表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
254/318

第17章-13 第三の女?

「ふむ……ついてきておいてなんじゃが、これでは家族旅行と変わらんのう」


「まあ、いいんじゃない? 結婚したら一緒に暮らすんだし、その予行練習ということで」


 グンジョー市まであと半日というところで、俺たちは最後の野営を行っていた。今回の旅はプリメラがいるので、うちのやり方に慣れてもらう為に早めに野営の準備をしている。


「プリメラ! 火が強すぎ!」

「ああっ! 焦げる!」

「まだ大丈夫です。落ち着いてください! それに、焦げた部分は切り取ればいいだけですから!」


 プリメラはジャンヌに教わりながら料理をしていたが、火の加減を間違えて慌ててフライパンをひっくり返しそうになっていた。ちなみに、アムールは横から口を出すだけで指導の役に立っていない。


「テンマ様、お茶の準備が出来ました~」


 アウラはお茶係の番なので、やることが少なくて機嫌がいい。アイナがいれば無理やりにでも仕事をやらされているとこだが、旅の間はそう言ったことが無いのでストレスも少ないのだろう。


「それじゃあ、見張りの前半がアムールとアウラで、中盤が俺とじいちゃん、後半がプリメラとジャンヌだな」


 プリメラの加入で、スラリンたちを入れなくても三組で見張りを回せるようになったのは地味に嬉しかった。二人と三人で前半後半でもいいが、選択肢が増えるのはありがたい。それに、プリメラは料理などは苦手な方だが、野営の見張りは騎士団で指示する方もされる方も経験があるので頼りになる。今回は俺とじいちゃんが一緒になったが、もし戦力を均一化するのなら、俺とじいちゃんがジャンヌかアウラと組み、プリメラとアムールが組むとちょうどいいだろう。もっとも、戦力で言えばスラリンたちが居るしゴーレムもあるので、そこまで気にすることではない。

 この日の野営ではグンジョー市から半日ほどの位置ということもあってか、何一つ問題なく夜を明かすことが出来た。



「テンマ様、敵です! ひき殺しますか?」

「遠慮なくいくとよい!」


「アウラ、アムール、本気で怒るぞ。ライデン、端の方に寄せてから止まれ」


 グンジョー市の門のところで手続きを終え、少し進み始めたところでアウラが物騒なことを言いだした。その声に反応して窓から身を乗り出したアムールが、前方にいる三人を確認して許可を出したのだが……そんなこと許せるはずもなく、ライデンに停止するよう命令を出した。そして、アウラとジャンヌを交代させて馬車の中で少し説教をした。


「いつものおふざけのつもりじゃろうが、あの発言は頂けんぞ」


 俺の後でじいちゃんも厳しめに叱ったので二人は大人しくなったが……喧嘩をしないということは無いだろう。もし二人が喧嘩を売らなかったとしてもあの三人の方から売ってくるはずなので、どう転んでもいつもの光景が広がるだろう。問題はレニさんがいないので、二対三の状況になってしまうわけだが……ジャンヌが加入すれば問題は無いか。流石にプリメラは混ざらないだろうしな。

 じいちゃんに叱られた二人は、馬車の隅っこで大人しく正座している。二人共正座は苦手なはずだが、うちでアイナやレニさんに叱られる時にいつも何故か正座をさせられているので、だいぶ慣れたようだ。


「テンマ、『山猫姫』の三人が来たわよ」


 一応ジャンヌを御者席に乗せているがライデンは命令通り停止したままだったので、しびれを切らした三人がこちらにやってきたらしい。


「よう! 三人とも、久しぶり!」


 アウラとアムールの発言があったので、知られてはいないだろうが自然と明るい口調でごまかそうとしてしまった。しかし、


「何か、機嫌が悪くないか?」

「アウラとアムールの声が聞こえたわけではないと思うけど……」


 いつもなら三つ子の連携を活かしてうるさく駆け寄ってくるはずなのに、今日はかなり機嫌が悪そうだった。そんなところに、


「どうしたんですか? やけに静かですけど?」


 三人が来たと言うのに静かなことを不審に思ったプリメラが、俺の横から顔をのぞかせた。その次の瞬間、


「「「裏切者~~~!」」」


 三人が急に大きな声を出して騒ぎ始めた。まあ、事前に予想していたことではあるけれど。


「アムール、オオトリ家の奥様を守る為に行かないと!」

「うむ! その通り!」


 三人の騒ぐ声に反応して、それまで大人しくしていたアウラとアムールが立ち上がったが、


「二人は静かにしていてください」

「「はい……」」


 プリメラに睨まれて、再び隅っこで正座を始めた。


「三人共、色々と言いたいことはあるでしょうけど、この後予定が詰まっていますので、夜にでも『満腹亭』で話し会いましょう」


 騒ぐ三人相手に、始めは静かに話を聞いていたプリメラだが、三人がそれぞれ騒ぐので強引に話を止めて後で話し合うことにしたようだ。その時のプリメラの迫力がいつもと違ったせいか、三人はピタリと騒ぐのをやめて、怯えているような顔で頷いていた。


