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第16章-8 報告

「報告ご苦労だった」


 王様に新しいダンジョンのことを報告しに行くとすぐに謁見の間に通されて、王城に勤めていた貴族たちの前で説明をすることになった。

 説明は短時間で終わったのでさっさと帰りたかったのだが、すぐに王様が何か考え始め、貴族たちは南部自治区のような好景気がやってくると喜び始めた為、誰も帰る許可を出してくれなかったのだ。いっそのこと、黙って帰るかと思っていると、


「一つ聞きたいのだが、そのダンジョンは南部のように、王都の経済を潤すことが出来ると思うか?」


 と、ザイン様がどこか冷めた感じで聞いてきた。


「私見になりますが、その可能性は低いかと。むしろ、出費の方がかさむ可能性があるように思われます」


 俺が南部で発見したダンジョンは、山がダンジョン化した為なのか元が鉱山だったのかは分からないが、魔鉄やミスリル、鉄や銅に銀と言った価値のある鉱石がごろごろと見つかった。しかも、発見された場所が南部子爵家の管理している場所だったので、早期に子爵家がダンジョンを管理することが出来た。その為、資源の外部への流出が阻止されたのでダンジョンの利益は丸々子爵家に入り、その影響でナナオを中心とした好景気が南部を潤した。おまけに、ハナさんはダンジョンの五階層から下を封鎖し、なおかつ冒険者によるダンジョン内の資源の持ち出しに制限をかけたので、南部は今後も長期にわたる好景気が期待できるのだ。ちなみに、四階層まで開放したのは、危険度の低いダンジョンということで新人冒険者を呼び込み、南部に人の流れを作る目的があったからだ。なお、資源の持ち出しに制限をかけることで、ベテランの冒険者には旨味の無いダンジョンとなり、許可なく資源を持ち出すと犯罪者として裁かれることになる。ついでに言うと、冒険者はダンジョンに入る前に入場料を取られるが、その分採掘のやり方やダンジョン内での注意点といった講習が行われ、実際に採掘したものの一部を得ることが出来る。


 ダンジョンの封鎖に関しては、王家からその意味を問われる(独立やクーデターを疑う)書状が届けられたが、ハナさんはダンジョンのある場所は子爵家が直接管理する土地であり、人里離れていることと周辺の環境を保護する為であること、それとダンジョンの規模が小さい為、完全に解放するとすぐに資源が尽きてしまう恐れがあるからと返した。理屈としては特におかしなところがなく、さらに王都の方にまで好景気の波が届いていた為ハナさんの主張は認められたが、貴族の中には南部子爵家の一人勝ちのような状況を面白く思っていない者もいる。この場で騒いでいる者のほとんどが、そんな感じで子爵家を面白く思っていない貴族だ。


「南部とセイゲンの新しいダンジョンの大きな違いは、危険度の違いです。南部のダンジョンは浅く危険度が低い為、初心者でもある程度の資源を持ち帰ることが出来ますが、セイゲンの新しいダンジョンに行けるのは、現状で『暁の剣』と俺にじいちゃんだけ。例え何か有用な資源があったとしても、持ち帰るには限度があります」


 なので、こう言う風に言うと、


「なら、お前たちの誰かが私たちを連れて行けばいいだろうが!」


 一部の貴族から、このように返って来るのが簡単に予想できた……が、


「それ、本気で言ってますか? 命令でそれをやろうとすれば、最悪国が亡びますよ」


 と言うように、こちらもあらかじめ返す言葉を考えておくことが出来た。

 セイゲンのような大規模なダンジョンの最下層は、金を積めば行けるというようなものではないし、何より冒険者にとって金に換えることのできない財産である。だからこそ、ジンたちが俺を最下層に連れて行ったのは、普通では考えられないことなのだ。そこまで分かっていて、お前(テンマ)は好き勝手をやっていたのかと言われそうだが……あれも報酬の一部だ(ということにしている)し、次に最下層に行くのは自力で潜った時だと決めている。あれは一種のボーナスタイムだったのだ……と、後でジンたちに言って納得してもらったので、ギリギリセーフなはずだ。

