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第16章-13 最下層、到達

「それで、頑張ったら一か月でここまで来れた……と?」

「正確には、『一か月と十日ほどで』……だけどな」

「大差ねぇよ!」


「それにしても、俺たちが数年かかったところを一か月くらいで攻略されたら、気持ち的に……こう、あれだ。あれ」

「『不甲斐ない』かい?」

「『情けない』ですかね?」


「そんな感じだ。まあ、覚悟していたことだし、テンマが化け物だと改めて証明されたようなもんだから、気にしても仕方がないのかもしれないけどな」


「まあ、ガラットの地図があったからな。あれが無かったら、俺も年単位で攻略に時間がかかっていただろうし」


 男性側と女性側で感じ方が違うみたいだが、俺が地図のことを言うとガラットは大分気持ちが上向きになったようだった。

 ダンジョンに潜って一か月とちょっとで、俺は()()()()最下層に到達することが出来たのだ。そして、丁度最下層付近で素材を集めていた『暁の剣』と遭遇し、先程のような会話になったのだ。まあ、その会話の中でガラットたちに呆れられた上に、ジンが少々落ち込んでしまったのだ。


「全く、テンマがニ~三か月で追いつくのは分かっていたことだろうに。まあ、予想よりも早かったのは少し驚いたけど、それこそ『大差ねぇよ』だよ」

「ですね。久々の優位性が失われたのは悲しいですけど、分かっていたことを悔やんでも仕方がないですよね。それよりもテンマさん、一度地上に戻って、プリメラちゃんに手紙でも出した方がいいですよ」


「それと、マーリン様たちにも声をかけた方がいいかもな。上で会うたびに、「テンマとはまだ会えていないのか?」って聞かれるしな。まあ、数日前に見かけた時は潜る準備をしていたから、今はダンジョンの中にいるかもしれないけどな」


 拗ねるジンをほったらかしにして、ここ最近の地上の情報を仕入れた俺は一度地上に戻り、プリメラに手紙を書いてからじいちゃんたちとの合流を目指すことにした。


 そんな感じでギルドまで来たのだが、


「そもそも、どんなことを書けばいいんだろう?」


 生まれてこの方(前世を含む)女性に手紙など送ったことが無いので、悩みに悩んだ結果。


「普通に、『無事にダンジョン攻略しました。私は怪我一つありません。また会える日を楽しみにしています』……でいいか」


「いや、あまりよくないと思いますけど……」


 考えた文章を呟きながら書き上げると、すぐ後ろからリーナの呆れたような声が聞こえてきた。


「リーナが心配した通り、これじゃあただの状況報告だね。まあ、最後の一文はテンマにしては頑張った方かもしれないけど、そもそもが短すぎるしね」


 メナスも手紙の内容が気に入らないのか、否定的な意見を述べていた。


「そう言われても、何を書いていいか分からないからな。とりあえず無事と分かればいいんじゃないか?」


「いやまあ、テンマがいいならそれでいいけどな」

「まあ、テンマさんですし、仕方がないですね」


 これなら万が一手紙の内容が外に漏れたとしても、色々と誤魔化すことが出来るのだが……多分それを言ったとしても、二人は納得しないだろう。だが、


「二人も納得する文章みたいだし、これを出すことにしよう。お~い、テッド! これを王都の屋敷まで頼む。代金はこれだ」


 俺には肯定するような言葉に聞こえたので、何か言われたら二人にも責任を取ってもらうことにしよう。


「はいよ。ちょっくら言って来る」


 聞き耳を立てていたらしいテッドは、素早く近寄ってきて依頼料の金貨を掴むと、そのまま外に走っていった。


「これであの手紙に関して何かあったとしたら、からかわれるのは俺たち三人だな」

「この外道め! テッド、待ちな!」

「街中じゃなかったら撃ち落としているのに!」


 別にあの手紙に三人で考えたとか書いてはいないので、メナスとリーナがからかわれることは無いのだが、二人はそのことに気が付かないで、テッドを追いかけてギルドから出て行った。まあ、テッドは俺が二人をからかっているのに気が付いていたみたいだし、ギルドを出てすぐにサンダーバードで飛び立つだろうから、追いつかれることは無いだろう。


