第16章-1 優勝以上の話題
書籍版の『異世界転生の冒険者』の第9巻が、6/10に発売されました。
書籍版の方も、応援よろしくお願いします。
注:章が進んだことにより、前話から数か月進んでいます。
「そこまで! 個人戦優勝は、テンマ・オオトリ!」
ブランカが倒れるとほぼ同時に、俺の優勝を告げる審判の声が会場に響き、続いて大歓声が巻き起こった。関係者席では、俺側の身内に加えヨシツネも喜んでいる。まあ、ブランカは気を失っているので見ることは無いが、試合中はヨシツネが俺を応援するたびに憎しみで力を増していたので、もしあの姿を見てしまったら、試合が終わったにもかかわらず襲い掛かって来ていたかもしれない。
俺は観客の歓声に手を挙げて答え、ブランカを急いで連れて行くように係員に伝えた。これで気が
付いても、ヨシツネの喜ぶ姿を見ることは無いはずだ。
「テンマ・オオトリ選手、一時間後にペアの決勝戦ですが、大丈夫でしょうか?」
「大丈夫です」
今回の大会は、前回棄権したペアでも無事勝ち進んだので、三部門で決勝に出場することになった。そのうちの一つである個人戦を終えたばかりだが、決勝戦は三部門とも同日に行うことになっているので、俺は後二回戦わないといけない。まあ、ペアの相方はじいちゃんで、去年のうっ憤を晴らす為に張り切っている為、俺は後方支援で済むかもしれないし、こう言ってはなんだが、相手はあまり強くないのでじいちゃん一人で楽勝だろう。
「問題は、チーム戦の方か……」
チーム戦の決勝の相手……それは、ディンさん率いる近衛隊だ。メンバーは、ディンさん、ジャンさん、エドガーさん、シグルドさん、クリスさんの五人で控えはいない。俺には見慣れたメンバーだが、出場が決まった時は今大会一番の注目チームだと騒がれた。
そんな注目チームの犠牲者たち……特に予選の相手チームは全くのいいところなしで終わり、トラウマになったのではないかと言うくらいへこんでいた。まあ、常日頃から対人戦での連携に重きを置いている騎士の中でも、選ばれた騎士しかなることが出来ないのが近衛兵で、さらにその中でも上位の五人を相手にしたのだから、生半可な技量……特に、冒険者のような魔物を相手にする機会の多いチームでは、何もできずに終わっても仕方がない。
『オラシオン』の方はと言うと、俺、じいちゃん、アムール、スラリン、シロウマル、ソロモンのいつものメンバーで、準決勝でブランカ率いる『南部選抜』とぶつかった。ブランカたちとの戦いでアムールがダメージを負い途中離脱したが大きな怪我はなく、決勝戦ではクリスさんで憂さ晴らしをしてやると息巻いている。なお、対戦中にじいちゃんとブランカの殴り合いが始まった際には、南部の上位者連中は二人の殴り合いを戦いそっちのけで見学するという奇行に走ったが、観客たちも二人の殴り合いに盛り上がっていたので、特に非難されることは無かった。
そして二人の殴り合いはと言うと、ブランカの右ストレートにじいちゃんが相打ちでカウンターを放った結果、ダブルノックダウンとなった。ただ、じいちゃんと違いブランカは『南部選抜』のリーダーだった為、そのままブランカたちの敗北となったのだった。
そして、一時間とちょっと後。
「じいちゃん、大活躍だったね」
「ほっほっ! もう少し手ごたえが欲しかったが、なかなか面白い試合じゃったな。もう少し経験を積めば、ペアの上位常連になれるじゃろう」
じいちゃんに蹂躙された決勝の相手は、若手の冒険者で決勝戦初出場のペアだった。試合は俺たちの……と言うかじいちゃんの圧勝だったが、結果の割にじいちゃんの評価は高かった。ペアの決勝では、前衛のじいちゃんが二人を相手に戦い、俺は特にやることがなかった。まあ、ただ突っ立っているのも何なので、相手方の後衛が魔法を使おうとするたびにけん制を行い、それなりの仕事はしたつもりだ。もっとも、じいちゃんにとっては、ほとんど意味のない援護ではあったが……じいちゃんは満足しているし、俺も体力を温存できたので目的は十分に果たした……はずだ。