 まあ、俺のことはさておき、貴族が権力を使って最下層に潜るということは、冒険者の財産を貴族が奪ったともとれることで、それがこの国最大級(セイゲン)のダンジョンの最下層となると、今後多くの冒険者が王国に従わなくなる可能性がある。そうなった場合、俺は今までと同じように王様たちに協力することはしない……かもしれない。少なくとも知り合い以外の貴族は、敵性人物として接するだろう。

 もしかすると、俺と同じような考えの冒険者が国外に出て行くかもしれないし、それが帝国にでも流れたら、国力の低下に繋がるだろ。現にハウスト辺境伯家では、ククリ村の事件で大勢の冒険者が辺境伯領を出て行ったせいで、辺境伯家の経営が危険な傾き方をしたのだ。国が亡びるは大げさだが、冒険者が非協力的になれば国力の低下の可能性は高いし、その国力の低下に目を付けた帝国あたりの侵略を受けて滅亡する可能性も無きにしも非ずだ。

 もっとも、それら全ては俺の勝手な想像ではあるが……実際に辺境伯領の低迷の原因(の一部、もしくは代表)である俺の発言は、それなりに説得力があったみたいで、騒がしくなっていた謁見の間は大分静かになっていた。まあ、俺の言っている可能性を理解した王様やシーザー様と言った王族や、サンガ公爵にサモンス侯爵と言った上位貴族が、騒いでいた貴族を睨みつけたことが静かになった一番の原因だろうけどな。


「確かに、その恐れがあるな。これまで王家は、セイゲンのダンジョンに制限を設けてこなかった。それはセイゲンのダンジョンが発見された時に、その規模の大きさからダンジョンが制覇されるとは思っていなかったからだ。だからこそ資源の流出による損失よりも、多くの冒険者を集めることで金を落とさせることを重要視したのだ。なのに今になって、新しいダンジョンが発見されたからと言って制限を設け、冒険者から利権を奪い取る行為は悪手でしかないだろう」


 ザイン様の言葉に、それまで騒いでいた貴族たちは大人しくなった。


「だが、逆に言えば貴殿たちがセイゲンのダンジョンをを制覇すれば、その新しいダンジョンから資源を得たとしても、王家は文句を言えないということだ」


 貴族の持つ権力を使ってダンジョンを制覇して、そのまま新しいダンジョンから資源を持ち出せば王家も黙ってはいないだろうが、その間に冒険者のような第三者を挟めば、王家は口が出せないと言うことのなのだろう。ただし、


「貴殿らにダンジョンを攻略するだけの力か、それだけの冒険者を用意できればの話だがな……」


 ざわつく貴族たちに聞こえないくらいの声で呟いたザイン様の言う通り、最下層まで到達できればの話だろう。ダンジョンの攻略者である『暁の剣』は、俺を通して王家と繋がっているし、同じく最下層に行くことのできる俺とじいちゃんも、王家と直接つながっている王族派だ。現状で、他の貴族が最下層に行く方法は皆無である。そして、他の貴族が最下層への切符を手にする前に、俺は自力で最下層に到達するだろうし、そうなったら他が到達する前に新しいダンジョンの大まかな情報を手にする自信はある。


「陛下、そろそろテンマ殿を下がらせた方がよろしいかと……さすがの彼も、ダンジョンを発見してから王都までの強行軍で疲れているでしょうし」


「その通りだな。テンマよ、此度はご苦労だった。『暁の剣』共々、追って褒美を取らす。下がってよい」 


「はっ!」


 ようやく退出の許可が出たので、さっさと帰ろうと謁見の間を出ると、


「テンマ様、こちらへどうぞ。マリア様がお待ちです」


 ドアを開けた先に控えていたアイナに、俺はマリア様のところへと連れて行かれることとなった。



「あっ! テンマさん、お久しぶりです……って、僕はどこに連れて行かれるんですか?」


 マリア様のところへ行く途中で、俺はお供になりそうなイケメンを見つけた。なので逃げないように腕をつかみ、強引に連れて行くことにした。そして、嫌なことに気が付いてしまった。それは、