「さてと……俺は二人が戻ってくる前に、もう一度ダンジョンに潜ってじいちゃんたちを探すとするか」


 休憩も取りたいところだが、それはダンジョンの中でも出来るので、今は二人から逃げることを第一にした。


「長くても数日で戻って来いよ。マーリン様を見かけたら、テンマは数日で戻るから、地上で待った方がいいと言っておくから」


 ガラットがそう言うので、ニ~三日で会えなかったら地上に戻ってくると言って、酒代の一部をおごることにした。金貨を置くとガラットは嬉しそうにしていたがジンはすでに出来上がっており、金貨に気が付かなかったようだ。


「ジンが気が付いていないからって、ネコババするなよ?」

「さすがにしないって。それをやってバレたら、ジンに追いかけまわされてしまう」


 バレなきゃするのかと思ったが、俺が金貨を置いたのは他の冒険者も見ているので、誰かから情報が洩れるのは確実だろう。


「それと、これはメナスたちが戻ってきたら使ってくれ」


 もう一枚金貨を渡すと、ガラットは苦笑しながら受け取った。


「ご機嫌取りに金貨を使うくらいなら、最初からからかわなければいいのに」

「いやぁ、話の流れというものには逆らえなくてな」


 おごりとご機嫌取りに金貨二枚(二万G)は出しすぎかもしれないが、これはダンジョンの情報の恩返しの一部と思えば決して高くはない。まあ、少々照れくさいので口には出さないが。


「なら仕方がない。適当に飲み食いさせたところで、テンマのおごりだとバラしておくよ。そうすれば、賄賂を受け取った後ということになるから、ごちゃごちゃ言うことは無いだろう……多分。ああそれと、俺とジンも何か食べるけど、文句は言うなよ?」


 ガラットも情報の礼だと分かっているようで、軽い口調で返してきた。


「それじゃあ、メナスとリーナのことは頼むな」


 二人のご機嫌取りを念押しし、周囲に二人がいないことを確かめてからダンジョンに向かった。もしかしたら、ダンジョンの手前辺りで待ち伏せされているかもと思ったがそういったことは無く、問題なくダンジョンの六十階層まで移動することが出来た。


「それじゃあ、ここから探してみるか」


 一緒に潜った時の到達地点が六十階層辺りだったので、一人で潜った時と同じところから進んで後を追う方が出会える可能性は高いだろうと思ったのだ。


「ゴーレムを出してもいいけどそれだと時間がかかるし、もしも近くにじいちゃんたちがいた場合、ジャンヌとアウラが危ないから、一人で進んだ方が安全だろうな」


 ゴーレムの動きもだいぶ良くなってきているが、数が集まってきた時にじいちゃんたちが近くにいたら危ないので、最初と同じく雑魚は無視して進むことにした。



「オークが五匹か……ゴーレムにやらせるか」


 六十五階層の休憩ポイントまで行く途中、丁度いい感じの群れを見つけたので、条件を付けてゴーレムに相手をさせたが、


「あれくらいじゃ、もう相手にならないな」


 ハンデとして、ゴーレムにはオークの頭部しか狙ってはいけないという条件を付けたのだが、目の前に並ぶ死体の頭は、三つが切り飛ばされ二つが殴り潰されていた。


「これなら解体がしやすそうだな」


 シロウマルたちにいいお土産が出来たところで、ゴーレムを一度戻して休憩場所に向かった。


「ん? 俺のとは違う使用跡があるな……じいちゃんたちか?」


 じいちゃんたちだとすれば、下の階層でも俺が休憩に使った場所を探して使用している可能性が高い。


「まあ、ガラットの地図を基に行動したら、休憩場所も自然と同じになるか」


 だがそれを念頭に置いて探せば、じいちゃんたち探しやすくなるだろう。


「なら、ここで朝まで野営するよりも、休憩に留めて先を進んだ方がいいかもな」


 この辺りなら一度攻略しているので、大体の魔物の強さは頭に入っている。さすがに七十階層より下だと油断できないので休憩は必要になるが、その手前なら強行軍でも問題なくいけるはずだ。


