうと思う」


 朝食で皆が集まったので、今後の予定を提案した。それについてプリメラとじいちゃんとジャンヌは賛成したが、アムールとアウラは明日がいいと言った。理由としては、明後日だとリリーたちが戻ってくる可能性があるからだろう。流石に今日出発と言うのは難しいと分かっているので、せめて明日にしたいというところだと思う。

 だが、グンジョー市に来てあの三人に挨拶しないという選択肢は、俺とプリメラの付き合いからしても存在していないので、できる限り待つと言って出発は明後日と言うことに決まった。

 ちなみに、『山猫姫』がグンジョー市にいない理由は、ギルドから南の街道にいるオークの群れの討伐に参加させられているからだ。あとついでに、その近くにあるという村の状況を調べてくるように言われているらしい。

 あの三人はグンジョー市の冒険者ギルドにとって生え抜きと言っていいくらいのパーティーであり冒険者たちの人気が高い三姉妹なので、三人が参加するとしないでは討伐隊の士気がかなり変わってくるらしい。


「明後日の出発に決まったとは言え、この四日の間で皆への挨拶なんかは済ませたしな……やらないといけないことは無いし、それぞれ自由行動ということにしようか? 幸いなことに、グンジョー市の外に出て依頼を受けることができるようになったし」


 俺とプリメラはこれまでと同じく知り合いのところを回ることになるだろうが、じいちゃんたちはその間依頼を受けるなり外で遊ぶなりすればいい。まあ、依頼に関しては今はあまりいいものは無いだろうし遠くに行くようなものは無理だろうが、外に出るだけでも暇つぶしにはなるだろう。


 とりあえず食事を終えた後は皆で冒険者ギルドに向かい、そこからそれぞれ別行動することにした。そうして訪れたギルドで、


「テンマさん、マーリン様、プリメラさん、ギルド長室までお願いします」


 フルートさんに名指しされ、ギルド長室へ向かうことになった。


「来て早々で悪いが、嫌な情報をラッセル市のユーリが寄越してきた。まだ可能性の段階らしいけどな」


 ユーリさんが知らせに来た情報を俺たちに教えるというのはよほどのことだろうと思い、いつものような軽口など叩かずに、大人しくギルド長の話を聞くことにした。


「ラッセル市の方もオークやゴブリンの群れが多かったらしく、それがどこから来ているのか調べたそうだ。すると、その多くが『大老の森』方面から来ていることが分かったらしい。流石に出てくるところを実際に見たわけではないが、数組のパーティーに依頼を出してギリギリまで近づかせたらしく、余程変わったルートを通っていなければ、多くが『大老の森』から出てきた群れだと見て間違いないだろうとのことだ」


 『大老の森』と言えば、どうしてもリッチのことを想像してしまう。あのリッチはかなり高い知能を持っていたように思えるし、何らかの目的があったかのようにも思える。倒したという確証が未だに持てないので、あそこで何かが起こればリッチが関係しているのではないかと疑ってしまう。


「それと、テンマとマーリン様には嫌なことを思い出させてしまうかもしれないが……今回ほどではないが、ドラゴンゾンビが出た時も同じようにオークやゴブリンの群れの移動が見られたそうだ」


 関係性は今のところ分からないとのことだが、何らかの強い魔物が『大老の森』の浅いところまで出てきた可能性があるとのことだった。


「ふむ、流石にあの時のドラゴンゾンビと同等の魔物が現れたとは考えにくい……と言うか考えたくは無いが、オークやゴブリンが束になってかかっても敵わないような魔物が現れたという可能性はあるのう。元々奥の方に生息しておった魔物がオークやゴブリンを餌にする為に出てきて、それから逃れる為に群れが森から離れるように逃げたと考えれば、出所が『大老の森』と言うのは納得できるのう」


「そうだね。俺たちが住んでいた頃は村の周辺でよく狩りを行っていたし、ゴブリンやオークが群れを作らないように退治していたからあまり大きな群れを作らなかったけど、今はあの辺りは誰も住んでいないしあまり近寄らないように通達されているから、群れが大きくなり過ぎたとしてもおかしくは無いね」


