第15章-5 干物と燻製
「それで、これはもらってもいいのか?」
「ぶひぃ!」
赤ちゃんからもらったもの、それは『龍の卵の殻』だ。ナミタロウの話によると、龍の赤ちゃんは生まれてすぐに自分が入っていた卵の殻を食べるとのことだが、このベヒモスの赤ちゃんのように、たまに殻を食べたがらないのがいるのだそうだ。
「何に使えるか分からないけど、ありがたくもらっておくよ」
どんな使い道があるかは思いつかないが、古代龍の卵の殻ともなれば、破格の値段が付くことは間違いないだろう……と思ったところで、ソロモンの卵の殻はどうしたのか思い出せなかったが、ソロモンのことだから残さずに食べたのだろう。
「それじゃあ、ディメンションバッグ借りてくで。ほら、ボンもあいさつ、いぎゃあああーーー!」
「びぃいいいーーー!」
ナミタロウが赤ちゃんにあいさつさせようと頭に胸鰭を置こうとしたところ、赤ちゃんは嫌いなナミタロウに触られるのが嫌だったみたいで、ナミタロウの胸鰭に思いっきり噛みついた。
「あ、ああ……ナミちゃんの、ナミちゃんの美しいヒレが、欠けてもうた……まあ、いいか。すぐに生えてくるやろ」
そんなお気楽なことを言いながら、ナミタロウは赤ちゃんをディメンションバッグに入れて、クライフさんが運転する馬車に乗り込んだ。馬車で、王都から近い川まで運んでもらうのだ。一応、旅の間の食料は俺の方で用意したが、赤ちゃんがどれくらい食べるのか分からないので、できる限り現地調達するとナミタロウは張り切っていた。
「ほな、さいなら! ほれ、ボンも」
「びぃ~~~~~!」
ナミタロウに続いて、赤ちゃんもあいさつと言う名の超音波を発した。そのおかげで、見送りで玄関に一緒にいたジャンヌやアムールたちに、ついでだからと残っていたマリア様たちは、一斉に耳を塞いで苦しんでいた。まあ、一番苦しんでいたのはナミタロウで、次いでクライフさんだったが……一番被害を受けたのは、馬車を引く為の二頭の馬だろう。かなりガタイのいい馬たちだったが、赤ちゃんの超音波で立ったまま気絶していた。幸いにも、暴れる間もなく気絶したので馬は怪我をせず、周りにも被害を出さなかった。すぐに俺の指示で、ゴーレムが支えに行ったのもよかったのだろう。だが、そのせいで馬車を引ける馬がいなくなってしまったのも事実だ。なので、
「仕方がない。こうなったら、俺がライデンで連れて行くか」
と言うことになった。最初からそうしておけばよかったのだろうが、俺が連れて行くと赤ちゃんがまたぐずる可能性があったので、クライフさんに頼んだのだ。
「一度は引き受けたのにもかかわらず、こうなってしまって申し訳ない」
クライフさんは超音波のせいでふらつくらしく、馬車を運転することが出来ないのを悔やんでいた。
もう少し一緒にいることが出来ると分かった赤ちゃんは、喜びのあまりさらに超音波を発生させていたが、ナミタロウにバッグの奥に押し込まれて口を閉じられたので、最初程の被害は出なかった。
「それじゃあ、ちょっと言って来る。スラリン、シロウマル、ソロモン、ついでに散歩でもしてこようか?」
そう言うと、三匹は順に馬車に乗り込んだ。それに続いてアムールとジャンヌも乗り込もうとしたが、バッグに閉じ込められた赤ちゃんが無理やり首を出して威嚇する構えを見せたので断念していた。その代わり、
「タマちゃん、一緒に行きたいのか? メリーにアリーも? ジュウベエにヒロも?」
珍しく、タマちゃんたちが外に行きたがった。たまにはいいかと思い連れて行こうとしたが、ジュウベエ一家は馬車に乗り込むことが出来なかったので、ディメンションバッグでの移動となった。
「ここからなら、海まで泳いでいけるわ。ほな、また来るで!」
「びぃ~~~!」
ナミタロウは赤ちゃんの挨拶が終わると、すぐに水に潜って川下へ泳いで行った。
「毎度毎度、ナミタロウが来ると騒がしくなるな。さてと、まずは魚の回収だな」
ナミタロウたちが去った後、赤ちゃんの最後の超音波により、川一面に魚が浮かんできたのだ。
「ソロモンは空から周辺の警戒、シロウマルは鼻と脚を使ってジュウベエたちの護衛、スラリンは俺と一緒に魚の回収」
