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第18章-2 映画のワンシーン

「テンマ殿、マーリン殿、誠に申し訳ない!」


 義兄となるサルサーモ伯爵の謝罪から始まった説明は、色々と運が悪かったという感じるものだった。

 まず、この結婚式場に母さんの元実家が来ていた理由は、簡単に言うとサルサーモ伯爵家の家臣が招き入れたからだった。その家臣だが、ブラウン子爵家(母さんの実家)当主とは学園時代の同級生で、それなりの付き合いがあったそうだ。結婚式を知ったブラウン家はその縁を利用して結婚式に潜り込み、オオトリ家との不仲を解消しようと企んだそうだ。普段ならいくらブラウン子爵家を嫌っていても、結婚式のような目出度い場でなら機嫌がいいだろうから何とかなるのではないかと考えたそうだが(他にも、ついでに俺の名前を使ってサンガ公爵家などの大物貴族と縁を結ぼうとも考えていたらしい)……逆に目出度い場を壊されたと機嫌が悪くなることを考えられなかった辺り、救いようがない馬鹿と言うか、それほどまでに後が無い状況にまで追い詰められていたのか……まあ、その両方だろうけど。

 ちなみに、ブラウン子爵家を招き入れた家臣は、ブラウン子爵家当主の口車に乗ってしまったのと、成功した時の利益(オオトリ家を含む、数名の有力者に恩を売れると考えたそうだ)に目がくらんだそうだ。それら加え、俺の性格をいまいち分かっていなかったというのも、騒ぎを起こした理由の一つだろう。

 

 そんな家臣の暴走を知ったサルサーモ伯爵は怒りのあまり、見つけた瞬間にその場で家臣とブラウン子爵を殴り倒し、外まで引き摺って行って首を切り落とそうとしたそうだ。ただ、首を切り落とす直前でライル様に止められたので、二人が殴られた時に鼻や口から血を流した以外には血を見るような状況にはなっていないらしい。

 サンガ公爵が「あの馬鹿が!」と言ったのは、結婚式の日に式場で首をはねようとしたこととライル様に迷惑をかけたこと、そして王様の近くで血を流させたことだそうだ。伯爵がその場で二人を殴り倒した理由の一つに、ブラウン子爵が王様に近づこうと様子をうかがっていたこともあるが、それは一歩間違えれば王様たちが危険に晒されたと判断される恐れもある行為で、その場合は王様たちが結婚式の出席を取りやめて王城に戻るということもありえたのだ。その場合は結婚式の中止もありえた。そして、その責任はサルサーモ伯爵家は当然として、サンガ公爵家も取らなければならなかっただろう。

 サンガ公爵が言うには、王様たちの前で殴り飛ばす前に二人を連れ出し、どこか見えないところで殴れば問題なかったそうだ。まあ、それでも目立ってしまうことには間違いないが、その場合に止めに入るのは客だが近衛兵でもあるディンさんやジャンさんたちか、公爵家側の警備兵だっただろう。


「だと言うのに、陛下とマリア様や王族の方々の前で殴ったせいで、ライル様が動いてしまった」


「それは、ディンさんたちを無視して動いたライル様にも問題があったと思いますけど……そう言う話ではないのですよね?」


「ああ、王族の方々の目の前でなければ知らなかった、もしくは後で知ったということにもできたのだ。だと言うのに……」


「流石に目の前でやってしまっては、ごまかすことは出来ぬというわけか。公爵家としても王家としても」


 人の見ていないところのことはどうとでも出来る人物の集まりなのに、人の見ている目の前でやってしまったから問題になったのだ。俺から言わせれば、ライル様が出て行ってしまったことにも原因があるように思えるが、伯爵はライル様が学園に在学していた時の後輩であり顔見知りであった為に、思わず動いてしまったという事情もあるそうだ。だからこそ俺は、色々と運が悪かったと思ってしまったわけだ。


 このままでは、最悪結婚式が中止となってしまうこともありえるので、伯爵の失態をなかったこと……にはどうあがいても出来ないので、強引にでもごまかす方法を考えなくてはいけないのだ。迷惑をこうむった立場になってしまったが……まあ、母さんの元実家が関わっているとなると、多少は俺にも原因があると言えそうだし、何より結婚式を中止にするわけにはいかないので、強引だろうが何だろうが何とかしなければならない。