「それだと、次に現れるのはオークやゴブリンの群れを追い出した魔物ということになるのではないですか?」


 餌が外に逃げた以上、追い出した魔物がそれを追って来るのではないかとプリメラは心配していたが、それほどの強さを持つ魔物になると知能も高い可能性が高いので、地の利のある縄張り(もり)から出てくるとはあまり考えられない。それにユーリさんのことだから、様子を見に行かせた冒険者たちにしばらく森を見張らせることくらいはしているだろう。

 ただ問題があるとすれば、その魔物が龍種のように縄張りの外でも関係ないくらい強すぎる魔物か、強力な個体が群れを成している場合だ。前者であれば、冒険者たちは逃げることも出来ずに殺されてしまう可能性が高いし、後者であれば森の浅いところに留まって繁殖した場合、餌を求めて外に出てくることも考えられる。


「地龍や走龍みたいなのであれば俺一人で対処出来るから比較的楽なんだけど、オークより強い魔物の群れだった場合、探すのが面倒になるよね。まあ、どうにもならないからって、辺境伯から要請が来ない限りは動くつもりはないけど」


 リッチのこともあるし、『大老の森』に行くのは流石の俺でも躊躇(ためら)ってしまう。それはじいちゃんも同じらしく、黙って頷いていた。


「まあ、そうだろうが……話が行くかもしれないということだけは理解しておいてくれ。仮に龍種が相手だった場合、騎士団を出すよりも実績のあるテンマに依頼を出した方が、成功の可能性が高いだろうからな」


 その場合は協力するが、俺でなくても解決できそうなら騎士団や他の冒険者に頑張ってもらおう。


「まあそう言うわけで、王都に戻ったらハウスト辺境伯様かユーリから手紙が届くかもしれないからな。届いて驚くよりは、先に教えた方がいいと思ってな」


 ギルド長はどこか恩着せがましく言うが……


「うちの場合、ハウスト辺境伯領で何かあったら、嫡男が直接伝えに来るからなぁ……前に辺境伯領に遊びに行くことになったのも、リオンが誘ったからだったし」


 そう言うとギルド長が、椅子を回転させて俺たちに背を向けた。どうやら、俺たちに恩……を売るほどでないにしても、気を利かせたところを見せようとしたようだ。まあ、『大老の森』の話は普通にありがたかったが、今言ってもからかっているだけにしかとられないかもしれないので、代わりにフルートさん言って後から伝えて貰おう。


 ギルド長が後ろを向いたまま動かなくなったので、ギルド長室から出ようと立ち上がると同時に職員が入ってきてフルートさんに何かを報告した。その報告を受けたフルートさんは、俺を何か言いたそうな顔で見ていたが……すぐに職員を戻らせて俺たちを先導し始めた。


 ギルド長室を出てすぐに、ギルド長へのフォローをフルートさんに頼み、そのついでに何があったのかを聞こうとしたが……すぐにギルドの騒がしさのせいで、フルートさんが何を言いたかったのかが分かった。


「アウラ! ちゃんと一号を抑える!」

「りょうか……無理ーーー! ジャンヌ、助けてーーー!」

「お茶が美味しいなぁ……」

「ジャンヌ、ワイにも入れておくれ。それと、お茶請けのようかんを出すんやスラリン。後で対価は払うから」


「ネリー、ミリー! アウラはあと少しで無力化出来るから、アムールをお願い!」

「オッケー! 覚悟、アムール!」

「ネリー、挟むよ!」


 予定より早くリリーたちが戻ってきて、いつものようにアムールたちと争っているのだった。ジャンヌは最近無視されることが多いからなのか我関せずの立場を取っており、ナミタロウたちとお茶を楽しんでいた。

