第18章-10 オークと盗賊の群れ
「いったい何が……あっ! フルートさん、お久しぶりです」
俺を見つけて急ぎ足でやってくるフルートさんに挨拶すると、そのまま腕を掴まれてギルド長室へと連れて行かれた。
俺目掛けてやってくるフルートさんの様子からこうなることは予想出来ていたので、じいちゃんたちは慌てずに後をついてきていた。
「ギルド長! テンマさん御一行の到着です!」
「よし! 北か東に出た番のオーガか、西か南の街道で陣取っているオークの群れの討伐を受けてくれ!」
なんか思っていた以上に、グンジョー市の状況がヤバいことになっていた。しかし、
「北の方でオーガの番をプリメラたちが倒したので、依頼は完了ですね。では、俺たちは疲れているのでこれで……」
グンジョー市に来る間、基本的に周囲を『探索』を使って探りながらやってきたので、ギルド長の言うオーガの番はプリメラたちが倒した個体で間違いないだろう。
そう言って踵を返そうとしたが……フルートさんの俺の腕をつかむ力が増すばかりだった。
「とりあえず、その倒したというオーガの番を提出してくれ。テンマたちのことだから、他のオーガを見逃したということは考えにくいが、目撃地点から予想とは真逆の方にオーガが移動したということは考えられるからな」
そう言ってギルド長が他の職員を呼び、アムールを除いた女性陣がオーガの話をする為に他の部屋に連れて行かれた。アムールも一緒に行こうとしていたが、他に頼むことがあるとギルド長に言われて残ることになったのだ。
「それで、北の件は誰かベテランの冒険者に確認させることにして、テンマには東で確認された番のオーガを、アムールには西か南の街道に陣取っているオークの群れの討伐を頼みたい。これは指名依頼ではないが、どうか引き受けてくれ」
現在、グンジョー市で活動している冒険者の多くは新人らしく、ベテランは新人たちの三分の一程しかいないので四か所同時どころか、二か所のオークの群れを討伐するのも難しい状態だったらしい。
そこに俺たちが来た上、手土産のように北の問題を片付けていたので、ここで一気に残りの三か所を終わらせたいとのことだ。指名依頼ではないとは言っているが、実質指名依頼のようなものだろう。
ちなみに、オークの群れはどちらも五十近い数らしく、今いる百五十程いる冒険者の内、すぐに動けて戦力になりそうな百足らずを二つに分けて向かわせようと考えているそうだ。
「ふむ……それなら、わしがどちらかの群れを担当しよう。わしならば飛んでいけるから、場所によっては一時間ほどで終わるかもしれぬぞ」
それまで黙っていたじいちゃんがそう言うと、ギルド長は恐れ多いなどと言いながらも、すぐに頭を下げていた。俺の時とは大違いの態度だ。
「テンマ。スラリンを借りて行くぞ。群れを倒した後の回収は、スラリンがいるとすぐに終わるからのう。それとギルド長。わしが行くのじゃから、アムールはここに残しても良いな。流石に『オラシオン』だけでほとんどの功績を持って行くのは、ギルドとしてもまずいことになるじゃろう? その代わり、わしが倒した分のオークは格安でギルドに卸してやろう」
北に加え、東のオーガの番と西と南のオークの群れに『オラシオン』が向かえば、その素材や報酬はのとんどが俺たちのものになるだろう。そうなると、他の冒険者に支払われる討伐数による追加報酬はかなり少なくなる。そうなれば、冒険者たちの不満は『オラシオン』とギルドに向かうだろうし、もしじいちゃんが討伐したオークをよそに持って行かれれば、ギルドとして得る儲けがそれだけ少なくなるのだ。
なので、アムールを活かせない代わりにその場所に集めた冒険者を向かわせることで不満を少なくし、じいちゃんが倒した分をギルドに安く売ることでギルドの赤字を出さないようにするということだ。
これにはギルド長よりも先にフルートさんが反応し、すぐにこの場で契約書を書き上げていた。
「アムールは留守番で、無いとは思うが片方のオークの群れが襲い掛かってきた時に備えてくれ。一応、シロウマルとライデンは残していく」
「うむ! それなら仕方がない! もし何かが襲ってきたら、プリメラたちと一緒に騎士団本部に駆け込む。それでも駄目なら、ライデンでみんなを連れて逃げる!」