「それでは『オラシオン』の皆様、一時間後にチーム戦の決勝が始まりますので、それまでに準備をお願いします」
係員が控室から去ると、俺たちはすぐに作戦を練ることにした。まあ、作戦を練るとはいっても、誰が誰の相手をするかと言うのが『オラシオン』でいうところの作戦なのだが……その前に、
「決勝のメンバーは、俺、じいちゃん、アムール、シロウマル、スラリンだ」
「キュイ? ……キューーー!」
ソロモンは、「これまで試合に出ていたのに、何故!」と言った感じの声を出したが、
「単純に、スラリンの方が強いからだ。ソロモンが出ると、おそらくディンさんに真っ先に狙われる」
これまでの試合において、ソロモンが制空権を握っていたのは大きなアドバンテージだったが、それはこれまでの相手にソロモンを倒す術がなかったからでもある。しかし、近衛隊にはソロモンを一撃で落とすことが可能なディンさんがいて、ディンさんがソロモンを落としている間、残りの俺たちを抑えることが出来るだけの力を持つメンバーが揃っている。それに、個々の強さは俺たちの方が上だろうが、連携という点において大きく負け……比べるのがおこがましいくらいの差が存在する。
俺たちが負ける可能性が一番高いパターンは、ソロモンが落とされて一人減り、ディンさんとジャンさんに俺が囲まれるというもので、その次がソロモンが落とされて、アムールがクリスさんに抑え込まれ、じいちゃんにエドガーさんとシグルドさんがあたり、シロウマルの相手をジャンさんがする。そして、俺がディンさんとやり合っている間に、手の空いた人……クリスさんかジャンさん、もしくはその両方が俺の背後を取る……というものだが、アムールはともかくシロウマルが戦闘不能になるとは考えにくいので、一番のものよりも格段と可能性が落ちる。
ただ、両方に共通しているのがソロモンの脱落で、そこまでの可能性はかなり高いと思っており、その為の交代だ。そもそも、スラリンは戦力的に見ると『オラシオン』の三番手なので、ここまで出ていないことの方がおかしかったのだ。まあ、スラリンがソロモンのわがままを聞いていたという感じなのだが。
ソロモンはかなりしつこく文句を言っていたが、最後にはスラリンに説得されて交代することを認めていた。
「次は、誰が誰の相手をするかということだけど……」
「クリスをボコる!」
「アムールはクリスさんだな。それで、シロウマルはジャンさんを頼む。ディンさんと合流させないことを第一に考えて、無理に攻撃しなくていい。スラリンは……エドガーさんと、できればシグルドさんの二人を狙ってくれ。じいちゃんは、スラリンがどちらかをもらしたらその相手で、大丈夫そうなら俺と一緒にディンさんを狙う……って感じで。まあ、あくまでも予定だし、ディンさんたちもその作戦を読んで、裏をかいてくることも考えられるから、その時は臨機応変で頼む」
互いに手の内を知っている同士で、実力もトップクラスだが、連携……特に対人戦においては今大会トップのチームなので、スラリンを入れて総合力を上げ、ついでに連携においても、俺を含め自分勝手な面々のフォローをしてもらうつもりなのだ……言っていて、少しむなしくなるが……スラリン以上に気遣いが出来るものは『オラシオン』には存在しないので、適材適所と言う意味ではこれ以上の人材? スラ材? はいない。
ある程度の作戦を話し合った後は、試合の時間まで思い思いに過ごした。そして、
