第18章-9 在庫過多
サンガ公爵邸での滞在を終えた俺たちは、予定通り次の目的地であるグンジョー市を目指してリンドウを後にした。
当初の予定より二日ほど滞在が伸びたが、元からリンドウではその可能性も考えて旅行の予定を立てていたので、二日くらいは問題は無い。ただ、東や南東方面からゴブリンやオークの群れがよく現れているということなので、その群れに連続で遭遇してしまうと、もしかするとグンジョー市に到着するのが遅れてしまう可能性がある。まあ、遅れそうだからと言って、遭遇した群れを無視して進むことはしないが、近くに狙っている冒険者がいない状況で発見してしまった時は、俺とじいちゃんの魔法で群れを即殲滅し、元群れを即回収することになっている。
素材の価値は二の次三の次になってしまうが、肉は元々あった在庫に加えてじいちゃんたちがリンドウで狩ったものがあるので、もったいない気はするが今回は速度重視で行くと、わずかに出た反対意見を押し切って決めたのだった。
最初の予定ではグンジョー市まで七日で到着するつもりだったが、それは途中の村や町に寄って休憩するという大分余裕を持った予定だったのでそれを変更し、野営を多くして四~五日程度での到着を目指すことにした。
「テンマ。そろそろ野営に入りたいところなのじゃが、思っていたより他の冒険者が多くての。このままだといらぬトラブルが起こるかもしれぬから、日が暮れるギリギリまで先に進みたいのじゃが、どうじゃろうか?」
夕方近くになり、そろそろ野営の準備に入らないといけない時間帯になったところで、御者をしていたじいちゃんからそんな提案が出た。それを聞いて『探索』で周囲の気配を探ると、確かに俺たちの他に四組の冒険者パーティーが割と近いところにいた。
なのでじいちゃんの言う通り、この場所での野営は見送ることにした。
「この辺りじゃと、川が近くじゃし風よけになる丘もあるからの。人気があるのは仕方がないじゃろ」
これが大きな街の近くなどであれば、盗賊まがいのことをする冒険者パーティーである可能性が低いのだが、ここはリンドウから少し離れた場所(通常の馬車だと一日半くらい移動したところ)なので、警戒するに越したことは無い。まあ、全員合わせても見張りのゴーレムの守りを超えることができるとは思えないけど。
この近くで野営をしていたパーティーの内の何人かは、この場所から離れていく俺たちの様子を見ていたが、追いかけようとする様子は見られなかった。
もしかすると、もうすぐ日が暮れるという時間帯なのにこの場所で野営をしない俺たちを怪しんでいるのかもしれないが、俺やじいちゃんはもちろんのこと、ジャンヌとアウラも野営に必要な魔法はある程度使えるので、丘や川が無くても風よけや水の問題は無い。なので、周囲に警戒しなければいない対象がいないのならば、例え草原のど真ん中でも快適な野営地を構築できるのだ。
草原だと魔物に襲われる心配はあるが、俺たちの場合だとゴーレムが主に見回りをするので、敵か味方か分からない人間よりも、ほぼ確実に敵だと判断することができる魔物の方が対処しやすいのだ。ただ一つ、ゴーレムに『近づいてくる魔物を排除しろ』と命令すればいいだけなのだから。
そんな感じでじいちゃんが選んだのは、草原のど真ん中にある小高い丘だった。
その丘の中心に馬車を停めて、その周囲に土壁を作れば野営地はほぼ完成で、後はゴーレムを周囲に配置しナミタロウの生け簀を出せば、俺の仕事は終わりだ。
それからジャンヌとアウラの作った夕食を食べ、シロウマルの散歩をしたり皆とゲームを楽しんだりし、俺とプリメラはいつものように早めに眠りについた……が、
「アムールも気が付いたみたいだな。それにプリメラも」
夜中に周囲の異変に気が付いて目が覚めた。小烏丸を手に取って外に出ようとすると、同じく女性用の区画からアムールとプリメラが姿を現した。