アムールの冗談は置いておくとして、アムールとシロウマル、それにゴーレムがいる状況で騎士団と連携すれば、千の群れが襲ってきてもまず大丈夫だろう。ただ、実際に群れがグンジョー市に襲い掛かってきた場合、プリメラの持つ影響力を考えると、騎士団と連携した方がいいのは確かだ。もっとも、例え群れがグンジョー市に襲い掛かってきたとしても、それだけ近くにいれば俺かじいちゃんが街を出る前に気が付くだろうし、気が付かない程離れているとすれば、それぞれの担当を終わらせてからでも間に合うだろう。
じいちゃんたちとそんなことを笑いながら話していると、呆れ顔のフルートさんが目撃地点の記された地図を持ってきた。
それで大体の位置を確認し終えると、オーガの話に行っていたプリメラたちが戻ってきた。思った通り、プリメラたちが倒したオーガの番は目撃のあった個体だったそうで、オスの体にあった傷が報告の中にあったものと一致したそうだ。
これでプリメラたちの用事は終わったとのことなので、皆でこの後のことを軽く話し合い、プリメラたちは先に『満腹亭』に行って待機することに決まった。ついでに、もし夕食時までに戻らなかった場合、いる人だけで先に食べることも決まったのだった。
「それじゃあ、じいちゃん。さっと行って、サクッと終わらせて、さっさと帰ってこようか? 作戦名『さっ、サッ、さっ』で、遅れて帰ってきた方は晩御飯のおかず半分没収ね! それじゃあ、スタート!」
さり気なくドアの方に体を向けながら、勝手なスタートの合図でじいちゃんを出し抜いて外へと駆け出した。まあ、外に出たら俺もじいちゃんも『飛空』の魔法で飛んでいくので、正直数十秒程度の誤差は無いようなものなのだが……やりたくなったのだから仕方がない。ちなみに、誤差は数十秒程度ではなく、三十分近くだったと後に知らされた。何でも、俺のダッシュに釣られてじいちゃんも走り出したそうだが、走り出して数歩目ですねと足の小指を強打してしまい、その場に倒れ込んだらしい。その時の俺はすでに空の上だったそうで、飛べないアムールにはどうすることも出来なかったとのことだ。
マーリンSIDE
「最近、わしの扱いがひどい気がするのう……結婚したからじゃろうか?」
などと考えながら、テンマから遅れることおよそ三十分。わしは何とか動けるまでに回復していた……と言うか、良く回復したなと自分でも思うくらいじゃった。多分じゃが、すねと小指は骨にひびが入るくらいはしていたはずじゃ。まあ、わしの回復魔法でなおるくらいじゃから、そこまで大きなものではなかったじゃろうが……それでも、、普通の年寄りではそのまま家で安静にしておくレベルのダメージじゃぞ、全く!
この怒りは、テンマの前にオークの群れにぶつけようと、出る前に見せてもらった地図を思い出しながら空を飛び続けた。
オークの群れが陣取っているところは、街から歩きで一日程と言う話じゃから、このまま飛んでいけば一時間もかからんうちに発見できるじゃろう。場所も街道を目印に飛んでいけばいいわけじゃから、大きく場所を変えておらねば見つけるのは容易いはずじゃ。
その予想通り、一時間も飛ばないうちにオークの群れが見えた。しかし、その手前(二km程離れたところ)には、オークの群れを狙っているらしい二十人程の冒険者の一団がおる。見た目で判断するのはよくないが、山賊や盗賊と間違われてもおかしくないような者が大半じゃし、微かに聞こえてくる笑い声も下品じゃ。
「オークを倒す機会をうかがっておるのかもしれぬがわしも依頼を受けておる身じゃし、ここまで離れておると、あの群れの権利を主張するのは無理があるからのう。それに、まだ手を付けておらぬようじゃしな」
そう判断してオークの群れに突撃しようとしたところ、冒険者たちの声が大きくなった。どうやら、斥候が戻ってきたようだ。
そのまま様子を見ておると、何人かが笑い声を上げながらどこかを指差して負ったので、その方角に目を凝らすと……
「あれは商人の一行か?」
どこかの商隊がオークの群れが陣取っている方へと向かっておるところじゃった。商隊からすると、オークの群れが小高い丘の反対側におるせいで気が付いていないようじゃ。対してオークの群れは、商隊の持つ食料か何かの匂いにでも気が付いたのか、商隊を襲うべく群れを動かし始めておる。
