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第16章-2 ダンスパートナー

 王様の発表を聞いた貴族たちの話題は、ジンたち『暁の剣』一択となった。先程までクリスさんのことで付きまとわれていたアムールは、クリスさんの話題が出なくなったので機嫌がよくなったのか、新しいお皿を持ってお代わりに行った。


「これは、色々と騒がしくなるな」

「まあ、ジンたちには悪いが、その分わしらは楽になるじゃろう」


 俺を始めとした『オラシオン』のメンバーは、後ろ盾が王家(アムールは南部子爵家だが、俺たちとセットとして扱われている)と言うことになっているし、ここ数年でオオトリ家の戦力と影響力が広く知れ渡っているので、昔ほど面倒事に巻き込まれることは無くなってきたが、それでも隙あらばと言った感じの者はいる。特に、大会で優勝した後だと、父さんと母さんの遠い親戚だとか、昔世話をしたことがあるだとかいうのがたまに現れるので、それに合わせて悪だくみを行う馬鹿がいるのだ。ちなみに、本当に知り合いかどうかは、マリア様や王様に確かめてもらっている。父さん母さんの友人だったりすると、高確率でマリア様と王様も知っている人なのですぐに分かるのだ。ちなみに、友人だと言う人たちと会う時は、マリア様と王様、それにじいちゃんも同席することになっている。


「テンマ! そろそろ、こっちに来ないか?」


 じいちゃんたちと『暁の剣』のことを話していると、大会参加者専用のスペースの外からリオンが声をかけてきた。本来、このような感じで貴族が参加者に声をかける行為は非難されるものだが、呼ばれているのが俺で、呼んでいるのがリオンだと分かると、周囲で訝しんでいた貴族や参加者は『いつものことか』と言う感じで、それぞれの話に戻って行った。


「おう! 今行く!」

「うむ。美味しいものを用意しておけ!」


 返事をしてリオンのところに向かおうとすると、アムールが偉そうなことを言いながらついてきたが、周囲で聞き耳を立てていた者たちは、その言葉を聞いても特に何も思わなかったようだ。それはリオンも同じでむしろ、「すでに用意している!」と胸を張って答えていた。


「さすがに三人がいると、いい場所が取れるな」

「役に立つ三人!」


「褒めるなよ。照れるだろ」

「特に褒めていないと思うのだが?」

「アムールに至っては、むしろ馬鹿にしてる感があるね。まあ、いつものことだけど」


「リオンさんの場合、そう言われても仕方がないですわね」

「それはちょっと……」

「お義姉(ねえ)様、それは流石に言い過ぎ……ではないですか?」


 リオンに連れていかれた先はパーティー会場のテラスで、アルバートやカインがいるせいか、他の貴族は遠巻きに見ているだけだった。


「む! ドリルとプリメラ……と、誰?」

「だから、ドリルじゃありませんわ! あなた、絶対わざと言っているでしょう!」

「うん? 何のことだか、全然分からない。ドリル・ザ・ツイングルグルさん?」

「何ですか、その怪しげな名前は! そんな名前の人間がいてたまるものですか!」

「間違えた。グルグル・フォン・ツインドリルさん」

「違う!」


「お二人共、話が進まないのでそこまでにしませんか?」


 ふざける二人(ドリ……エリザは巻き込まれただけだが)を、プリメラが止めた。プリメラの隣では、見覚えのある女性が驚いたような顔でアムールとエリザを見ていた。


「そうだね。まずは、テンマとアムールが知らない彼女のことを紹介した方がいいね」


 カインが、アムールとエリザの抗議の声よりも先に話題を変えて、女性の紹介に移った。


「テンマ、この人が僕の婚約者の」

「アイブリック伯爵家次女、シエラ・フォン・アイブリックです。シエラと呼んでください」


 見たことがあると思ったら、カインの言っていた婚約者だった。まあ、王城の書庫や街の図書館であった時に軽く会釈をしたことがあるだけで、声を聞いたのは初めてだった。


「むっ! むぅ……ギリ味方!」


 アムールはシエラとあいさつを交わす前に胸を見つめ、そんな失礼なことを言いだした。シエラは、アムールの視線に不吉なものを感じたのか、プリメラの後ろに隠れるように逃げた。ちなみに、後でカインが言っていたことだが、シエラは平均程度はあるそうで、クリスさんよりは大きんじゃないかとか、反応に困ることを言っていた。頼むから自分の婚約者の胸の話を、他の男にするようなことはしないでほしいと思った。いや、まじで。


