第16章-14 攻略中断
「じいちゃん、こっち」
焼肉の後で話し合った結果、一か月で行けるところまで行こうという話になり、三日ほど休んでから再度ダンジョンに潜った。
「うむ……それにしても、上手いこと魔物と遭遇しない道を通っておるのう」
時間短縮の為、『探索』と『鑑定』を使って魔物の少ない道を通っているのだが、説明が面倒くさいので前に通った時に安全だった道を進んでいるということにしてある。
「ちょっと待って。少し先に、ゴブリンが三匹いる」
「まだこちらに気が付いていないみたいじゃな。ジャンヌ、アウラ、お主たちでやってみるといい」
「「はい」」
ジャンヌとアウラはじいちゃんと一緒に近くの岩陰に隠れ、ゴブリンが近づいてくるのを待ち構えることにした。俺とアムールとスラリンたちは、三人から少し離れた岩陰に身を隠し、何かあった時にすぐに動けるように構えた。
「今じゃ!」
「えいっ!」
「やぁっ!」
じいちゃんが石を投げてゴブリンをおびき寄せて、射程距離まで来たところで合図を出して二人に襲わせた。
「ギ! ギギャ、アッ……」
「ごめん、テンマ!」
ただ、二人には同時に三匹を倒すのは無理だったようで、襲撃に気が付いた三匹目が声をあげて仲間を呼ぼうとした。なるべく手は出さない方がいいとは思ったが、三匹目が声をあげる前に二人のどちらかが倒すのは無理そうだったので、ナイフをゴブリンの口目掛けて投げつけて時間を稼いだ。その間にジャンヌがゴブリンの首をはねたのだ。
「二人は、もう少し手早く処理できるようにならんといかんな。まあ、二対三じゃったし、怪我もしておらんから、まずまずと言ったところかのう」
「むぅ……おじいちゃんは甘い」
「まあ、ジャンヌとアウラは基本的に非戦闘員枠だからな。あの二人はアムールと違って、最低限自分の身をある程度守れるようにというレベルの話だからな」
ゴブリン程度なら、一対三の戦いであったとしても二人は大丈夫だろうが、二対三でも早く倒すと言うのはまだ難しいようだ。そのことをじいちゃんは注意しながらも、かなり甘めの評価を下したことがアムールには気になったようだ。
「それなら仕方がない。テンマ、次に魔物が現れたら私がやる。二人にお手本を見せる」
そう言って、アムールはいつもの槍やバルディッシュではなく、普段使わない剣に武器を変えた。多分、その方が二人に分かりやすいと思ったのだろう。
そのことを戻ってきたじいちゃんに話すと、じいちゃんもお手本を見せることに賛同し、二人にも言ってきかせた。だが、
「魔物が出ない……」
そういう時に限って、魔物魔物は現れなかったりする。まあ、その原因は俺が魔物を避けるようなルートを選んでいるからなんだけど、わざと魔物のいる方向に向かおうにも、先程のような都合のいい小規模なゴブリンの群れが見つからないのだ。いても近くに大規模な群れがいたり、上位種で編成されていたりと、下手をすると余計な時間がかかってしまいそうな群れしかいなかったので仕方がない。
「じいちゃん、この階層を抜けたら休憩にしよう。丁度降りたすぐ近くに、休憩に使えるところがあるから」
次が七十五階層で、潜りなおしてから二日目での到達となる。ジャンヌとアウラを鍛えながらなので、一人の時よりも時間がかかると思っていたが、戦力が増えたおかげで今のところは一人の時とあまり大差がなかった。
「ここで今日は休憩しよう。そこそこの広さがあるから、馬車を出しても大丈夫なはずだ」
馬車を出せるということは風呂に入れるということなので、ジャンヌとアウラが大喜びしていた。
「外に見張りのゴーレムを置いておくから、この辺りの魔物くらいなら瞬殺されることは無いはずだ」
いつも通り壁を作って簡易的な部屋を作るやり方で休憩をするのだが、もしミノタウロスのような魔物が中にいる俺たちの存在に気が付いた時、一撃で壁が壊されてしまう可能性がある。そこで、外に岩に偽装したゴーレムを待機させておいて、魔物が壁を壊そうとしたらその阻止、もしくは時間稼ぎをさせるのだ。ゴーレムが頑張っている間に、俺かじいちゃんが外に出て対処するのだ。
