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第18章-1 結婚式

「じいちゃん」

「何じゃ?」

「やけに人が多くない? ここ、俺の控室であって、男性の控室じゃないんだけど」


 ついに結婚式を挙げる日になり、俺は衣装に着替えて控室で時間が来るのを待っているのだが、何故かその控室は人で溢れていた。


「身内であるじいちゃんはともかくとして、何で相手(プリメラ)側のサンガ公爵様とアルバートがいるのか分からないんだけど?」


 その他にもカインとリオンがいて、先程までは王様にライル様にティーダにアーネスト様、そしてサモンス侯爵にハウスト辺境伯までいた。

 一応、王様とティーダとアーネスト様、そしてハウスト辺境伯は俺の招待客となっているので様子を見に来るのはおかしいことではないが、ライル様とサモンス侯爵とカインとリオンはプリメラの招待客となっているし、サンガ公爵とアルバートに至ってはプリメラの身内だ。こちらに来て悪いということは無いが、普通はプリメラの方に入り浸りになるんじゃないかなと思うのだ。

 そんな俺の疑問に対するじいちゃんの答えは、


「まあ、追い出されたのじゃろう。女性の身支度に男がおるのはまずいからのう。そして行き場を無くして、こちらに来たと言うところじゃろうな。カインとリオンは、ただ単に暇じゃからじゃろう。プリメラ側の招待客となってはおるが、実際はテンマと連名で招待した客のようなものじゃからな」


 あの二人に関しては、付き合いの長さはプリメラだろうが濃さは俺じゃないかとなり、どちらの招待客の席に座らせるかという話し合いをプリメラとした。その話の中で『どちらでもいい』となりはしたが、結局二人は世間的にアルバートと三人で一組だろうということで、プリメラ側の招待客の席に座らせることになったのだ。しかし、その後である問題が発生した。それは、ハウスト辺境伯を俺側の招待客として扱うことになったのだ。辺境伯は、リオン経由でプリメラと顔見知りではあるがサモンス侯爵より付き合いがあるわけではなく、以前辺境伯領に行った時の付き合いを考えれば俺の方が縁が深いとサンガ公爵とサモンス侯爵に言われたのだ。幸いなことにククリ村は辺境伯領にあったので、俺は一応ハウスト辺境伯領の元領民になるのだ。まあ後でサンガ公爵から、俺と辺境伯の関係は良好だというアピールが一番の理由だとは言われたが、実際は俺とプリメラ側の招待客の差を少なくする為だろう。


「それなら仕方がない……のかな? まあ、それは別にいいんだけどねぇ……」

「何じゃ? サンガ公爵とアルバートに問題でもあるのか?」


 カインとリオンに関してはどうでもいいかと思ったが、同時に別の問題を思い出してため息をついてしまった。じいちゃんはそんな俺の様子から、サンガ公爵とアルバートがここにいることを問題視しているとでも思ったようだ。そして、そんな俺たちの会話に聞き耳を立てていた公爵とアルバートが、一瞬ピクリと反応して動きを止めた。


「いや、カインとリオンがいる時点でアルバートがいるのは仕方がないし、公爵様は問題を起こすことは無いだろうからいいんだけど……昨日になって、結婚することを知らせてない奴がいるのを思い出した……」


「……誰じゃ?」

「ナミタロウ」 


「それは何と言うか……色々とまずいことになりそうじゃな」 


 どこにいるのか分からないが、せめて半月前に思い出していたら昔貰った笛で何とかなったかもしれない。ちなみに何故思い出せたのかと言うと、このところ眠ると神たちの宴会に参加させられていたことがきっかけだ。

 神たちは俺の結婚に関してはだいぶ前から知っていたらしいが、俺を呼ぶことが出来ない状況だったそうだ。三日前にはミイラのように萎れた創生神が縄で柱に括りつけられていて、二日前には魔法神が、そして昨日は技能神が創生神と同じような状態だった。しかも三柱とも、暴行を受けた後で柱に括りつけられたようで、傍から見ると死んでいるのではないかと見間違う程だった。まあ、それくらいでは死ぬことは無いと言うことだったけど。