「ティーダ……いつの間にか大きくなったな……」


 身長が並ばれてしまったこと……いや、もしかしたら抜かされたかもしれない。一年前までは、まだはっきりと分かるくらいの差があったというのに……


「お兄様が連行されてる! ついにエイミィちゃんへのセクハラが問題に……嘘です、ごめんなさい」


 ティーダの成長にショックを受けていると、全く成長した様子の無いルナが現れてティーダをからかい、怒られる前に謝りながらアイナの後ろに逃げていた。ちょっと安心する光景だった。


「それでテンマさん、どこに向かっているんですか?」


「マリア様にちょっと呼ばれてな。その途中でティーダを見つけたから、連れて行こうかと思って」


 マリア様の名前を出すと、ティーダは「理由になってません」と言いながらも同じ方向に歩き出そうとしたが、ルナは一瞬焦ったような顔をして、踵を返して逃げ出そうとした。だが、


「ルナ、せっかくテンマさんに誘ってもらったんだし、僕らもあいさつをしに行こうか? アイナ、ルナをおばあ様のところまで連れて行ってくれ。くれぐれも逃がさないように」


 ティーダが素早い動きでルナを捕まえて、アイナに逃がさないようにと釘を刺してからマリア様のところまで連れて行くように命令した。


「マリア様。テンマ様とティーダ様、それとルナ様をお連れしました」

「ティーダとルナも? とりあえず、入って頂戴」


 マリア様はティーダとルナが一緒ということで驚いたようだが、すぐに中に入る許可を出した。


「お邪魔します、マリア様」


「呼びだして悪かったわね、テンマ。そこに座って。ティーダとルナも」


 俺とティーダは勧められた席に座ったが、ルナは一つ空けて座った。その様子を見たマリア様はアイナに耳打ちして、どこかに向かわせた。

 それからしばらくの間、マリア様はとりとめのない話を続けた。内容は王様の失敗談やライル様の夜遊び、アーネスト様の認知症疑惑と言ったもので、聞いていて面白いものではあったが、何故俺が呼ばれたのか分からないような話ばかりだった。

 こういった話の為に呼ばれたのではないような気がしたので、そろそろ本題について聞こうかと思っていたところ、


「来たようね。入りなさい」


 ノックの音が響き、アイナが入ってきた。そしてもう一人、


「勉強を放り出して、一体何をしていたのかしら?」


 イザベラ様が立っていた。ルナの挙動不審さから何かあるとは思っていたが……いつも通り過ぎて驚きはなかった。

 その後、ルナは色々と言い訳を並べたが、その全てをイザベラ様に論破され、失意のうちに連行されていった。


「これで静かになるわね。さて、ここにテンマを呼んだ理由だけど……その前に、あの話はティーダには何も教えていないのだけど、聞かせても大丈夫かしら?」


 ティーダに教えていない話とは、恐らくプリメラのことだと思う。プリメラと婚約した後でティーダとルナに会ったが、その時に婚約の話が出なかったのは知らされていなかったからだろう。


「ティーダなら大丈夫だと思います。ただ、ルナは……」


「絶対に、どこかで漏らすわね。本人にそのつもりが無くても、ついポロリと……ティーダ、これから教える話は、王家にとっても重要な機密と言っていいくらいの話だから、そのつもりで聞きなさい。もしできないと言うのなら、今すぐにこの部屋から出て行きなさい」


 マリア様の剣幕に驚いた顔をしたティーダだったが、すぐに椅子に座りなおして聞く姿勢を取った。マリア様はその様子を見て満足そうに頷き、


「ティーダ。テンマが先頃、サンガ公爵家三女のプリメラと婚約しました。この話は新年の公爵家主催のパーティーまで秘匿せねばなりません。もし、王家でその話を知っている者が漏らすようなことがあれば、サンガ公爵家とオオトリ家からの信頼を損ねることになります。分かりましたね」