「食事をとって軽く寝て、それから出発だな。見張りと目覚まし代わりは任せたぞ」


 一人でダンジョンに潜っているせいか、独り言が多くなったりゴーレムに話しかけたりする癖が付いた気がする。

 独り言の癖は今後気を付けるようにして、まずは食事をしないといけない。幸い、あと一~二食分くらいは牛丼が残っているし、先程地上に戻った時に果物をいくつか購入もした。それに、元々マジックバッグに入れてあった食べ物もあるので、栄養価的にも問題は無いが……


「一人で食べるのは味気ないな」


 これまでは、常に誰かがそばにいたと言っていいくらいの状況だったので、一人と言うのがこれほどまでに退屈だとは思わなかった。


「こんなことなら、ゴルとジルでも連れてくればよかったかな」


 基本引き籠りの二匹だが、故郷であるはずのセイゲンのダンジョンなら、休憩の時くらいは外に出てくるくらいはするだろうし、多少の相手はしてくれるかもしれない。

 そんなことを思いながら、休憩用の短いロウソク(交換する時に、中途半端な長さで残ったもの)に火をつけて、もう一度ゴーレムに燃え尽きるころに起こせと命令して、軽く睡眠をとることにした。




「まだ先か……」


 七十階層まで降りてみたが、じいちゃんたちと会うことは出来なかった。


「ひと眠りしてから、もう一度探しに行くか」


 ロウソクを見てみると、今は昼の手前くらいの時間帯だった。どの階層にいるか分からないが、ガラットの地図通りに進んでいるのならいずれ追いつけるだろうし、追いつけなくても地上で待っていればいずれ会える。


「会えたらよし、会えなくてもよしみたいな感じで行くか。それにしても、ジンたちにじいちゃんたちがどの階層を進んでいるか聞いておけばよかった」


 そうすれば、その階層の手前くらいから進めたのに……まあ、いまさら言っても仕方がないことだが。


「飯食って寝よ……ん? 何か近くにいるな」


 何となく変な感じがしたので、周囲を『探索』で調べてみると、


()()()()()()()()に囲まれているな」


 周辺の岩陰や隙間に、『ダークラバーアナコンダ』と『ギガントデスムカデ』が複数潜んでいた。数はちょうど三匹ずつで、獲物(エサ)である俺を狙っているようだ。先程まで結構隙を見せていた気がするが、襲い掛かってこなかったのはそれぞれがけん制し合っていたからだろう。


「アナコンダは俺がやるとして、ムカデはゴーレムに任せるか」


 ゴーレムに任せたら、恐らくムカデの素材は駄目になると思うが、俺の中ではムカデよりアナコンダの方が素材的に価値が高いので、ゴーレムに任せて使えなくなってしまったら困る。


「ゴーレム、あの辺に隠れているムカデを倒せ! 俺の援護はしなくていい!」


 マジックバッグから出した騎士型ゴーレムにすかさず命令を出し、ムカデを強襲させた。姿を隠していたムカデだったが俺が指差した岩をゴーレムが破壊すると、その衝撃に驚いてゴーレムの目の前に姿を現した。


「こっちも、衝撃に驚いて出てきたな……よっと!」


 岩陰や岩の隙間から這い出てきたアナコンダは、想定外のことに驚いたのか動きが鈍かった。さっきまで俺の隙を伺っていたはずのアナコンダは、逆に俺の目の前で隙をさらしているのだ。三匹の中でも一番後ろにいたアナコンダに向かってナイフを投げると、上手いこと目に突き刺さった。


「あれは後回しにしていいな。よい、しょっと!」


 目にナイフが刺さったアナコンダは、前にいる二匹を巻き込む形で暴れていた。そのせいで前の方の二匹はさらに隙を見せていたので、一気に詰め寄って一匹目の首を一太刀で切り飛ばし、二匹目は返す刀で頭部を縦に切り裂いた。


「あれはもう少し大人しくなるまで待つか。それにしても、相変わらず切りにくいな」


 一匹目は勢いが付いていたこともあり、綺麗な切り口をしていたが、二匹目は勢いが止まっていたことと頭骨を正面から切ったこともあり、切り口が乱れていた。まあ、頭部は特に必要と言うような部分ではないので、切り口が乱れていようが関係ない。それよりも、小烏丸の性能が上がったこともあるが、初めての時よりも楽に切れたことの方が、成長していると感じることが出来て嬉しかった。ちなみに、今しがた切られた二匹のアナコンダはまだ神経が生きているらしく、グネグネグネグネと動き回っていた。