 そうして俺が考えたごまかし方が、


「つまり、ヘンドリック義兄さんは俺のことを思った結果、怒りのあまりつい体が動いてしまったというわけですよね?」


 伯爵が()()()()()()で二人を殴って斬り捨てようとしたわけではなく、義弟となる俺と義妹のプリメラのハレの日を台無しにされそうになったことで怒った結果だということにしようというわけだ。

 かなり苦しいごまかし方ではあるだろうが、じいちゃんの代から続く我が家とブラウン子爵家との因縁は有名な話なので、事実と嘘を上手く混ぜた話を世間に流せば多くの味方を作ることが出来そうだ。それに加えて、一言でいいので王様から伯爵へお褒めのお言葉でも貰うことが出来れば、俺の為だったという真実味が増すし、多少の問題があっても伯爵の名誉は守ることが出来るだろう。ついでに、王様の器の大きさも示すことが出来るかもしれない。


「とりあえずその線でごまかせないか、王様とマリア様に確認を取って来よう」

「そうじゃな。まあ、断るとは思わんが、こういう時の為にアレックスとアーネストの弱みを何個も握っておるからのう……無理やりにでも協力()()()()()()ではないか」


 俺の案は王族を利用するものなので、王様とマリア様に話を通して許可を貰ってから実行しないといけない。まあ、王様たちもブラウン子爵家のことは父さんと母さんがらみで嫌っているみたいだから、多少文句は言われるだろうが協力してくれるだろう。

 じいちゃんも嬉々とした表情で、あれにしようかこれにしようかと、頭の中で二人の弱みを厳選していた。


「それじゃあ()()()()()()()()()()、ちょっと王様たちのところへ挨拶に行ってきます」


「陛下とマリア様は専用の控室にいらっしゃいますので、私が案内いたします」


 俺は公爵と伯爵に断ってから、じいちゃんと共にアイナの案内で王様たちのところへと向かった。

 そして結論から言うと、すんなりと俺の案は採用されることになった。そしてついでに、正座させられて怒られていたライル様から謝罪もされた。何でも、ライル様はあそこで伯爵を追いかけずにディンさんかジャンさんを走らせていればよかったのだと、王様とマリア様に言われたのだとか。普段ならライル様もそれくらいのことは分かっているはずだが、伯爵が後輩で顔見知りだったので自分が止めないといけないと思い、つい体が動いてしまったと後悔していた。



「そんな感じで、今回の騒動は無事に収まりそうです」


「わしはアレックスとアーネストで遊ぶことが出来んで不満じゃが、これで問題なく結婚式を行うことが出来るのじゃから、まあよかろう」


 プリメラの控室に戻ってサンガ公爵と伯爵に報告すると、サンガ公爵はどこか呆れたような表情を浮かべ、伯爵は安堵の表情を浮かべた。


「それで、ブラウン子爵家とお義兄さんの家臣はどうなりそうですか?」


「ブラウン子爵家の方は、恐らく取り潰しとなるだろう。元々評判も良くなかったし、子爵家すらまともに運営できずに今回の騒動を起こしたんだ。騒ぎは起こしたが死罪に値する程ではないから、子爵は投獄で家族は子爵婦人の実家に引き取らせるかどこか遠くの地へ追放と言ったところだろうね」


「我が家の家臣については、更迭の上伯爵領に身柄を移送し投獄、その後罰を与えるつもりだ」


 子爵に関しては、死罪に値する程ではないが不法侵入などの騒ぎを起こして王様が招かれている結婚式を台無しにしようとした罪で投獄。ブラウン子爵家は取り潰しとするがその家族は情状酌量の余地ありということで連座での投獄から減刑し、引き取り手(監督責任者)がいるのならそちらに任せるが、名乗り出ないなら王都から離れた地へ追放になるだろうとのことだった。伯爵の家臣については……伯爵ははっきりと言ってはいないが、あの様子では投獄の後で死刑になりそうだ。ライル様に止められはしたが、伯爵は家臣とブラウン子爵を怒りに任せて斬り捨てようとしていたそうだから、その可能性が一番高いだろう。

 サンガ公爵とサルサーモ伯爵は改めて謝罪すると、他の参加者たちのところへと向かって行った。


「何はともあれ一件落着と言うわけで、開始時刻までのんびり……するほどの時間は無いかな?」


「恐らくは、その通りかと。招待客の中には、この後に予定も入っておられる方もいられるでしょうから、トラブルが収まった以上はすぐにでも開始してほしいと思っている方もおられるはずですので」