それぞれに指示を出して、ジュウベエ一家とメリー・アリーを外に出した。ジュウベエがいたら、王都周辺の魔物や動物に負けることはないと思うが、正直言ってそんなものよりも、冒険者の方が怖い。傍から見ると、極上の獲物が歩いているのだ。念の為、ジュウベエたちには飼い主がいると分かるように首輪をさせているが、白毛野牛のような極上の獲物を目の前にすれば、興奮して気が付かない者もいるだろうし、たちの悪い者になれば、首輪に気が付いても無視し、『外来種』だとか気が付かなかったとか言って攻撃してくることも考えられる。
「一応シロウマルたちに警戒させるし俺の方でも気を付けるけど、あまり遠くには行かずに、何か異変を感じたらすぐに声を上げて、俺のいる方かジュウベエのそばに逃げるんだぞ」
タマちゃんにメリー・アリーに言い聞かせると、理解したのか分からないが、三匹揃って鳴き声を返してきた。そして、そのまま草むらに突進して行った。さすがに心配なので、ゴーレムを数体出して警戒を少し強めた。
「それじゃあ、ジュウベエも頼むな。まあ、警戒しすぎてストレスが溜まっても意味がないから、ほどほどにな」
「ブモッ!」
ジュウベエが、「任せろ!」と言う感じで力強く返事をしたので、俺は魚の回収に向かうことにした。
「回復して逃げたのがいるみたいだな。スラリン、泥臭そうなのは無視して、おいしそうな奴から捕獲していくぞ!」
そう言って俺は『飛空』で宙に浮き、スラリンは近くにあった大きな岩の上に陣取った。
「これはマスの仲間みたいだな。これはハヤかな? フナは逃がして、鯉は……確保しておこう」
ディメンションバッグの中に魔法で水を入れ、そこに魚を入れていく。
「ナマズは確保っと。次は……おっ! ウナギ、ゲット! スラリン、この細長いのがいたら、優先的に捕まえてくれ」
スラリンに向かって叫ぶと、触手で丸を作っていた。そんなスラリンは、岩の上から触手を伸ばして水面の魚を捕まえている。そんなスラリンの姿に、俺は某考古学者が重なって見えたのだった。
あらかためぼしい魚を捕まえた俺とスラリンは、改めて魚の種類を確認し、泥抜きの必要なものとそうでないものに選別して、泥抜きの必要な魚は水を入れたディメンションバッグへ入れ、そうでないものは軽く洗ってから絞めて、マジックバッグに入れた。
「これで終わりだな。あとは、周辺を警戒しながらのんびりするか……ん?」
魚関係が終わったので馬車の屋根にでも上って、タマちゃんたちのようすでも見るかと思ったとき、遠くの方からこちらに向かって走って来る馬の足音が聞こえた。俺が気が付くよりもシロウマルの方が早く気が付いて警戒態勢に入っているので、万が一襲われても迎撃することは可能だが、ただ単に近くを走っているだけということもありえるので、『鑑定』を使ってその正体を見極めることにした。すると、
「知り合いの関係者……と言ったところかな? まあ、一応警戒だけはしておくか。ジュウベエ、皆を連れてこっちに来い!」
「ブモゥ!」
無いとは思うが、何かのはずみでジュウベエたちに剣を向けることがあるかもしれないので、念の為ディメンションバッグに入っておくように指示を出した。そして、
「そこの者、何をして……失礼しました!」
「すぐに、隊長を呼んできます!」
強い口調で問い質そうとしてきた騎士は、俺の正体に気が付くと、急いで責任者を呼びに行った。そして、しばらくしてやってきた責任者とは……
「プリメラ、久しぶり」
「ええ、お久しぶりです。ところで、テンマさんはこんなところで何をしていたのですか?」
「いや、俺は王都やセイゲンを中心に活動しているから、それはどちらかと言うと、俺のセリフだと思うぞ?」
別に隠したりごまかしたりするつもりはないが、冒険者の俺が王都近くの草原にいるよりも、グンジョー市騎士団所属のプリメラが部下を率いて、王都の近くまで来ている方がどう考えても珍しいだろう。
「いえ、まあ、そうなんですけど……一応私は騎士なので、守秘義務というものがありまして……」
「確かにそうだな。俺はナミタロウの見送りのついでに、ジュウベエたちを散歩させていた」