二人共まだ完全に目が覚めていないようだが、それでも武器を持って出てくるくらいの危機感はあったようだ。ただ、感じた異変はすでに安全なレベルまで下がっているようだが、外の様子を確かめなければいけないので、そのまま三人で馬車から出た。
「あれは……『オーガの番』?」
「だな。もう倒された後だけど」
アムールが目を細めながら、俺たちを起こした異変の正体を言い当てた。
「あっ! テンマ、起きたの?」
三人で倒されたオーガを見ていると、背後から声が聞こえた。振り向くとそこにはジャンヌと、その横にシロウマルとソロモンがいた。どうやら、夜食の準備をしていたようだ。シロウマルとソロモンは、夜食の材料を掴み食いしていたらしい。
「オーガが現れたからテンマを起こそうと思ったんだけど、マーリン様から放っておいても起きてくるだろうし起きる前には終わるだろうから、その代わりに夜食を作って欲しいって言われて……」
「やはり起きてきたか。もう終わったから、寝なおしてもよいぞ?」
ジャンヌの話を聞いていると、じいちゃんが肩を回しながら戻ってきた。寝なおしてもいいと言っているが、完全に目が覚めた以上、すぐに眠るのはかなり難しい。
「もう少し起きているから、じいちゃんは風呂にでも入ってきたら? どうせじいちゃんも、運動したばかりで眠れないでしょ?」
「そうじゃな。では、ひとっぷろ浴びてくるとするかのう。テンマ、アムール、ちゃんとわしの分の夜食を残しておくのじゃぞ」
じいちゃんはそう言って馬車の中に入って行ったが……すぐに戻ってきた。多分、お湯を温めるのが面倒になって、先に夜食にするつもりなのだろう。
風呂は夜食を食べている間にジャンヌが温めなおし、じいちゃんはようやく汗を流すことができた。じいちゃんが風呂に入っている間、俺とプリメラとアムールで見張りをし、ジャンヌは交代が近かったので風呂を温めなおした後は早めに休ませた。
オーガの番のせいなのかこの周辺に魔物はいなかったので、プリメラとアムールは寝かせようと思ったのだが、プリメラも完全に目が覚めてしまったらしくもう少し起きているそうで、アムールは今寝ても交代まで一時間も無いので、このまま起きているとのことだった。
「ふぅ~……さっぱりしたわい。ところでテンマ、オーガの番が出た以上、このままグンジョー市に直行するのは止めて、どこか近くの冒険者ギルドに報告せねばならぬのう。面倒じゃが、もしかするとオーガの情報は出回っておらんかもしれぬからのう」
リンドウを出る時に聞いた情報ではゴブリンとオークの群れが現れるいうもののみで、実際にここに来るまでゴブリンとオークしか見かけなかった。しかし、オーガ(しかも、繁殖の為に危険度が上がる番)の情報などは一つもなかったので、もしかすると初情報かもしれない。
初でなければ何も問題は無いがもしそうでなかった場合、ゴブリンやオークが相手だと想定して動いている冒険者に被害が出るかもしれない。特に、ゴブリン目当てで経験の浅い若手の冒険者もかなりの数が参加しているということなので、犠牲者のことを考えるとギルドに報告しないわけにはいかないだろう。
「プリメラ、ここから近い村か町はどこら辺にあるのかな?」
「正確な位置は分かりませんけど、ここから少し東に行くと川があるので、その川に沿って南下すればいくつか村があったはずです。ただ、冒険者ギルドがあるのかまでは分かりませんけど」
プリメラは少し自信なさげではあったが、とにかく村はあるとのことなので朝になったらまずは川を目指すことにした。ちなみに、その川はこの場所の前に野営地の候補にあげていた川の上流とのことなので、休憩中の冒険者が何人か見つかるだろう。その冒険者たちに軽く忠告し、何だったらギルドに報告するように言ってもいいかもしれない。
オーガの情報が初めてだった場合、報告者にいくらかの報酬金が支払われるかもしれないが、それは微々たるものなので惜しくは無い。むしろ、その報酬のおかげで動いてくれる冒険者がいるかもしれないので、それくらいは功績は譲ってもいいだろう。ただ、そう言った場合、冒険者のランクによっては確認が取れるまで身動きが取れなくなることもあるので、欲をかいて嘘の情報を報告してバレた場合は、最悪冒険者の資格をはく奪されることもある。まあ、俺たちから得た情報を報告するのも自己責任ということだ。