「それにしても、テンマに賭けても旨味が無くなったな」

「そうだね。ほとんど元返しだからね。賭けなきゃそんそんって感じで、皆こぞって賭けているし、ザイン様の下で働いている知り合いが、ここ数年は胴元の儲けが少なすぎるって嘆いていたよ。こうなったら、優勝者を予想するだけでなく、二位や三位当てや、一位から三位までを当てるくじを作るか! ……とか、自棄になっていたね」


 競馬で言う単勝、複勝、三連単みたいな感じなのだろうが、コンピューターで処理する前世と違って、人の手で全てを処理するこの世界では計算が複雑になるので、アイディアはいいが実行するのは難しいのだろう。


「手っ取り早いのが、陛下がテンマに出場を辞退するように要請することだろうが……それだと、国民からの非難が激しいだろうから無理だろうな」

「それなら、テンマは殿堂入りだとか言って出場させずに、大会の優勝者と戦わせるようにするのはどうだ?」


 アルバートにリオンが案を出すが、それを聞いたアルバートは首を横に振った。


「それも無理だろう。殿堂入りという案はいいかもしれないが、優勝者と戦わせるということは、大会の期間中、テンマを拘束しないといけないということになる。テンマほどの冒険者を長期間拘束するのに、どれくらいの報酬を用意しなければならないのかという問題もあるし、そもそもテンマは冒険者であって、国に属する騎士でも兵士でもない。参加させないというのは、国王陛下の名で冒険者の自由を奪う行為だと、改革派が派手に騒ぐだろうな」


 最近は前よりも規模が小さくなり大人しくなったとはいえ、いまだに王族派に次ぐ勢力を保持しているので、チャンスがあれば何であろうとも利用しようとするだろう。


「出ないでくれと言うのなら、別に出なくてもいいんだけどな……」

「テンマがよくても、国民が納得しないだろう。そこに陛下が手を回したと改革派が触れ回れば、それは王族派の……いや、陛下のしたことだと、国民は思うだろうな」


 そこが面倒なところだった。いくら俺と王様がそうではないと言ったとしても、俺と王家の仲は王国中に知られているので、何か取引があったのではという疑問は、誰がどう説明しても残るはずだからだ。


「面倒くさいから関わりたくないけど、絶対に王様がその話をしに来るだろうな……まじで、面倒くさい。いっそのこと、しばらくの間南部にでも遊びに行くか?」

「うむ。そうするのが一番! 南部は歓迎する!」


 南部は南部で騒がしくなるだろうけど、あそこは基本的に脳筋的な考えの騒がしさなので、政治的な難しさはほとんどない。まあ、馬鹿騒ぎと言った方が分かりやすく、実力を示せば好意的に接してくる者が多いし距離的にも王都からは大分離れているので、面倒事から逃げるのにはうってつけなのだ。


 などと、王都からの脱出を考えていると、


「それは困るな。南部への旅行は、来年の大会の話が終わってからにして欲しいのだがな?」


 こんなところに王様がやってきた。その隣にはシーザー様とザイン様もいる。厄介ごとの臭いがプンプンしていた。


「何やら、面白そうなことを話していたようだが、何を話していたのだ?」


 王様は、そう言いながらアルバートたちを見た。俺だと話さないだろうから、臣下である三人に話せということなのだろう。そして王様の思惑通り、三人は迷うことなく俺と話していた内容を王様達に話した。


「ふむ。やはりテンマたちもそう思うか……全く、本当に面倒な話だな」

「陛下、面倒だではすまない話なのですよ。もっと真剣にやっていただかないと」


 王様は心底面倒だという顔をしたが、隣にいたザイン様にたしなめられていた。


「ん、んっ……まあ、面倒でも、解決せねばならぬ問題だな。と、言うわけでテンマ。どうしたらいいと思う?」

「分かりません。丸投げしないでください。そういったことは、シーザー様たちと話し合ってから俺にのところに持ってきてください」

「まあ、それが道理だな。だが、私たちで話し会ったことをテンマに持って行くということは、すでに決定事項となっているということだ。すなわち、王家からの命令ということだな。私たちとしては、それは避けたいからテンマを交えての話がしたいのだ。分ってくれ」