「トカゲの尻尾みたいな感じなんだろうけど……このサイズだと不気味過ぎるな。まあ、そんなことは置いといて、そろそろあいつも大人しくなったみたいだな」


 切った二匹はほぼ死んでいるようなものなので後回して、次はナイフが目に刺さって暴れていた奴を処理することにした。目にナイフが刺さったアナコンダはナイフが脳まで到達していたようで、ほぼほぼ死んだような状態だった。そのおかげで楽に首を落とすことができ、首を落とした後も暴れることは無かった。


「さて、ゴーレムの方はどうなった……おおぅ……」


 思っていたよりもアナコンダの方は早く終わったので、ムカデの方はどうなっているのかと思いながら振り向くと……ちょうどゴーレムが踏みつけていたムカデの上半分を引き千切るところだった。

 ゴーレムの近くには、すでに引き千切られた上に頭を潰されて絶命したムカデと、大剣で地面に縫い付けられて暴れているムカデがいた。


「あいつはもしかして、悪鬼羅刹の魂に憑依されたんじゃないだろうな?」


 そんなわけは無いとは分かっていても、そう思ってしまうような光景が目の前にあった。そんな中ゴーレムは、俺の期待? に答えるかのように引き千切ったムカデの頭部を地面に叩きつけて潰すと、次は暴れていたムカデの頭部をかかとで踏み抜いた。

 かなり凄惨な倒し方だが、命令を忠実にこなしたと思えば気には……ならないことも無いが、Bランクの魔物三体相手に完勝したのだから、些細な問題だろう……多分。


「やっぱり、ムカデの素材は大半が駄目になったな」


 ムカデの上半分(特に頭部)は三匹ともズタボロにされているので、ムカデの素材の中で価値の高い薬にも使える毒や頭部の硬い殻は使い物にならないので、半分以下の長さになった下半分だけを回収することになった。なお、俺の倒したアナコンダは三匹とも綺麗な状態なので、肉も素材も高値が付くだろう。まあ、売らないけど。


「これで今日の飯は確保できたけど……アナコンダをさばく前に、ゴーレムを綺麗にしないとな」


 今の騎士型ゴーレムは、とても汚い。何故なら、ムカデの体液と毒液にまみれ、そこに土や埃が泥のようにこびりついているのだ。これはかなり綺麗にしないと、動きに支障が出るかもしれないし、ちゃんと毒液を落としておかないと、誰かが触った時に毒に侵されてしまうかもしれない。


「水をぶっかけて汚れを落として、乾かした後で油を差せばいいか」


 毒液や土が残らないように気を付けながらゴーレムを洗い、乾かした後で油を差すと、汚れていた時よりも動きがよくなった。やはり、鎧などと同じで定期的な手入れは必須のようだ。

 ゴーレムは油をなじませる為に軽く動かしてから待機させ、アナコンダの肉を適当に切り分け焼いて食べた。肉はなかなか美味かったので、次は皆で焼肉パーティーだな。幸いなことに、三匹のアナコンダは六m後半から八m、重さは百~二百kgはありそうなので、知り合い皆で食べても十分な量があるだろう。


「腹も膨れたし、今度こそ……眠れないみたいだな」


 眠ろうと思いベッドを出したところ、遠くから狼……シロウマルの遠吠えが聞こえてきた。恐らく、この階層のすぐ下辺りにいてゴーレムの戦闘音に気が付き、そこから俺に気が付いたのだろうが……


「魔物が集まる音が聞こえるな」


 俺のところまで聞こえるということは、同じ範囲にいる魔物にも聞こえるということで、俺がゴーレムを引き連れて魔物を集めていた時と同じようなことが起こるということだ。


「じいちゃんがいるから大丈夫だとは思うけど、数によっては危ないか……ついてこい! 急ぐぞ!」


 本当に危険になれば、足手まといになりそうなジャンヌとアウラはスラリンの中に逃げ込むだろうが、狭い場所で数に押されたら万が一のことも考えられる。



「大丈夫そうだけど、結構集まっているな……じいちゃん! 助太刀するから、間違って攻撃しないで!」


「テンマか! 頼むぞ!」


 下の階層に降りて音のする方向へ向かうと、百を優に超えるオークの群れにじいちゃんたちは囲まれていた。オークの中には上位種も交じっているので、どこかにオークキングでもいるのかもしれない。