「その場合、嘘ではなく勘違いや思い違いだった時はどうなるのですか?」
「それでも、罰則は免れないな。一応、複数人に俺の名前を出してから報告するように頼むつもりだし、なるべく早く俺とじいちゃんの連名でギルドに証拠付きで報告するつもりだから、大きく間違えたりしなければ注意や警告で終わるんじゃないかな? もっとも、俺なら報酬を受け取らないで、『そう言った注意をしてくる奴がいた』とだけ報告するけどな」
そう言う風にすれば、確定した情報ではなく可能性がある情報と言う形になるので、報酬は出ないが間違っていても罰則を科せられることは無い。むしろ、情報が正しかった場合は金銭の代わりに、ギルドからの印象が良くなるという見えない報酬(のようなもの)が得られる可能性があるので、先を見据えるのならばそちらの方が得になると言えるかもしれない。
そんなことを話しているうちにアウラが起きてきたので、じいちゃんは交代して馬車に入って行った。アウラは交代した直後、俺とプリメラがいるのを見て大幅に寝過ごしたと勘違いしたところに、アムールがすかさずからかったので大慌てしたがすぐに周辺がまだ暗いことに気が付き、アムールに文句を言いながらも安堵のため息をついていた。
「それじゃあ、オーガの夫婦がまた出ても、アムールとゴーレムがいれば何も問題は無いわけですね?」
「うむ! オーガの番が相手なら……ツーペアまでだったら一人でも何とか倒せる! ……はず」
アムールは少し自信なさげだが、アウラや馬車の守りを考えなければ単独でも二組くらいは倒せるだろう。それに最初は単独で相手をしたとしても、ゴーレムや外で寝ているスラリンたちがすぐ助けに入るだろうから、例えその倍の数が襲ってきたとしても、アウラが俺やじいちゃんを起こすまでの時間は十分に稼ぐことができるはずだ。もっともアウラが起こしに来る前に、俺やじいちゃんは外の気配を感じて自力で起きる可能性がかなり高いけどな。
その後、二度寝をした俺とプリメラがジャンヌに起こされて外に出ると、アウラとアムールが言い争いをしていた。どうやら俺たちが寝た後で、一~二匹単位のオークを数度見つけたらしく、アムールは特訓だとか言って嫌がるアウラをオークに突撃させたそうだ。
流石にそれはひどいだろうと思い、アムールを注意しようと二人に近づいたところ、聞こえてきた内容から俺の思っていた言い争いの理由とは違うということが分かった。
その理由を知った俺が足を止めると、それを不審に思ったプリメラが近づいてきて俺と同じく二人の言い争いの理由を知り、そのまま放っておくことに決めた。ちなみに二人の言い争いの理由は、オークがアムールを無視してアウラに向かって行ったのを、アウラは「貧相な体格のアムールとは違い、私の方が魅力的だったから」みたいなこと言ったらしく、それに対してアムールが「オークと釣り合いの取れる贅肉が何を言う」みたいに返したかららしい。どちらが最初に言い出したのかは知らないが、そのままにしていても問題はなさそうなので好きなだけやらせることにしたのだ。
「ジャンヌ……知っていたのなら先に教えてくれ」
「それはわしが止めたのじゃ。どういった反応を見せるのか気になったからのう」
先に起きていて事情を知っていたであろうジャンヌに愚痴をこぼすと、ジャンヌより先に黒幕が理由を話してきた。それに対し文句を言おうとしたところ、「テンマも先に知っておったら、誰かに同じことをしたじゃろう? と言うか、したことがあるじゃろう?」と言われ、心当たりがあり過ぎたので黙るしかなかった。そんな俺とじいちゃんをプリメラは呆れた様子で見ていた。
「それにしても、少数のオークが何度も現れるのは少しおかしいのう……そんなに近くにいたのなら、一つの群れになっておるはずなのじゃがな」