 丸投げの王様に対し、シーザー様が丁寧にかつ退路を塞ぐように説明してくれた。


「もう、シーザー様が王位に就いてもいいんじゃないですか?」

「……私もそう思えてきた」


 俺の呟きに、王様も同意したが……


「陛下にはまだまだ大人しく……お元気なので、もうしばらくは王位に就いていてもらわないと」


 と言う理由で、シーザー様は王位をまだ継がないと言った。多分、元気なうちに王様が国王を辞めると、自由気ままに好き勝手し始めるとでも思っているのだろう。まあ、俺もそう思う。そして、その一番の被害者は俺の可能性が高い気がするので、シーザー様の言う通りもう少し弱っ……大人しくなってから、王位を譲ってもらいたい。それならば、マリア様が首輪を付けてでも抑えてくれるだろう。


「ま、まあ、シーザーの言う通り、一度テンマと今後のことで話がしたいから、それが終わるまで王都を離れるのは待ってほしいのだ」

「はぁ……了解しました」


 王様は俺から言質を取ると、これ以上ここにいてはゆっくりできないだろうと言って去って行った。


「王様が国王らしい態度で現れると、たいてい面倒事を持って来る時なんだよな」

「いや、テンマ。さすがにそれは不敬ではないか?」


「不敬と言われても、俺は臣下ではないし頼まれている側だし……さすがに、俺の情報を売ったアルバートたちほどの敬意を持っているわけではないしな」

「いや! それはすまんかったが、アルバートを責めても……なぁ?」

「そうだよ! アルバートだって、悪気が……悪気があったわけじゃ……ないよね?」

「アルバート、出世の為に、友を売る……一句出来た!」


 注意してきたアルバートに、本音半分からかい半分で返すと、リオンとカインが乗ってきて(ただし、リオンは素で言った可能性大)、アムールが止めとばかりに俳句になっていない句を詠んだ。


「いや、待て! 私はそんなつもりは! エルザ! プリメラ!」


 アルバートはリオンとカインに裏切られ、すがる気持ちでエリザとプリメラに頼ったのだろうが……


「リオンさん、カインさん、アムールはともかく、テンマさんの言っていることは間違ってはいませんし」

「言い方はともかく、テンマさんから見れば、兄様の行いはそうと言われても仕方がありませんし、知らない人から見れば、アムールの言う通りに見えるとも言えますし」


 二人共、あながち間違いではないと言って、アルバートの援護をしなかった。シエラはエリザとプリメラが話している間、終始苦笑いを浮かべていたが否定はしなかった。


「アルバートのことは置いておいて、ダンスまではまだ時間があるから、その前に食事を……って、言うまでもなかったね」


 俺とアムールとリオンは、プリメラたちがアルバートをへこましている間に、アルバートたちが用意していた食事と飲み物に手を伸ばしていた。



「それでテンマ、今年は誰と最初に踊るの? 去年がハナ子爵で、その前がアムール、さらにその前がマリア様だったよね?」


 よく覚えているなと聞くと、カインは「それだけ注目されているということだよ」と返してきた。その言い方だと、他にも覚えている者がいるのだろう。


「別に踊らなくてもいいんだけど……変に期待されてるしな」


 最初の年はジャンヌとアウラの誘拐騒動があったので、ダンスの前にパーティーは中止となってしまったが、その次の年のダンスは予定通り行われ、マリア様に半ばさらわれる形でダンスを踊ったのだ。まあ、その後はマリア様や王様たちの話し相手をしていたので、ダンスに誘おうとする者はいなかった。その次の年からは、ダンスの相手は知り合いか大会の入賞者に限定すると宣言したところ……言葉の途中でアムールにさらわれた。そして去年は、その話をアムールから聞いていたハナさんに、面白半分にさらわれたのだ。まあ、ダンスの相手の条件を限定したことで、知らない女性と踊らなくてすんだのだが……もともと貴族関係の女性の知り合いは少ないので、いつも同じようなメンバーとばかりだし、さらに今年の入賞者の中で女性はアムールとクリスさんだけなので、踊っていない人がいないなら別に踊らなくても……と考えたところで、踊っていない相手が、ここに二人もいることに気が付いた。まあ二人共、性格的にダンスに誘われてもあまり踊りたがらなさそうではあるが……一応聞いてみる事にした。誘ってみて断られたら、今年は踊らないことにしよう。


