第16章-5 ジンたちからの依頼
「申し訳ない」
情報をもらしたのはアムールだったらしく、リオンがアルバートに怒られている間に、プリメラの前に行って土下座して謝っていた。
「アムールさん、怒っていませんから椅子に座ってください。そのままだと、話が出来ませんから」
「了解した。それと、アムールでいい」
アムールはプリメラがそう言うと分かっていたようで、すぐに土下座を止めて椅子に座った。
「ええっと……リオン兄様が騒いだのは想定外でしたが、アムールたちに口止めをするのを忘れていた私たちにも原因がありますし、婚約の情報を面白半分に広めるような人たちに知られたわけではないので、気にしなくても大丈夫です」
プリメラとアムールの和解(と言う程のものではなかった)は成立したが、アルバートの怒りは収まらなかった。まあ、大事な妹の婚約がリオンの不注意で駄目になる……ことは無いが、ややこしいことになるのは許せなかったのだろう。ちなみに先程から、「発表されていない貴族の婚約を軽々しく口に出すな!」とか、「プリメラとテンマの婚約を台無しにするつもりか!」とか、「お前の不注意が俺の責任になるのだ!」とか、「王家とハウスト辺境伯家の関係に亀裂を入れる気か!」などと、めちゃくちゃなことを口にしていた。
「アルバート、その辺で許してやれ。さすがに言い過ぎだし、リオンも急なことで混乱していただけで、悪気はなかったんだろうし、十分反省しているように見えるしな」
「まあ、テンマがそう言うなら……」
アルバートは、不承不承と言った感じでリオンを解放した。もしかするとアルバート自身も興奮しすぎたせいで、引き際を見失っていたのかもしれない。
「テンマ、プリメラ、すまん」
「まあ、この屋敷にいた人以外に聞かれたわけじゃないんだから、皆が黙っておけば問題はないだろう。ジンたちも、それは理解しているだろうし」
「そうですね。それに、後でリーナに念押ししておけば、心配はないと思います」
リーナはあれでも元子爵令嬢なので、籍を外れた今でも貴族の怖さは分かっているだろう。そんなリーナのいうことなら、ジンたちも絶対に守ろうとするだろう。それにしても……
「リーナはちゃん付けでプリメラを呼ぶのに、プリメラは呼び捨てなんだな」
と、少し気になった。やはり、公爵家と子爵家の身分の差が理由なのだろうか?
「いえ、リーナも普通に私のことを呼び捨てにしますよ。ただよくふざけて、子供の頃の呼び方をわざとするんです」
子供っぽい言い方だと思っていたら、そういう理由があったのか……リーナは天然なところがあるから素だと思ったが、単にふざけていただけなのか……よくよく考えたら、リーナは腹黒いところもあるし、プリメラの言う通りだろうな。何故、俺の前で本人のいない時にちゃん付けするのかは不明ではあるが。
「俺の方からも、ジンたちには念を押しておくよ。まあ、バラされたところで婚約がどうのこうのなるわけじゃないけど、ジンたちの評価が悪くなるからな」
正直、婚約がバレても大した問題にはならないと思うが、故意ではないとしてもバラしたジンたちは王家やサンガ公爵家の不評を買うことになるだろう。俺からの忠告とプリメラからのリーナ経由の忠告と合わせて、どれだけ危険なのか理解してくれるだろう。まあ、理由を知らない者がいないところでは、俺に愚痴を言うかもしれないが、それくらいなら何とか我慢できるだろう。もし無理だったら、訓練試合に無理やり付き合わせればいいし。
「ジンたちの方はそれでいいとして……クリスさん、大丈夫だよな? あれだけ騒いだのに、全く起きないんだけど……」
クリスさんは、心配になるくらい起きなかった。ちゃんと寝息は聞こえるし、苦しんでいる様子もないので大丈夫だと思うが、ここまで起きないとなると、狸寝入りでもしているんじゃないかと疑いたくなるくらいだ。
「まあ、静かなんだから、クリス先輩はそのままにしていてもいいんじゃないかな? 下手に起きて事情を知ると、リオンよりも騒ぎそうだし」
カインの一言で、俺たちはクリスさんを放っておくことに決めた。リオンの時ですらかなり不機嫌になったのに、酔いの残った状態で婚約の話を知ったら、手の付けようがないかもしれないからだ。クリスさんに俺とプリメラの婚約話を教えるのは、マリア様がいる状況か、最低でもアイナがいる時でないと駄目だろう。