 そんな光景を周囲の冒険者たちは、酒のつまみにしたり賭けの対象にしたりして楽しんでいる。平和ではあるが、なかなか頭の痛くなる光景でもある。


「プリメラ……三姉妹に挨拶したいとか言ったけど……するのは今じゃない方がいいみたいだから、こっそりと外に出よう。挨拶は三人が落ち着いてから、夕食の時くらいにしようか?」


「そうですね。今出て行っても、騒ぎが大きくなるだけだと思います」


 あの状態ではまともな挨拶などできないだろうし、アムールも調子に乗って妨害してくるのは目に見えている。

 じいちゃんとフルートさんにも理由を話し、俺とプリメラはこっそりとギルドから退散することになったのだが……フルートさんが恨みの籠った目で見ていたので、何らかの形でご機嫌取りをしなければならないだろう。後、逃げ出すときに三姉妹に気が付かれることは無かったが、アムールには見つかってしまい見逃されたので、こちらにも何かお返しをしないといけない。そして、三姉妹を無視する形でギルドを出ているので、当然リリーたちにも何かしなければならない。そうなるとジャンヌにも……となるので、結局全員にしないといけないこととなる。


「市販のお菓子だけだと、フルートさんやリリーたちが納得してくれないよな……」


「そうですね。かと言って作り置きのものだと、アムールがうるさいでしょうし……」


 グンジョー市で買えるものだと、アムールたちは食べたことが無い可能性があるのでそうそう文句は出ないだろうが、フルートさんやリリーたちは高確率で食べているだろう。しかし、作り置きのものだと基本的にアムールたちは全種類つまみ食いや試食をしているので、納得しないかもしれない。


「でも今から作るとなると、知り合いのところを回る時間が無くなるかもしれないし、出来るなら『大老の森』の話も集めたいんだけどな」


 グンジョー市騎士団なら何らかの情報を得ているかもしれないので聞きに行こうかと思っていたのだが、守秘義務に当たるとか言って教えてくれないかもしれない。一応、サンガ公爵家の関係者と言う形で聞くつもりではあるのだが、それでも確率は半々と言った感じだろうと思っている。


「一応、緊急事態が起こった時にすぐに動ける公爵家の関係者は私たちだけなので、大義名分はあるんですけどね」


 プリメラも騎士団がどう判断するか分からないそうだ。まあ気になる情報ではあるが、王都に帰ればリオンとアルバートがほぼ確実に話に来るはずなので、そこまでこだわる必要はないだろう。


「それじゃあ、どうするか……って、あそこにいるのアイーダじゃない?」


「えっと……そうみたいですね。買い物をしているみたいですね」


 いまいち予定が決まらないまま歩いていると、少し先で買い物をするアイーダを発見した。丁度値切っている最中らしく、身振り手振りを交えながら店の人と交渉している。


「テンマさん、『大老の森』の話ではないかもしれませんが、アイーダさんならギルドとは違う情報を持っているかもしれません」


 そう言うわけで、アイーダから何か情報を得ることができないか話しかけてみることにした。


「騎士団の持っている情報? 流石の私でも、詳しいことは知らされていないわよ」


 いくら元騎士団の部隊長とはいえ、引退した今ではそう簡単に情報を得ることは出来ないそうだ。


「ただ、どうしてもっていうのなら、少し集めて来てもいいわよ?」


 ただ、昔の伝手は今も健在だそうで、それを使えば少しの時間で情報を集めることは可能なのだそうだ。流石にそれはアイーダも危険ではないかと思ったが、「公爵様の大事な三女(プリメラ)と自慢の娘婿(テンマ)の名前を出せば、そう難しいことではない」とのことらしい。

 そう言うとアイーダは、「夕方くらいに『満腹亭』に行くから、お菓子を用意しておいてね!」とどこかへ走って行った。


 情報の当てが出来た俺たちは騎士団本部にも顔を出したが、本部では情報を得ることができなかった。それは断られたわけではなく、騎士団長のアランが不在なので判断ができないという理由からだった。