「このまま騎士団本部に行く予定ですが、ギルドの近くまで一緒に乗って行かれますか?」


「「「歩いて行きます!」」」


 プリメラの迫力に負けた三人は、そそくさと馬車を降りてギルドの方へと歩いて行った。


「それじゃあ、騎士団本部に向かいましょう。ジャンヌ、お願いします」

「はっ、はい! ライデン、お願い」


 ジャンヌがお願いするとライデンはゆっくりと歩き出したが、ジャンヌは急に声をかけられた成果緊張しているようだった。


「あの三人を、有無を言わさずに追い返すとは……」

「三人目は、プリメラで決まり……」


 リリーたちを追い返したプリメラを見たアウラとアムールは、夜に『満腹亭』で行われるであろう『山猫姫』との闘いのラストメンバーをプリメラにしようとしていたみたいだが、


「アムール、アウラ……私はやりませんからね」


「「はい……」」


 プリメラに断られて、リリーたちのように大人しくなった。


「ふむ……わしはグンジョー市の騎士団とあまり面識がないから、街中をぶらつくとするかの。夜に『満腹亭』で落ち合えば問題は無かろう」


 そう言ってじいちゃんは、動き出した馬車から強引に出て行った。このタイミングで出て行くということは、じいちゃんもプリメラが怖かったのだろう。


「それは名案! 私も行って来る!」


 アムールもじいちゃんが逃げるのを見て、さっさと馬車から逃げて行った。


「私……無理です……」


 続いてアウラも逃げ出そうとしたが、流石に走り出した馬車から飛び降りるような度胸も能力もなく、馬車の中から顔だけ出した時点で諦めた。


「テンマさん……そんなに私怖かったですか?」

「いや、まあ……皆驚いただけだって」

「そうですか……」

 

 五人も立て続けに逃げて行ったので、流石にプリメラも自分が原因だと気が付いたようだ。しかも、とっさに振られた俺が上手いこと返せなかったせいで、プリメラは落ち込んでしまった。そんな姿を見て心が痛くなった俺だが、それ以上にダメージを受けていたのは逃げ出そうとして失敗したアウラだった。

 俺が止めを刺したようにも見えるが、実際にはその前の段階からプリメラはダメージを受けていたと言えるので、その傷口を直接広げた形のアウラは罪悪感に襲われているのだった。


「えっ! あ、ありがとうスラリン」


 どうやって元気づけようかと思っていると、スラリンがマジックバッグに入れておいたお茶とお菓子を取り出してプリメラに差し出した。そして、プリメラが座るとすかさずシロウマルが近寄り、体を撫でさせている。ついでにソロモンも。

 スラリンは確実に励まそうとしての行動だろうが、シロウマルとソロモンはスラリンが差し出したお菓子目当てだろう。だが、プリメラを元気づけるのに役立ったようだ。眷属たちによるアニマルセラピー成功というところだろう。そして、セラピー成功の立役者となったシロウマルとソロモンは、ちゃっかりお菓子を貰っていた。


「プリメラさん、騎士団本部が見えてきました」


 本来なら主人である俺に報告するところを、ジャンヌは迷うことなくプリメラに報告した。まあ、結婚したら主人に準ずる相手になるし、先程の影響もあると思うので仕方がないだろう。


「そう言えば、結婚式に参加するのはアラン総隊長だけだったか?」

「はい。他の皆さんは仕事があるので王都までは来られません。最初はアイーダさんも来るつもりだったみたいですが、流石にまだ子供が小さいので断念したそうです」


 そう言うことなので、グンジョー市にいる知り合いの中で結婚式に参加者するのは、プリメラ側がアラン総隊長だけで、俺の方がリリーたち三人にセルナさんとアンリにマルクスさんだ。おやじさんとおかみさんは『満腹亭』を休むわけにはいかないしソレイユちゃんがいるので不参加。フルートさんも子供が小さいので不参加で、ギルド長はフルートさんと子供が行かないので不参加だそうだ。これに関してギルド長はフルートさんから怒られたそうだが、実際のところ子育て中のフルートさんだけでギルドを回すのは無理があるので不参加が決まったという内容の手紙が、ギルド長とフルートさんの連名で送られてきた。


「それじゃあ、俺とプリメラは挨拶に行って来るけど、ジャンヌたちはどうする?」


「えっと、どこかで待っていた方がいいのかな?」

「馬車置き場を使えるのならそこで待っていますけど、どうしますか?」


「あ~そうだな……今日寄るところはこことギルドと『満腹亭』だから、ジャンヌとアウラも自由にしていいぞ。待っていてもいいし、買い物に行ってもいいし」

「それだったら、『満腹亭』で待ち合わせた方がいいかもしれませんね。総隊長は話し始めると長い時がありますし、そこにアイーダさんが加わったらもっと長くなる可能性が高いですし……」


 じいちゃんとアムールが逃げ出して好き勝手やっているのに、二人だけ待たせるのもかわいそうだから自由にさせようとしたら、プリメラが『満腹亭』で合流することを提案してきた。