「まずは数を減らすか……ゴーレム、突撃!」


 見たところ、総合的な戦力で言えばじいちゃんたちの方が大きく上回っているが、天井が崩れる恐れがあるのでじいちゃんは大きな魔法が使えず、アムールはダンジョンが狭いせいで得意のバルディッシュを振り回すことが出来ず、シロウマルも周囲が密集しているので機動力を活かせておらず、ソロモンは空中を飛び回ることが出来ないので優位性を失っている。いつもと変わらずに動けそうなのはスラリンくらいだが、体の中にジャンヌとアウラがいるようで、前には出ずに後方で援護に回っている。


「そこそこの強さの魔物がこれだけいたら、手こずっても仕方がないか」


 実力を発揮できていないとはいえ、地力が違うので負けはしないが、数が多いせいで時間がかかっていると言った感じだった。だけど、そこに力任せに手足を振るうだけで悪鬼羅刹に変身する騎士型ゴーレムが背後から襲い掛かったことで、一気に形勢が傾いた。


「オークたちが混乱している間に俺は……いた」 


 混乱しているオークの群れに『探索』と『鑑定』を使うと、俺とは反対側……アムールが戦っている少し先にオークキングがいた。


「手下を捨て駒にして逃げる気か……まあ、キングだけあって、オークにしては賢いな」


 自分たちが有利な場所では一気に攻めて、不利になったら自分だけでも逃げる。ただ、


「もう少し早く逃げ出していれば、もしかしたら逃げ切れたかもしれないのに」


 ゴーレムが乱入する前から数は徐々に減っていたのだから、早々に見切りをつけるべきだったのに、数を多さから負けていると認識できなかったのか、いずれは押し切ることが出来るだろうと考えたのかは分からないが、どちらにしろその判断ミスのせいで、群れでの地位も栄光も、その命も失うことになるのだから、賢いとはいえ所詮はオークだったということだろう。


「アムール! 後ろの方で逃げ出そうとしているデカいのがボスだ! そいつを狙え!」


「了解した!」


 キングの存在をアムールに伝えると、アムールは周囲にいるオークを踏み台にして走り出した。そして、


「敵将、打ち取ったーーー!」


 オークキングの首に槍を突き立てた。

 ボスが死んだことで手下のオークたちは、それまでの集団行動が嘘だったかのように慌てふためき、仲間を押しのけながらこの場から逃走を始めた。


「スラリン! もう大丈夫だからジャンヌとアウラは外に出して、スラリンは追撃に行くんだ!」


 少しでも手数が必要なので、他にもゴーレムを数体出してオークの残党狩りが開始された。狩りの最中に何度かオークの反撃があったが、流れが完全に俺たちに来ているのと、オークの士気が下がりまくっている中での抵抗だったので、オークの反撃など鎧袖一触で蹴散らした。

  


「お肉が大量!」

「ええ、本当に大量過ぎて……」

「気持ち悪くなってきましたね……」


 かなりの数のオークを逃がしてしまったが、それでも数十のオークの死体が転がっている光景は、血の臭いのせいもあって気持ちが悪くなりそうなものだった。


「よし! まずは肉の回収だ!」


 数が多いのでゴーレムが中心の作業になるが、細かい指示などはその都度行った方が確実なので、全員で手分けして回収に回った。



「それにしても、来るのが早かったのう?」

「ガラットの地図が正確だったし、思った以上に騎士型ゴーレムの性能もよかったからね」


 Bランクの魔物数匹程度なら苦にも市内ゴーレムの存在は、かなり大きかった。何せ、疲れることを知らないので寝ている間ずっと待機させることが可能だったし、盾としての役目も十分にこなしていた。


「特に、背後を任せられるのが一番よかったね」


 囲まれた時に一番困るのが後ろを取られることなので、それを気にしなくてよかったのが一番ありがたかった。


「このゴーレムが一般に出回れば、パーティーの概念が変わるかもしれないのう」


 冒険者の行動を大まかに言うと、人と組む、ソロで動く、魔物と組むの三つがある。人や魔物と組んだ時は意思疎通の問題があったり、ソロの場合は難易度的な問題がある。それに対してゴーレムは、文句も言わずにどんな命令にも従うのでそういったわずらわしさが無い。