 大分開始時刻が遅れているので、トラブルが収まったのならなるべく早く開始になるだろうとアイナは答えた。そして、アイナが答えたすぐ後に会場のスタッフが準備をして欲しいと言いに来た。


「アイナ、済まないけど俺とプリメラの衣装のチェックを頼む」


 汚れてはいないと思うがしわは付いているかもしれないので、細かなところまで見ることのでき、なおかつこういったことに慣れているであろうアイナが適任だ。間違っても、アウラに頼むことは出来ない。絶対に見落としかポカをやらかすからな。


「テンマ様もプリメラ様も、問題はありません」


「それじゃあ、スタッフにいつでも開始できると伝えてくれ」


「了解しました」


 アイナのチェックが無事に終わったのでスタッフに伝えに行ってもらうと、数分後にアイナはスタッフと一緒に戻ってきた。何でも、俺とプリメラの準備が出来ているなら、すぐにでも招待客に伝えて式を開始したいとのことだった。

 なので、スタッフが来てから十分もしないうちに、俺とプリメラは式場のドアの前に立ち、スタッフがドアを開けるのを待つことになったのだった。


「テンマさん、ここに来て心臓が張り裂けそうなくらいに緊張してきました……どうしましょう」 

「大丈夫、俺も同じだから……昔より多少は人前に出る度胸が付いたと思っていたけど、経験が全く役に立っていないみたいだ」


 冗談気味に言うと、俺もプリメラも多少は緊張が薄れたのか少しだけ笑みを浮かべる余裕が出来た。それを見たからなのかスタッフからドアを開く合図が出たので、プリメラが俺の腕に手を回してきた。


「それじゃあ、行こうか?」

「はい」


 こうして俺とプリメラは招待客の見守る中、夫婦になる為に歩き出した。



プリメラSIDE


 自分には縁のない光景だと思っていた。外から眺めるのが常であり、主役にはなれない……いえ、きっとならないだろうとも思っていた。

 幸運なことに私は公爵家に生まれたにもかかわらず、公爵家の駒として使われることは無かった。末の娘ということで可愛がられたことや、駒として嫁がせなくても公爵家が盤石だからと言う理由もあっただろう。だけど、それを差し引いても貴族としての常識から外れていることには違いない。貴族としての責務を果たさないのであれば、リーナのように実家の支援を受けずに生きていくくらいのことをしなければならなかっただろう。まあ、リーナも完全に実家と縁を切っているわけではないけれど、彼女は冒険者として成功したと言われるくらいの実績を上げている。そのことを考えたら、十分実家に貢献したと言えるでしょう。

 そんな彼女と比べ、私は親のお金で学園に通い、親のコネで職を得て、親の力で分不相応な地位に就いていた。迷惑はかけても、貢献したとは言えなかった。

 だからだろうか? 始めてテンマさんと会った時、私は私が欲してやまなかったものを簡単に手に入れた彼に嫉妬した。その頃の私は部隊長だったとはいえ、実際は学園を卒業して一年ちょっとの新人だった。学園を好成績で卒業したとはいえ、普通は騎士見習いとして入団し、部隊内で掃除や洗濯をしつつ経験を積み、上手くいけば『見習い』が取れるかなと言うくらいの時期だ。そんな私が部隊長だったのはどう考えても公爵家のコネであり、何の実績もない小娘に命令される部下は……いえ、多くの騎士団員にとっては屈辱的なことだっただろう。だから馬鹿にされ、なめられた。流石に表立ってそう言うことをする者はいなかったけれど、見えないところでは……それこそ、騎士団本部で私がいることに気が付かなかった団員が同僚と一緒になって笑っている場面に出くわしたことも何度かある。その時は決まって聞こえなかったふりをしたけれど、そのたびに心の奥にドロドロとした黒い感情が生まれるのを感じていた。

 そんな時に、テンマさんがリリーさんたちと四人で騎士団が手を焼いていた盗賊団を壊滅させ、生き残っていた被害者たちを救出するという大手柄を挙げた。だから嫉妬した。手柄を挙げたのがベテランの冒険者、それこそ『暁の剣』のような実績と名声を持つパーティーだったなら、嫉妬はしても自分を納得させることは出来たと思う。しかし、実際には即席と言っていいくらいの四人組(パーティー)で、しかも私よりも年下の女性が三人に、冒険者登録したばかりでこれが初めての依頼だった少年の組み合わせだ。だから、実力で挙げた手柄ではなく、ただ単に運がよかった結果だと思った。いえ、思いたかった。その結果、私は彼にお門違いの怒りから醜い感情をぶつけた。