「決勝戦、『オラシオン』対『近衛隊』……始め!」
試合が始まって早々、
「うぎゅ!」
アムールが吹き飛ばされた。相手はディンさんだ。
やはりこちらの狙いは読まれており、裏をかかれた形だ。だが、アムールは吹き飛ばされダメージは負ったが、攻撃の直撃はギリギリで防いでおり、戦闘不能とまではいかなかった。しかし、その間にディンさんたちは数的優位の状況を利用し、それぞれの相手に向かって行った。
クリスさんはシロウマルに、エドガーさんはじいちゃんに、シグルドさんはスラリンの前を塞ぐように割り込み、ディンさんとジャンさんが俺に突進してきた。おそらくディンさんたちの作戦は、ここまでは上手く行っていたのだろう。そう、ここまでは。
「なっ! くそ! スラリンか!」
ディンさんと共に俺に向かってきていたジャンさんが、トップスピードに乗る直前にバランスを崩して倒れかけた。その足には、スラリンから伸びた触手が絡まっている。
「裏をかいたつもりが、読まれていたか!」
ディンさんが剣を振るいながら楽しそうにそんなことを言うが、
「残念ながら、読めませんでした。むしろ、裏をかかれて冷や冷やものでしたよ。全ては、スラリンのおかげ……ですよ!」
ディンさんと数回打ち合い、力を込めた一撃で強引に距離を稼いだが……
「それ、自慢げに言うことではないぞ」
ディンさんは呆れ顔をしながら、何事もなかったかのように剣を構えなおした。
「スラリンは俺の眷属だから、誇ってもいいと思いますけど、ね!」
「それはそうだろう……が! 眷属任せだと、笑われる、ぞ!」
「誰に、ですか!」
「陛下、と! ライル様、と! ルナ様……だ!」
三人の名前を聞いて納得してしまった。そして、三人が笑っている姿が頭に浮かび、不愉快な気持ちになった。
「それじゃあ、そんな俺に負ける近衛隊長に、その役目を変わってもらいましょう……かっ!」
「ごめん被る!」
結局、ディンさんと一騎打ちになる……と思ったら、
「ちっ! やっぱり無理か!」
後ろからシグルドさんが切りかかってきた。
シグルドさんの相手はスラリンがしていたと思い、防いだついでにシグルドさんを吹き飛ばし、スラリンのいる方に視線をやると、
「めちゃくちゃな戦い方だな……」
ジャンさんが力任せに大剣を振るい、スラリンの体をまき散らしていた。
「離れて厄介、近づいても厄介なスラリンだが、スライムは防御力が極端に低い魔物だからな。それはスラリンとて例外ではない」
ディンさんの言う通り、スラリンはスライムとしては別格の防御力を持っているが、ジャンさんの攻撃に耐えられるほどではない。しかし、
「ぐあっ!」
「むふん! 近衛隊副隊長、打ち取ったり!」
スラリンと相対していたジャンさんの背後から、アムールが襲い掛かった。
ジャンさんも、アムールの接近に気が付いて迎え撃とうとしていたが、ジャンさんの意識が一瞬アムールに向いた瞬間に、スラリンのまき散らされた体の一部がジャンさんの足にまとわりついて動きを封じ、ほぼ無防備な状態でアムールの攻撃を受けて気を失うことになった。
「ジャンがやられたか……これで、こちらの勝ち目はほぼ無くなったとみるべきか」
ディンさんの言う通り、ジャンさんが離脱したことで近衛隊の負けが濃厚になった。
ジャンさんを倒したアムールは、シロウマルの攻撃を何とか捌いていたクリスさんに襲い掛かり、再度俺に襲い掛かろうとしていたシグルドさんは、まき散らされた体を集めたスラリンに捕縛され、じいちゃんの相手をしていたエドガーさんは、地面に押さえ付けられて身動きが取れない状態だった。
「それじゃあディンさん、タイマンで決めようか?」
「わざわざ一対一で決着をとは、テンマは優しいな」
「よいさっ!」
「ちょっ! 危ないわね、アムール!」