「まあ、確実にソロの冒険者は飛びつくだろうね。あと、コミュニケーションが得意じゃない冒険者も。だけど、この性能のゴーレムはそうそうできないし、冒険者が連れて歩くことが出来るまで、何年かかるか分からないしね」


 何年どころか、何十年何百年かかるかもしれないけど、王族や貴族ならもっと早くに手に入れることが出来るかもしれない。まあ、量産は難しいと思うけど。


「それで、オークに襲われる原因を作ったシロウマルは……」


 シロウマルにお仕置きしておこうと思って探すと、すでにこちらを見ながら仰向けになっていた。


「シロウマル……疲れない、その恰好?」


 ジャンヌが言ったように、シロウマルはただお腹を見せて寝そべっているだけでなく、手足をピンっと伸ばした状態で反省しているのだ。


「なんだか、怒る気が失せるな……」


 シロウマルの格好がおかしいせいで、怒る気が失せてきたが……


「気のせいだな。シロウマル、ちょっとこい」


 一瞬だけシロウマルが笑った気がしたので、予定通りシロウマルを怒ることにした。


 

「テンマ、その辺でいいじゃろ。シロウマルも、久々にテンマと会えると思ってはしゃいだだけなのじゃから」


 じいちゃんが許しているのならと、途中でシロウマルを解放したが……その後でスラリンに捕まっていた。俺やじいちゃんが許しても、それはそれと言う感じで、スラリンからもお説教をされるようだ。


「それでじいちゃん、どこまで潜った?」

「うむ、潜るだけなら七十一階層までじゃな。じゃが、その辺りじゃとジャンヌとアウラを守りながらと言うのが難しくてのう。それで上の階層で慣れさせようと上がっている途中で、シロウマルが走り出したのじゃ」


 やはり、戦闘音と臭いで気が付いたみたいだが……走り出すだけにしておけばオークに囲まれることも無かったので、シロウマルの失態には違いない。まあ、それだけ感情が高ぶってしまったのだと思えば、飼い主としては嬉しいけどな。


「それで、これからどうするのじゃ? このままわしたちと合流して最下層を目指すのか、それとも一度王都に戻るのか……どちらにしろ、わしたちの食料が少なくなっておるから、一度地上に戻った方がいいとは思うがのう」


 じいちゃんの話を聞いて、もしかしたらシロウマルの感情の高ぶりは、食料に対するものではないかという疑惑が生まれてしまった。


「テンマ、お腹すいた」


「それなら戻るか。俺も少し寝ようと思っていたからここで切り上げて、上で今後の話し合いをしようか」 


 俺の方は食料がまだ残っているけど、丁度いいタイミングなので地上に戻り、馬車の中で食事をすることになった。馬車を出す場所は、いつも通りエイミィの実家の敷地内を借りているそうなので、そこで食事と話し合いをすることになった。


「それと、オークの肉なんかのことも話し合わないとな」

「全部食べるから、大丈夫!」


 大量にあるオーク肉のことを話題に出すと、アムールが全て我が家の食料にすると言うようなことを言いだしたが、それだと何年分(うちだと、一年持たない可能性もあるが)になるか分からないので、今後手に入ることも考えて、いい部位だけを残して大半を売ることになった。その決定は多数決(俺、じいちゃん、ジャンヌ、アウラが賛成に回った)で決まったのだが、アムールとシロウマル、ソロモンはそれでも不満だったようだ。まあ、ちょっと変わった肉(アナコンダの肉)を夕飯に出すと言うとすぐに納得していたので、説得は楽だった。もっとも、焼肉のうわさを聞き付けたジンたちやテイマーズギルドの面々までやって来て、ほぼ一匹分が無くなるのは計算外だった。

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― 新着の感想 ―
[気になる点] テンマの行動で迷宮攻略に約一ヵ月掛かった事は分かりましたが、最下層到達するまで迷宮から出無かったのか気になりました。  ゴーレムの習熟訓練を同時進行し魔物素材を大量に回収しているので回…
[気になる点] ギガントデスムカデ、ギガントデスまではいいんだけど、ムカデで急に日本語になるのに違和感が…センチピードとかセンティピードでは駄目だったのかな?
[一言] 冒険者は常に腹ぺこ!
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