「は、はい!」


 ティーダは、俺の婚約に驚きながら、マリア様の言葉に頷いていた。これで王家の中で、俺の婚約を知らないのはルナだけになった……と思うが、一応聞いてみることにした。


「ええ、知らないのはルナだけ……ライルはどうだったかしら?」


 マリア様は、途中でライル様がどうなのか分らなくなったようで、アイナに呼びに行かせた。もしこれで知らなかったとしたら、ライル様はマリア様の中ではルナと同格の扱いをされていると言うことになる。



「母上……さすがに聞かされているぞ」


 アイナに連れてこられたライル様は、部屋に入ってきた当初は目が泳いでいたが、俺のことで秘密にしていることは何かと聞かれると落ち着き、マリア様に耳打ちして正解を貰っていた。


「そうね、さすがに教えているわよね。悪かったわライル、戻っていいわよ。それと、何を隠しているのか分からないけど、あまり私を心配させないように……ね?」


 マリア様に微笑みかけられたライル様は、苦笑いを浮かべながらそそくさと部屋を出て行った。


「それで、テンマさん。何故いきなり婚約をしたのですか?」


 ドアが完全にしまったことを確認したティーダは、驚きながら婚約までの経緯を聞いてきた。俺は何度目かの説明することになったが、味方が増えたと思えば手間ではない。そう、ルナを抑える為の味方だと思えば。


「まあ、テンマさんとサンガ公爵家との仲を考えれば、いきなりな感じはしても不思議なことではありませんね。おめでとうございます」


 ティーダは、それ以上は聞かない方がいいと思ったのか、何も言わなかった。その代わり、


「それで、新しいダンジョンはどんな感じでしたか!」


 ダンジョンの方は遠慮なく聞いてきた。マリア様もダンジョンの話が聞きたいようで、ティーダのテンションの高さには少し眉をひそめていたが、何も言わずに黙っていた。


「貴族の皆さんが期待していたような、膨大な資源は見つかりませんでしたね。少なくとも、ヒドラのいた最下層と新しいダンジョンの入り口付近には」


 ティーダに聞かせるというよりもマリア様に報告するように、ダンジョンの感想を伝えて行った。マリア様は、最初に言った資源についての質問が多かったが、ティーダはスケルトンや腐肉のゴーレムについての質問ばかりだった。


「最下層の下にあるダンジョンなのに、弱い魔物ばかりと言うのは腑に落ちませんね」

「弱いと言っても、ティーダが挑戦したら入り口付近で詰むぞ。いくら弱いと言っても、死を恐れない集団と言うのは怖いからな。そういった敵が現れたり現れそうだったり、自分たちに不利な場所だと感じたら、すぐに撤退することも視野に入れて行動しないといけないぞ。特にティーダは、大抵の場合指揮する立場の人間だろ?」


「そうですね、気を付けます。ところで、撤退できない状況で遭遇した時は、どう戦えばいいのですか?」


 変に意地を張らないところはいいが、やはりルナの兄だけあって負けん気は強いようだ。俺はそういった経験は覚えている範囲では二度しかないので、参考になりそうな方……ククリ村での例を出して答えた。ちなみに、もう一つはリッチとの戦いで、あの時は魔法で押し切る戦い方をしたので、ティーダにとって参考になるところが無いのだ。



「つまり、即席の防御壁を築くか、相手の届かないところから攻撃する……ですか、単純ですけど難しいですね」


「まあ、それが出来ればスケルトンや腐肉のゴーレムどころか、もっと格上の魔物を相手にしても戦えるからな。それ以外にも、各々の役割をしっかり果たさせ、時には臨機応変に動けるように訓練しないといけないけどな」


 学生同士でパーティーを組むとなれば、ティーダのところにはエイミィを始めとした学年でもトップクラスの生徒が集まるだろうが、学園がそんな危険なことをさせるはずがないので在学中に経験することは無いだろう。