「それではプリメラ嬢、一曲目を私と踊っていただけますか?」


 踊った事のない二人のうち、親しい方(プリメラ)を先に誘った。プリメラの性格からして、恥ずかしがって踊らないという可能性もあったが、その場合は知り合いを誘って断られたという笑い話になるだけだ。だが、


「はい、喜んで!」


 二つ返事で誘いに応じた。意外ではあったが、ダンスの相手が見つかったと喜んでおこう。まあ、その後にシエラを誘ったら、何故か冷たい目で見られて断られたのは気になるが……シエラとアムールとリオン以外は仕方がないと言った顔をしていたので、俺が何らかの作法を間違えたのだろう。


「テンマ、その次は私!」


 アムールが、プリメラの次を予約してくるが、


「今日は、踊ったことがない知り合いだけのつもりだから、悪いけど勘弁してくれ」

「むぅ」


 その言葉だけでは納得しなかったのでどうしようかと思ったら、カインとエリザが説得してくれたので助かった。助かったのだが、この二人が同時に動いたということは、何か裏がありそうでちょっと怖い。


「それじゃあ、そろそろ時間が迫っているし、会場の近くに移動しようか?」


 カインの言葉で俺たちはそれぞれのパートナーに共に、会場の近くに移動しようとしたが……


「ちょっと待て! 俺の相手がいないんだけど!」

「私……は、テンマと踊れないならいいや。リオン、ガンバ」


 リオンの叫びにアムールが反射的に乗りかけたが、すぐに俺が踊らないと言ったのを思い出したようで、途中で興味を無くしていた。


「リオンの場合、最初に踊るべきパートナーがいないじゃないか? 婚約者候補は辺境伯領で修行中だし」

「そんな状況で、他の女性を誘うのはまずいだろうな。まあ、毎年のことじゃないか」


 毎年のごとく、パートナーのいないリオンはダンスの相手に苦労しており、辺境伯家傘下の貴族家の女性に頼んでいるのだが……大抵の場合が未亡人や年配の女性が相手で、同年代の女性と踊る機会が少なかった。


「リオン兄様と踊るのはちょっと……」


 プリメラにすら忌避されるリオンのダンスの評価はかなり低い。アルバートによると、技術はあるが間違った覚え方をした上に、それを直す機会を得ることが出来なかったせいで、ダンスの技量がかなり上の相手でないと、リオンと踊るのは難しいということだそうだ。そういった理由から、評価的には四年前の俺と同じくらいとのことだった。なお、俺とリオンのダンスの評価が同等だったのは四年前の時点のことであり、現在では俺の方が上だ。まあ、以前よりは上達したと言っても自慢できる腕前ではないので、ダンスにおいてはリオンを馬鹿にできるほどではない。


「それじゃあ、時間みたいだし……皆、リオンのことは放っておいて、踊りに行こうか?」

「そうだな。リオンにかまいすぎて、ここにいる全員が不参加と言うことになるのは避けたいしな」


 カインとアルバートの言う通り、王族派を代表するような大貴族の嫡男が、揃ってダンスを欠席することなど出来るはずもなく、俺たちは相手を探しに走って行ったリオンを無視して移動を開始した。


 パーティー会場の中央に用意されたダンス会場に行くと、そこには目立つ場所を確保しようとけん制し合うペアでごった返していた……が、アルバートとエリザのペア、カインとシエラのペアが姿を現すと、その前を塞いでいたペアが一斉に道を譲ったので、難なく会場の中央部に進むことが出来た。ちなみに、俺とプリメラはなるべく目立たないように踊ろうと意見が一致したので会場の端っこに移動しようとしたのだが、エリザがプリメラを強引に引っ張って行った為、自然と俺たちはアルバートたちの近く……会場の一番目立つ中央部に連れて行かれることになった。