オークは単体でもゴブリン数匹分に匹敵する力を持っているが、それでも魔法が使えない個体の方が多いし足も遅いので、大型の肉食獣や魔法の使える冒険者からすれば狩りやすい魔物である。なので、少しでも生存率や狩りの成功率を上げる為に近くにいるオーク同士で群れを作る習性がある。その中で強い個体がリーダーになるのだが、そのリーダーが優れているほどに強い群れとなる。逆に言えば、群れなければアウラでも倒せる魔物ということだ。
「考えられることは……群れからはぐれたか、追い出されたか、自分の意志で出たかかな?」
「自分で出て行った個体ばかりだとすれば、少し厄介なことになるかもしれぬのう……アムール! アウラ! 遊んでおらんで、倒したオークを見せてくれ!」
群れからはぐれたり追い出されたりと言うのは、よくあるとは言わないがそこまで珍しいことではないので特に気にする必要は無いが、自分の意志で出てきた場合は事情が変わる。自分の意志で群れを出る……それは、その群れに見切りをつけた可能性が高いのだ。
それは群れが自分に合っていないと判断した理由にもよるが、基本的に向上心……野心にあふれる若い個体が出て行くことが多く、若い個体に出会う数が多いということは、元の群れにはさらに多い数がいるということだ。
「出て行く理由としては、そこにいても自分の地位を高めるのが難しいとか、血が濃くなりすぎて自分の子孫を残せないとかが考えられるけど……どんな理由にしろ、群れを出て行った個体は好戦的なのが多い傾向にあるからな。元の群れがどこにいるのか分からないけど、その群れが近くにいた場合、公爵領とその周辺の領地全体で警戒しないといけないだろうな」
そう言っている間に、アムールとアウラがやって来て倒したオークを出したので、それをじいちゃんと一緒に調べた。
「じいちゃん、やっぱりどれも若い個体ばかりみたいだよ。いずれも繁殖できるくらいの大きさだし、オスメス揃っているから、放っておいたらかなり大きな群れに成長するかもね」
「そうじゃな。ならば今日は、近くにある冒険者ギルドを目指しながら、道々で見かけた冒険者や旅人などに忠告しつつ先を進むとするかのう」
今日の基本方針が決まったところで、ジャンヌの用意した朝食を食べてすぐに出発することにした。
次の村までは道中はなるべく休憩を取らずに移動し続けることになったので、今回は俺とプリメラも御者をすることにした。
急いだ甲斐あってか、昼前には冒険者ギルドの支部がある村に到着することができ、その道中では二十を超える冒険者に危険を伝えることができた。
ギルドの受付で緊急性の高い話があると伝えると、最初は受付の職員に怪訝な顔をされたものの、すぐに俺とじいちゃんとプリメラの身分証を出したことで奥の部屋へと案内された。
奥の部屋で支部長(ギルド長より少し下の役職)にここまでの話と共に仮定の話をすると、すぐに周辺の村や町へも知らせると約束してくれた。この辺りは、今のところ発見されたのはオークやゴブリンの群れだけだそうで、オーガの報告は入っていないそうだ。ただ、それでも新人から数名の死者が出ているらしい。
「やはり、新人にオークは厳しいのかもしれませんね」
「犠牲が出たのは残念じゃが、運が悪かったか引き際を誤ったか、オークを甘く見たかじゃろうな」
プリメラの呟きにじいちゃんがそう答えたが、多分じいちゃんは残念だとは思っていないだろう。例えオークがアウラでも倒せる魔物とは言え、体力と筋力と耐久力は平均的な成人男性を上回っているのだ。ただ、知能せいで討伐難度は低くなっているが、中には知能の高い個体や、知能の低さをカバーできる程の身体能力を持つ個体もいるので、経験が浅い者が油断していい魔物ではないのだ。まあ、それはどの魔物に対しても言えることではあるのだが。
昼過ぎにはギルドへの報告も終えたので、俺たちは予定通りグンジョー市への移動を再開した。