「いや、危なくなったら、じいちゃんと交代するかもよ?」
「まあ、本来チーム戦はそういうものだからな。それはそれで仕方がない」
「ほいさっ!」
「この、ブンブン丸めっ!」
「なら、危なくなったら、遠慮なくじいちゃんとスラリンを投入しよう」
「テンマが、『ディン様に勝てないから、手伝って!』と言って呼ぶのなら認めよう」
「ちょいさっ!」
「ああ、もうっ! シロウマルで疲れてなかったら、こんな攻撃簡単に避けれるのに!」
「うるさいね……」
「まあ、戦っているのは俺たちだけではないからな……」
アムールとクリスさんのやり取りに、俺とディンさんのやる気が大きく削がれたが、チーム戦なのであの二人の方が正しいし、何より観客は二人の戦いに大いに沸いているので間違ってはいない。間違っているのは、乱戦であるべきチーム戦で周りを気にせずに話している俺とディンさん、エドガーさんの上に座って観戦しているじいちゃんに、シグルドさんを捕まえたままでジャンさんの介抱をしているスラリンと、あくびをしながら寝そべっているシロウマルの方なのだ。間違っているのが半分もいるのは異常だが、何故か観客も気にしていないし、逆に盛り上がっているみたいなので、異常でもあり正常でもあるのかもしれない。
「まあ、気にしても仕方が……」
「秘技、『猫だまし』!」
「なんの! 『猫だまし返し』!」
「テンマ、あいつらは気にするな。気になるだろうが、これも修行の一環だと思うのだ」
色々な意味で暴走し始めている二人に、やる気がそがれ過ぎて無くなりそうになっていたが、ディンさんの言う通り修行の一環だと自分に言い聞かせて、一騎打ちに集中することにした。
「行くぞ、テンマ!」
「いつでもどうぞ!」
こうして、俺とディンさんの一騎打ちは始まった。
いつもの訓練とは違い、大会の決勝と言うことで独特の緊張感と高揚感があり、普段の訓練では見せない技をだしたりしない失敗をやらかしたりと、少しでも気を抜けば即座に致命的なミスに繋がりかねない戦いが続いた。そして、
「参った。俺の負けだ」
僅差ではあったけど、互角の条件での剣術勝負でディンさんを負かしたのはうれしいことだった……が、
「いい加減くたばるといい、クリス!」
「調子に乗るな、アムール!」
後ろの方で、まだ戦っている二人がいなければ、心の底から喜ぶことが出来たはずなのに……
「審判、ちょっとこっちへ」
ディンさんが審判を呼び寄せて耳打ちすると、審判は軽く頷いた。そして、
「優勝は、『オラシオン』」
『オラシオン』の優勝を、まだ戦っている二人に聞こえないくらいの大きさで宣言し、俺を手で示した。
「テンマ、二人に気が付かれないように、ここから降りるぞ」
「了解です。ところで、さっき審判に何を言ったんですか?」
アムールとクリスさんを除いた全員で闘技場から去る途中で、ディンさんにこっそりと審判に何を言ったのかを聞くと、
「ああ審判には、『あの二人はまだ戦いたいみたいだから、心行くまでやらせてやれ。それと、邪魔をしないように宣言は大げさにしなくていい』と言ったんだ」
「なるほど……ディンさんは、とてもやさしいですね!」
「だろ」
観客へのサービス精神にあふれた二人を邪魔しない為にも、気が付かれないように去るのが俺たちに出来ることだと理解した。
「鬼畜だな。隊長も、テンマも……」
「気が付かない二人にも非があるがのう……まあ、鬼畜であることは否定せぬが」
じいちゃんたちも納得したようで、誰一人としてアムールとクリスさんに声をかけることなく、俺とディンさんの後ろについてきた。
「何で私たちを置いて行ったのよ!」
「説明を求める!」