プリメラたちなら危害を加える心配がないのでジュウベエたちを外に放したが、バッグから飛び出して遊びまわっているタマちゃんやメリー・アリーを守るように、ジュウベエとヒロはプリメラの後ろにいる騎士団とタマちゃんたちの間に陣取っていた。
「え~っと……私たちは任務で王都に行く途中なので、ここで失礼させていただきます」
軽く話をした後で、プリメラはジュウベエとヒロを見て苦笑いして、ゆっくりと後ろに下がりながら距離を取り、タマちゃんたちからなるべく離れるような進路で王都へと馬を走らせた。
「ほら、見ての通りプリメラたちは行ったから、ジュウベエたちものんびりしてこい」
プリメラたちが見えなくなったところでジュウベエたちはようやく警戒を解いて、タマちゃんたちを見ながら草を食み始めた。
「周辺を見回りながら、何か面白いものでもないか探してみるか」
そんな軽い気持ちで周辺を歩き回ってみたところ……
「本当に、何にも無いな!」
予想していたこととはいえ、何も見つからなかった。
「まあ、魚を捕獲した時点で、得るものは無くなったんだろう」
そういうことにして、そろそろ屋敷に戻ることにした。だが、
「メリーとタマちゃんは、元気がありすぎだな」
二匹が帰るのを嫌がって逃げまわった為、少し時間がかかってしまった。最終的に、メリーはスラリンの触手にからめとられ、タマちゃんはジュウベエとヒロに怒られてバッグの中に戻ったのだ。ちなみに、アリーは呼んだらすぐに俺のところにやってきた。二匹が逃げ回っている最中ずっと、アリーはバッグの中で大人しく寝ていたのだが、メリーが捕まった腹いせに頭突きをくらわして無理やり起こしていた。
「ようやく帰ってきたか。遅いから、何かあったのかと心配したぞ」
屋敷に戻るとマリア様たちはすでに帰った後で、心配したと言っているじいちゃんは食堂でくつろいでいた。
「そう言えば、草原でプリメラに会ったよ。守秘義務とかで詳しく教えてくれなかったけど、騎士団の任務で王都に来たみたい」
「ほう……だとすると、近いうちに公爵かアルバートと一緒に来るかもしれんな。ところで、テンマは何をしておるんじゃ」
厨房で小さめの魚を出して洗っていると、じいちゃんが興味深そうにのぞき込んできた。
「ナミタロウたちとの別れ際に、また赤ちゃんが超音波を出してね。その影響で魚が気絶して水面に浮いて、楽して大漁だったんだよ。マジックバッグで保存すれば、鮮度の問題は解決できるけど、それ以外にもひと手間加えたのを作ってみようかと思って」
その下準備を今からするのだが、説明してもじいちゃんは手伝う気はないようだ。むしろ、洗った魚を数匹掴み、酒の肴にするべく焼き魚の準備を始めていた。
「いい匂い……」
「本当……あっ! テンマ、戻って来ていたの?」
外に出かけていたらしい女性陣(クリスさん除く)が、食堂に入って来るなりじいちゃんの焼いている魚の匂いに反応していた。ジャンヌはすぐに俺に気が付いていたが、アムールはじいちゃんの近くまで歩いてから、ジャンヌの声で俺に気が付いていた。
「テンマ様、何を作っているんですか?」
「手伝うことはありますか?」
遅れて入ってきたアウラとレニさんは、俺の作業を手伝おうと近づいてきたが……俺の手元を見ているレニさんとは違い、アウラは焼き魚の方に気を取られているのがバレバレだった。
アウラとレニさんが作業を手伝おうとするのに気が付いたジャンヌとアムールも、自分たちの仕事はないのかと聞いてきたが急ぎの作業はもうなかったので、夕食用の焼き魚を適当に焼いてもらうことにした。ジャンヌたちの仕事の説明をしている間に、アウラとレニさんはエプロンを付け手洗いを終えて待っていた。
「アウラはこっちの小魚の鱗と内臓とえらを取り除いて、この塩水に漬けておいて。レニさんは、このマスを三枚におろしてください」