「テンマも来たか」


 中央部には、王様とマリア様、シーザー様とイザベラ様のペアもいた。その他にも、上位貴族ばかりが中央部に集まってきているので、唯一の平民である俺は場違いもいいところだった。


「と、言うわけで……プリメラ、端の方に移動しようか」

「そうですね」


 そんな場所で踊るなど、ダンスに自身のある者かよっぽどの馬鹿のどちらかだろう。なので、その場を離れて目立たない場所で踊ろうとプリメラに提案すると、プリメラは理由を聞かなくても意味を理解し、すぐに移動を開始した……が、


「ここで踊ってもよいではないか」

「テンマは王家が招待した客で、パートナーのプリメラはサンガ公爵家の令嬢だ。誰も文句は言わないさ」


 王様とシーザー様が俺の肩を掴んで動きを止め、


「プリメラ。ここまで来たのなら、今後の為にも覚悟を決めなさい」

「ここまで来て逃げるのは、サンガ公爵家の看板に泥を塗るようなものよ」


 マリア様とイザベラ様がプリメラの退路を断っていた。王族ペアに説得された俺たちは、仕方なく中央部に戻り、アルバートたちの近くで踊ることにした。


「お帰り、テンマ。あのお二人に捕まったら、いくらテンマでも逃げられないね」

「プリメラも、ここまで来て逃げることなどできるわけがないだろうに」


 アルバートたちの近くに避難すると、早速二人から声がかかった。カインは俺をからかうような言い方だったが、アルバートは呆れたような言い方をしている。確かに、ここまで来て逃げるのは格好悪いと言うか、貴族としては他の貴族に舐められるような行動だとは思うが……


「そもそも、アルバートたちが無理やりここに連れてこなければよかったんじゃないか?」  


 俺は貴族ではないので舐められようがかまわないし、プリメラも将来的には貴族籍を抜けると言っているのであまり関係ない。まあ、サンガ公爵家を持ち出されればその限りではないだろうが、それを分かっていて逃げたとしても、サンガ公爵なら大笑いするだけだと思う。

 そんな指摘をすると、


「あっ! ほら、テンマ。そろそろ始まるよ」

「みたいだな。二人共、早く準備をした方がいいぞ」


 と言って逃げられた。


「全く、あの二人は……まあ、嘆いていても仕方がないし、俺たちも位置に着こうか」

「そうですね」


 そうして始まったダンスだが……何とか大恥をかかずに済んだ……と思う。まあ、小さな失敗は何度かあったが、致命的な失敗がなかったので良しとしよう。


「さすがに疲れた……これだったら、もう一度個人戦をやった方が気が楽だ……プリメラもお疲れ様」

「テンマさんもお疲れさまでした。でも、その考え方は、絶対おかしいですから」

「まあ、その反応が正しいのじゃが……」

「テンマじゃからな。まあ、わしも踊るくらいなら、試合の方が楽な感じじゃがな」

「祖父がこんなんじゃからな。テンマがそういう考えになるのも仕方がないじゃろう」


 ダンスを終えた俺とプリメラは、じいちゃんとアーネスト様がくつろいでいたテーブルに移動した。

 ダンスは、当初一曲だけ踊って戻ろうと思っていたのだが、一曲目の後でマリア様に捕まり、さらにその後に、イザベラ様、エリザ、シエラと踊り、もう一度プリメラと踊ったのだ。

 予想外の回数だったとはいえ、立て続けに六曲踊って疲れたからと言って、ダンス会場を逃げ出したのだが……それでも誘って来る貴族がいたので、会場にいる中で暇していて、なおかつその中で一番偉い人のいるところに逃げたのだ。ちなみに、プリメラも俺が踊っている間に王様やシーザー様とも踊っており、精神的にかなり疲れているようだった。それと同時に、王族に対して多少の耐性が付いたのか、アーネスト様のところに行くと言っても、何も言わずについきた。


「それにしても、最初のダンスはひどかったが、徐々に良くなっていったのう。最後のダンスは別人のようじゃったぞ。まあ、初級者が中級者になったくらいの変化ではあったが」