 三柱が括りつけられていた理由はずばり生贄であり、前に俺を呼ぶ為に創生神を犠牲にしたのと同じやり方だそうだ。最初に犠牲となった創生神は全員からタコ殴りにされ、二番目の魔法神は魔法を使われると厄介だからという理由で武神に奇襲を受け、最後の犠牲となった技能神は破壊神とのタイマンに負けた結果だそうだ。

 そんな一日ごとに犠牲が増える宴会の最終日(昨日の夜から今日の夜中の宴会)で、ナミタロウの話が誰かから出たことで発覚したのだ。その場で急遽神たちがナミタロウにコンタクトを取ろうとしたがナミタロウは呼びかけに応じず、そのまま今に至るのだ。


「ナミタロウのことだから呼ばれていないと知ったら……大騒ぎするよね? 俺たちが想像もしないやり方で……」


 俺の名を叫びながら王都中を爆走するとか、嫌がらせにベヒモス(親の方は常識があるそうなので、子供の方の可能性が高い)を連れてくるとか、うちの庭で『はどーほー』を打ち上げ花火替わりにぶっ放すとか……予測がつかない。正直言って、今考えたことをやってくれた方がよかったと思えるくらいのことはやりそうだ。


「テンマ……もしナミタロウが騒ぎに来たら、誠心誠意謝罪して穏便に済ませて貰うのじゃぞ。出来るだけ、テンマ一人の犠牲でのう」


 俺一人が犠牲になれと言う薄情な言い方ではあるが完全に俺の方に非があるのだし、いつもの言動から忘れがちだがナミタロウはあれで俺に匹敵する力を持っている。しかも俺とは違い、人の世に縛られていない上に、騒ぎを起こして王都を壊滅状態に追い込んだとしても、気にせずに生きて行くことの出来る魔物(そんざい)なのだ。実際には王都を壊滅状態にはしないだろうけど、うちの屋敷を半壊状態くらいにはしそうだ。


「結婚して、一番最初の大仕事がナミタロウへの謝罪か……」

「後々、笑い話になるような思い出になるとよいがのう……」


 俺もじいちゃんも、ナミタロウに関しては諦めモードだ……と言うか、ナミタロウがどういった行動を起こすのか全く予測がつかないので、諦めるしかないというのが本音だった。

 そんな俺とじいちゃんの暗い雰囲気に気が付いたらしいアルバートとサンガ公爵は、ここから逃げ出すかのようにプリメラの様子を見に行ってくると言って出て行ったが、数分もしないうちに戻ってきた。どうやら追い返されたようだ。二人共、俺とじいちゃん程ではなかったが、少し暗い雰囲気になっていた。



「それじゃあ、結婚式の前に対ナミタロウ作戦の話し合いをするぞ。まず、テンマが誠心誠意謝罪する。これは絶対条件じゃ」


「了解」


 何もせずにナミタロウの襲撃を待っているだけでは被害が大きくなるだけなので、最低限の対策を話し合うことにした。進行はじいちゃんで、話し合いのメンバーはここにいる男性陣(俺、サンガ公爵、アルバート、カイン、リオン)だ。本当なら王族から一人くらい来てほしかったが、こういう時に限って姿を現さない(戻ってこない)ので、仕方なく抜きでの話し合いになった。


「テンマ一人の謝罪で済めばいいが、それで収まらなかった場合はアルバートを追加する。義兄としての初仕事じゃな」


「そこは妻になるプリメラの仕事では?」


「アルバート……いくらプリメラがテンマの妻になるとは言え、ナミタロウとの付き合いで言えばお主の方が深いじゃろうが。妹に土下座させて、それをそばで眺める方がいいというのか?」