その後、夕飯の時間になるまで起きなかったクリスさんは、サンガ公爵と共にやってきたアイナに連れられて帰って行った。一応、夕飯に誘ってはみたが、酒が抜けなかったせいで食欲がなかったようだ。あの様子だと、明日は二日酔いで苦しむことだろう。
「それでは、今日のところはこの辺りで失礼させてもらうよ」
サンガ公爵たちは、夕食が終わると帰って行った。帰り際に、リオンがプリメラに泊まっていかないのかと聞いていたが、表向きにはまだ婚約は秘密ということになっているので、少しでもバレるような真似は避けるということに公爵が決めたそうだ。
「それにしても、テンマが結婚とはな……女に興味がないのかと思っていたが、杞憂だったようだな」
ジンが大笑いし、続いてガラットやメナス、じいちゃんまで同じように笑い出した。
「私としては、プリメラちゃんが一番可能性が高いと思っていましたから、意外ではないですけどね。まあ、いきなり婚約するとは思いませんでしたけど」
リーナは、いきなりの婚約以外は想定内だと言って胸を張っていた。そして、何故か同じようにアムールも胸を張っており、ジャンヌはアムールを見て少し顔を赤くしている。
「まあ、婚約発表まではまだ時間があるし、周囲が騒がしくなるのはそれからだろうね。それよりも、婚約までの間はジンたちの方が注目されると思うぞ。王様たちに謁見した後の予定はどうなっているんだ?」
俺がそう言うと、ジンたちは少し嫌そうな顔をしたがすぐに戻り、
「そのことなんだがな、少しテンマに手伝ってもらいたいんだ」
と言い出した。
「実は、ヒドラの魔核とダンジョン核の回収はしたが、その他の素材は置いてきたままなんだ。俺たちの持っているマジックバッグじゃ、ヒドラの素材をすべて持ってくることが出来なくてな」
「つまり、運び屋をやってくれということか。だけど、俺は最下層から大分上の階層で止まっているぞ」
それはジンたちも分かっているだろう。それでも頼んでくるということは、俺に最下層まで自力で降りてこさせるか、
「ジンたちが、俺を最下層に案内するということか?」
前にエイミィをダンジョンに連れて行った時のように、ジンたちの誰かが俺と手を繋いで、最下層近くのワープゾーンまで行くということだ。
「それをすると、他の冒険者から文句が出ないか? そんなことをするよりも、ギルド職員に頼んでついて行ってもらって、素材を回収した方がいいと思うが?」
それが俺もジンたちも変な恨みを買わないですむ方法だと思ったが……
「それだと確実に、そのギルド職員と懇意にしている冒険者が最下層に現れる。そして、死ぬ」
ギルド職員は中立であるべきだろうが、それはただの理想であり、そんな職員ばかりではないのは確かだ。もしそんな職員が知り合いに頼まれたり、大金を積まれたりすれば、秘密裏にその依頼人を最下層に連れて行くこともあるだろう。もしくは、最下層付近の素材目当てに、ギルドの総意として冒険者を送り込むかもしれない。
「その点、テンマだったら、一人で何個ものマジックバッグやディメンションバッグを持っているし、最下層の魔物相手でも負けることは無いだろう」
「それならやってもいいけど、最下層周辺の素材を根こそぎ持って行っても、絶対に文句は言うなよ?」
そんなことをする気はないが、一応忠告はしておいた。何か珍しいものがあった場合、持って行かないとは言い切れないからだ。
「別にかまわんさ。テンマのことだから、変な噂を立てられるくらいなら、依頼が終わってから自力で一度潜った方がいいとか思ってそうだからな」
俺の性格まで読んだ上での頼みだったようだ。
「確かに俺のことをよく知った上での依頼みたいだな。そうなると、王様にダンジョン核を献上した直後に動くことになるから、先に言っておいた方がいいかもな。そうした方が、ジンたちがいらない部位は高値で買ってもらえるかもしれないし」
ヒドラの場合、肉や内臓と言ったものは毒があるので食べることは出来ないがそうだが、毒腺は使い道があるし、皮や骨は武器や防具に使える。ジンたちによると、今回のヒドラはかなりの大物らしいので、肉が無くてもかなりの素材が取れるだろう。まあ、そのうちの何割かの素材はギルドに卸す必要があるだろうが、それ以外にも王様に献上(とはいっても、褒美と言う形で対価は貰える)すれば、王様たちの『暁の剣』に対する心象はさらに良くなるはずだ。