 そんな私の感情はテンマさんに軽くあしらわれ、私が公爵家の者だと知っても態度を崩さないその様子に内心恐怖を覚えた。そしてギースの件では、自分も多少の実績を得ることが出来るかもしれないと、公爵家の名を汚された怒りの中に、ほんの少し喜びも感じた。まあ、それはお父様にはすぐにバレ、最初の嫉妬の件と共に大目玉を食らってしまったけれど……その時のお父様の反応と、その後のテンマさんのお父様への態度を見て、初めてテンマと名乗る少年に興味を覚えた。そしてその興味はテンマさんの過去の一部を知り、同情を経てすぐに尊敬へと変わった。

 私がテンマさんに、嫉妬、怒り、恐怖、興味、同情、尊敬を覚えた時のことは覚えている。だけど、恋した時のことは分からない。ただ漠然と、『この人を好ましく思っている』と思うことはあっても、それ以上の感情になったのがいつなのかは分からない。もしかすると、セルナさんの結婚式の時に芽生えたのかもしれないしそれよりずっと前、テンマさんがグンジョー市から拠点を移すと報告に来た時かもしれない。ただ、ダンスのパートナーに選ばれた時にはすでに自覚していたので、好きだった人に結婚を申し込まれて嬉しかったということだけははっきりしている。


 ウエディングロードの半ばまで来ると、前の方の席に座っている人たちの顔がはっきりと見えてきた。お父様やお母様たちは涙ぐみ、お兄様やお義姉様たちは笑顔で祝福してくれている。オオトリ家側の席では、涙ぐむおじい様にマークさんとマーサさん、満面の笑みの陛下とマリア様もいた。しかし、一番に視線が向かったのはジャンヌとアムールのところだ。彼女らはテンマさんの家族に近い間柄と言うことで、おじい様たちの一つ後ろの席に座っている。陛下とマリア様が三列目に座っていることからも、二人の扱いがいかに特別かが分かるほどだ。

 そんな二人がテンマさんを好きなことくらいは理解しているし、テンマさんが二人を大切に思っていることも理解している。そして、私がそんな二人を差し置いてテンマさんの妻になるということも、十分に理解している。だからだろう。横から割り込んできた私に嫌な顔一つせず、笑顔を向けてくる二人の姿を見ると心が少し痛む。もっとも、その代わりではないが自分たちがテンマさんの側室になれる可能性を残させた辺りは強かだと言えるが、私としてもあの二人がいてくれた方が色々と心強いし、それくらいの条件を受け入れるのは当然だと思っている。


 最前列のお父様やお母さま、そしておじい様の横を通り過ぎると後は神父様がいるだけだ。あそこに立って十分もすれば、私はプリメラ・フォン・サンガからプリメラ・オオトリになる。

 そんな時、テンマさんと歩調が一瞬だけずれた。私もだけど、テンマさんも緊張しているみたいだ。少しほっとした。


 神父様の前に立つと、神父様が何か宣言を始めた。その宣言が終わると、神父様はテンマさんに何かを問いかけ、テンマさんは「誓います」と返した。正直言って、緊張のせいで神父様の言葉が耳に入ってこない。そんな中、神父様は私の方に顔を向けて口を開いた。やはり神父様の言葉の意味がよく理解できないが、練習の時を思い出しながら半分勘で、


「誓います」


 と返した。神父様が少し驚いたような顔をしていたので、もしかすると少しタイミングが早かったかもしれないけれど、テンマさんは微笑んでいるだけなので大した問題ではなかったのだろう。

 そして神父様から結婚指輪が渡され、テンマさんが私の左の薬指に指輪をはめてくれた。そして、私もテンマさんの左の薬指に指輪をはめる。もっと感動するかと思ったけれど、この後のことを考えるとそれどころではなかった。


「それでは、誓いの口づけを」

 

 ついに来た! 誓いの口づけのことを思い出したせい? おかげ? で、誓いの言葉の時にあれだけ緊張していたのに、指輪交換の時にはかなり冷静になることが出来ていたのだ。