「飯は買ってきたやつで済ませるから、各々好きに食べるといい。風呂に入る時は馬車の扉を閉めて、風呂場のカギをかけること」
一応女性陣が風呂に入っている時は馬車の中に入らないようにしているが、不測の事態という場合もあるので、風呂場のカギだけはかけておくように言った。
「そう言えばテンマ、騎士型ゴーレムはどれほど強くなったのじゃ? オーク相手に無双しているのは見たが、あれくらいなら普通のゴーレム相手にやっておったからのう」
オークは普通のゴーレムより弱いので、騎士型ゴーレムの強さを測るのには不十分ということだろう。なので分かりやすく、
「ミノタウロスと正面からぶつかって押し返し、一撃で頭部を割るくらいには強い」
「Aランクの魔物でも止められぬのか……」
一人で潜っている時に、最下層付近でミノタウロスを発見したので試しに戦わせてみたところ、騎士型ゴーレムは突進してきたミノタウロスを正面から受け止めて押し返し、体当たりで怯ませたところに返す刀で脳天をかち割ったのだ。まあ、戦いの中で左の手首と肩の関節に異常をきたしていたので、全くの無傷と言うわけではなかったが……それもその場で修理できる程度の異常だったので、強さ的にはSランクの魔物に匹敵するかもしれない。
「サソリ型ゴーレムも化け物じゃが、騎士型ゴーレムはサソリ型とは違う方向性の化け物じゃな」
サソリ型の強さは、ゴーレム核の性能以上に体の大きさと重さによるところが大きいので、『デカいから強い』という感じだが、騎士型の場合はゴーレム核の性能の高さが目立つので、『デカくて強い』といった感じがする。
実際にどういった感じだったのか少しでも分かるように、頭を割られたミノタウロスを見せるとじいちゃんはかなり驚いていた。そしてその後ろではシロウマルとソロモンが、何か貰えるのかもしれないと言った感じの目でこちらを見ていた。
「のう、テンマ。テンマはこの一か月でどこまで潜れると思っておるのじゃ?」
「九十階層に行けたら上出来かなと思ってる」
ここまでは俺一人の時とさほど変わりが無いが、ここから先はジャンヌとアウラにはかなり厳しい状況が続くだろうし、アムールでもきついかもしれない。そうなると攻略速度は遅くなるから、九十階層に到着すれば上出来と言っていいだろう。
「わしは八十五階層まで行ければいいと思っておるが、どうなるじゃろうな……ところで、テンマの時はどれくらいの速度で進んだのじゃ?」
「えっと……基本的に魔物は避けるか隠れるかしてやり過ごして、見つかった時は走って逃げた。たまにゴーレムの訓練で戦わせることもあったけど、倒したらゴーレムと魔物をすぐに回収して、追いかけてくる魔物は撒いて、連戦は避けたね」
戦うとどうしても戦闘音で魔物が寄って来るので、ゴーレムと倒した魔物の回収からの逃走と言う感じになったのだ。二番目の群れと続けて戦うと、戦っている間に三番目四番目の群れがすぐ目の前までやって来てしまうので、時間のことを考えたら逃げるのが一番いいのだ。それに、音に近寄って俺の方へやって来るということは、その分だけ魔物のいないスペースが増えるということなので、一番近い群れをやり過ごせば後は逃げやすい状況にもなるのだ。
「休憩は一日ニ~三回は取っていたけど、それ以外は基本的に移動していたね」
「テンマ一人で一日ニ~三回となると、わしらとじゃと一日四~五回と見た方がいいかもしれんのう。じゃとすると、やはり八十五階層に到達できるか出来ないかになりそうじゃな」
じいちゃんが言うには、今はまだいいけど、この先ジャンヌやアウラ、それにアムールの疲労はどんどん増していくだろうから自然と攻略速度は落ちるし、そうでなくても五人と三匹で進むとなると、魔物から発見されやすくなるので戦闘回数も増える。戦闘が増えるとその分だけ三人とじいちゃんの疲労は増して、速度はまた落ちる。まるで俺が疲れを知らないような言い方だが、逃げ回るよりも戦う方が何倍も疲れるので、俺一人で潜った時の感覚はあてに出来ないということらしい。