「冒険者たちは……オークが商隊を襲った後を狙うつもりのようじゃな」
商隊がオークの群れに抗うにしろ逃げるにしろ、それは大きな隙となりこれ以上ない好機であるのは間違いではない……が、それを選ぶのは悪手じゃろう。もしかするとあそこにおる商人たちは、明日の依頼主になるかもしれぬのじゃ。
それに、わざと商隊を囮にするようなことをしてギルドにバレれば、資格の停止かはく奪は当然として、あらゆるところでブラックリストに載ることになるじゃろう。そうなれば、まともな生活を送るのは難しくなるじゃろう。
「あの冒険者たちがどうなろうとかまわんが、何も知らぬ商人たちが巻き込まれるのは可哀そうじゃな……とまあ、大義名分が出来たところで、遠慮することは無くなったのう!」
二km程の距離なら、全力を出せば一分もかからずに着く。わしは思いっきり飛ばして距離を詰めると、まずは街道を塞ぐように土魔法で壁を作り商隊に警戒させて足止めをすると同時に、オークが商隊の方へ襲い掛かりにくくした。
「全部で五十を超えておるのう。まとめて倒したいところじゃが、ギルド長との約束があるし、面倒臭いがなるべくいい状態で持って帰らねば……のう!」
それに、商隊のを囮にしようとしておった冒険者たちがやってくる前に倒しきらないといかんから、思っているより時間は無いと見た方がよい。
そこで、大まかにオークのおる範囲を確認し、水魔法を使って群れ全体を濡らし、そこに数発の『サンダーウォール』を放った。
放たれた『サンダーウォール』が直撃した個体はそのまま絶命したようじゃが、運よく避けることができた個体の方が多かった。しかし、直撃を免れた個体の中のほとんどは、安堵する暇もなく最初に放った水魔法のせいで感電して倒れて行った。結局逃げることができたのは、群れの端の方にいた三体じゃった。しかも、逃げた方角には冒険者たちがおるので、生き延びることは難しいじゃろう。まあ、例え逃げ延びたとしても三体では脅威と言う程ではないし、あの冒険者たちを少しでも足止めできるのならば、多少は役に立ったと褒めてやらんでもない。
「スラリン。わしが生き残っておる奴の息の根を止めていくから、手早く回収していってくれ。急がんと、馬鹿をしそうな奴らが来るしのう」
商隊を囮にしようとしたくらいじゃから、獲物を横取りされたとか言うくらいは言うじゃろう。なので、あいつらが来る前に倒したオークはすべて回収し、商隊の連中に理由を話さんといかん。下手をすると商隊の連中にとってわしは、いきなり進路を塞いできた盗賊ということになっておるかもしれんからのう。
「これで最後じゃな。スラリン、こいつも頼むぞい」
風魔法で最後の一匹の首をはねると、すぐ後ろにいたスラリンに回収を頼んだ。周辺は血の海になっておるが、水魔法である程度流せば問題は無かろう……少しの間は血生臭いかもしれぬがの。
「そこにおられるのは、もしかしてマーリン様ではありませんか?」
オークの処理を終えるタイミングを見計らってか、商隊の一人が声をかけてきた。どこかで聞いたことのある声だと思ったら、なんとジェイ商会の代表じゃった。
ジェイ商会の者たちは、わしの思った通り攻撃をされたと思い警戒していたそうじゃが、壁の向こうで魔法が使われているのに自分たちの方へは何もされなかったので不思議に思っていたそうじゃ。ただ、わしの正体に確信が無い状況で声をかけてくるのが商隊の代表というのはどうかと思うが、わしとしては様子見をされるよりは手間が省けてありがたいと言ったところじゃな。
「そうですか、あの壁にはそんな理由が……」
「それで、そろそろ隠れておった冒険者たちが来る事じゃから改めて確認するが、お主たちはあそこにオークの群れがおったことに気が付いておらんかった。それと、隠れて様子を窺っておった冒険者たちと利害関係にはなかった……でいいんじゃな?」
「はい。少なくとも、遠くで隠れて我々を囮に使う者を雇うような酔狂なことは致しません。マーリン様が必要だというのなら、あと少しで襲われそうになっていた我々を、マーリン様は危険を顧みず助けてくれたのだと、誰が相手であろうとそう証言すると誓いましょう」