 騎士団の後も知り合いのところを訪ねて歩いた結果……


「行くところが無かったな……元々ここで活動していたし、昨日までに粗方回ったからな。それに、普通は仕事中の時間だし」

「ええ、公爵家の屋敷に戻るのはどうかと思いますけど、ゆっくりできそうなところはここくらいしかなさそうですし、どのみち今日は皆でこちらに泊まる予定ですので、夜と明日のことを伝える為にも一度は来ないといけませんでしたからね」


 グンジョー市に行くとサンガ公爵に伝えた時に、すぐにグンジョー市にある公爵家が滞在する為の屋敷を手配してくれたのだが……じいちゃんたちが到着してから自分たちは『満腹亭』に泊まると言い出したのだ。ただ、朝食は一緒に食べることにしていたので、朝になるとじいちゃんたちが公爵家の屋敷に来たり、逆に俺たちが今日のように『満腹亭』に足を運んだりしていたのだ。


「それじゃあ、暇つぶしもかねてお菓子でも作るか?」

「そうですね。アイーダさんにも頼まれていますしね」


 そう言うわけで、ご機嫌取りの為のお菓子を作ることにしたが、アイーダとの約束が夕方(正確な時間は決まっていない)なので、あまり時間のかからない物がいいだろう。

 そんなわけで、量産のしやすさからプリンを作ることにしたが、これだけだとあまり代わり映えしないの少し手を加えることにした。


「プリメラ。屋敷の使用人に、果物を何種類か買ってきてもらってくれ」

「はい、分かりました」


 使用人が買い物に行っている間に、俺とプリメラでプリンの準備を進めた。プリメラは料理が苦手な方ではあるが、お菓子の準備のようにきっちりと材料を量ることは得意なので、うちに来てから何度もジャンヌたちとお菓子作りに挑戦している。


 プリンを蒸す頃には使用人が果物を買って来てくれたのでプリメラに果物のカットを頼み、俺はプリンに添えるもう一つの主役を作り始めた。

 蒸しあがったプリンを冷まし、果物などを盛り付けて俺の作ったものを添えれば、『プリン・ア・ラ・モード』の完成だ。味は試食と言う名目で俺とプリメラ、そして公爵家の使用人たちで確かめた。



「情報を集めてみたけど、ギルドが持っているものと大差はないみたいね。ただ、気になることが一つだけあったわ。ゴブリンやオークの群れが確認されてからの犠牲者はかなり少ないそうで、出てもその遺体や遺品は回収できているそうだけど、その前……確認される前に出たであろう犠牲者に関しては、遺体の破片や遺品のかけらが見つかっていないそうよ。不自然な程にね」


 『満腹亭』で落ち合ったアイーダは、会ってすぐに仕入れてきたという情報を話し始めた。それだけなら、確認される前の犠牲者はいなかったのかということになるだけだが、群れが確認された方角に向かったとされている冒険者や旅人、それに商隊などの行方が分かっていないらしい。最後に確認された場所から行方不明者の目的地の進路とゴブリンやオークの群れの進路が重なっていることや、行方不明者の出発時刻や群れの進行速度から計算した結果、襲われた可能性が非常に高いそうだ。それに、もし遭遇していなかったとしたら、今頃一人くらいは生存確認ができているはずとのことだった。


「オークやゴブリンの群れが人や馬を食料にして、武器や道具や装飾品は持ち去ったとしても、何らかの痕跡は見つかるはずなのにな……余程頭のいい個体が統率している群れならば、痕跡を消す為に全てを隠すことくらいはするかもしれないけど……それでも誰一人として見つかっていないとなると、おかしな話だよな」


 人並みとまでいかなくとも、それに近い知能を持っている個体がいれば、人を襲えば自分たちが襲われることになると考えて痕跡を消すことはあるそうだが、そんな特殊な個体の率いる群れが何個も同時に発生するというのは考えにくい。


