第14章-7 ごめんなさい
今回は短めです。
ティーダSIDE
(またエイミィのところに男が……)
ルナの友達を連れ戻す為にきた親たちをきっかけに、父上と母上にあいさつすると見せかけて、息子をエイミィにアピールさせにいく者が出てきた。それに伴い、娘を僕のところへ送り込んでくる者もいるが、これは他のパーティーでもよくあるので、いつもと同じ感じであしらえば特に問題ないけど……エイミィは明らかに慣れていないようで、話しを終えるのに苦労している。
(できるなら、エイミィのそばで目を光らせていたいけど……派閥の関係もあるし、無碍にはできないからな……)
そんなことを考えているうちに、新しい生徒がエイミィに声をかけていた。しかも、これまでの生徒とは違い、かなり強引に話しかけている。
このままだとまずいことになると思い、エイミィを助けようと思ったとき、
「ちょっとエイミィちゃんを借りますね。エイミィちゃん、行こ」
ルナがエイミィと男子生徒の間に割り込んだ。男子生徒はルナに邪魔されて抗議していたが、ルナの方が上手だった為、一方的に言い負かされてエイミィを連れて行かれた。しかも、周囲の生徒からの評価も悪くなったようで、男子生徒は父親に連れられてどこかへ行った。
(たまにはルナもいいことをするな……父上のおかげで女子生徒が寄ってこなくなったから、ようやくエイミィと話ができる)
ルナは何も言わなかったけど、恐らくはトイレを口実にしたのだろう。だとしたら、少し待てば戻ってくるだろう。その時にエイミィと話をすればいい……と思っていたのに、
「遅い……」
エイミィとルナは、なかなか戻ってこなかった。もしかすると、トイレから出てきたところを待ち伏せされたのかも!
「でも、ルナが一緒にいるなら、そういう事態にはならないだろうしな……」
それに、もしここで様子を見に行って、さっきの男子生徒と同じと思われたくはないし……周りがそうは思わなくても、絶対にルナが大げさに言いふらすに決まっているしな……
ルナが理由で様子を見に行くのはやめたけど、一度生まれた心配は消えることがなかった。こんなことなら、パーティーの前に告白するんだった! そんなことを考えていると、エイミィが戻ってくるのが見えた。
すぐにエイミィとその周囲の様子を窺うと、出て行ったときと少しも変わっていなかった。
「よかった……変な虫は付かなかったみたいだ……」
エイミィが無事なのは嬉しいことだけど、このままだと同じ思いを何度も味わうことになる。そう思っていると、
「いい後輩ができてよかったな」
と言う、テンマさんの声が聞こえた。ルナの友達には男子生徒もいたと思うけど、父上が来る前まで話していた友人と言うことだから、会っていたのは女子生徒ばかりなのだろう。だけど、その女子生徒からの繋がりで、年下の男子生徒がエイミィを狙う可能性がある。
そう考えた時、僕の足は自然とエイミィへと向かっていた。
「エイミィ、少しいい?」
今告白しなければ誰かに先を越されてしまうと分かっているのに、いざ告白をという段階になって、なかなか次の言葉が出てこなかった。このまま時間をかければかけるほど、エイミィの評価が下がってしまう。そう考えた僕は思いきって、
「エイミィ……僕と結婚してください!」
と告白した。考えていた言葉と少し違った気もするけれど、そんなことより肝心なのはエイミィの返事だ。
エイミィは突然の告白に驚いているのか、なかなか返事をくれなかった。少しじれながらも、頭を下げて差し出した右手を握り返してくれることを祈りながら待つ僕に返って来た返事は……
「ごめんなさい」
だった。その言葉を理解した瞬間、僕の目の前は真っ暗になった。
ティーダSIDE 了
「シーザー様、ティーダ息していないように見えるんですけど……」
「あの様子だと、最初のショックが大きすぎて、後の話を聞こえていないみたいだな」
「冷静に見てないで、早くティーダとエイミィを連れて行かないと!」
イザベラ様の言葉で、近くで控えていた数人の近衛兵が、ティーダを隠すように囲んだ。
「エイミィ、とりあえず違う場所に行こう!」
シーザー様は俺がエイミィのそばに移動したのを確認してから、近くにいたスタッフに最初にいた控室へと案内させた。
「ティーダ、ティーダ……いい加減、しっかりしろ!」
控室に到着し、出入り口を近衛兵に固めさせたシーザー様は、何度かティーダの肩をゆすっていたが全く反応がなかったので、最後は頬を少し強めに叩いた。
「えっ?」
頬を叩かれた衝撃で正気に戻ったティーダは、しきりに周囲を見回していた。そして、
「あ……ああ……」