あれからアムールとクリスさんは、俺たちが闘技場から去った後もしばらく戦い続け、仕切り直しの為に一度離れた時に自分たちだけしか残っていないことに気が付いたそうだ。その間俺たちは、王様に呼ばれて事の説明を求められたり、軽食をとりながら談笑したりしていた。そこに二人がやって来て俺に詰め寄ってきたわけなのだが……
「いや、普通は言われなくても気が付くだろ?」
の一言で二人は言葉を詰まらせていた。さらに、
「そもそもチーム戦と言うことは、目の前の相手以外からも攻撃されることを想定して動かなければならないわけで、あの状態で背後から攻撃されたら死んでいたよね? アムールは被害が自分だけで終わるかもしれないけど、クリスさんの場合、最悪王様が殺されちゃうよ?」
「なぬっ!」
「そうなった場合は、最低でも爵位はく奪で奴隷落ち、最悪で死刑だな。まあ、私にも何かしらの罰が与えられるだろうが、降格か謹慎あたりだろうな」
「ちょっ! 隊長まで!」
ディンさんもクリスさんをからかっているが、言っていることはかなり可能性の高いことなので、クリスさんはからかわれていると分かっていても反論は出来なかった。さらにそこに、
「クリス……奴隷に落ちたら、南部で拾ってあげる。そして……こき使ってやる!」
「そんなことはありえないでしょ!」
アムールがあくどい笑みを浮かべながらのからかいに、クリスさんはものすごい剣幕で否定したが……
「いや、まあ妥当なところだろうな」
それまで静かに(笑いをこらえながら)聞いていた王様が、突然アムール側に付いた。
「へ、陛下……それはまあ、個人的な怠慢から任務に失敗して陛下を危険な目に合わせれば、死罪や奴隷落ちは理解できますが、奴隷落ちの場合、別にアムールのところでなくとも、テンマ君のところとか……その……」
クリスさんは、俺の方をチラ見しながらそんなことを訴えるが、
「それは絶対にあり得ぬな。テンマの奴隷など、褒美にしかならん。そもそも、そういった理由から奴隷落ちになった者は、近しい者の奴隷にすることは出来ないと決まっておる。クリスとテンマの仲は、多くの者が知っていることだからな。その点、南部子爵家なら、アムールと仲がいいとはいえ、王都から遠く離れておるし、クリスのこれまでの功績を考慮して、大会で相棒を務めたハナ子爵に所有を託したとごまかすことが出来るからな」
「そ……んな……」
王様の説明で、クリスさんは絶望の表情を浮かべていた。
「それが嫌なら、本来の任務の際に、先程のような失敗はしないことだな」
「はい! 絶対にしません! アムールの奴隷は、絶対に嫌です!」
ディンさんの警告に、クリスさんは背筋を伸ばして大きな声で宣言した。クリスさんの言葉を聞いたアムールは、とてもつまらなさそうな顔をしていたが、知り合いが知り合いを奴隷として持つのは見たくはないので、ぜひともクリスさんには色々と気を付けてもらいたいところだ。
それからしばらくして、表彰式の準備が整ったとのことで、俺たちは揃って会場へと向かった。
「アムールとクリスさんのせいで、予定が遅れているみたいだね」
「申し訳ない……クリスには、ちゃんと言ってきかす。奴隷の主として!」
「私は奴隷になってないわよ!」
アムールの言葉に過剰反応したクリスさんは、怒鳴り声をあげた……が、
「クリス、静かにしろ! 近衛兵として、恥ずかしい姿をさらす気か!」
式場が近かった為、ディンさんに怒られていた。
「アムールも、その冗談は場合によっては洒落にならぬから、気を付けるようにの」
アムールもじいちゃんに注意されたが、クリスさんほど強くは言われなかった。
「例年よりも、盛り上がった表彰式だったね」
「俺の知る限りで、一番盛り上がったんじゃないか?」
「それもこれも、アムールとクリスのおかげじゃな」
「ぶい!」
「もう……言わないで……」
