第16章-17 正室&側室
「ふぇ? ふぇえええええーーー!」
サンガ公爵から発表された俺とプリメラの婚約。それに驚き、一番大きな声を上げたのはエイミィだった。エイミィは大声を出してしまったことに気が付いて恥ずかしそうにしていたが、シーザー様たちのそばにいるので、誰からも咎めるような言葉は無かった。それに、俺の隣のプリメラも少し離れた所にいるエリザも、エイミィを微笑ましそうな顔で見ているので、主催者側から注意されるようなことにもならないだろう。
「それでは、当家からの発表も終わりましたので、皆様、サンガ公爵家主催の新年のパーティーをお楽しみください」
司会がサンガ公爵からアルバートに変わり、パーティーの開始が告げられた。だが、
「皆、遠巻きにこっちを見ているだけで、誰も近づいてこないな……」
「それは仕方がないですよ。何せ、声をかけるにも順番というものがありますから」
「その通りだな。さすがに驚き動揺していたとしても、私を差し置いて先に声をかけるような者は、ここにはいないだろう。まあ、例外があるとすれば、二人とかなり親しい者たちだが……このパーティーに参加している者で、二人と特に親しい者となると限られるしな」
プリメラと周囲の様子を話していると、シーザー様たちが俺のところにやってきた。パーティーの開始から少し時間が空いたのは、先にアルバートとエリザに声をかけたからだろう。
「そんな話より、二人共おめでとう。急に婚約すると聞いた時は驚いたが、よくよく考えれば当然の組み合わせだな」
「そうね。テンマにしてみれば初めて会った貴族の女性であり、印象的な出会いだったと聞いているし、プリメラにしてみれば家族ぐるみで仲良くしているし助けてもらってもいる相手ですものね」
大体の部分は合っているのだが、初めて会った貴族の女性はクリスさんだと言うと二人揃って、
「「あれは数に入れるべきじゃない」わ」
と言った。あの時のクリスさんは子爵相当の権力を持っているというだけの『元貴族令嬢』であり、何よりプリメラが最初だとした方がロマンチックだからだなのだそうだ。一応、そう言うことにしておいた方が大衆受け……特に女性の受けがいいし、味方も増えやすいという理由もあるとのことだ。
「それにしても、エイミィも知らなかったんですね。てっきりティーダが教えているとばかり……」
「それを言うなら、テンマが教えてもよかったはずだろう? それをしなかったというのは、エイミィの安全と公爵家のことを考えてのことだと思うのだが?」
確かにその通りなのだが、てっきりティーダは口止めをした上でこっそりと教えているかもと思ったのだ。
「まあ、これが普通の秘密であるのなら、褒められたことではないが教えていたかもしれん。だが、教えることでエイミィを危険な目に合わせる可能性があるとすれば、ティーダは意地でも教えないだろう。それくらいの考えは出来る子だ」
もしエイミィが婚約の話を知り、何かの拍子に外に漏らしてしまうとすると、エイミィをよく思っていない貴族からは、『親族の秘密すら守ることが出来ない者に、王妃は務まらない』などと攻撃される可能性もある。それだけエイミィの立場は不安定なものなのだ。しかし、最後まで秘密にしておけば漏れることはないし、婚約が発表された時の反応を見れば、『何も知らされなかったかわいそうな子』と同情されるだけだろうし、仮に『秘密を知らせてもらえないくらい信用がない』と言われても、俺が『外に出した者に、他家の秘密を話すわけにはいかなかった』と言えば済む話だ。そしてそれにサンガ公爵家が同意すれば、例え王家であっても未来の王妃候補に話すことは出来ないのだ。
「ちなみに、ルナは俺の婚約を知っているんですか?」
と聞くと、二人は揃って目を背けた。
「まあ、なんだ……ルナがテンマの婚約を知ると突撃するとは思うが……何とか上手くやってくれ。お菓子の一つでも与えれば、ルナは大人しくなるだろう。最悪、黙っていたのは父上のせいにしてもいい」
「ルナはちょろい……いや、扱い……もとい、素直な子だから大丈夫だとして、問題はクリスの方ね。クリスは色々と騒ぐと思うから……あれだけテンマのところに入り浸っていて、何で知らないのかしらね?」
正直、それは俺の方が知りたいことだ。あれだけ俺とプリメラの婚約が決まった時大騒ぎになったと言うのに、一人だけ最初から最後まで眠りこけていたからな。その後も、婚約の話をするときに限って遊びに来なかったし、来ても寝ていたしな。