「マリア様、そろそろお暇させていただきます。ジンたちも待っていると思うので」


「そうね。報告が終わったのに、長々と引き留めてごめんなさい。アイナ、テンマを送ってきて頂戴。ついでに、そのまま休日を楽しんできなさい」


「承知しました」


 マリア様は休日を楽しめと言ったが、アイナの返事は固いものだった。まあ、この後でアイナを待っているのは、休日と言う名の指導だからな。ジャンヌとアウラの…… 



「ひぃっ! テンマ様、何で連れてきたんですか! え、あ、ちょっと、お姉ちゃん!」


 アイナと共に屋敷に戻ると、出迎えに来たアウラがアイナを見て悲鳴を上げた。それを見たアイナは、ため息をつきながらアウラを食堂へと引っ張って行った。


「お~う、テンマ。面倒事を任せちまってすまんな~」


 アイナに続いて食堂に入ると、そこでは宴会が行われていた。多分、新しいダンジョンの発見祝いのつもりなんだろう。

 宴会にはじいちゃんやジンたちだけでなく、アムールやレニさんも参加していた。そして、


「お邪魔させていただいています」


 プリメラに三馬鹿も参加していた。三馬鹿たちはいつも通り飲み食いしているが、プリメラは俺がいない状況で騒ぐのはどうなのかと言った感じで、あまり楽しめていないようだ。


「じいちゃんが許可を出したんだろうし、気にすることは無いさ。あいつらはいつものことだし、ああいった遠慮のないところを見せることで、俺が次代の王族派の中心と懇意だと知らしめる意味合いもあるからな……多分」


 リオンは分からないが、アルバートとカインは十分理解した上であのように騒いでいるはずだ。まあ、それでもピンとこない連中はいるだろうが、俺とプリメラの婚約が発表されれば嫌でも理解するだろう。そうなると、三馬鹿のあの様子は婚約発表までと言うことになるが……あの三人なら、婚約発表後もああやって遊びに来ては、勝手に騒ぐのだろう。


「プリメラ、今後ちょっと忙しくなりそうで、婚約発表のギリギリまで慌ただしくなるかもしれない。もちろん、全く会えないというわけでもないし、婚約発表のことを任せっきりにするわけじゃないけど、かなり迷惑をかけると思う」


 これからの四か月で、ダンジョンの制覇にゴーレムの製作をするのだ。婚約発表の準備は、ほぼプリメラに……と言うか、サンガ公爵家に丸投げ状態になるはずだ。


「それに関しては理解していますし、多分その……私の方も公爵家に丸投げになってしまうと思うので、何とも言えないのです……」


 どうやら、サンガ公爵が今から張り切っているようで、プリメラとしても特にすることがないそうだ。それに、プリメラとは婚約から一年もたたないうちに結婚する予定なので、それまでに騎士団の連絡隊を機能するように仕上げ、さらに引継ぎを行わないといけないのでかなり忙しいとのことだった。


「俺の方も、俺やじいちゃんよりも、マリア様が張り切っているみたいだからな……今日、ティーダには婚約のことを話したんだけど、ルナには秘密にすることになったんだ」


「ルナ様には秘密ですか……確かに、口を滑らせそうではありますけど、別に情報が漏れたからと言って、他の貴族がどうのこうのと口を挿むことではないと思いますけどね?」


 俺もそう思うが、それだけ細心の注意を払いたいということなのだろう。


「ルナには申し訳ないけど、マリア様の決定だからどうしようもないしな」


 王家最高権力者の決定には、俺やプリメラ、それどころかサンガ公爵すらも出せないだろう。出しても出さなくても結果に大差がないのなら、マリア様を怒らせない方を選ぶのが吉だろう。


「俺は先に風呂に入って来るから、アルバートたち……までは無理でも、気兼ねなく宴会を楽しんでくれ」


 プリメラと別れて、一人静かに風呂を楽し……む予定だったのに、


「ほれ、テンマも飲まんかい!」 

「つまみもちゃんと持ってきているからな!」


 風呂に入って早々に酔っぱらい二人(じいちゃんとジン)が乱入してきて、続いてなだれ込むような形で残りの男性陣が入ってきた。それぞれの腕に、大量の酒とつまみを抱えて。