「いえ、それは……って、土下座ですか!」


「まあ、謝意を示すなら相手より頭を低くするのが普通だから、自然とそうなるだろうね。アルバート、マーリン様の言う通りにやりなさい。これは命令だよ」


 アルバートは途中まで納得しかけていたが、謝罪方法が土下座と聞いて驚いていた。しかし、サンガ公爵がアルバートにやるように命令を出したので、アルバートが俺の後に続くことが決定した。


「それも収まらなかった場合は、カインとリオンも追加じゃ。一応二人はテンマの身内というわけではないので、アルバートの後になるが……まあ、覚悟しておくことじゃ」


「サモンス侯爵とハウスト辺境伯には私から話を通しておくから、遠慮することなく頭を下げるといい」


「せめて、ここにいるメンバー以外が見ていないところでお願いします」

「いや、そこは断るところじゃないのか?」

「リオン……テンマとアルバートが覚悟を決め、マーリン様が取り仕切ってサンガ公爵様が積極的に協力している時点で、例え王族であったとしても止めることが出来ないところまで話は来ているんだよ……なら、せめてダメージを小さくしてもらえるように頼むしか、僕たちに残された道は無いんだ」


「そう言うことじゃ。なるべくカインの要望に応えることが出来るように努力しよう」


 カインは、話し合いに参加した時点でこうなることを予測し諦めていたようで、納得がいかないと言った感じのリオンを逆に説得していた。そんな中、


「失礼します。プリメラ様の準備が整いましたのでテンマ様にお越しいただきたいのですが、よろしいでしょうか?」


 アイナが俺を呼びに来た。明確な対策を話し合えていないが、あれ以上話し合っても俺が土下座すること以外に道はなさそうなので、一時中断してプリメラのところへ向かうことにした。その際、リオンがアルバートとサンガ公爵の後ろについて歩き出したが、カインに頭を叩かれて止められていた。

 ちなみに、プリメラには公爵家のメイドが付いて世話をしているが、俺の方からも手伝いを出した方がいい(今のように、俺を呼びに来たりする為)ということで、ジャンヌとアウラを出している。ただ、二人では心配だというアイナの提案で、いつものようにオオトリ家メイド長(仮)としてマリア様から借り受けたのだ。あと、今回の料理のほとんどが俺のレシピなので、料理に関する責任者としてアイナが必要だったという理由もある。


「テンマ様と関係者の皆様をお連れしました」


 アイナが確認を取ると、すぐにドアが開いた。真っ先に出迎えたのが、


「クリスさん、邪魔」


 クリスさんだった。クリスさんは、俺とプリメラの間に立ちふさがって見えないようにしていた。


「邪魔ってなによ。ドアを開けた人がドアのそばにいるのは当たり前でしょ」

「いえ、今のは絶対にわざとですね。引くタイプのドアなのですから、そのまま避ければよかっただけのことです。大方、自分が結婚できない苛立ちを、テンマ様にぶつけようとしたと言ったところでしょう。それと、テンマ様だけならいつものおふざけで済まされるかもしれませんが、今はプリメラ様のお父上であるサンガ公爵様がいらっしゃっているのです。不敬ですよ」


 クリスさんはサンガ公爵がいるとは思っていなかったのか、アイナに言われて顔を青くしていた……と言うか、何でいないと思っていたのかが不思議なくらいだ。

 そんなことを考えながら、引っ張り出されたクリスさんがアイナに排除されるのを待っていると、


「お父様、こちらにいらしていたのですか! お客様のお相手をお願いします! あとアルバート、あなたも早く来なさい!」


 慌てた様子のアンジェラさんが現れ、サンガ公爵とついでにアルバートを探しにやってきた。どうやら、プリメラ側の招待客が続々やってきたそうで、その相手を公爵とアルバートにやってほしいそうだ。