 アーネスト様の言い方はちょっとひどいが、上達したと褒めていると思っておこう。


「確かに、最初と比べれば二回目は踊りやすかったですね」

「まあ、周りに豪華すぎるお手本がいたからね」


 シーザー様とかアルバートとかカインとかその他の貴族とか……ちなみに、王様も上手いことは上手いのだが……シーザー様の下位互換と言う感じだったし、アルバートたちと比べてもちょっと見劣りしたので、お手本にはしなかったのだ。あと、マリア様とイザベラ様も踊りやすいようにリードしてくれたのもよかったのだろう。


「これで、何度も踊れば上達するんだろうけど……ダンス自体、あまり好きじゃないから、最低限踊れればいいんだよね。それにしても、プリメラはダンス上手かったね。さすが、公爵家のご令嬢」

「まあ、ダンスは貴族の必須科目のようなものですからね。もっとも、私もどちらかと言うとダンス以外で体を動かす方が好きなんですけどね」


「成程のう。パートナーを組むだけあって、似た者同士というわけじゃな」

「お主も人のことは言えんだろうが」


 アーネスト様がちゃかしてくるが、反応すると喜ばすだけなので無視をした。プリメラは反応しかけていたが、じいちゃんがアーネスト様に突っ込みを入れたタイミングとかち合ったので声を出すことができなかった。


「テンマ、ちょっといいか?」


「ライル様、今までどこにいたんですか?」


 会場で今まで見かけなかったライル様が目立たないように近づいてきて、いつもとは違い小声で話しかけてきた。


「少し頼みがあってな。話題になっている『暁の剣』だが、近々王都に召喚されることになっている。その際、どの貴族が世話をするか……まあ、どの貴族の息がかかった宿泊施設に泊まらせるかという争いが起きそうでな。王城や王族関連のところで泊まらせれれば問題はないのだが、すでにテンマたち『オラシオン』を王族が囲っていると言われているからな」


「つまり、ジンたちの面倒をオオトリ家で見ろということですか」


「まあ、端的に言うとそうだな」


 王族が俺たちを囲っているとされている以上、ジンたちは他の貴族に譲った方がいいということだが、『暁の剣』が攻略したダンジョンは王家直轄のセイゲンにあるものなので、ジンたちを他の貴族に持って行かれるのは避けたい。なので、ジンたちの知り合いである俺のところに宿泊させることで、他の貴族が手を出せないようにし、間接的にジンたちは王族派であると示したいとのことだ。


「ジンたちがいいならかまいませんが……もし、説明して断られたら、諦めてくださいね」

「それで構わない、感謝する」


 それだけ言うと、ライル様はどこかへ去って行った。


「面倒くさいことから離れられると思ったのに、結局巻き込まれるのか……まあ、仕方がない」

「ふむ、ジンたちを匿えば余計な恨みを買うかもしれぬが……まあ、わしたちを恨むのは王族派と敵対している貴族じゃろうから、いつもと変わらぬと思うしかないのう」

「まあ、敵が増えるわけじゃないだろうからね。恨みは深くなるだろうけど……」


 王族派や王族派に味方する貴族は、俺がジンたちを獲得するチャンスを潰したとしても、間接的な利益が出るかもしれないと諦めるかもしれないが、改革派のような敵対派閥にしてみれば敵が増えるわけなので、恨みを買うことになるだろう。まあ、改革派には嫌われているので今更な話だが。


「何にせよ、ジンたちがどう思うかの話だけどね」

「それはそうじゃが……ジンたちも面倒事は嫌じゃろうから、うちに泊まるのはほぼ確定だと思っておいた方がいいじゃろうな」


 ジンたちのせいで面倒事が増えそうだ! ……などと思っていたが、このパーティー以降、俺の軽率さが原因で、色々と騒がしくなるのだった。

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― 新着の感想 ―
[一言] いつもながらここの王族はテンマを頼めばたいていのことはしてくれる便利アイテム扱いしてますよね。 親しき中にも礼儀ありとか遠慮って言葉覚えたほうがいいと思うわ~
[良い点] ある意味、プリメラの天然っぷりがテンマと似通っていて、こいつら恋愛云々はともかく、上手く行くわ…と爆笑した点。 [気になる点] テンマはマジで性欲が戻っているんだろうか? こいつ、王族や貴…
[一言] 同じ相手と複数回踊るって噂が立って当たり前だよね 踊りの後に連れまわせばさらに噂がたつよなあ(勝手な決めつけ
感想一覧
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