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第17章-4 デマ騒動

「全く、早とちりもいいところだぜ。まあ、俺たちは特に問題無いわけだけど……」

「俺の場合はかなり騒がしくなるかもな……少なくとも、王様たちが……」


「すまないことをしてしまったとは思うが……一応言い訳しておくと、私たちはテンマたちが死んだという噂は流していないからな。まあ酒の席で、帰るのが遅いから、死んでしまったのではないかという冗談くらいは言った……とは思うが」


 俺の知り合いの中で詳しい事情を知っていそうなアグリたちを捕まえたところ、詳しいどころが元凶に近いことをしていたことが発覚した。

 まあ元凶といっても、俺たちが帰ってこなかったことに加え、親しい仲のテイマーズギルドの面々が酒の席で『俺たちが死んだんじゃないか?』と冗談半分で言ったのを聞いた誰かが、故意かどうかは分からないが死亡説を流した……と言うのが本当の元凶らしい。それだけなら俺たちの姿を見れば噂は消えそうなものなのだが運の悪いことに、暖かくなったことで商人や冒険者たちが街から街へ移動し始める時期と重なってしまった為、早ければ今日明日には王都にまで死亡説が流れてしまうだろう。つまり、セイゲンだけの問題ではなくなってしまうということだ。


「一度王都に帰るか? 帰れば無事だと分かるし」

「それじゃと、恐らく行き違いになるぞい。まあ、ここはいつも通りにしておればいいじゃろう。別にわしらが悪いことをしたわけではないし、恐らくは噂を流した者たちはとっくにセイゲンを離れておるじゃろうから、どうすることも出来ぬしのう。誰かが真相を確かめに来るまで、日帰りでダンジョンの攻略を進めればよいじゃろう」


 ジンが、ダンジョン攻略を中断して王都に無事を知らせに行った方がいいのではないかと言ったが、じいちゃんの言う通り、絶対にセイゲンまで飛んでくる人たちがいるので、下手に動かない方がいいだろう。


「それじゃあ、今日明日は休息日にして、俺たちがちゃんと生きているとしっかりアピールすることにしようか? そして明後日からは日帰りでダンジョン攻略を進めていくということでいいかな?」


「正直、新しいところに入ったから、今からでも進みたい気持ちはあるんだが……知らないうちに葬式なんかやられていたらたまったもんじゃないしな」

「そうだな。確かに仕方がない。下手に今から潜って帰ってきたら、今度はお化けが出たとか言われかねないからな」


「ジンさんのお化けですか……色々とたちが悪そうですね」

「出現場所は、主に女子更衣室や風呂場だろうな。成仏するまで聖水やらなんやらで金がかかりそうだ」


「何で俺だけが死んで化けて出ることになってるんだよ!」


 こんな風にギルドで散々騒いだおかげか、俺たちを見て驚く冒険者が続出したものの、すぐに死んだという噂はデマだったとセイゲンに広がったのだった。

 まあ、噂がデマだったと広がったのはセイゲンの中での話であり、


「本当に驚いたわよ。テンマとマーリン様がいて、全滅するというのはちょっと考えられなかったけれど……何人もの諜報員から同じ情報がもたらされたものだからね」


 当然王都まではデマだという情報が流れるまでタイムラグが存在するので、こう言った感じでデマ情報を聞いてすぐに王都を出発した人たちは、セイゲンに到着してからデマだと知るのだった。そう言うわけで今俺は、王家の所有するセイゲンの館でマリア様の愚痴を聞かされているのだ。

 ちなみに、俺たちが地上に戻ってから数日が経過しているが、真っ先に確認に来たのがプリメラで、続いてジャンヌ、アムール、アウラにアルバートたち三馬鹿、それとほぼ同時にマリア様とクリスさんとアイナだ。

 プリメラが一番乗りだったのは、セイゲンの近くまで任務で来ていたかららしく、俺の死亡説の真相を確かめるという大義名分のもと、任務内容を一部変更してやってきたそうだ。そんなプリメラは、俺の無事を確認するとすぐに王都に引き返していったが、ジャンヌやマリア様たちとはすれ違わなかったようだ。

 続いてやってきたジャンヌやアルバートたちはと言うと、情報を聞いたその日のうちに王都を出たそうだ。一緒にセイゲンに来たが出発は別々だったらしく、一度アルバートたちがうちに寄ったがジャンヌたちがいなかった為、すぐに後を追う形で出発し王都から近い場所で合流、そこから一緒に行動したそうだ。