少し大げさな言い方じゃが、わしが不条理なことに巻き込まれたらアレックスが出てくるというのを理解した上での宣言じゃろう。流石にこれが悪事に加担するというものならば、やんわりと断りを入れてくるじゃろうが、何かトラブルに巻き込まれても確実とも言える勝算があるからこそ強気で出たのじゃろうな。やはり商人というものは強かじゃ。まあ、わしにとっては都合がよいがのう。
「では、ちょっとした契約をしてもらえんかのう? なに、わしがオークの群れを倒したのはお主たちに雇われたからで、雇われたのは壁を作る少し前だったという契約書を作成してくれるだけでいいんじゃ。報酬は後払いで要相談と言ったところかのう」
「ええ、すぐに作成させていただきますとも」
ジェイマンはすぐに懐から紙とペンを取り出し、さらさらと契約書を書き上げた。
「これが契約書です。いやぁ、オークの群れに襲われる寸前でマーリン様のようなお方と契約できたのは、私の人生の中でも最上位と言っていいくらいの幸運でした」
三文芝居もいいところじゃが、あ奴らが「自分たちが先にオークの群れに目を付けていたのにわしがいきなり現れて、横からかっさらって行った」などとギルドに訴える可能性もあるので、あれは横取りではなく略式とはいえ依頼を受けての行動なのだと、こちらもギルドに訴える準備をしておかなければならない。まあ、依頼の順序に関しては指摘されるかもしれないが、あちらも商隊を囮にしようとした(ように見える動きがあった)ので、余程の愚か者でない限りは引き下がるじゃろう。
「それじゃあ、招かれざる客が来たようじゃから、依頼主はわしの後ろに下がっておるとよい」
望み薄ではあるが、あの者らが多少はまともな知能を持っておることに期待しようかのう。
マーリンSIDE 了
「あそこまで怒られるとは思っていなかったな……」
少し調子に乗っていたことは認めるが、オーガの番を倒して戻ったのにプリメラに言われた第一声が、「調子に乗り過ぎです!」だった。その後しばらく叱られて、じいちゃんを迎えに行くように言われたのだ。
「じいちゃんが出てから三時間は経っているってことだから、何かトラブルでもあったのかな?」
俺の場合、オーガの番が目撃地点よりかなりグンジョー市寄り(五十~六十km程)の場所に移動していたので、大体三十分くらい飛んだところで発見できた。このことを報告すると、フルートさんは思った以上に危険なことになっていたと卒倒しかけていた。
フルートさんを卒倒させかけたことで、プリメラからまた小言を貰った俺は、追い出されるようにギルドを出たのだった。フルートさんが卒倒しかけたのは俺のせいではないのに……
「とりあえず、じいちゃんを連れて急いで帰って、プリメラの機嫌を直さないと……いた! ……けど、厄介なことに巻き込まれたみたいだな」
『探索』の端の方に引っ掛かったじいちゃんの反応の他に、周囲には多数の反応があった。
「……じいちゃん、盗賊にでも襲われたの?」
「おお、テンマか! そうなのじゃ。それで倒したのはいいが、この後どうしようかと思ってのう……」
なぜこうなったのかという説明をじいちゃんと近くに隠れていたジェイマンから聞き、盗賊もどきの冒険者をどうするか話し合った。そして出た結論が、
「じいちゃん! 檻の準備ができたから、どんどん運び込ませて!」
檻を作りその中に身動きができないようにした冒険者たちを放り込み、後でギルドに回収してもらうというものだ。檻だけだとオークが出た場合に壊される可能性があるので、その周りに数mの深さがある堀も作った。
「余程運が無い限りは、ギルドから回収員が派遣されるまでは持つだろう」
身動きができないと言っても、両手と両足を縛って後ろでまとめて猿ぐつわを噛ませているだけなので、隠し武器や魔法で縄を切って逃げることは可能だ。だが、ギルドカードやその他にも身分証になりそうなのものは回収したので、回収された後でギルドに事情聴取を受けるのは決定的だ。
ついでに、目に付いた武器やマジックバッグとディメンションバッグなども回収し、檻の近くに塚を作ってその中に埋めてある。そのままだと檻から逃げ出した後で掘り返されるので、塚の守りにゴーレムを四体配置した。じいちゃんの話だと、冒険者たちに四体のゴーレムを倒せるほどの力は無いそうなので、武器や荷物が惜しければ大人しくしておかなければならないのだ。まあ、ギルドの判断によっては武器や荷物は没収となる可能性もあるので、確実とは言えないのだけれども……それは仕方がないことだろう。あいつらはじいちゃんを非人道的なじじいだとか思うかもしれないが、話によれば先に人の道を外れたことをしようとしたのは向こうとのことなので、やり返されても仕方がないだろう。