「クリスの方も、静かにならないようなら父上……いや、母上の命令だったと言えばいいだろう。本当ならクリスがいくら騒ごうとも、オオトリ家やサンガ公爵家に連なる者ではないのだから文句は言えないはずなのだが……あいつはテンマの『姉』を自称しているところがあるからな。感情的になってしまうのだろう。自身の恋愛運の無さと合わせて」
最終的には俺もシーザー様と同じ考えに至って黙っていたが、およそ四か月もの間秘密にされた(別にしようと思ったわけではないが)クリスさんに正論を説いても多分納得しないと思う。まあ、マリア様を頼っていいとのことなので、俺の取る行動はただ一つ。
「シーザー様、マリア様にいつでも遊びに来てくださいとお伝えください。来られる時は、出来るなら護衛はクリスさんで、お供にアイナを連れて……と」
遠慮なくマリア様に対応してもらうことだ。アイナに頼むのも手だが、アイナだけだとその場は大人しくしていても、次の時には効果が切れている可能性が高いのだ。
「うむ、確かにそのように伝えよう。それでは、私とイザベラは他を回らせてもらうとしよう」
シーザー様に伝言を頼むのは少し気が引けるが、これでクリスさんはどうにかなるだろう。そしてルナは、イザベラ様の言った通りちょろ……素直な子なので、ちゃんと言い聞かせれば大人しくなるはずだ。
「テンマさん、プリメラ嬢、婚約おめでとうございます」
「先生、プリメラさん、おめでとうございます」
シーザー様たちと入れ替わりに、ティーダとエイミィが俺たちのところにやってきた。二人共、祝福の言葉を口にしているが、どこかエイミィは不満気な様子で、ティーダは落ち着かない様子だった。
「ところで先生! 何で婚約のことを教えてくれなかったんですか!」
エイミィの不満は、やはり婚約の話を知らされなかった疎外感のようだ。
「エイミィ、今回の話はそう簡単に話せるものではなかったんだ。秘密にしていたのは申し訳ないと思うけど、今のエイミィはシルフィルド家の養子だ。シルフィルド家はオオトリ家やサンガ公爵家と友好的で、中でもサンガ公爵家とは嫡男と長女が婚約しているくらい近しい関係だ」
そこまではエイミィも分かっているようで、一呼吸おいて様子を見ると頷いていた。
「しかし、それでも別の貴族だ。それに、オオトリ家は貴族からも一目置かれているとはいえ平民で、サンガ公爵家はこの国を代表するような大貴族なんだ。だから、身分の違う両家が繋がることを嫌がる貴族は確実に存在する。そいつらが俺とプリメラの婚約を妨害しようと考えたなら、真っ先に狙われるのはエイミィだ。そんなことをさせないために、俺とサンガ公爵、それに王様やマリア様にティーダが決めたことだ」
さり気なくティーダもエイミィのことを考えた上でのことだと教えると、少しは溜飲が下がったように見えた。そしてエイミィの横にいたティーダは明らかにホッとした顔をしていた。
「そう言えば、エイミィは私の義妹になるのですよね?」
「そうなります。これからもよろしくお願いします、プリメラお義姉様!」
プリメラが空気を換えようと話題を変えると、エイミィもその話題に乗った。そして、
「プリメラ、エイミィの一番の姉は私ですからね!」
こちらの様子を窺っていたエリザが、アルバートをほったらかしにしてやって来た。エリザに置いて行かれたアルバートはと言うと、三人の女性を相手にしていた。しかし、そこに色っぽい様子は見られず、どちらかと言うとアルバートは嫌がっているようにも見える。
しばらくその様子を見ていると、アルバートは視線を感じたのか急に俺の方を向いた。
「プリメラ、アルバートと話している女性たちを知っているか?」
アルバートの知り合いならプリメラも知っているだろうと思って聞くと、
「テンマさん、何を言っているんですか? あのお三方は、サンガ公爵様の奥様方。つまり、プリメラのお母様たちですわ」
エイミィと話していたエリザが、驚いた顔をしながら教えてくれた……まあ、教えるというよりは、咎めると言った感じだったが、これに関しては言い訳はできない。何せ、将来のお義母さんのことを知らなかったというわけなのだから。
「……プリメラ、お義母さんたちにご挨拶したいから、紹介を頼めるか?」
「ええ、いきましょう。ただ、色々とからかわれるかもしれないので、覚悟だけはしておいてください。どうしてもきつい時は、兄様を生贄にすれば大抵のことは何とかなりますから」
いつ何時でも頼れる男だと、役に立った後でアルバートを褒めておくことにしよう。