 そしてマリア様たちだが……噂を聞いてすぐジャンヌたち(うち)にクリスさんを向かわせたそうだが、ジャンヌたちの行動が思いのほか早かったせいで空ぶったのと、準備などで出発が一日遅れてしまったせいで合流できなかったそうだ。予定ではセイゲンまでの道中で追いつけるはずだったらしいが、いくつかの想定外があったとのことだ。それは、ジャンヌたちがアルバートたちと合流したことで交代要員が増えたのと、夜の警戒をシロウマルたちが担当したことで十分な休息が得られたことで、日中の移動距離が増えたのと、単純にジャンヌたちの用意した馬車の性能が高かったかららしい。

 マリア様は、ライデンがいないのでジャンヌたちは普通の馬車を手配するはずなので、それなら王家の用意する馬車と馬の差で追いつくと考えていたそうだ。だが、確かにジャンヌたちは普通の馬車(予備で残していた古い馬車)しか用意できなかったが、それを引かせるのに普通の馬……ではなく、何とジュウベエを選んだのだ。つまり、ジャンヌたちは正確に言うと馬車で来たのではなく、牛車でやってきたのだ。ジュウベエの能力は、単純な速度なら王家の馬に負けてしまうが、その代わりスタミナではかなり勝り、力と悪路の走行能力では圧倒的に勝る。その為、御者の力量の差があったにもかかわらず、道中でジュウベエの引く牛車に追いつけなかったということである。

 そんな活躍をしたジュウベエは、今頃王家の馬の隣の馬房でアムールに世話されながら食事をしているはずだ。ついでにスラリンたちも連れてこられていたが、眷属だからかスラリンたちは俺が生きていると知っていたようで、スラリン以外は軽く挨拶だけしておやつに夢中になっていた。


 そしてジャンヌとアウラはと言うと……アイナとクリスさんに、マリア様からの知らせが来るのが分かっていたはずなのに、何故待たなかったのかと注意されている。まあクリスさんの場合、半分は八つ当たりに近いような気もするけどな。王都からセイゲンまでの強行軍で、かなり疲れているみたいだったし。


「いや、まさか自分たちの死亡説が流れているなんて思いもよりませんでしたし、知った後はどうすることも出来ませんでしたから」


「ええ、それは理解しているわ。出来たのがセイゲンでの噂を打ち消すぐらいだったことも……でもねぇ……」


 デマだったと理解できても、心配したことには変わりないということだろう。


「まあ、終わったことをグダグダ言っていても仕方がないし、せっかくだからダンジョンの報告でもしてもらいましょうかね? 何でも、新しいダンジョンでまともな素材を得ることが出来たのよね?」


「簡単にですが、現れた魔物や取れた鉱物に雰囲気をまとめたものを用意しています」


 マリア様が変な雰囲気を変えようとダンジョンの話題をふってきたので、完成形ではないが事前に用意していたメモを差し出した。


「爬虫類や両生類型の魔物が中心で、少数ではあるけど虫型の魔物も現れたのね。鉱物は……大体上のダンジョンで手に入るものが一通りと言う感じね。問題は取れた量だけど……これだけだと手付かずの場所だったから取れたのか、元々埋蔵量が多いのか判断できないわね。何か所くらい掘っての結果なのかしら?」


「五か所をそれぞれ三十分から一時間掘ったものの総計です」


 取れた場所ごとにメモをしておけばよかったかなと思いながら答えると、マリア様は「両方の可能性があるわね」と言っていた。ちなみに、新しいダンジョンで取れたのは全部で二百kgほどで、そのうち鉄が四分の三ほどを占め、後は銅が四十kg、銀が五kg、金とミスリルが二kgちょっとと言う感じだ。


「どのくらいの勢いで掘ったのかは知らないけれど、多く見積もって五時間ほどでこれだけの量が取れるのなら、利権を得たい貴族(バカ)が騒ぎそうね……テンマ、今回は採掘はしなかったということにしておいてちょうだい。何か聞かれても、『王家から魔物の調査を優先せよ』との命令が出ていたと言えばいいわ」


 命令の理由として、ヒドラがいなくなった今、その下にあるダンジョンから強い魔物が上のダンジョンに出てこないとも限らないので、それを原因としたダンジョン内の環境が変化することを懸念してのことだということにするらしい。幸い、今回の報告内容はマリア様以外には見せていないし話してもいないので、それで通すとのことだった。