「その時は、テンマからも言ってもらえないか? 俺たちだけで言うよりも、テンマからも了承したことだと伝えた方が、話は早いだろうし」
ジンはそう言っているが、単に王様たちに色々と聞かれるのが怖いのだろう。悪いことをするわけではないので、堂々としていればいいと思うが、俺とは違いジンたちにとって王様は雲の上の存在に近いイメージを持っているのだろう。だから、なるべく手早く確実に説明できるように、俺が必要なのだろう。
「まあ、いいけど……その代わり、荷物運びと王様たちへの説明の報酬として、ヒドラの素材の一部をくれよ。ある程度の量が貰えると嬉しいが、俺にくれる分はジンたちや王様やギルドの分を確保した後でいいから」
実際には荷物運びくらいしか手間がかからないのであまり貰えないだろうが、ヒドラの素材は珍しいので、少しでも確保しておきたい。まあ、地龍や走龍、ワイバーンと言った魔物の素材もまだ残っているので、コレクションの一部と言うことになりそうだが、他に最下層近くのワープゾーンの情報も報酬の一部だと思えば、報酬を貰いすぎと言えなくもない。
「テンマがそれでいいなら、俺たちはかまわない……んだが、もしかすると、使える皮は少ないかもしれないから、その時は勘弁してくれ」
ジンが申し訳なさそうに頭を下げたが、その言葉に俺よりもじいちゃんが驚いていた。
「ヒドラの再生力は馬鹿みたいに高いから、よほど苛烈な攻撃を与え続けたのじゃな」
俺たちの中では、じいちゃんだけがヒドラ討伐の経験があるので、それで驚いていたのかと納得した。だが、ジンたちは微妙そうな顔をしていて、
「いやまあ、苛烈と言えば苛烈なんですけど……」
言いにくそうにしているジンを、皆で見つめていると、
「何十台ものバリスタを持ち込んで、ヒドラに矢を打ち込み、油をかけて燃やしたんですよね。それで弱ったところで首を切り落としていって、動かなくなったところで魔核を強引に取り出したんです」
ジンが言いにくそうにしていた理由は、邪道と言えそうなやり方でヒドラを倒したと思っているからだそうだ。
詳しく話を聞くと、一度に五~六台のバリスタを最下層の一つ上の階に運び込み、ヒドラの隙を見てバリスタの射程ギリギリのところに置いていき、十分な数が設置出来たところで順次発射していく、矢は特別に作ってもらったもので、鏃と胴体が太いストローのような空洞になっており、刺さると後ろから血が噴き出すのだそうだ。
いくらヒドラの再生力が高くとも、体のいたるところから流れ出る量を上回るほどの血を作り出すことは出来ないらしく、血の出が弱くなったところで油をかけて燃やし、弱り切ったところで首を一本一本切り落としていったのだそうだ。そこまでダメージを与えると再生力はかなり落ちたそうで、全部の首を落とす前に首が再生されるということは無かった(ただ、切り口から肉が盛り上がって、首の基のようなものは出来たそうだ)が、心臓はまだ動いていたので、強引に魔核と心臓を取り出したとのことだった。
「何と言うか……鬼畜な戦い方だな。まあ、ヒドラ相手ならそれくらいしないといけないということだろうが……激闘の話を期待している人は、がっかりしそうだな」
「じゃが、ヒドラの有効な攻略法を発見したともいえるぞ。ダンジョンのような逃げられないような場所や、大量の物資を運べるだけの運搬力や資金力がないといかんが、わしの戦い方よりは安全で生きて帰れる可能性が格段に高いからのう。まあ、皮は諦めるしかないかもしれんがのう」
ちょっと期待外れと思った俺とは違い、じいちゃんの評価は高かった。これが、実際に戦ったことのある人とない人の差なのだろう。ジンたちはじいちゃんに評価されたのがよほど嬉しかったのか、色々な苦労話を始め、じいちゃんも自分の時の苦労話を始めた。そしてそのまま、宴会へと突入したのだった。
宴会は遅くまで続いたようで、翌日の早朝にじいちゃんとジンたちはジャンヌとアウラによって、食堂で酔い潰れた状態で発見された。
俺とジャンヌとアウラとレニさんは、日付が変わる前に部屋に引き上げたので平気だったが、アムールは遅くまでじいちゃんたちに付き合い、夜中にレニさんに連れ戻されたそうで、俺と同じような時間に起きてはきたが少し調子が悪そうだった。
「おいジン、起きろ!」
「う……頭が痛い……静かにしてくれ……」
ジンは二日酔いがひどいようで、声を出すのもきつそうだった。