「それにしても、何故婚約発表の当日に相手方の母親と顔合わせをするのですかね? 普通はもっと早く……それこそ、婚約が決まったすぐ後かその前に、最低でも一度はご挨拶に向かうと思うのですけどね?」
歩き出した俺の後ろでエリザがネチネチ呟いているが、今の俺に反論する権利は無いので無視することにしたのだが……エリザもお義母さんたちに用事があるのか、ネチネチ呟きながら俺とプリメラの後をついてきた。
「お母様、少しよろしいですか?」
プリメラが声をかけると、三人揃って俺たちの方を向いた。これだと、誰がプリメラのお母さんなのか分からないが、すぐにエリザが「サンガ公爵家では正室と側室の区別をつけずに、三人とも『お母さん』と呼んでいますの」と教えてくれた。
「お母様、こちらが私の婚約者となった、テンマ・オオトリさんです」
「初めまして、テンマ・オオトリと申します。本来なら、婚約の話が決まった時にすぐにもでもご挨拶に伺わなければならなかったのに、今日までご挨拶を出来なかった不作法をお許しください」
挨拶と同時に謝罪し頭を下げたが、どうもこういった言葉遣いは苦手だなと思ってしまった。そんな俺の謝罪から少し間を空けて、
「理由は旦那様から聞いていますから、お顔を上げてください」
と返ってきた。声色から判断すると、あいさつに行かなかったことは怒っていないようだ。しかし、
「旦那様が、「テンマ君は色々と忙しくてあいさつのことは忘れているだろうから、君たちが会いに行ったらどうだい?」と言っていたのに、私たちも忙しくて王都に来れませんでしたから、お互い様です」
と、忘れていた理由まで筒抜けだったようで、かなり恥ずかしかった。
「それでは改めまして、私がプリメラの『生みの親』で『育ての親その1』のオリビアです」
「『育ての親その2』のカーミラよ」
「あら、その2を取られてしまいました……『育ての親その3』のグレースです」
「これからよろしくお願いします……ところでプリメラ、その1・2・3ってどう言う意味?」
三人の紹介の中でよくわからないところがあったのでプリメラに聞いてみると、苦笑いではぐらかされた。なので、
「そこでこっそり逃げ出そうとしているアルバート! その1・2・3ってなんだ?」
アルバートがこっそりとこの場から離れて行こうとしているのが見えたので、逃がすまいと引き留めた。まあ、周りに聞こえるくらいの声を出すなら、三人に直接聞いた方が早いのだが……アルバートだけ楽させるのは癪だったので、あえて大きな声を出したのだった。
「ちょっ、テンマ! いや、テンマさん? ちょっとこっちへ……くそっ! 私では動かせない!」
アルバートが焦りながら俺を隅の方へ引っ張って行こうとしたが、俺は踏ん張って抵抗した。何故なら、アルバートについて行く理由がなかったのと、女性陣の視線が気になったのでこの場を離れない方が俺の為になると思ったのだ。
「ふ~……まあ、いい。それで母上たちの言う『育ての親1・2・3』だが、そのままの意味でプリメラを三人で育てたからだ。まあ、私も上の姉上たちも三人に育てられたので、サンガ公爵家ではそれが普通なのだがな」
貴族の正室と側室は、共に力を合わせて嫁ぎ先を盛り立てなければならない間柄ではあるが、それと同時にライバルでもある……と言うか、一般のイメージではライバルと言うより、もっとドロドロとした関係だと思われることの方が多いかもしれない。実際に正室が次男、側室が長男を産んだりしたときは、両方の実家を巻き込んでの跡目争いが行われたという話がいくつもあり、そこまでいかなくとも関係が悪化するというのはよく聞く話なのだ。
「まず初めに子供が出来たのがカーミラ母上で、その次がグレース母上、そして次がオリビア母上で産まれたのが私だ。そして最後にオリビア母上がプリメラを産んで……」
「そこからは私が説明しましょう。まず最初に言っておくと、私たちは元々幼馴染で、それこそ旦那様よりも先に出会っていたわ。私たち的には、旦那様が後から私たちの間に入り込んできた感じなのよ。そんな感じだから、家同士の話し合いで私が旦那様の婚約者に決まった時に、どうせだったらカーミラとグレースを側室にして欲しいと願ったのよね」
正室が側室を迎え入れる際に口を出すというのは聞いたことがあるが、結婚する前から側室を進めるというのは聞いた事がないしかなり珍しいことだと思う。
「そんな感じだから、カーミラがレイチェルを産んだ時も、グレースがアンジェラを産んだ時も、痛い思いをせずに子供が出来たという感じだったわね」
「それは私も同じね」
「ですね。むしろ、三人で交代しつつ面倒を見ることが出来たから、聞くほど苦労した感じはしませんでした」