「それは分かったが、その前に一目プリメラに挨拶してもいいかい?」

「それは後にしてください。オオトリ家側……こほん。騒がしくして申し訳ありません。お父様、ちょっとこちらへ。アルバートもよ」


 アンジェラさんは、すぐそばに俺とじいちゃんがいるのに今更ながら気が付いたようで、サンガ公爵とアルバートをその場から連れ出して説明していた。


「何っ! 陛下とマリア様が! 分かった、すぐに向かう!」


 と、サンガ公爵が驚いた声を出して驚くと、俺とじいちゃんに軽く頭を下げて小走りで去って行った。


「アルバートも早く行きなさい。テンマさんには、私から説明しますから」


 アンジェラさんに急かされる形で、アルバートもサンガ公爵の後を追いかけて行った。


「大変失礼しました。実は、会場の方に陛下とマリア様が予定より早くいらっしゃたので、ちょっとしたトラブルが起こりまして」


「ふむ、アレックスにも原因があるというわけか。わしの方から注意しておこうか?」


「いえ! 公爵家の招待したお客様の方に原因がありまして、決して陛下に原因があるわけでは!」


 例え王様とマリア様に原因があったとしても、アンジェラさんの口から言うわけにはいかないだろう。ついでに言うと、じいちゃんもそこら辺のことは分かっていると思うので、アンジェラさんを軽くからかっていると言ったところだと思う。


「じいちゃん、王様を使ってからかう時はちゃんと相手を選ばないと」

「テンマ様、その言い方はどうかと思いますが概ね同意します。アンジェラ様、プリメラ様に会って行かれますか?」

「いえ、私も行かないといけませんので失礼させていただきます」


 俺たちへの説明を終えたアンジェラさんは、急ぎ足でサンガ公爵たちと同じ方へ向かって行った。


「何があったのかのう?」

「多分、公爵様が招待した客が王様に無礼なことをしたとかじゃない? 自分を売り込んだとか?」


 かなり集中してアンジェラさんとサンガ公爵の話に聞き耳を立てていたが、アンジェラさんはよほどこちらに聞こえないように気を付けていたのか、全くと言っていいほど聞き取ることが出来なかった。ただ、サンガ公爵の方はアンジェラさん程声を抑えることが出来なかったようで、途中で「あの馬鹿が!」と言う、怒りの混ざった声が漏れていた。そのことからの推測だが、それ以上の不祥事だったら俺にも知らせないといけないと思うので、それくらいのものだろう。


「私の方にも情報は入って来ておりませんので何とも言えませんが、今はプリメラ様の方が大切でしょう。ほら、ドアガー……ドア女、さっさと仕事をしなさい。さもないと、公爵様に無礼を働いたとマリア様にチクりますよ」


 ガールと言いかけて女と言ったのは完全にわざとだろう。多分、そんな年齢ではないだろうという意味を込めたのだろうが、そのすぐ後でマリア様の名前を出したので、クリスさんは文句を言いかけはしたが大人しくドアを開けた。

 そしてようやく、


「プリメラ、綺麗だね」


 プリメラと会うことが出来た。もっといい言葉があったかもしれないが、これが俺には限界だった。この短い言葉でも、俺の顔は赤くなっているだろう。少し体温が上がったようで、ちょっと熱くなってきた。