アウラに命令を出してレニさんにお願いすると、二人は頷いて作業を始めた。ただ、アウラは自分とレニさんの作業内容を聞いて、「私の仕事だけ、生臭くならないですか?」と言っていたが、「一番きつい仕事をレニさんにやらせたと聞いたら、アイナが何て言うかな?」と俺が呟くと、「さあ、張り切っていきましょうか!」と、分かりやすく誤魔化していた。ちなみに、レニさんの仕事をジャンヌにやらせなかったのは、単純に魚をさばく技量の差からだ。
「レニさんがさばき終わる前に、燻製の調味液を作らないと」
始めての魚で燻製を作るので、調味液(ソミュール液)はハーブなどは使わずに、簡単なものを作ることにした。
「酒と水と塩と砂糖、あとは胡椒でやってみるか」
これだと失敗したとしても、食べられないくらいまずいものが出来るということはないだろう。
「テンマさん、こっちは終わったので、小魚の方を手伝いますね」
調味液が冷める前にレニさんはマスをさばき終え、アウラの手伝いに移った。レニさんの手際のよさは小魚になっても変わることはなく、処理前の小魚の山は瞬く間に減っていった。そして、
「これで終わりですね」
結局、途中から手伝いに入ったレニさんが小魚の山の半分以上を処理してしまった。調味液を魔法で冷まし、マスの切り身を漬け込んだ後で俺も手伝いに入ったが、山の五分の一も処理できなかった。
「干物の方はしばらく塩水に漬け込んで、乾燥させれば完成だな。燻製の方は、順調に行けば明後日くらいかな。ジャンヌ、アムール、焼けた魚を持ってきてくれ」
二人に焼き魚を持ってきてもらうと、その全てをマジックバッグに保存した。ただ、じいちゃんが自分のつまみ用に手放そうとしなかったものがあったので、その代わりに干物と燻製は無しということにした。まあ、そう言った次の瞬間には、今食べている分以外の焼き魚を差し出してきたので、発言は撤回した。
「これで、今日の晩のおかずは出来たな。あとはご飯と味噌汁と漬物があればいいか」
あとは一人で十分なので、皆にはそれぞれやりたいことをやって貰うことにした……が、
「テンマ、そろそろ食べれる?」
「さすがにまだでしょ……それでテンマ様、後一時間くらいですかね?」
「いや、一時間でも無理だと思うわ」
「そうですね。元々干物は保存を目的として作られていましたから、ある程度は乾燥させないと駄目でしょうね」
ザルに乗せられた干物が気になるのか、誰も食堂から出て行こうとはしなかった。それはじいちゃんも同じで、アムールが食べられるのかと聞いてきた時、しっかりと聞き耳を立てていたのが見えた。
「美味しいかどうかは分からないけど、夕食に出す分だけ魔法を使って乾燥させてみるか」
アムールとアウラ(とじいちゃん)の視線に負けた俺は、風と火の魔法で干物を作ってみる事にした。
「さすがに屋敷の中で火の魔法を使うのは危ないから、庭に出ようか」
万が一のことがあってはいけないということで、庭で干物を作ってみようと提案して食堂を出たが、庭に着くころには四人+じいちゃんだけでなく、スラリンとシロウマルとソロモンまで加わっていた。そして、スラリンたちがいるからかタマちゃんが来て、タマちゃんがいるから、ジュウベエとヒロも様子を見に来て、皆いなくなったからか、メリーが眠そうなアリーを引き連れてやってきた。そして、
「ごふっ! ゴホッゴホッ……」
メリーがあいさつ代わりに、アウラのお腹に頭突きを食らわせた。
「メリー、タマちゃん、今から干物を作るから、砂埃を立てないようにね」
「テ、テンマ、様……私、の、心配、は……」
アウラが何か言っていたが、いつものことなので無視しておくことにした。そんな事よりも、メリーとタマちゃんが干物を台無しにしないことの方が大切なのだ。
「ここでいいか、風よけになる岩と土台を出して、干し網……はないから、投網を土台に張って……これでよし」
土台の準備が出来たので、最後に周辺に水を撒いて埃を流し、風と火の魔法を使い始めた。
「これで出来るといいけど」
労力を考えたら自然乾燥の方がいいけど、今日は鍛錬や実験だと思うことにしよう。風と火の魔法を使って温かい風を送る方法……『温風魔法』とでもいえる魔法だが、やってみると意外と難しい。風が強いと温かくならないし、何より干物が飛んで行ってしまう。逆に、火が強いと蒸し焼きのようになってしまい、干物が出来ないだろう。バランスを間違えれば、『温風』ではなくただ『強風』、もしくは『熱風』、最悪の場合は『火炎放射』になりかねない。