エイミィと目が合った瞬間に何があったのかを思い出したようで、かわいそうなくらい肩を落とした。
「ごめんね、変な気分にさせちゃって……」
ティーダはそう呟くと、エイミィに背を向けて走り出そうとした。だけど、
「えいっ!」
「へぶっ!」
背後にいたルナがティーダの足を引っかけて転ばした。足元どころか前もろくに見ていなかったティーダは、ルナの存在や罠に気付くはずもなく、勢いよく顔から床に突っ込んだ。
ルナはティーダが転んだのを見てとても嬉しそうにしていたが、シーザー様とイザベラ様は顔をしかめていた。まあ、いつものような説教はなかったので、今はティーダを足止めしたということを重要視したのだろう。『今は』だけど。
「ティーダ君」
ティーダが床に転んでいるすきに、エイミィがティーダのそばに両膝をついて話しかけた。ティーダはエイミィと顔を合わせるのがつらいのか、床に顔をつけっぱなしにしていた。
「話を聞いていなかったみたいだから、もう一度言うね。さすがに、いきなり結婚するのは無理だよ。まだ未成年だもの。でも、恋人ならいいよ。ティーダ君のこと好きだから」
「え?」
エイミィは、「ごめんなさい」の後に続けた言葉をもう一度ティーダに聞かせた。しかし当のティーダは、その言葉の意味が理解できていないのか、不思議そうな顔でエイミィを見て、シーザー様、イザベラ様、俺、じいちゃんと順に見てから、最後に不満そうな顔をするルナを見た。
誰のところでエイミィの言葉の意味を理解したのかは分からないが、理解した瞬間にティーダは床から飛び起きた。そして、
「ほんとに! ありがとう! やったーーー!」
驚いて立ち上がったエイミィの手を握り、踊り始めた。それはもう、普段のティーダからは想像ができないくらい、陽気に周りのことなど全く気にせずに。
「とりあえず……お茶でもどうですか?」
「そうだな。もらおうか」
「私の分もお願いね」
「わしのもじゃ」
「私のも~!」
手早くお茶を配り、お茶菓子も出して俺たちはティーダとエイミィのダンスを見守った。まあ、エイミィにしてみれば、浮かれたティーダに付き合わされているだけだが……そこは我慢してほしい。
そのまま二人のダンスを見守ることおよそ十分。二人のダンスは唐突に終わることになった。ティーダが足をもつれさせて転んだせいで……
「終わったようだな。イザベラ、エイミィを頼む」
「はい」
シーザー様とイザベラ様は、それぞれティーダとエイミィを連れて控室の端の方へと移動していった。
「二人は何を話すつもり……って、これからのことしかないよね」
「そうじゃな。それと、多分……というか、エイミィが関わっておる時点で、テンマも忙しくなるじゃろうな」
二人の間にある一番の問題は『身分の差』だ。これはエイミィが平民として生まれた以上、どうしようもないことではある。けれど、以前カインからそのことで裏技を教えられているので、エイミィがその気になれば割と簡単に解決できることではある。まあ、その分俺やじいちゃんが多少苦労することにはなるが……エイミィのためにも、そこは我慢しようと決めている。
「テンマ、少し頼まれてくれないかしら?」
シーザー様よりも先に話を終えたイザベラ様が、エイミィを連れて戻ってきた。
イザベラ様の頼みとは、エイミィの家族……カリナさんたちに俺から話を通し、家族間でこれからの話をするための手助けをしてほしいとのことだった。
イザベラ様は、その頼みを『依頼』として俺に頼むとのことだったが、今回のことは今後俺も関係していくことになるので、『依頼』ではなく、ただの『頼み』として聞くことにした。
「テンマ。ティーダのことでこれから色々と面倒をかけると思うが、エイミィが関わっている以上、手伝ってもらうぞ」
ティーダとの話を終えたシーザー様がそういうと、ティーダとイザベラ様が頭を下げ、それに遅れる形でエイミィも頭を下げた。エイミィは『いきなり結婚するのは無理だ』と言ったが、いきなりでなければ結婚してもいいということだとも言える。それに、ティーダの恋人ということは、現状では未来の王妃の最有力候補ということだから、これからエイミィは苦労するだろう。王妃専用の教育にしても、対人関係にしても……
その後、俺たちは揃ってパーティー会場に戻ったのだが、浮かれたティーダを見た生徒たちやその親と関係者たちは、すぐにティーダとエイミィが恋人になったのだと理解しただろう。
「エイミィに変なことをしようと思う奴が出ないといいけどな」
「そこは安心してくれ。王家からも、護衛や暗部といった者たちを置こう」
浮かれているティーダにため息をつきながらも、俺とシーザー様はエイミィの安全ついて話し合ったのだった。