「口止め料の代わりではないけれど、周囲にバレない程度なら採掘してもかまわないし、王家に提出も報告もしなくていいわ。ただし、ダンジョンの攻略に支障がない程度にね」


 釘を刺されたが許可も出たので、俺(多分じいちゃんも)は合間合間を見て採掘に勤しもうと決めたが、ジンたちは本当にやっていいのか分からないようだった。


「とにかく、テンマたちの無事が分かった以上、明日には王都に戻らないといけませんから、今日の夕食の時にダンジョンやその他の話を聞かせてもらおうかしらね?」


 一応俺に参加を求めるかのような聞き方をしていたが、マリア様の中では俺の参加は決定事項なのだろう。なのですぐに了承したが、ジンたちは恐れ多いと辞退した。そして、それまで空気のように気配を消していたアルバートたちも、王様より先にダンジョンの話を聞く事は出来ないとか言って逃げた。

 ジンたちはダンジョン攻略の関係者なので参加してほしかったが、いきなりマリア様との会食はハードルが高いというのは理解できるので仕方がないし、アルバートたちも王様が嫉妬するかもしれないので報告は聞けないというのも分かる……が、なんだか見捨てられたような感じがするので、いずれ飯を奢らせようと思う。


「そう言えば、王様やライル様にルナは一緒に来るとは言わなかったんですか?」

「あの人もライルも、そう簡単に動けるような人ではないのよ。普段の行いを見ているとそうは見えないかもしれないけれど、一応この国のお偉いさんですからね。それでルナだけど、あの子は学園があるからまとまった休みが無いとセイゲンまでは連れて来れないわ。まあ、こっそりと馬車……座席の下にあるスペースに忍び込んではいたけれど、すぐにアイナに発見されてイザベラに連れて行かれたのよ。全く、誰に……って、そんなことをしそうなのはあの人しかいないわね」


 などと冗談を交えて話していたが、その冗談で笑っていたのは俺とじいちゃんだけだった。

 その日の夕食では、マリア様にクリスさん、俺にじいちゃんとアムールが席に着き、アイナとジャンヌとアウラは配膳をしていた。まあ、ジャンヌは配膳が終わるとマリア様から席に着いて食事をとるように言われて一緒に食べていたが、アウラはアイナに睨まれながら最後まで給仕をやっていた。



「それじゃあ、私は一足お先に失礼するわ。テンマ、もうあなただけの体ではないのだから、無理だけはしないようにね。アイナ、出しなさい。クリス、アルバート、カイン、リオン、道中の護衛は任せましたよ」


「「「「はっ!」」」」


 昨日の夕食の後、ダンジョン内での出来事やその他のこと……主にプリメラが来た時のことを聞かれ、色々とからかわれたのだ。その過程でクリスさんの機嫌が多少悪くなってしまったが、マリア様の前だったので大人しくしていた。まあ、その後でアムールにからかわれ、逃げたアムールを外まで追いかけて切ってしまい、戻ってきた時にマリア様とアイナに怒られていた。

 そんなクリスさんだが、行きは一人だったのに対し、帰りは部下が三人増えた。臨時の部下となったアルバートたちは家の許可を取らずに王都を離れてしまったので、このままだとそれぞれの当主(ちちおや)から厳しい罰を受ける(リオンに関しては辺境伯が王都にいないので、恐らく後日になる)と思われるので、急いで帰らないといけないのだが……マリア様の恩情により、護衛に就いていたということにして、罰をいくらか軽くするように掛け合ってもらえることになったのだ。つまり今後三人は、王様以上にマリア様の影響力が強くなる可能性が出てくるので、俺の仲間が増えるかもしれないのだ。

 まあ、俺の仲間云々は置いておくとしても、俺を心配して真っ先に駆けつけようとしてくれたのは確かなので、サンガ公爵やサモンス侯爵、それにハウスト辺境伯に手紙を書いて、三人のフォローをしておいた方がいいかもしれない。


「それで、マリア様たちは帰ったけど、ジャンヌたちはどうするんだ?」


「私とアウラはマリア様たちと一緒に帰りたかったんだけど、アムールが……」


「最近体がなまっているから、ダンジョンで鍛えなおす! でないと、アウラのお腹が大変なことに……」


「そんなわけ! ……ない、はず……」


 アウラは大きな声で反論しようとしたが、途中から尻すぼみになり、最後の方は自分のお腹を触りながら静かになった。


「ふむ、それならばわしもついて行った方がいいかのう?」


 アムールがいるとはいえ、ジャンヌとアウラがいる状況では何が起こるか分からないので、安全の為じいちゃんがついて行こうかと提案したが、アムールはそれを断り、代わりにスラリンたちを連れて行くと言っていた。それに、いま到達している最深部を攻略するのではなく、基礎的なものを見直す為に浅いところで訓練するというので、スラリンたちを連れて行けば万が一も無いと断っていた。