「今度、この鍛錬方法をエイミィやティーダに教えるか」
『火炎放射』になりさえしなければ、ただの強い風か熱い風にしかならないので、割といい練習方法なのかもしれない。
そのことをじいちゃんに言うと、じいちゃんも賛成していたので、近々二人を呼ぶことに決めた。
「それにしても、テンマは器用じゃのう。話しながらちょうどいい温度の風を持続的に起こすなど、わしは出来ん……ことはないが、普通は集中力が続かんぞ」
『温風』を起こし始めて一時間ほどが経過した頃、じいちゃんがそんなことを言いだした。
「慣れてきたら、後は同じことを続けるだけだからね。感覚的には、話しながらランニングする感じかな?」
複雑なコースなら難しいだろうが、同じコースをおしゃべりしながら走り続けることが出来る人は珍しくないと思う。
「確かにそう言われると、出来ないことはなさそうじゃな。むしろ、一人で集中してやっている方が、出来ないかもしれんのう」
「だとしても、出来ない人には絶対に出来ない。仮にアウラが魔法の達人だったとしても、絶対にどこかでポカする」
「そうね。アウラなら、おしゃべりに気を取られて魔法が止まるか、干物を吹き飛ばすか、一面を焼け野原にするかもしれないわね」
「ぐぬぬぬぬ……否定したいけど、否定できない」
アムールとジャンヌの毒舌に、アウラは悔しそうにしながらも自分で認めていた。確かに、三人の中で考えた場合、アウラは一番適性がなさそうだ。
「そろそろ、いいんじゃないかな?」
笑いが一段落したところで、魔法を止めて干物の様子を見ることにした。見た感じでは問題はなさそうだったので、一つその場で火魔法を使ってあぶり味見してみたが、味の方も特に問題はなかった。
「こんなもんだと思う」
味見したものを皆にも回すと、一瞬で魚の身が無くなった。残った骨はシロウマルとソロモンが取り合い、頭をシロウマル、それ以外はソロモンがゲットしていた。
「スラリン、小さいやつ食べとけ」
食べ損ねたスラリンに小さい干物を渡すと、シロウマルとソロモンが自分たちも貰おうとスラリンの後ろに並んだが、俺たちが食べる分が減るので我慢させた。
「まずまず」
「南部のお土産で貰ったのと比べると、ちょっと味が薄いかな?」
「魚の違いもあるのかも?」
「素材や作り方を考えると、悪くはないとは思いますけど、南部で売れているものと比べると味は落ちますね」
アムールたち三人は遠慮がちだったが、レニさんははっきりと評価をしていた。まあ、自分たちで食べる分には問題ないので、今日の晩に出すことに誰も反対しなかった。
「ん? お客さんみたいだな」
干物を回収して屋敷に戻ろうとした時、門のところでゴーレムが動き出したので誰かが来たのが分かった。ちなみに、知り合いだとゴーレムは素通りさせるので、少なくともゴーレムが他人と判断した人物だということも分かった。
「ちょっと行ってきますね」
アウラが対応に行き、すぐに客を待たせて戻ってきた。
「テンマ様、サンガ公爵家からの手紙だそうです。出来れば、早めに返事を貰いたいとのことだったので、執事の方には少し待ってもらっています」
「分かった」
手紙を受け取り中身を読んでみると、『近々訪問したいので、都合のいい日を教えてくれ』というものだった。いつもはそんなこと気にしないのに何かあったのかと思ったが、とりあえず明後日の午後にと執事に言づけた。
「こんなことはこれまでなかったから、もしかすると何か問題が起こったのかもしれぬな……ところで、何故明日でなく、明後日の午後なのじゃ?」
じいちゃんも、サンガ公爵がわざわざ執事を使って手紙を寄こしたことが気になったみたいだが、そんなこともあるのだろうと言った感じだった。それよりも、俺が指定した日の方が気になったようなので、
「いや、明日だと急すぎるし、何よりも明日は、燻製を作らないといけないからね」
と言うと、じいちゃんは呆れたような顔をしていたが、最後には、「それも大事じゃな」と言って笑っていた。