他にも乳母を数人雇っていたとのことで、精神的にも楽だったそうだ。
「二人から少し遅れたけど私にも赤ちゃんが出来て、産まれてみたらサンガ公爵家待望の男子だったというので、三人共ついつい教育に熱が入ってね。よく旦那様に注意されたわ」
「そうね。女の子が続いたところで男の子だったから、最初はちょっと戸惑ったけどね。まあ、上手いこと正室のオリビアが嫡男を産んだから、私もグレースもホッとしたのよね」
「ええ、女の子だけだとそれはそれで問題があったし、私かカミーラが先に男の子を産んでしまうと、周りがうるさくなってしまったかもしれないですから」
そんな思いもあって、三人のアルバートへの期待は高かったらしく、産まれてすぐに英才教育を始めようとしてサンガ公爵に止められたそうだ。そのせいか、アルバートの教育はサンガ公爵主体で行われることになったとのことだった。
それから三年ほどたってから産まれたプリメラにはアルバートの時の反省を活かし、教育にはほどほどに関わることにし、基本的に家庭教師に任せていたそうだが、可愛がることに関してはアルバートの時の反動(アルバートもちゃんと可愛がってはいたが、嫡男としての教育の時に触れ合えなかった分をプリメラに回したという感じらしい)があったので、結果的に四人の中で一番かわいがることになったとのことだ。さらに、プリメラの後に子供が出来なかったので、可愛がる期間が長くなったらしい。
「その結果、少し抜けて世間知らずなプリメラになった……と」
「そうね。でも、そんなところも可愛いでしょ?」
そう言われてしまうと否定はできないので、黙ってうなずいた。そんな俺の反応に気をよくした三人は、聞いてもいないのにプリメラの過去の話を始めたのだった。
「お母様方、そろそろシーザー様とイザベラ様のところに、ご挨拶に向かわないといけないのではないですか?」
顔を赤くしたプリメラがそう言うと、三人は少し慌てながら俺たちから離れて行った。プリメラの迫力に、アルバートもどこかへ行こうとしていたが、その前に一人の男性が俺たちのところへやってきた。
「プリメラ様、アルバート様、おめでとうございます」
「ありがとうございます、アビス子爵」
「ありがとう、アビス子爵……ところで、プリメラの名前を先に出したのはわざとなのか?」
「いえいえ、そんなことはありません。テンマ殿、このたびのご婚約、誠におめでとうございます」
「ありがとうございます。アビス子爵、このような場で聞くことではないのかもしれませんが、グンジョー市での結婚式の後、ファルマンはどうしていますか?」
ファルマンがアビス子爵の監視下で奉仕活動をしているというのは知っているが、それ以上の情報は無いので少し気になったのだが、
「ええ、彼はよく働いていますよ。この調子だと、自由の身になるのが早まるかもしれません。それについ最近、ファルマンのところに恋人が押しかけてきましてな。仲良く同棲生活を楽しんでいるようです」
監視されている身で同棲しても大丈夫なのかと思ったが、ファルマンはアビス子爵の治める街に移動しなければならなくなった際に彼女に訳を話し、一度は別れたとのことだったらしいが、彼女の方は別れ話に納得がいかなかったようで、何の前触れもなしに手荷物一つで押しかけて来たそうだ。
「情熱的な女性なんですね」
プリメラの言葉にアビス子爵は大きく頷き、事情を知っている者は最初同棲に難色を示していたが、ファルマンの真面目に奉仕活動をする姿を見て容認するようになったと教えてくれた。
「なあ、アルバート……アビス子爵は、ついに俺が見えなくなったようだぞ」
「私はほぼ最初から見えていないようだから、テンマはまだましな方だ」
アビス子爵は俺たちのことが見えなくなったようで、プリメラとばかり話していた。
「あまりここから離れるのもまずいしな……そう言えば、アルバートは結婚祝いに何か欲しいものはあるのか?」
プリメラを置いて離れるわけにもいかないし、かと言ってここで突っ立っているだけと言うのも馬鹿らしいので、アルバートに話しかけてみた。まあ、アルバートはパートナーのエリザがエイミィ(+ティーダ)と共に他のところに行っているので、そちらに逃げられないようにする目的もあった。
「ふむ、そうだな……ゴーレムが欲しいところだが、以前マリア様に釘を刺されたことがあるからな……」
この場合の贈り物なら、ゴーレムでもマリア様は何も言わないと思ったが、他のものにした方が無難ではあるだろう。
しばらく悩んだアルバートは、