「数日後には王様に会うんだから、それまで酒は無しな」
「うい……」
ガラット、メナス、リーナはしゃべる気力すらないのか、ジンが代表して返事をした。ジンたちの相手をしている間にじいちゃんは、よろめきながら厨房へと向かっていたが、
「じいちゃん、厨房に置いてあった薬は回収しているから、そっちに行っても何もないよ」
「ぬ……ぐ、ぬぅ……」
じいちゃんは薬を諦めて、大人しく俺の前へとやってきた。
「じいちゃん、ジンたちは王様たちに会う為に来ているんだから、調子に乗せて酒を飲ませない。今回のことはアーネスト様にも報告するから、嫌味の一つや二つ……十や二十は覚悟しといてね」
おれがじいちゃんに嫌味を言っても大した効果はないので、じいちゃんにとって一番嫌な相手に頼むことにした。アーネスト様なら、じいちゃんに嫌味を言えるとなれば、頼まれなくても引き受けてくれることだろう。
「そ、それは……」
「我慢してね」
有無を言わさずにアーネスト様への報告は決定事項だと伝え、先にジンたちに二日酔いの薬を配った。客であるジンたちを優先した形だが……
「じいちゃん、ごめん。薬が切れた」
リーナに配ったところで薬が無くなった。ここ最近、クリスさんがやたらめったらに酒を飲むので、薬の消費が激しかったのだ。
「ちょっと、おじさんのところに行って分けてもらって来るから、それまで待ってて」
「は、早く、戻って、来て、く、れ……」
何かのフラグが立った気がしないでもないが、とりあえず家と同じ薬(俺が作ったものを配っている)を分けてもらいに、マークおじさんがやっている宿屋へ急いだ。
「じいちゃん、貰ってきた……よ?」
大分飛ばしたので、三十分もせずに戻ってくることが出来たのだが……俺の目に映ったのは、死んだようにテーブルに突っ伏すじいちゃんだった。
「寝たか……じいちゃん、安らかに」
薬と水の入ったコップをじいちゃんの近くに置き、目を閉じて手を合わせた。
「わし、生きておるぞ……」
何か聞こえた気がしたが、今日はやることもあるので静かにその場を去った。
「腹も膨れたし、早速取り掛かるか」
今日やること、それはプリメラに渡す分のゴーレムの製作だ。ゴーレムはある意味、オオトリ家の標準装備となっている。そして、婚約者を守る為のゴーレムになるので、性能のいいゴーレムを作る必要がある。なので、完成までに日数はかかるかもしれないが、じっくりと取り掛かることにしよう。
「まずは、どういう形にするかだけど……騎士型にしようかな?」
プリメラと言えば騎士というイメージがあるので、ゴーレムの形状は騎士を模したものにすることに決めた。
「形状は決まったけど、どういった感じで作るかな……」
これまで作ったゴーレムは、木や石や土の塊を繋げたゴーレムに、それらの中でも出来の良かったゴーレムの核を再調整したゴーレム、王族専用のゴーレムにジャンヌとアウラに渡したサソリ型ゴーレムに『巨人の守護者』、それに、タニカゼとライデンの馬型ゴーレムだ。
製作の難易度も、おおよそ今挙げた順(ただしタニカゼは王族専用の前くらい)となっている。
「後半のゴーレムの理由は、素材の珍しさや製作に使用した金属の量なんかも関係しているし、ライデンに限っては、今でも何で作ることが出来たのか分からないけど……」
もし、ライデンの作り方の完璧なマニュアルが出来れば、王国最強の軍団が出来るのに……まあ、もし作り方が外に漏れたら王国が何個にも割れるような争いが起こりそうなので、出来ない方がいいのかもしれないが……どうしても、もったいないという気持ちは残ってしまう。
「作るとなれば、王族専用といきたいところだけど、王族専用のものはマリア様たち以外には売らないと約束したし、プリメラに持たせるのはやめた方がいいだろうな」
プリメラに売るわけではないので、別に約束を破るというわけではないが、もしかしたら『売らない』という意味の中に譲らないという意味も含まれているかもしれないので、できる限り避けた方がいいだろう。
「そうなると、新しいやり方で作るのがいいか……どうするかな……」
新しい方法などそう簡単に思いつくはずがないので、まずはゴーレムの核に使えそうな魔核を探すことにした。
「え~っと、核に使えそうな魔核は……」