「ありがとうございます。テンマさんもカッコいいですよ」


 プリメラも頬を赤く染めながら返してくれたので、これくらいの感じが俺たちには丁度いいのかもしれない。


「テンマの衣装も国宝級のものになるじゃろうが、プリメラのドレスもそれに劣らぬものじゃのう……しかも、テンマのものよりも人を選ぶ」


「じいちゃん、それセクハラだから」


「ん? わしは単にこのドレスは出来がよすぎて、プリメラのような美人でないとドレスに負けてしまうと言っておるだけじゃが……テンマは何を想像したのじゃ?」


「……じいちゃん、場合によってはそう言ういい方もセクハラになるから、気を付けないといけないというだけの話だよ」


 口ではそう言ったが、正直はめられたという気持ちで一杯だった。確かにじいちゃんの言う通り、バラ模様のレースを使った純白のウエディングドレスは、一見すると類似品が多くありそうに思えるが実際には公爵家お抱えの中から選ばれた超一流の職人が作ったものなので、例え一般の素材で出来ていたとしても一般のものとは桁違いのウエディングドレスとなるに違いないのに、それに加えて素材の大半が俺が提供した蜘蛛の糸で出来ているのだ。じいちゃんは俺の衣装に劣らぬと言ったが、正直言って価値的には俺のものより上になるだろう。俺からすればフェルトの技術も負けてはいないと思うが、技術以上にフェルトと公爵家のお抱え職人では知名度が違うし、何よりも使った蜘蛛の糸の量が違うのでどうしても差がついてしまうのは仕方がないだろう。

 そんなウエディングドレスを着たプリメラは、純白のドレスに赤みを帯びた髪とそのスタイルの良さもあって非常に美しい。ただ、いつもプリメラが着ている服よりも薄手で、しかもスタイルがはっきりと分かるドレスである為、どうしてもそのスタイルの良さ……はっきり言うと、いつもよりも強調された大きな胸に目が行ってしまう。これに関しては……まぁ、俺も男ということなのだろうが、そのせいでじいちゃんの罠にはまってしまったというわけだ。


 じいちゃんは俺の言い訳に、「そう言うことにしておこうかの」と言って笑っていた。俺たちの会話は、プリメラやジャンヌにアウラにアムール(この三人は最初から居たらしいが気が付かなかった)やクリスさん(こっちは完全に忘れていた)には聞こえなかったみたいだがアイナにには聞こえていたみたいで、意味深な笑みを浮かべながら俺を見ていた……後で賄賂を渡して黙っていてもらうように頼んだ方がいいかもしれない。

 そんなことを考えていると、誰かがこの部屋に向かってきているのに気が付いた。走っているようなので、公爵家側の使用人かもしれない。近づいてきている気配には、俺とじいちゃん、それにアイナとクリスさんの四人が気が付き、アイナは笑みを消してドアの方へ向かい、俺はプリメラの前に、じいちゃんはドアと俺たちの間に立ち、クリスさんはジャンヌたちの近くにさり気なく近寄った。一応、『鑑定』では公爵家のメイドということにはなっているが、サンガ公爵が驚いたようなトラブルと、こんな時に公爵家のメイドが走って来るというのはよほどのことなので念を入れた形だ。


 アイナは公爵家のメイドがドアを開く前に外で出迎え、数分程何か報告を受けていた。そして公爵家のメイドが去って行くのを待ってから部屋に入ってきた。


「テンマ様、プリメラ様、トラブルの方は無事収まったとのことですが、そのせいで少し開始時間が遅れそうとのことです。私がこの後の予定を聞いてきますので、テンマ様とマーリン様はこちらで少々お待ちください」


 そう言ってアイナはジャンヌとアウラとアムール、そしてクリスさんに小声で何かの指示を出していた。そんなアイナに違和感を覚えた俺は、少しでもアイナの声を拾おうと集中すると同時に、結婚式場とその周辺を探れるくらいまで『探索』を広げた。その結果、騒ぎの原因に大体の予測がついた。


「アイナ、予定を聞きに行く前に聞きたいことがあるんだけど?」

「何でしょうか?」


 アイナはクリスさんたちに指示を出した後で、急ぎ足で部屋から出て行こうとしたが、その前に呼び止めた。そして、


「トラブルの原因って、()()()()()()()が関係していたりする? おっと! じいちゃん、少し落ち着いてね。限りなく黒に近くても、原因でない可能性が少しだけあるわけだし、今突撃されると逆にややこしいことになりそうだから」


 と、母さんの元実家の本家の名前を出した。その瞬間、じいちゃんはアイナ目掛けて(正確にはアイナのすぐ先にあるドア目掛けて)突進しようとしたが、間一髪のところで抑えることが出来た。