「それだったら、買い物がしたいです!」


 プリメラの提案に、アウラが遠慮することなく買い物を選んだ。アウラが買い物を選んだので、ジャンヌもついて行くことになり、夕方までには『満腹亭』にいるようにと決めて二人を送り出した。グンジョー市は比較的治安がいいので、二人だけでも滅多なことは起こらないとは思うが、オオトリ家(おれ)の関係者ということで事件に巻き込まれることを警戒し、護衛としてスラリンたちを連れて行かせた。流石にソロモンが外に出ていたら騒ぎになると思うのでディメンションバッグに待機させなければならないが、シロウマルなら良からぬことを企む相手には十分な牽制となるだろう。


「テンマさん、ああいう時は待たせるという選択肢は入れない方がいいですよ。アウラはともかくとして、ジャンヌは性格的に待つことを選びますよ」


 二人を見送ったあとでライデンや馬車をバッグに入れていると、プリメラから注意を受けてしまった。確かにアウラならあの選択肢でも自由にすることを選ぶだろうが、ジャンヌは逆に気を使って待機する方を選んでしまうだろう。実際にプリメラの提案に対してジャンヌはアウラの意見に乗っかる形で買い物に行くことを選んでいたからな。


「そうだな。今度から気を付けないとな。それにしても、プリメラはよく気が付いたな」

「私からすると、テンマさんが何で気が付かないのかというところですが、私の場合はジャンヌを第三者の目で見ることが多かったかもしれませんね」


 そう言いながら、プリメラは俺を先導するように騎士団本部の受付に歩いて行った。



ジャンヌSIDE


「ジャンヌ、串焼き買ってきたわよ! シロウマルとソロモンには大きめのやつね」


 アウラが大きいサイズの串を二本と、普通のサイズの串を()()買ってきた。大きい方はシロウマルとソロモンに差し出し(た瞬間に無くなった)、残りはスラリンに一本と私に一本、アウラの二本だった。


「それにしても、グンジョー市の屋台は美味しいものが多いわね」


「そうね。もしかすると、王都よりも多いかも」


 数で言ったら王都の方がおいしい屋台が多いと思うけど、割合で言ったらグンジョー市の方かもしれない。テンマと別れてから数件の屋台を回ったけれど、今のところはずれがない。はずれどころか、おいしいものばかりだった。


「それで、これからどうしようか? 『満腹亭』に行くのにはまだ早いし……ギルドにでも行ってみる?」


「そうね。依頼を受ける時間はないだろうけど、行ってみましょうか。ギルドで待っていれば、テンマとプリメラさんも来るかもしれないし。スラリンとシロウマルもそれで……どうかしたの?」


 行き先が決まったのでスラリンとシロウマルに声をかけながら視線を向けると、二匹は同じ方向をじっと見ていた。つられて私もスラリンたちが見ている方を見たけれど、特に変わったものは見つからなかった。


「ジャンヌ、とりあえず移動しましょ」


「そうね。スラリン、シロウマル、行こ」


 二匹にもう一度声をかけると、今度はこちらを向いたので一緒に歩き出した。


「確か、この道をまっすぐ進んで突き当りを右に曲がるとギルドが見えてくるはず……ん? あれってマーリン様とアムールじゃない?」


「みたいね。軽く変装しているけれど、間違いないと思うわ」 


 ギルドを目指して歩いていると、前方に屋台の商品を見ながら歩いている二人組を見つけた。周囲の人たちはフードを被っている二人組がマリーン様とアムールだと気が付いていないみたいだけど、何度も洗濯をしているマントなので私とアウラはすぐに分かった。


「マーリンさ……んぐっ!」

「黙る! その名前を呼ぶと、混乱が起きる!」


 向こうも私たちに気が付いたので、近寄りながら名前を呼ぼうとしたアウラがアムールにビンタを食らった。正確には口を塞がれただけだけど……アムールの力とあの勢いだったら、ビンタと変わりないと思う。


「これアムール、少しやり過ぎじゃ」


 マーリン様もアムールの行動を注意したので、すぐにアウラは解放されたけれど、


「アウラ……口の周りが赤くなってる」


 アムールのビンタにより、アウラの口周りが赤くなっていたのだった。


「その顔では、あまり歩き回るのはよくないのう。どこか落ち着ける場所を探そうかの」


 そう言ってマーリン様は、店を探しながら歩き出した。そして、お店のなさそうなわき道に入っていき、


「ところで、先程からわしたちの後を付いてきておるのは、一体どこのどなたなのかな?」


 少し進んで急に振り返って私たちの背後に向けて問いかけたのだった。


「くせ者!」


「うきゃっ!」


 マーリン様の視線の先には顔と体をマントで隠した人がいて、驚いた様子で立ちすくんでいた。そこにアムールが飛び掛かったのだけど……どこかで聞いたことのある声が、マントの人物から聞こえてきた。


「むっ! この感触は……レニタン!」


 アムールに組み伏せられた人物は、私たちもよく知るレニさんだった。


                           ジャンヌSIDE 了

11巻の書き下ろし作業(34ページ分)が入ったので、予定より短くなってしまいました。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
[一言] 不審者わらわら?
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