バッグの中を探してみると、色々な種類のものが出てきた。価値の高いもので言うと、走龍や地龍といったものから、オークやゴブリンといったものが数十種類、優に万は超える数がバックに入っていた。
「走龍に地龍はサイズが大き過ぎるし、オークやゴブリンじゃ強いのは出来ない……」
手持ちのSランクの魔物だとサイズが大き過ぎるので、もう少し小さいものがいいのだがAランクのものがなく、それに近い魔物のものとなるとワイバーンのものしかない。
「ワイバーンの魔核なら、このまま使えそうだな」
核が大きいと、それを守る為に核の周辺を厚くしないといけなくなる。そうするとその分だけ重量が増えるので、動きの鈍いゴーレムか、逆に動きの激しいゴーレムが出来ることになるが、ワイバーンの魔核は十cmくらいの大きさなので、コーティングや周辺を厚くしても大丈夫だろう。
「欠けている物もあるけど、これくらいなら問題ないだろうな」
ギガントやタニカゼには、ドラゴンゾンビの魔核の割れたものを使用したので、ワイバーンでも出来るはずだ。ただ、ドラゴンゾンビとワイバーンの魔核では格が違いすぎるので、ドラゴンゾンビで出来たことがワイバーンでも出来るとは限らないが、仮に失敗したとしても、割れた魔核も色々な素材として使えるので、核としてではなく強化のための素材として使えばいいだろう。
「なかなか難しいな」
状態のいい魔核は問題なく核に出来たのだが、欠けた魔核は形が歪な為、ゴーレムの情報を綺麗に刻むのが難しいのだ。
「まあ、失敗もしたけど五個は綺麗に出来たから、予定通りの数は作れそうだな」
数回失敗したが予定していた数は確保できたので、核を作るのはここまでにすることにした。
「核が出来ても、外が出来てないからな……どうするかな?」
ゴーレムの核の目途は付いたが、依然としてどういったゴーレムにするのかが決まらなかった。
「取り合えず、飯にするか」
ゴーレムの核作りに集中していたので、気が付かないうちに昼を過ぎていた。一度昼食のことを考えると、それまで気にもならなかったというのに不思議と腹がすいてくるので、何か食べようと食堂に移動した。
「いいのが無いな。外に行ってみるか」
特に食べたいものが見つからなかったので、散歩もかねて屋台や店を見て回ることにした。
「シロウマルたちも……行く気満々みたいだな」
俺の言葉で屋台巡りをすると理解したのか、振り返るとシロウマルとソロモンが待機していた。二匹共、キリっとした表情でよだれを垂らしており、スラリンが床に落ちたよだれを拭いている。
「それじゃあ、行くぞ。ただし、ソロモンはいつも通りバッグの中で移動な」
「きゅ~い~」
ソロモンは、「へいへい、分かってますよ」みたいな返事をして、いつも入っているディメンションバッグに潜り込んでいった。
「ジンたちのおかげで、まだまだ屋台が多いな」
通常は、大会後にある王家主催のパーティーの前後くらいに屋台の数は激減するのだが、今回は『暁の剣』がダンジョンを攻略したという話題のおかげで、いつもは引き上げて地元に帰る多くの屋台が、急遽王都滞在を延長したのだ。そのおかげで、色々と食べるものを選ぶことが出来た。
「大分腹も膨れたな。シロウマルたちは……まだ足りないか」
何か所か屋台を回り、俺はかなり満足したのだが、シロウマルとソロモンはまだ足りないとのことだった。この様子だと、まだまだ屋台巡りを止めることは出来そうになかった。
「ようやく満足したか」
夕方近くになって、ようやくシロウマルとソロモンは満足したようで、バッグの中で寝息を立て始めた。
「腹が膨れたら眠るとか、いい身分だな」
俺の呟きに、スラリンも体を弾ませて同意した。この様子だと、夕食は……いや、この二匹なら、意地でも食べるだろう。腹ごなしもかねて、遠回りしながら家に向かっていると、何度か王都の騎士団が小隊単位で行き来する姿を見かけた。多分、見回りを兼ねたけん制行為なのだろう。毎年のことだが、この時期が一番王都の犯罪行為が増えるし、今年はジンたちの活躍でお祭り騒ぎが長引いているので、警戒を強めているのだろう。
「何となく、ゴーレムの方向性が見えてきたかな?」
騎士型のゴーレムにすることだけは決めていたので、実際に鎧を付けて動く騎士たちを見て、どういう作り方にするか思いついた……が、
「俺だけだと難易度が高そうだから、ケリーにも手伝ってもらうか」
王都の中で一番信頼できる鍛冶職人に相談することに決めた。