 それにしても初めてのキスが挙式でと言うのは、政略結婚以外ではかなり珍しいのではないでしょうか? ……そんなことを考えていたら、また緊張してきてしまった。


 私の緊張をよそにテンマさんが目の前に立ち、ベールをめくり肩に手を添えました。そしてテンマさんの顔が徐々に近づいてきて、ついにその時が……と言う直前に、テンマさんが何かを警戒するように私を背に庇う形で入場してきたドアの方に体を向けました。よく見ると、おじい様にアムール、ハナ子爵とクリスさんとジャン近衛副隊長も飛び出して、ディン近衛隊長を始めとした近衛兵は陛下とマリア様、そして反対側にいるシーザー様たちを守ることが出来る位置に素早くつき、ブランカさんも奥さんと息子さんを守ろうとしていた。

 それに対し公爵家側の反応は遅く、近衛兵がシーザー様たちの守りに入ってから少し遅れて警戒を始めたくらいだ。一番早く動いたステイルでさえ、お父様たちの守りについたのは近衛兵の後だった。まあ、ステイルには悪いけど、実力差を考えれば仕方がないことではあると思う。ただ、それを差し引いても失態と言われても仕方がない。これが実戦なら、ステイルのその一瞬の遅れが取り返しのつかないことに繋がりかけないのだから……この騒ぎが収まったら、方々に頭を下げないといけないでしょうね……いくら脅されたとはいえ、こんな悪ふざけの片棒を担いでしまったのですから……唯一の救いは、片棒を担いだ仲間が私だけではないということでしょうけど……せめて、もう少し早くか遅くに乱入してくれるとよかったのにと、私は心の中で乱入者への恨み言と共に、この場にいる全ての人に謝罪するのでした。


                             プリメラSIDE 了



 プリメラが誓いの言葉の時に緊張して、神父が言い終わる前に返事をしてしまったのは少し驚いたけれど、問題になることなく指輪の交換まで予定通り進んだ。

 そして誓いのキスの時がやってきたが、初めてのキスが結婚式になるなんて……まず間違いなく、皆にからかわれるだろう。そう言うタイミングが無かったと言えばそれまでだが、流石にそれは通用しそうにないし、自分でもヘタレだったと認めざるをえないことだ。

 そんな俺とプリメラの初めてのキスの瞬間が、あと一分もしないうちに訪れようとしている。緊張で手が震えないように気を付けながらベールをめくり、プリメラの肩に手を置いて顔を近づけようとしたまさにその時、


(何かが高速で使づいてきている!)


 高速でこの場所に向かってきている気配を感じた。すぐに『探索』と『鑑定』を使うが、その正体は不明だ。

 そんな乱入者に対し、俺とじいちゃん、ディンさんにハナさんとブランカがほぼ同時に気が付き、それぞれ臨戦態勢を取り、ジャンさんやクリスさんたちはディンさんが動いた次の瞬間には条件反射のように王族の守りについていた。オオトリ家側ではアムールが他の皆よりほんの少し遅かった感じだが、公爵家側は一番早かったステイルですら、そのアムールより遅れていた。まあ、遅れたとは言っても、時間にして一秒あるかないかの出来事の中での話なので、そこまで致命的な失敗ではないと思う。むしろ、こちら側の招待客が規格外の集まりなのだと言えそうだ。ちなみに、魔法なしならディンさんと互角にやり合えると言われているハウスト辺境伯は、ステイルから遅れて警戒態勢に入っていたが、辺境伯の場合は守るより守られる側の立場なのであまり比べる意味がないだろう。


 プリメラを背に守り、乱入者が向かってきているドアの方を警戒しているが、あいにく武器になりそうなものを取り出す暇はなさそうなので、いつでも魔法を放つことが出来るように覚悟を決めた。

 そして、乱入者がドアの前で止まった。そして、


「その結婚、ちょっと待ったーーー!」


 映画のワンシーンのごとく飛び込んできた。その乱入者の名はナミタロウ。何をやらかすか分からず心配していたが、よりにもよってこのタイミングで来るとは……絶対に狙ってのことだろう。

 まあ俺もプリメラもあの映画のように、結婚相手を置き去りにしてナミタロウの元へとは走らなかったけど。

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― 新着の感想 ―
[一言] ナミタロウ 知ってて無視したな? 笛
[気になる点] テンマのファーストキスって、一番最初の武闘会でクソアムールに奪われてるよね?
[一言] で、ナミちゃん蹴られてオチと?w
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