「なら仕方がないか……最悪、俺が『オラシオン』の代表として最下層まで潜ったと言えば、じいちゃんたちを連れて行っても文句は出ないだろうから、より安全重視でゆっくりと進もうか」
一か月間単独行動をしていたのと、速度重視で攻略を進めていたせいで、パーティー行動の感覚が大分ずれていたようだ。
「まあ、感覚がずれるのは仕方がないし、今後の予定を考えれば急ぐのも分かるが、それでジャンヌとアウラに何かあれば、周りも心から祝福することが出来なくなるかもしれんしのう。そうでなくとも、テンマは『オラシオン』のリーダーなのじゃから、常にパーティーメンバーのことは頭に入れておかねばならんぞ」
神妙にじいちゃんの忠告を聞いていると、何故かじいちゃんの隣にシロウマルとソロモンが移動して俺を見つめてきた。なので少し考え、
「……腹が減ったのか?」
と聞くと、二匹揃って尻尾を大きく振り出した。
「オーク肉を焼くか」
今一番在庫があるのがオークの肉なので、それを使ってシロウマルたちのご飯を作った。まあ、ただ焼いただけの肉に少しの野菜と炊いた米を混ぜただけのものだ。
「シロウマル、ソロモン、野菜を吐き出したら、明日から肉と野菜の比率が逆転するからな」
野菜をそっと吐き出そうとしていた二匹に忠告すると、嫌そうな顔をしながらも口の中の野菜を飲み込んでいた。
「テンマ、私の分もお肉ちょうだい」
シロウマルたちのご飯のお代わりを作っていると、風呂から上がったアムールが臭いにつられてやってきた。馬車の方を見ると、ドアの影からアウラもこちらを覗いているので、もう少ししたらジャンヌもやって来るだろう。
「大したもんじゃないからな」
買ってきたもので簡単に済ませるつもりだったのに、何で食事を俺が作ることになっているのかと思いながらも、せっかくだから人数分の野菜炒めを作ることにしたのだった。
「食べながらでいいから聞いてくれ。今後のことだけど、予定では二十五日後に王都に向けて出発することになっている。なので、セイゲンを出発する前に休息を取ったりすることを考えると、あと二十日ほどダンジョンに潜るということだ。そのことを踏まえ、今回の目標を八十五階層とする」
目標の八十五階層まであと十階層なので、一階層につき二日かけて攻略するということだ。
「テンマ、目標は高い方がいい! テンマが一か月で最下層まで行けたから、私たちももっと行けると思う!」
と、アムールが目標の変更を求めてきたが……
「一日中走り続けることが出来るのなら、二十日もあれば最下層まで行ってもお釣りがくるぞ」
「無理! 八十五階層を目指す!」
と、すぐに発言を撤回した。まあ、俺も一日中走り続けていたわけではないけど、それでも半日近く走り続けるのを何度か繰り返した。そうしないと、一か月とちょっとでは四十階層近くを攻略することは出来なかっただろう。
「そういうわけだから、休憩の時はしっかりと体を休めるように。走り続けるわけじゃないけど、かなり神経を使う場面が絶対に来るから、その時に万全の体調で挑めるようにな」
と言う感じで、じいちゃんに言われたばかりなので、ちょっとリーダーっぽいことを言ってみた。アムールたちは真剣に聞いていたが、じいちゃんは三人にバレないようにニヤついていたので、リーダーと言われたことを意識してのセリフだとバレたようだ。
「ふむ、リーダーの話も終わったところで、わしは風呂にでも入るとするかのう」
「あっ! マーリン様、お風呂は洗ったので張ってあるお湯もきれいなんですけど、多分冷めているので温めなおしてきます」
ジャンヌがそう言って馬車に向かおうとしたが、じいちゃんはそれくらい自分ですると言って馬車に向かって行った。ちなみに、ダンジョン攻略中に風呂の湯を変えるなど贅沢過ぎて普通はしない(そもそも、風呂に入ること自体出来ない)のだが、俺たちの場合、魔法を使える者が多いのと、今のようにかなり安全な休憩所を作ることが出来るので、そういった非常識なことが可能なのだ。
「片付けは適当でいいから、ダンジョンに潜っている間は少しでも体を休めるようにな。特に、ジャンヌとアウラは」