「テンマ。終わったからさっさと戻るぞい! いい加減腹が減ってきたからのう!」
「それじゃあ俺とじいちゃんは先に戻るけど、この先は比較的安全になっているから、多分大丈夫だと思う。まあ、それでも気は抜けないけどな」
「ええ、それは理解しております。それに、こちらにも護衛はおりますので、いつも通りのことをすればいいだけですので。それと、たまにでいいので、王都のジェイ商会に足を運んでください。最近はなかなか顔を見せて貰えないと、王都の者が嘆いておりますので」
などと言うやり取りをしてから、俺とじいちゃんはグンジョー市へ戻ることになった。
ジェイマンたちがグンジョー市に到着するのは、恐らく明後日くらいになるだろう。そして、檻に入っている冒険者たちが回収されるのは、明日の遅くか明後日になるはずだ。
「そうすると、ギルドの回収員が戻るのは四日後くらいになるのう」
最短で戻ってくるのに四日、それから取り調べで一~二日と言ったところだろう。それまではグンジョー市を離れない方がいいだろうが、滞在が予定より少し伸びるくらいなので問題ないだろう。
ただ、冒険者たちがごねる可能性もあるが、じいちゃんにはギルドからの指名依頼もあるし、ジェイマンからの依頼と言う証拠がある。もっとも、ジェイマンの方は偽装だと言われる可能性もあるが、そこは書面に残したのが終わった後だと言い張ることも出来る。それに、元々かなり離れた位置から様子を窺っていただけでは優先権は発生しないし、近くにいたのなら近づこうとしているジェイマンたちを見捨てたともいわれかねない。何よりも、倒したオークの所有権を渡すようにじいちゃんに言い、断られたら襲い掛かったという時点で非は向こうにあるとなるはずだ。
「分かりました。すぐに信頼できる冒険者を派遣し、その者たちを捕らえましょう。それと、最低でもその商人から証言を取るまでは、グンジョー市から出ないようにお願いします」
ギルド長とフルートさんは、渋い顔をしながらその冒険者たちの回収作業の手配に入っていた。もしかすると、その冒険者たちが他の街のギルドから依頼を受けていたかもしれないが、その場合であっても原則的に獲物は早い者勝ちとなるので、取られたからと言って難癖をつける行為はご法度なので、もしあの冒険者たちに依頼を出したギルドがあったとしても、どうしようもないだろうとのことだった。
「ところでじいちゃん、ジェイマンにいくら依頼料を貰うつもりなの?」
「おお、それなんじゃが、あのならず者どもを退治した後で話しがついてのう。今度、北の方で作られる強い酒を貰うことになったわい! 人気が高くてなかなか王都付近では出回ることが無いそうじゃが、北にある支店では定期的に仕入れることができるそうなのじゃ。なので、飲んでみて気に入ったら、ぜひとも贔屓にして欲しいと言われてのう」
北と言えばマリア様の実家があるので、その伝手でお酒を頼むことも出来なくはないが……その伝手は俺が作ったようなものだし、じいちゃんも海産物は楽しみにしているので、あまり無理は言いたくないらしい。それに、俺を介さずに仕入れをすることができるコネと言うのは魅力的だということで、例えその酒が好みでなかったとしても付き合いは続けるつもりらしい。
そんな感じで、『満腹亭』で待つプリメラたちと合流したのだが……俺たちが予想よりもかなり遅くなったため、プリメラたちはすでに昼食を済ませており、さらには昼食と夕食の間と言う中途半端な時間だった為、おやじさんに料理が残ってないと言われて、外の屋台に食べに行くことになったのだった。しかも調子に乗った罰として、皆の代金も支払うことになったのだった。まあ、オーガの番を倒した分の依頼料が入ったばかりだし、屋台なのでそこまで高いものではないので別にかまわないのだが……オーガの番の討伐料を食い尽くしてやると気合を入れていた二人と二匹が、食べ過ぎで腹を壊したのは困ったものだった。