アムールとクリスさんがギリギリまで戦っていたおかげで、観客たちの熱が落ち着く間もなく表彰式に移る事となり、例年以上の盛り上がりを見せた表彰式及び閉会式となった。そんな表彰式の最中、観客からはアムールとクリスさんの名前が連呼され、アムールが手を振るたびに歓声があがっていた。その間、クリスさんは恥ずかしそうに下を向いていた。
そして大会の一週間後、王家主催のパーティーにて。
「クリスさん……モテ期が来た時に限って、かわいそうなほど縁がないよね」
「そうじゃのう」
「さすがにこれは可愛そうだな……今からでも呼びに行くか?」
「ブランカ、それは無理だ。クリスの奴、わざわざ王都外の任務に志願して、今朝早くから出かけて行った」
王家主催のパーティーで、近衛のクリスさんも参加を許可されていたのだが、表彰式のことが余程恥ずかしかったのか、からかわれるのは嫌だと言って参加を辞退し、さらに王都を一時的に離れる任務に志願したそうだ。ただ、その他の近衛隊のメンバーは参加しており、今日はディンさんも休みということで王様のそばを離れ、俺たちと一緒に飲み食いしている。
そんなときに限ってクリスさんは、
「テンマ、またクリスのことを聞きたがる男がいた」
男性からの人気が高かった。クリスさんがアムールと戦っている姿がよかったとか、表彰式で照れている姿がよかったとか言う理由らしく、パーティーまでの間に何人か声をかけようとしたらしいが、クリスさんはからかわれると勘違いしたらしく、逃げ回っていたのだ。
「見る目のない馬鹿どもがうるさい」
クリスさんが逃げ回っている間、その様子を面白そうに見ていたアムールだが、このパーティーの参加者はクリスさんの相方はアムールだと勘違いしているのか、先程からアムールが食べ物や飲み物を取りに行くたびに声をかけていたのだ。そんなクリスさんがモテている状況がアムールは面白くいないらしく、囲まれるたびに不機嫌さが増していた。
「次からは俺が取って来よう。さすがに俺を囲む度胸はないだろう」
「ブランカは顔が怖いから、こういう時に活躍しないと、する場所が、がっ!」
ブランカが自虐気味なことを言ってまで気を使ったというのに、アムールはブランカにうっ憤の一部をぶつけてしまった為、公衆の面前で頭に拳骨を落とされていた。
「ん? 少し騒がしくなってきた?」
「陛下が来るのだろう……どうした? ……ほう。それは面白いことになりそうだ」
俺と話していたディンさんのもとに、近衛兵の一人が近づいてきて何か耳打ちをした。その報告を聞いたディンさんは、楽しそうに笑っている。
「ディンさん、何があったんですか?」
「ふむ。確かに気になるのう。お主がそんな風に笑う時は、何か厄介ごとが起きたか起こりそうな時じゃからな」
「まあ、否定はしませんが……詳しくは陛下よりお言葉があるはずです。ですので、私が先に教えると、陛下が拗ねてしまうと思いますので」
俺の疑問にじいちゃんも同意したが、ディンさんは王様が拗ねるという理由で教えてくれなかった。まあ、そう言われると、王様がいじける光景(その後の、王様が愚痴を言いまくり、マリア様に怒られているシーンまで)が簡単に思い浮かぶのでそれ以上は聞かずに、大人しく王様からの発表を待つことにした。
「皆の者、楽しんでいるようだな。それでは、これより私たちも参加させてもらおう……が、その前に報告がある。このたび、大会の常連であるが今大会不参加だった『暁の剣』が、セイゲンのダンジョンを攻略したとの報告が入った」
なんか、大会入賞者の存在が霞みそうな話だった。
9巻の報告が遅れた件ですが、作者の地元では二日遅れの発売なので、少し感覚がずれていました。
その為、前回の投稿の時に報告するのを忘れていました。申し訳ありません。