「宴会の会場が、風呂場に移っただけか……」


 風呂場での酒盛りは体に良くないが、そう簡単に死ぬような面子ではないので、アルバートとカインに気を付けておけばいいだろう。あと、念の為年寄り(じいちゃん)も。



「そら、もう一杯」

「アルバート、そろそろやめた方がいいぞ。ほら、酒の代わりに、水を飲め、水」


 顔を赤くしたアルバートがもう一杯飲もうとしていたので、代わりに水の入ったコップを握らせた。アルバート自身そろそろ限界だと理解していたのか、大人しく水を受け取って飲み始めた。


「こうしてみると、面白い感じでばらけているな」


 俺とアルバート、カインとガラット、じいちゃんとジンとリオンと言った具合に、皆の酔いが回るにつれて、このようにグループが分かれて行った。俺とアルバートは義兄弟と言うより余り者同士と言った感じで、じいちゃんたちは思考が近い者同士と言った感じだが、カインとガラットは意外だった。しかも、かなり意気投合している。どんな話で盛り上がっているのか気になったので、少し近づいて耳を澄ましてみると、


「だから、血を抜くときは半殺しにして、逆さ吊りにするのが基本なんだよ。心臓が動いていないと、血の抜け方が悪いしな」

「吊り上げることが出来ない時は?」

「その時は、獲物のすぐ横に穴を掘って、そこに流すのさ。穴が掘れないのなら、下半分を捨てる覚悟で垂れ流しだな。まあ、全部が生臭くなるよりも、半分で済んだ方がましって感じだな」

「人間にも使えますかね?」

「基本的な構造が同じ生き物なら、色々と応用が利くぞ。まあ、知識だけに留めないと戻って来れなくなる奴もいるから、気を付けることだな」


 などと、血生臭い話をしていた。ガラットの知識に、カインの好奇心が上手いこと噛み合ったようだ。


「気分が悪くなりそうだから、もう上がるか」


 カインとガラットの血生臭い話で気持ち悪くなりそうだったので、アルバートを連れて風呂から上がることにした。

 俺とアルバートが風呂を出たことに気が付いたカインとガラットは、後を追いかけてくるように風呂を上がったが……


「そんで、俺はヒドラが弱ったところを見逃さずに、ズバンっと首を切り落としたってわけだ!」

「わしの時は、魔法で切り飛ばして、魔法で押しつぶして、魔法で燃やし尽くしたのじゃ!」

「すごいっすね! 俺も、一度でいいからヒドラを仕留めてみたいっす!」


 体育会系と言う名の脳筋組は、俺たちに気が付かないまま盛り上がっていた。俺の記憶が確かなら、


「テンマ、話がループしてない?」


 カインの言う通り、同じ話が三回か四回くらい聞こえていた気がする。


「大分前からしているみたいだな。強制的に連れ出した方がいいみたいだな」


 あの三人は、俺たちと比べてかなり酔っているみたいなので、強引にでも連れ出すことにした。

 俺がじいちゃんを、ガラットがジンを、アルバートとカインがリオンを担当することになった……が、さすがに裸の男を強引に連れ出そうとすれば、触りたくないものが体に当たって精神的なダメージを受けるのは間違いないので、風呂場の掃除などを手伝わせている木製のゴーレムを連れて来て、三人を運ばせることにした。俺たちはゴーレムの補助をする感じだ。



「テンマ、リオンたちを置いてきて大丈夫かな?」

「酒も取り上げたし水も大量に飲ませたから、大丈夫だと思うぞ。念の為、ゴーレムたちには風呂掃除をさせてお湯を抜かせているし、入って来ても追い出すようにも命令しているから、食堂に戻って来るしかないはずだ」


 俺たちはじいちゃんたちを風呂から上がらせて服を着させ、水を飲ませてから置いてきた。じいちゃんの持っているマジックバッグも没収してきたので、酒が飲みたければ食堂に戻ってくるはずだ。もし戻ってこなければ、その時に様子を見に行けばいい。

 そんな感じで三人を残して食堂に戻ってきたら、


「こっちはこっちで、すごい匂いだな」


 むせかえるような甘い匂いが俺たちを出迎えた。まあ、風呂場のように、酒の匂いが充満しているよりは、何倍も健全ではあると思うが。

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