馬車に向かう前にもう一度念押しすると、名指しされた二人は食器などを洗う準備を中断して、大人しく座りなおした。
「見張りに騎士型ゴーレムを立たせておくから、眠かったら俺やじいちゃんに遠慮せずに寝るんだぞ」
端の方にベッドを出してそう言うと、思った通り二人は疲れていたようで、俺が馬車に乗り込む前にベッドに横になっていた。ベッドの下にはスラリンがいるので、魔物が侵入してきたとしても大丈夫だろう。そして、まだ起きているアムールは……
「食べるのもほどほどにしておけよ。あと、野菜も食えよ」
「うむ! 善処する!」
俺が作ったものだけでは足りなかったようで、自分で肉を焼いて食べていた。いつもの二匹をそばに置いて……一応、栄養バランスも考えて野菜も食べるように言ったが、あの様子だと食べないだろう。
その後、じいちゃんを待って入れ替わりで風呂に入った。そして、風呂から上がって見たものは……
「シロウマル、ソロモン……腹、膨れすぎじゃないか?」
口の周りを汚し、腹を大きく膨らませてへそ天で寝る二匹の姿だった。もう一匹はどこに行ったのかと探すと、ジャンヌたちと同じベッドで寝ていた。アウラを枕にして。
「……俺も寝るか」
シロウマルたちの間の抜けた姿を見ていたら俺もなんだか眠くなってきたので、ジャンヌたちから離れた場所にベッドを出して寝ることにした。
それから数時間後、
「ぶぎゃ!」
誰かの押しつぶされたような声で目が覚めた。飛び起きて声のした方を見ると、
「は、鼻が……」
ベッドから転がり落ちたらしきアウラが、鼻を押さえてうずくまっていた。指の間から赤いものが見えるので、鼻血を出しているみたいだ。
「アウラ、何しているのよ……手当てするから、こっちに来て」
俺と同じくアウラの声で起きたジャンヌが、目をこすりながらマジックバッグから薬箱を取り出した。
「ひや、おひたわけ」
「手当てできないから、少し黙ってて」
アウラが何か言いかけていたが、治療の邪魔だとジャンヌに怒られていた。アウラの押しつぶされたような声からジャンヌの治療までの間に、じいちゃんは一度顔をあげて何があったかを確認してもう一度寝て、アムールは一度寝返りを打っただけで全く起きる様子を見せなかった。
「はい、これで終了。鼻栓はしばらくの間抜かないでね」
「ふぁい……」
治療は終わったがまだ鼻の辺りは赤くなったままなので、アウラの顔は面白いことになっていた。
「アウラ、次はベッドから落ちるなよ」
からかい半分で忠告すると、
「違います! 私は落ちたんじゃなくて、アムールに落とされたんです!」
という言葉が返ってきた。話を聞くと、寝ているとお腹の辺りに圧迫感を感じたので目を覚ますと、お腹の上にアムールが乗っかっていたのだそうだ。ちなみに、乗っかっていたとは枕代わりにされていたということではなく、言葉通りうつ伏せになったアムールの胴体がお腹の上に乗っていたのだそうだ。
そのままでは眠れなさそうだったのでアムールを脇にどけよう手を置いたところ、急に手を掴まれてベッドの下に投げ落とされたらしい。
「もう一つベッドを出すから……アウラがそっちで寝ろ」
「ありがとうございます!」
アウラの話を聞いてアムールを新しく出すベッドに移動させた方がいいかと思ったが、俺とアウラしかいない状況だと移動させるのはアウラの役目になる。そうすると、もう一度アウラが投げ飛ばされてしまう可能性があったので、アウラに新しいベッド使わせることにしたのだ。ちなみに、アウラは俺が何を言おうとしたのか予測できていたようで、投げ飛ばされる心配がなくなったことで声が大きくなったようだ。
翌日、起きてきたアムールに注意すると、
「何か投げ飛ばしたのは記憶にある。ただ、気配がとても嫌らしかった気がする」
と、一部犯行を認める発言をしながらも、一方的な加害者ではないという発言もした。その発言のせいで、アムールが一方的な加害者ではない可能性が生まれ、陪審員の一人であるジャンヌは、アムールを擁護するようになった。どうやら、アウラがアムールにいたずらしようとしたと確信しているみたいだった。