「それじゃあ、早速ダンジョンに潜るか」


 マリア様たちの見送りが早朝だったので、朝食を食べてからでもダンジョンに潜る時間はあるだろうということで、冒険者ギルドまで食事を兼ねた屋台巡りをしたのだが……


「すまん……飲み過ぎで今日は無理だ……」

「テンマのことだから、今日は休みにすると思っていた……」


「何やってんだよ……」


 マリア様が今日帰ると思っていなかったジンたちは久々に深酒をしてしまったらしく、二日酔いでダウンしていた。まあ、ジンたちとは言っても、メナスとリーナは多少酒が残っているらしいが問題なく動けているので、一緒にしてほしくなさそうな顔をしていた。


「その様子だと、ダンジョンは無理だな。攻略が遅れるけど、今日は休みにするか」


「そうじゃな。ジンとガラットのせいで、今日は休みじゃな……せっかく気合が入っておったと言うのに、今日は休みじゃ……あ~予定が狂ってしまったのう」


「ジンとガラットが申し訳ない」

「今日の晩はあの二人のおごりなので、それで許してやってください」


 と言う、本人たちを無視したやり取りが行われ、今日の夕食はジンとガラットのおごりとなった。昨日の今日で目標の半分を達成してしまったが……よくよく考えてみると、今日のおごりは昨日とは完全に別件でのことなので、目標の達成はノーカンにした。


「テンマ……私たちも、今日はダンジョンに潜るのを止めることにした!」

「夕食に遅れたら大変ですから!」

「そう言うわけで、今日はお買い物に行ってくるね」


 そんな感じでアムールたちも予定を変更して、夕食に万全を期すとのことだった。


「そのお買い物に、私もご一緒させてもらってもいいですか?」

「私もすることが無いし、ついて行こうかね?」


「俺は……この暇を利用して、エビでも取りに行くかな」

「ふむ、わしも行こうかの。なにせ、暇じゃし」


 そう言うわけで、今日の予定が決まり、女性陣は買い物に行き、俺とじいちゃんはダンジョンの中にある湖でエビ漁、そしてジンとガラットは、夕食までに体調を整えるということになった。


 そして次の日、


「財布が薄いぜ……軽いぜ……寂しいぜ……」

「ちくしょう……遠慮と言う言葉を忘れた餓鬼どもめ……」


「お腹のお肉が……」

「ちょっと食べ過ぎたみたい……」

「その分動けば大丈夫! さぁ、張り切っていく!」


「食べても太らない人は羨ましいです……」

「私も太りにくい方だけど……アムールほどじゃないね。今日はしっかり動かないと、服が合わなくなるかも……」


 財布が空になってしまったジンとガラットに、食べ過ぎでお腹のお肉を気にする女性陣という、グループが出来てしまった。ちなみに俺やじいちゃん(にアムール)、それとスラリンたちのいるグループは、何も心配することが無い『思いっきり食べれて満足した!』と言う、とても幸せなグループだったりする。


「ダンジョン攻略組は今日の攻略を頑張ればいいし、ジャンヌとアウラは訓練を頑張ればいい。それで問題は解決する。それじゃあ、行くぞ!」


 全体的にどんよりとした空気になっていたので、強引に話をまとめてダンジョンに向かった。そしてダンジョンで、


「うらっ!」

「千Gゲット!」


「リーナ、あまり前に出るんじゃないの!」

「動かないとお肉が減りません!」


「この苔は干してから煎じると、疲労回復の効果があるお茶になるんだよね」

「ほう……では、持って帰るか」


 ジンたちのおかげで俺とじいちゃんは戦闘面で楽ができ、その分採集に力を入れることが出来た。そして、この時手に入れた苔で作ったお茶が、張り切りすぎて疲労困憊になったジンたちやジャンヌたちに振舞われるのだった。ちなみに、このお茶はすごく苦い。

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― 新着の感想 ―
[一言] 誤字かな? 「ふむ、わしも行こうかの。寝にせ、暇じゃし」 寝にせ → なにせ かと。
[一言] 誤字(確認できた部分) >>ジンが、ダンジョン攻略を中断して王都に無事を知らせに行った方がいいのではないかと言ったが、自ちゃんの言う通り、絶対にセイゲンまで飛んでくる人たちがいるので、下手に…
[一言] あれ?ゾンビ系多くて臭いは報告せんでええの?
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