支部長はもう少し村に留まってほしかったみたいだが、俺たちにも予定があるのでグンジョー市のギルドとサンガ公爵家に直接報告するとだけ約束して村を出てきた。
「ところで、テンマとジャンヌは先程から何を作っているのじゃ?」
じいちゃんとプリメラの話に相槌打ちながらも、俺とジャンヌはある作業を行っていた。それは、
「いや、オーク肉が急激に増えたから、オーク肉を使った料理を作っているんだよ」
今作っているのは豚汁と豚丼の具だ。両方とも肉は脂身の多い部分を使ったので、浮かんでくるあくと余計な脂を丁寧に取り除きながら煮込んでいる最中である。
他にもトンカツや角煮、メンチカツやハンバーグと言ったものも作るつもりなのだが、今は馬車の中でも作りやすく夜食にもしやすい料理を選んだのだ。
「ああ、それで先程からいい匂いがしていたのですね」
「こんな匂いを嗅がされれば、シロウマルとソロモンがよだれを垂らしながらテンマのそばで待機しておるの仕方のないことじゃな。ジャンヌ、味見用に少しよそってくれぬか?」
豚丼の具を煮込んでいたジャンヌに、じいちゃんがさり気なく味見と称して具を要求し、ジャンヌもその自然な流れで豚丼の具を渡してしまった。しかし、
「シロウマルとソロモンは別に貰うのじゃ! お主らが食べる程の量は貰っておらんぞ!」
食いしん坊に目を付けられて具をたかられ、ゆっくりと味見などできない状況に追い込まれていた。
じいちゃんが犠牲になっている間に俺は手早く味見を済ませ、ジャンヌにもう少し煮込むように指示を出した。
じいちゃんが豚丼の具を狙うシロウマルとソロモンに抵抗した為、その騒ぎに気が付いて窓から様子を見ていたアムールも騒ぎ始めたので、それらを鎮める為に今日の夕食はオーク肉を使った料理になることが決まったのだった。
ちなみに、じいちゃんから肉を奪うことに成功した二匹は、更なる獲物を求めてジャンヌに突撃しようとしていたが……俺とスラリンに阻まれて、夕食の時間まで馬車の隅っこで落ち込んでいた。
オーガの番をギルドに報告してから四日後の昼前に、俺たちは無事にグンジョー市に到着した。グンジョー市に来るまでに、オークとゴブリンの群れには数回遭遇した。ゴブリンも含めて若い個体が多かったので、やはり大きな群れがいくつかあるようだ。
そして問題のオーガだが、こちらも二度遭遇し、計三匹を倒した。二度の戦闘の内、単独で活動していたオーガはシロウマルが、番で活動していた方はプリメラが女性陣の指揮を執って倒した。オーガ退治の功績をもって、プリメラは冒険者のランクがBに上げることができるかもしれない。
かなり速いように感じるが、元々学園生の時に登録はしていたそうなので、登録期間だけで言うとじいちゃんに次いで長いことになるし、前職と出自のことを考えるとほぼ確実というところだろう。
なお、ジャンヌとアウラもBランクに上げようと思えばすぐになれるくらいの功績はあるのだが……二人共、純粋に自分の力で得た功績でないことと、元貴族とそのお付きと言う立場なので、面倒臭いことに巻き込まれる可能性があるということで、絶対に上げたくないらしい。
「予定だと最初は『満腹亭』で一休みすることになっていたけど、先にギルドに行くからな。最悪、俺とじいちゃんだけでいいから、疲れていたら馬車の中にいてもいいぞ」
何度か戦闘をこなしながら急ぎ足でここまで来たので、休憩がてら身だしなみを整えたいだろうと提案したのだが、そう何時間もしないうちに『満腹亭』で休むことができるので、自分たちも報告すると返ってきた。ただ、アウラはいの一番に喜びの声を上げようとしてから、周囲の反応に気が付いて合わせていたので、なるべく早めに報告は済ませた方がいいだろう。まあ、ギルド長はともかくとして、フルートさんはその辺りの気遣いが出来る人なので、長時間拘束されるようなことにはならないはずだ。
馬車をマジックバッグに入れ、スラリンたちをディメンションバッグに待機させてからギルドに入ると……中は大混乱と言った様相だった。