「馬車がいい。テンマの持っているものほどでなくていいから、外見が少し小さめの箱馬車で、中はニ~三人が横になれるくらいの大きさのものが。あと、トイレと風呂……は無理でも、着替えをするスペースが欲しいかな?」
今後は王都やサンガ公爵領を行き来することがさらに増えそうなので、その移動を快適にしたいということらしい。ただ、馬車を引くのはライデンのようなゴーレムの馬ではないので、普通のものより少し小さく作り、馬の負担を減らすことで移動速度を上げたいとのことだった。
「まあ、それくらいならそこまで難しくは無いな。少なくとも今作っているゴーレムよりは簡単そうだ」
要は今俺が使っている馬車の小型版なので、それを手本にすればそこまで難しくはない。
「しかし、その馬車をアルバートに贈ったとなると、他にも欲しがる者が出てくるだろうな。少なくともカインとリオンは確実だ」
「だな。だが、理由なく二人にも贈るとなると私は納得できないな」
まあ、確かにアルバートに渡す理由が結婚祝いなので、理由なく二人に渡すことはしない方がいいだろう。だが、
「まあ、カインに関してはシエラ嬢との結婚の時に贈るというのならば、私と同じ条件なので何も言わないが、リオンは相手がいないからな……いや、候補はいるが、あの調子ではいつになるか分からないから、あと数年は駄目だろうな」
アルバートの言う通り、近々結婚する可能性が高いカインはその時に渡せばいいし、それならば誰からも物言いはつかないだろう。
「それじゃあ、そうするか。だけどこの場合、エリザの分も含めて二台になるのか?」
「私とエリザの結婚祝いと言う形だから、一台だな。まあ、くれるというのなら二台でもいいが、それだとテンマの時のお返しが大変になるからな……やはり夫婦に一台、もしくはそのサンガ公爵家に一台贈るという形だろう」
普通、贈られる側に聞くのは変かもしれないが、俺にそういう経験が無いので仕方がないし、今後の為に義理の兄になる人にアドバイスを貰ったと考えれば、そうおかしな話ではないだろう。
「もらう側が言うのもなんだが、私とエリザが馬車を貰ったと知れ渡ると、自分たちにも作ってくれという者が出てくるだろうな」
特製の馬車をアルバートに贈れば、自然と俺が自分で作ったものだという話も広がるだろう。そうすると、金を払うから自分人の作ってくれという者が出てくるのは目に見えている。だが、
「そのことだけど、将来ティーダにも同じようなものを贈ろうかと思っている。もちろん、エイミィと無事に婚約か結婚出来た時の話だし、王様たちにも許可を得なければならないが、そうすれば俺とかなり親しい間柄かつ、贈られる方にそれだけの理由がないといけないという風にならないかな?」
別にティーダでなくとも、王族の誰かにそれだけの理由があるのならばその時に贈ればいいとは思うが、結婚や婚約と言った理由の方が限定的で分かりやすいと思ったのだ。
「確かにその考えはいいと思うが、ティーダ様とエイミィの結婚となるとだいぶ先の話になりそうだからな……ここはカインの婚約を利用する方がいいかもしれない。結婚式の前倒しで贈ることになったとか言って、シエラ嬢の安全の為にならとかいう条件を付ければ、理由としては苦しいかもしれないが、テンマと親しい者への贈答品だというイメージを付けることが出来るかもしれない」
後でカインにも相談しなければいけないな……とか考えていると、
「テンマ殿、婚約したばかりでこういうことを聞くのは失礼かもしれないが、将来的に側室を持つ気はあるのかね?」
アルバートとの話が終わるのを待っていたのか、アビス子爵がそんなことを聞いてきた。
「子爵! いくら何でも失礼だろう!」
アルバートはアビス子爵の発言に腹を立てていたが、俺はそばにいるプリメラが何も言わないのが気にかかっていた。
「アルバート様、こう言った話は出来る限り早く済ませておいた方がよいのです。いくらプリメラ様が貴族から籍を抜けるとはいえ、テンマ殿は貴族の世界に深く関係することになるのです。そうすれば、有象無象の貴族からこのような話は来るでしょうし、そのたびに不快な思いをすることになるのならば、この場ではっきりさせた方がよいと思われます」
アビス子爵がはっきりと言い切ったのと、先程のアルバートの咎める声で、一気に俺たちは会場中の注目を集めることになってしまった。
「アビス子爵、俺は……」
「そのことですがアビス子爵、側室に関しては私に考えがあります」
俺が側室はいらないと答えようとしたところ、プリメラに言葉を遮られてしまったのだった。