「テンマ様、何故そう思われるのですか?」


 アイナは何とか誤魔化そうとしているみたいだが、明らかに緊張しているのが伝わってくる。そんなアイナに対し、『探索』と『鑑定』で知ったとはいえ、その二つの魔法を話すことは出来ないので代わりに、


「スラリンから、たった今報告があった」


 と言って、水魔法を使って、スラリンの体の一部に()()()()()()()()を作り出して見せた。じいちゃん辺りは即席で作ったものだと見抜きそうだが、じいちゃん程の魔法の知識がなくて少し離れているアイナにはバレないだろう。このスラリンの一部のようなものを使って周囲を見張っているスラリンから報告があったと言うと、アイナは観念したようで、少し肩を落としていた。ちなみに、実際のスラリンは俺が今アイナに話したようなことが可能ではあるが、断片的な報告しか出来ない上に距離が開くと精度が下がるので、もし本当に報告があった場合、「母さん」・「元実家」・「来ている」のようなものになるだろう。

 

 これがスライムという種族の持つの能力なのかスラリンという個体の持つ能力なのかは分からないが、他所で聞かないので恐らくは後者なのだろう。アイナにはスラリンの能力が初耳であっても本当なのか確かめるすべはない上に、実際に母さんの元実家が来ているのは確かなので、このまま黙っておくという選択肢は選べないはずだ。そもそも、俺はアイナの支持に従う理由が無いので、アイナが止めたとしてもそれを無視してサンガ公爵か関係者から聞き出せばいいのだ。強引に向かい、その結果として混乱が起きたとしても、今回の主役の一人である以上、起こったトラブルを放っておくことは出来ないと言えば通る話である。


「サンガ公爵様に理由を話し、こちらにお越しいただきます。ですので、この部屋で()()()()お待ちください。マーリン様もお願いします」


 アイナは、俺とじいちゃんが向かえばもう一度トラブルが起こると思っているようで、念押しをしてから部屋を出て行った。


「それにしても、ブラウン子爵家は何を考えているんだろう? それに、オオトリ家の縁戚だとか言って俺側の関係者としてきそうなのに、なんでサンガ公爵が対応に向かったんだろうか?」


「まあ、わしとテンマが対応に向かったら、その場で愚か者の首が飛ぶか、または細切れになるかすり潰されるかとでも思ったのかもしれんのう。それに、当主であるテンマとその代理のわしがここにいる以上、臨時の責任者はマークか一度養子となったエイミィしかおらん。しかし、実際にはマリアとアレックスがなんやかんや理由を付けて出てくるじゃろう。そうなると大事(おおごと)になるから、あえて公爵が向かったとも考えられるの。もしくは……」


「公爵家側の失態ということですね。むしろ、お父様が慌てて向かったということは、その可能性が一番高いということですが」


 まあ、普通に考えればプリメラの言う通りだろう。もしも俺側の客としてブラウン子爵家がやらかしたのだとしたら、一応俺かじいちゃんに知らせるだろうし、じいちゃんかアイナを連れて行くだろう。

 そこまでは思いつくのだが、そうなると何故ブラウン子爵家のことでサンガ公爵が対応に向かったのかが分からない。それはプリメラもじいちゃんも同じようで、俺と同じく首をかしげていた。そんなところに、


「失礼するよ」


 サンガ公爵と、


「お義兄様?」


 プリメラの姉であるレイチェルさんの旦那、ヘンドリック・フォン・サルサーモ伯爵がいた。

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― 新着の感想 ―
[気になる点] セクハラを気にする主人公。この世界に今の日本の価値観を重ねるのは違和感がありすぎる。
[一言] 縁切ってる家の人呼んだん?
[気になる点] 「サンガ公爵様に理由を話し、こちらにお越しいただきます。ですので、この部屋で大・人・し・く・お待ちください。マリーン様もお願いします」 ※マリーン様 ➡️ マーリン様
感想一覧
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