「何かの目的で遺体を持ち去ったやつがいるということか?」


「騎士団の関係者の中には、そう考えている人もいるみたいだね。あと、『大老の森』の関係じゃないけど、帝国がまたきな臭い動きを見せているみたいだよ」


 帝国と言えばハウスト辺境伯領に依頼で行った時に、国境線近くの砦で邪魔をしてからは大人しくしていたはずだ。


「このタイミングで帝国が動きを見せるとなると、帝国が『大老の森』に何か仕掛けたのかと思ってしまいそうですけど……帝国が仕掛けたにしては、混乱は少ないですよね? むしろ、公爵領やハウスト辺境伯領が少し騒がしいから、今動いたらチャンスがあるかな? くらいの考えかもしれませんね。まあ、その混乱もすでに収まりつつあるのですが」


 プリメラの言う通り、帝国がゴブリンやオークの群れを動かしたとは考えられない。もし犯人だったとすれば、労力に結果が伴ってなさすぎるだろう。


「今回に関しては、帝国と『大老の森』の件は別だと考えていいだろうな。アイーダ、お礼のお菓子だ。このプリンの方は()()()を添えているから、すぐに食べないと駄目だぞ。それと、うちで出しているお茶菓子の方は、常温でも明後日くらいまでなら大丈夫だから」


 子供の分と合わせてプリンとお菓子の詰め合わせを三人分渡すと、アイーダは上機嫌で『満腹亭』から出て行った。

 アイーダと入れ替わる形で、アムールにジャンヌとアウラが入ってきて、その後から『山猫姫』の三人も来た。アムールとアウラ、そしてリリーたちが一緒にいるのにやけに静かにしていると思っていたら、さらにその後ろにフルートさんがいた。

 五人が騒ぎ過ぎないように監督をしていたのだろう。本来しなければいけない俺(+プリメラ)と、いない場合のじいちゃんの両方がいなくなったから仕方がなくなのだろう。どこか……ではなく、確実に機嫌が悪そうだ。


「プリメラ、アムールたちの相手を少しの間任せた。俺はフルートさんに謝ってくる」

「ええ、アムールたちのことは任せてください。その代わり、()()()()()フルートさんをよろしくお願いします」


 グンジョー市の冒険者ギルドを実質的に取り仕切っているフルートさんは、俺とプリメラが共通して頭の上がらない人物だ。プリメラはどこまでなのかは分からないが、少なくともグンジョー市では俺にとってはおやじさんとおかみさんに並んで世話になった人だし、一番迷惑をかけた相手でもある。

 そんな人が怒っているとなると、通常よりも罪悪感が倍々になるように感じてしまうのだ。


 そんなわけで、意を決してフルートさんに謝罪した俺は、数十分程説教及び愚痴られた。最終的にはプリントお菓子の詰め合わせを五人分(フルートさんとハルト君が二つで、ギルド長の分が一つ。ただし、ギルド長の分とは言わなかったので、フルートさんとハルト君の分に回る可能性が高い)渡し、何とか機嫌を直すことに成功したのだった。

 その間アムールたちはと言うと、隅の方でプリメラの話を大人しく聞いていた。何でも、一頻り暴れたことでたっぷりとフルートさんに叱られたらしく、これ以上騒げば危険と心の底から感じたからだそうだ。


 フルートさんが帰った後で、プリメラたちは全員でリリーたちの借りている部屋に移動して話をするとのことで、俺一人が食堂に残されることになってしまった。ただ、先程までフルートさんに説教をされていたのを目撃されていたせいか、一人を除いて誰も近寄ってこなかった。まあその唯一の相手も、プリンを食べ終わるとおかみさんに呼ばれて戻って行ってしまった。


 そんな俺の一人ぼっちの時間は、じいちゃんが戻ってくるまで続くのだった。

 せめて、スラリンくらいアムールたちと一緒にいてくれれば、夕食の時間まで寂しい思いをしなくてすんだのに……などと思ってしまったのだった。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
[一言] 最終的にはプリントお菓子の詰め合わせ 印刷お菓子?
[気になる点] グンジョー市の冒険者ギルドを実質的に取り仕切っているフルートさんは、俺もプリメラが共通して頭の上がらない人物だ。 ※俺もプリメラが共通して  俺とプリメラが  俺もプリメラも …
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