「今後は三人分のベッドを出すことで問題が起きないようにする。以上! ジャンヌ、アウラ、朝食の準備を始めてくれ。アムールは二人の手伝いだ」
アウラにも疑惑が生まれてからは水掛け論になりかけていたので強引に話をまとめ、朝食で空気を換えることにした。
「それじゃあ忘れ物は無いな。今日も張り切っていくぞ」
「おーーー!」
「「おぉ……」」
アムールは楽しみなのか気合の入った声を張り上げていたが、ジャンヌとアウラは憂鬱なのか、気合と言うよりは嘆きの声だった。
「二人共情けない! 私を見習うといい!」
アムールも二人の声が気になったようで、叱咤激励のつもりなのかそんなことを言っていたが、二人の実力からすれば最下層を目指すという目標は憂鬱になっても仕方がないのかもしれない。まあ、どうしようもなくなったらスラリンの中に避難させるが、今のところは俺とじいちゃんで十分なフォローが出来ているので、いい経験だと思ってもう少し頑張ってもらいたいものだ。
その日から一週間ほどは、目標である二日で一階層の攻略ペースは守られていたが、徐々にジャンヌとアウラの疲労が回復力を上回り始め、二週間で何とか八十階層までたどり着いたところで、今回の攻略は中断することになった。
中断の原因となった二人は申し訳なさそうにしていたが、傍から見ても限界が近いのが分かっていたのでアムールもいつものようにからかうことなどせずに、俺の一存で決めた帰還の決定に素直に従った。
「それじゃあ、ジャンヌとアウラは明後日まで完全休養。休養中はメイドの仕事はしなくていい……と言うか、するな。体の調子を整えることを優先すること。出発の予定日に変更はないから、それまでは基本自由行動。ただし、ダンジョンに潜ったり依頼を受けたりする場合は必ず報告すること! 以上!」
ジャンヌとアウラには、明後日までの完全休養を命令したが、あと数時間で日付が変わるので実質二日しかない。本当はもっと休ませてもいいと思うが、二人が休むのは一日でいいと言ったのを命令で伸ばしたのだ。まあ、二日で調子が戻らないようなら休養の延長を命令すればいいので、『休養はとりあえず明後日まで』ということなのだ。二人には言ってないけど。
「それじゃあ、わしは明日から適当にぶらつくとするかのう。ダンジョンに潜ったり依頼を受けたりはせんから、戻らなくても気にせんでいいぞ」
じいちゃんなりに二人の負担を減らそうとしているのかもしれないが、帰ってこないというのも困るので、遅くなっても一度は馬車に戻ってくるように約束させた。
「私は……武器見て屋台回って、もしかしたらダンジョンに潜るかもしれないから、潜りたくなったらその時に言う」
アムールも基本的に街をぶらつくつもりのようだ。そして、俺はと言うと、
「明日は街で買い物して、明後日はダンジョンに潜るつもりだ。最下層付近ではなく、中層辺りで素材探しの予定だ」
適当にダンジョンの中をうろついてみて、ミスリルでも見つかれば嬉しいな……と言った感じだ。『探索』を使ってなるべく戦闘を避けるつもりなので、ちょっと危険な散歩のようなものだな。
その散歩にシロウマルたちも連れて行きたいところだが、ジャンヌとアウラに何かあった時のサポートと護衛の為に残して行くことにした。
「風呂はいつでも自由に使っていいけど、使用中は馬車の施錠を忘れるなよ。スラリンも、大丈夫だとは思うけど気を付けてやってくれ。それと、悪意を持って近づいてきた馬鹿がいたら、そいつの対処は任せる。なるべくなら生け捕りがいいけど、最悪殺してしまってもかまわない。その時は他にバレないようにな」
俺の指示にジャンヌとアウラは呆れた顔をしていたが、スラリンは頼もしそうに頷いていた。これでジャンヌとアウラをゆっくり休ませつつ、安全も確保できる。
「食事もダンジョンで食べるはずだったものを置いて行くから、好きに食べていいぞ」
これで食事の用意もしなくていいので、二人は好きなだけ休むことが出来るだろう。
こんな感じで出発までの数日を過ごしたのだが……その数日間の出来事を知ったアイナからは、ジェンヌとアウラへ対応が過保護すぎると呆れられたのだった。